魔法少女リリカルなのは

THE MAGIC KNIGHT OF DARKNESS

Act.05  Suspicion 〜戸惑い〜

 

 

 

麗らかな陽気の漂うなか…訪れる連休の日々。そして、海鳴の街に面する山道を進む2 台のワゴン車…その中には、高町家と月村家…そして、招待された恭と雫の姿があった。

先頭を進むワゴン車内で、運転する士郎に向けて雫が呟く。

「本当に申し訳ありません… せっかくの家族旅行に私達まで誘っていただいて……」

「いやいや、お気になさら ず」

「そうですよ、旅行は大勢の 方が楽しいですし」

恐縮する雫に向けて大らかに呟く士郎と桃子……笑みを浮かべる雫…そして、隣の席で は恭がずっと無言で座っている。

「あら、やっぱ迷惑だった、 恭君?」

困ったような表情を浮かべる 桃子に恭はやや反応が遅れ、視線を僅かに彷徨わせる。

「あ、いえ……嬉しいです、 誘っていただいて」

「そう? よかった」

元の世界での義母に対し、やや戸惑いがちに返答する。恭の隣にはユーノを抱える義妹 であった美由希…そして、死んだはずの士郎……頭では解かっていてもやはり戸惑わずにはいられない。

後方の席では、なのはとアリサ、すずかの3人が談笑を交わしている。そして、なのは はふと前方に座る恭と雫に眼を向け…数日前のことを思い出していた。

 

 

数日前…なのはがいつものようにアリサ、すずかと共に自宅の喫茶店である翠屋で談笑 を交わしていると、そこに恭と雫が訪れた。

「あ……」

「あ、あいつじゃない」

すずかがどこか嬉しそうに…アリサもやや眼を瞬き、視線を向ける。なのはも視線を向 けると、こちらに気づいた恭が振り返り、軽く会釈したのでなのは達も会釈する。

「あら、いらっしゃいませ」

「初めまして、こちら翠屋で よろしいでしょうか?」

「はい、そうですが…あの貴 方方は?」

桃子の記憶にはない人物だ…常連客は常に頭に入っているし、お得意様も覚えている が、眼前の女性は少なくとも店で見るのは初めての顔だ。

「はい、私は不破と申しま す。以前、こちらの高町恭也という方から紹介されたので……」

その瞬間、桃子の表情が輝く。

「まあ、それじゃ貴方が恭也 やなのはの言っていた?」

数日前に恭也やなのは達が事故に遭いかけた時に助けてもらった姉弟……機会があれば 一度招待したいと考えていた高町家の面々。

「おや、そうでしたか。じゃ あ、ゆっくりしていってください」

「いえ、その挨拶だけですの で……」

カウンターでにこやかに笑う士郎に対し、恭は内心の動揺をなるべく抑え込み、平静で 答える。元々、軽い挨拶程度で済ませるつもりだった…かつての家の喫茶店ではあるが、まだ少しばかり抵抗があるのだ。

だが、そんな恭の事情を知らない桃子は、遠慮と感じ取り、思わず恭に向かって屈み込 む。

「あら、遠慮しなくていいの よ…そうだ! 今日は桃子さんの驕り。家のシュークリームをご馳走するわよ」

「いや、本当にお構いな く……」

子供らしからぬ遠慮に…まあ、元々の年齢は既に二十歳に近いのだから当然だが――恭 のような歳では流石に桃子も引かないだろう。

「子供が遠慮しないの。ほ ら、あそこになのは達もいるから」

半ば強引にシュークリーム数個を皿にのせ、そして飲み物はジュースを出そうと思った が…そこへ恭が口を挟んだ。

「あの……それじゃ、お言葉 に甘えますが…その、飲み物はコーヒーでお願いします」

母親の強引さはこっちでも変わらないなと内心、苦笑にも似た笑みを浮かべながら、恭 は断りきれないと踏み、これ以上断るのは流石に好意を無下にしそうで気が引けたため、渋々応じた。

だが、恭がコーヒーを注文したことにいささか驚く桃子。

「あら、凄いわね〜その歳で もうコーヒーの良さを解かってるなんて」

子供がコーヒーを注文するなど、滅多にないだけにやや意外ではあったが、それでも注 文を取った以上、受けるべきだろう。

「士郎さん、ワンコーヒー… ホットでいいわよね?」

恭がコクリと頷いたので、士郎はコーヒーメーカーからポッドを持ち上げ、コーヒーを 注ぐ。湯気の立つカップを見詰めながら、恭は何故か見入っていた。

(父さんの淹れたコーヒー か……懐かしいな)

かつての世界では、恭の知る限り、士郎がこうして喫茶店に手伝いに入ったことがあま りなかった。そして、父親の淹れてくれたコーヒーを飲む機会は、もう二度とないと思っていた。

