L4コロニー、アーモリー・ワンの宇宙港に向かって航行する一隻のシャトル。

ゲイツRらに随行されながら、ゆっくりと入港していく。港には、10隻近いザフトの 軍艦が寄港し、その様子を一瞥した雫はやや表情を顰めた。

「警備が物々しいわね」

「仕方ないよ、セカンドシ リーズのお披露目もあるし」

刹那はそう解釈するが、同じように表情は優れない。表向きはプラント所有のコロニー とはいえ、このL4宙域にアーモリー・ワンを建造するに至った経緯はあくまでナチュラルとコーディ ネイターの共存という名目の中立コロニーだったはずだ。

だが、実際には内部に軍事工廠を抱え、未だコーディネイターの移民しか募っていな い。無論、まだ時期早々ということもあろうが、これではプラントの軍事施設と変わらない。

「わざわざここへ私達を招い たのは、あくまで牽制なのかもしれないわね」

視線が僅かに細まり、雫は考え込む。

本国へ招かなかったのは、敵か味方かはっきりできない者である以上に、自国の力の程 を示唆させ、交渉の機制を制する意味合いもあるかもしれない。口惜しいが、未だに国としての磐石は弱いのだ。

「でも、大分遅れちゃった ね。本当ならとっくに着いてたはずなのに」

やや疲れを滲ませるように刹那が肩を落とす。

彼らの乗っていたシャトルは、予定では一日早く到着するはずだったが、道中シャトル がトラブルを起こし、そのために到着が遅れてしまった。

雫も表情を欝気味に顰める。会談を申し込んだ側が出向いたとはいえ、時間に遅れたの は確かにいろいろと気まずい。

(これが、余計なトラブルを 招かねばいいのだけど……)

不安を微かに滲ませつつも、雫は表情を引き締め、襟元のネクタイを締め直し、前を見 据えるように背筋を伸ばす。

ここから先は言わば戦いの場…生半可な気持ちでは踏み込むことさえ赦されない。自分 の双肩には、祖国の命運が掛かっているのだ。

「それじゃ、参りましょう か、真宮寺曹長」

口調が先程までの親しいものではなく、どこか事務的なものに変わり、刹那も頷き返 す。

「はい、では」

恭しく礼をし、刹那は控えていた他の兵士に指示を伝えると、雫をガードするように先 導し、シャトルの搭乗口に移動する。

シャトルがゆっくりと港に接舷され、タラップが搭乗口へと伸び、接続されると同時に ハッチが開放し、眩い光が一瞬差し込み、眼を閉じるも…次の瞬間には、港の風景が飛び込んできた。

視線を前へ凝らすと、タラップの先には出迎えの一団が佇んでいた。ピンクの髪を持つ 女性が視界に入り、雫は表情を微かに和らげ、相手もそれに応じて微笑み返す。

「お久しぶりですね、斯皇院 外交官」

「ええ、お久しぶりですクラ イン外務次官」

笑顔で雫と挨拶を交わすラクス。タラップを降りてくる二人をラクスの後ろに立ったリ ンはバイザー越しに見据える。

(斯皇院…確か、天乃宮家を 補佐する十家の筆頭か)

日本の政治体系は独特だ。主権は帝を置く天乃宮家が行い、それを政治、軍事、文化と 様々な方面で補佐する十家。どちらかと言えば、古い血筋を重要視する風習がある。

だが、あの帝が寄越した人物だ。彼女らが、デュランダルの人となりを少しでも見せて くれることを期待しつつ、握手を交わす二人を見詰める。

「到着が遅れると聞いて、心 配しておりましたが、無事でなによりです」

「申し訳ありません。こちら が申したことなのに」

「いえ、構いません。議長も 心配なさっておりました。貴方方の無事の到着を喜んでおいでです」

互いに挨拶もそこそこ、その隣では刹那が事務事項をキラと交わしていた。

「では、搭載機はMSが一機 ですね?」

「はい」

「それでは、担当の者ととも に工廠内へと移動させます。あと、くれぐれも気をつけてもらいたいのですが…」

「解かっています。コロニー 内での起動は許可が必要、ですよね」

今現在、セカンドシリーズのお披露目という重大な矢先に、余計なトラブルを誘発する 要素はなるべく防ぎたい。そんな相手の思惑も察してか、刹那は頷き返す。

「お綺麗な方ですね。斯皇院 さんのご友人の女性ですか?」

刹那の容姿を見やり、そう漏らすラクスに刹那の表情が微妙なものに変わり、雫は笑み を噛み殺すように肩を竦めた。

「あの…僕、男なんです」

弱々しい声でおずおずと答えると、ラクスを含めその場にいたほとんどの者が驚愕に眼 を見張る。

真実かどうかを確かめるために雫を見やると、事実とばかりに頷き返す。その表情は無 論、緩んでいたが。

「し、失礼しました。あまり にお綺麗だったもので」

慌てて謝罪するも、それは女性なら褒め言葉になるのだろうが、生憎と刹那にとっては より傷つく言葉だった。

「いいんです、慣れてますか ら」

どこか泣きそうな表情で哀愁を漂わせながら応じる刹那。だが、奇異な視線を感じ、大 きく肩を落とす。

ラクスも含め、全員が信じられないといった様子だ。まあ、仕方ないだろう。蒼穹の長 髪に女性に近い顔立ちと、軍服姿であることを差し引いても、一見しただけでは女性にしか見えないのだから。

