機動戦士ガンダムSEED 

TWIN DESTINY OF  DARKNESS

PHASE-11  覚醒

 

 

先の独断専行の一件に対し て、簡易軍事裁判を行うために、キラは艦長室に呼び出されていた。

弁護にはムウとアルフがつい ているが、相手がナタルであるために、やや嫌悪なムードが漂っていた。

「……失礼します」

やや声を落とした口調でキラ が出てくると、外で待っていたサイとミリアリアが心配そうに近寄った。

「キラ、大丈夫か?」

「何て言われたの?」

「お前もトイレ掃除一週間と か?」

サイが尋ねると、キラが答え るより先にムウがしゃしゃり出てきた。

「おーそれいいね。やっても らおうかなー」

「大尉…取り敢えず、お咎め は無しだ……まあ、これに懲りたら、勝手な真似はよせよ」

ムウを制し、アルフが苦笑を 浮かべてキラの背中を叩く。

対照的に、ナタルはややジロ リと冷たい視線を向けて出て行った。

キラは苦笑を浮かべる。

「大丈夫だよ」

「そっか…ってことは俺達だ けか」

サイの言葉にミリアリアが溜 め息をつく。

「私達、マードック軍曹に すっごく怒られたの。『お前達は危険って言葉すら、知っちゃいねえのかー!』って♪」

マードックの口調を真似て言 うミリアリア。

「あ、ごめん。手伝うよ」

流石に悪いものを感じたの か、キラが言う。

「いいよ…もうすぐ第8艦隊 と合流だし……大したことない」

3人はそのまま通路を行く… 途中、サイが真顔になる。

「カズィがさ…お前とあの女 の子の話聞いたって……」

「え…?」

意表を衝かれ、キラは声を上 げる。

「あのイージスに乗ってん の…友達なんだってな。正直言うと…少し心配だったんだ」

「サイ……」

「でもよかった…お前、ちゃ んと帰ってきたもんな」

サイが嬉しそうに言う姿に、 キラは苦笑を浮かべる。

やはり…あの時の選択は間 違っていなかった……この時、キラは心からそう思った。

「あ、レイナは……?」

アークエンジェルに戻ってか ら、一度もレイナと会っていないことに気付き、あの時の後押しをしてくれた礼を言いたくて、彼女の所在を尋ねる。

「あ、それが…気分が悪いん じゃないかな……ずっと部屋にこもってるから」

「そっか」

「じゃ、俺ら交代だか ら……」

サイとミリアリアが通路の奥 へと消えていき、キラはエレベータに乗る。

レイナと少し話がしたかった が、気分が悪いのでは仕方がない…後で改めて礼を言おうと思い、キラもエレベータの中へと消えた…そのやり取りを見ていた者に気付くことも無く……

通路の影に隠れ、髪を乱し、 青ざめた…それでいて、やや狂気を顰めるような表情のフレイがいた。

「……このままには…しない わ………」

かさついた唇から…地を這う ような掠れた声が漏れた……

 

 

 

ヴェサリウスはラクスらの保 護のため、一時アークエンジェル追撃を断念した。
だがその後任は合流したガモフに引き継がれる事となった。

「……確かに月艦隊との合流 前に、足付きに追いつく事はできますが……これではこちらが月艦隊の射程に入るまで10分程しかありませんよ?」

ニコルが難しい表情で戦略パ ネルを見やりながら呟く。

ガモフのブリッジでは、ゼル マン艦長をはじめ、イザーク、ディアッカ、ニコルの4人が意見を交し合っていた。

「10分はあるって事だろ」

「臆病者は黙ってるんだな」

あくまで慎重に進めようとい うニコルの意見をイザーク達は嘲笑う。

ニコルもややムッとした表情 を浮かべる。

「10分しかないのか、10 分はあるのか……それは考え方次第ってことさ。俺は10分もあるのにそのままあいつを見送るなんて御免だな」

「同感だ…奇襲の成否はその 実働時間で決まるもんじゃない」

イザークの言葉にディアッカ が同調する。

「それは解かってますけ ど……」

なおも難色を示すニコルをイ ザークは一瞥する。

「ヴェサリウスはラコーニ隊 長の艦にラクス嬢達を引き渡したら、すぐ戻るということだ……それまでに足付きは俺達で沈める」

功績に固執するイザークらし い言葉だった。

しかも、アスランが不在の今 こそ、ライバルを引き離す絶好の機会だという考えが、彼を強行させる。

「いいな?」

「OK」

迷うことなくディアッカはそ の作戦に乗る。

「……解かりました」

躊躇いを見せていたニコル も……渋々頷いた。

 