感傷だと思う…だがそれでも……今は、その心地良い香りに触れていたかった。

「はい、砂糖多めにしておい たから」

やはり、子供という事情上、ブラックでは飲めないという配慮…砂糖が少し多めに置か れるも、恭は会釈して振り返ると、なのは達が座る席にすずかやなのはに手招きされ、やや溜め息をついて歩み寄っていった。

その背中を見送ると、雫は桃子にカウンターに促された。

「さあ、貴方はこっちへ」

「すいません」

「遠慮しないの。さあ、貴方 もどうぞ…コーヒーでいいかしらね?」

「はい」

返答を聞くと同時に士郎がコーヒーを注ぎ、雫の前に差し出されると、雫がカップを持 ち上げ、口に啜る。

「どうかな? お嬢さん」

「いい香りがします」

その答に士郎はにこやかな笑みを浮かべる。自分の淹れたコーヒーを褒められて喜んで いるのか、それとも満足してもらったことに喜んでいるのか…恐らく両方だろうが。

「初対面の君に不躾な質問を してしまうが…いいかな?」

笑顔が若干消え、どこか真剣な面持ちに雫も表情を微かに引き締める……そして、コク リと頷くと、士郎が静かに切り出す。

「君達は不破と言ったね?  実は、私の旧姓も不破でね…恭也達から聞いたときは不思議な縁だと思ってね。御両親のどちらかが不破という性だったのかな?」

探るような視線…だが、その質問は既に許容範囲内。恭が不破を性に使う時にある程度 対応を構築しておいた。

「はい…私と恭の母が不破の 性でした。その両親も、恭が生まれてすぐに亡くなったので…貴方の家と関係あるかどうかは私達には解かりませんが………」

少しの真実と少しの嘘……少なくとも、以前の世界での恭也の本当の母親がどうだった かは知らないが、不破の人間だったと聞いているし、恭が生まれてすぐいなくなったと聞いた。だから、こう答えるのもあながち的外れではない。

「そうか…いや、失礼。立ち 入ったことを聞いたね」

萎縮する士郎…流石にそれ以上深く問うことはなかった。いくらなんでも初対面の人に そんな真似をする訳にはいかない。

「いえ、お気になさらないで ください」

「でも大変ね…貴方が一人 で?」

「ええ」

両親がいないということは、必然的に雫が世話をすることになる。無論、別に生活に 困っているわけではないが、その事情を知らない桃子は暫し思案し…やがて、何かを思いついたように手をポンと叩いた。

「そうだ! 貴方達、週末の 連休は空いているかしら?」

「はぁ、一応、空いてますけ ど……」

まあ、休日といっても恭は鍛錬をするだろう。雫はそれに付き合うだけでさして用事が あるわけでもない。

だが、その返答に桃子が笑みを浮かべる。

「じゃあ、私達と一緒に温泉 行かない?」

「は?」

唐突な問いに、雫の思考がややフリーズした。押しの強い女性である桃子……その恐ろ しさを、雫はまだ知らなかった。

 

 

「不破君、どうかな、家の シュークリームは?」

なのは達の座るテーブル席に腰掛けた恭は隣に座っていたなのはの問い掛けに振り向 く。

「ああ、ここのシュークリー ムは美味しいと評判だったからな。悪くない」

「えへへ、ありがとう」

自分の両親の作ったお菓子が褒められ、なのはは自分のことのように喜ぶ。

「うん、私達もいつも食べに 来てるんだけど、飽きないよね」

照れるなのはに次いですずかが乗り出すように話し掛け、恭もそれに相槌を打つ。

「あ、いや…確かに悪くはな いんだが、俺は甘いものが少し苦手でな」

そう…この味は確かに嫌いではないが、元々甘いものに対して少し抵抗がある恭にとっ ては苦笑で答えるしかない。

「なによぉ、文句多いわね。 これのどこが悪いっていうのよ」

アリサがやや眼を吊り上げて睨む。それに対してなのはがまあまあと制する。

「そうだ、不破君、授業はつ いていけてる?」

「もし何だったらあたしが教 えてあげてもいいわよ」

話を逸らすように話題を変えたなのはにアリサが思わず髪を掻き上げ、恭は乾いた笑み を浮かべる。

転校したばかりで進行スピードが違うことを心配しているのだろう…まあ、確かに元の 世界でもあまり誉められた成績ではなかったが、いくらなんでも小学生の勉強に遅れを取っているようではあまりに情けない。

だが、なのはやすずかはともかく、アリサは成績が良い…文系・理系ともに学年主席な のだ。

「ああ、もし何かあったらお 願いする」

「え…あ、い、いいわよ。何 でも教えたげる」

あまりに素直に応じたのでやや毒気を抜かれ、アリサは咳払いするように答え返した。

「たっだいま〜〜」

その時、扉のベルとともに店内へと入ってくる声が響き、思わずそちらに眼を向ける と、学校から帰ってきた美由希がいた。

眼鏡をかけ、三つ編みの髪を揺らすその姿は元の世界の美由希と変わらない。だが、外 見は同じでも内から感じるものは違う。

恭のいた世界の美由希は内に決して折れない強さを持っていた……長く共に修行し、師 弟という間柄で何年も過ごし、その剣才には眼を見張るものがあった。なにより、優しさと強さを併せ持っていたが、こちらの世界の美由希からはそれがあまり 感じられない。無論、この世界にも士郎が存在していることから多少なりとも御神流の流れはあるのだろうが…少なくとも陰を持つ部分がない。士郎にしても桃 子にしてもそうだ…住む環境が違えば、同じ人物でもここまで違うのかと思う。