だが、呆気に取られているラクス達に雫は内心、したり顔だった。やはり、刹那を同行 させたのは正解だったかもしれない。うまく相手の意表を崩せたのだから。

「ラク…クライン外務次官、 議長がお待ちです」

固まっていた一同のなかで唯一平然としていたリンがそう話し掛けると、ラクスはハッ と我に返り、慌てて取り繕う。

「あ、す、すいません。で、 ではこちらへ…議長のもとまで御案内します」

上擦った口調で話しながら、誘導し、雫もそれに応じて続く。キラや他の管理官達も慌 てて職務に復帰し、その後に続いていく。

「そう言えば、随分と入港が 遅れましたが、何かトラブルでも?」

正確に言えば、アーモリー・ワンに到着したのは数時間前なのだが、港口の管制からの 入港許可が下りるのが随分時間が掛かった。

「申し訳ありません。式典準 備に加えて、通信施設等でなにか不調があったようなので」

明日に控える式典に備えて今現在入港整理で管制は大忙しで、なかなかスムーズに運ば ないのだが、それに加えて数時間程前から機器の不調が相次ぎ、通信系等の回復に時間が掛かっている。

会話を交わしながら進む一行にリンは最後に続こうとし、その視線が一瞬、シャトルか ら降ろされてくるモノに留まった。

ハンガーに固定された一体のMS。ダークブルーを基調としたカラーリングを持つ機 体。だが、現存するどの機体とも違う形状。

(日本の新型か…セカンドシ リーズの開発地にわざわざ新型機を持ち込むとは……)

かの国は技術力が高い。なら、技術交換も兼ねているのかと…その真意を逡巡しなが ら、リンはその後を追った。

 

 

離れていくリンの背中を、何気ない視線で追う刹那。

(あの人、強い。それ に……)

雰囲気からなんとなくだが解かる。あの身のこなしに気配は、間違いなく相当の修羅場 を潜っている。

そして、その視線が降ろされてくる刹那の機体を捉えたのを見止めた。

(警戒しておいた方がいいか もしれない。吹雪の起動準備、進めておこう)

何も起こらないことに越したことはない。だが、どうやらそう穏便には進まないような 気がする。

(斯皇院将軍がわざわざ吹雪 を持っていけと行ったのは、もしかしてこの事だったのかもしれないな)

不安が胸中に渦巻くも、それを抑え込み、刹那はスタッフに吹雪の起動準備を指示し、 アーモリー・ワン内を見やった。

(雫、気をつけて)

交渉に赴いた雫の安否を気遣うように、刹那は表情を顰めた。

 

 

 

機動戦士ガンダムSEED ETERNAL SPIRITS

PHASE-07 吹き荒れる戦嵐








人々が大勢行き交うなかを溶け込むように混じり、歩みを進める3人の人影。

一番後方を歩く白いドレスに見間違えるような洒落た服を着込んだライトブルーの ショートボブの髪を掻き分け、その街並みを見入るレア。

何もかもが不思議で現実味がないような感触だった。いや、そもそもこんな服装でこう して出歩くことなど今まで無かったような気がする。あったかもしれないが…そんな記憶はない。

思考を振り払い、レアの視線は先頭を進む二人に向けられる。

ダークグリーンの髪と同じGジャンを羽織り、周囲にガンを飛ばすような表情で歩くエ レボスとそれとは逆にこちらは落ち着いた服装で小さな本を読みながら進むステュクス。

彼らは、その容姿と服装が合いまり、コーディネイターしかいないこの街並みでも特に 訝しまれることもなく、極一般的な一市民に見えることだろう。

だが、彼らの目的はこんな茶番に付き合うことではない。

「へっ、ID書き換えたぐら いで随分チェックも甘くなるもんだな」

ペラペラと右手に握るIDを振りながら鼻を鳴らすエレボスにステュクスは読んでいた 本を閉じ、一呼吸置いてから静かに呟いた。

「そのような不当な発言は控 えていただきたいですね。少なくとも、マイナス要素は極力抑えたいですし」

「んだとっ」

睨むように突っ掛かるエレボスだが、ステュクスは涼しい表情のまま、歩みを進め、愛 想の無い奴と内心毒づき、舌打ちしながら後を追う。

粗暴なエレボスと理知的なステュクス…ある意味正反対な二人ではあるが、そんな部分 がうまく補完しあっているからこそ、自分達はこうして一緒にいるのだろうとレアは何気に思った。