 

その頃…ラクスらの引渡しの ために、ヴェサリウスは友軍との合流ポイントへと向かっていた。

「隊長、ツィーグラーとクラ ウスのランデブーポイントまで後少しです」

「ふむ…ガモフは?」

シートに腰掛けたクルーゼが 艦長席のアデスに尋ね返す。

「現在、足付きを追尾中…」

「足付きが月艦隊と合流する までの時間は…この位置からして、約10分といったところでしょうか」

アデスと同じく、後ろの戦略 パネルを見ていたリンが呟く。

「仕掛けると…思います か?」

リンの問い掛けに…クルーゼ が顎に手をやって考え込む。

「……イザークらのことだ。 合流前に仕掛けるかもしれんな」

「我々が合流する前に、です か……?」

アデスがやや困惑を浮かべ る。

いくらXナンバーの機体を3 機載せているとはいえ、向こうの戦力も今や侮れないものとなっている。

「あくまで、だよ」

意味ありげな笑みを浮かべ る。

「ちょっくら邪魔するぜ」

その時、ブリッジに人影が 入ってきた。

「ファーエデン殿…」

アデスが声を掛け、クルーゼ とリンが向き直る。

「…おっどろいたな〜まさ か、オメーがここにいるなんてよ」

やや皮肉めいた口調でリンに 話し掛ける。

「…ザラ委員長の指示です」

「ふ〜ん…で、あたしはこの 先、どうなんのかな?」

「ファーエデン殿には、本国 より帰還命令が出ています。後ほど、ラクス嬢と共にラコーニの艦に同乗してもらいます」

クルーゼが先程、本国より届 いた指示を伝える。

「…あたしゃ、本国に戻れ、 か……やれやれだな」

肩を竦め、頭を掻く。

「おいリン…ちょっと付き合 えよ」

「……解かりました」

目配せで、人気の無いところ に誘うと、リンはブリッジから出て行く。

後を追おうとしたメイアは立 ち止まり、クルーゼに振り返る。

「おい、クルーゼ」

クルーゼの顔がこちらを向 く。

「悪巧みはいいけどよ、火遊 びは火傷の元って事、忘れんなよ」

意味ありげな口調にクルーゼ は押し黙る。

「じゃな」

メイアはリンの後を追って、 ブリッジから退出する。

アデスは言葉の意味が解から ず、首を傾げていたが、クルーゼはやや表情を強張らせていた……

 

 

「…で、私に何の用です か?」

人気の無い通路に出たところ で、メイアに問い掛ける。

「う〜ん…別に……ただ、よ く似てるなって思ってよ」

リンの顔を覗き込みながら、 メイアは考え込む。

リンはやや表情を強張らせ る。

「向こうの艦にな…お前と同 じ顔をした奴がいたってことさ…流石に、最初に会った時は度肝を抜かれたけどよ」

溜め息をつきながら頭を掻 く。

「……そんなに、似ています か?」

「ああ…そっくり…ってか、 瓜二つだったぜ」

確認をとるような問い掛け に、やや戸惑いを見せながら答える。

同じ特務隊のメンバーとはい え、メイアとリンは総じて仲がいいわけでもない。

リンはやや眼を細め、黙り込 む。

(……何を今更…似てて、当 然なのに…!)

心の内で何かに向かって吐き 捨てる。

リンは身を翻し、その場を去 る。

「何だ、あいつ…怖い顔し て……」

相変わらず、訳が解からない 奴だなと…メイアは軽く溜め息をつきながら、その後姿を見送った。

 

 

