アークエンジェル内に、また もや緊迫した雰囲気が襲う。

レーダーを見ていたパルが、 突然ノイズ混じりに乱れ始めたのに声を荒げた。

「レーダー波に干渉! N ジャマー反応増大!!」

マリューとナタルの表情が変 わる。

「総員! 第一戦闘配 備!!」

マリューはすぐさま、迎撃体 制を指示する。

敵の確認を行っていたチャン ドラが声を上げる。

「103、オレンジαにロー ラシア級!!」

「MS、熱紋確認!! バス ター! ブリッツ! デュエルです!!」

ナタルは歯噛みする。

「アイツら! チィ…合流を 眼の前にして……!」

 

 

 

警報が鳴り響く十数前……レ イナはゆっくりと眼を覚ました。

どうやら…半日近く、シャ ワールームで気を失っていたようだ。

身体は未だ、乾いていない… 染み付いた水滴が見える。

レイナは起き上がろうと、立 ち上がるが、立ち眩みに襲われ、壁に手をついて倒れるのを堪える。

「…まずいな……かなり、回 復に体力を使ったみたいね………」

自嘲気味に呟き、自分の腹部 を見やる。

傷口からは既に血が止まり、 傷口を塞ぎ始めている。

これが……自分の身体に備え られた能力の一つ………肉体の新陳代謝を極限まで高め、異常とも言えるほどの自己治癒を促進させる。

傷の治りは確かに早い…だ が、当然代償もある。

新陳代謝を高める故に、身体 の体力を奪い、しばらくの間はまともに動くことさえ容易ではない。

レイナはフラフラとした足取 りで、ベッドに倒れ込む。

「……回復には、軽く見積 もっても一時間ぐらいか………」

天井を仰いでいると、突如と して警報が鳴り響いた。

《総員第一戦闘配備! 繰り 返す! 総員第一戦闘配備!!》

「くっ! こんな時 に……!!」

唇を噛み締め、フラつく身体 を引き摺る。

こんな身体でMSに乗って も、まともに戦えやしない…だが、それでも戦わなければならない。

自分には…それしかないのだ から………

 

 

 

艦内に警報が鳴り響き、それ は食堂にいたキラ達にも聞こえ、ハッと息を呑む。

キラが食堂を飛び出した瞬 間…向こうから、女の子の叫び声が聞こえてきた。

「またせんそうよーっ!」

唐突だったので、キラは駆け てきた女の子にぶつかってしまう。

「あ、ゴメン! 大丈 夫……」

ぺったりと尻餅をついてし まった女の子を助け起そうとし、手を差し出したキラだったが、それを遮るようにフレイが前に出る。

「ごめんねえ、お兄ちゃん急 いでるから」

フレイは優しい手つきで女の 子を抱き起こし、笑い掛けた。

「また戦争だけど、大丈夫。 このお兄ちゃんが戦って守ってくれるからね」

「ほんとぉ……?」

女の子はおずおずとキラを見 上げ、フレイが強く頷いた。

「うん、悪い奴はみぃんな やっつけてくれるんだよ」

無言でその様を見詰めていた キラは、背後からサイに呼ばれ、キラは走り出した。

その後ろ姿を、フレイと女の 子は手を繋いで見送っていた。

「そうよ……」

フレイは呟いた。

「みぃんなやっつけてもらわ なくちゃ……」

「いたぁい!」

フレイの手に突然力がこも り、女の子は泣き声を上げてその手を振り払った。

そしてフレイを見上げた女の 子は、切り裂かれた傷口のような冷ややかな笑みに恐怖を感じ、べそをかきながら母親を探して駆けて行ってしまった。

一人残された事に気付かず、 フレイは立ち尽くしたまま、調子の外れた声で繰り返す。

「みんな…みぃんな…やっつ けて………」

 

 

 

