天使は神のつかい……それはよくある御伽噺………

いや…あるいは天使こそが神なのかもしれない………

 

 

 

でも…天使は世界に牙を向いた………それは滅びの降臨…………

そして……翼は折れた………

 

 

――――――無限の罪深き堕天使によって………

 

 

 

天から降臨する神の時代は終わりを告げた……そして――――

――――世界は次なる神を求める……

 

 

 

 

――――――私は出逢う…神を育むための白き力を担う者と……… 

そして私は……私は…

 

 

 

――――――この世界に…何を探すのだろう…………

 

 

 

機動戦士ガンダムSEED ETERNAL SPIRITS

PHASE-01   流転の邂逅

 

 

多くの人々が行き交い、活気に満ちる港……強化ガラスの向こう側では、民間シャトル が幾つも待機、または港より飛び立っている。

月面都市:コペルニクス。

月表側に存在する都市郡の一つ……月は宇宙開拓の初頭、真っ先に人々の望む場所に なった。旧世紀より繰り返されてきた月面への到達事業。そして建設された様々な月面都市。そこは、新たな宇宙開拓を抱かせる場所であった。

そう……人々の未来が、まだ夢と希望に溢れていた頃の残照。だが、人は所詮、本能を 捨てることはできなかった。

母なる大地から遠く旅立つことに恐れを抱いたのだ。

結果、地球と宇宙に生きる人々の間での対立が起こるのは必然であったかもしれない。

この月面都市郡もそういった歴史の暗部を抱えながら今の時代まで来た。だが、人々の 顔は明るい。

月面は元々地球諸国家の占領地に近い。月面施設の3分の1が軍事施設となっているか らだ。そして、軍に対しての資源を納めるという重税を課されながらも、月面での反乱が起こることはなかった。

だが、C.E.71のAngel Warsによって軍事施設のなかでも随一を誇っていたプトレマイオスクレーターが消滅し、地球からの圧制が弱まった。無論、月に生きる者にとっては同じ月 面が攻撃されたのだから気が気ではなかっただろうが、その後に終戦となり、連合による重税がなくなった今、人々は解放感に満ちていた。

月面都市もまた新たな発展を目指し、宇宙港を積極的に開放し、都市の発展を担うため に地球や各コロニーとの貿易を行っている。

そして、この宇宙港でも地球やプラントを含めたコロニーへの航行手段の一つとして民 間のシャトルが幾つも飛び交っている。

多くの人々で賑わうなかで飛び立つシャトルを見渡せる展望デッキを兼ねた港内で二人 の男女が向かい合うように佇んでいた。

「しかし、一人で大丈夫かカ スミ?」

「大丈夫だよ、心配性だな、 お兄ちゃんは」

不安そうに覗き込む少年に一回り小さげな女の子が苦笑を浮かべる。

彼らは二人の兄妹だった。どこにでもいる極普通の……そして、妹はこれからシャトル に乗り、地球へと向かう。

「本当なら俺も行きたかった んだがな……」

「大丈夫だって。それに、次 は一緒に行けるよ」

励ますように笑顔を浮かべる。シャトルの搭乗チケットはまだまだ数が少なく、二人が 一緒に乗れることはできない。

そこで、妹だけが地球へと降下することになった。

【間もなく、492便のシャ トルの搭乗が始まります。搭乗される方はゲートへお急ぎください】

港内に流れるアナウンスに二人は顔を上げ、少女は今一度心配そうにしている兄に微笑 む。

「それじゃ行ってくるね、お 兄ちゃん」

「ああ。親父とお袋の故郷、 しっかり見てこい」

「うん、じゃあね」

手を振り、少女は駆け出す。

そのまま一度も振り返らず、少女の姿は搭乗ゲートへと消えていく。だが、その背中が 何故か遠くに感じた。

不安を超えた恐怖にも似たざわめきが胸中に走るも、それも過保護すぎると自身に言い 聞かせ、少年は肩を竦めて妹の乗るシャトルが発進する様を見届けようと展望デッキへと移動する。

大勢の見送り人が佇むなかに混じり、少年は飛び立っているシャトルを見詰める。

やがて、妹が乗っているはずのシャトルが搭乗ゲートから離脱し、発進用のカタパルト にスタンバイする。

加速ブースターを使用し、打ち出されるシャトル…火を噴きながら飛び立ったシャトル は次の瞬間……炎に包まれた――――――

 

