その頃…外では、未だにデブリが激しく飛び回り、翻弄されるカイトのジンアサルトの 姿があった。

なんとか岩塊に接近しようとするも、岩塊の周囲を囲うように飛び交うデブリが網目の ように襲い掛かり、なかなか進めずにいた。

両肩のサイドバルカンでデブリを破壊するも、この状況では焼け石に水。すぐさま別の デブリが後ろから迫り、舌打ちしながら操縦桿を引き、デブリを回避する。

重武装のジンアサルトでありながらこのデブリの嵐のなかを無傷で行動しているカイト の腕は驚嘆に値するも、今のカイトには焦燥しか浮かんでいない。

またもやデブリが迫り、それを回避する。

「くっデブリめ!」

好転しない状況に毒づくが、その時通信が飛び込んできた。

「そこのジン! 離れろっ」

「あん?」

やや不機嫌そうに眉を寄せ、通信を送ってきたと思しき相手を確認しようと機体を止 め、背後を見やるとやや離れた位置に一体のMSが佇んでいる。

「インパルス…っ!?」

眼を見開くカイト。インパルスはブラストシルエットを装備し、主武装のケルベロスを 展開し、砲口を向けている。

コックピット内でシンはスコープを引き出し、照準を定める。ステラにナスカ級まで 戻ってもらい、予備のレッグとブラストシルエットを換装し、再出撃した。このデブリが飛び交うなかではフォースシルエットの機動性はさして役に立たない。 ならば、そのデブリを正面から粉砕し、道を切り拓くしかない。それが可能なのは大火力を備えるブラスト形態のみだ。

照準のスコープが動くなか、シンは微かに頬に汗を浮かべる。もし少しでも狙いがずれ れば、デブリの流れは予想もできない方向に向くだろう。デブリの流れに道を作らなければならない。

「マコト、待ってろよ」

この奥で待っているであろう親友を助けるため、シンは全神経を集中して狙いを定め、 やがてスコープが最適なポイントでロックされた瞬間、トリガーを引いた。

インパルスより発射される高エネルギーの奔流はデブリを薙ぎ払いながら、真っ直ぐに 向かっていく。

デブリを突っ切り、やがてそれは問題の岩塊の直上を掠め、虚空へと霧散していく。

その衝撃でデブリの流れが鈍り、真っ直ぐな道が開かれ、カイトは表情を緩めた。

「どうやらエースというのは あながち誇張でもないかもしれんな。ありがたいっ」

カイトにしては珍しく相手を称賛し、機動性を増すためにジンのアサルトパーツを解除 し、身軽な状態となったジンはインパルスの作った道を一気に加速して進んでいく。

岩塊に到着すると、すぐさま張り付き、通信に向かって叫んだ。

「この中か、ジェス、マコ ト!」

あらん限りの声で叫ぶも、返ってくるのはノイズばかり。通信が不通になっている事態 に舌打ちし、岩塊の内部への道を探すも、あの衝撃で完全に埋まっていた。

「くそっ完全に塞がってやが る」

歯噛みし、別の道を探そうと身を翻そうとした瞬間、突如岩塊が大きく揺れた。眉を寄 せるカイトの眼の前で、岩塊の内部からビームが突き破るように飛び出し、岩塊の表面を吹き飛ばした。

「ジェスかっ!?」

慌てて接近し、ポッカリと開いた穴に向かって身を乗り出すように覗き込むと、その下 では2体のMSが佇んでいた。

ランチャーストライカーパックを装備したアウトフレームとセレスティがアグニの砲身 を構え、その姿を確認した瞬間、カイトは思わず呼び掛けた。

「おいっジェス、マコト!  無事か!?」

「カイト、良かった〜」

「助かりましたね」

通信越しに安堵の声が響き、カイトも思わず肩から脱力してしまい、息を吐き出す。そ して、ジンは坑道内に飛び込み、損傷の激しいアウトフレームに肩を貸し、セレスティも反対側から機体を支え、3機は坑道内を飛び出し、ナスカ級への帰還に つく。

「済まなかったな、俺が勝手 な行動をしたばっかりに……」

申し訳なさそうに謝罪するジェスにカイトは軽く眼を閉じ、表情を顰める。

「いや、お前らを行かせた俺 の責任だ」

護衛が護衛対象を放っておいたのは重大な過失だ。プロとして自負するカイトからして みれば、仕事に私情を持ち込んだということになる。いくら今回のことがジェスに責任の一端があるとはいえ、どんな状況、状態であれ仕事を遂行するのがプロ だ。

やや自己嫌悪しながらも、カイトは表情すぐさま呆れたものに変え、睨むように呟く。

「が、これからはあまり手間 をかけさせるなよ。危なっかしくて見ちゃいられんからな」

釘を刺すように言い放つが、野次馬のジェスにそれは難しい注文だった。ジェスも苦笑 いで応じる。

「ははっ言ってくれるぜ」

流石に今回ばかりは素直に応じるジェス。そのやり取りにマコトも同じように苦笑を浮 かべていたが、ふと疑問に思ったことを口にした。

「それにしても、よく坑道内 で見つけたストライカーパックが使用できましたね?」

そう…坑道内で発見した105ダガーが装着していたランチャーストライカーパックを アウトフレームが機体にドッキングしたものの、アウトフレームだけではエネルギーが足りず、セレスティからも外部コードを接続してようやく一発発射できる だけのエネルギーを確保できた。