出逢った頃のことなど記憶にはない。だが、知っている限りでは、二人はレアにとって 心許せる存在なのだ。自分の敬愛するあの人と…そして………

(誰、だった…かな……)

もう一人…自分が知っている人間がいたような気がするが、思い出せない。思い出せな いなら、単なる勘違いとレアはどうでもよくなり、思考を止めた。

「レア、ボケっとするな、置 いてくぞ」

遅れていたレアに声を掛け、二人はさらに歩みを速める。それに追いつこうとしたレア だったが、ふとショーウィンドウのガラスに自分の姿が映る。

人形のような顔立ちとそれを際立たせる白い服に胸元も青いスカーフがいいアクセント となり、綺麗というよりも可愛らしさを強調させている。この服装を褒めてくれた上司の顔が過ぎり、レアは口元を緩め、ニヤニヤと笑いながらショーウィンド ウの前で佇む。

「何やってんだ、あいつ?」

その様子を離れた場所から見詰めていたエレボスは呆れにも似た溜め息を零した。 ショーウィンドウの前でニヤつく姿は傍から見るとかなり怪しい。

「大方、大佐のことでも思い 出しているのでしょう。レアは大佐にご執心ですしね」

眼鏡を持ち上げ、口元を緩めると、エレボスはつまらなさ気に舌打ちし、ステュクスの 肩に肩をぶつけ、そのまま進んでいく。

その様子に怒ったかと鼻を鳴らし、閉じていた本を開き、読書を再開しながらステュク スも己の世界に沈んでいく。

このアーモリー・ワンに来てから既に数日。普段からではあり得ないゆったりとした時 間にエレボスは退屈気に、ステュクスは満喫するように堪能していた。

暫しショーウィンドウの前に佇んでいたが、やがてレアは再び歩き出す。だが、その視 線は未だショーウィンドウに張り付き、くるりと身体を回転させながら背中を向けて進んだ瞬間、軽い衝撃がレアに掛かり、レアは体勢を崩す。

レアの視界に入ったのは地面。このままぶつかるとなんとなしに思ったが、その衝撃は こず、レアの身体は何かに支えられた。

「だ、大丈夫か?」

唐突に背後から掛かった声に振り返ると、レアとさほど年齢が離れていない少年がやや 驚きに包んだ表情でこちらを心配そうに見詰めている。

「…誰………?」

その漆黒の瞳…レアが一番嫌いな色だった。

 

 

数十分前…繁華街をマコトはカスミ、シン、ステラと彼らの同僚であるミネルバの技術 スタッフの一人であるヨウラン=ケントと共に繰り出していた。

「あ〜あ、こうやってゆっく りできるのも暫くお預けか」

背伸びをし、やや大仰に溜め息を吐くヨウランにマコトは苦笑を浮かべて、シンを見や る。

「確か、もうすぐ就航だもん な?」

「ああ。これから式典パー ティーに出なきゃいけないし、その後はすぐ機体をミネルバに運ばなくちゃいけないしな」

数日後にはミネルバが正式竣工を迎え、セカンドシリーズもその全容を正式公開され る。そうなれば、シン達ミネルバ正規クルーは仕事に忙殺され、ゆっくり休む間もなくなるだろう。

これが最後の非番なのだ。この数時間後には披露パーティーにシンとステラは出席、そ の足ですぐさま機体の搬入に入らねばならない。

「そっか、シン達とも当分会 えなくなるな」

そう考えると寂しいものがある。マコトも元々は招待客の一人でしかない。彼らの好意 でこうして親しくはしているが、立場の違いがある。数日後にはシン達はプラントにとって代表たる立場に就く。そうなるともう今までのように付き合うのは無 理だろう。

いや、それ以前に滞在期間が終わり、マコトが離れる方が早いだろう。それを察してい るのか、シン達も苦い表情で無言のままだ。

「ほーら、なに暗い顔してん だよ、せっかくの非番なんだからもっと楽しくしろって」

そんな雰囲気を払拭するようにヨウランが陽気に声を掛け、それに応じてぎこちないな がらも笑みを浮かべる。

「そうだな、いくか」

残り少ない非番ではあるが、楽しまなければ損だ。

一同はアーケード街を物色するように歩みを進める。そんななか、マコトはふとカスミ を見やる。いや、その視線はカスミの髪に留められた錠に向けられていた。

数日前の演習が終わり、帰還したマコトがカスミを探し出したとき、カスミの髪に留め られていた錠が気に掛かり、問い掛けたものの、カスミは解からないとばかりに言葉を濁すだけ。だが、女の子がするアクセサリーにしては不似合いなため、取 り外そうとしたが、カスミはそれを拒み、頑なに取ろうとはしなかった。

