空中で立ち往生に近いインパルス目掛けてカオスが狙いをつける。

「空中戦はこっちが上と見た ぜっ」

不適な笑みを浮かべ、エレボスは卑下た視線を向ける。空中で徐々に動きの悪さを露見 させるインパルス。元々は対地戦用の装備だ。空中戦には向いていない。

歯噛みするシンに向かってカオスがMA形態へと変形し、ホバーモードに近い状態でイ ンパルスを翻弄する。周囲を掠めながら焦らし、相手の隙を誘う。

迂闊にその挑発にはのらないシンに段々と苛立ってきた。こちらには時間が無いのだ。 痺れを切らしたエレボスは機動ポッドを本体へと戻し、インパルスをロックオンし、ミサイルを発射する。軌道を描きながら真っ直ぐ進むミサイルをインパルス は胸部機関砲で弾幕を張り、ミサイルを叩き落す。爆発がエレボスの視界を覆い、舌打ちする。

レイはザクファントムの精密な射撃でアビスを狙うも、ステュクスは舌打ちしながら操 縦桿を切り、曲芸飛行で弾幕の間隙を縫うように回避する。

ザクファントムは左手にビームトマホークを装備し、アビスに斬り掛かるも、ランスを 振り上げて刃を受け止める。押し切ろうとするザクファントムを捌いていなし、蹴りをボディに叩き込み、弾くと同時に狙撃する。

衝撃に呻きながらもレイは歯噛みし、火線をかわす。

「やれやれ…しつこいです ねぇ」

「鬱陶しいんだよってめえ らっ」

大きく溜め息を零すステュクスにエレボスは敵意剥き出しに叫び、反撃する。

そして、セイバーとザクウォーリアの同時攻撃に晒されるストライクE。ザクウォーリ アがビームでストライクEの動きを牽制し、その隙を衝いてセイバーがビームサーベルを振り上げて迫る。

咄嗟のことで反応の遅れたカズイ。寸でのところで刃をかわすも、左手のライフルの砲 身を斬り落とされ、爆発が機体を襲い、舌打ちする。

流石にこの状況はまずい。後一歩で離脱できるのだが、ガイアは一機でひたすら外殻に 向けて攻撃を続けているが、コロニーの外殻を成す厚い自己修復の強化ガラスはなかなか破れずにいる。

一機の火力では時間が掛かる。かといって今の状況で天頂部の港を目指すわけにもいか ない。再度斬り掛かるセイバーの斬撃を左手でビームサーベルを抜いて受け止め、弾き飛ばし、ザクウォーリアをバルカンで牽制する。

そして、ただ逃げることのみに執着するレアは泣きそうな表情でトリガーを何度も引 き、攻撃を強化ガラスに浴びせる。

「壊れて壊れて壊れて壊れて 壊れてぇぇぇぇ」

犯ら狂のように叫びながらガイアのビームを浴びせる光景をモニターで確認したシンは 唇を噛んだ。

「くそ、あいつ!」

このままでは強化ガラスが破られてしまう。ガイアを止めようと向かおうとするが、再 びロックオンのアラートが響き、身を翻した間隙を過ぎるビーム。振り向き様に迫るカオス。

「レアをやらせるかっ!」

迫るインパルスを墜とそうと、機動ポッドを分離して多重方向からビームを浴びせる。 ほぼ同時に2方向から放たれたビームをインパルスはシールドで受け止めると同時に身を捻ってもう一撃を受け止める。驚くべき反射神経だ。相手の力量に歯噛 みするとともに敬服する。だが、そんな感傷など不要とばかりにエレボスは操縦桿を倒し、カオスをインパルスに突撃させる。

懐へと飛び込んできたカオスにシンも反応できず、右手のなかで彷徨うエクスカリバー の刀身目掛けてカオスの爪先のビーム刃が振るわれ、エクスカリバーが叩き折られる。

「っくぅ」

四散する破片にシンはせめてもとばかりに折れたエクスカリバーをカオスに投げ飛ばす も、MS形態に戻り、振り向き様にバルカンで狙撃し、破壊する。

既にビームライフルも失い、残っているのは機関砲にシールドのみ。

(フォースはまだなのか よっ)

内心に焦燥を抱くも、コンピューターが接近する反応を捉えた。表示される識別信号に シンは待ち侘びたように表情を輝かせる。

だが、カオスがビームを連射して浴びせかけてくるためにそちらに向かえない。そし て、ステラもまたシルエットフライヤーの接近に気づき、身を翻して防戦一方になっていたインパルスを援護するためにカオスの前に割り込み、シールドを掲げ て受け止める。

「シン、急いで!」

頷くと同時にシンはインパルスを離脱させる。その行動にエレボスが不審げに一瞬眉を 寄せるも、続けて急接近する反応を捉え、ハッと視線をそちらに向ける。

視界の端を過ぎる戦闘機のごとき飛翔体。一瞬、注意を奪われたエレボスの眼の前で、 離脱したインパルスが背面から既に用済みとなったシルエットを分離する。同時に機体カラーが赤から鉄褐色の灰色へと戻る。