肝心のアグニも既に破棄されていたものだけにあの一発だけで砲身のエネルギーライン がショートし、使用不可になっていた。だが、マコトが疑問に思ったのは何故アウトフレームがストライカーパックを使用できたかという点だった。

「本当におかしな機体だな。 ザフト製なのに連合の装備が使えるとは」

カイトもアウトフレームを批評しながら頭を捻る。以前、ストライカーパックの換装機 能を見抜き、アウトフレームにエールストライカーを装着させたことはあったが、ああまで見事に上手くいくとは正直思っていなかった。

マコトも同じように首を傾げる。あの状況では助かったが、連合のストライカーパック 換装機能を持つ機体は少ない。ましてアウトフレームはそれらの量産機種とも違う。

だが、ジェスにはそれに答える答を持ち合わせていなかった。

「それはロウ=ギュールに 言ってくれ。いじったのは彼なんだから」

責任転嫁じみた言い訳だが、実際問題、ジェスはこの機体を借り受けているだけで造っ たのはジャンク屋のロウ=ギュールだった。

停戦中にジェネシスαの取材に向かったジェスはそこでジェネシスαを巡る戦いに巻き 込まれ、当時乗機にしていたレイスタを破壊され、その代わりとして火星に行く準備を進めていたロウがこの機体を貸してくれたのだ。

そのため、どういった機能があるのか、全貌をジェスは聞かされていない。

言葉を濁すジェスにマコトとカイトもそれ以上問おうとはせず、3機はデブリ帯を抜け てナスカ級に向かって飛行した。

 

 

その様子をデブリの外側で見詰めるシン達。無事にデブリ帯から飛び出してくる3機の 姿に思わず息を吐く。余談ながら、ナスカ級にいるベルもアウトフレームの姿を見て無意識に安堵の息を漏らした。

「シン、よかったね」

インパルスに寄るセイバーからステラの安堵の声が聞こえ、シンも表情を緩める。

「ああ」

親友の機体が無事な姿を見て、肩の力が抜ける。

リーカやコートニーも似たような表情で無事な姿を確認していたが、唯一人…後方に位 置するアビスのコックピットで、マーレは顔を伏せ、ギリっと奥歯を噛み締めた。

「ちっ、悪運の強い奴らだ」

嫌悪感を漂わせた舌打ちは霧散し、誰にも聞こえなかった。だが、確実にマーレのなか で何か黒い感情が渦巻くのを感じていた。

3機の姿が確認でき、リーカは思わずアウトフレームが装備している物に気づき、眉を 寄せた。

「コートニー…アウトフレー ムのアレって連合の……」

問いかけられたコートニーもリーカの指している物に同意見なのか、頷き返す。

「ああ、ランチャーストライ カーパックだ…やはり」

一度…南米でジェスと初めて逢ったとき、彼の乗機であるアウトフレームの姿を見たと き、コートニーは奇妙な既視感に捉われた。

元技術開発部所属のコートニーは、初期から開発されてきたザフトの兵器のデータに眼 を通している。そして、アウトフレームの機体形状に近い機体が在ったことを思い出した。

そして、アウトフレームが装備しているランチャーストライカーパックを眼にした瞬 間、それは確信に変わった。

「ジェスの機体は登録抹消さ れたナンバー06…ジェネシスαに保管されていた連合のGAT-X105を研究するための試作 機………プロメテウス」

低い声で呟くコートニーの前で、3機はインパルス、セイバーに随行されながらナスカ 級の着艦コースに乗る。

それを見詰めながら、コートニーは表情をやや難しげに顰める。

「この事を知ってあの機体ご とジェスを呼び寄せたのか……?」

独り言のように囁かれる疑問…だが、それに答えるものはなく、漠然とした疑問に思考 を巡らせつつ、コートニーも帰還に就いた。

こうして、波乱はあったもののインパルスのデブリ帯での飛行・合体試験は無事に終わ りを告げた。





アーモリー・ワンより場所を変え…地球衛星軌道。

衛星軌道に位置する民間のステーション。かつての月やコロニー群との中継基地として 存在していた世界樹コロニーがA.W.で崩壊した今、地球各国からの宇宙への行き来は制約されたも のへとなっている。

それらを解消するために、ジャンク屋組合を中心に各国のNPOが民間で宇宙ステーションを建造し、その運用によって発生する各利潤を各国支援へと協議することで任さ れている。

民間の宇宙開発自体が停滞している今、こうした活動も制約あるものではあるが、それ でも大規模な宇宙港やコロニーを所有しない地球国家にとってはこの存在は重宝していた。