大切に錠を撫でるカスミに不可解なものを憶えながらも、当人が拒んでいる以上、無理 に外すのもできず、結局はするままにさせている。

それから数十分、路地裏のアーケードで少しばかりの買い物を終え、そろそろ宿舎に戻 ろうと大通りに出ようとし、先頭を進むマコトが身体を出した瞬間、突然眼の前に影が飛び出し、それが認識される前に衝撃が身体を襲った。

前のめりに倒れそうになる少女の身体をマコトは慌てて手を伸ばし、その身体を抱き寄 せるように支えた。

「だ、大丈夫か?」

支えたのは華奢な身体つきのライトブルーの髪の少女。相手もやや驚いた面持ちでマコ トを見上げていた。そのこげ茶に近い瞳が印象的な儚げな雰囲気の少女だったが、少女の眼が微かに細まる。

「…誰………?」

どこか冷たい声。少女は表情が強張り、マコトの手を振り払い、その豹変振りに唖然と なるマコトをよそにそのまま背を向けて走り去っていった。

呆然となっていたが、マコトは表情を顰め、素っ気無い態度に溜め息をつくが、そんな マコトにヨウランがニヤリと笑みを浮かべて顔を突き出す。

「あらら? せっかく助けた のに素っ気無くされちゃったな」

「いや、別に」

図星を指されたせいか、マコトの口調もどこか硬い。いや、確かにそんな不純な期待が あったわけではないが、この場合ぶつかれば悪いのはどちらかと言えば男の方だろう。

「不貞腐れるなよ」

「だから違うって」

なおも小突くヨウランにマコトは取り繕うように弁解するも、一向に聞き入れず、去ろ うとし、慌てて後を追う。

その後をカスミが首を傾げながら追い、シンも続こうとしたが、ステラがあさっての方 角を見やっているのに気づき、声を掛けた。

「ステラ、どうした?」

「あ……ううん、なんでもな い」

肩を竦めながら歩み出すシン。ステラもその後を追おうとするも、その足が止まり、再 び視線を先程の少女が去った方角へと向ける。

頭のなかに、先程の少女の姿が引っ掛かるも、その答が解からず、ステラは困惑した。

 

 

 

時を同じくしてアーモリー・ワンのザフトの軍事工廠では喧騒に満ちていた。

【軍楽隊最終リハーサルは 14:00より第3へリポートにて行う】

アナウンスが工廠内に響くも、その放送に耳を傾ける者は少ない。皆、各々の作業に集 中しているためだ。

何十というザフトのMSが工廠内の至るところに立ち並び、その足元では作業員や軍服 を着た兵士達が何百人と走り回っている。

「違う違う! ロンド隊のジ ンはすべて式典用装備だ! 第3ハンガーと言ったろ!!」

「マッケラーのガズウート か? 速く移動させろ!」

「ライフルの整備しっかり やっておけよ、明日になってからじゃ遅いんだからな!」

【ガトー隊、第2整備班は第 6ハンガーに集合せよ】

怒号に近い声が幾度も飛び交い、広大な敷地内に響き渡っている。雑然となるなか、指 示に従って全高20MはあるMSが歩き回る眺めは圧巻の一言に尽きる。そんな騒動も、全ては明日に控えたザフトの最新艦:ミネルバと新型機、セカンドシ リーズの進水式と軍事式典のためだった。

式典用の装飾を施されたジンにゲイツR、ディンのガズウートと旧式機の改良型や最新 鋭機のザクなど、博覧会なみの壮観な光景だ。

それを大々的に宣伝するために各種メディアも多く招待されている。

それらの喧騒の中でバギーに乗って移動している緑の作業服を着た少年と赤の軍服を着 た少女の姿があった。

進んでいたバギーの進路上にあった建物の陰から突如ジンの足が見え、運転する少年は 慌ててハンドルを切った。

「うわっ」

寸でのところでジンの足をすり抜け、助手席に座っていた少女はゾッとした表情で座席 にのけぞった。

「ちょっとっ気をつけなさい よねっ」

「ごめんごめん」

危うくぺしゃんこにされるとこだったのだ。怒り心頭に睨む少女に少年は頭を下げる。

「はぁ、なんかもうごちゃご ちゃね。こんなんで明日の式典、間に合うのかしら?」

溜め息を大きく零し、少女はシートに身を預ける。

赤服に身を包んだ少女:ルナマリア=ホークに運転する作業員:ヴィーノ=デュプレは 苦笑を浮かべた。

「仕方ないよ、こんなの久し ぶり……って言うか初めての奴も多いんだし。俺達みたいに」

事実、これ程大規模な軍事式典は数年振りだ。ザフトが設立されてからまだ10年も 経っていないが、その間に軍事式典が行われたことはほんの数える程度だ。

ルナマリアも前大戦は経験しているが、現在ほとんどの若い兵士は先の大戦終結と同時 に入隊し、まだ軍歴は浅い。

「でもこれで、ミネルバもい よいよ就役だ。配備は噂通り月軌道なのかな?」

弾んだ声で見やる先には、ザフトの最新鋭艦。月の女神の名を冠する戦艦がその威容を 漂わせながら鎮座するのであった。

 