そのインパルスに追い縋るように接近するシルエットフライヤー。弧を描いて回り込 み、飛翔体の前部自動飛行ユニットが後部のユニットをパージし、インパルスの頭上を掠めて離脱し、分離して残されたユニットが赤外線レーザーを照射し、イ ンパルスのバックパックへとラインを繋ぐ。それに導かれるように装着される。

その瞬間、折り畳まれていた4枚の赤い翼が展開し、十字状に拡がる。そして、新たな 命を吹き込まれたように鉄褐色の装甲に鮮やかなカラーリングが走る。先程の赤とは違う青を基調としたトリコロールカラー。それが機体を洗礼するように施さ れ、前面に掲げたシールドが上下に分かれ、展開する。高速機動戦そして空中戦を主軸に運用されるフォースシルエット。ユニットに装備されていたビームライ フルを構え、換装したフォースインパルスがスラスターを噴かせる。

その光景に対峙していたエレボスだけでなく、ステュクス、カズイ、そしてレアまでも が驚愕する。

「はあぁぁぁぁっ!」

唖然となる隙を衝き、換装したインパルスは背部に追加されたビームサーベルを抜き、 カオスに向けて加速する。ハッと我に返ったエレボスは阻止しようとビームライフルを放ったが、先程とは段違いの機動性で回避し、瞬く間にカオスの懐に飛び 込む。接近して振るわれた一撃を辛くもかわしたが、エレボスは唸るように睨む。

「コイツは……!」

「装備を換装する…!?」

その一部始終を同じく見入っていたステュクスもまた僅かながら眼を瞬かせ、驚きの声 を上げる。

だが、素早く我に返り、肩の3連装ビーム砲を放った。だが、シンは拡がったシールド でビームを受け止めながら降り注ぐビームに向かって加速する。その行動に視線を瞬かせるステュクス目掛けて、シールドを掲げて突進する。肉縛し、シールド をエネルギーが収束していた胸部のカリドゥスの発射口に叩きつけると、アビスの胸部でスパークが起き、硬直したアビスを弾き飛ばした。

それを一瞥したカズイは睨むようにインパルスを見やる。恐らく先程までの装備は近接 地上戦用。そして今換装したのは機動空中戦を前提に設計されたもの。状況に合わせて装備を換装するのはさして珍しい機構ではない。前大戦においてGAT-X105型において確立されたその発想は今日のMSにおいても採用されている。ダガーやザクも、追加 装備によって様々な戦局に対応し、アビリティを引き出す。それが汎用型の強みだ。

「どこまでも連合の猿真似だ ねぇ!」

自身の乗るストライクEを模倣したような機体形状に装備換装機構。そしてなにより、 そのまるで洗練されたような動きはカズイの内に悪意を沸かせ、際限なく渦巻かせる。

怒り狂ったように猛り、インパルスを狙おうとするも、カオスとアビスが離れたため、 攻撃を集中してきたセイバーとザク2機にカズイは歯噛みする。

そして、ストライクもどきのインパルスは真っ直ぐにガイアに向かっていく。接近に気 づいたレアはひぃと叫びを噛み殺し、表情を恐怖に歪める。

「いやっ、こないでっこない でぇぇぇっ」

思わず攻撃をインパルスに変更し、ビームを放ちながら後退するが、その動きはおぼつ かない。そして、インパルスは苦もなく距離を詰め、接近する。

「墜ちろぉぉぉっ!」

雄叫びを上げながら、シンはガイアに向かって迫る。振り下ろす刃を後退してかわすガ イア。だが、シンは背後に気配を感じ硬直した。

インパルスの背後に回り込んだカオスとアビスが全火器をフルバーストで一斉射した。 咄嗟のことで反応が遅れる。殺られるとシンは一瞬全身の血が下がるも、それらの火線はインパルスを掠めるように過ぎ去った。

戸惑う暇もなく、それらの火線は先程までガイアが攻撃していた強化ガラスに着弾す る。その攻撃はインパルスを狙ったものではなかった。ガイアの集中砲火で既に耐熱性を低下させていた箇所にさらに熱源を集中して受け、自己修復ガラスの限 界を超え、遂に融け落ちた。

驚愕と後悔がシン達を襲うも、ポッカリと空いた穴の向こうに見える宇宙から吸い込ま れるように付近の大気が減圧され、それに伴って発生する乱気流が機体を宇宙に向かって放り出そうと翻弄する。

排出される空気の流れに逆らうようにシン達は歯噛みしながら機体を踏み止まらせる も、それを嘲笑うように、乱気流に身を任せてガイア、カオス、アビス、ストライクEの4機は穴の向こうへと消えていく。

「しまっ…!」

敵はまんまと脱出してしまった。猛烈な後悔に襲われるも、シンは義務感という強迫概 念に突き動かされ、機体を気流のなかに乗らせ、加速させた。

「シン?」

「何をする、シン!」

「あのバカ…っ」

シンの行動にステラが眼を瞬き、レイが驚愕し、セスが毒づくも、3機もまたその激し い気流に機体が制御できず、止むを得ずシンの後を追い、穴のなかへと飛び込んでいった。