迎撃体制に移行し、ムウとア ルフがMAに乗り込み、先に発進に移る。

「くそっ! こんなタイミン グでよくやる…!!」

「残り10分…なんとか耐え るしかないっすね!!」

通信で頷き合い、メビウス・ ゼロとメビウス・インフィニートは左右のカタパルトへ移動する。

「ムウ=ラ=フラガ、出 る!」

「アルフォンス=クオルド、 いくぞ!!」

2機のMAは発艦し、発進し ていく。

遅れて、キラが格納庫に入る と、レイナとかち会った。

「あ、レイナ…」

「………」

レイナは言葉を交わそうとも せず、無言でルシファーに乗り込む。

キラは訝しがるが、マードッ クに呼ばれ、急ぎストライクに乗り込む。

コックピット内にミリアリア からの通信が入る。

《キラ、レイナさん…ザフト はローラシア級1、デュエル、バスター、ブリッツ!》

「厄介なことは続くものね… この状態で、やれるかしら……」

レイナはできるだけ、普通に 乗り込んだが、敵の情報を聞いてさらに表情を顰める。

Xナンバー3機を相手に…今 の状態の自分が戦え抜けるか………

先にストライクが右舷デッキ へと移動する。

《APU起動…ストライカー パックはエールを装備します……カタパルト接続……》

エールストライカー、ビーム ライフル、シールドが装備される。

《ストライク、スタンバイ… システムオールグリーン、進路クリア! ストライク、発進です!!》

「キラ=ヤマト、いきま す!!」

続けて、ルシファーが左舷 デッキへ移動し、発進口が開く。

レイナの瞳は虚ろに揺らめ き、発進口がぼやける。

《ルシファー、スタンバイ… システムオールグリーン、進路クリア! ルシファー、発進どうぞ!!》

「…レイナ=クズハ、ルシ ファー出撃する」

抑揚のない声で呟き、ペダル を踏み込む。

敵は待ってはくれない…戦わ なければ、生き残れないのだ……

 

 

「第8艦隊もこちらに向かっ てるわ! 持ちこたえて!!」

マリューがクルー全員に呼び 掛ける。

味方を目前に、ここで沈めら れては…今までの苦労が水の泡だ。

「イーゲルシュテルン作動、 アンチビーム爆雷用意! 艦尾ミサイル全門セット!!」

迎撃体制の整ったアークエン ジェルに向かって3機のGは密集編隊のように突撃してくる。

だが、次の瞬間には一気に散 開し、その開いた空間から高出力の攻撃が轟く。

MS3機でガモフの射線をギ リギリまで隠していたのだ。

「回避!!」

すかさずマリューが叫ぶが、 2発のうち、1発がアークエンジェルに着弾し、船体を激しく揺らす。

「くっ…! こちらの回避ア ルゴリズムが解析されている…!!」

思わず唇を噛む…やはり、簡 単に見逃してくれる相手ではなさそうだ。

 

 

そして…各機動兵器同士の戦 闘が始まる。

「機体で射線を隠すとは…味 なことやってくれるじゃないか!」

ムウは毒づき、ガンバレルを 展開してリニアガンと合わせてバスターに叩き込む。

だが、その攻撃もバスターの PS装甲に阻まれ、致命傷を与えるには至らない。

「フン! こんなもの!!」

ディアッカはバスターのガン ランチャーと収束ライフルをゼロに向かって浴びせる。

「相手は大尉だけじゃない ぜっ!!」

ゼロに気を取られているバス ターの後方に向かってアルフはインフィニートの二連リニアキャノン、ミサイルを叩き込む。

その凄まじい火力に流石のバ スターも怯む。

「ちぃ…まとめて沈めてやる ぜ!!」

ガンランチャーと収束ライフ ルを合体させ、インパルス狙撃ライフルで2機に向かって狙撃する。

「「ちっっ!!」」

ムウとアルフは舌打ちしなが ら、攻撃をかわし、散開する。

バスターがゼロとインフィ ニート相手に回り、デュエルとブリッツがストライク、ルシファーに迫る。

「足付きはガモフに任せる!  ニコル、お前は黒い奴を!」

「了解!!」

デュエルがストライクに、ブ リッツがルシファーに迫る。

接近してくるデュエルに向 かってビームライフルを放つ。

「ストライクって言った なぁ!!」

その攻撃を次々とかわし、 ビームサーベルを抜いて近接してくる。

「くっ!!」

シールドを掲げて斬り掛かっ てくるビームサーベルを受け止め、弾かれた拍子にビームライフルを放つが、意にも返さず再度突撃してくる。

「ここでやられてたまる かぁぁ!!」

叫びながらビームサーベルを 抜き、デュエルのビームサーベルを受け止める。

ビーム粒子が激しい火花を散 らす。

ルシファーはブリッツ相手に ビームライフルを放っていた。

だが、その攻撃は、動作が遅 く、ブリッツに尽くかわされる。

「……っ!」

照準がぶれ、ブリッツの姿も まるで分かれるようにぼやけ、はっきりと捉えられない。

だが、今はこれしか対処法は ない…近接戦に持ち込まれれば、こちらが不利だ。

 

 

