ヴェサリウスが2隻のローラシア級と合流を果たし、ラクスらの引渡しを行っていた。

ラクスはアスランに連れられ て、格納庫のランチへとやって来る。

「残念ですわね…せっかくお 会いできたのに、もうお別れだなんて……」

「プラントでは、皆心配して いますよ」

格納庫では、ヴェサリウス兵 士一同が敬礼でラクスを出迎え、ランチの搭乗口には既にメイアもいる。

「クルーゼ隊長にも、色々と お世話をかけました」

ラクスがにこやかにクルーゼ に軽く頭を下げると、恭しく一礼した。

「お身柄はラコーニが責任を 持ってお送りするとの事です」

「ヴェサリウスは追悼式典に は戻られますの?」

「さあ…それは解かりかねま す」

「戦果も重要な事でしょう が、犠牲になる者の事もどうか、お忘れなきよう……」

軽くいなしたクルーゼに、ラ クスは冷ややかに呟くが、クルーゼは薄く笑い、顎を引いた。

「…肝に銘じましょう」

ラクスはジッと、仮面の奥の 真意を推し量るように見詰める。

その…老成した政治家のよう にクルーゼと渡り合うラクスの姿に、アスランは動揺する。

だが、すぐに何時もの穏やか な表情を浮かべ、アスラン…そして傍らのリンを見やる。

「…何と戦わねばならないの か……戦争は難しいですわね」

寂しげに呟くラクスに、アス ランは答えられず、リンは口を噤んだ。

「では…またお会いできる日 を楽しみにしておりますわ」

ラクスは最後に微笑み、一礼 するとランチに搭乗し、メイアもそれに続いた。

 

ヴェサリウスからランチが発 進し、並行するローラシア級に向かっていく。

その様子を、アスランはク ルーゼと共に見詰めていた。

「何と戦わねば、か……」

不意に語り出した上官に、ア スランは振り向く。

「イザークの事は聞いたか な」

その瞬間、アスランは苦いも のを感じ、顔を俯かせる。

先程、ガモフがアークエン ジェルに攻撃を仕掛けた…だが、作戦は失敗に終わり、イザークはその戦闘で負傷したというのだ。

「ストライク…撃たねば、次 に撃たれるのは君かもしれんぞ」

クルーゼが去りながら呟く と、アスランは身を固くし、その場に立ち尽くした。

 

 

機動戦士ガンダムSEED 

TWIN DESTINY OF  DARKNESS

PHASE-12  選択

 

 

地球連合軍第8艦隊…知将ハ ルバートン率いる艦隊はゆっくりとアークエンジェルを護るように布陣し、旗艦であるメネラオスが近づいてくる。

「180度回頭、減速、相対 速度あわせ」
「しっかし、良いんですかね。メネラオスの横っ面なんかにつけて?」
「ハルバートン提督がこの艦を良くご覧になりたいでしょう。自らこちらにおいでになるというし」

ノイマンの冗談混じりの懸念 にマリューは微笑みながら言った。

普通はこちらから出向くもの だが、ハルバートンは自分が推進したこの艦に乗り込みたくて仕方ないのかもしれない。

これからの戦況を左右するも のとして、誰よりも『アークエンジェル級』とXナンバーの開発計画を強行に推進した…マリュ−の直属の上司とも言える人物だ。
「ちょっとお願い」

艦が慣性航行に移ると、マ リューは後を任せてブリッジを出た。

「艦長」

その後をナタルが追い、2人 はエレベーターの中で向かい合い、扉が閉まると、ナタルが切り出した。

「『ストライク』と『ルシ ファー』のこと、どうされるおつもりですか?」

「どう、とは?」

解からずに聞き返すと、ナタ ルはじれったげに言う。

「あの性能だからこそ…彼ら が乗ったからこそ、我々がここまで来られたのだという事は、この艦の誰もが解かっていることです」

ナタルの意図を悟り、マ リューは硬質な眼で見やるが、ナタルはそんなマリューを見返し尋ねる。

「…彼らも降ろすのです か?」
最初は、二人に機密を触らせることさえ嫌悪感を見せたのに、割り切りがよすぎるのではないか、とマリューは考えてしまう。

エレベーターが開くと、マ リューは先に出る。

「艦長!」

そんなマリューにナタルが追 い縋る。

「……貴方の言いたいことは 解かるわ、ナタル。でも、キラ君やレイナさんは軍の人間ではないわ」

「ですが! 彼らの力は貴重 です。それをみすみす……」

なおも食い下がるナタルにマ リューも溜め息をつく。

「力があろうと、私達に志願 を強制することはできないでしょう?」

マリューが正論で問い返す と、ナタルは押し黙るが、不満げな眼を浮かべたままであった。

 