 

 

その数分前…未だ地上ではもう一つの戦いが続いていた。

獣のごとく暴走するセレスティと戦闘を繰り広げる死神。ビームサーベルを無秩序に振 るう斬撃を陽炎のようにかわし、黒刃を叩き入れる。衝撃に弾き飛ばされ、コックピット内で振動に身を痛められ、苦悶の声を漏らすマコト。

だが、そんな主などお構いなしにセレスティは幾度も立ち上がり、攻撃を続ける。そん な光景が何度も続いていた。ハンガーに叩きつけられ、残骸が降り注ぎ、セレスティを覆う。

そんなセレスティを一瞥するゼロ。だが、背後に気配を感じ振り向くとザクがビーム サーベルを展開して斬り掛かってきた。

「はぁぁぁっ!」

リンの気迫とともに振り払われた一撃を跳躍してかわす。距離を取る死神にリンは舌打 ちし、素早く瓦礫に埋まったセレスティに目配せする。

見たことのない機種だが、乗っているのは素人かと…先程から単調な攻撃ばかりだが、 何度も衝撃を受けているはずなのに立ち上がってくる。通常なら、あれ程の格闘戦を内部に喰らえば、機体はともかくパイロットの方が保たないはずだ。

だが、リンの思考も襲い掛かる死神に注意が集中する。振り下ろされる斬撃をかわし、 目標を見失った黒刃が地表を砕き、破片を飛ばす。

なんであれ、あの機体の乱入のおかげでなんとか操縦ができるまでに身体の感覚が戻っ た。それにある程度だが、相手の動きも読めてきた。機体を立て直すと同時にすぐ傍で骸を晒していたゲイツRのビームサーベルを拾い上げ、攻撃に移る。

「へぇ…私の動きを見切っ た」

ゼロもまたそんなリンの反応に愉しげに笑みを浮かべる。最初は反応もできず無様だっ たというのに、こんな短時間で対応できるほど、リンの順応力に肩を竦める。

「侮ったこと、詫びるわ…で もね騎士、所詮は無駄な足掻き」

操縦桿を引いて機体を跳躍させ、ザクに向かって黒刃を振るう。リンも歯噛みしながら ビームサーベルで応戦する。

ぶつかり合う刃と刃がエネルギーをスパークさせ、両機を照らす。

リンは操縦桿を切り、交錯する刃の力の流れを殺さず、受け流す。回転するように死神 の横を取り、刃を薙ぎ払うも、死神は機体を降下させてかわす。

舌打ちするとともにリンの内に奇妙な違和感が沸く。

(なに、この感じ……)

その違和感に戸惑うも、死神は容赦なく襲い掛かり、リンはザクのシールドで刃を受け 止めるも、死神はその盾を支点に身を振り上げ、蹴りをザクの頭部に叩き入れる。鋭い衝撃が機体を襲い、リンは歯噛みする。

死神がザクとの戦闘に集中するなか、瓦礫に埋まったセレスティはその破片の下でもが きながら身を起こし始めていた。

だが、コックピットの方では、マコトが青褪めた表情で視界を霞ませていた。

「はぁ、はぁ…」

幾度も振動にシェイクされ、身体の感覚がおかしい。おまけに平衡感覚が狂って頭の方 に錘が乗ったかのようにくらくらする。

「くっ、セレスティ…いった い、どうしちまったんだ……」

先程から続くセレスティの暴走。パイロットを完全に無視した自律モードのようなオー トパイロットシステムでも積んであるのかと、マコトは考えたが、それにしてはおかしい。

だが、このままでは流石にまずい。これ以上こんな機動を続けられ、衝撃を受け続けれ ば、パイロットの方が保たない。

そして、視線を腕に抱くカスミに向ける。カスミもまたこの機動にやられたのか、表情 に生気がまるでない。なんとかしてコントロールを取り戻そうと、マコトは計器パネルを叩くも、モニターには先程から固定されたまま、反応がない。

苛立ちながら、マコトは操縦桿を必死に動かす。

「くそっ、セレスティ!」

乱暴に前後へ引くも、セレスティは反応を返さず、機体を破片を振り落としながら立ち 上がらせる。そして再び、死神に向けて視線を固定する。

マコトはそれでも諦めず、幾度も操縦桿を引いた。今の自分には、それしかできないと 悔しく思いながらも、決して諦めず。

「セレスティ、俺はお前の本 当の主じゃない…けどっ今は俺の言うことをきいてくれっ! カスミを護らせてくれっ」

その叫びが聞こえたのか、カスミが虚ろな生気のない視線を上げ、マコトを見据える。

……兄…さん

掠れた…片言で呟くカスミ。だが、集中しているマコトの耳にそれは届かない。

「セレスティっ!!」

一際大きな感情の爆発。その瞬間、マコトの内で何かが大きく脈打ったのが聞こえた。 自分の鼓動か…それすらも判別できない程大きく響いた鼓動。

だが、それに呼応してセレスティの動きが僅かに止まり、紅く輝いていた瞳が再び蒼穹 の輝きを取り戻す。

コックピット内を包んでいた赤い光が消え、マコトは眼を瞬く。セレスティの動きが止 まった。操縦桿を恐る恐る動かしてみるが、それに連動して右腕が動く。

コントロールが戻った…だが、モニターには未だ『BLASTER MODE』が表示されたまま。それに、なにか身体の感覚も妙だ。神経が過敏になっているとい えばいいのだろうか、奇妙な違和感が全身を駆け巡っている。