士郎にしても美由希にしても恭の見た限り、剣士としての能力があまりに低い…元の世 界とはまったく違う。少なくとも、恭の今の身体でもなんの苦もなく倒せそうなほどだ。裏を返せば、それだけこの世界の御神は緊迫した世界に身を置いていな いということになる。

そう言えば、元の世界の美由希はどうしただろう…あの後、美沙斗さんと蟠りをとけた のだろうか……思考に耽っていると、突如声が響き、恭はハッと我に返った。

「あれ、君が恭ちゃんやなの はの言ってた子?」

思考を巡らせていたために接近してくる気配に気づけなかった恭は、覗き込むように近 づいてきた美由希に反応が遅れる。

「え、あ…そう…そうです」

遂、元の世界と同じ感覚で返事しそうになったが、それをなんとか呑み込み、上擦った 返事を返す。

「あ、不破君紹介するね…こ ちら、私のお姉ちゃんで高町美由希。お姉ちゃん、不破恭君だよ」

「へぇ〜恭ちゃんと一字違い なんだね。初めまして、高町美由希。それにしても珍しいね、なのはがボーイフレンド連れてくるなんて」

からかうような視線を向ける美由希になのはがやや照れたように声を上げる。

「お姉ちゃんっ」

「あはは、私手伝いに入るか ら…君もアリサちゃんとすずかちゃんもごゆっくり」

なのはの抗議も軽く流し、営業スマイルを浮かべてカウンターの奥へと消えていく。

「もうっ」

悪態をつくなのはに恭は口元を微かに緩める。

「あ、不破君笑うなんて酷い よ」

口を尖らせるなのはに恭は被りを振る。

「すまない…それと、俺は別 に名前で呼んでくれていい」

どうも『不破』という苗字で呼ばれるのは慣れない……無論、この名にある種の思い入 れはあるが、それでもだった。

「ん、解かった…それじゃ、 恭君って呼ぶね。私のこともなのはでいいから」

「あ、私も…その、名前で呼 んでいいですか?」

二人の会話に入るようにすずかがやや窺うような視線で問い掛けると、頷き返す。

「ああ、構わない。それと別 に敬語もいらない」

「あ、ありがとうございま す…私のこともすずかでいいです」

パッと花が咲いたような笑みを浮かべるすずか…そして、その様子にアリサがやや肩を 竦めて溜め息を漏らす。

「しょうがないわね…私のこ ともアリサでいいわよ」

親友二人が名前で呼ばれて自分だけが苗字というのもなにか面白くないので…アリサは 大仰にそう言い放つと、恭も苦笑を浮かべる。

「解かった…よろしく頼む、 なのは、すずか、アリサ」

3人の名前を呼んだ瞬間、3者3様に表情を浮かべ、応えた。

 

 

 

 

 

時間を戻して現在……あの後、なのは達との会話を行っていた恭に桃子が旅行の旨を伝 え、恭は流石に断ろうとしたのだが、結局は桃子の強引さに押し切られ、恭と雫もこの旅行に同行させてもらい、この説明を受けた高町家の面々は苦笑を浮かべ ていた。

「ねぇ、きょ、恭君…お菓子 食べる?」

未だ言い慣れないのか…それとも気恥ずかしさか、やや上擦った声で身を乗り出し、す ずかが持っていた菓子を差し出すと、恭は上半身を振り向かせ、応じる。

「ああ、ありがとう」

その言葉に笑みを浮かべるすずかになのはも苦笑を浮かべつつ…その視線を窓の外へと 向ける。頬杖をつきながら動く窓から見える光景を見やりながら、なのははここ数日に起こった出来事を反芻させていた。

(あの人達…いったい、誰な んだろう……?)

脳裏を掠める人影……黒いマントを羽織り、鎌のような杖を持った金色の髪をツイン テールにした少女…名も知らず、そしてなのはに対して攻撃を仕掛け、ジュエルシードを封印して去っていった。

ジュエルシードを封印しなければ、厄災が起こるかもしれないというユーノの言を信じ るなら、放っておくことはなのはにはできない。だが、なのはの代わりにそれを行なおうとする少女がいる。なのはは別にジュエルシードを封印できるのなら、 それが自分じゃなくてもいいし、協力できるのならしたい……だが、攻撃してきた以上、それは難しいかもしれない。

そしてもう一つ…その邂逅から数日後に起こったもう一つの邂逅……漆黒の少年と白い 天使のような女性…彼らは先の少女と違っていた。ジュエルシードに取り込まれた鳥の攻撃から自分を護り、尚且つ封印の協力をしてくれた。