数分前…アスランはラクスの 様子を窺おうと無重力の通路を移動していた。

目的の部屋に近くなった時、 こちらに向かってくる物体に気付いて顔を上げる。

【ハロ・ハロ・アスラー ン!】

パタパタと飛んでくるハロ を、アスランはキャッチする。

「ラクス……」

アスランは軽く溜め息をつい て通路の奥からやって来る人物を見やる。

「ハロがはしゃいでいます わ。久しぶりに貴方と会えて嬉しいみたい」

「ハロにはそんな感情のよう なものはありませんよ」

にこやかに笑いかけてきたラ クスにハロを手渡すと、背中を押す。

「貴方は客人ですが、ヴェサ リウスは戦艦です…あまり、部屋の外をウロウロなさらないでください」

軽く嗜め、ラクスを部屋へと 連れて行く。

「何処に行ってもそう言われ るので、つまりませんの」

「仕方ありません…そういう 立場なんですから」

苦笑いを浮かべるアスラン に、ラクスは溜め息をつく。

そんなラクスを暫し、見詰め る。

その視線に気付いたラクスが 声を掛ける。

「何か、アスラン……?」

「あ…いえ、あー御気分はい かがですか……その、人質にされたり、いろいろありましたから……」

何かを誤魔化すように尋ねる アスランに、ラクスはニコリと微笑みを浮かべる。

「私は元気ですわ……あちら の艦でも、貴方のお友達や、優しい方がいましたから」

「……そうですか」

アスランはやや苦味を帯びた 声で答え、ラクスの表情も若干曇る。

「キラ様はとても優しい方で すのね…そして……とても強い方………」

「あいつは、馬鹿です!」

憤りを隠そうともせず、アス ランは思わず叫んでしまった。

「軍人でもないのに、まだあ んなものに乗って! あいつは利用されてるだけなんだ…友達とかなんとか言われて……あいつの両親はナチュラルだし…だから……」

言葉を濁すアスランの頬に手 を伸ばし、触れようとした瞬間、アスランはさっと顔を背ける。

「貴方と戦いたくないと、 仰ってましたわ……」

「俺だってそうです! 誰が あいつと……」

カッと叫びそうになり、アス ランは思わず口を噤む。

落ち込み気味のアスランにラ クスはふわりと笑い掛けた。

「キラ様は大丈夫ですわ…… レイナ様がついていらっしゃいますもの」

「……レイナ?」

ラクスの口から出た、知らない名前に首を傾げる。

「ええ…キラ様と同じで、と ても優しい方ですの……」

まるで、親友を紹介するよう に笑顔で話す。

「そして……人一倍強くて… 人一倍、哀しみを持った方です」

やや顔を俯かせる。

「とても…戦いがお好きでは なさそうなのに……それでも、戦っておられましたわ」

その言葉にハッとする。

戦っていた…と、ラクスは 言った。

そこから導き出される結 論……

(あのもう1機…黒いMSの パイロットか……)

アスランの脳裏に、ストライ クと共に戦うMSの姿が浮かぶ……

機体コードである『ルシ ファー』の名に相応しい、漆黒のボディと紅の翼を持ったMS……

その姿はまさに、堕天使で あった……

だが、そこで…アスランは一 つの疑問にぶつかった。

「ひょっとして…その人物 も、コーディネイターですか?」

ナチュラルがあそこまでMS を使いこなせるとは思えない……

だが、ラクスは思案顔で、指 を顎に当てて考え込む。

「……解かりません」

「え……?」

予想外の答えにアスランは一 瞬、固まる。

「レイナ様は、ご自分をナ チュラルとも、コーディネイターとも仰りませんでしたから……」

自分を押し隠し、自身を犠牲 にする……彼女は何を思い、戦っているのか…今のラクスには解からなかった。

「決して、人に弱さを見せよ うともしません…強くて、優しい……でも、孤独な人です…口では自分はそうではないと仰っていましたが…」

最後の方はやや、言葉を濁し て呟く。

「だから…キラ様は大丈夫で す」

アスランは、溢れそうになる 感情を堪え、言葉を出す。

「もう、間もなく、ラコーニ 隊長の艦と合流します。では、私はこれで……」

背を向け、出ようとするアス ランの背中に向かって小さく呟く。

「つらそうなお顔ばかりです のね、この頃の貴方は……」

「ニコニコ笑って戦争はでき ませんよ」

冷たく答え、ドアを開けた瞬 間、通路を進んでいた人物が開いたドアに反応してこちらを向いた。

その顔を見た瞬間……ラクス はやや、表情を驚かせる。

「リン……」

「………」

アスランの問い掛けにも、リ ンは無言のまま…そして、こちらを見ているラクスに視線を向ける。

「私が何か……ラクス=クラ イン?」

「あ、いえ…私の知り合いの 方に似ていたので……」

その言葉に…不愉快なものを 感じ、口調がキツくなる。

「生憎ですが…私は違います よ」

「……はい、貴方はその方と 違いますから」

無邪気に笑うラクスに、少し ばかり面を喰らう。

「貴方は貴方ですよ……お名 前を、教えていただけますか?」

「……リン、リン=シス ティ」

やや間をあけて…静かに答え 返した。

 

