ジェネシスα宙域で勃発したジャンク屋組合とザフトの脱走兵からなる攻防戦は、介入行動を起こしたTFの援護により、最悪の事態は回避できたかに見えた。だが、その裏では真実に見え隠れする影が蠢いていた。

 地球へと落下軌道を取るユニウスセブンの片割れであるユニウスΩを遠距離からジェネシスαで狙撃するため、観測のために出撃したジェスのアウトフレーム。そのアウトフレームに襲い掛かる謎のMSであるプロメテウスの猛攻。

 そこへTFに同行していたマイからゴールドフレーム天を借り受けたカイトが援護に入るも、プロメテウスの特殊能力に翻弄され、咄嗟に援護に入ったジェスもまた、その狂刃によって倒される。

 絶体絶命の危機のなか、突如その戦闘に割って入った者こそ、A.W.終結と同時に火星圏へと旅立っていたロウ=ギュールであった。

 リ・ホームの艦橋でロウはモニター越しに回収されていくアウトフレームを抱えるゴールドフレーム天を見やりながら、後方のキャプテンシートを見やる。

「ジョージ、周囲に他の反応はあるか?」

「ちょっと待ってくれ。いや…どうやら、あの機体だけのようだな。ミラージュコロイドデテクターにも反応はない」

 キャプテンシートに着く男は指先に仮想ウィンドウを表示し、己の身体でもあるリ・ホームのメインコンピューターに連動し、艦を中心に半径数キロに渡って索敵するも、反応はない。

 この男こそ、今でも長く続くこの世界の流れを作り出した要因の一つでもある存在。ファーストコーディネイター:ジョージ=グレンであった。テロによる暗殺後、その脳髄のみが生き延び、数奇な運命を辿ってこの艦のメインコンピューターと接続され、そして蘇生された。そのため、己の肉体を持たない立体映像ではあるが、ロウ達にとっては頼れる存在であった。

「しかし、早々に引き上げてきて正解だったかもしれんな。火星の方も気に掛かったが、仕方あるまい」

 神妙な面持ちで嘆息する。

「ああ、取り敢えずジェネシスαへ行こうぜ。あんちゃんの事も気にかかるしな」

 表情が僅かに顰まり、ロウはステーションへと帰還していく機影を見やる。ハッキリと確認はできなかったが、アウトフレームはかなりの損傷を受けたはずだ。火星へと旅立つ前の一件が脳裏を過ぎる。

 2年前…あの時もロウはこの場所から旅立っていった。A.W.末期においてこの場所でザフト軍の特務部隊と激戦を繰り広げ、このジェネシスαを手に入れた。そして、このジェネシスαを拠点に改装を進めるなかで、この機械の特徴であったソーラーセルシステムを使い、ロウは相棒である樹里、ジョージ、そしてもう一人と共に火星圏へと旅立ったのだ。あの加速のおかげで火星までは半年以内に到達したが、その逆は自力で帰還せねばならず、火星コロニーで調達したブースターで帰還した。

 その旅立つ前に、ロウはアウトフレームを貸したジェスと出逢った。あの時だけの関係ではあったが、ジェスの人となりを気に入ったからこそ、ロウはアウトフレームと8を預けたのだ。

 だが、どうやらそんな悠長な再会を喜んでいる暇はないらしい。

「プレア……お前の言った通り、地球圏は大変なことになっているようだぜ」

 肩を大仰に竦め、ここにはいないもう一人の仲間であった者に向けてぼやき、ロウはステーションを目指した。







「どうにかはなったみたいね」

 モニターで外部の戦闘を見守っていた一同のなか、マイはポツリと漏らした。キョウ以下、ニコルとシホはハラハラした面持ちからようやくホッと肩の力を抜く。

 流石に見ていて冷や冷やものだった。アウトフレームが大破させられた時は思わず息を呑んだが、どうにか事態は終息したらしい。

「こうなると解かっていたのか、少佐?」

 唯一、マイだけが平然とした面持ちで戦闘の一部始終を見ていたことにキョウが問い掛けるも、マイは肩を竦める。

「生憎、私は超能力者なんかじゃないわよ。でもまあ、最後のアレは予想外だったけど」

 眼を細めながらモニターに映るリ・ホームを見やる。

 確かに、事態はどのような結果にせよ、可能性的にこちらの勝利で終わるという確率は高かった。マイとて伊達にパイロットをやっている訳でもない。カイトの腕がそれなりに高いことは彼の依頼主から聞かされてもいたが、結果はその予想を大きく裏切った。

(アレが、中将やマティアスが言っていたリ・ホームか……火星へ行ったと聞いていたけど、何故戻ってきた? 火星で何か起こったの……)

 データだけだが、その存在は聞いていた。だが、帰還予定は早くてももう後数年は掛かるはずだ。こんな短期間で地球圏へ帰還した理由に思考を一瞬巡らせるも、すぐさまそれを横にやり、マイは今一度モニターに映る宇宙へ…そして、その彼方へと姿を消したプロメテウスを脳裏に浮かべる。

(ま、予想は大きく変わったけど、餌には引っ掛かってくれたようね。元連合の特務諜報部…遂に尻尾を掴んだわ)

 あの機体が使用したウイルス。アレは間違いなく旧連合時代、ユーラシア連邦の軍部で秘密裏に開発されていたものだ。そして、そこから辿れるのは……カイトの腕を過小評価していた訳ではないが、逃げられたのは相手を少々甘く見すぎていたかもしれない。

 あわよくば、捕まえて面を拝みたかったが、逃げられたものは仕方ない。

(それに、諜報部がそうだという確証もまだだしね)