 

「艦隊と合流したってのに、 なんでこんなに急がなきゃならないんです!」

ゼロのコックピットから顔を 出し、叫ぶとムウが驚いて態勢を崩す。

「不安なんだよ、壊れたまま じゃ!」

だが、ムウは憮然として答え る。

整備班は、被弾したゼロとル シファーの修理におわれていた。インフィニートは装備交換だけで済むが、ルシファーは損傷が大きく、キラやアルフも否応なしに駆り出されていた。

艦隊と合流するれば、少なく ともゆっくりできると思っていたが、そうもいかないらしい。

これだけの規模の艦隊に手出 ししても仕方ないし、仮に攻撃を仕掛けられても他に使える機体はいくらでもあるはずだ。

「第8艦隊つったって、パイ ロットはひよっこ揃いさ。何かあった時にゃ、やっぱ大尉や中尉が出られねえとな」

マードックが苦笑を浮かべて 言うと、ムウは誇らしげに胸を張る。

キラはやや呆れ返るが、同時 に改めて納得する。

ムウやアルフ程のパイロット がそうそういるわけでもない…先の戦闘でもMAでXナンバーを抑え込んだのだ。

「しかし、彼女の方は大丈夫 だったんですかね…なんか、以前と動きが違ってたし」

アルフが二人のもとにまで上 がって口を開くと、ムウも苦い顔で考え込む。

「まあ、確かにな…」

最初から彼女と戦ってきたム ウもあの時のルシファーの動きには若干疑問を持っていた。

キラも考え込むが、レイナは 着艦するなり、何でもないと部屋へと戻り、様子を窺うことはできなかった。

「……そう言えば、ストライ クは? 本当にあのままでいいんですか?」

キラが尋ねると、ムウ達は渋 い顔を示す。

ストライクだけではない、レ イナがカスタマイズしたルシファーのOSもとてもではないが、ナチュラルに扱い切れる代物ではない…だが、それを初期化するのに躊躇いを見せている。

「う〜ん…わかっちゃいるん だけどね。わざわざ元に戻して、スペック下げるっつーのも何かこう……」

「できれば……あのまま誰か が、って思っちゃいますよね」

上の方からの涼やかな声に一 同が驚き、見上げると、マリューがゆっくりと降りてきていた。

「艦長?」

「あらら、こんなむさ苦しい とこへ」

マリューは彼らに軽く頷く と、キラを見やる。

「ごめんなさいね、ちょっと 話せる?」

「え…?」

思わず尻込みするキラにマ リューは苦笑する。

「そんなに疑わないで…ま あ、無理もないとは思うけど」

キラとマリューは連れ立ち、 ストライクの前に立った。

「私自身とても余裕がなく て…これまで貴方とゆっくり話す機会も作れなかったわね」

「はあ……」

キラ僅かに警戒するが、マ リューはそんな彼に向かって微笑む。

「その……一度、ちゃんとお 礼を言っておきたかったのよ」

「え……?」

「貴方やレイナさんには…… 本当に大変な思いをさせたわ。ここまでありがとう」

マリュ−は深々と頭を下げ、 思いもかけぬことにキラは動転してしまう。

「いや、そんな、艦長……」

赤くなってしどろもどろとし ていると、マリューがニッコリと笑い掛けてきた。

「口には出さなくても、皆貴 方達には感謝しているのよ。こんな状況だから、地球に降りても大変でしょうけど……頑張って」

マリューが差し出した片手を キラは戸惑いながら、握り返した。

マリュー手は……暖かかっ た。

 

 