まったく逆の行動を取った二つの存在……片や攻撃し、敵対した少女に片や助け、協力 した二人組……いったい、何者なのだろうか…なのははぐるぐる思考を回転させる。

自分以外の魔法使い……そして敵対行動と協力行動……敗北と戸惑い……それらがまだ 純粋であるが故に沈むなのはの心を悩ませていた。

なのはにはまだ解からないだろう。この世界は矛盾で成り立っていることを…確かにな のはのような純粋さには、そうした裏の事情はまだ解からない。

『なのは、今日はお休みなん だから、ジュエルシードのことは忘れて、ゆっくりしなきゃダメだよ』

思考のループに陥っていたなのはは、頭に響いた念話にハッと振り向くと、ユーノが美 由希の肩にのり、こちらを見やっていた。

『うん、ありがとう』

その気遣いに感謝するように同じく念話で短くそう返事をすると、少し気が楽になっ た。

今はまだ考えていても答など出ない。それに、今は家族や友人と一緒にいるのだ。こん な気持ちのままでは、彼らにも余計な心配をさせてしまうだろう。

「なのは、どうかしたの か?」

「え、ううん…なんでもない よ」

唐突に恭に話し掛けられ、なのは慌てて被りを振った。どうやら、念話に集中しすぎ て、少し視線が彷徨っていたらしい。

恭はやや不審そうに見やっていたが、やがてすずかやアリアとの会話を再開する。

そんな様子を横に、なのははせめて、この旅行の間だけは忘れて楽しもう……そう結論 づけると、なのはは自身に呟いた。

せっかくの旅行なのだ……と…これから待っている楽しい時間に胸を沸き立たせ、顔を 輝かせながらも、頭の片隅で自分はやはり非日常の世界に関わっているんだという困惑も憶える。そして、それを隠さなければならないということも………

会話に加わるなのはに恭は静かに思考を巡らせる。

大方、考えていることは予想がつく…まあ、数日前にその原因をつくったのは他でもな い自分自身だ。

だが、それは決してなのは本人に言うわけにはいかない……そして、自分にできるのは そんななのはを影からサポートするだけだと…恭は心に決意を新たにした。

そして……一行の乗った車は温泉宿へと到着するのであった。

 

 

 

温泉宿へと到着した一同。自然に囲まれたのどかな宿に漂う香り……そして、一同は早 速の温泉へと向かおうとした。

恭と雫にあてがわれた和室に入り、荷物を下ろすと同時に恭は息を吐き出す。

「ほら、あんた達も一緒に行 かない?」

隣の部屋で既に荷物を下ろし、温泉へと向かうためにきたなのはら女性陣が部屋を覗き 込むと、恭は雫を見やる。

「俺はあとでいい。雫姉さ ん、一緒に行ってくれていい」

「でも……」

言い淀む雫に恭は微かに目配せする…その意図を察し、雫は応じる。

「解かったわ。それじゃ、お 先に入らせてもらうわね」

着替えと浴衣を持ち、雫も既に待ちきれずに向かおうとしたなのは達を追うように部屋 を退出していく。

それを確認すると、恭は徐に立ち上がる。

これでなのは達は雫がガードしてくれる。そうそう不測の事態は起こらないだろうが、 用心に越したことはない。恭は、その視線を窓の外の林に向ける。そして、静かに息を吐くと部屋を退出していった。

 

 

 