打ち上げだけで目的地まで向かうにはかなりの推進剤とエネルギーを要する。それを賄 うにはまだ難しく、一度大気圏離脱時に補給せねばならない。

そして、民間のシャトルが飛び交うなか、一隻の大型シャトルがステーションより離脱 し、エンジンを噴かし、ゆっくりと加速していく。

離れていくステーションに誘導灯で合図を送り、その様子をシャトルの客室の窓から見 詰める人影。

濃い茶の髪を靡かせ、髪の根元でリボンを括っている。温和な表情を浮かべるスーツ姿 の女性。その女性の傍に無重力のなかを浮遊しながら近づく人影。

こちらは蒼い長髪を靡かせる人物…服装は純白を基調とした軍服に身を包んでいる。そ して、左腕には白い真四角の中央に陽の丸が刻印されたエンブレムをつけている。

その人影に気づき、振り向いた女性が微笑む。互いの持つ漆黒の瞳が交錯する…その瞳 には同じ顔が映されている。

「斯皇院外務官、アーモ リー・ワンへの到着は約36時間後です。それまではごくつろぎください」

高い声で発する人物に女性は微笑みながら頷き返す。

「ご苦労様です、真宮寺曹 長」

「いえ、これが僕の任務です ので」

敬礼する真宮寺と呼ばれた人物。だが、その態度にますます表情を緩め、抑え切れない のか、笑みを噛み殺すために口元を手で抑え、くぐもった声がこもれている。

その態度に表情をやや顰め、困惑する。

「貴方もそうやって凛々しく してると、本当に素敵ね。刹那ちゃん」

唐突に発せられた言葉に、刹那と呼ばれた人物は表情が崩れ、やや狼狽する。

「ちょ、ちょっとやめてよ 雫! ちゃんづけは!」

「どうして? 可愛いの に?」

首を傾げる雫に刹那は叫び上げるように声を上げた。

「僕は男なの! からかわな いでっていつも言ってるだろっ」

顔を赤らめ、必死に言い募る刹那…外見はどう見ても女性に見えるが、れっきとした男 だった。

「でも、多分皆そう思わない よ。帝も相手への意表を衝けるんで貴方を就けたのかもしれないし」

からかうような意地悪な表情を浮かべる雫に先程までの凛々しさはどこへやら…すっか り途方にくれた刹那は肩を落とし、大きく落ち込む。

「クスクス、冗談だって」

慰めるように弁解するも、もはや遅し…むしろ、今は罵ってくれた方がありがたいと思 うぐらい、刹那の心情はダメージを受けていた。

「もういいよ…慣れたし」

諦めたような表情で溜め息を零し、刹那は雫の横に腰掛ける。

「まあ、お喋りはこれぐらい にして……今回の件は、帝もかなり慎重になられているのだと思う。今、日本の立場はかなり微妙な位置にあるしね」

表情が神妙なものに変わり、雫は窓から見える地球に視線を向ける。その表情に刹那も やや表情を引き締め、眉を寄せる。

彼らの祖国…地球の極東に位置する小さな島国。大日本帝国…呼称:日本。かつて、大 西洋連邦の母体となった旧合衆国に第3次大戦後に併合され、国名を失った。だが、数年前を機に独立し、再び国としての名を取り戻した。

だが、それは決して勢いだけでどうにかなるような問題ではない。国内外において大き な問題を抱え、いつ国の基幹自体が危ぶまれるか解からない微妙な位置にいる。

「我が国とプラントとの国交 は無かったしね。でも、今はそうはいかない…今の世界情勢で、プラントの立場を無視する訳にはいかないしね」

「うん」

大西洋連邦の一区であった時代は、大西洋連邦より輸出されるプラントからの輸入品の みであり、それ以外は規制されたなかにあった。故にプラントとの国交はなく、今回の国交を繋げるために派遣された。

今現在、国内にはコーディネイターの居住率も少なくはない。そういった意味合いもあ るが、プラントとの国交を持つことにはなにより別の側面もある。

「大東亜連合はやはり?」

「ええ。まだ表立った行動は 起こしてないけど、芳しくはないわね。何かあれば、すぐさま行動を起こすかもしれない」

表情を顰める。

日本のほぼ隣に位置する大東亜連合の中枢である東アジア共和国、そしてロシア連邦。 なによりロシアには生産エネルギーである天然ガスの埋蔵量が高く、大東亜連合の軍部の司令部が設置されている。

そして、日本は緊張した状態のなかにある。大東亜連合の外交官と何度か会談したもの の、日本に連合内に加盟するようにとの申し出が多い。

そもそもの日本が独立できたのもひとえに高い技術力を確保できたからだ。この2年間 で独自の軍事力を持つにまで至った技術力に眼をつけられた可能性が高い。

「でも、天乃宮帝は大東亜と の同盟は望んでいない」

「うん。そのために今、四門 陣が国内の警護に就いてるし…近衛軍の一部隊も勅命を受けて動いてるって話だし」

緊迫した情勢のなか、いつ戦端が切ってもおかしくない状態では、少しでも打てる手を 打たねばならない。

そのために、雫と刹那はアーモリー・ワンへと赴くのだ。

「でも、貴方を同行させたと いうことは、例の件絡みで?」

「解からない。でも、それも 含まれてると思う」

今回のアーモリー・ワンへの来訪……プラント本国ではなく、わざわざアーモリー・ワ ンに会談の場所を指定してきた。この会談自体が対外に内密とはいえ、自分達を本国へと招きたくはないという意図か…どの道、デュランダル自身がわざわざ会 うと伝えてきたのだ。なら、問題はない。

そして、刹那が同行を指示されたのは……

「例の計画はやはり伊豆基地 で?」

「うん。ハワイ基地と同時進 行になると思う。向こうには何人かが行ってるし、それにもうすぐ試作機がロールアウトするって聞いてる。まあ、今はあまり構えてても仕方ないし。念のため 吹雪も持ってきたけど、何もなければそれに越したことはないしね」