 

工廠内のヘリポートに一機のジェットファンヘリが着陸しようとしていた。ヘリポート 周辺には幾人もの軍人や補佐官らが立ち並び、その来訪を待ち構えている。

その爆音に、愛機であるザクが整備を受けるハンガー前に佇んでいたレイとセスも気づ き、そのヘリを視界に収めると、レイは滅多に見せない笑顔に表情を緩め、小走りにヘリが着陸する方へ駆け寄り、セスは変わらずの表情で後を追った。

着陸したジェットファンヘリのタラップから、長い裾を揺らし降り立つ長身の男。長い 黒髪と端正な顔立ちに柔和な笑みを浮かべ、一斉に敬礼する者達に手を振るのは、現プラント評議会議長:ギルバート=デュランダルだった。

身軽に降りるとともに数人の補佐官を伴い、会話しながら移動していった。

「彼の言う事もわかるが ね……だが、ブルーユニオンは組織というよりも主義者だろう?」

会話を交わしつつ、視界の端にレイが入ったのに気がつき、微かに微笑むと笑顔をレイ に向けた。

レイも頬を緩めたまま敬礼し、その後ろでセスも他の兵士達と同じように静かに敬礼す る。それを一瞥すると、デュランダルは補佐官との会話に再度耳を傾ける。

「いくら条約を強化したとこ ろでテロは防ぎきれんよ」

デュランダルが宿舎に入ったと同時にレイは表情を再び無感動に戻し、セスと共に立ち 去っていった。

「議長」

宿舎内に足を踏み入れると、一人の補佐官がデュランダルに駆け寄ると耳打ちをした。

「日本よりの使者がご到着で す。クライン外務次官がお出迎えに」

その言葉に、一瞬鋭い眼差しを浮かべるも、それを悟られることなくすぐに笑みを浮か べた。

「やれやれ、忙しい事だな」

肩を竦めるように衣の裾を翻し、補佐官らを率いて、足早に司令部へと会見の用意を始 めるために向かうのであった。

 

 

 

軍工廠司令部にある執務室へ向かい、VIP用の通路を無重力用のラダーに掴まり、移 動する雫とラクスらの姿があった。

「申し訳ありませんが、パー ティーの方へは欠席とのことで」

「いえ、構いません。遅れた のはこちらの非ですし」

既に式典前パーティーとして行われたミネルバとセカンドシリーズの正式パイロット公 開。だが、そのパーティー自体も既に終わりに入り、今から出席というのはかなりの間抜けになるだろう。

相槌を返しながら雫は通路のガラス越しに映る港内の軍艦、そして片方のプラントから の招待客らを交互に見やる。

「お気になりますか?」

「え、ええ」

「申し訳ありません。明日は 新造艦の進水式でして、そのための軍事式典が予定されてまして……」

表情を曇らせるラクス。その表情から、この式典自体、ラクスにとってはあまり好まし くないものであると察せられた。

自国の軍事力を誇示するというのはある意味では政治手腕の一つだ。各国への牽制にも なるし、交渉のいいカードになる。

(そう言えば、クライン外務 次官は前大戦で戦場にいたと聞きましたね)

今は外務次官という立場に就いているラクスが、前大戦時には戦場で戦っていたという のはある種有名な話だ。プラント側のメディアからも勝利の女神と称えられる程だ。戦場にいた者がそうした軍事的な誇張を拒むのはある意味仕方ないかもしれ ない。ましてや、ラクスがそんな好んで戦うような人物にも思えない。

「いえ、内々かつ早々に会見 を行いたいと申し出をしたのはこちらの方なので」

そんなラクスの心情を少しでも和らげようと、そう気遣うとラクスは微かに微笑み返し た。

一同はそのままエレベーターに乗り込む。独特の形状を誇るプラントコロニーの支点に 設置された港口から居住区である底部への連絡は高速エレベーターしかない。円形に近いエレベーターに乗り込むと、ラクスに促され、シートに腰掛ける。その 隣にラクスも座ると、ドアが閉じられ、エレベーターは薄暗いパイプライン内を降下する。

「こちらからの用件は先日お 伝えした通り…例の交易に関しての事項、及び軍事技術交換に関して。それに伴う、我が国との国交の件で」

既にこの会見にあたっての内容はラクスと雫の間で交わされ、それぞれの損益を考えた うえでの双方の代表からの意見を取り入れ、プラントと日本の国交発展を盛り込もうというのが今回の会見の目的だ。

「私はこの件で帝から全権を 任せられています。お聞きしたいのは、此度の会見においてこのアーモリー・ワンを選ばれたのは、本国よりは目立たぬというご配慮でしょうか?」

