ムラサメとブルーユニオンのMSの戦闘をやや離れた場所からデブリに身を隠しながら 窺う一機のMS。

ジャンク屋組合の量産型作業MSであるMWF−JG71:レイスタのコックピットで は、マコトが戦闘に釘付けになっていた。

「すげぇ、これが…本物の戦 闘……」

眼前で繰り広げられる戦いにただただ呆然と見入るマコト。仕事柄、危険なことにはあ る程度慣れているが、それでも本格的な戦闘を見るのは初めてだ。

「アレってM1に似てるな… でも細部が違う。後継機かカスタマイズ機か?」

モニターで確認できたのは黒いMS…外見はレイスタと似通った形状を持っている。こ のレイスタ自体がそもそもオーブの量産型MSであるM1を基にしているだけに考えられなくはない。だが、それでもその漆黒のMSのパイロットの腕はずば抜 けている。相手側のMSが十近くに対し、たった一機で互角…いや、逆に追い詰めに掛かっている。

その操縦技術に驚嘆しながらも、マコトはこの場へやって来た目的を思い出し、急いで 傍受した救難信号の発信元を調べる。

「え、と…あの艦からか」

戦闘のすぐ傍で煙を上げながらもういつ爆発してもおかしくない一隻の小型艦。救難信 号はアレから発信されていた。生存者がいる可能性は低そうだが…放っておくわけにもいかない。

マコトは意を決して操縦桿を引き、レイスタを艦へと静かに向かわせる。もし、戦闘に 巻き込まれたら、非武装機であるレイスタでは一溜まりもない。音を立てないように進んでいたが、艦の間近になって思わず浮遊していたデブリが機体を掠め た。

マコトが内心舌打ちした瞬間、後方で指揮していたセンチュリオン一機が気づき、振り 返った。

「やばいっ」

認識されてしまった。それを確信させるようにセンチュリオンはレイスタに銃口を向け る。

「くそっ、こっちは民間機 だってのに!」

民間機であろうがなかろうが、余計な目撃者を生かしておかないのは明白。センチュリ オンの胸部レーザーガンが放たれる。

「くそっ」

操縦桿を捻り、チャチなバーニアを噴かし、その銃弾をかわす。だが、その行動が逆に センチュリオンのパイロットに危機感を煽らせたのか、センチュリオンは手持ちのビームライフルでの狙撃に切り替えた。

放たれるビームが機体を掠め、振動がコックピットを揺さぶる。

歯噛みする間もなく、次の瞬間にはビームに左脚部を打ち抜かれ、マコトは咄嗟にフッ トパーツをパージした。腰部のジョイントから切り離された左脚部が一拍後、爆発に包まれ、弾かれる。

「うわぁっ」

呻くマコトにトドメを刺そうと構えるセンチュリオンだったが、背後から迫る閃光に気 づいた。

だが、それは遅かった…ムラサメの放った長距離ビームはセンチュリオンのボディを貫 き、センチュリオンは爆発に消えた。レイナはその爆発とレイスタを一瞥すると、残り4機のダガーLに意識を向けた。

そして、弾かれたレイスタのコックピット内でマコトは身体に掛かるGに歯噛みしなが らパネルのボタンに手を伸ばし、押し込む。刹那、レイスタの右脚部から飛び出したクレーンが浮遊していたデブリを掴み、機体に制動をかけた。

動きの止まったコックピットでマコトは息を切らしながら、初めて味わった死の恐怖に 耽る間もなく、機体の異常を告げるアラートに気づいた。

「ライトアームにヘッドも機 能停止…どっかぶつけたのかっ」

先程の衝撃の影響でデブリに激突した頭部が僅かに欠け、右腕も駆動部分に過負荷がか かり、レッドを表示している。正直、すぐさまこの場から離れなければ、機体が保たない。

だが、マコトはなおも機体を艦へと向けた…あそこで助けを待っている者がいる。たと え、無駄な行為だとしても放ってはおけない。

(後悔は…したくないっ)

脳裏を掠める光景に叫びながら、マコトは半壊したレイスタのバーニアを噴かし、強引 に機体を艦へと取り付けさせた。さながら激突に近いが、幸いに敵の注意はほぼあちらに集中しており、チャンスは今しかないとマコトは艦の搭乗ハッチを探 し、モニターで確認すると、外装を這うように動き、ハッチにコックピットを近づける。

レイスタの外装の一部が開き、固定用のアンカーが外装に打ち込まれ、機体を固定する と同時にマコトはコックピットハッチを開放した。

空気の漏れる音と極寒の宇宙の冷たさが身体を襲う……この感覚だけは何度味わっても 慣れない。だが、微かに息を呑んでシートを蹴り、マコトはハッチに接近する。近づくと同時にパネルに手を伸ばし、開放シーケンスを起動させる。