はにかんだ笑みを浮かべ、そう呟く刹那に雫も表情を緩める。

「そうね。私達は別に争うた めに行く訳じゃないし」

喧嘩を吹っかけにいくわけではない。今回もあくまでは国交を持つための第一段階に過 ぎないのだ。交渉がスムーズに進めば、帝自身がデュランダル議長と会談の場を設けるだろう。

そして、二人は無言のまま…機内で虚空を見詰める。

 

 

―――――真宮寺刹那

―――――斯皇院雫

 

 

大日本帝国に属する二人を乗せ、シャトルは一路アーモリー・ワンへの進路を取る。そ こが…新たなる運命渦巻く場所と知らず…………





数時間後、ナスカ級はアーモリー・ワンに無事帰還した。

セカンドシリーズ5機はハンガーに固定されたまま、工区へと運ばれていく。そして、 セレスティら3機もまた別の区画へと運ばれていく。

「しかし、本当に無事でよ かったよ」

「ああ、シンにも礼を言って おくよ。おかげで助かった…でも、わりい」

艦から降りたマコトらはそのままタラップを歩き、ドック内に降り立つ。そして、マコ トはシンに向かって先の件での礼を述べる。

あの時、カイトのジンの道を作るためにわざわざ装備換装して再出撃したそうだ。当 然、アレが罠として彼らには後退・待機が発令されたはずだが、シンはそれを無視して行動を起こした。マコトらにしてみればシンの行動は感謝ものだが、軍と して見た場合は命令違反ということで懲罰ものだろう。

気遣うマコトにシンは肩を竦めながらマコトの肩を叩く。

「いいっていいって、始末書 一枚で済む話だし。気にすんなって」

大事なセカンドシリーズを危険に晒したとして、どんなにその行動が正しくても、軍と いう組織ではそれが赦されない。軍規はあくまで規律としてあるのだ。

だが、シンはそれ程気に留めておらず、マコトも苦笑を浮かべつつ頷き返す。

「けど、当面外での演習はで きないわね」

何気に漏らしたリーカの一言にコートニーが応じる。

「ああ。どちらにしろ、罠の 可能性が高い…演習場の調査が終わるまで、無理だろう。スケジュールは遅れるかもしれないな」

あの件が事故にしろ故意にしろ、演習場で予想外のアクシデントが発生したのだ。その 原因がはっきり解かるまでは極秘機であるセカンドシリーズは演習を制限されるだろう。

「フン、貴様らが余計なこと をしたおかげで俺達にまでとばっちりがきた。これだからナチュラルは」

鼻を鳴らし、侮蔑するマーレに全員の視線が集中し、ジェスは苦虫を踏み潰したように 顰め、カイトは憮然としている。

「おい、マーレ」

流石に見逃せなかったのか、シンが声を掛けようとするがそれを遮るようにギロリと視 線を向け、口を噤む。

不遜な態度だが、事実だけにマコトも無言で黙り込んでいるが、表情だけは顰まり、そ の視線にマーレは無視したまま、離れようとする。

格納庫を出ようとした瞬間、入口付近でドアが開き、マーレの身体に軽い衝撃が起こ り、微かに息を呑み、眼を開ける。自身の下で尻餅をつく人影。

「カスミっ」

その人物を視界に入れたマコトが声を上げる。

「カスミちゃん、大丈夫?」

マーレと出会い頭にぶつかったカスミ。そのカスミに寄り、気遣うように支えるマユ。 マコト達の帰還を聞き、マユが誘い、迎えにきたのだが…顔を上げ、その視線がマーレを捉える。

まるで無機な…深いその瞳に凝視され、マーレは妙な居心地の悪さに舌打ちし、睨みつ けるように視線を向ける。その高圧的な視線にマユはややビクっと表情を顰めるも、カスミは変化しない。

「……貴方は、怖いの?」

小さく囁かれた言葉。

マーレは微かに息を呑む。『怖い』というカスミが発した言葉……その一言と、凝視す る金色の鈍い輝きを発するその瞳に見透かされたような羞恥にマーレは奥歯を噛み締め、無意識に拳を振り上げた。

乾いた音が響き、その場にいた全員が驚愕に眼を見張る。

振り下ろされたマーレの拳…そして、微かに腫れあがるカスミの頬。次の瞬間、カスミ に向かってマコトは駆け寄り、体勢を崩したカスミを抱き起こす

「カスミっ、大丈夫か?」

切羽詰った表情で問い掛けるも、カスミは無言のまま…腫れた頬を押えようともせず、 まだその瞳をマーレに向けている。

「ぐっ、その眼をやめろっ」

再び表情を歪め、睨むマーレにマコトは表情を怒りに染め、振り向き様に拳を振り上げ た。

「このっ」

相手がザフトのパイロット、そして自分の立場…それらはもはやマコトの内から吹き飛 んでいた。大切な者が傷つけられたという怒りに……マコトは我を忘れるように拳を突き出す。

シンらの制止も聞こえず…だが、突き出された拳はマーレによって掴まれ、止められ る。

「ぐっ」

握り締められる拳から感じる痛みにマコトは表情を歪める。いくら不意打ちに近かった とはいえ、マコトは所詮ナチュラルの民間人。対し相手は訓練を受けた軍人だ。当然、力の差があり、握り締める拳から軋むような音が響く。