入り乱れの戦闘の中を通り過 ぎ、ガモフの主砲が火を吹き、アークエンジェルに襲い掛かる。

「ランダム回避運動!」

船体を傾け、射線から逃れる と同時にゴッドフリートを展開する。

「ゴッドフリート照準…撃 てぇー!!」

反撃の攻撃は、ガモフの上部 をすり抜けていく。

だが、ガモフは正確に狙撃し てくる。

エネルギーがアークエンジェ ルの装甲を掠める。

「第6センサーアレイ、被 弾!」

「ラミネート装甲内温度上 昇! これでは、装甲排熱追いつきません!」

そうしている間にも次の攻撃 によって、アークエンジェルは激しく揺れる。

「装甲内温度、更に上 昇!!」

徐々にビームを吸するラミ ネート装甲も耐えられなくなってきている。

「あと2発も受けたらもたな いわ…!」

「MS、MAは何をしてい る!?」

こうなったら、展開中の友軍 機に敵戦艦を叩いてもらう他ない。

「各機、敵MSと交戦 中!!」

 

 

ビームサーベルによるぶつか り合いを続けるストライクとデュエル。

「手こずらせる!」

「ええい!!」

バスターはミサイルを2機の MAに向かって放ち、ゼロのガンバレル一基、インフィニートのミサイルパックが破壊された。

「ちぃぃ!!」

「くぅぅ!!」

回避し続ける2機を追撃す る。

「MA如きが、邪魔なんだ よ! 墜ちろ!!」

ルシファーはトリケロスの ビームをシールドで受け止めながらビームライフルを撃つ。

だが、対峙していたニコルは 奇妙な違和感を感じていた。

(おかしい…動きが鈍い?)
以前とは打って変わったように動きに覇気が見られない……

前回の時のような、こちらを 嘲笑うような動きがない。

「チャンス、ですか…」

どちらにしろ、相手の動きが 鈍いのなら、ここで墜とせる…そうなれば、こちらの有利は動かない。

ブリッツはビームを掻い潜 り、ルシファーに迫る。

 

「くっ…気付かれた……」

いい加減、向こうもこちらが 本調子ではないことに気がついたようだ。

今、懐に入り込まれれば、絶 対に反応が遅れる。

だが、ただでさえ高速で移動 しているブリッツの姿はぼやけ、照準が定まらない。

牽制するようにビームを放つ が、ブリッツはジリジリと近づいてくる。

そして…遂にルシファーの懐 に飛び込まれた。

トリケロスのビームサーベル を抜き、斬り掛ってくる。

ルシファーもビームサーベル で応戦しようとするが、反応が一瞬遅れ、トリケロスのビームサーベルが深く斬り込まれた寸でで受け止められた。

エネルギーがスパークし、そ の勢いに耐えられず、ルシファーは弾かれる。

刹那、ルシファーのPS装甲 がダウンする。

あの瞬間…ビームサーベルで 斬りつけられた瞬間に、内部もやられたのだ。

態勢の崩れたルシファーに向 かってブリッツはランサーダートを放つ。

ランサーダートが無防備のル シファーに向かってくる。

「……っ!」

コックピットに向かってくる ものだけをよけようと、機体を旋廻させる。

ランサーダートがルシファー の右腕、左肩とシールドに突き刺さる。

コックピットが串刺しになる のだけは避けられたが、その衝撃にコックピットは激しく揺れ、レイナは後頭部を打ち付けた。

 

 

ルシファーがブリッツにやら れるのをモニターで確認したキラは息を呑んだ。

「レイナ……」

まさか…という思いが駆け巡 る。

「レイナ! レイナ!!」

通信で呼び掛けるが…返事は 返ってこない。

慣性で漂うルシファー……

それが意味するものは……レ イナが操縦できないことを意味していた……

キラの脳裏に…自分を何度も 助けてくれたレイナの表情が浮かぶ……

ブリッツがトドメを刺そうと ルシファーに向かっていく。

 

―――――やらせは、しな い……!

 

刹那、キラの中で何かが弾け た。

振り下ろされるデュエルの サーベルの太刀筋が…動きが……全てがスローモーションのように映る。

デュエルの動き、ストライク のエンジン音、計器、拡散するビームの粒子の軌跡…全てがクリアに感じられる。

振り向いたストライクは、悠 々とデュエルの攻撃をかわす。

「何っ!?」

イザークが驚く間もなく、後 ろに回り込んだストライクはデュエルの脇腹目掛けてビームサーベルを振り下ろす。

機体に火花が散ると同時に、 ペダルを踏み込み、スラスターとバーニアを噴射して、デュエルを引き離して、一直線にルシファーの方へ向かっていく。

「くっ…!」

イザークは歯噛みしながら、 離れていくストライク目掛けてビームライフルを連射するが、その攻撃を、まるで後ろに眼がついているように次々とかわし切る。

「かわしたっ……!?」

あまりに異常な動きにイザー クは驚愕する。

 