呆然と佇んでいたが、すぐ近くで起こる爆発にハッと我に返る。モニターに視線を向け ると、ザクと死神が交戦を繰り広げ、ザクが押されている。

マコトの脳裏に助けろという命令じみた声が響き、マコトは視線を細め、操縦桿を握 り、感覚を確かめるように数回手を動かした後、勢いよく引いた。スラスターが唸りを上げ、セレスティは加速した。

死神に押されながらも、なんとか凌ぐザク。リンは培った反応速度と動体視力でその攻 撃を見切るも、肝心の機体の反応が鈍い。量産機種なうえ、OSも変更していないのでは仕方ないかもしれないが、愚痴っても変わるものではない。

幾度目になる刃の交錯。だが、繰り返すたびにリンの内に燻る違和感が確信めいたもの に変わってくる。

「この動き、体裁き……」

死神の動きは、リンにとって何か既視感を沸き上がらせる。

(覚えがある…この動き、確 かに覚えがある……っ)

身体に染み込んだ幾人もの戦い…その感覚が伝える。この動きは以前にも何度も戦った ことがある。リンの脳裏を掠める過去の光景…だが、リンはその可能性に僅かながら疑問を覚える。

それでもハッキリと確信できない…そんなもどかしさが渦巻き、苛立つ。迫る死神の刃 を受け止め、回線に向かって叫ぶ。

「貴様、ゼロと言ったな!  訊きたいことがある!」

外部スピーカーで叫ぶも、ゼロは答えず、返答とばかりに脚部でザクを蹴り飛ばす。

「くっ!」

表情を歪めながら壁に叩きつけられるザク。そのザクに向かって突撃しようとするも、 横殴りに撃ち込まれる銃弾。ゼロの注意が逸れると、セレスティが胸部機関砲を放ちながら突進してきた。

「うぉぉぉぉっ!!」

体当たりを受け、弾かれる死神。距離を取ったと同時にセレスティは拾い上げたビーム ライフルを放ち、死神を狙い撃つ。

素人のその攻撃に掠りもせず、空中で回避する死神。だが、ゼロは突如背後に感じた気 配に振り向くと、リンのザクが空中へと舞い上がり、死神に掴み掛かる。

機体を掴み、取っ組みかかる ザクにゼロは表情を顰める。刹那、正面ウィンドウが開いた。

「っ!?」

初めてゼロが息を呑んだ。

開かれたモニター画面…それは、接触回線によって繋がれた強制割り込み。故に、予想 外の事態。そのモニターに映るのは、ザクのパイロットであるリン。

モニター越しに相手を見据えるリンとゼロ。リンは映し出されたゼロの姿に眼を見開 く。

金色の髪を持つゼロ。だが、その顔はバイザーに覆い隠され、知ることは叶わないが、 リンの視線がゼロの胸元に向けられた瞬間、驚愕に見開かれた。

「な、に……」

ゼロの胸元で輝く真紅のクリスタル……それを確認した瞬間、リンは息を呑んだ。

硬直するリンに向かってゼロが舌打ちし、強引に弾き離した。衝撃に我に返り、リンは 必死に制動をかける。

空中で対峙するなか、ゼロはセレスティもまた飛行し、こちらに距離を保ったままビー ムライフルを向けているのを確認し、小さく溜め息を零した。

「やれやれ…潮時かしらね」

その言葉がまるで誘発したように、天頂付近の外殻から爆発が起こり、リンとマコトは それに反応した瞬間、気流の流れが機体に襲い掛かった。

コロニーの強化ガラスに穴が空き、そこから空気の排出が始まり、乱気流が起こってい る。空中に舞い上がったためにその影響範囲に迂闊にも踏み入れてしまったのだ。マコトはスラスターを噴かして、なんとか堪えようとする。

リンも突然の事態に意表を衝かれ、反応が鈍い。そんな二人を嘲笑うように黒衣を靡か せる死神はその気流に身を委ね、ゆっくりと舞い上がっていく。

「鍵の眼覚め、器の覚醒、そ して騎士……なかなか愉しめたわ」

不適な笑みを浮かべ、セレスティ、そしてザクを一瞥し、ゼロは口元を歪めた。

「次は…もっと愛死合いま しょう……」

妖艶な笑みを口元に浮かべ、死神は宇宙のなかへと消えていく。その姿を視界に認めた リンは焦る。

「ま、待て……っ!」

リンらしくない焦りを抱いた表情でその後を追う。

(何故…何故奴がアレを…… あのペンダントを…っ!?)