ハッチが左右に開かれ、奥に薄暗い艦内への道が開かれる。電気系統もやられたのか、 非常灯すらも点灯しておらず、まるで地獄へと続くような錯覚を憶えるも、マコトは躊躇いながらも意を決して飛び込む。

内部へのハッチを開放し、空気の排出が小規模な乱気流を起こし、締め出されそうにな るもなんとか内部へと飛び込み、急ぎハッチを閉じる。閉じられると同時に気流も収まり、ホッと一息つくと、内部の状況を確認する。

「エアーはまだ大丈夫 か……」

表示されるデータでは、まだ艦内の生命維持装置類は稼動しているようだ。マコトはヘ ルメットを外し、後ろにぶら下げると、ライトを照らし、手元の端末に表示される救難信号の発信地点…すなわち、ブリッジに向けて突き進むが、マコトは奇妙 な違和感に捉われた。

(おかしい…なんで、誰もい ないんだ……)

先程から人とすれ違わない…無論、攻撃され、半ば大破している状態だ。生存者は怪し いが、それでも死体の一つも見かけないのはおかしい。

ひょっとして、どこかに避難ブロックでも設けているのかと思ったが…そんな様子は見 受けられない。渦巻く疑念を抑えながら、マコトは遂に発信地点に到達した。

「ここか」

一枚のドアの前に立ち、強張った面持ちでドアを開く。内側に入ると、そこには艦のブ リッジにしては奇妙な光景が拡がっていた。

「何だ、ここ?」

薄暗い室内…壁一面に制御パネルらしきものが埋め込まれているが、どこにも操舵席ら しきものが見えない。いやそれどころか、とても人が操縦するようにはできていない。

その構造に戸惑いつつも、マコトはその空間の中心に置かれた細長い箱状のものに気づ いた。

恐る恐る近づく…それは、小さなカプセルのようだった。だが、まるで棺桶に近い。

カプセル内を覗き込んだマコトは驚愕に眼を見張った。

「なっ……!?」

カプセル内には、一人の少女が横になっていた……歳格好はだいたい10歳前後といっ た感じの黒髪の少女。だが、その肌の色は死人のように白く、一瞬死体かと思ったほどだ。

暫し呆然となっていたが、振動が船内を襲い、マコトはバランスを崩しかける。

「うわっ」

正直、ここも危ない…マコトは今一度眼の前のカプセルを見やった瞬間、先程の振動の 影響か、突如カプセルから音が発せられた。身構えるマコトの前でカプセルのパネルに光が灯り、データが表示されていく。

やがて、データが一つの文字を表示する。

「何だ…E……B…U?」

モニターに表示される『EBU』という文字…それが何を意味するか、マコトには窺い 知れない。

そして、次の瞬間カプセルの上部ハッチがゆっくりと立ち上がり、開放されていく。刹 那、カプセル内に漂っていた空気が靄のように周囲に拡がる。その微かな冷たさを帯びる空気にマコトは僅かに身じろぎする。

完全にハッチが立ち上がり、靄が周囲に拡散した。そして…カプセル内に横たわってい た少女の姿がハッキリと露になる。カプセル越しでハッキリと解からなかった少女の顔を覗き込んだ瞬間、マコトは奇妙な既視感にも似た感覚を憶えた。

自分は…知っている……この顔を……どこかで…マコトの思考が記憶の奥底に追いやっ たはずの忌まわしい記憶を呼び起こす。

脳裏を掠める爆発と消えた笑顔……だが、そんなはずはないと自身に言い聞かせる。

表情を曇らせるマコトの視界で…少女に変化が起こった。微かに動く眉、僅かに強張る 頬…微かな声……そして、その閉じられていた瞳がゆっくりと開けられる。

「……………」

二、三度瞬いた後、少女の瞳が大きく見開かれ、マコトはその瞳に思わず見入る。

少女の瞳は……金色に輝いていた。

虚空を見詰めていた少女の瞳が動き、身体をゆっくりと起こす。流れるような仕草で身 体を起こし、上体をこちらへと向け…その瞳がマコトを捉えた。

全てを呑み込むような…それでいて何も宿さない無機質な瞳……まるで、魅入られたよ うに凝視するマコトに向かい、少女は口を開いた。

「…貴方が……私の………」

「……?」

最後の方がよく聞き取れなかった。か細い声で呟いた少女に怪訝な表情を浮かべていた が、唐突に衝撃が襲った。

「うゎっ」

振動に包まれるブリッジ…外の戦闘の余波かと思う間もなく、振動によって体勢を崩し た少女が前のめりに倒れそうになる。

「危なっ」

反射的に少女の身体を抱きとめる。そのまま無重力のなかを縺れるように漂うと、マコ トは外を睨むように視線を彷徨わせた。ここもいつまで保つかどうか解からない。早く離れた方が得策と思い、マコトはレイスタの許まで戻ろうとしたが、突如 入ってきた入口から火花が散り、ドアが爆発した。