 

―――――轟く爆音

―――――照り輝く炎

―――――砕け散る破片

―――――悲鳴

 

 

パニックになる港…ただ……少年は強化ガラスの前に硬直したように佇んだままだっ た。

ガラスに走る衝撃音…砕け散った破片と吹き飛んだ月の大地の破片がガラスに当たった のか、それとも爆発による振動か……それを判別することもできなかった。

聞こえる悲鳴も誰のものか解からない……脳裏によぎるのはシャトルに乗っていた妹の 姿……最期の別れ顔だけが動かない思考のなかで何度も反芻していた。

その瞳から……冷たいのか温かいのかさえ解からないものが零れ落ちた。

 

 

 

―――――――ブラッディルナ事件

 

 

 

 

C.E.72.12.31――――

民間人死者数百人を出したこの月面のシャトル事故は、人々のなかに忌まわしき記憶と して刻まれた。

生存者は0……爆発による閃光が月面を血のように真っ赤に染め上げた。

この日…少年:マコト=ノイアールディは最愛の家族を喪った………

 

 

 

 

 

それが………

新たな運命の幕開けとも知らず……

 

 

歯車は回る―――

クルクル…クルクル……と―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人類が宇宙に生存圏を拡げ、遺伝子操作を施された人間:コーディネイターの誕生とナ チュラルによる確執によって勃発したC.E.70の戦争。

 

――――――Angel Wars

 

遺伝子操作を施されたゆえに高い能力を持ったコーディネイターと旧来の人類によるナ チュラルとの確執が溝を拡げ、それはやがて大きな歪として具現化する。

C.E.70.2.14に起こったプラントコロニー崩壊事件:血のバレンタインを発 端に地球諸国家を構成国とする地球連合軍とプラントからなるザフト軍の間で戦争が勃発した。

物量で遥に上回る地球連合軍による勝利はザフト軍の開発した新型機動兵器:MSに よって覆される。

これにより戦争は膠着状態に陥り、更なる混迷を招く……大戦中期、連合軍もまたMS 開発に成功し、それを大量投入することによって戦争は一気に流動への道を辿ることとなる。

地球上に展開していたザフト軍は次々と駆逐され、宇宙への撤退を余儀なくされ、連合 軍に属さない国家は次々と隷従されていった。

そして遂に連合軍によるプラント攻略作戦:オペレーション・エルピスが発動。後に第 2次ヤキン・ドゥーエ攻防戦と呼ばれることになるこの戦いは連合軍の核とザフト軍のジェネシスという2つの大量破壊兵器を用いた殲滅戦へと切り替わるも、 両軍より離反した一部の者達により戦いは誰もが予想しえなかった結末を迎えることになる。

 

 

―――――天使

 

 

神の使徒…そう人々の間で認識すべき姿をした者達の降臨。世界を終焉へと導こうとす る使徒:ディカスティスと名乗りし審判者の宣戦布告。

だが、それも両軍による統合軍と『GUNDAM』と呼ばれるMSを駆る者達との決戦 により、天使は散り、未来は再び人類の手に委ねられることになった。

同時に連合とザフト間の戦争も終結…停戦となり、地球諸国家を交えての終戦協定のた めの会談が設けられる。

この間にも様々な事象が歴史を刻む……大西洋連邦属国であった旧極東特別保護区と南 米がそれぞれ大日本帝国と南アメリカ合衆国として独立。またオーブをはじめとして中立国も主権を回復し、それら多くの国々を交えての一年半にも及ぶ協議を 経て、C.E.72.12.24にオーブ連合首長国にて終戦条約締結が行われる。

 

 

―――――EVE of the END of the WAR

 

 

そう呼ばれる日を迎え、先の戦争は初めて終わりを告げた。

人々は辛い時代が終わりを告げたことを喜んだ。

だが―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――だが……

―――――人は……果たして本当にそう望んでいるのだろうか………

―――――人は……決して捨て去ることはできないというのに………

 

 

 

 

 

先へ…見果てぬ先へ……己が望む欲望を……果て無き闇を………決して―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