モニター越しに見たゼロの胸元に揺れていたもの…アレは紛れもない。リンと…そして レイナにとって命よりも大切なものだ。そのペンダントを何故あのゼロと名乗った女が持っているのか…そしてさらに混乱に拍車をかけるのは、ゼロの駆るあの 死神の動き。

(姉さんと似ている……)

多少違ってはいたが、あの動きには嫌というほど覚えがある。あって当然だ…戦場で最 初に再会した刻は敵同士だった。幾度となく戦い、そして幾度となく互いの背中を預け合った姉の動きを、リンが見間違うはずがない。

思考を混乱に染めながらも、リンは必死に後を追う。もしかしたら、姉の失踪にはあの ゼロという女が何か絡んでいるのではないかと……憶測の域を出ないが、無意識に手が胸元のペンダントに向かい、力強く握り締め、リンは突き動かされるよう に気流のなかを加速し、宇宙へと飛び出していく。

ザクが死神を追って飛び出したのを確認したマコト。なんとか耐え切っていたが、完全 に身体の感覚が回復していなかったのか、握っていた操縦桿を押さえる力が緩み、その一瞬の緩みが気流の流れに負け、セレスティも宇宙空間へ吸い出されて いった。

 

 

 

 

開かれた穴から吹き荒れる気流がコロニー内部の物を吸い上げていくも、外壁の外側に 備わった強化層が素早く起動し、穴を塞いでいく。

気流の流れが沈静するも、ミネルバの艦橋ではアーサーが驚きの声を上げていた。

「艦長!」

インパルスに続いてセイバーとレイとセスのザクまでもがプラント外に飛び出し、さら には例のアンノウン機とともに友軍のザク、そして一体の見慣れぬMSが吸い出されていった。

「あいつら、なにを勝手に!  外の敵艦はまだ……」

困惑するアーサーにタリアも表情を顰める。そこへ矢継ぎのごとくメイリンが鋭い声で 報告した。

「インパルス、セイバーのパ ワー、危険域です! 双方とも最大で後300!」

「ええっ!?」

顔を青褪めさせるアーサーの横でタリアは予断を赦さぬ状況に一つ息をついた後、決然 とした面持ちで毅然と立ち上がり、鋭く告げた。

「インパルスとセイバーまで 失うわけにはいきません、ミネルバ、発進させます!」

彼らの行動は軽率ではあるが、この現状では無理もないと思える。友軍にこれ程の被害 を齎した相手をみすみす見逃せぬという使命感も…だからこそ、彼らを見殺しにはできない。そう決断したタリアの判断は早かった。

「ええっ」

その宣言にアーサーは眼を見開き、メイリンや他のブリッジクルー達も困惑するように どよめく。未だ、進水式も済ませていない、最新鋭のこの艦が戦闘に参加することになるとは、誰も予想していなかったに違いない。だが港が潰され、他艦の増 援及び、追撃が期待できない以上、宇宙に出た彼らを援護できる者はいない。幸いにもこの艦は特別に発進口を控えている。ならば、自分達が援護に向かうしか ない。

そして、一同の視線が後方のデュランダルに集中し、タリアも静かに視線を向けると、 苦渋の表情で頷き、同意を示した。

「頼む……タリア」

タリアは強く頷き返し、シートに着くとともにクルー達は弾かれたように己の役割をこ なそうと、忙しなく作業を開始出した。

進水式を得ずに実戦に臨まねばならない状況に陥ったクルー達に申し訳なく思うも、今 は彼らを信じるしかない。この先、共に戦うことになる部下達を……

「ミネルバ、発進シークエン ススタート。本艦はこれより戦闘ステータスに移行する!」

「FCSコンタクト、兵総要 員は全ての即応砲弾群をグレードワンへ設定」

そのメイリンの指示とともにミネルバに搭載されている全ての砲門がモニターに表示さ れていった。発進シークエンスが始まり、クルー達が次々に作業を進めるなか、タリアは後ろを振り返り、デュランダルを促す。

「議長は、早く下船を」

現プラントの議長を連れて戦場に出ることはできない。退艦を勧めるタリアに、デュラ ンダルはしれっとした顔で、予想もできない言葉を返した。

「タリア、とても残って報告 を待っていられる状況ではないよ」

その言葉に、クルー達の間に微かな動揺が走り、思わず作業を中断し、視線を向ける。 タリアも表情を顰め、厳しげな視線を向ける。その言葉の意味するところは、彼もここに残り、同行する旨を示していた。

軽く睨むように眉を寄せるタリア。

「しかし…!」

言いたいことは解かる。その責任感も好意には値するが、時と場所を考えて欲しい。そ んな憤りを憶えながらも、なんとかその無謀な申し出を撤回するように言い募ろうとするも、遮るように、デュランダルはもの柔らかな表情のなかに微かに鋭い 眼光を宿し、断固たる意志を込めて告げた。

