薄暗い室内にいくつも浮かぶモニター。

モニターには様々な映像が映し出されている。そのモニター群の中央に備えられた制御 シートに座る一人の女性がいた。

女性は始終愉しげにキーを叩き、映像を見詰めている。そして、『SOUND ONLY』で繋がっている通信に向かって呟く。

「ルキーニの件は了解した わ。流石に一筋縄ではいかないわね」

正面モニターの一つには、裏社会でその名を馳せるケナフ=ルキーニの映像が浮かんで いる。その映像に映るルキーニをまるで値踏みするように視線で射抜き、手元に置いたカップを手に取り、湯気立つ紅茶を口に含み、優美な笑みを浮かべる。

「お仲間? それとも使い勝 手のいい駒…彼女を犠牲にしたようだけど、たとえ裏社会では名うての情報屋でも、私から逃れることなどできなくてよ」

映像が消え、カップを手元に置くと、シートに背を預ける。

「それと……アーモリー・ワ ンに送り込んだスパイはどうかしら?」

その問い掛けに、通信越しに連絡員と思しき男の声がボソボソと返ってくる。ある程度 だが情報は掴めたこと。そして…その後の後始末についても。

鋭敏な冷たい笑みを浮かべ、女性は頷く。

「ええ、いつものように処理 してちょうだい。情報さえ得られれば…スパイなんていくらでも……換えが利くのだから」

それを聞き終えると同時に通信が途切れるも、その時、手元の呼び出し音が鳴り、別の 通信を繋げると、正面モニターに光が灯る。

「あら、何か御用でしょう か?」

笑みを崩さぬまま、モニターに映る人物に問い掛ける。だが、モニターの向こう側は暗 く、その相手を確認することは叶わない。

《いやなに…君にお礼を言っ ておこうと思ってね》

「らしくありませんわよ」

モニターから発せられる男の声に、女性は慇懃な笑みを張りつけたまま、喉を鳴らす。

《いやいや、君には感謝して いるよ。流石は一族の血統だ》

称賛する物言いに女性はつまらなさ気に表情を軽く顰める。

「御機嫌取りは結構ですわ。 御用件をお聞かせ願えませんか?」

笑みが消え、やや咎めるような視線と口調…この話している男は女性にとって交流を持 つと同時に油断できない相手と認識している。自身の思考の及ばぬ行為に及ばれては厄介なことこの上ない。

《例の件…どうなっているか ね?》

その視線に負けたのか、それとも御機嫌を取ることにしたのかは解からないが、男は単 刀直入に用件を問い掛ける。

「ええ、問題はありません わ。条件は全てクリアされました…所詮は思考すらできぬ低脳な連中。意のままに動かすなど造作もないこと」

この世界には馬鹿が五万といる…そういった馬鹿は動かすのは実に簡単だ。そして、そ の馬鹿を動かすのは一握りの者だけ。微かに愉悦と優越を滲ませながら頬を緩める女性に男は肩を竦め返す。

《相変わらず、君は恐ろし い》

褒め言葉ととったのか、女性は鼻を鳴らす。

《では任せよう…アーモ リー・ワンの件は既に始まっている。そして、次の舞台が新たなる時代の到来となろう》

「貴方が望む舞台…それはど のようなものでしょうかね?」

探るような女性の視線に、男は不適に呟いた。

《混沌と破壊…そして新たな る創造だよ、マティス》

その言葉とともに、映像がシャットアウトし、モニターは途切れる。そして、マティス と呼ばれた女性は身をシートに預け、眼をやや細める。

「残念ですが、創造を行うの は貴方ではないのですよ……」

ポツリと吐き捨て、マティスは通信を開き、口を開いた。

「私よ。すぐにスカウト0984RGX-00を準備させ、アーモリー・ワン に向かわせなさい」

指示だけ伝えると、コンソールを叩き、モニターを切り替える。

「それにしても、馬鹿な連 中…まあ、出所を気にするような連中ではないでしょう。それに、連中の眼には目的しか映っていない。せいぜい、世界を創造するための礎になってもらいま しょう」

モニターに映る映像…そこには、ある光景が映し出されていた。

「あの国に感謝しなくては ね…これで、ジャンク屋を消すカードは揃った。あとは、プラントと大東亜連合……」

漆黒のジンに装備される日本刀を模したような武器…それを一瞥すると、マティスは口 元を歪め、モニターを仰ぐように手を挙げる。

「彼の所業を手助けしなくて はね。全ては運命の刻…その瞬間から、新たなる破壊と創造が始まる……」

まるで世界の全てを見下ろすように手を拡げるマティス…その先には、ある二つの墓標 が映し出されていた………

 

 

 

 

同時刻…地球のさる地。

広大な土地を持ち、緑に囲まれた優美な庭園。そしてその中心に聳えるように立つ白亜 の屋敷。まるで一枚画のような建造物のなか、その一室にて、紅茶を飲む一人の男がいた。

壁一面に備わったガラスの向こう側を見詰めながら、男は左手に紅茶のカップを持ち、 右手にはその脇にあるサイドテーブルに置かれた今では珍しい形の通信端末が置かれていた。