「ナチュラルの分際で…この 俺に楯突く気かっ」

低い声で掴んでいた拳を引っ張り上げ、鋭い衝撃がマコトの腕を伝って関節に伝わり、 マコトはますます表情を歪めるも、次の瞬間には腹部に響いた衝撃に眼を見開いた。

「がっは」

空いた腹部に目掛けてマーレの拳がめり込んでいた。逆流しそうな嘔吐感にマコトは呻 き、離された瞬間、膝をつく。

「マコトっ」

慌てて駆け出し、マコトに駆け寄るシン、ステラ、リーカ。

「おいっしっかりしろ…マー レ、てめぇ」

マコトを気遣い、マーレに対し怒りの眼を向けるも、何処吹く風とばかりに鼻を鳴ら す。

「先に手を出したのはそっち だ。身の程を知らんナチュラルらしいがな」

どんな理由であれ、手を出したのはマコトが先…カスミの件云々含めても最終的にはマ コトの方が分が悪い。事を荒立ててれば、マコトはザフトに拘束されてしまう。

それに気づいたシンは悔しげに歯噛みする。自分が手を出せば、間違いなく上層部への いい口実になる。感情を抑制できないパイロットなどとなれば、セカンドシリーズの正式パイロットから降ろされる。それだけならまだいいが、そうなってし まっては自分を推薦したデュランダルらに泥をつける結果となる。

マーレも同じ結論なのか、かかってこないことに対し不満げであったが、それもマコト から発せられた言葉に思考が止まる。

「カスミを傷つけるのは、赦 さない」

表情を痛みに顰めながらも、気丈に睨むような視線を向けるマコトに、マーレは内に渦 巻いていた不快感がますます沸き上がる。

「フン…赦さない? そんな 様でよくそんな口をきけるものだな。いいだろう…身の程という奴を教えてやる。二度とそんな口が聞けないようにな」

その言葉に微かに困惑するマコト。

「マーレ、何する気?」

リーカがマーレを制するように立つも、マーレはリーカを振り払い、マコトの前に立 つ。

「貴様、MSに乗っていた な…なら、MSで俺と戦え。貴様が勝てば、さっきの言葉は撤回してやる」

息を呑むマコト。MSで勝負…その言葉を思考が理解するのに僅かに時間が掛かった。

「ナチュラルが素手で俺に敵 うか。なら、MSでこの俺を黙らせてみろ…それとも、貴様は腰抜けか?」

挑発するような物言い…事実生身では今のマコトは逆立ちしようともマーレに敵う見込 みはほとんどない。だが、MS同士での戦いなら、MSの操縦と経験に長けた者が勝つ。ただ性能だけで勝てるような甘いものではない。

それでも、利口な者ならそんな勝負を受けはしない。いくらなんでもナチュラルの操縦 するMS…しかも民間人の機体にコーディネイターの軍人が操縦するMSに勝てるはずがない。だが、マコトにはそんな事はどうでもよかった。

あるのは唯一つ…妹を…自分にとって護るものを傷つけられたという怒りだけ。

「……解かった、俺が勝った ら、カスミに謝ってもらう」

一拍置いて答えたマコトにシンが驚愕に眼を見張る。

「マコト、お前何言ってん だ!?」

流石に正気とは思えない。マーレの腕はシンから見ても高い。そんなマーレを相手に戦 闘に関して素人同然のマコトが敵うはずもない。

押し留めようとするシンだったが、マコトの眼を見た瞬間、息を呑み、口を噤む。

「いいだろう…貴様が勝てれ ばだがな。一時間後、第3演習場でな…俺とナチュラルの決定的な差を教えてやる」

覚悟しておけとばかりに一瞥し、マーレはその場を歩み去っていく。

残された一同のなかで、シンはマコトに肩をかしながら起き上がらせると、やや咎める ように見やる。

「マコト、お前自分が何をし ようとしているのか解かってるのか?」

「……ああ」

未だ痛みに表情を顰めながらも、なんとか頷き返す。

「どんな処罰を喰らってもい いさ。けど、あいつだけは赦せねえんだ」

正直、自分がしでかした事は大事だ。正規兵への反抗、おまけに極秘プロジェクト取材 中の不祥事ということで最悪、拘束される可能性もある。だが、どうしても赦せないのだ…ナチュラルであることを見下されたからではない。

自身の護るべきものを傷つけられたことに…それで引けるほど、マコトは人ができてい ない。

「無茶だって解かってる。で も、俺は……あいつと戦う」

静かな決意を秘め、カスミを見やりながら、マコトは意志のこもった瞳でマーレが消え ていった通路を見詰め、シンらは複雑な表情のまま口を噤む。

そして、カスミだけはそんなマコトを静かに見詰めていた。

 

 

 

一時間後……アーモリー・ワンよりやや離れた演習地帯。

先のセカンドシリーズの試験に使用された第1演習場とは違い、ここはもっと激しい戦 闘が行われた場所であった。

戦艦やMSの残骸が大きく漂うこの第3演習場は、整備がまださして行われておらず、 また使用頻度も少ないことから、半ば廃棄場としての面が強い。

そんな宙域の間近に接近する一隻の艦。通常の軍艦と違い、輸送艦に近いその艦の発進 口から、2機のMSが発進する。

一機はマコトの乗るセレスティ。そしてもう一機は…マーレの搭乗するジンであった。

2機は輸送艦より離れ、距離を空けて静止し、互いに向き合う。

コックピットに座るマコトは緊迫した面持ちでモニターに表示されるジンを見詰めてい る。

ZGMF-1017:ジン…機体はノーマル仕様みたいだな」

眼前で佇んでいるのはマコトにも馴染み深い機体だ。前大戦において戦場に初めて登場 したMSの第一号機。当然、ジャンク屋組合でも幅広くその機体やパーツは流通している。純正であれコピーであれ、マコトも何度か取り扱ったことがある。