「私には権限もあれば義務も ある……私も行く、許可してくれ」

たとえ議長であろうとも、戦艦のなかでの最高責任者は艦長だ。無論、艦長権限で強引 に下船してもらうことはできた。だが、タリアにはそうできない事情があり、微かに唇を噛みながら、前に向き直ると密かに溜め息を漏らす。

だから、この人を艦橋に入れたくなかったのだ、と………

 

 

そんな艦橋での微妙なやり取りが行われるなか、開かれたミネルバのハッチ目掛けて吹 雪とザクが飛び込み、機体を着艦させる。

「これが、明日進水予定だっ た新造艦…確か、ミネルバと仰られてましたね?」

ザクのコックピットでモニターに映る艦内部を見渡しながらそう問う雫にキラは頷きな がら機体を安定させる。

ハッチ付近は搬入されてくる機体や物資、人でごった返し、彼らに見向きもしない。ま あ、コロニーの外壁が破られるような事態だ。それどころではないのかもしれない。だが、現状は余計なトラブルを起こさずに済んで僥倖だ。キラは不安な面持 ちでラクスを見やる。先程から傷口を押さえて止血はしているが、やはり一度専門医に診てもらわねば。その後で日本の代表の身の保全のためにデュランダルを つかまえなければならない。キラは素早くこの後の行動をシミュレートすると、ザクの片膝をつかせ、ハッチを開放する。

ミネルバの格納庫では緊急発進したインパルス、セイバーの後にはすぐさま遅れていた 搬入作業を再開し、急がせていた。そんななか、バーニアの不調で緊急着艦したルナマリアのザクウォーリアがハンガーに固定され、すぐさま修理作業に取り掛 かる。ルナマリアもやや不機嫌な面持ちで機体を見上げていた。

意気込んだ赤になってからの初実戦で心外な初陣を飾ったことに対する不満か…整備士 や他の警備兵と交わすなか、格納庫にMSが乗り入れたことに対して顔をそちらに向けた。

「何、あの機体?」

片腕を失った友軍のザクウォーリアを抱える見慣れぬMS。ただでさえ所属不明のMS に攻撃を受けたばかりなのだ。他の兵士達も緊迫した面持ちで銃を構え、ルナマリアもやや表情を険しくし、近くにいた兵士から銃を奪うように取り、構える。

構える彼らの前でコックピットハッチが開き、2組の男女が降りてきた。

「え、あれって…ラクス 様?」

その片方を見やったルナマリアだけでなく周囲の兵士も戸惑う。俯いているためにハッ キリとは解からないが、その特徴的なピンク色の髪はプラントのなかでも知らない者の方がいないぐらいに著名な人物だ。

困惑する一同に気づかず、ハンガーに降り立ったキラはラクスを抱え、吹雪から降りた 刹那は雫に駆け寄る。

「雫、大丈夫?」

「ええ。私は平気だから…そ れより、ラクスさんを」

咳き込むように気遣う刹那に苦笑を浮かべて応じながら、不安な面持ちでラクスを見や る。まだ頭が痛むのか、ラクスは床に足をつけた途端によろめき、キラが慌てて支える。

「ラクス、大丈夫? す ぐ……」

「ラクス様!」

キラの声を遮るように掛けられた大声にハッと振り返ると、数人のザフト兵がこちらに 駆け寄ってきた。

そして、傍らに立つ見慣れぬ雫と刹那に向けて牽制するように銃を向ける先頭に立つル ナマリア。どこか殺気立った気配に当てられたのか、雫は微かに眉を寄せ、刹那が反射的に雫の前に割って入り、背後に庇って立った。

険悪な雰囲気が漂うなか、キラが慌てて説明しようとするなか、艦内にアナウンスが流 れた。

《本艦はこれより発進しま す! 各員、所定の作業に就いてください!》

どこか切羽詰ったメイリンの放送に周囲がざわめく。キラも思わずその言葉に反応す る。この艦は進水式前のはずだ。何故発進する必要があると…疑問を擡げるも、ルナマリアは意表を衝かれながらもすぐさま我に返り、視線を刹那と雫に向け、 他の兵士達も銃を構え、一部がキラとラクスを護るように割って入る。

これはある意味仕方ない…部外者である刹那達が友軍機を伴っていたとはいえ、ザフト 艦に乗り込んだのだから。

「何だ、お前達は? どこの 所属だ?」

険しい表情で矢継ぎに詰問するルナマリアだが、刹那は逆に睨み返すように毅然と雫を 背に庇い、佇む。

ただでさえ部外者によるセカンドシリーズの強奪に所属不明のMS部隊と立て続けの襲 撃だ。そこへザフトのものではないMSが突如現われれば警戒も仕方ないだろう。刹那は苦く思いながらも、なんとかこの場を収めなければならなかった。