その受話器を持ち、会話を行うのは、サー=マティアスと名乗る男だった。

「そう…マコトもジェスも アーモリー・ワンではうまくやっているようね」

笑みを浮かべつつ、会話を交わすも…相手の声は、マティアスの耳にしか聞こえず、周 囲には漏れない。

「で、彼女の行方は? そ う…引き続きお願いね」

問い掛けの答えは望むものではなかったのか、マティアスはやや表情を顰めて答え返 す。

「解かっているわ。女神様は 動けない…でも、舞台は整えておくに越したことはないでしょう? 主演が変わるだけなのだからね…ええ、段取りは既に終わっているわ。貴方は時期が来れば 動いてくれればいい。それじゃ、お願いね」

会話が終わり、マティアスは受話器を置き、再び紅茶を口に含む。そして、不適な笑み を浮かべたまま、窓から見える景色を凝視していたが、やがてその後ろに人影が立つ。

「それで、どうかしらね?」

振り向きもせず、背中で問い返すと、人影は静かに答え返す。

「はい、どうやら此度の件、 旧連合の特務諜報部隊が絡んでいるとみて間違いありません。どうやら、大東亜に吸収されたようですが、現在の所在地は不明」

流暢な言葉で答えるのは女性の声だった。その答えにマティアスは満足気に肩を竦め る。

「そこまで掴めれば上等よ。 流石は元諜報員ね」

賛辞するマティアスに女性は謙遜するように恭しく礼をするだけだ。

XX計画は?」

「既に試作型がロールアウト しましたが、1号機は大破。2号機が近日中には実戦可能な状態に仕上がる予定です。ただ、例の2機は遅れが出ています」

「仕方ないわね、元々技術の 差があるでしょうし……まあ、まだ少しは時間はあるでしょう」

軽く溜め息を零し、紅茶を再度含む。

「それで…2号機の試験は貴 方が?」

「はっ…本当なら、前任者の 方がいいのですが……今は無理ですので」

「そうね」

カップを離し、思考を巡らせるように視線を天井へと向け、やや視線が泳ぐ。

「まあ、仕方ないわね。無い もの強請りしても…手持ちのカードだけで勝負していかないと」

もっとも、だからといってそのまま手持ちだけでいくつもりはない…相手もカードを引 き、最高の手を揃えてくる。

こちらも可能なら最高のカード(ロイヤルストレートフラッシュ)を揃えなければならない。

「では、私はこれで」

「ええ、ハルバートン中将に よろしくね」

一礼し、身を翻そうとした瞬間…女性は一瞬足を止め、やがて背を向けたまま小さく囁 いた。

「あと一つ…諜報部ですが、 どうやらラース=アズラエルが一枚噛んでいる可能性が高いと思われます」

その言葉に、静かに聞き入っていたマティアスは無言のまま…だが、表情は微かに厳し げに強張っているようにも見て取れる。

「そう……まあ、流石にシュ タインも迂闊には手を出せないでしょうしね。貴方はこれから?」

「宇宙へ行きます…サハク代 表からの勅令ですので」

そして、今度こそ女性の姿は部屋の外へと消えていった。残ったマティアスは窓を見上 げ、空を見詰める。

その眼差しがやや細まり、射抜くような視線を浮かべる。

「物事はそうレール通りには 進まない…それが世界なのよ。必要なカードは6枚…そして、誰がカテゴリーに収まるのか。もっとも、Aとジョーカーはどう転ぶか解からないわね」

苦笑じみた笑みを浮かべ、肩を竦めつつ背を椅子に預ける。

「マティス……」

囁かれた言葉は、誰に聞こえるともなく静かに霧散していくのであった。

 

 

 

機動戦士ガンダムSEED ETERNAL SPIRITS

PHASE-05  LAST PRELUDE

 

 

 

アーモリー・ワンに程近い暗礁地帯。

一般の航路からも離れたこの宙域を航行する一隻のナスカ級戦艦。エンジンが静止し、 動きが止まると同時に前部のカタパルトが展開され、ラインが形成される。

刹那、MSが発進する。発進するのは、セカンドシリーズの5機。

フォースシルエット装備のインパルスが先陣を切り、続いて戦闘機形態のセイバー、ホ バー形態のカオス、そしてガイア、アビスと続く。

各々のパイロットスーツに身を固めたパイロット達は真剣な面持ちで操縦桿を握り、機 体を駆る。

それらに続くようにナスカ級から発進する3機。

ジェスのアウトフレーム、カイトのジンアサルト、そしてマコトのセレスティだった。

宇宙に出ると同時にジェスはアウトフレームのカメラを回し、宇宙を背景に飛ぶセカン ドシリーズを収め、感嘆を漏らす。

「凄い画だ、セカンドシリー ズの揃い踏みなんて…やっぱMSは宇宙が似合うよな」

画面越しに興奮した面持ちでカメラを回す。集中するジェスの耳にカイトの苛立った声 が聞こえてきた。

「宇宙の恐ろしさを知らない からそんな事が言えるんだ!」

カイトの苛立ちは最もだった。

宇宙という空間は生命の存在を赦さない。この鉄の壁一枚向こうは死しかない世界なの だ。

マコトは背中に感じる薄ら寒いものを抑え込む。何度も味わった感覚だが、やはり慣れ ない。それを振り払うように首を振り、そして操縦桿を握り、モニター越しに飛行するセカンドシリーズ5機を見詰める。