言葉遣いは丁寧だが、その内容にはかなりの欺瞞が含まれている。これが帝自身赴いた なら、かなり問題になったものだが。何度か会話を交わしたラクスもさして年齢に差がない雫に呑まれそうになるときがある。だが、それを表面には出さず、ラ クスもまた涼しい表情で応じる。

「はい。失礼かと思いました が、今現在プラントも立場がありまして、表立っての会見が難しく、このような形を取らせていただきました」

戦後2年。プラントの立場は一定の自治権は得ているものの、それも高い工業製品を生 み出せる製造所として見ている国家も多い。言わば、プラントを押さえ、その利権を得ようとする者も少なくない。

そんななかでプラント自体もその位置を危うくするような迂闊な外交はできない。たか が一国との会見とはいえ、それを衝く国がないわけでもないのだ。

キラを含め、随行員達が緊張した面持ちで見守るなか、ラクスと雫は黙り込む。リンは 無言のまま二人の様子を見やっていたが、エレベーターが底部に到達したのか、薄暗かったシャフト内から開けたコロニー内部へと入り、眩い光が差し込む。

次の瞬間には、一同の視界に雄大な光景が飛び込んできた。ガラスの壁面の向こうに は、眼下に青い海を思わせる水面が在り、光を反射させて煌いている。その周囲に浮かぶ島々。それらが全て人工物であることに雫は感嘆するような思いだっ た。

「やはり、凄いですね。こう して宇宙に自分達の世界を造れる、プラントは」

揶揄するでもない。純粋な驚きと感動を込めた声にラクスの表情も和らぐ。自分達の世 界が褒められたのか、他の随行員も表情を緩めている。

だが、リンは一人だけその風景の向こう側に見える外殻の強化ガラスの奥に見える宇宙 を見据えた。

エレベーターが底部に到着し、降りると同時に一同は宿舎内へと足を踏み入れる。やが て、司令室へと到着し、ドアが開かれ、ラクスが促すと、雫は決然とした面持ちで足を踏み出した。

入室に気づいた、秘書官らしき随員と言葉を交わしていたデュランダルがこちらを見や り、雫の顔を認めると、柔和な笑みを浮かべて歩み寄る。

「やあ、これは斯皇院外交 官。遠路はるばるお越しいただき、申し訳ございません」

「いえ、議長にもご多忙の 所、こうしてお時間を頂き、ありがたく思います」

デュランダルに応じるように雫も笑みを浮かべ、歩み寄り、手を差し出すと、デュラン ダルは恭しい手つきでその手を握った。

リンはその様子を見詰めながらデュランダルに視線を向ける。

(この男が、現最高議長、ギ ルバート=デュランダルか)

デュランダルの視線が雫から僅かにずれ、その背後にいるラクスの傍にいた人物。幅の 広いサングラスをかけた女性:リンに気づいた。リンは一瞬で部屋を一瞥し、異常がないかを確認していたのだが、その視線に気づき、微かに眉を寄せる。

「クライン外務次官、そちら は?」

見慣れぬ人物にラクスは内心、微かな後ろめたさを憶えるも、静かに息を吐き、真っ直 ぐに見据えるように答えた。

「私の友人で、護衛を兼ねて いただいております。私が保証します」

周囲を制するように呟くラクスにデュランダルは特に気にした素振りもなく頷く。だ が、リンにはその視線が気に掛かった。あの値踏みするような視線。

いくら自分が見慣れぬ存在とはいえ、たかが随員の一人に視線を向けるだろうか。今は 偽名でこのコロニーにいるが、リン自身、顔を知られているということもある。前大戦中に脱走し、戦後のゴタゴタに紛れて身を隠した。ある意味、プラントに とっては恥で厄介者の自分だ。余計な警戒をされたかと内心構えるも、デュランダルはそのまま雫に視線を戻し、ソファに掛けることを勧め、自分もソファに腰 掛けた。

「お国はいかがですか? か の国の独立に伴い、実に多くの問題を解決されて……その行動に我々も感銘を受け、また羨ましく思っておりますが」

「ありがとうございます。帝 もその言葉をお聞きになれば、大変喜ばれるでしょう」

それが挑発なのか、それとも牽制なのか、意図を推し量るように雫は答え返す。政治家 が何の打算もなしに相手を称賛するというのはまずあり得ない。なら、その真意を探るのも外交官の腕の見せ所だ。

にこやかに返す雫にデュランダルも笑みを崩さない。

デュランダルの言う通り、傍から見れば日本が大日本帝国として独立し、僅か一年程度 で国として高い評価を得ていることには確かに称賛に値するだろう。

元々は大西洋連邦の一属国家でしかなかった国。だが、それが日本の後の命運を分けた と言ってもいい。

その立地上、当時の日本は大西洋連邦とユーラシア連邦に挟まれた状態であったが、両 国は一応の連合組織内の国家として表面上は同盟関係を結んでいた。そのために、戦争の脅威に国内が晒されなかったというのがある。身内の恥を晒すようだ が、当時の日本は属国でありながらも、その政治体系は腐敗していたと言っていい。当時の政治を取り仕切っていたのは旧財閥の老人達。家柄にしがみつくだけ の連中だ。政治を行うのも大西洋連邦に指示を仰ぐばかり。そんな政治体系に国民が何の不満も持たないかと問われればそうではない。