宇宙空間での運用を前提としている機体だけに、このフィールドではその能力を十二分 に発揮できるだろう。

セカンドシリーズのアビスを使用されれば、まず間違いなく勝機は1%も無かったかも しれないが、それでも分が悪いことに変わりはない。

《フン、よく逃げださなかっ たな。それだけは褒めてやる》

嘲るような物言い。だが、マコトは無言のままだ。正直、こうして対峙しているだけで も相手の殺気めいたものがひしひしと肌をつたってくる。手が汗ばみ、息を呑み込む。

「何故ジンで…?」

《貴様相手にアビスで勝った としても何の自慢にもならんからな。最も…貴様相手ではジンでも保たんかもしれんがな》

ふと思った疑問に嘲笑で答え、マコトは言い返せず、口を噤む。

《二人とも聞こえる?》

緊張した空気を纏うマコトの耳に輸送艦のブリッジからリーカの声が届く。

《今回は火器の使用は禁止。 武装はペイント弾のみ、規定値以上のペイントを機体に受けた場合、もしくは行動不能になった時点で勝負ありとします》

ペイント弾を装填したライフルを構える。それ以外の実弾及び携帯火器は使用禁止。あ くまで模擬戦の範疇で行う。ペイントを受けた時の量で互いの機体にインストールされたセンサーが判別し、勝敗を規定する。もしくは行動中にバッテリー及び 推進剤が切れて行動不能になった時点で負けが決定する。

《ああ》

「解かりました」

マコトとマーレが頷き返す。

そして、互いに銃を構え、身構える……睨み合うように静止するなか、輸送艦より模擬 戦開始の空砲が発射され、刹那…セレスティとジンのカメラアイが輝き、互いに向かって突撃した。

 

 

模擬戦が開始されたと同時にそれをモニタリングする輸送艦のブリッジで、シンらと ジェス、カイトが真剣な面持ちでモニターに見入っていた。

「始まったわね」

「ああ」

リーカの問い掛けに近い独り言にコートニーが頷き、ジェスはカイトを見やる。

「なあカイト、お前から見て どう思う?」

カイトのMSパイロットとしての技量を知るジェスはこの戦闘の流れを問うも、カイト は眼を細め、苦い表情を浮かべる。

「はっきり言って勝負になど ならん」

辛辣な言葉だが、それが事実だ。

熟練した軍人と戦闘に関して素人のパイロットでは、勝負になりはしない。相手がジン という旧式機を使用している点を考慮してもマコトが勝てる見込みは万に一つもない。

断言されたジェスも同じように表情を苦く顰めるも、戦闘に関してプロのカイトだけに 説得力があり、反論する術がない。

「マーレったら、なんであん な事…ねえシン、やっぱり止めた方がよかったんじゃない?」

不安げな面持ちで問うリーカ。

この演習も、軍本部には申告していない。言わば、勝手にやっている…セカンドシリー ズパイロットによりレクリエーションとでも言えば、どうとでもなる問題だが、マーレが何故あそこまで絡むのかがリーカには解からなかった。

そして、何故マコトもああまで過剰に反応するのかも…その問いにシンは表情を顰め る。

「止めれるもんなら止めてた けどよ……」

言い淀み、視線を逸らすシンにステラが怪訝そうに覗き込む。

「シン?」

「なんつーか…止められな かったんだよ」

頭を乱暴に掻き、言い捨てるように呟く。

あの眼…ただの怒りではない…大切な者を護ろうとする決意……かつて、自分が宿して いたものと同じものに、シンはマコトに過去の自分を見た気になった。

だからこそだろうか…強行にマコトを止めることができなかったのだ。

黙り込むシンに一同はそれ以上追及できず、視線を再びモニターに向ける。

「マーレはジンだが、経験と いう点では有利。彼の機体は見たことのない機種だが、機体差はアドバンテージにはならない」

互いの状態を分析するコートニー。流石にこのような演習にセカンドシリーズは使えな い。だが、マーレが敢えてジンを使ったのは相手を完全に見下しているからであろう。

いくら旧式機であるとはいえ、パイロット次第では現行機にも劣らない。現にザフトで はまだ現役で使用している部隊もあるほどだ。

対し、マコトの方のセレスティ。コートニーの見解、機動性を重視したスラスターバー ニアに機体装備等から基本性能は高いことを睨んだが、肝心のパイロットであるマコトは戦闘に関しては素人同然だ。

機体性能のアドバンテージはあてにならない。

「ああ、だけど宇宙空間…特 にこの地形が、マコトにとって有利になりゃいいんだけど」

技量が劣っている以上、あとはマコトがどこまでこの地形を有利に活用できるか。それ がマコトにとっての唯一のアドバンテージ。問題は、マーレにそれがどこまで通じるかだ。

「一応、もしものために俺ら も機体用意しておくか」

「うん、解かった」

ただの模擬戦で終わればいいが、先の件もある。おまけにこの艦にはセカンドシリーズ は積んでいない。

訓練用にジンが数機積んであるだけだ。用心に越したことはない。

「一応、こっちでもサーチし ておくわ。この辺はNジャマーの影響も強いし」

模擬戦を見失わないようにリーカはコンソールを叩き、2機のIFFの動きをサーチし、動きを捉える。

(マコト…無茶すんなよ)