 頭を掻きながら、マイは内に沸き上がっていた思考を押し込める。その間にも、帰還してきたゴールドフレーム天が大破したアウトフレームと放り出されたジェスを抱えてきた。それに周囲は慌しくなり、キョウ達も確認のために向かっている。

 その様を見据えながら、マイは髪を掻き上げる。

「流れは既に止められない。これで動かざるをえなくなるでしょう、世界も…いえ、世界が流れを加速させようとしているのかもしれないわね」

 そう…緩やかな時間は終わりを告げる。世界はその流れをさらに加速させ、そしてそれは多くの分岐を巻き込み、やがては一つへとなっていく。

「流れは加速した。なら、私もそれにのるまで……真実を見極めるためにね」

 口端を微かに吊り上げ、マイは歪んだ笑みを零した。

 彼女には似つかわしくない醜悪な…されど、彼女に似つかわしいかもしれない不適な笑みだった。







機動戦士ガンダムSEED ETERNALSPIRITSS

PHASE-14  プロメテウスの消える刻







 ジェネシスα内に降り立ったゴールドフレーム天が大破したアウトフレームを横たえ、カイトは静かに左手に乗せていたジェスの身体を降ろす。モニター越しに確認したが、ヘルメットに大きく亀裂が入っている。普通なら窒息死だ……自身の不甲斐なさと怒りに苛立ち、それを舌打ちして振り払うと同時に一目散にジェスの身体を抱え、ゆっくりと横たえる。

 そこへリーアムや周囲の整備士達も駆け寄ってきた。そんななか、接舷したリ・ホームからもロウと樹里が降り、駆け寄ってくる。ロウはふと、離れたところに佇むキョウ達に気づき、軽く手を振る。

 そして、カイトはジェスの首元のヘルメットのロックを解除する。微かに空気の漏れる音が響き、気密性は失われていなかったことに僅かに安堵する。宇宙という過酷な環境のなかで使用される作業服は、それこそ何重にも渡って安全対策が講じられており、その賜物だろう。

「おい、生きてるんだろうな?」

 乱暴な物言いで本心を隠すように怒鳴りかけ、ヘルメットを脱がすと、その下からは血みどろのジェスの顔が現われた。

「……よう、カイト」

 弱々しい声だったが、ハッキリと応えたことにカイトだけでなく、周囲の者達もホッと胸を撫で下ろす。

「このバカが、無茶しやがって」

 咎めるものの、小さな声色にジェスは苦笑を浮かべるしかない。そして、ジェスは隣に立つロウに気づき、痛みの走る動かない身体のなか、首を向けた。

「……あんたは………」

「よう、あんちゃん。久しぶりだな」

 屈み込み、軽く手を振って挨拶を交わすロウにジェスは驚きを隠せない。

「…ロウ=ギュール……火星から、戻ったの…か……」

「ああ、さっきな」

「あっすまない…借りていたアウトフレームを……あんなにしてしまって………」

 ジェスと同じくアウトフレームも大きく傷つき、ボロボロであった。借り受けていた機体の惨状に罪悪感を憶えるジェスにロウは首を振る。

「いいさ、あんたが助かったんだ」

 確かにアウトフレームはボロボロになったが、ジェスは無事だったのだ。ロウにしてみれば、そちらの方が重要だった。

 数年振りに会うはずのロウだったが、このジェネシスαで別れた頃と何一つ変わっていない。

「それに……あいつなら、修理すればいい」

 そう…機械は壊れても修理することができる。それがロウの信条なのだから。その言葉にジェスは息を呑む。

「できる…のか?」

 正直、アウトフレームはスクラップ同然だ。普通の技術者なら、そこでもう修理を捨て、新たな機体に乗り換えることを薦めるだろうが、ロウは壊れた機械を修理することに意義を見出す。過去だけでなく、常に前だけを見据えているのだ。だからこそ、はっきりと告げた。

「当たり前だろ! 俺を誰だと思ってるんだ…宇宙一のジャンク屋だぜ」

 指を立て、自信を漂わせた表情で不適に笑う。見ている側にまで伝わるような気持ちのよいものに、ジェスは内に沸き上がった想いに、思わず自身の身体の状態も忘れて飛び跳ねるように身体を起こした。

「お、おい…っ」

 気遣うカイトの声も無視し、ジェスは鬼気迫る表情でロウに向かって叫んだ。

「なら…頼みたいことがある! ロウ!!」

 その眼差しを見据えるロウだったが、そこで限界だったのか…ジェスは傷と疲労に倒れ、意識を落としていった。

「ジェス!」

「早く医務室へ!」

「ああ!」

 ジェスの身体を持ち上げ、カイトは駆け様に医務室に向かって行く。去っていくジェスを見据えながら、ロウは何かを決意したように頷いた。

 それを見送ると、リーアムは穏やかな貌を浮かべ、ロウと樹里に向き直った。

「ロウ…樹里……お帰りなさい」

 ロウ達が火星に旅立つ前までずっと共にジャンク屋を営んだ仲間。こうして重職の地位に就いた今、昔のように動けなくはなっても、ロウ達と過ごした日々はリーアムにとってなによりも充実したものだった。