5機はそれぞれの軌跡を描きながら、思い思いに飛行し、その様子をカメラに映すジェ スは後を追う。

(特に、不安はないよ な……)

セカンドシリーズにとって初実践となる宇宙での動態試験。今のところ、不審なものは 見当たらない。

脳裏にアーモリー・ワンを発つ前にカスミと交わした会話が脳裏を過ぎる。

 

 

数時間前、アーモリー・ワン外での機体の動態試験を行うため、移動することになり、 デュランダル議長の特別許可により、ジェスにも船外でのMSによる撮影が許可され、同行することになり、護衛という名目でカイトとそしてマコトにも許可が 下り、共に機体をナスカ級に搭載することになった。

搭載前、マコトは自前で用意したパイロットスーツに腕を通していた。そこへ、カスミ が歩み寄ってきた。

「カスミ、どうかしたの か?」

今回はあくまで自分の我侭だ。カスミを同行させるつもりはなく、アーモリー・ワンに 残すつもりだった。幸いにも同年代の友人もできたことだし、そういった方がなにかとカスミにもいいと思い、マコトはマユに言付けた。

カスミはいつもの無表情ながら、マコトに向き合い、小さく囁いた。

「気を…つけて」

「?」

消え入りそうな声…首を傾げながら屈み込むと、カスミはなおも同じ声色で呟く。

「何か…嫌なことが起こる、 から」

穏やかではない言葉…怪訝そうになるマコトに向かって後ろから声が掛かった。

「おーい、マコト! 早く機 体載せろって!!」

アウトフレームのコックピットから顔を覗かせるジェスが叫び、マコトは慌てて振り返 る。

「すぐ行きまーすっ!」

大声で応じると、アウトフレームとカイトのジンアサルトも歩きながらナスカ級に乗艦 し、マコトもやや不安な面持ちで今一度カスミを一瞥し、そしてその頭を撫でる。

くしゃっと髪を撫でられ、やや表情を顰めるも、マコトは笑みで呟いた。

「心配してくれてサンキュ。 気をつけるよ」

本当ならもう少し訊きたいところだが…マコトはやや後ろ髪引かれる思いで背を向け、 ハンガーに固定されているセレスティに駆け寄っていく。

そして、ラダーを使って搭乗し、ハッチを閉じると同時に機体のAPUを起ち上げる。OSが起動し、モニターに光が走 り、セレスティの瞳に蒼穹の光が宿る。

機体が動き出し、ゆっくりとハンガーから身を起こし、静かに歩んでいく。マコトはモ ニター越しにカスミを見やると、カスミはジッとこちらを凝視している。

暫く考え込んでいたが、やがてマコトは持ち込んでいたコンテナを持ち上げ、セレス ティはナスカ級に乗艦していった。

全機の搭載が完了し、ナスカ級がゆっくりと発進エレベーターへと移動し、エアブロッ クのハッチが閉じられる。

その光景を、カスミは無言のまま見詰めるのであった。

 

 

(何も起こらなきゃいいけ ど)

内に微かな不安を憶えながら、マコトはカスミの言葉を反芻させていた。

万が一の事態に備え、最低限の自衛はできるようにと、セレスティにはシールドとジャ ンク屋で使用しているビームライフルを携帯させてある。

いくらここがアーモリー・ワン近隣とはいえ、宇宙で襲い掛かる脅威は意思あるものと は限らない。

特にこの辺は先の大戦初期に連合とザフトが激しい戦闘を行い、その後も何度か小競り 合いが続いた場所だ。

現に、岩塊に混じって金属の残骸も漂っている。

緊張した面持ちで機体の姿勢を保つように各バーニアを細かく動かし、周囲に同じよう に浮遊するアウトフレームやジンアサルトに機体を接触させないように気を配る。

(けど、ジェスさんすげえよ な…撮影しながらMS動かしてるんだから)

やや感心した面持ちでカメラを構えるアウトフレームに向ける。フォトジャーナリスト にとってカメラ越しに捉える光景はまさに一瞬の出来事。それこそ、最高の瞬間がいつ撮れるかなど、神のみぞ知るといったところだ。そのために全意識をファ インダー越しに集中せねばならず、それが生身ならいざ知らず、緻密な操縦を問われるMSを動かしながらともなると感心せずにはいられない。