メネラオスから発進した連絡 ランチがアークエンジェルに収納され、1人の長身の将官が降りてきた。

その人物は、格納庫に立つマ リュー達を見つけた瞬間、喜色の声を上げる。

「いやーヘリオポリス崩壊の 知らせを受けた時はもうダメかと思ったぞ。それがここで、君達と会えるとは……」

気さくに話し掛けてきたこの 人物こそ、ハルバートン提督…月に駐留する第8艦隊司令官。マリュー達がいっせいに敬礼した。

「ありがとうございます。お 久しぶりです、閣下!」

ハルバートンも軽く答え返 し、周囲を見渡す。

「先も戦闘中との報告を受け て気をもんだ…大丈夫か?」

それに応えるようにナタル達 が前に出る。

「ナタル=バジルールであり ます」
「第7機動艦隊所属、ムウ=ラ=フラガであります」

「アルフォンス=クオルドで あります」

「おお、君らがいてくれて幸 いだった」

ハルバートンがムウとアルフ に労いの言葉をかけ、握手を交わす。

「いえ、さして役にも立ちま せんで」

「もったいない言葉です、提 督」

士官達との挨拶がすむと、今 度は後ろの方で整列しているキラ達に眼を向けた。

「ああ、彼らがそうかね」

キラ達はハルバートンがこっ ちにやってくるのを見て、慌てて背筋を伸ばした。

「はい、繰艦を手伝ってくれ たヘリオポリスの学生達です」

マリューがどこか誇らしげに 紹介してくれるのを、彼らはくすぐったい気持ちで聞き、彼ら1人1人を見詰めるハルバートンの眼は優しかった。

「君達のご家族の消息も確認 してきたぞ。皆さん、ご無事だ」

皆の顔がパッと明るくなる… 何より嬉しい朗報であった。

「とんでもない状況の中、よ く頑張ってくれたな。私からも礼を言う」

「閣下、お時間があま り……」

その時、ハルバートンの後ろ に控えていた副官のホフマンが声を掛ける。

「うむ…後で君達とも、ゆっ くりと話をしたいものだな」

提督と聞くと、とても偉くて 怖い…ナタルより堅苦しいイメージがあったが、このハルバートンは意外な印象をキラ達に与えていた。だが、この人のためにマリュー達が働いているのだと思 うと、何故か納得できてしまう。

ハルバートンはマリュー達と 共に去っていった。

その後姿を見送りながら、キ ラもまた、あの人と話がしてみたいと思った……そんな機会はないかもしれないが……

 

 

 

地球軌道上に向かって航行す るヴェサリウス、その後方には2隻のローラシア級が随行している。 

「ツィーグラー、ガモフ合流 しました」

アデスが報告すると、クルー ゼは念を押した。
「発見されてはいないな」

「あの位置なら大丈夫でしょ う…艦隊は大分降りていますから」

クルーゼは顎に手をやり、小 さく息をついた。

「月本部へ向かうものと思っ ていたが……奴ら、足付きをそのまま地球へ降ろすつもりとはな……」

集結し、その後取った進路か ら推測した結論に、アデスが確認をするように言う。

「降下目標はアラスカです か」

地球連合の最重要拠点『アラ スカ』、アークエンジェルは恐らく、大気圏突入後、真っ直ぐに最高司令部のあるユーコン・デルタを目指すものと思われた。

そこへ入り込まれたら、もは や迂闊に手は出せない。

「なんとかこちらの庭にいる うちに沈めたいものだが……どうかな?」

「ツィーグラーにジンが6 機、こちらにイージスやヴァルキリーを含め6機、ガモフはバスターとブリッツも出られますから……」

アデスの上げる戦力と相手を 頭の中で天秤にかけ、フッと底冷えのする笑みを浮かべる。

「知将ハルバートン……そろ そろ退場してもらおうか」

 

 

その頃…アスランは格納庫前 のブリーフィングルームに向かっていた。

先のラコーニ隊が、補充パイ ロットを乗せてきたらしい。

それの確認のために、ブリー フィングルームへと入ると、そこに先客がいた。

「……アスラン」

黒の軍服を纏ったリン……ア スランにとってはやや苦手な部分がある。

でもまあ、突っかかってこな い分、イザークよりはマシだろう。

その時、格納庫側へと続くド アが開き、一人のパイロットが入ってきた。

アスランと同じ、赤いパイ ロットスーツを着た、黒髪をショートにし、黒い瞳を持った少女だった。

「あ……初めまして、本日付 で、クルーゼ隊配属となったリフェーラ=シリウスです!」

敬礼をする少女。

「ああ、よろしく。俺はアス ラン=ザラだ…君は、アカデミーの出身か?」

「あ…は、はい……」

ザフトには、階級が無い変わ りに、しばしば軍服の色で階級を表す傾向がある。

クルーゼのように一部隊を任 せられる者や、リンやメイアのように特務隊所属のメンバーには、ある程度の色の自由が決められ、次いでアスラン達のように赤、一般の緑が振り分けられてい る。

「…あ、私のことは、リーラ で結構です。ザラ先輩」

「解かった…だが、俺のこと もアスランでいい。こっちが……」

アスランは振り返るが、リン は先程からリーラを凝視したままだ。

「…おい、リン?」

「……リン=システィ」

不審に思ったアスランが声を 掛けると、リンはぶっきらぼうに答え返す。

「あ…よろしくお願いしま す」

リンに向かって敬礼する様を 見詰めながら、リンは奇妙な感覚にとらわれていた。

(……こいつは…まさか)