 だからこそ告げた言葉に、ロウと樹里も穏やかな面持ちだった。

「おう!」

「リーアム〜ただいま〜〜」

 感極まって涙する樹里にロウは以前と同じ調子で返す。その下では、忘れられた8が不満を零すように雑音を響かせていた。

「ロウ、久しぶりだな」

「ああ、キョウも久しぶりだな」

 そんな再会に水を差してしまったことに苦笑いを浮かべながら声を掛けるキョウに同じように応じる。

「お前ら二人も久しぶりだな、元気だったか?」

 横に立つニコルやシホの姿を見やり、声を掛けると、二人も笑顔で応じる。

「ええ、元気でやってます」

「お久しぶりですね」

 TFに身を寄せる以前から何度か顔を合わせていたニコルとシホも久方ぶりの邂逅に思わず笑みが零れる。そして、ロウは唯一初対面であるマイに視線を向ける。

「そっちは初めてだよな」

「ええ、私はマイ…マイ=フェアテレーゼ」

「ああ、俺はロウって言うんだ」

「知ってるわ。よーくね」

 手を差し出したロウに不適な笑みで応じる。肩を竦め、横眼でどこか探るような視線で見やるマイだったが、ロウは特に気にした素振りも見せず、宙を彷徨った手を振りながら肩を竦める。

「取り敢えず、状況説明してくれねえか?」

 気を取り直し、リーアムに向き直り、開口一番にそう尋ねた。帰還したばかりで、ロウには今現在の地球圏の状況が解からない。まあ、帰還するや否やいきなり戦闘に出くわしたことから、そう穏やかな状況ではないことは明白だったが。

 そして、それは彼らにも言えることだった。ロウ達の火星圏への視察を兼ねた渡航はかなりの極秘であった。知る者は限られているが、帰還はどんなに早くても数年は後の予定だったはずだ。それが何故、僅か2年程度で帰還したのか。それも…これ程地球圏の状況が混迷し始めている矢先に。それが一同の疑問であった。

 そして、状況説明のため、リーアムは一同を管制室へと促した。







 同時刻、宇宙空間を飛翔する灰色の機体。プロメテウスはジェネシスαから遠く離れた暗礁デブリ地帯のなかに飛び込んでいた。

 大小様々なデブリや岩塊が漂うのは、コロニー開発等で打ち捨てられた資材や除去物がほとんどだ。そんな奥に加速するプロメテウス。やがて、その先に一つの巨大な構造物が見え始めた。明らかに人工である機械で構成された小惑星。

 それは、旧連合時代の遺産。旧地球連合軍特務情報部が所属する宇宙ステーションであった。

 真っ直ぐにステーションへと向かうプロメテウスに気づき、外壁の岩塊に備わったハッチが開放され、その内へと飛び込む。やがて外壁ハッチが閉じられ、空間内が空気で満たされ、機体が微かな重力の抵抗を憶え、その身を落とす。コックピット内で異形の仮面をつけた人物が口元を荒く乱す。

 通路の壁面から機体を固定させるためのアームやロックが現われ、機体を固定する。機体はそのままステーション内のハンガーに移送され、やがて大勢の整備士達が犇めくなかへと移動し、メンテナンスベッドに固定される。

《RGX-00:プロメテウス帰還、固定完了!》

 拘束具のように機体を固定し、ケーブルが機体に接続され、外部から主電源がカットされ、機体は灰色からより鉄褐色に近い色へとフェイズシフトする。

《核エンジン出力OFF、メンテナンスプログラム、G2作業開始!》

 それを確認すると同時に整備士達が一斉に機体に飛びつき、整備を開始する。いくら核動力の機体とはいえ、推進剤による損耗や戦闘ダメージがある。加えて単機であれだけの航行距離だ。また、その機体構成の複雑さゆえに整備も時間が掛かる。

 機体や装備の状態チェックなどに慌しくなるなか、そんな様子を一瞥すらなく、コックピットからパイロットである人物が這い出るように飛び出し、首をカクンと折ったまま機体から離れる。異形の仮面をつけているその人物の出で立ちに気に留めたものはなく、まるで存在が無視されているかのような幽霊のごとき青い様子でハンガーに降り立ち、おぼつかないフラフラとした足取りで歩くなか、前方に上官らしき士官服の男が立ち塞がった。

「おい、0984! マティス様がお呼びだ、さっさと行け!」

 高圧的な口調で告げる士官に、人影はまったく反応せず、俯いたまま小さく独り言を囁いている。延々とブツブツ話す様に苛立ち、吐き捨てる。

「どうした? 新しい指令を受領しに行け、このクズが」

 その言葉に初めて反応を示し、独り言が止み、ユラリと顔を上げる。

「指令……? 私に…か?」

「何をふざけている、そうだと言っているだろう」

 その瞬間、仮面の奥で眼を大きく見開き、口元から涎を零さんばかりに叫び上げた。

「誰が私に! 私に命令なんてしようっていうのよっ!!」

 伸ばされた腕が士官の襟元を掴み上げ、ぐいっと引き寄せられる。その拍子に制帽が脱げ落ち、そのまま力任せに乱暴に押し倒す。

 弾かれた男が床に身を打ちつけるも、無重力なのが幸いしたのか、痛みはない。だが、その間にも暴走は続いた。

 狂ったように唾液を飛ばし、乱暴な声がハンガー内に響き渡る。

「私に命令なんてふざけた真似……っ!」

 怒りに突き動かされ、獣のように近くにいた他の兵士や整備士に襲い掛かる。その様に周囲にいた者達は慌てふためく。

「いかん、クスリが切れた! 麻酔銃を急げ!!」

 一人がそう指示する間にも暴走は続く。一人の首を締め上げ、歯噛みする間から泡が吹き出す。その動きに頭に被る仮面がずれ、その下から見える眼光が猛禽のように歪み、相手を睨む。

「私を誰だとお思い! 私は……っ!」

 そこへ麻酔銃を装備した兵士が駆け寄り、素早く発砲した。甲高い音が響き、麻酔の溶液の入った弾丸が首筋に突き刺さり、先端から溶液が即効でジリジリと神経を侵食し、急激な睡魔に襲われる。