「あ…その方達は……」

事態がまずい方向へと進むのを察したラクスが声を掛けるよりも早くそれを制するよう に刹那が周囲の兵士を睨み、どこか威厳がこもった声で高圧的に告げた。

「銃を下ろしてください。こ ちらは大日本帝国の斯皇院雫外交官です」

その名を聞いた瞬間、ルナマリアは驚いて銃口を下げ、他の兵士達の間にもどよめきが 走る。

この場で聞くこともない名を聞いたのだから、混乱も仕方ない。

「僕は随員の真宮寺刹那。あ の機体は吹雪、日本のMS。デュランダル議長との会見中、騒ぎに巻き込まれ、避難もままならなかったため、MSを起動させ、ここへ避難した」

「日本の……?」

曖昧な調子で唖然と呟く。刹那の言葉を疑っているのだろう。だが、こちらがVIPで ある以上、確信が持てないうちは相手も慎重に対応せざるをえない。本物か偽者かはこの際二の次だ。

刹那は毅然としたまま居丈高に要求を告げた。

「外交官の手当てと身の保全 のため、デュランダル議長が向かわれたこの艦に避難させていただいた。議長はこちらに入られたのでしょう? 御眼にかかりたい」

彼らを取り囲む一同は困惑した面持ちで互いに視線を交わしていた。

 

 

 

ロイは周辺に布陣していたMSをあらかた撃退した後、単機でエグザスをアーモリー・ ワンに向けさせた。

一応、潜入させた別働隊の成否を確認するためだ。ロイは部下の能力を把握し、評価し ていた。この程度の作戦でしくじるような駒ではないと…だが、なにかしらのトラブルが起こったと思った方がいい。

プラントの外壁付近に接近すると、相対速度を合わせ、エンジンを切った。エグザスは 静かに外壁表面に着地する。巨大なプラントの外壁に張り付く様はコバンザメのように見える。暫し静観を決め込んでいたロイの視界に、機能を封じ込めた港か ら数機のダガーL部隊が飛び出してくるのが映った。

内部に突入させた回収部隊だ。だが、その編成はダガーLのみ。

「ふむ…彼らが後詰めに回っ たと見るか、それとも抑え込まれているのか……」

サングラスの奥で眉を寄せ、様子を窺っていると、プラントの一画から火柱が昇った。 融け落ち、拡がった外殻の強化ガラスの穴から黒いMSが飛び出し、それに続けてダークグリーンとネイビーの機体、そしてストライクEが連なるように続く。

間違いなく連中だ…遅れはしたが、彼らはロイの期待に見事応えてみせたのだ。随分時 間が掛かったものだとやや嘆息するも、その4機を追うように一体の白いMSが飛び出し、続けて3機が後を追うように飛び出してくる。

4機の内、2機はザフトのZGMF-1000モ デルだが、もう2機はトリコロールを基調とした背面に4枚の翼を持つ機体と赤を基調とする機動性を主とした機体。どちらも見たことのない機体だ。

それを確認し、ロイは口元を薄めた。

「成る程、新型は3機ではな く5機だった、ということか……予備の駒も用意しておくべきだったかもしれんな」

別働隊が遅れた理由を悟り、自嘲する。

「これは確かにミスかな?  諜報部の情報を鵜呑みにした私の?」

キーパネルを叩きながら、ガーティ・ルーへの通信文を送る。Nジャマーによって無線 の使用に制限のある戦場においては、現在のとことレーザー通信がもっとも信頼性の高い連絡手段だった。

作業を終えると、ロイは操縦桿を握り締める。

「ならば、そのミスは私自身 の手で正さねばなっ」

自信を漂わせた不適な笑みを浮かべ、エグザスのエンジンを始動させると、スラスター を軽く噴かせ、機体を浮かせる。エグザスは優美にトンボを切ってプラントの外壁を離れ、急加速して4機を追うインパルス目掛けて突撃した。

 

 

 

 

戦場をアーモリー・ワン内部から宇宙へと移すなか、ミネルバもまた発進シークエンス を着々と進めていた。艦体下部に犇めくメンテナンスケーブルが外れ、ドックの内部へ収納されていく。

艦体を支える巨大なアームが下がり、ミネルバが鎮座していた場所の床が開き始めた。

《システムコントロール、全 要員に伝達。現時点を以て、LHM-BB01:ミネルバの識別コードは有効となった。ミネルバ緊急 発進シークエンス進行中。 Å55M6警報発令、ドックダメージコントロール全チーム、スタンバイ》

ミネルバのIFFが登録さ れ、床の巨大なハッチが開き、船体を係留していた両脇のアームを固定した壁ごと下方へスライドし、ゆっくりと降下していく。

ブリッジから見える光景が見慣れたプラント内部から無機質なゲートの壁に変わる。そ の光景が全員の面持ちをより険しくしていく。

《ドックダメージコントロー ル、全チームスタンバイ。第2、第5チームは突発的先刻破壊に備えよ。ゲートコントロールオンライン、ミネルバリフトダウン継続中…モニターBチームは減 圧フェイズを監視せよ》