婦人の湯に到着した一同は着ていた衣服を脱ぎ、その肢体をあらわにしていた。その光 景に背を向けるユーノ…その表情が真っ赤に染まっている。

『ユーノ君、温泉入ったこと ある?』

念話で話し掛けてきたなのはに硬直していたユーノはハッと覚醒し、上擦った返答を返 す。

『あ、う…うん…公衆浴場な ら』

ミッドチルダ出身で、遺跡などの発掘業に従事していたユーノ。公衆浴場になら入った ことはあるが、温泉というのはそれと違うらしい。

天然に涌き出るお湯を張った浴場……とでも解釈すればいいのだろうか…だが、ユーノ の意識はそんなものに気を取られている暇はないほど渦巻いていた。

『温泉はいいよ。楽しいし、 それに気持ちいいし』

服を脱ぎながら、脱衣籠に入れ、これからの入浴に心躍らせるなのはの心情が伝わり、 ユーノは半信半疑に思わず振り向いた。

『ホン、ト……っ!!?』

だが、その瞬間…ユーノの眼には衝撃的な光景が飛び込んできた。

「うわぁ、雫さん胸大きいで すね」

「そうかしら…貴方もいい胸 してるじゃない」

下着姿で雫の胸を覗き込む忍に湯編み着を身体に巻きつけながら雫が軽く笑みを浮かべ る。

だが、そのはみ出さんばかりの胸に忍がやや非難めいた声を上げる。

「えーそうですかぁ?」

忍の胸もなかなか立派なものだが…だが、それでもその会話を傍から聞いているすずか はやや落ち込む。

「いいなぁ、お姉ちゃんも雫 さんも……私も大きくなるかな?」

羨望が混じった瞳で二人を見上げる。自分のまだささやかな胸を見やりながら思わず漏 らすすずかに雫が軽く笑みを浮かべる。

「ええ、大丈夫よ。貴方もこ れから大きくなるから」

「胸は女の強力な武器だもん ね〜あの子もそれでノックアウトできるわよ」

「もう、お姉ちゃん!」

にやにやしながら呟く忍にすずかが顔を真っ赤に染めて怒鳴り返す。その横では、美由 希とアリサが下着を奪うように脱ぎあいをしていた。

その刺激的な光景にユーノは興奮し、激しく脈打つ心臓を抑えるのに必死で倒れ伏す。

『な、なのは…ぼ、僕はやっ ぱり…』

これ以上ここにいたら身が保たないとばかりに思わず呟きかけた瞬間、髪を束ねていた リボンを解いていたなのはが振り返り、その姿にユーノは心臓が飛び出さんばかりに驚く。

『ん? どうしたの、ユーノ 君?』

そんな硬直するユーノに向かって気にも留めずに問うなのはにユーノはまるで魂が抜け たようにその場にへたり込む。

『その…僕はやっぱり男湯の 方へ………』

もはや屍と化しているユーノは弱々しい声でそう呟くも、なのはは不満そうに表情を顰 める。

『えー? いいじゃない、一 緒に入ろうよ』

髪を解きながらユーノの心情に気づかず発するなのはの言葉は今のユーノにはまるで死 刑宣告のように聞こえた。

そして、そんなユーノを抱え、なのはは浴場へと向かった一同の後を追った。

浴場に入ると、そこには雄大な自然を一望できる大きなガラス窓に面した檜にも似た浴 槽が作られ、少女達は感嘆の声を上げる。

「誰もいないから貸切みたい ですね」

「そうね。ほら、貴方達も先 に身体洗ってから入りなさい」

美由希と忍に向かってなのは達は元気のいい返事で返し、なのはは必死に眼を瞑って硬 直しているユーノを抱えたまま美由希に歩み寄る。

「お姉ちゃん、私が背中洗っ てあげるね」

「そう、じゃあお願いねなの は」

洗い場の椅子に腰掛け、背中を向ける美由希に向かってタオルに石鹸をつける。

「それじゃ、私はユーノ君を 洗ってあげようかな」

美由希は懸命に背中をこするなのはの前で既に項垂れているユーノの身体を洗面器につ け、タオルでその身体を擦り始め、ユーノは必死に逃れようともがく。

だが、そんなことは叶わず…ただされるがままになるユーノになのははクスリと笑みを 零した。

「あの、私が背中を洗っても いいですか?」

「え、いいの? だったら、 お願いしようかしら」

雫に向かって問い掛けるアリサに笑みを返し、雫は腰掛けて両手で髪を左右に掻き、前 へと寄せて背中を露にする。

「うわぁ、雫さん綺麗な身体 してますね…しかも髪綺麗だし」

その白い背中をどこか羨望じみた表情で洗うアリサ……思わず両隣で洗うなのはとすず かも眼を向ける。

黒い艶やかな髪はそれでいて流れるような美麗さを誇っている。その落ち着いた姿に憧 れにも似た感情を抱く。

「ありがとう…でも貴方だっ てその髪の色は素敵じゃない」

ハーフのアリサは燃えるような金髪…彼女の活発さそのものを具現するような髪はアリ サにとってもお気に入りであり、それを褒められてアリサは照れを隠すように俯いた。

ほのぼとした雰囲気のなか、やがて彼女達は導かれるように湯船に身を沈めた。

 

 

 

その頃……恭は一人、旅館の周囲の森のなかを散策していた。

木々のなかから差し込まれる光……それを顔を上げて受けながら静かに息を吐く。

「あら、恭君じゃない?」

突如掛けられた声に振り向くと、そこには士郎と桃子が佇んでいた。

「かあ…あの、お二人は温泉 に入られなかったんですか?」

思わず母さんと言いそうになり、慌てて口を噤んで問い返すと、士郎が応じる。

「ああ、私達はまず少し散歩 をしようと思ってね」

「そうそう、貴方こそ入らな かったの? まあ、相手が恭也だけじゃね」

苦笑じみた呟き……男湯に付き合えるのは恭也だけだが、流石にあの恭也相手ではと二 人は思わず考えてしまう。

なにか、地味に傷つくのは気のせいだろうか。

「あ、いえ…少し俺も散歩し たかったので」

「そうなんだ。それじゃ、一 緒に散歩しない?」

何気に発せられた言葉…だが、恭はざわつく心持ちを抑えながらやんわりと拒む。

「あ、いえ…気にしないでく ださい。お二人の邪魔をするつもりはありませんので」

「そんな…子供が遠慮するも んじゃないわよ」

言った後で恭は内心少し迂闊だったと思った。恭はいくら思考が既に成熟したものを 持っているとはいえ、見た目はただの子供なのだ。

先程の言動は士郎と桃子というかつての世界ではほとんど無かった光景に重ね、なるべ く邪魔をしたくないという無意識の言葉だったのだが、それがどうやら裏目に出たようだった。