「…エ…サ………あ…がっ」

 首が折れ、仮面が再び深くずれ落ち、容貌を隠すとともにその場に倒れ伏す。その様を確認し、一同はホッと肩の力を抜く。

「まったく、化物め…これだから、コーディネイターという奴は……っ」

 最初に弾かれた士官が制帽を拾い上げながら毒づき、見下すようにその身体を踏みつけ、他の兵士に顎でしゃくり、それに頷き、数名掛りで身体を持ち上げ、その場から連れ出していった。



「またスカウト0984が暴れたの? 仕方ないわね、いつものように処理して」

 ステーションの最深に位置するモニター室に座する女性、このステーションの管理責任者であり、そして旧連合特務諜報部隊を指揮していた士官。マティスと名乗る人物であった。だが、その本名も謎のままであり、部下達もその実態を知りえていない謎多き存在でもあった。

 モニター越しにハンガーの一件を聞かされたマティスはウンザリした面持ちで投げやりに一瞥し、回線を切る。

 愉しい気分を害されたような面持ちだったが、やがて顔を上げ、その口元が怪しく歪み指先を眼前のパネルに沿って流れるように叩き、マティスの周囲には無数のモニターが取り囲むように映し出されている。

 地球の各国…それこそ、戦略的価値がない街や自然地帯、さらにはラグランジュポイントに至る全ての建造物。そこに映し出されているのは、まさに世界そのものだ。

 ウットリとした面持ちで見入っていたマティスに向かって声が掛けられた。

「まるで神にでもなったようね……マティス」

 その声に、マティスの貌に微かな皺が刻まれ、やや睨みつけるように後方を見やると、モニターが埋め込まれた壁面に背を預ける金髪の黒衣の女性が佇んでいた。

「……何の用かしら、ゼロ?」

 至福の時間を邪魔された、とでも言いたげに不遜な口調で問うマティスに、ゼロは意にも返さず、肩を竦める。

「別に…ただ、貴方の顔が見たくなった……かしらね?」

 口元を薄く緩め、ゼロは髪を掻きながら頭の上で束ねる。そんな態度に軽く溜め息を零し、前方を見やり、ゼロが口を挟む。

「長らしくない失態ね。アーモリー・ワンの件…ユニオン上層部はさぞ御不満じゃないかしら」

 揶揄するような口調で己の失点を衝かれ、マティスが歯噛みする。その様子に気をよくしたのか、ゼロは軽く鼻で笑う。

「それに、ジェネシスα……手こずっているようね」

 どこか小馬鹿にされたようでマティスは口を噤む。

「ザフトの脱走兵に情報をリークしたまではよかったけど……まさか、TFが介入してくるとはね。いえ、イレギュラーはそれだけじゃないみたいだけど」

 片方に纏め上げ、もう一方の方にも髪を束ね上げながらゼロは謳うように呟き、マティスは苛立ちが増し、爪を噛む。

 そう…ジェネシスαを強襲したザフト脱走兵の許にユニウスΩの軌道変更をリークしたのはマティスの作戦であった。碌な防衛力も無いと踏んでいたジェネシスαであったが、そこへ介入してきたのがTFだった。彼らの存在を失念していたのは自分らしからぬ失態だったが、そのための保険としてプロメテウスまで用意したというのに、そこへ更なるイレギュラーの要因が加わった。

 まさか、ロウ=ギュールがこのタイミングで帰還してくるとは流石に予想できなかったのだ。

 プライドを傷つけられたようで、マティスはジェネシスαに執着していた。そんな態度を見透かしてか、髪を梳かしながらゼロはバイザーの奥で視線を細めた。

「いくらユニウスΩが貴方にとってイレギュラーとはいえ、あまり拘らないことね」

 己の思考を看破されたようでマティスの表情はますます険しくなるが、気を取り直すように鼻を鳴らす。

「目障りな存在は厄介。だからイレギュラーな要因は早めに潰すに限るわ」

 マティスはあくまで世界を監視し、時には静観し、時には介入を行う。そうやって己の内を満足させたかった。

 自分こそが、世界の全てを知り、そして動かすことができるという絶対的な監視者としての役割…マティスはそれに酔いしれていた。

(そうよ…これから彼が作り出そうとする歴史を見届け、愉しい時間を過ごすのだから……)

 脳裏を掠める一人の男。マティスはあくまで影から世界を操る立場。だからこそ、表で己の意思を代行する存在が必要となる。その目星は既につけていた。そして、その思惑通りに進めるためにもシナリオにイレギュラーな要因は排除しなければならない。

 そのためには、あのジェネシスαは最大級のイレギュラーとなるだろう。モニターに表示されるジェネシスαとそれを取り仕切るリーアムとプロフェッサーのプロフィールデータを一瞥する。

「可能ならアレは手にしておきたい……だけどね」

 首を傾げ、覗き込むように笑みを浮かべるゼロを無視し、マティスはコンソールを叩く。

「物事はシンプルが一番……私よ、スカウト0984とプロメテウスの準備が整い次第、出撃させて」

 今頃、パイロットは調整を受けているだろう。まだ少しばかり役に立ってもらわなければ困る。あの機体…プロメテウスもその為に手に入れ、終戦後の今日に至るまで秘匿し、改修したのだ。

「物事はシンプルに…『ジェネシスα宙域全ての殲滅』よ」

 口端を歪め、嘲笑を浮かべる。これで全て計画通りに向かう。己の理想と目的を果たさんために……己の世界に陶酔するマティスを横に、ゼロはツインテールに束ね終えた髪を軽く撫で、一瞥する。