「くそっ、内部にまで火が 回っちまったのかっ」

火の手がエンジンにまで回れば、こんな艦などあっという間に吹き飛ぶ。だが、通って きた道は戻れない。別のルートを探すにしても時間がない。立ち往生するマコトの腕のなかで、無言だった少女が顔を上げ、腕を上げ、一点を指差す。

それを追うように視線を向けると、そこには別のドアが佇んでいる。

「あそこへ行けってのか?」

疑問に答える代わりに、少女はマコトの手を取り、無重力のなかを流れるように飛び、 それに連れられてマコトも飛ぶ。

少女がドアを開け、そのまま飛び込むと同時に2人は通路を進んだ。

 

 

 

その頃、外の戦闘は既に決着がつきつつあった。

レイナの駆るムラサメは機動性をいかし、敵機を完全に翻弄していた。ダガーLはビー ムライフルで狙撃してくるが、狙いもつけていない狙撃など回避するのも容易かった。

デブリを盾に相手を威圧し、一瞬の隙を衝いてイカヅチのビームを放ち、ダガーLのボ ディを撃ち抜き、破壊する。

残りは一機……刹那、最後のダガーLが急加速で接近し、ビームサーベルを振り上げ る。レイナはその軌跡を読み、シールドでビームサーベルを弾き、バルカンでダガーLの頭部バイザーを破壊する。

割れるバイザーにモニターが破壊され、ダガーLは身を翻して離脱していく。もはや不 利どころではない恐怖を味わったのだろう。敢えて追撃はしない…これで、自分達の戦力の程も知らしめただろうし、ブルーユニオンも暫くは大人しくなる。

そして、レイナは先程の民間艦に意識を向ける。確か、ジャンク屋のレイスタが一機迷 い込んできたが…あの艦へ避難したのだろうか。だが、もうあの艦も戦闘の余波で長くは保たないはずだ。

艦へ向かおうとした瞬間…レイナは脳裏に走った感覚に身を硬直させた。

「っ! 今のは……っ?」

今のあの感覚は……アレを感じたのは2年半前が最後…それ以来一度も感じることのな かった。だが、それでも決して忘れられぬ感覚…そして、絶対にあり得ないものだった。

その感覚が捉えた方角へ視線を向けた瞬間、彼方へ逃亡していたダガーLの前に一つの 影が現れた。

闇から抜け出るように出現したそれは、純白の影……その瞳が真紅に輝いた瞬間、ダ ガーLの頭部が吹き飛ばされ、機体が粉々に砕け散った。

激しい爆発に包まれ、視界が覆われる。だが、そんな爆煙にも関わらず、レイナはその 向こう側を凝視し続けた。やがて、煙が晴れ…その奥から現れる機影。

白銀のボディに拡がる4枚の純白の翼……そして、その頭部形状はGモデルに真紅に輝 くカメラアイ。その機体形状は、レイナにとっては見間違えるはずもないもの。

かつての自身の半身であり愛機…そして、自身の手で倒したきょうだいの半身でもあっ たもの。

「メタ…トロン………」

掠れたような声でその機体の名を呼んだ。

無言で対峙するムラサメと純白のMS…そのコックピット内で、人影が静かにほくそ笑 む。

「ようやく遭えたな……MC ナンバー02…レイ……いや…レイナ…クズハ」

囁かれた言葉には…微かな悪意が滲み出ていた。

運命という鎖は…再び彼女を過酷な運命へ導こうとしていた………静かな始まりを告げ るように…………

 

 

 

マコトはただ呆然と少女の進むままにいた。だが、通路の至るところから煙が昇り、小 さな火種も燻っている。

この艦もいつ沈んでもおかしくないが、今のマコトにはこの少女に従うしか選択肢がな い。やがて、2人の眼の前に通路の終着が見え、その先にある空間に飛び込んだ。

そこは、広大な空間…場所的には貨物室といった場所だろうか、そして、少女が前を指 指し、その方角へ視線を向けた瞬間、マコトは驚愕に眼を見開いた。

「っ!?」

眼前には床に固定されたハンガーに横たわる一体のMSが在った。

「こ、これは……」

無重力のなかを飛び、見下ろすと、そのMSの全貌が見える。純白のカラーリングを基 調とし、細部をブルーで…バックパックにはスラスターと思しきウイングバインダーが装着されている。頭部形状は、レイスタなどと近いが、カメラアイに光は 灯っていない未起動状態だ。

少なくとも、マコトに見覚えのある機種ではない…いや、量産機種とは明らかにタイプ が違う。呆然と見詰めていたマコトだったが、その手を近寄ってきた少女が取り、少女が視線で促す先を見やると、腹部に開かれたコックピットハッチが見え、 主を待ち構えている。