まあ、実際はアウトフレームの主だった動きはコンピューターの8がサポートしている ため、ジェスも撮影に集中できているのだが。

そして、ジェスはカメラを構え、それと繋がるコックピットのレンズから眼を離し、カ イトに話し掛ける。

「でもよかったなカイト、宇 宙でのテストに同行できて。久しぶりのMSはどうだ?」

昨日、やや不機嫌だったカイトを知るだけに、たとえ見物だけとはいえ、慣れたMSの コックピットに着くだけでも少しは機嫌もマシになったかと思い、問い掛けるも、カイトは鼻を鳴らす。

「お守りを増やされたから な。いつ何が起きるんじゃないかと気が休まらん」

軽く毒づくカイトにジェスとマコトは苦笑いを浮かべる。

確かに、今回はジェスのみならずマコトもいるのだ。いくらマティアスからの依頼とは いえ、カイトはMS乗りだ。野次馬のお守りを任されたわけではないと腐るのも解かる。

《ちょっとそこの3人!》

突如コックピットに響いた怒号に思わず操縦を誤り、体勢を崩しそうになるセレスティ とアウトフレーム。後ろを見やると、ナスカ級が微速で接近してきていた。

そのブリッジにはややこめかみに青筋を浮かべているベルの姿があった。

《この宙域でのMSの使用は 議長の特別のご配慮なのよ! テスト中の私語はやめてください!》

前日、セカンドシリーズの宇宙での行動試験に同行したいという旨をベルに伝えたジェ ス。ベルも難色を示しながらもデュランダルに進言し、渋るかと思われたが、意外にもデュランダルはあっさりとOKを出した。

その態度にやや訝しげなものを感じたものの、他の報道関係者と違いジェスを特別視す るデュランダルにベルも不遜なものを憶えずにはいられなかった。

故に、どこか口調がキツくなり、ジェスもやや冷や汗を浮かべ、乾いた声で応じる。

「あ……すまない」

「申し訳ありません」

流石に今回は無茶を聞いてもらったという負い目か、ジェスは萎縮気味に応じ、マコト も素直に謝罪する。だが、カイトは相変わらず鼻を鳴らすだけだ。

大仰に溜め息を零すベルを横に、ナスカ級の艦長らしき人物がやや苦笑を浮かべつつ、 指示を出す。

《ではこれより、インパルス のデブリ干渉地域での分離・合体試験を行う》

《了解!》

艦長からの指示にインパルスを操縦するシンが応じ、他の4機を背に一機、デブリの密 集している宙域に向けて加速していく。

「よしっ、撮るぞ!!」

その様子にジェスは意気込んでアウトフレームのスラスターを噴かせ、撮影に最適なポ イントに移動する。

その様子にヤレヤレと後を追うジンアサルト、そしてセレスティも後を追い、アウトフ レームがカメラを構え、マコトもセレスティのカメラアイの最大望遠で拡大し、インパルスに焦点を当てた。

加速するインパルスはデブリ帯突入直前で機体ドッキングが解除され、パーツに分離す る。

フォースシルエットが外れ、自動操縦で離脱する。そして、上半身、下半身に分離し、 その内から現われたコアスプレンダーがコアブロック形態から小型戦闘機に変形し、先陣を切る。その後を自動操縦のチェストフライヤー、レッグフライヤーが 追う。

3つの軌跡を描きながらデブリ帯のなかを潜り抜けていく。

シンは全神経をコックピット越しのモニターに集中し、襲い掛かるデブリを回避し、絶 妙のタイミングで操縦桿を切る。

先頭を進むコアスプレンダーから送信される周辺宙域の航行図から最適な航行路を判別 したAI制御のフライヤーが後を追う。

一瞬の判断ミスが即、死に繋がりかねない試験のなか、シンは前方に迫る岩塊の中央に 空いた穴をすり抜け、その岩塊に沿ってチェスト、レッグが飛び抜ける。

その試験を見詰めるマコトは改めてシンの操縦技量に感心していた。

「凄い! 普通のMSじゃこ んなデブリ帯、抜けられないぞっ」

ジェスも驚愕に見入っていた。

MSは十数メートルを誇る巨体だ。デブリ帯内は無数のデブリが網目のように不規則な 感覚を開けて浮遊している。それこそなかにはMSが潜り抜けられるかどうかのギリギリのものもある。高機動状態でこのなかを駆け抜けるのは熟練のパイロッ トでも容易ではないだろう。だが、それが分離した状態ともなれば難しいものではない。

デブリ帯を抜け、やや開けた場所に飛び出したインパルスは再度合体し、MS形態とな り、ビームライフルを構え、トリガーを引く。

放たれたビームは真っ直ぐに伸び、ターゲット印をつけられた岩塊に着弾し、岩塊が粉 々に砕ける。

四散する岩塊を横に駆け抜けるインパルス…その試験をデブリ帯の外側で見詰める4 機。そして、アビスのコックピットでマーレはやや表情を顰める。

「ちっ、調子に乗りやがっ て…貴様は目障りなんだ」

視線を鋭くし、インパルスを睨みながらマーレは手元に持っていた一つの発信機のス イッチに指を合わせる。

「邪魔者には消えてもらお う」

微かに口元を歪め、指に力を込めてスイッチを押し込んだ。刹那、それに連動してシグ ナルが発せられた。

 