(そのために諜報部の艦隊を差し向ける、か……まあいい。なら潜り込ませるのも容易でしょうしね)

 マティスを残し、背を向けて歩み出す。だが、不意に足を止め、首だけ振り返る。

(所詮、貴方が酔う一族もただの道化。マティス……貴方も同じ舞台の上で踊る役者でしかないのよ。あの管理者どものね)

 哀れむように小さく嘲笑を浮かべ、黒衣を翻してその場を後にする。己の小さな世界に夢想する道化を蔑まんばかりに………

 そして、ゼロは胸元で揺れるペンダントを持ち上げる。鎖の先端で鈍く屈折した光を発する真紅のクリスタルを愛おしそうに見詰め、軽く口づけする。

「私も…次の舞台へ向かおうかしらね」

 不適な笑みを浮かべ、クリスタルを胸元で揺らし、金色の二つの髪の尻尾を揺らし、ゼロは威風堂々と立ち去った。







 ジェネシスαのステーションの管制室では、ロウを交えて、リーアムとプロフェッサー、そしてTFのキョウとマイ、ジェスの治療を任せたカイトが立会い、現在の状況の説明及び整理を行っていた。

「成る程…そんな事になってるのか」

 話を聞き終えたロウもやや難しげな表情で頭を掻く。状況はかなり複雑で混迷している。まるで2年前のような前触れのようにも感じられる。

「…偶然とは言いがたいわね。こうまで立て続けに起こると」

 中央コンソールに腰掛けるマイが鼻を鳴らす。

 アーモリー・ワンでの強奪事件に端を発するユニウスΩの軌道変更、そしてジェネシスαの奪取。偶然とは思えないほど、立て続けに起こる事件。

 何かが裏で動き始めている……そう思わせるには充分すぎるほどだ。

「それにしても輸送船がローエングリンを積んでいるとは驚いたぜ」

 カイトがロウを見やりながら零す。正直、助かったが、陽電子砲はその特殊性故に通常艦艇には装備できない。ましてや民間の輸送船にそれがおいそれと出回るような技術でもない。

「ああ、アレは…」

「以前、連合の戦艦を修理したことがあってその時の経験で造ったのよ。なかなか使う機会が無かったけど、役に立ってよかったわね」

 ロウの言葉を遮るようにプロフェッサーが怪しい笑みで言葉を紡ぐ。2年前の大戦中にオーブに寄港した時、ロウ達は当時オーブに匿われていたアークエンジェルの修理に末端ながら携わり、ロウはその時アークエンジェルに使われていた技術の一部をモルゲンレーテから受け取っていた。

 その後宇宙に上がり、リ・ホーム運航に当たり、その時の経験をもとに陽電子砲を再現した。だが、造ったはよかったが、使いどころが限定される上に、下手に使用しては軍から要らぬ介入を受けると今まで使いようがなかった。

「それより、今気に掛かるのはやはりユニウスΩの方だ」

「そうね、自然現象でないのは明白だし」

 プロフェッサーがコンソールを叩き、正面モニターに地球を中心とした宙域図がCG化される。デブリベルトから落下軌道に入るユニウスΩの予測降下進路。

「このままだと、後70時間後には間違いなく地球の引力圏につかまるわね」

 コーヒーを啜りながら冷静に呟く。いくら移動しているとはいえ、あの質量だ。その速度は微々たるものだが、それでも予測不可能な事態だけに円滑な対応が難しい。

 残された猶予は約3日。モニターに表示される落下予測地点は赤道地帯周辺。だが、何処に落ちようともあの質量が落下すれば、間違いなく落下地点は壊滅。その落下時に起きうる爆発の衝撃波が数キロに渡って弾け飛び、赤道周辺を中心とした一帯は壊滅的被害を受ける。

 だが、被害はそれだけに留まらない。やがてそれは二次的三次的連鎖となって地球全土に飛び火するだろう。

「ユニウスΩの方にはザフトの方が駆けつけてくれているようですが……」

 監視衛星で確認した限り、宇宙で活動中の部隊の一部にユニウスΩの破砕任務が下り、どうやら近海を航行中だったジュール隊が向かったらしい。だが、破砕が間に合うかどうかは五分五分。

 いや、これが人為的なものなら、そう容易にはいかないだろう。

(まさに、2年前の再来、か)

 その可能性に帰結し、一同が若干蒼褪めた表情を浮かべる。マイやカイト以外、ここにいる面々はまさにその可能性が起きえたかもしれない戦いに身を置いていたのだ。マイは独りごち、思考を巡らせる。

(考えられるのはザフトの脱走兵…けど、腑に落ちない)

 ユニウスΩを地球へと落とす。そんな馬鹿げた真似、地球に住む者からしてみれば到底考えられない所業だ。なら、それをまったく厭わない存在…前大戦の折にザフトより脱走した兵の内、未だ3割程はその所在を確認できていない。野垂れ死にか、巧妙に身を隠しているかのどちらかだが、規模的には散発的なゲリラとそう大差はない。まともな組織的活動などできているはずもない。それは先程撃破した部隊からも明白だ。だが、そこである疑問が浮かぶ。ユニウスΩ程の質量を動かすとなると、方法は限られてくるが、問題はその手段をどうやって調達したかだ。

(背後には何かある……ブルーユニオンには利が無い。かといって、大東亜連合は動きはしないでしょうね)

 考えられるのは、彼らをいいように操っている黒幕がいるということ。だが、問題はそれがどの勢力であるかだ。

 地球側の勢力ではあり得ない可能性の方が高い。となると、宇宙に身を置く勢力となるが……脳裏を過ぎった考えに、マイは鼻で笑った。

(まさか…ね)