アナウンスとともに外壁部に降下していくミネルバの上部ハッチが閉じられ、やがて ゲート内の気圧が下がり、真空の外気が船体を絞めつけるような錯覚を憶えさせる。

そのミネルバ艦内をルナマリアの先導でキラ、ラクス、そして刹那と雫は移動してい た。格納庫での悶着の後、ラクスがなんとか仲裁に入り、ようやく話が通り、ルナマリアが医務室への案内を買って出た。

キラとラクスの背後…つまりは刹那と雫の前後とその背後には武装した衛兵が固めてい る。VIPの護衛と言えば聞こえはいいが、要するに体のいい監視だろう。だが仕方ない…今、この艦内では刹那と雫は部外者なのだから。あまり居心地のいい ものではないが…取り敢えず手当ては受けられる、それだけで今はよかった。

振動する艦内にミネルバの発進アナウンスを聞き、雫はやや不安な面持ちで先導するル ナマリアに問い掛けた。

「避難、されるのですか、こ の艦? プラントの損傷はそれ程酷いものなのですか?」

戦艦が発進するとまでなると、余程アーモリー・ワンへの被害は大きいのだろうか。キ ラの脳裏に前大戦で崩壊したヘリオポリスの光景が過ぎる。問い掛けられたルナマリアも答えようとはせず、ただ肩越しにこちらを一瞥するだけだ。

その時、艦内に警報が流れ始めた。

《ミネルバ、発進します、コ ンディションレッド発令! コンディションレッド発令!》

そのアナウンスとともに艦内の電磁パネルに『CONDITION RED』の文字が切り換わるように表示される。それにルナマリアだけでなくキラやラクス、刹那、雫も驚きに眼を見張った。

《パイロットはただちにブ リーフィングルームへ集合して下さい》

艦内が慌しくなり、彼らを横に何人もの兵士が走り回る。

「どういうことですか? こ の警報は?」

ただならぬ雰囲気に刹那が詰め寄るように問い掛ける。ザフトの所属ではない刹那には この警報の意味が解からない。だが、プラント側の人間であるキラはその意味を知っている。そして愕然となる…この艦が発進するのは避難のためではない。コ ンディションレッド…その警戒レベルが意味するところは……キラは刹那の問いに答えず、ルナマリアにきつい口調で問いただす。

「戦闘に出るのか!? この 艦は!」

恐らく、外にいるであろう強奪部隊の母艦との戦いに赴くためであろう。だが、そんな 危険な場へラクスを連れていく訳にはいかないと詰め寄るも、当のルナマリアも困惑しているらしく戸惑うだけだ。

ラクスもまたそんなキラの様子に焦ったのか…それとも怪我のために普段の注意力を散 漫していたのか、これまで公式の場では決してしなかったキラの本名を咄嗟に呼んでしまった。

「キラ……っ」

口走った途端、ラクスがハッと口を押さえる。

その名にルナマリアは訝しむように眼を細める。

「えっ……キラ?」

キラも表情を僅かながら険しくする。今のキラの名はラクス=クラインの秘書官『ヒビ キ=ヤマト』だ。非常事態の連続に偽名を忘れてしまった…ラクスが自身の迂闊さに自己嫌悪するなか、キラはルナマリアを居心地が悪く見据え、ルナマリアも またどこか疑惑と、好奇が入り混じった視線を向け、その様子に背後の刹那と雫は首を傾げ、困惑するのであった。

 

 

そんな艦内のトラブルも慌しい艦橋には伝わらず、発進シークエンスが最終フェイズに 移行していた。

ゆっくりと降下するなか、減圧が完了し、船体が真空に耐圧する。

「発進ゲート内、減圧完了… いつでも行けます!」

襲撃時のオロオロした様子ではなく、自信を漂わせるアーサーの報告にタリアは内心、 呆れるも、それを抑え込んで発進を指示する。

「機関始動…ミネルバ、発進 する!」

ゲート最下層まで到達し、下部のハッチがゆっくりと左右に開いていく。ゲートの奥に 見える星の海に、それを照らす太陽の光が薄暗いゲート内に差し込み、船体を照射し、屈折した光を放たせる。淡いグレイのボディに光のラインが走り、ゲート が完全に開き切ると、そっと投げ落とすように係留フックが離れた。

その遠心力を受け、ミネルバはゆっくりと宇宙空間にその身を沈めていく。船体の前方 に設置された一対の大型主翼が左右に展開され、ゆっくりと加速する。

進水式を終えぬまま、ミネルバ大いなる星屑の海へ旅立った……大きな嵐が待ち構え る…未知なる航海へと………

 

 

 

 

 

 

 

 

《次回予告》

 

 

新たなる火種…新たなる脅 威……

新たなる謎…そして……新た なる闇………

 

渦巻く混沌のなか、戦士達は 邂逅する。

それは、何かの前触れか…… 運命の導きか……

 

彼らの前に拡がる見えぬ道… もはや戻ることも叶わない……

それぞれが決意するなか、少 年は戸惑う。

己が駆る白き機体に………

 

だが、決して止まることはな い…眼の前に道が在り続ける限り………

 

 

次回、「PHASE-10 旅路」

 

果て無き路を、突き進め、セ レスティ。


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