 

「ん?」

セレスティのコックピットでインパルスの試験に釘付けになっていたマコトだったが、 唐突にモニターに表示された警告音に眼を見張り、注意を向けた。

「シグナル? 長距離レー ザー回線で?」

傍受したのは微弱な電波……感知したのもほんの一瞬だ。セレスティにはマコトが自作 した様々なツールを組み込んである。宇宙という活動地域において少しでも生存率を高めるための改造だ。

そのため、先程の電波もキャッチできたようだ。

マコトはコンソールを叩き、電波の流れを確認する。流石に発信元は特定できないが、 電波の向かった先ならある程度特定できる。

機体の向きを変え、電波を追うセレスティの挙動不審に気づいたジェスが声を掛ける。

「どうした、マコト?」

「あ、いえ…妙な電波を拾っ て」

「電波?」

「ええ、ほんの一瞬だったん ですが……」

言い淀むマコトにアウトフレームのコックピットに固定された8が答え返す。

【ソウイウコトナラ私ニ任セ ロ】

ウィンドウに文字が表示された瞬間、8は全方位サーチを使い、電波の流れを探索す る。

8のサーチに連動してアウトフレームは姿勢をバーニアで変えながらガンカメラで電波 の流れを特定する。

【サーチ完了、見ツケタゾ】

レンズ越しに捉えられたのは、この場よりやや離れた宙域に浮遊する岩塊。その岩塊か ら微かに何かのシグナルが発せられている。

「あんな所に何があるん だ?」

一瞬、逡巡するも、ジェスは持ち前の好奇心の誘惑を抑え切れず、そのシグナルが発せ られる岩塊に向かって操縦桿を引いた。

バーニアが火を噴き、加速するアウトフレームに気づいたマコトが眼を見開く。

「ジェスさんっ?」

慌てて後を追うようにセレスティもスラスターを噴かし、2機は加速していく。その様 子にカイトは表情を顰め、声を荒げる。

「おいっ何をしている!?」

「何かあるらしいんだ、すぐ 戻るっ」

カイトの制止も聞かず、セレスティとアウトフレームはジンアサルトの傍から離脱し、 カイトは苦々しく舌打ちした。

「ったく、野次馬バカども が」

フラストレーションの溜りが、カイトのコンディションを下げていたこともあったかも しれないが、この時カイトは二人の護衛という役割を完全に忘却していた。

そして、不機嫌なままシートにドカッと背を預け、腕を組んで頭を擡げた。

 

 

テストを観測するナスカ級からもその2機の行動は掴め、報告を受けたベルは頭を抱え そうになった。

「ジェスったら…勝手に動か れると困るわ」

呆れた表情でアウトフレームとセレスティのシグナルを追い、モニター画面で確認す る。

「インパルスの移動予定ルー トに先回りして、いいポジションで撮影しようという訳ね」

溜め息をつきながら2機の行動ルートをサーチしていたが、次の瞬間、表情が顰まる。

「っ? 待って…彼には、そ のルートは教えていないはず……」

2機の行動ルートがインパルスの試験ルートと交錯するのだ。それはおかしい…この試 験、不規則に飛行しているように見えて、実は前もって決められたルートを飛行している。

だが、それは軍事機密でベルにしか知らされていないはずだ。

どこか不安げな面持ちでベルはモニターを見やった。

 

 

2機はそのままデブリ内を駆け抜け、そして目的のシグナルが確認された岩塊に肉縛す る。

(妙だな)

マコトは内心、そう呟く。

仕事上、こうしたデブリ内での活動も何度か経験がある。デブリ内では未だに熱を持っ て微かに動く機械類も少なくはない。そうしたゴーストとも呼ばれるシグナル現象はジャンク屋にとっては慣れた現象だが、それはあくまで機械部品が発するも の。こんな岩塊の塊が何故シグナルを発しているのか…そして、マコトは不意にレーダー範囲を拡大し、試験中のインパルスの飛行経路を確認する。