C.E.74――――

先の大戦終結より2年半の歳月が流れていた。

辛い時代が終わりを告げ、人々は静かな刻を過ごせる日々を喜び、謳歌していた。

だが…時代の流れは新たな嵐を呼び寄せようとしていた。

月面衛星軌道上――――静寂が支配するその場所へゆっくりと向かう一隻の作業艦。

ジャンク屋組合のマーキングを施され、船外に作業アームを装着した小型艦の操縦席で は、一人の少年が操縦していた。

ツンツンとした黒髪を靡かせ、意思の込められた…それでいて陰りを帯びる漆黒の瞳を 持つ少年。

 

――――――マコト=ノイアールディ

 

トラブル・コントラクター:通称何でも屋として活動する少年だ。先の大戦終結後も、 やはり溢れる難民などの補償が全てなされた訳ではない。

なかにはこうして裏家業に身を委ねる者達も少なく、マコトのように天涯孤独の孤児も 多いためにマコトがそうした稼業で働くのも不思議ではないが、それでもマコトの技量はズバ抜けていた。

特にメカの扱いに関してはそこらのシステムエンジニアすら舌を巻くほどの知識を持ち あわせている。戦後の混乱において機械知識に長けているというのはそれだけで強みであり、それ故にこの若さで生計を立てられているのである。

しかも職業柄、マコトはMSの操縦センスにおいても高いものを持っていた…無論、そ れは作業機として見た場合である。流石に戦闘となるとプロには敵わない。

操縦を行いながら、周辺に漂うデブリに気を配りつつマコトは思考を巡らす。

「この辺…だよな? 指定の あったポイントは……」

計器類を操作し、座標ポイントを割り出しながらマコトは数日前に飛び込んできた依頼 内容を思い出していた。

依頼は指定した座標に到着した時に詳細を話すということでまずは呼び出された。それ だけなら断るところだが、既に前金が振り込まれたために無視するわけにはいかなくなった。

これが単なる呼び出しだけなら構わないが、前金まで振り込まれて無視したとあっては それは噂となってあっという間に広がり、今後の活動にも響く。

この世界、信用と信頼がなにより大切だ……背に腹は変えられない。

「それに、依頼料も破格だっ たしな」

どこか自身を嗜めるように溜め息とともに吐き出す。

提示された額は通常の仕事の倍近い金額だった。生活も楽ではない以上、多少のリスク は仕方ないと渋々思いつつレーダーに眼を向ける。

反応はない…手元の時計を見やり、時間を確認しつつ首を傾げる。

「おかしいな…もうそろそろ 約束の時間なんだがな」

同封されていた内容の指定された時間はそろそろだが、周囲を漂うのはデブリや岩塊の み。依頼人らしきものは影も形も見えない。

悪戯にしては前金も振り込むのはどう考えてもおかしい。それに、この周囲は通常航行 ルートからは外れた場所にある。

先の大戦の初期、連合軍とザフト軍のグリマルディ戦線が繰り広げられた場所が近いだ けにこの周囲は未だ不安定な場所だ。

それに……この周辺宙域はここ最近特に危険宙域にされている。月面裏側に近いこの宙 域…未だ開拓がほとんど成されていない月裏側は人類にとって未知の地。おまけにここ数ヶ月の間で月面の表裏境界線付近では行方不明事件が相次いでいる。

最初はジャンク屋艦に続き民間艦…さらには調査に赴いた軍の艦艇までも行方を断って いる。原因も詳細も不明なために事態がハッキリするまでは立ち入り禁止宙域に認定され、近々軍による調査が行われるはずだが、ここ最近の世界情勢からする と遅延するかもしれない。

「どうするか……」

このまま無為にこの宙域に留まるのは流石に得策ではない。取り敢えず、約束の時間ま で待ってから決めようと思い、マコトはシートに身を預けた瞬間、レーダーが警告音を轟かせた。

「な、何だっ?」

慌ててコンソールを叩き、状況を確認する。

レーダーに表示される熱分布…だがそれは、通常のものではない。それは、戦闘の熱分 布だった。

「こんなところで戦闘 か!?」

いったい誰と誰が戦闘を行っているのか……どちらにしろ、戦闘に巻き込まれたら作業 艦でしかないこの艦ではあっという間に沈められてしまう。

急ぎ宙域より離脱をかけようとするが、その時別の反応が飛び込んできた。

「何だ…救難信号?」

傍受したのはSOSの信号…しかも、戦闘らしき熱分布の検出された宙域から程近い。 自分と同じようにこの周辺で作業をしていた誰かが巻き込まれたのだろうか……無論、それは気の毒だが、ここで救助に向かっても自分の艦では同じ運命を辿る 可能性が高い。ここは見て見ぬ振りをして逃げるのが賢い選択であろうが……マコトという少年はその決断ができるような性格ではなかった。