 

 

格納庫でストライクの調整を しているキラ。

その時、コックピットに人影 が入ってくる。

「やぁ、少しいいかな」

声が掛けられ、顔を上げる と、そこにはアルフの姿があった。

「あ、はい」

慌ててOSを停止させると、 コックピットから出る。

「君とはまだ、ゆっくり話を してなかったな」

キラも思い至る…よくよく考 えてみれば、アルフが合流した時からいろいろあり過ぎて、満足に会話も交わしていない。

「改めて自己紹介する…俺は 第8機動艦隊所属、アルフォンス=クオルド中尉だ」

「あ、はい…僕はキラです。 キラ=ヤマト…よろしくお願いします、クオルド中尉」

握手を交わすキラとアルフ。

「しかし、Gを操縦している のが民間人だとはな……すまんな、巻き込んでしまって」

「あ、いえ…」

キラは僅かに戸惑う。

「もうすぐ、第8艦隊とも合 流できるだろう…そうすれば、君もあの娘ももうこいつに乗らなくてもよくなる…もう少し、頑張ってくれ」

笑みを浮かべ、キラの肩を叩 くと、アルフは自身のメビウスの方へと向かっていく。

その後姿を見詰め、キラはな んともこそばゆい気分になり、格納庫から出て行った。

 

 

 

月艦隊との合流を目前に、 アークエンジェル内には明るい兆しが見え始めていた。

そんな中、サイとカズィがや やホッとした面持ちで、食堂にいた。

「いろいろあったけど、後少 しだね」

「ああ」

第8艦隊と合流後、アークエ ンジェル内の避難民は、シャトルに乗り換えて地球に降りる予定となっているが、やや言葉を濁せたカズィが尋ねる。

「……僕達も降ろしてもらえ るのかな、地球に?」

「え……?」

不安そうに尋ねるカズィにサ イが首を傾げる。

「だってほら…ラミアス大尉 が言ってたじゃん、『しかるべき所と連絡が取れるまでは』とかなんとか」

「ああ…だから、艦隊がその 『しかるべき所』なんじゃないの」

「そう…だよね……でも」

納得しかけたカズィだった が、すぐに表情を曇らせる。

「キラやあの娘は…どうなる のかな……あれだけ、いろいろやっちゃってさ……」

そう言われ、サイは改めて、 その微妙な問題に気付いた。

キラやレイナは…一緒に降ろ してもらえるのだろうか……『ストライク』や『ルシファー』といった、MSを動かせるのは…彼らだけなのだ。

地球連合としては…手離した くはないのではないだろうか……

そんな考えを抱いていると、 キラが食堂に現れ、サイとカズィは気まずげに視線を逸らした。

キラも、敢えて視線を合わさ ないようにし、給水機に向かう。

その時、食堂に一人の人物が 入ってきた。

「フレイ……」

その存在に気付いたサイが声 を上げ、キラもそちらを振り向く。

フレイは…虚ろな瞳で……キ ラを見詰めていた。

「フレイ…大丈夫なのか?  まだ休んでた方が……」

サイが席を立ち、フレイに声 を掛けるが、フレイはサイを気にもかけず、キラの方に近づき、先日の出来事を思い出し、キラは身体を強張らせた。

フレイは俯き加減に、キラの 前に立つ。

「キラ……」

今度は何を言われるのかとキ ラは身構えるが、フレイはしおらしい口調で言った。

「……あの時は、ごめんなさ い」

「え……?」

「あの時、私…パニックに なっちゃって……凄い酷い事言っちゃった」

見上げるフレイの眼に、涙が 浮かんでいるのが見える。

「ごめんなさい…貴方は一生 懸命戦って……私達を護ってくれたのに…私……」

「フレイ! そんな、いいん だよ、そんなの……」

キラは慌てて言うが、フレイ は首を振る。

「私にも解かってるの! 貴 方が頑張ってくれてるって……なのに……」

キラは胸がじわりと暖かくな るのを感じ取る。嫌われてしまった…憎まれてしまったと思っていたのに、フレイは許してくれたのだ。

自分だって、父親を喪ったば かりで辛いだろうというのに……

「…ありがとう、フレイ。僕 こそ、お父さんを守れなくて……」

言葉に詰まるキラに、フレイ は言った。

「戦争って嫌よね…早く終わ ればいいのに……」

どこか、含みを帯びた口調 に…キラは気付かなかった……

 


BACK  BACK  BACK





inserted by FC2 system