後少しすれば、この近くをインパルスが飛行する…軌道航路とデブリの配置状況から大 まかにだが、そう推察できる。

「ジェスさん、やっぱり戻り ましょう」

気にはなるものの、触らぬなんとやら…好き好んで危険に飛び込む必要はない。制止す るマコトにジェスは考え込むように唸る。

一度気になったものは確かめてみないと気が済まないのがジャーナリスト。ジェスもそ の例に漏れず、好奇心の誘惑に抗えず、妥協するように答えた。

「取り敢えず中だけ確認して から戻ろうぜ」

アウトフレームは岩塊に接近し、マコトはやや溜め息を零しながら後を追う。徐々に反 応が強くなる。

岩塊の中央に空いた穴…ちょうどMSサイズの穴の前に静止し、2機は穴を凝視する。

完全に闇に閉ざされた穴のなかに向かってアウトフレームはバックホームからのライト を照らし、穴内を浮かび上がらせる。

差し込む光が数メートル奥に発する微かな光を捉え、モニター越しにマコトとジェスは 眼を細めた。

奥に在ったそれは…一門の戦艦並みの砲台。

「ほ、砲台!?」

「な、何でこんなもん がっ!?」

刹那、砲台の砲口に光が収束する。それが罠と気づいた瞬間、マコトは瞬時にセレス ティのバックに背 負っていたシールドを持ち出し、アウトフレームの前に出た。

ジェスが声を上げようとした瞬間、砲口から閃光が迸った。

突如、岩塊より発せられる高エネルギー反応…響き渡るエマージェンシー音。真っ直ぐ に狙う先は、飛行中のインパルス。

「シン!」

「っ!」

その光景にステラが思わず叫ぶ。シンも迫りくる閃光に息を呑み、一瞬硬直するも、反 射的に分離レバーを引いた。

インパルスは上半身と下半身のドッキングを解除し、上下へと分かれる。思わず手放し たライフルとシールドが閃光に呑まれ、爆発するも寸でのところで回避でき、ホッと息をついたのも束の間、閃光が過ぎった後でバランスを崩したデブリ帯は激 しくうねるように拡散し、周囲に吹き散る。

襲い掛かるデブリを掻い潜るため、5機は分散し、ステラはセイバーをインパルスの元 へと急行させた。

戦闘機形態でデブリのなかを掻い潜りながら、立ち往生しているインパルスの上半身部 分へと接近し、寸前でMS形態になり、シールドを掲げてインパルスの盾となる。

「ステラ、無茶するな」

「平気。シンは?」

あまりに無茶な行為に思わず咎めるも、ステラはしれっと答え返し、シンもやや表情を 顰めながらも内心感謝しつつ、インパルスの状態を確認する。

どうもレッグフライヤーがデブリにやられたらしく、制御不能になっている。今は上半 身のみで動くのもままならない状態だ。

「シン、ステラ、大丈夫?」

「ああ、だけどいったい何が 起こったんだ?」

デブリを回避するガイアからリーカの通信が届き、シンは唐突に起こった状況に困惑す るばかりだ。

突如襲い掛かった砲撃…そして荒れ狂うデブリの嵐。他の面々も同じで、唯一人カイト だけはその攻撃が発射された場所を睨んでいた。

「あれは…ジェスやマコトが 向かった場所か……」

その呟きが聞こえたのか…両肩のシールドを展開してデブリを弾くアビスのコックピッ トでマーレが大仰に毒づいた。

「まったくナチュラルども め…テスト中に事故を起こすとは迷惑な!」

その忌々しげな口調が癪に障ったのか、カイトが思わずアビスを睨みつけながら叫び返 す。

「アレが事故かよ! お前の 眼は節穴か、何か仕掛けられていたんだっ」

ただの事故ならあんな攻撃はこない。それはカイトでなくてもこの場にいるパイロット ならすぐに察せられるだろう。

そんな咎めにもマーレは鼻を鳴らすだけだ。

マーレの悪態に苦くなりながらも、シンは計器を操作し、発射地点と思しき場所を探索 する。

「マコト、無事でいろよ」

カイトの話ではあの付近にはマコトも一緒にいたはずだ。友の安否を気遣うも、爆発の 影響か、電波が乱れており、なかなか反応をサーチできない。

デブリの飛散する宙域に留まるのは危険と判断し、インパルスの上半身を抱え、セイ バーが離脱し、ジンアサルト、カオス、ガイア、アビスもまた安全宙域まで後退する。

「我々は撤退する! 貴様の 言うようにトラップなら、ターゲットは我々なのだろうからな!」

その正論にカイトが舌打ちする。確かに、極秘機であるセカンドシリーズならターゲッ トとしては申し分ない。

コートニーも無言で返し、リーカは視線をさ迷わせる。

「我らは一度退く、報道屋ど もの消息確認は貴様の仕事だ!」

最後まで鋭い口調でたきつけ、アビスが後退し、逡巡していたカオスとガイアも続くよ うに後退する。

(大物は逃したが、煩いナ チュラルを始末できただけでよしとするか……)

インパルスをどこか侮蔑するように一瞥するも、内心、嘲笑を浮かべるようにほくそ笑 む。状況は違ったが、少なくとも自分にとっては悪くない結果だった。

アビスを先頭に遠ざかっていく3機。

「シン?」

それを見詰めるステラがシンに視線を向ける。

問い掛けるような視線にシンも一瞬考え込むが、やがて顔を上げた。

「ステラ、一度戻ってくれ」

「ん、解かった」

どの道、今の状態ではインパルスは役に立たない。マコト達の安否は気に掛かるが、こ こに留まっても事態は変わらない。なら、一度戻って体勢を立て直すのが懸命だ。

シンの言葉に従い、セイバーはインパルスを抱えて加速し、後退していく。

5機の姿が去るのをカイトは苦い表情で舌打ちした。

「ちっ、勝手にしろ」

悪態をつき、カイトは機体を正面に向き合わせる。

デブリが機体を掠め、ただでさえ重武装型のため、満足に動くこともできない。

「くそっデブリの動きが激し くて近づけやしない…俺が止めていれば……」

あの時、勝手な行動を取ろうとしたジェスを諌めていれば、こんな事態にはならなかっ た。いや、自分もあの時はイライラが溜まり、つい己の役目を疎かにしてしまった。それが今ではたまらなく腹立たしいが、今更憤っても仕方ない。