「くそっ」

半ば自棄になったように毒づき、マコトは操縦桿を引き、艦首の進路方向を目標ポイン トに向け、エンジンを点火させた。

ノズルが火を噴き、作業艦は加速していく。

突き進む艦……その先に………全てを狂わす何かがあるとも知らず…………

運命に導かれるように…マコトは突き進んだ――――――

 

 

 

 

 

数時間前――――マコトが到達したポイントと程近い宙域に、一機の漆黒の戦闘機が航 行していた。

機体全体を漆黒にカラーリングした機体のコックピットでは、一人の女性の姿が在っ た。

闇にでも薄っすらと陰のある光を放つ銀色の長い髪を首筋で束ね、その髪とは反する黒 衣のアンダースーツにズボン…そして黒衣のコートを羽織った女性は閉じていた眼を開ける。

その瞳は…宝石とも鮮血ともとれる程、真紅の輝きを放っていた。

 

―――――――レイナ=クズハ

 

それが…彼女の名だった。

先のANGEL WARSにおける立役者。だが、その事実は知られていない。知る必要などない。業を犯し、血に濡れる自分には賛辞や称賛など、鬱陶しいものでしかない。

こんな薄汚れた世界の方が心地よく感じてしまうのは、もう変えられない生き方ゆえか もしれないが……

あれから既に2年半……少女の面影を僅かに残しながらも、身も成長した一人の少女は 今は裏世界では名を知れ渡られていた。

パートナーである妹ともに非合法処理者:TDOD として活動し、その成功率の高さから各政府とも裏での繋がりを持つ。

ここ最近の世界はキナ臭い……地球連合の解体、大東亜連合の設立…ザフトもまた裏で 妙な動きを見せ始めている。

「デュランダル議長の調査は リンに任せるしかない…か」

ややぼやくように肩を竦め、計器類を叩く。

ここにはいない妹の非難めいた視線と表情を思い浮かべ、苦笑を浮かべる。

本当なら、今頃はL4のアーモリー・ワンへ と向かうシャトルに乗っていたはずだった。

遂数日前に公表されたザフト軍の新型機動兵器。配備が進められているニューミレニア ムシリーズとは一線を画する技術が投入されていると大々的に発表されている。

それだけならまだいい……だが、今の世界情勢でそれは危ういものだ。地球では地球連 合が解体され、大東亜連合が東アジア共和国主導で発足され、プラントとも一触触発といってもおかしくない状態だ。先のANGEL WARSで国土が戦場となった東アジア共和国にアフリカ共同体は予想を大きく超える疲弊を抱えていた。とてもではないが、戦後のプラントからの補償では賄 えない程だった。その不満は国民のなかに大きく募り、今回のような事態となった。

さらには此度のプラントの新型機動兵器発表は地球への再侵攻のためだと言い張る者ま で出る始末…今はまだ、大東亜連合の政府も沈黙を保っているし、大西洋連邦の睨みある。そうそう迂闊な真似はしないと思うが、それよりも解からないのは何 故そんな緊迫した状勢で新型兵器の公表などを行ったデュランダル議長の真意だ。

ジュセックの後任として選出されたギルバート=デュランダルという議員についてはあ まり詳しいデータはない。事前の調査では先の戦争以前は遺伝子工学に従事していたそうだが、さほど眼を引くデータはなかった。

「ラクスがうまく抑止力に なってくれればいいけど」

今回のこの発表はデュランダルと軍本部の独断だったらしく、評議会には詳細が伝わっ ていなかったらしく、その審議のためにラクスがアーモリー・ワンに向かっているという情報も掴んでいる。

外務次官である彼女はプラントと各国の外交を兼ねるために今回の件で地球諸国から圧 力を受けたのは想像に難くない。

それに合わせ、そのデュランダルが何を考えているのか…それを見極めるためにアーモ リー・ワンへと向かうはずだった。

だが……寸前になってそれよりも優先すべきことがレイナの許に舞い込んできた。

レイナはコートの裏側のポケットに右手を入れ、何かを取り出す。取り出されたそれ は、一通の手紙……電子ログの発達しているこの現在においては珍しい紙の手紙だ。封は切られている。