 だが、調べておく必要があるかもしれない。そう考えていると、呼ぶ声にハッとした。

「フェアテレーゼ少佐」

「あ、え、と…ごめん、聞いてなかった」

 軽く苦笑し、謝罪すると、キョウが気を取り直し、プロフェッサーを見やりながら呟く。

「取り敢えず、我々も後数日ここに滞在します。よろしいでしょうか?」

「それはありがたいですね」

 正直、防衛部隊は先の戦いで壊滅に近い打撃を受けている。今現在、ジェネシスαの防衛力は皆無に等しい。TFも戦力としては少数だが、それでもパイロットの腕は信頼できる。

「それでいいか、少佐?」

 リーアムに頷き返すと、確認するまでもないことかもしれないが、キョウはマイを見やる。形式的には自分の指揮下に入っているが、マイはTF所属ではない。命令の強制権はないが、マイは不要とばかりに首を振り、指で応じる。

「オーライ、どの道、これで終わるはずがないでしょうしね」

 ザフトによる介入だけで終わるはずがない。むしろ、あれは前哨戦だろう。なら、次には本腰で来るはず。それも近いうちに…下手に時間を掛けて増援を呼ばれては向こうも迂闊には手を出せなくなるのは承知のはずだ。

 なら、今度こそ自身の手で確かめるまで。

「あんた、連中に目星がついてるみたいな言い方だな?」

 どこか確信めいたような物言いにカイトが憮然と睨みつけるも、マイは笑みで誤魔化す。

「お生憎。私はただのしがないパイロットだからね」

 言外に答える気はないと察し、カイトは視線を更に細めるも、マイは動じない。そんな空気に周囲はやや重くなるも、リーアムがロウに問い掛ける。

「そう言えばロウ、火星はどうでした?」

 気に掛かっていたのは一応その事だ。ロウ個人の興味もあったかもしれないが、極秘裏に火星圏の視察も任されていたのだ。国の思惑に左右されない人物だからこそ、忌憚のない意見が齎されると考えたかもしれないが、マイもその内容には気に掛かったのか、耳を微かに傾ける。

「ああ、なかなか面白かったぜ。火星圏は複数のコロニー自治体から今は機能している。その内の一つに世話になってたんだけどよ、そこでこっちに来たがっていた奴も連れて来た」

 その内容は聞きようによっては聞き逃せないものだった。

(火星から…マーシャンが地球圏に?)

 火星圏の政治形態がどうなっているのか、地球圏にはほとんど伝わっていない。だが、火星圏にはコーディネイターの移住者が多い。プラントとはかなり密接に繋がっているらしいが、何故火星圏の人間が地球圏に来たのか。その理由を問い質そうとした瞬間、話を続けるロウが何かを思い出したように手を叩いた。

「そうそう、途中で……」

 その瞬間、ドアが開き…奥から顔を見せた人物にカイトは驚愕に肌を鳥立たせた。

「ロウさま〜〜お食事の用意ができましたぁ♪」

 顔を覗かせるピンクの髪に愛嬌のある声。それは紛れもなく、セトナであった。カイトは鋭い剣幕で思わず詰め寄る。

「なんでお前がここに!!?」

「ひぃ〜〜ん」

 睨まれ、セトナは萎縮する。セトナはアーモリー・ワンで所在不明になっていたはずだ。何故ここにいるのか。神出鬼没な行動にカイトは不審の眼を向けるが、そのやり取りにロウは首を傾げる。

「知り合いか? 途中で拾った救難カプセルにいたんだ」

 その言葉にますます不審感が募る。何故救難カプセルに乗っていたのかということもあるが、それがロウに拾われ、このジェネシスαまで来たとなるとただの偶然では済まされない。だが、セトナは涙眼で訴えるのみで大仰に悪態を衝く。

「それにしても…なんで戻ってきたの? もっと火星でゆっくりしてくると思ったのに」

 ふと、一番気に掛かっていた疑問を口にする。プロフェッサーもロウの早々の帰還が腑に落ちなかったようだ。この男のことだから、火星で騒ぎを起こして追い出されたのかとでも思ったが、ロウはあっさり簡潔に述べた。

「言われたからさ」

「へ……?」

「言われた?」

 首を傾げる一同。どうにも要領を得ない。戸惑う一同を横にロウはニカっと笑みを浮かべる。

「ああ、これから他にも懐かしい顔が揃うぜ」

 予言めいた言動に呆気に取られていると、ファクトリーからの通信が入る。受信ウィンドウが開くと、そこにはやや顰めた表情の樹里が映し出された。

《ロウ! いつまで話し込んでるの、早く戻ってきて手伝ってよ!》

 やや怒り口調で口を尖らせる。事情の説明をロウが受ける間、樹里には大破したアウトフレームの修理を任せたのだが、さしもの樹里も手に余る部分があるらしい。背後では作業を手伝うジョージと8も急かすように映り、ロウは手を振る。

「わりいわりい、すぐ行く」

 通信を切り、ロウは身を翻していくが、最後に一同を見渡し、またもや不適な笑みを浮かべた。

「まあ、その内解かるさ」

 最後まで遠回しな物言いで呟き、ロウは管制室を後にする。残された一同は腑に落ちなかったものの、やがて各々の作業を開始する。

「どうする、クズハ艦長? ガーディアンズは当てにできない。戦力的にはキツイんじゃない」

 確かに、現状ではTFが戦力の要だが、それでもイズモ級戦艦一隻にMSが数機。相手の正体は朧げながら掴めてはいるが、次の襲撃は必ずかなりの大規模なものになることが予想されるだろ。崩れている守備隊だけでは戦力的に不利だろう。脱走兵が散布したニュートロンジャマーの影響でアメノミハシラへの長距離通信は現在不可。どの道、主力部隊が出払っている以上、援軍は当てにできない。