シンは今一度モニターを一瞥し、格納庫に向けてジンの準備を促した。

 

 

 

シン達が見守るなか、マコトとマーレの機体はデブリのなかを飛び、互いに銃を向け 合っていた。

「すぐに終わらせてやるっ」

マーレのジンの銃が火を噴き、弾丸が発射される。

「くっ」

歯噛みしながら操縦桿を捻り、弾丸をかわすも、回避行動が大きくデブリに機体をぶつ け、機体のバランスが崩れ、機体が揺さぶられる。

セレスティも銃を構えて発射するも、ジンはスラスターを噴かし、弾道を意図も簡単に かわし、遮蔽物に身を隠す。攻撃が一瞬止まり、その瞬間を狙って遮蔽物から身を飛び出させ、銃を発射する。

撃ち込まれる弾丸をデブリに身を隠し、かわす。弾丸はデブリに着弾し、ペイントが飛 び出す。

攻撃が止み、身を乗り出す。前方がモニターに映し出されるも、そこにジンの姿は無 い。

「っ!?」

気づいた瞬間、セレスティの上部モニターに表示される機影。ジンが上方から高速で突 撃してくる。

「遅いなっ」

眼を細め、トリガーを引く。マコトは歯噛みし、操縦桿を引いて後退する。弾丸は周囲 に着弾し、ペイントとともに破片を飛ばす。

銃を構えて撃ち返そうとするも、照準を合わせた瞬間にはジンはその場におらず、離れ た場所から攻撃を連続で行う。

息をつかせぬ連続攻撃に回避一方になり、弾丸をかわすのに全神経を集中させ、マコト は機体を操作する。

「無駄な足掻きを…さっさと 墜ちろっ」

無駄な抵抗とばかりに侮蔑し、攻撃の手を緩めないマーレ。マコトは一度体勢を立て直 すために操縦桿を引き、機体を後退させる。

デブリが機体を掠めるが今はこの状況より離脱する方が先。障害物のなかへ身を隠して いくセレスティにマーレは舌打ちする。

「何処へ隠れたっ?」

苛立ちながら周囲を窺い、スラスターを噴かせながら、セレスティを捜して飛行する。

距離を取り、戦艦の残骸の格納庫に身を隠すセレスティ。空になった弾倉を捨て、新し いマガジンを銃に装填し、コックピット内で、マコトは乱れる息を少しでも隠そうと息を潜める。

「はぁ、はぁ…流石に、正面 切っての戦いは不利か」

考えるまでもないことだ。

相手は先の大戦を生き延びたパイロット…搭乗機がジンであるとはいえ、こと戦闘技術 に関してはマコトと天と地の開きがある。模擬戦とはいえ、ぶつけられる殺気は本物…それがマコトのなかに言い知れぬ不安を掻き立てていた。

だが、マコトは首を振ってそれを抑え込むように打ち消す。弱気になっていてはダメだ と…もし諦めてしまえば、僅かな可能性すらも失ってしまう。

コンソールを叩き、マコトはジンのデータをモニターに表示させる。技量では勝つのは ほぼ不可能…なら、あとは、機体の弱点を衝くしかない。

ジンは蓄積データも多い分、分析率も高い。そのため、マコトはジンの機体性能データ を解析し、ジンの弱点を探す。

刹那、マコトの背中に悪寒のようなものが走り、半ば反射的に操縦桿を引き、機体を翻 させた。次の瞬間、ペイントが撃ち込まれ、黄色く染まる。大きく開かれた戦艦の発進口に眼を向ける。

宇宙をバックに佇むジンの視界に入る。

「見つけたぞ…コソコソと、 惰弱なナチュラルがっ」

トリガーが引かれ、薬莢を飛ばしながらペイント弾の嵐が襲い掛かり、マコトは回避に 徹するも、飛び散ったペイントが微かに機体に付着する。

それに過剰に反応した瞬間、反応が鈍る…その隙を逃さず、マーレの銃弾がセレスティ を捉える。

肩に着弾し、飛び散るペイント…マコトは舌打ちする。

「くそっ」

セレスティも銃を撃ち返す。狙いもまったくつけていないその弾道をかわすなどマーレ には容易かったが、ここは戦艦内部という閉鎖空間。動きが制限され、マーレも微かに表情を顰め、回避する。

ペイントが飛び散るなか、マコトはセレスティを戦艦内部へと突入させた。

所々に大きな被弾箇所の穴が犇めく戦艦内を疾走し、マコトは先程のペイントのダメー ジを確認する。

受けた量は幸いにまだ判定の出る量ではなかったが、これで大きくハンデをつけられた ことになる。

だが、こちらが圧倒的に不利だということに変わりはない。マコトは思考を逡巡させ る…どうすれば、この状況を打開できるか。

考えを巡らせるなか、セレスティは戦艦のエンジンブロックを抜け、やがて戦艦の格納 庫に辿り着く。格納庫内は被弾した時の影響か、連合のMSの残骸や弾薬などが浮遊している。