「乗れって、ことか?」

自身に問い掛けるように呟いた瞬間、貨物室の壁から爆発が起こり、爆風が吹き荒む。

「うわっ」

それに巻き込まれ、咄嗟に少女を庇う。爆発によって吹き飛んだ破片がMSに降り注 ぎ、一部が埋まる。そんななか、少女を庇っていたマコトはMSのすぐ傍まで流されていた。

「つつ…おい、大丈夫 か!?」

抱き締めた少女に問い掛けるも、少女は答えない。どうやら、先程の衝撃で気を失った ようだ。

逡巡する間もなく、マコトは今一度MSを見やると、意を決したようにコックピット ハッチへ向かって飛んだ。

ハッチに辿り着くと、そのままバックステップでコックピットに飛び込む。シートにぶ つかるように座ると、ハッチが閉じられる。

「動いてくれよ……なっ?」

操縦桿を握ろうとしたが、その肝心の操縦桿が無かった。唖然となる…これではどう やって機体を動かせというのだろうか。だが、再び爆発が起こり、機体を固定していたハンガーも一部が欠け、機体が激しく揺さぶられる。

「うおゎっ」

思わずシートに腰を据えるように踏ん張る。刹那、抱き抱えていた少女の服の内側から 何かが零れ落ちた。

音を立てて落ちてきたのはMS用のコントローラーユニットだった。それを確認し、マ コトはあまりにできすぎた展開に気味が悪くなる。

偶然にしてはできすぎてるし、なによりこのMSの許まで案内したのはこの少女だ。そ の少女が持っていたコントローラーユニット……考えられる結論は一つだった。

考えるより先にマコトはコントローラーユニットを掴み、それをパネルにセットする。

接続され、それに連動して各電子系統が繋がり、コックピット内に灯が灯る。眼前の ウィンドウにモニター画面が表示され、手前のパネルに起動シーケンスが表示される。

「エネルギー系統オンライ ン、アクチュレーター問題なし」

パネルを叩きながら、起動シーケンスを進めていく。操作方法はレイスタ等とさして変 わらない。いけるとマコトは確信し、ひたすらシーケンスを進めていく。

 

 

 

――――――STAND BY READEY.  SET UP.  To M.O.S

 

 

 

データの波が表示され、OSの起動画面が表 示される。

その表示されるスペックにマコトは息を呑む。

「凄い…レイスタとは全然違 う」

純粋な作業MSであるレイスタとはまったく機体構造が違う。機動性、反応速度、パ ワー…そして戦闘能力。

これが、戦闘用のMSだと―――――

 

 

 

 

G-alaxy

U-nmeasured

N-euron

D-eus

A-postols

M-achina

 

 

 

 

最後に表示されるOSの文字。

「GUN…DAM……ガン… ダム………」

思わずその頭文字を呼んだ瞬間、貨物室が炎に包まれ、180度表示されるモニターの 向こう側が赤く染まり、コックピット内を陰に包んだ。

 

 

炎に包まれる貨物室…既に火の手がMSに迫り、崩れた破片が機体を埋める。だが、沈 黙を保っていたMSの手がピクリと動く。

感覚を確かめるようにマニュピレーターを握り締めた後、右腕を大きく突き上げた。積 みあがった瓦礫を弾き飛ばし、突き出される腕。そして、固定されていた脚部を上げ、固定具を弾き飛ばし、瓦礫を振り落としながらMSはゆっくりと身を起こ す。

起き上がった上体のバックパックに装着された蒼のスラスターが排熱し、気圧が炎を舞 い上がらせる。そして、ボディに固定されていたケーブルがパージされる。

静かに立ち上がるMS……炎が舞い上がり、その純白の装甲を真っ赤に染めるなか、闇 に包まれていた瞳に光が灯る。

 

 

――――――静かに深く輝く蒼穹の瞳

 

 

激しく燃える炎とは逆の静かに輝く蒼穹の瞳に炎を映しながら……『GUNDAM』と 名づけられしMSはその存在をこの世界へと刻む。

それは……新たなる幕開け…………

マコト=ノイアールディとガンダム…そして……レイナ=クズハ………

運命に導かれし2人の―――――




《次回予告》

 

 

運命の歯車は回り出す。

世界は再び…新たなるうねり のなかへと導かれていく。

 

少年に与えられたその力 ―――――GUNDAM

導かれし道―――――運命

 

 

女に齎されたもの――――― 破滅

新たなる運命―――――闇

 

 

 

2つの運命が始まるなか…… 白きGUNDAMは眼醒める………

 

 

 

次回、「PHASE-02 GUNDAM」

 

新たなる運命に…飛べ、ガン ダム。


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