「ジェス、マコト…無事でい てくれ」

二人の身を案じ、カイトは危険を承知で操縦桿を引き、ジンアサルトをデブリが飛び交 うなかへと突入させていった。

 

 

デブリが飛び交う空間の奥…攻撃が発射された岩塊からは濛々と煙が立ち込めていた。

その奥…暗闇のなかで岩に埋まるセレスティとアウトフレーム。コックピットでは、モ ニターの一部がノイズを発し、微かに薄暗くなっている。

そして、そんなモニターに寄り掛かるように倒れ伏すマコト。先程の衝撃か、意識を 失っていた。

薄暗い意識の奥底に沈むマコトに聞こえてくる声……

 

 

――――お兄ちゃん

 

脳裏を掠める妹の姿。

(カス…ミ……)

手を伸ばそうとした瞬間、カスミの髪が舞い上がり…髪が下がった後から見えたの は……

 

 

――――兄さん

 

無機な…それでいて透き通るような……魅了するかのような黄金の輝きを放つ瞳が凝視 した。

刹那、意識が覚醒する。

「カスミ……った」

ガバッと身を起こし、その反動で頭をシートにぶつけ、微かに表情を顰め、ぶつけた後 頭部を抑えるも、脳裏には先程の光景が過ぎる。

 

『兄さん』

 

確かに夢のなかでカスミはそう呼んだ。

カスミとはまだ数週間程度の付き合いだが、そう呼ばれたことは一度もない。

それに何故…妹が……カスミに見えたのだろう……確かに似てはいるが、それはあくま でマコトの主観だ。性格だって違う…表情だって瞳の色だって違う……なのに何故…答の出ない堂々巡りに陥りそうになるも、マコトはそこで初めて機体外の状 況に気づいた。

モニターにノイズ混じりに映し出されているのは、薄暗い岩塊…そして、この状態に陥 る前の状況が過ぎる。

「そうだ、確かあの時罠に掛 かって…」

ジェスと共にこの岩塊に取り付いた時、岩塊の奥に設置された砲台。どうやら、対感セ ンサーが備わっていたものらしく、近づいた熱反応に自動的に発泡するようにプログラムされていたようだった。

そして、咄嗟に攻撃を防ごうとシールドを取り出し、アウトフレームを庇ったはずだ。

「そうだっジェスさんっ」

慌ててモニターの画面を移動し、アウトフレームを捜しながら通信機に向かって叫ぶ。

ほどなく、セレスティのすぐ間近に岩塊に埋まるアウトフレームが見つかり、通信機か らジェスの声が返ってきた。

「マ、マコトか…無事か?」

「俺は無事です、ジェスさん の方は?」

「俺の方もなんとか無事だ」

互いに無事を確かめ合い、ホッと安堵をつくも、すぐさま状況を判別し、表情が苦くな る。

あの衝撃で進入した入口が完全に落盤で塞がっていたのだ。

「閉じ込められちまった か…」

「そうみたいですね」

岩塊から身を起こし、なんとか自由に動けるようになったアウトフレームがサイドから ビームサインを取り出し、穴内を照らす。

明るくなった影響でなんとか互いの機体の存在を確認し、マコトは自機の状態をチェッ クする。

「シールドはやられちまった か…おまけに左腕の回路もどっかイかれちまったか」

携帯していたシールドは先程の砲撃で消失。よくよく考えれば、よく左腕ごと持ってい かれなかったものだと思うと身震いする。

だが、その影響か、左腕の動きも微かに鈍い。詳しくは解からないが、電子系統がやら れたかもしれない。

「ライフシステムは無事か… ジェスさんはどうですか?」

「こっちはわりいな…ショッ クでスラスターがやられちまったし、ライフシステムどっかやられたらしい」

アウトフレームは被害が深刻のようだ。スラスターがやられたとなると姿勢制御が難し く、宇宙に出れば満足に動くのもままならない。

「這い出るのは無理みたいで すね…連絡するのも救助を待つのも無理、か」

穴は完全に塞がっており、厚さがどの程度かは解からないが、少なくとも今のセレス ティとアウトフレームでは壁を破壊する程の火器は持っていない。加えて先程の影響か、電波生涯も起こっており、外部に連絡を取るのもレーザー通信も不可。 トドメとばかりにライフシステムも不調。

酸素も長くは保たない…このままでは窒息死してしまう。

「マコト…わりい」

「え?」

逡巡していたマコトは唐突に謝罪したジェスに思わず声を上げる。

「俺が勝手なことしたばっか りにお前まで巻こんじまって」

自分の好奇心がこの事態を呼び込んだ。ジェスにしてみれば自業自得だが、マコトはそ れに巻き込まれただけ。カイトからよく言われていた。好奇心猫を殺す、自分だけならいざ知らず、マコトまで巻き込んでしまったことに自責の念にかられる ジェスだったが、マコトは苦笑を浮かべて被りを振った。