思考の中に沈んでいると、ア スランとリーラが格納庫の方を見て話している。

「アレが君の機体か……?」

イージスの横に並ぶ灰色の機 体。

「はい…ZGMF−X05A 『リベレーション』…奪取された連合のMSのデータから開発された試作機です」

「凄いな…もう、そこまで開 発が進んでいるのか」

アスラン達が奪取した4機の Xナンバーのデータを基に、今は本国では新型機の開発が行われている。

このリベレーションもまた、 そうした過程で開発された。

PS装甲とコンパクト化され たビーム兵器を標準装備し、その形も連合のGと共通する部分が多い。

「…ちょっといい?」

その時、今まで黙っていたリ ンがリーラに声を掛けた。

「少し…付き合って」

「……は、はい」

リンの促しに頷き、リーラは 後を追ってブリーフィングルームを後にする。

そんな様子を、アスランは不 審げに見やった。

 

人気のない区画まで来る と……リンは突然、リーラの肩を掴んで壁に押し付けた。

「な……!?」

驚く間もなく…リンは、睨む ような視線を向けている。

「貴方……マシンチルドレ ン?」

リンの問い掛けに、リーラは 眼をパチクリとさせたまま、訳が解からないといった顔をしている。

「いや……私の勘違いね、忘 れて」

リンはそれだけ呟くと、その 場から去っていく。

(そう……マシンチルドレン は…もう、私と姉さんしか……存在しないはず)

 

 

 

アークエンジェルの艦長室に て、ハルバートンがデスクにつき、その傍らにホフマンが控え、マリューとナタル、ムウ、アルフの4人が起立している。

「しかしまあ、この艦一つと G2機…うち一機は破棄が決定していたものまで持ち出すためにヘリオポリスを崩壊させ、アルテミスまでも壊滅させるとはな……」

いきなりのホフマン大佐の苦 々しい口調に、マリューは返す言葉も無く、押し黙る。

だが、ハルバートンが擁護の 言葉を口にする。

「だが、彼女らが『ストライ ク』、『ルシファー』とこの艦だけでも守った事は、いずれ必ず我ら地球軍の利となる」

「アラスカはそうは思ってい ないようですが?」
「フン! 奴らに宇宙での戦いの何が解る!」

冷ややかに切り返すホフマン に、ハルバートンは侮るように鼻を鳴らす。

「ラミアス大尉は私の意志を 理解してくれていたのだ。問題にせねばならぬ事は何も無い!」

きっぱりと言い切り、温かい 眼で見るハルバートンに、マリューは緊張と罪悪感が緩み、これまでの苦難が一瞬に報われたような気がした。

「では、このコーディネイ ターの子供の件は? それも不問ですかな?」

ホフマンがなおも含むところ のある調子で尋ねてきた。

マリューは一歩も引かぬ覚悟 で決然と口を開いた。

「キラ=ヤマトは、友人達を 護りたい…ただその一心でストライクに乗ってくれたのです。彼女…レイナ=クズハは、自分が生き残るために戦ってくれましたが…それでも、彼らの力なく ば、ここまで辿り着くことはできなかったでしょう……ですが、やはり、戦うということに心を痛めています……彼らには、信頼で応えるべきだと、私は考えま す」