「死者からの手紙…か」

それを見据え、ポツリと呟きながら、レイナは昨晩のことを思い出していた。

昨夜……月面に程近いコロニーで停泊していたレイナは、真夜中に気配を感じた。誰か が自分の泊まっている部屋の前にやってきたのだ。レイナは無意識に懐の銃に手を伸ばしたが、気配はそのまま離れていった。

訝しげになるレイナはドアの下に差し込まれたものに気づいた。それは、一通の手紙… それを手に取り、封を開け、中身を確認した瞬間、レイナの眼が驚愕に見開かれた。

その後、即座にドアを開けて周囲を確認したが、既にそれを持ってきた者の姿はなかっ た。

手紙の内容は月面のあるポイントの座標のみ…だが、レイナが驚いたのはそんなことで はない。その最後に書かれた名だ。

 

 

――――――CAIN

 

 

そう――手紙の最後には書かれていた。

その名はレイナにとって忘れられるはずがない…自身の業の証であるその名だけは…… だが、同時に沸き上がる疑問もある。

カインは死んだはずだ…他でもない……その命を絶ったのは自分自身だ。レイナは己の 右手を見やりながら、微かに表情を顰める。

死者からの呼び出し…それは、必然的にレイナとカインの関係を知る者になる。その関 係を知る者は限られてくる。自分の知る限りにおいては該当者はいない。となると…自分の知らない者…あるいは複数……どちらにしろ、わざわざカインの名を 出してまでレイナを確実に呼び出すという真似までしでかす以上、油断はならない。

そして…カインが関わっている以上、この件は自分以外巻き込むつもりもない。だから こそ、リンにも事情は説明していない。手紙を確認すると同時にレイナはすぐさまコロニーのスペースボートのホストコンピューターにハッキングし、高速輸送 艇を一隻都合させ、指定されたこのポイント周辺で艦載しておいた機体に乗り込み、目的のポイント座標までやって来た。

計器類を操作し、座標を確認しながらレイナは周辺の反応に熱反応から全てのセンサー を集中させている。

(いったい誰が…何のため に……)

自分を呼び出した目的は何なのか…そして、カインを知る者は誰なのか……その疑問の 答を得るために、レイナは罠を覚悟で構える。

その時、長距離センサーが微かな反応を捉え、警告音を発した。

「ん?」

状況を分析させると…検出されたのは熱分布。だが、こんな辺鄙な場所で検出されるな ど、それだけで充分不審だ。長距離望遠カメラで熱分布が検出された方角を確認すると、予想通り、爆発と思しき熱と火線が走るのが確認できた。

「攻撃されてる…民間艦か」

攻撃を行っているのはMSのようだが、IFF の識別は発していない。そして、攻撃されているのはどうやら艦のようだが、軍等の艦艇ではない。艦種は特定できないが、恐らく民間艦の類だろう。

こんな場所で…いや、こんな場所だからこそ海賊行為なのだろうが……溜め息混じりに 息を吐くと、レイナは操縦桿を引いた。

刹那、バーニアが火を噴き、戦闘機は加速する。正直、無関係だが…この場へと連れ出 された経緯が経緯だけに放っておくわけにもいかない。瞬く間に戦闘宙域へと接近すると、長距離望遠では確認できなかった詳細が表示され、モニターにもMS の機種や艦を肉眼で確認できるようになった。

「連合のダガーLに… X03:センチュリオン。なら、ブルーユニオンか」

姿を現したのはダークブルーに塗装された大西洋連邦、大東亜連合でも未だ主力機のダ ガーLに同じカラーリングを施したダガーよりもやや大きな全長を持つMS。頭部はゴーグルフェイスではなくツインアイを持つその機体は、ブルーユニオンの MSであるGAT−X03:センチュリオンだ。現在次期主力機として配備されているウィンダムと次期主力機候補を懸けて争い、トライアルで敗退した機体だ が、ブルーユニオンがこの設計図を持ち出し、自軍の戦力として開発しているという情報は得ていたが、まだ大量生産は成功していないようだ。