 さしものキョウも同意見なのか、気難しい表情で考え込む。そして、先程のロウの言葉が脳裏を掠める。

(…まさか……そうか、そういうことか、ロウ)

 ロウの示唆したものが解かり、キョウは内心納得するも、ロウのあの自信の程の根拠は流石に解からなかった。だが、確かに可能性としては高いかもしれない。

「いや、なんとかなるかもしれない」

 意外なキョウの言葉にマイは一瞬眼を剥くも、やがて胡散臭い表情で軽く睨む。

「まさか……根性でなんとかする、とか言わないわよね?」

 半眼で見やるマイに苦笑で返し、首を振る。

「ASTRAY達が、再び集うのさ」

 揶揄するような物言いに、マイは首を傾げた。だが、キョウがそのまま会話を終了したため、頭を掻きながら二人は一度ツクヨミに戻り、機体の修理と整備、そして念のために残りのメンバーによる交代での哨戒に入ることにした。

 道中、マイはキョウの真意を図りかねながら嘆息した。

(ま、私は私の目的を優先すればいい。これがこの件で解決してくれればいいけど…)

 マイがTFに同行しているのはあくまで目的のためだ。彼女の上司、依頼主の目的……そして、自分自身の目的のためだ。この件が糸口になってくれればと思う。

(マティアスからのもう一つの依頼は、一度地球に降りてからになるか)

 彼女にはもう一つ、マティアスから託った別の仕事があった。一ヶ月程前に突如行方を断ったある人物を捜すこと。

(……さて、今どうしているのやら。黒衣の堕天使様)

 肩を落としながら、前途多難…憂鬱な気分のまま、マイはツクヨミに戻り、ニコルやシホ以下数名のTFパイロット達と交代で哨戒任務に就いた。





 ハンガーの一画を借り受けたロウは大破したアウトフレームをメンテナンスベッドに固定し、修復を行っていた。

 大破した四肢の交換だけに留まらず、ロウはアウトフレームの外部装甲も外し、剥き出しになったフレームに別の装甲が装着されている。格納庫の奥からコンテナが数基移送され、作業アームがコンテナから装甲やパーツを取り出し、それらが音を立てながら置かれ、レーザーで接続し、コードパイプが繋がり、電子系統を繋げる。

 その様子を確認に訪れたカイトは視線を細める。

「……ただの修理、じゃなさそうだな」

 アウトフレームの装甲が外され、新しく造り替えるにしてはおかしい。その問いに見上げた先のコックピットでドライバーを手にロウが答える。

「ああ、アウトフレームを本来の姿に戻す。今までは作業用MSとして便利なように俺が改造した姿だったからな」

 コード類を口で咥え、制御コンソールのケーブルを繋ぐ。

 話を聞きながらカイトはアウトフレームを見回し、その新しく装着される装甲形状に眉を寄せる。今までのゴツゴツとしたものからシャープな曲線を描くものに変更されているが、その形状はあの謎の機体と似通っている。

「…おい! この外装は、あいつとそっくりじゃないか!」

 思わず語気が荒くなる。その問いにロウは相槌を打つ。

「元は同じ機体だろうな。こっちは俺が予備パーツを使って組んだんだ」

 その言葉にカイトはますます眼を細める。これは修理というより改装と言った方がいいかもしれない。だが、それの意味するところに自然と声が低くなる。

「戦闘用MSにする……ってことか?」

 今までのアウトフレームは作業用としての意味合いが強く、また形状もそれに合わされていたため、戦闘に関してはどうしても不利な一面があった。だが、それを戦闘用に改修するとなるとまた意味が違ってくる。能力的にも、そしてジェスの心持ち的にも。

「あんたの相棒の眼を見たか?」

「…ああ」

 唐突に問い掛けるロウにカイトは神妙な面持ちで頷き返す。

「アレは信じるモノのために戦う決意をした眼だぜ」

 作業を止め、カイトを一瞥する。ロウはジェスとの付き合いは浅い。アウトフレームを渡したときのほんの数時間程度の邂逅。だが、ジェスの内に秘める想いはロウにはひしひしと感じ取れた。

「ジェスは真実をなにより求めている。真実を歪める敵…それはまさにあのバカにとって天敵だからな」

 そんなロウに対し、カイトは呆れにも似た口調でストレートに述べた。だが、それこそがジェス=リブルという人間の本質なのだ。真実を自ら求めるが故にそれが歪み、隠蔽されることを嫌う。だからこそ放っておけないのだが、カイトはそれを呑み込む。

「だが、奴を戦わせる訳にはいかない。アウトフレームには俺が乗る、俺がジェスの仇をとる!」

 ジェスへの友情ゆえか、そう告げるカイトの言葉を遮るように声が響いた。

「待て、カイト!」

 ハッと振り向くと、そこには治療後の痛々しい姿のジェスとそれを必死に支え、引き止めようとするセトナが佇んでいた。呆気に取られるカイトに向かい、ジェスはよろめきながらも歩み寄る。

「俺が行く! 俺に戦わせてくれ!」

 懸命に訴えるジェスだったが、カイトは眉を寄せて思い留まらせるように制する。

「ダメだ! お前の戦闘技術じゃあのMSには絶対に勝てない」

 客観的に言うまでもない。戦闘に関しては素人同然のジェスがいくら戦闘用に改修されたといってもあの機体に勝てる見込みなど万に一つもない。それはジェス自身が一番理解している。だが、それでもなお言い募ろうとするが、カイトが真剣な面持ちで声を掛ける。