無論、これは単なる親切心だけではない……桃子だけでなく、士郎にも言えることだ が、この二人は妙なところで人の心の内を漠然と察することに長けている。それは職業柄、多くの人の表情を見てきた所以だろうが……両親がいないという子 供…本来、恭ぐらいの年頃の子供は親がいて然るべきなのであろうと考えている。恭は歳の割には妙に落ち着いているし、決して親がいないという現実に嘆いて いるとは思えない。だが、恭の瞳に奥にはそんな思いとは裏腹に一抹の寂しさを僅かながらに感じさせるものを二人は感じ取っていた。

別に自分達が彼の親代わりになろうなどという自惚れがあるわけでもない。ただ、お節 介と取られるかもしれないが、少しでもそれを和らげたいだけであった。

だが、恭の方は嬉しさと複雑を交えた葛藤を渦巻かせていた。正直、なかなか気分が良 いとはいえない……頭では解かっていても感情が納得しない。

元の世界では恭は家族を第一に考えていた。それは、ある種の自身への強迫概念に近 かった…あるいは己の存在意義と置き換えてもいいかもしれない。

自分の身がどうなろうと…ただ家族を……愛する者達を護れればいいと……それが恭に とっての強さの源だった。だが、この世界ではそれは叶わない……自分はこの世界にとっては異邦人でしかない。

故に、影から…この世界に……自己満足だったとしても、家族を護ろうと戦おうと決め た…全てから……だからこそ、一定の距離を置いておきたかったのだ。

「……それじゃ、少しだけ御 一緒します」

暫し逡巡した後、恭はやや小さな声で応じ、桃子は笑顔で応じて手を取る。

「さあ、少し散歩しましょ う」

「そうだね。では行こうか」

桃子のもう片方の手を取り、士郎が先導して歩く。その後ろを追う桃子の手に繋がれた 恭は、その握られる力に微かに笑みを浮かべる。

(元の世界じゃ、母さんの手 を握ったことはほとんどなかったな……俺も、少し変わったかな)

そんな自分に自嘲めいた…それでいてやや不思議な心持ちを憶えながら、恭もまた無意 識に握る力を強めた。

 

 

 

身体を洗い終え、一同は湯船に浸かって既に気分を満喫していた。やがて、のぼせたの か、なのは達が湯船より上がる。

「それじゃ、お姉ちゃん忍さ ん、雫さんお先に上がりますね」

「解かったよ。私達はもう少 ししてから上がるから」

なのはが入口付近で手を振ると、美由希もやや表情を赤くしながら応じた。そして、美 由希の肩で既に果てていたユーノをアリサが抱え上げる。

「さあ、いくわよユーノ」

その笑みにユーノは答える気力もなく、グッタリとなる。そのままドアを潜ると、続く ように雫も湯船より身体を上げる。

「あれ? 雫さん、もういい んですか?」

「ええ、私も少しのぼせまし たので……先に上がらせてもらいますね」

微笑を浮かべ、湯浴み着を着込み、浴場より退出していく。脱衣所に到着すると、なの は達は既に浴衣に着替え終え、そのまま旅館内へと出発していった。

それを見送ると、雫はやや表情を鋭く引き締める。

(この気配……魔導士…い え、使い魔の方か)

脱衣所の先……そこから放たれる微かな魔力…雫は表情を強張らせながら浴衣に身を包 み始めた。

 

 

 

火照りを顔に浮かべながら、なのは、アリサ、すずかの3人は浴場を後にし、これから どう過ごすかを話しながら廊下を歩んでいると、唐突に前から声が掛かった。

「はーい、お嬢ちゃん達」

その声に3人は思わず歩みを止め、声の響いた前に視線を向けると、そこには同じ旅館 の浴衣を着込んだ赤髪の女性がどこか不敵な表情を浮かべて歩み寄ってきた。

訝しげに首を傾げるなのは達に歩み寄り、3人は警戒した面持ちを浮かべるも、それを 意にも返さず女性はなのはに視線を向ける。

「君かね、うちの娘にあれし ちゃってくれてるのは?」

「え……?」

覗き込むように顔を近づける女性になのはは眉を寄せる。そして、女性はなのはを値踏 みするようにジッと凝視する。

「ふうん…あんま賢そうでも 強そうでもないし……ただのガキんちょに見えるんだけどね」

侮るような視線を浮かべる女性になのははどこか気圧されていたが、不意に横からアリ サが割り込むように顔を覗かせ、女性は眼を剥きながら顔を上げると、アリサはなのはの前に立ち塞がるように佇み、背中に声を発する。