下手に動いては爆発を誘発する。マコトは周囲に気を配りながら、格納庫を突っ切ろう とした瞬間、ふと足を止める。

「待てよ…俺は、ジャンク屋 だよな?」

自身に向かって問い掛ける。

マコトは今までマーレと正面から戦うことばかり考えていた。だがそれは、自分から相 手のテリトリーに入るのと同じことだった。戦いはいかに自身の得意とする戦法で倒すかだ。正面切って戦おうとするような戦い方では実戦を勝ち抜くことなど できるはずもない。

それに気づいたマコトはこのデブリや残骸が浮遊するこの演習場自体が自分にとって大 きな助けになる。

そう考えた瞬間、コックピットにアラートが響き、ハッと背後を見やった瞬間、ジンが 姿を現わした。

ジンが銃を発射し、セレスティはスラスターを噴かし、弾道を外し、周囲に浮遊してい たデブリを蹴り、ジンに向かって飛ばした。

「ぬっ」

予想外の攻撃に微かに表情を顰め、向かってくるデブリを防御する。ただの眼晦ましか と思い、弾くように腕を振るう。

「小癪なっ」

毒づきながらデブリを弾き、トリガーを引くもバランスを崩されたため、狙いがズレ、 セレスティは回避し、デブリのなかを突っ切り、後退していく。

「ちっ、機動性はそこそこの ようだな」

ただの民間機かと思ったが、なかなかいい反応を示している。だが、所詮は機体性能に 頼ったもの。後を追おうとジンを加速させようとし、正面の残骸の後方へ回り込んだ瞬間、マーレは眼を細めた。

網目のごとく不規則に漂う残骸とデブリ…セレスティの反応がモニターから消え、視線 を周囲に走らせる。

身を隠せそうな場所は幾らでもあり、それがマーレを苛立たせる。

ジンを進ませようとするも、遮蔽物の密度が濃く、思うように進めず、もたついてい た。レーダーやモニターからは一寸たりとも眼を離さず、注意を周囲に拡散する。ここでの油断は即、死へと繋がると各自が理解しているからだった。

伊達にパイロットをやっている訳ではない…戦艦やMSの残骸をよけ、不発弾などに気 を配りながら慎重に移動する。

姑息な手段を使うと先程までの余裕はどこへやら…全神経を張り巡らせ、周囲を窺うな か、離れた場所で熱反応をセンサーが捉え、ジンのモノアイが動く。

「そこかっ」

振り向き様に突撃銃を乱射し、銃弾が目標に撃ち込まれるも、ペイントが付着した先に は残骸のダガーの上半身のみ。

「なにっ!?」

先程の反応はこのダガーのコンピューターが偶然誤作動したセンサーの反応だった。だ が、神経を過敏にしていたマーレは、その反応を過剰反応してしまったのだ。

「奴はっ?」

ハッと振り向いた瞬間、デブリの影から飛び出すセレスティ。

「おおおおおっ」

咆哮を上げ、マコトはセレスティの操縦桿のトリガーを引き、銃を乱射する。

銃弾の雨に晒されたマーレは舌打ちし、ジンを後退させる。ペイントが機体を掠め、言 い知れぬ屈辱に表情が染まる。だが、後先考えずに後退したため、密集していたデブリがスラスターにぶつかり、動きが鈍る。

一瞬気を取られた瞬間…その隙を、マコトは見逃さなかった。

一気に加速し、ジンに迫るセレスティ。だが、マーレもそんな僅かな油断で素人の機体 に遅れを取るほど腕は低くなかった。

「舐めるなっ」

互いの接近は互いにとっての好機。そして、射撃精度の劣るマコトは確実に当てねばな らず、ジンとの距離を詰めねばならないが、その間合いはマーレにとって攻撃するには充分な間合いだった。

発射される弾丸…真っ直ぐにセレスティへの直撃コースに乗る。加速するセレスティは 弾丸に向かっていくように加速していく。

回避は間に合わない…マーレも…そしてマコトもそれを悟った。

だが、マコトの脳裏にカスミの姿が過ぎり、咆哮を上げた。

「俺は…負けられないんだぁぁぁぁぁぁっ

気迫とともに発せられるマコトの咆哮。それに呼応するようにセレスティのカメラアイ が蒼穹に輝き、マコトは無意識に操縦桿を切った。

連動し、スラスターの一部から小型バーニアが展開され、セレスティのボディを小刻み にブレさせた。

噴出される推進剤がセレスティの重心をずらし、弾丸が機体をほぼ寸前で掠めるように ボディの表面を走り、後方へと流れていった。

「なにっ!?」

その光景に眼を驚愕に見開くマーレ。

回避したセレスティは真っ直ぐにジンに迫り、マコトは銃口を向けた。

「うおぉぉぉぉぉっっ!!!」

マコトの咆哮とともに、セレスティは銃口を構える。

 

 

 

 

 

ジンに迫るセレスティの銃口から…炎が迸った……………

 

 

 

 

 

 

 

 

《次回予告》

 

 

何故戦うのか…何故自ら傷つ くのか………

宇宙の闇に潜み、襲い掛かる 悪意……

 

 

喪った傷みは決して消えず… 少年の内を蝕む………

だから戦う……自ら傷つ く………

たとえそれが…自己満足に過 ぎなくても………

 

それが…『護る』ものなら ば……傷を拭う信念であるように………

 

 

訪れる新たなる出逢いと蠢く 影……

序章は終わりを告げ……ス テージの幕が開かれる………

 

静かに…静かに…………

 

 

次回、「PHASE-06 信念の宇宙」

 

その意志…貫け、セレス ティ。


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