現にダガーLが10機に対し、センチュリオンは2機のみ…まあ、いくら組織を改名し たとはいえ、所詮は残党組織。大それた生産設備を確保できるはずがない。だが、もう実戦に投入できるレベルまでこぎつけてきたとなると、楽観視もできな い。

「攻撃を受けているのは…民 間の艦じゃない……か」

MSに攻撃を受けているのは一隻のグレーの装甲を持つ艦…だが、その艦種は既存の民 間で使用されているものではない。となると、個人所有の艦か……そんな思考も、攻撃を加えているMSがこちらの存在に気づいたことで中断された。

振り返り、レイナの戦闘機を視認するや否や、ダガーL数機が艦への攻撃を止め、発砲 してきた。

「問答無用ねっ」

呆れるように毒づき、放たれるビームをかわしながらレイナは思考を巡らせる。自分を ここへと呼び出したのはブルーユニオンかと一瞬考えたが、即座にその考えを否定した。

呼び出したなら、何かしらの リアクションや通信ぐらいはするはずだ…それに、ブルーユニオンに自分の存在の詳細が知られているとは思えない。

ブルーユニオン…その前身は元ブルーコスモス強硬派。先の大戦以降、急速にその勢力 を弱め、組織的なものは半ば消滅したかに見えたが、その裏ではしぶとく存続し、今では連合の勢力圏の強かったL2 のコロニー群に逃れ、そこで新たな指導者を得てブルーユニオンと名を変えたと聞いている。

だが、その指導者が誰なのか…そして、その規模がどの程度なのかハッキリとは解から ないが、所詮はテロじみた行為が精一杯の弱小組織。未だ磐石が強固になっていないために、こうした海賊まがいの行動で物資や機体をこの周辺宙域で強奪して いると聞いている。このMS達も恐らくそうした目的でこの宙域で網を張り、偶々通り掛ったかどうかは知らないが、見つけた獲物を襲っていたのだろう。そこ へ自分がやって来た…なんとも傍迷惑だが、襲い掛かる火の粉を黙って払いのけるほどレイナは甘くはない。

操縦桿を切り、ペダルを踏み込む。戦闘機のスラスターバーニアが火を噴き、一気に加 速する。ダガーL数機がミサイルランチャーを構え、砲撃してくる。

網目のようなミサイルの軌道を見切り、掻い潜るように回避し、戦闘機の前面の発射口 が開かれ、小型ミサイル弾頭がセットされる。

66式空対空ミサイル:ハヤテが放たれ、鋭い軌道を描きながらダガーL数機に着弾 し、火器や機体を破壊する。怯んだ隙を衝き、そのまま加速し、寸前で大きく機首を立ち上げ、上へと舞い上がると同時にレイナはレバーを引いた。

刹那、機首が分裂し、ボディもまた変形する。機首はシールドとなり、腰部から出現し た腕に装着され、その手に銃が握られる。開いた装甲の隙間から飛び出すように出現する人型の頭部…ツインアイの瞳が輝き、身構える。戦闘機から変形したそ れは、MSだった。

 

――――――MVF−M11C:ムラサメ

 

オーブにて現在主力機として配備されている機体。それに専用カスタマイズを施し、自 らのパーソナルカラーに塗装した。ムラサメは腰部から72式改ビームライフル:イカヅチを構え、トリガーを引いた。

銃口から放たれるビームがダガーLのボディを貫き、機体を爆散させる。瞬く間に友軍 機が墜とされ、敵が脅威と感じ取ったのか、リーダー機と思しきセンチュリオン2機が他の機体を指示し、波状攻撃を仕掛けてくる。

バズーカを構えるダガーL数機が砲撃し、弾頭が寸前で爆発し、拡散して襲い掛かる。 ビームでそれを撃ち落とし、周囲が閃光に包まれ、視界が覆われる。レイナは流れるように左腕のシールドを掲げ、閃光から斬り掛かってきたセンチュリオンが ビームサーベルを振り翳すも、受け止める。

エネルギーがスパークするなか、ムラサメは蹴りでセンチュリオンを弾き、同時にイカ ヅチの銃口をセンチュリオンのボディに向けた瞬間、トリガーを引いた。ほぼ密着した状態で放たれたビームがセンチュリオンのボディを貫き、センチュリオン は爆発に消える。

その爆発を防ぎながら、レイナは残存の敵機を見据え、襲い掛かった。

 


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