「なのは、お知り合い?」

親友が毒されている姿に声もやや硬い。なのはもどこか上擦った声で応じる。

「う、ううん……」

少なくともなのはに見覚えのある女性ではない。その答に女性を見るアリサの視線がま すます厳しくなる。

「この子、貴方を知らないそ うですが、どちら様ですか?」

棘のある口調でアリサは睨み上げるも、女性は慇懃な視線を浮かべたまま、二人を見や る。まるで一触触発の状態にすずかはどこか怯えるように表情を顰め、ただならぬ様子になのはの肩でグッタリとしていたユーノも思わず表情を引き締めて女性 を見やる。

暫し、無言のプレッシャーが続いていたが……女性が突然高らかに笑い上げた。

予期せぬ女性のリアクションになのは達は毒気を抜かれたようにキョトンとなる。

「アハハハッゴメンゴメン、 人違いだったかな? 知ってる子によく似てたからさ」

頭を掻きながら笑う女性に呆然となっていたなのは達だったが、その言葉になのはは知 らず知らず張っていた肩の力を抜いた。

「なんだ、そうだったんです か」

なのはとは反対にアリサはまだ厳しい視線を浮かべたまま…それを気にも留めず、女性 はなのはに再度歩み寄る。

「おんや、可愛いフェレット だね〜〜」

視線をユーノに向けながら漏らした一言になのはは思わず笑顔で反応する。

「あ、はい」

「よしよし……」

手をフェレットの頭にのせ、撫でる女性……その手が離れた瞬間、なのはの頭に声が響 いた。

『今は、挨拶だけね……』

「っ!?」

眼を見開き、息を呑む……今、頭に響いた声は間違いなく眼前で佇む女性から発せられ たものだった。

だが、声ではない……頭に直接響く魔力を使用した念波……驚愕するなのはに向けて女 性はニヤリと笑う。

『忠告しとくよ。子供はいい 子にしてお家で遊んでいないさいね。オイタが過ぎるとガブっといくわよ』

脅すような視線と声……そこに込められる微かな殺気になのはは思わず震えそうにな り、その場で佇む。

そんななのはを一瞥すると、女性は笑みを貼りつけたまま、なのはの横を過ぎる。

「さぁて、もう一風呂浴びて こよう」

静かに離れていく女性の背中を、なのはは思わず振り返り凝視する。

『なのは……』

『うん……』

真剣なユーノの言葉に、なのははやや小さく応じる。

頭に過ぎる考え…だが、それも横から掛けられたすずかの声で中断した。

「なのはちゃん……」

「あ、うん…私大丈夫だか ら」

不安げに見やるすずかに慌てて応じると、アリサがどこか怒りを滲ませて毒づく。

「もう、なに! あれ!?」

「その……変わった人だった ね」

「昼間から酔っ払ってるん じゃないの! 気分悪!!」

絡むように話し掛けてきた女性の馴れ馴れしさに憤慨するアリサ…なのはは苦笑を浮か べながら宥める。

「ま、まあまあ…くつろぎ空 間なんだし、いろんな人がいるよ」

「だからって、節度ってもん があるでしょうがっ節度ってもんがっ」

悪態をつくアリサになのはは苦笑いを浮かべたまま、一抹の不安を抱きながら女性が 去った方角を一瞥した。

 

 

なのは達に絡んでいた女性はそのまま浴場に入ろうとのれんを潜ろうとした瞬間、入口 でぶつかった。

「あ、ゴメンよ」

女性がさして気にも留めず声を掛けると、ぶつかった人物:雫は小さく頭を下げる。

だが、すれ違う瞬間に一瞬浮かべた視線に女性は思わず振り返る。

雫はそんな女性に気づかないまま、去っていく。女性は頭を掻きながら浴場へと入って いく。

そして、それを背中越しに確認すると、雫はその場で歩みを止める。

(まだ手は出さないでいてく れてよかった)

どうやら、恭の予感は当たっていたようだ……こういった予感というか先読みに関して は流石と言わざるをえない。自分をわざわざなのは達に張りつけたのも万が一の事態に備えてとだった。

結果的に行動は起こさなかったようだが、それでもなのは達に対して見せて敵対心から すると、どうやら近いうちになにかが起こるということに他ならない。

雫は表情を引き締め、その場を去った。

そして、女性はそのまま脱衣所に入ると、浴衣に着替えた美由希と忍が談笑を交わしな がら特に気に掛けた様子も見せずに退出し、女性はそのまま浴衣を脱ぎ、その下から現れる豊満な肢体を露にしながら湯浴み着を着込み、貸切となった浴場に入 り、温泉へと身を沈める。

そのまま沸き立つ湯気をその身で浴びながらガラスに背を預け、火照る身体に心地よい 気分を満喫しながら、女性は内に向かって呟くように声を発した。

『あーもしもし、フェイト… こちらアルフ』

初めて発せられた名……アルフと名乗った女性は念波にのせて声を離れた己が忠誠を誓 う者の許へと送る。

その送られた念波は旅館から程近い森のなか……その樹の一本の枝に座る人影へと届け られていた。

10前後の歳格好の出で立ちに金色の髪をツインテールにし、斧のような棒を大事に抱 え込み、枝に座る少女……瞳を閉じ、まるで静止画のように座る少女の端正な顔がやや強張る。