「しかし、このまま解放する わけには……」

ホフマンの反論に同調するよ うに、ナタルが一歩前に出た。

「僭越ですが、私はホフマン 大佐と同じ考えです」

マリュー、ムウ、アルフの3 人は不意打ちを喰らったように彼女を見やる。

「彼らの能力には、眼を見張 るものがあります…それに、Gの機密を知り尽くした彼らを、このまま降ろしては……」

「フン! 既にザフトに4機 渡っているのだ…今更機密もない」

それが口実に過ぎず、ハル バートンがあっさりと指摘すると、ナタルは一瞬口を噤むが、すぐさま継ぐ。

「しかし! 彼らの力は貴重 です! できれば、このまま我が軍の力とすべきと、私は……」

「だが、ラミアス大尉の話だ と、彼らにその意志は無さそうだが……」

「二人の内、キラ=ヤマトの 両親はナチュラルで、ヘリオポリス崩壊後に脱出し、今は地球にいます。それを軍が保護すれば……」

淡々と話し続けるナタルにマ リュー達は戦慄する。

要は、キラの場合は両親を人 質にして、戦いを無理強いするというものだ…マリューは鳥肌が立つ。

だが、そんなナタルに向かっ てハルバートンはデスクに力強く拳を打ち付けて、黙らせた。

「ふざけたことを言うな!  そんな兵が何の役に立つ!」

今までの気さくな態度と打っ て変わった激昂にナタルは怯む。

だが、尚反論する。

「で、では…彼女は……こち らも解放せよと! 破棄が決定されていたGを扱える唯一のパイロットですよ!?」

マリューらも俯く。

破棄が決定していた、ナチュ ラルでは操作が困難であったGを簡単に操り、尚且つ、作戦立案能力や、戦闘における判断や洞察力……

どれもが魅力的には映る。

しかし、彼女は……

「その少女はあくまで自分の ために戦っていたのだろう…軍に志願する意志など無いのだろう?…それとも、彼のように両親を拘束してとでも言うのかね?」
キラの時のように、即座に怒りを見せはしないが、ハルバートンは冷たい視線を向ける。

ナタルも萎縮し、もし、彼女 が拘束されるようなことになったら……と、マリューは不安を感じる。

何かと手厳しい少女ではある が、それでも自分達と共に戦ってきてくれたのだ。

何故そこまでして戦ってくれ るのかは解からない……死にたくないからだと彼女は言った。

だが、MSに乗って自分で戦 う方がずっと死の確率は高くなるというのに……

ここまで来るのにも、彼女の 判断に助けられたことが多々あった…マリューは彼女の表には出さない気遣いのようなものに感謝していた。

ナタルも迂闊に口は出せな い……

ヘリオポリスで普通の学生生活を送っていたキラとは違い、レイナ=クズハという少女は得体の知れない部分がある。

MSを動かせ…常に冷静に振 る舞う……だが、それすらも不思議に思ったことはなかった。

彼女なら…何でもできそうな 気がしたからだ。

謎めいた存在で……謎めいた 言葉を呟き……

『何故』という単語が思いつ かなかった。

「それともう一つ…この少女 の詳細だけが解からなかった」

マリュー達は眼を見開く。

「オーブに問い合わせたとこ ろ、こういう返事が返ってきた……『レイナ=クズハ』という人物のIDは、オーブには無い、とな」

それが意味するところは…… 彼女はオーブの人間ではないということ。

「でしたらなおさら! 我が 軍に!!」

「さっきも言ったはずだ…意 志のない兵など、役には立たん」

変わらず、拒否を示したこと にマリューは少なからず安堵した。

なんだかんだで、マリューも あの少女のことが嫌いではない…だからこそ、軍に属させたくはなかった。

「過去のことはもういい…問 題はこれからだ……」

ハルバートンは立ち上がり、 またトーンの違う厳粛な声に、マリュー達は表情を窺う。

「この後、アークエンジェル は現状の人員編成のまま、アラスカ本部に降りてもらわねばならん」

沈痛な面持ちで告げるハル バートンに息を止める。

「どうにもならん、補充要員 を乗せた先遣隊は沈んだ。今の我々には、もう貴艦に割ける人員はないのだ」

ホフマンが事務的に補足す る。

「だが! ヘリオポリスが崩 壊してしまった今、アークエンジェルとGはその全てのデータを持って、何としてもアラスカに降りてもらわねばならん」

「し、しかし我々には……」

ここまでやって来れたのも まったくの僥倖だ。この艦とGの重要性は理解しているが、だからこそ、ムウやアルフを除けば、ほとんど実戦経験のないマリュー達には荷が重過ぎるのではな いかと思う。

「なに、軌道離脱ポイントま では我々が護衛する。君らはそこから真っ直ぐ本部に降りればいいだけのことだ」

マリューの反論を、ホフマン があっさりと言い返す。

マリューは、ハルバートンの 表情を見て、言葉を呑みこむ。

「アレの開発を軌道にのせね ばならん…ザフトは次々と新しい機体を投入してくるというのに、馬鹿な連中は利権がらみで、役にも立たん事ばかりに予算をつぎ込んでおる! 奴らは戦場で どれだけの兵が死んでいるか、数字でしか知らん!!」

ハルバートンの憤りがマ リュー達にも伝わる。

ザフトとの戦闘で、抵抗もで きずにし沈んでいったMAや戦艦の最期が蘇り、マリューは静かに決意を込めて、敬礼した。

「解かりました…閣下のお 心、しかとアラスカへ届けます!」

マリューに続くようにムウと アルフも敬礼する。

「アーマー乗りの生き残りと しては、お断りできませんな」

「右に同じくです…必ずや、 閣下のお心を実現させます」

ハルバートンは深い眼で見詰 め、頭を下げた。

「頼むぞ……」

 


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