一向に回復しない経済状況に戦争による社会不安等、直接に巻き込まれていなくても不 安はすぐ傍に在った。

そして戦争終結後、もはや廃れ、ただのお飾りとなっていた旧天皇家であった天乃宮家 から新たな帝が選出された。日本の軍部、そして若手政治家等の若い力に後押しされて帝位に就いたのが現帝:天乃宮光。天皇本家ではなく分家出身の者だった が、その手腕は高く、彼は京都を首都にし、旧体制の政治家を拘束し、その後大西洋連邦と交渉を交わし、独立を勝ち取った。

無論、戦後の大西洋連邦の混乱につけ込んだとも言えなくはないが、機を待ったのは決 して卑怯でもない。

その後も、国内が戦火に晒されずに済んだために国として独立は成功したものの、それ を存続、発展させていくのが今の最大の課題なのだ。

「それで、この情勢下、お忍 びで、それも火急に私と会談とのことでしたが?」

そうデュランダルは訊ねるが、この質問は全くの無意味だろう。

(既にご存知のはずなのに… 私を試しているのでしょうか?)

一国の代表ともあろう者が、わざわざこうして訪問してくる者の用件を知らぬはずなど ないのだから。この問い掛けは、相手に僅かなりとも考える時間を与えるための方便のようなものだった。

「クライン外務次官からお聞 きした限りでは、我が国との条約の件で…大分複雑な案件のご相談、との事ですが?」

「はい。議長も我が国の現在 の状況はご存知のはず」

今現在、日本は微妙な立場に立たされている。隣国の東アジア共和国―-いや、大東亜連合からの執拗な同盟申込だ。独立してから一年で整えた日本の軍備。独立を維持するためには軍 事力も必要ということは解かっているが、短期間での再編が仇となった。

他国の軍事介入を牽制するために再編を早めたため、その技術力と実務能力を皮肉にも 他国へ高く評価させる要因となってしまった。

かの技術向上には、日本が極秘裏に秘匿していたコーディネイター達の存在がある。大 西洋連邦の本拠から遠く離れた地であるため、少数のコーディネイターも戦前から居住していた。無論、それは存在を隠した上でだ。それ以外にも開戦とともに プラントから亡命した者やオーブからの技術難民など、そういった要因があった。

「無論、帝は独立を維持する お考えです。無為に敵をつくりたくはない。ですが、それは今の情勢では叶わない。故に、貴国との国交を望んでおいでです」

民を戦火に巻き込みたくないのが帝の考えであっても、現実はそううまくいかない。な ら、少しでも敵となる者を減らそうとするのが日本の取った道だ。もし世界のなかで孤立してしまえば、日本は瞬く間に衰退するだろう。

なら、後の発展と自国の安全を踏まえてそれが望める国と国交を持とうとするのは当然 の選択だった。

コーディネイターの居住率等の問題も含めると、プラントを好ましく思っていない大東 亜連合とはどの道国交が難しい。なら、自国の現在の情勢を鑑みれば、選択肢はない。

「かねてより、クライン外務 次官と交渉し、こちらからの希望はお伝えしているはずですが?」

射抜くような視線を向ける。一国の代表に対しそういった視線を向けられるのはある意 味では感嘆ものだ。

デュランダルも考え込むように顎に手をやると、一拍置いて話し出す。

「斯皇院外交官、我々も同じ 考えです。我々も無闇に敵をつくりたくはない。そして、地球の方々にもそれを解かってもらいたい」

相手との見据える先が同じであることに雫も微かに表情を和らげる。

「無論、私もかの国と友好を 築くことに異論はありません。ですが、早々にという訳にはまいりません」

当然とばかりに雫も頷き返す。

そう簡単に国交が結べるのなら、苦労はしない。当然、国交を結ぶにあたっての互いの 利権を考えた条約を交わさねばならないだろう。

今の日本が欲しているのは国として磐石と支援国だ。果たしてどれだけ祖国に対して有 利な条約を結ばせられるか、雫は再度気を引き締めて会談を続ける。

そんな会談を横に見詰めるリンは、内心狸と狐の化かしあいだなと思った。

どちらも本心を見せず、そして自分の話術に引き込もうとしている。危ういバランスの なかでどちらの国も不安定な位置にある。

そうしたなかで互いにバランスを保ちたいと考えるのはある意味当然かもしれないが。 だが、そこまで見てもリンの眼にはデュランダルも決して実力が伴っていないというわけではないと考えた。

(だけど、この違和感はなに かしらね)