『なに、アルフ?』

声に出さない声……頭に響く声に問い返す。

『ちょっと見てきたよ……例 の白い娘』

その言葉に閉じていた瞳が開かれ、顔を上げる。だが、特に驚いた様子は見えない。

『そう…どうだった?』

『うーん…まあ、どうってこ とないね。フェイトの敵じゃないよ』

軽い口調ながら、その言葉にやや嬉しさにも似た感情を微かに憶えながら、フェイトと 呼ばれた少女は相槌を打つ。

『そう……こっちも少し進 展…次のジュエルシードの位置が大体特定できたから、今夜には捕獲できると思うよ』

意識を集中させながら、フェイトは周囲の魔力の流れを探索する。この山のどこかから 溢れる魔力……まだ完全な特定はできていないが、それもすぐに解決するだろう。

フェイトにとってはさして難しいことではない。だが、その言葉にアルフは満面の笑み にも似た喜色の感情を送ってくる。

『う〜ん、ナイスだよフェイ ト、流石は私の御主人様!』

そのアルフの様子に今までずっと表情を崩さなかったフェイトが微かに表情を緩める。

『ありがとう、アルフ…それ じゃ、夜にまた落ち合おう。それまではゆっくりしてていいから』

『はーい、もう少しこの温 泉ってやつでノンビリしてから合流するさ』

鼻歌混じりに湯船に身を沈めながら応えるアルフにフェイトはクスリと笑みを少し零す と、念波を切り、枝から立ち上がる。

彼女の目的もまたなのはと同じジュエルシード……今日、ジュエルシードの気配があっ たここへなのはがやって来たのは偶然であろうが、それでも彼女を驚かせるのは充分だった。

以前にも一度、ジュエルシードの封印で対峙した少女……その時の戦いでもなのはは彼 女の敵ではなかった。

だが、彼女のパートナーは自分のためにわざわざ彼女の様子を見に行ったのだ。敵を知 り、己を知れば百戦危うからずと言うが、アルフの言葉どおりさして不確定要素はない。

邪魔をするなら排除するだけ だ……たとえそれがなんであれ、自分の目的の邪魔をするのならば……

「待っててください、お母 様」

虚空に向かってそう呟くと、フェイトは自身が立っていた枝から突如跳んだ。十数はあ る樹の枝から跳べば、普通なら間違いなく怪我では済まないだろう。だが、フェイトはまったく意にも恐怖もなく跳び、そのまま優雅にとでもいうように降り立 ち、そのまま森のなかを歩んでいく。

どれだけ歩いたか……やがて、彼女は森のなかを抜け、眼の前に拡がる光景に見入っ た。

静かに流れる小川のせせら ぎ……微かに吹く風…そのまま沿側の岩場に立ち、水面に映る自身を見詰めていると、後ろから声が掛かった。

「どうかしたのか?」

唐突に掛けられた声にフェイトは思わず反応し、ガバっと振り返ると…そこには黒ずく めの少年が佇んでいた。

「済まない、驚かせてしまっ たか……ただ、少し気になったんでな」

少年:不破恭は詫びるように頭を下げると、フェイトはやや警戒した面持ちのまま、静 かに応じる。

「いえ……」

自分がまったく気配を感じられなかった……それだけでフェイトを警戒させるのは充分 だった。

「ああ、名前をまだ言ってな かったな……俺は恭、不破恭だ。君は?」

問われ、フェイトは一瞬迷う……名を名乗っていいかどうか…だが、フェイトは何故か その少年の瞳にひかれるものを憶えた。

黒い瞳のなかに微かに混じる哀しみと強さ……なににも屈しないかのような強さを秘め るものに、フェイトは無意識に口を開いた。

「フェイト……私は、フェイ ト=テスタロッサ」

静かな…そしてどこか悲壮さを感じさせるように発せられた声………穏やかに吹く風が フェイトのツインテールを揺らす。

フェイト=テスタロッサにとって……新たな運命の幕開けの瞬間であることを…彼女は 知るよしもなかった………

 

 

 

 

 

 

 

 

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【次回予告】

 

 

不思議な出逢いだった……

いったい、彼は何者だったの だろう……でも、私にとってはただの一瞬の邂逅………

発動するジュエルシード…… 私は夜の闇に己の身を晒す……

 

 

そして私は対峙する黒衣の剣 士と……

刃を交えあう私達の前に…白 い彼女が現れる……

その刻…彼の取った行動 は……

 

 

二つの不思議な出逢いが…私 を新たなる運命へと誘う…………

 

次回、魔法少女リリカルなの は THE MAGIC KNIGHT OF DARKNESS

Spiral 〜3人の魔導士〜」

ドライブ……イグニッション



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