「言いっこなしですよ。こう いった状況に慣れてますし、それより今はなんとかしてここを脱出することだけ考えましょう」

流石にあの罠には意表を喰らったものの、マコトも仮にもジャンク屋。こういったアク シデントに遭遇しなかったことなどない。問題は起こってしまった過程よりもそれをどう収拾するかがトラブル・コントラクターとして生きていくための条件 だ。

マコトの言葉にジェスもやや表情を和らげ、頬をかきながら頷き返す。

「そうだな…取り敢えず、中 を調べてみっか」

この空洞…単なる岩塊かと思ったが、自然にできたにしては整った坑道になっている。 もしかしたら、何かの施設だった可能性も高い。

頷きながら、アウトフレームがセレスティの肩に手を貸し、不調になったスラスターに 代わってバックホームから飛び出したクレーンアームが伸び、MS2機がどうにか動ける程度の坑道内を突っ張りながら奥へと進むために動き出す。

奥へと向かうなか、マコトは今一度崩れた岩塊に潰された砲台を見やる。これがこの坑 道内に元々設置されていたもので、偶然動き出したものなのか…それとも、誰かが故意にこの装置を稼動させたのか……だが、と思わず考え込む。

もし前者なら、まず間違いなくセンサー範囲に接近した自分達の不注意だが、後者だっ た場合は、その目的が問題になる。

自分達が標的になるようなことは恐らくない…もし狙われるとすれば、それは自然と絞 れる。

(あの時の狙いは…シンだっ たのか?)

自身に向かって問い掛ける。

あの砲撃の射線とインパルスの飛行軌道は一瞬だが交差していた。だが、それはあくま で自分の都合のいいこじつけに過ぎない。

「カスミの予感、当たった な」

苦い口調でぼやくように呟く。

出発前にカスミが感じていたのはこれだったのだろうか…だが、そのおかげでシールド を携帯し、あの攻撃に耐えることができたのだ。そして、それを予感したカスミに感謝の念と不審な思いが沸き上がってくるも、今はそれ抑え、この場よりの脱 出を考えようと意識を切り替えた。

バックホームのクレーンアームで狭い坑道内を進んでいた2機。ビームサインを翳しな がら薄暗い坑道内に激突しないように細心の注意を払いながら周辺を窺っていた。

「古い坑道みたいだな、MS の残骸もあるし」

「何かの採掘基地だったんで しょうか」

坑道内には連合のダガーの残骸が点在し、採掘用の重機や観測施設なども存在してい た。今は完全に無人のようだが、この岩塊も旧大戦時には連合軍の何かの施設だったのだろう。だが、あるのは残骸と古ぼけた施設ばかり。脱出路は愚か、灯り さえ見えない。

どれ程進んだのか、やがて2機は坑道を抜け、やや広大な空洞に到達した。

中心部だろうか…ビームサインを振り、周囲を確認すると、ドーム型の天井形状の空洞 だった。だが、通路はそこで途切れ、完全に行き止まりになっていた。

「基地を放棄するときに出口 塞いじまったのか…マズイな」

渋い表情でジェスは舌打ちする。

空洞の奥の方に人工的に塞がれた坑道が見え、完全に閉じ込められたことを再確認させ られた。

マコトもビームサインで他に道はないか捜すように照らし出すと、やや離れた場所に放 棄されたMSの残骸を発見された。

「105ダガーか」

発見したのは上半身だけのMS。旧連合の制式量産型MSのGAT-01A1:105ダガーだった。今では既にダガーLと並んで生産が打ち切られ、限定生産に留まってい るだけの機体だ。別段、眼を引くものではないとばかりに一瞥しようとしたが、それに気づいたジェスが声を上げた。

「ちょっと待ってくれ!」

突然の大声に面喰らうも、ジェスは気にも留めずビームサインを向け、105ダガーの 残骸を確認する。

「ストライカーパック付き か」

漏らした一言に反応し、マコトももう一度眼を向ける。確かに、105ダガーのバック パックにはストライカーパックが装着されている。巨大な砲身を持つ銃、それは砲撃用のランチャーストライカーパックだった。

見たところ、105ダガー本体は既にスクラップ同然だが、ランチャーストライカー パック自体は無傷に近い。

だが、これだけでは役に立たない。ストライカーパックはそれと接続できるコネクター を持つ機体でなければ使用は不可能だ。

「そうだっ8!」

【解カッタ】

唐突に叫ぶジェスにマコトは眼を丸くする。

「な、何ですか急に?」

「まあ、見てろって」

困惑するマコトに向かってニカっと笑い、ジェスはアウトフレームのバックホームを接 続解除した。

音と共に外れ、周囲に浮遊するバックホーム…その後からは、接続コネクターが覗いて いた。驚愕するマコトを横にアウトフレームは105ダガーに接近し、ボディからランチャーストライカーパックを外し、それをゆっくりと自機の背後へと移動 させていった。

 


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