確かにデュランダルはラクスの評通り、善い為政者に部類されるかもしれないが、リン はそのデュランダルの内に何か言い知れぬ違和感のようなものを感じ取っていた。

見えぬ本心…それが曖昧なことにリンは内心、苛立ちを憶えていた。

 

 

 

 

司令部での会談が行われている頃、エレボス、ステュクス、レアら3人は街外れの大き なビルボードの前にいた。

ここが、待ち合わせの場所のはずだ。時間と日時が間違っていなければ、だが。レアは 無言のまま大きなビルボードを見上げている。ザフトの徽章の映像が大きく映し出されたあと、L5の プラント本国の映像に切り替わる。映像を暫く見上げていたが、その映像が同じものの繰り返しだと気付くと、その視線を空に向けた。

この空には、太陽がない。

ただ青く拡がる擬似映像の空。だが、レアは嫌いではない。この髪と同じ青い空がどこ までも続くようでレアはずっと見上げている。

ステュクスは芝生に腰掛け、読書に読み耽っている。エレボスはやや顰めっ面で時計を 何度も確認していた。

何度目かになる時間を確認した瞬間、こちらに近づいてくる1台の車が視界に入った。 ここに来るまでに何度か目にしたものと同型のものであった。

「来ましたね」

最後のページを読み終えたステュクスが本を閉じ、もう興味はないとばかりに本を芝生 に投げ捨て、立ち上がる。

「ああ。ようやくだ…レア、 行くぞ」

声を掛けられ、我に返ったレアは跳ねるように駆け寄っていく。

彼らの前に停まった軍用バギーの前部座席には、ザフトの軍服を着込んだ軍人が乗って いた。エレボスの視線に気づいたその軍人達が頷くのを見て、3人はバギーの後部座席に乗り込んだ。

彼らを乗せたバギーは街から離れ、そのまま軍工廠に向かい、入り口のゲートで運転す る男がIDを見せると、守衛は特に不審に思わずに彼らを敷地内に入れた。より市民の理解を得るために行われているこの式典もイベントのようなもののため、 こうしてチェックも甘いのだろうが。

大方VIPを案内するイベントと勘違いしたのだろう。事実、軍人らしくない彼らに不 審を抱く者はいない。式典準備の忙殺、そして施設を見学する一般市民とカムフラージュするまでもなかった。

「で、問題のブツは?」

「6番ハンガーにある。既に 起動可能状態だ」

何気ない問い掛けに答え返す男。このアーモリー・ワンに潜入したエレボスらを補佐す るためにいる彼らの詳細を知らない。知る必要もないからだ…すぐにいなくなる人間のことなど。

多くのMSが歩き回る軍施設内を走り抜け、程なくしてバギーはある格納庫前に停車し た。

キースリットにカードを通すと、ロックが解除され、重々しい音とともに重厚なハッチ が開かれていく。薄暗い格納庫へと続く通路に光が差し込み、彼らの影に逆行する。

施設内に入れたIDといい、一格納庫のロックを解除するキーといい、ザフトの軍事機 密をいとも簡単に崩す段取りを組んだこの案内役の男達には敬服する。

素早く一同は中に駆け込み、格納庫へと続く通路の壁に身を隠す。そして、窺うように 内部を覗き込むと、何人ものザフト兵や作業員が行き交っている。その中央に横たわるハンガーに固定された灰色の巨大な四肢。

アレが…目的のセカンドシリーズ……自分達の機体だ。確認すると同時に男達が持ち込 んだ大型バックから取り出した銃やライフル等の武器がエレボス達に手渡された。

エレボスは慣れた手つきで渡されたサブマシンガンに弾倉を装填し、ステュクスは大型 スナイプライフルを組み上げ、砲身をセットすると同時にスコープを覗き込む。レアはナイフを鞘から抜き放ち、その光沢を眺め、刀身に己の顔を映す。それが 引き金ともいうように何かのスイッチがレアに入り、視線が鋭く細まる。

「では…お疲れ様です」

各自が武器を確認すると、ステュクスは唐突にそう告げ…次の瞬間には、男の胸にナイ フを突き立て、心臓を抉った。苦痛もなく一瞬で絶命する男。同僚の死に混乱する男に向かってエレボスが銃を構え、引き金を引いた。

サイレンサーが取り付けられた銃は音を発することもなく男の眉間を撃ち抜き、鮮血が 周囲に散らばる。

「わりいな、お前らをバスに 乗せてやれねえんだ」

「不確定要素は排除するに限 ります」

冷徹な視線でここまで彼らを案内してくれた男達の死体に対しそう言い捨てると、改め て内部を確認する。

ここからがパーティーの本番だ。彼ら3人はもはや先程までののどかな一市民ではな く、獲物を狙うハンターのような鋭い視線を浮かべ、奥を見透かす。

MS運搬用のクローラーが3基並んでいる。その周囲にはざっと確認しただけで30人 程度。この程度ならいける…そう確信した瞬間、エレボスは眼で合図を送り、一斉に駆け出した。


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