 

加速し続け、ストライクは一 気にブリッツに迫る。

「やめろぉぉぉぉっっ!!」

ストライクに気付いたブリッ ツは慌てて回避行動に移るが、それすらも予測していたようにキラの反応は早かった。

ストライクの膝蹴りがブリッ ツを弾き飛ばす。

「うわぁぁぁっっ!!」

バランスを崩し、ブリッツは 遥かに吹き飛ばされる。

その時、死角から追い縋って きたデュエルがビームサーベルを振り被ってきた。

「もらったぁ!!」

だが、キラは素早く切り替 え、ビームサーベルを捨て、腰部のアーマーシュナイダーを抜き取り、先程のデュエルの被弾箇所目掛けて、正確に突きつける。

アーマーシュナイダーがデュ エルの装甲を貫き、激しいスパークが機体を駆け巡った。

その余波がコックピットにま で伝わる。

「ぐっ…うわぁぁ!!」

正面モニターが火を噴き、 デュエルは慣性に従って弾かれる。

沈黙したデュエルをブリッツ が受け止める。

「イザーク! イザーク!  大丈夫ですか!?」

ニコルは大慌てで通信を送る が、返事が返ってこない。

「ディアッカ!」

ニコルはMA2機と交戦して いるディアッカを呼ぶ。

「ニコル、どうした…!?」

「イザークが……」

その時になって、デュエルか らイザークの呻き声が聞こえてきた。

《痛い…いたい……いた いぃぃ………》

ただならぬ様子にディアッカ も呆然となる。

「ディアッカ、引き上げで す! 敵艦隊が来る!!」

タイムリミットの10分が過 ぎた……こちらに向かってくる地球軍艦艇の光がここからでも確認できる。

あの大軍を相手に、被弾した デュエルとバッテリーの切れ掛けた2機で相手にするなど、自殺行為でしかない。

「くそっ!」

ディアッカは毒づき、ガンラ ンチャーと収束砲をぶっ放し、ゼロとインフィニートを牽制し、デュエルを抱えて後退するブリッツの後を追った。

出撃した時は…誰が10分後 にこんな結末を予想しただろうか……と、ニコルは苦く思った。

 

 

 

「………何、今の?」

ブリッツの攻撃で、一瞬意識 が飛びかけたが、すぐに覚醒させ、意識を取り戻したレイナが見たのは異様な光景であった。

ブリッツとデュエル……2機 のGをあしらうストライクのあの異常な動き……

今までと明らかに違う。

そして…いくら、コーディネ イターとはいえ、あんな動きが可能なのか………?

アレは一体……

《レイナ! レイナ!》

その時になって、レイナは通 信機からキラの叫び声が聞こえてきたのに気付いた。

「キラ……」

《大丈夫?》

不安そうに尋ねる声は…間違 いなく何時もの彼のものだ。

「……ええ」

静かに答え、ルシファーを動 かそうとするが、機体ダメージが大き過ぎて動けないようだ。

そんな様子に気付いたキラは ストライクでルシファーの腕を取り、アークエンジェルに帰還する。

ストライクとルシファーは 揃ってアークエンジェルの甲板に降り立ち、キラは大きく安堵の溜め息をついて、一度眼を閉じた。

《二人とも…大丈夫か!?》

《奴ら引き上げていったぜ、 よくやったな、坊主!》

その時、アルフとムウから通 信が入り、キラは慌てて眼を開けた。

まるで夢から覚めたような錯 覚に陥り、キラはキョロキョロと周囲を見渡す。

《………?》

《坊主…お前……》

モニターの向こうで、アルフ が訝しげな表情を浮かべ、ムウが神妙な口調で言う。

「え……?」

キラが眼を瞬かせると、ムウ とアルフは苦笑を浮かべる。

《いや…凄い奴だよ、お前 は》

キラはやや呆然としたまま、 その賛辞を受け止めた。

 

そして…地球の方角から大艦 隊が近づいて来るのが視認できた。

その威容は、満身創痍のアー クエンジェルクルーの心に深い安心感を与えた。

ようやく…アークエンジェル は友軍と合流できたのだ。

 

 

 

 

《次回予告》

 

 

生き残るために戦わなければ ならなかった……

ただそれだけだった……

 

だが…少女は己が戦う理由を 見つけてしまう。

 

そして今、少女は己の意志で 戦場に舞う…己自身を求めて………

 

次回、「選択」

 

新たな戦場に飛べ、ガンダ ム。

 


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