「俺はお前を死なせるわけにはいかない」

 その言葉のなかに込められた友情にジェスは胸を打たれるような心持ちだった。自身のことを心配してくれているのが痛いほど解かる。

「解かっている……だが…俺には……」

 カイトの気持ちは嬉しい。だが、これだけは譲れない。引き下がるわけにはいかなかった。

「俺にはこの眼が…真実を見続けてきた眼がある! 俺があの敵を見る!!」

 真実を歪め、ジェスの真実を求める思いを否定する敵。幸か不幸か、それはジェスの前に立ち塞がった。だからこそ、ジェスは自分自身で戦わなければならなかった。それは、ジャーナリストしてではなく、ジェス個人の戦いだからだ。だからこそ、カイトに代わりに戦ってもらうなど、赦されない。

 決して退こうとしない決然としたジェスにカイトも口を噤み、表情を曇らせる。たとえどんな言葉を述べられようともジェスは一歩も退く気は無い。暫し、緊張した空気が二人の間に降りていたが、その会話を横で聞いていたロウが口を挟んだ。

「いいじゃないか」

 コックピットから顔を出し、二人を交互に見据えながら、ニヤリと笑みを浮かべる。

「俺が二人で戦えるようにしてやるよ」

 その言葉にジェスとカイトは戸惑いながら首を傾げた。

「ジェス様、お身体に障られます、取り敢えず医務室に戻ってください」

 一応ではあるが、ロウが自身の要望を聞き入れたことに安堵したのか、ジェスはようやく身体に走る激痛を自覚し、大仰に悶えた。その様子にカイトは大きく溜め息を零し、セトナに誘導されつつ、再び医務室に戻らされた。





「まったく無茶しますね…意識不明だったというのに」

 ジェネシスαの医務室に再び担ぎ込まれたジェスはベッドに寝かされ、腕には点滴用のボトルパックとポンプがつけられていた。薬と一緒に痛み止めが流れているのか、ひっきりなしに身体を襲っていた激痛が和らぎ、幾分か落ち着いていた。

 そんなジェスを嗜めるのは、ジェスの手当てを行ったマリアだった。このジェネシスαには専属の医師はいない。皆、簡単な医療行為程度なら自分でやれるようにしているからだ。セルフサービスに近いせいか、この医務室は無人だったが、ジェスの容態はかなり重症であったため、ツクヨミからマリアが呼ばれたのだ。

 TFに属して既に数年。多少の医療知識は独学で身につけていた。幸いに外科手術が必要なほどでもなかったため、こうしてジェスも動き回っているのだが。

 ジェスはどうにも居心地が悪く萎縮するばかりだ。怪我人だから大人しくしておかねばと解かってはいるが、今回ばかりはどうにもジッとしていられなかったのだ。

「ヤッホ」

 そんな気まずい空気が漂う医務室を訪れるマイ。

「あ、少佐……」

 それに気づいたマリアが振り向くが、マイは不満気に口を尖らせる。

「マイでいいって言ってんじゃん。歳だってそんなに離れてないんだし」

「で、ですが…」

「マーイ……OK?」

 ぐぐっと顔を近づけ、強引に告げるマイに、マリアは貌を微かに引き攣らせつつ、苦笑で応じた。

その瞬間、眼を細めていたマイがニコリとなり、顔を離して頷く。

「で……この野次馬バカはどうなの?」

 覗き込むようにジェスを見やる。会って間もないの人間にそう評されるのは流石に不本意なのか、ジェスが軽く表情を顰めるも、マイは意に返さない。

「睨まない睨まない…ま、格納庫に怒鳴りに行くぐらいだから心配ないか」

 痛いところを衝かれ、グッと押し黙るジェス。そんなジェスを笑みを噛み殺しながらマイは値踏みするように見やる。

(サー=マティアスが入れ込んでいる男、か。よくは解からないな)

 マイの見解、ジェスはどこにでもいそうな平凡そうな男だ。MSを動かせるという点だけは確かに非凡だが、それ以外特に眼を引く要素がない。愚直なまでに真っ直ぐに突き進む…その点はマイも好感を持ってはいるが、どうにもマティアスがジェスを気に掛けているのか図りかねていた。

(まあ、私には関係ないか)

 ジェスが何かしらの要素を担っているのかはマイには関係ない。肩を竦めると、そこへ再びドアが開き、香ばしい匂いと明るい声が聞こえた。

「ジェス様〜お食事を準備しました。いっぱい食べて元気になってくださいね〜〜」

 入室してきたセトナが運び込んできたもの。それはワゴンに乗せられた大量の料理。フルコース並みの豪勢さだが、少なくとも今の状態で食するものではない。だが、セトナの料理に餌付けされたジェスからしてみれば、断るのは勿体無く…ちょうどいいタイミングで腹の虫がなった。

 恥ずかしながら、ジェスも空腹を抑えられなかったらしい。場の女性陣は笑みを零し、マリアが肩を震わせながら頷く。

「そうですね。本当ならダメなんですが、貴方なら大丈夫でしょう」

 病院食など、食べた感じがしないだろうし、ジェスの元気さ加減を見れば、栄養を摂れば早く回復するだろう。

 マリアのお墨付きをもらい、ジェスは点滴を外し、セトナの料理に手を出す。

「皆さんもどうぞ」

 セトナは笑顔のままマリアやマイにも料理を差し出し、マリアもやや腹ごしらえと摘み、マイはそんなセトナの挙動を一挙一挙見据えていた。

「お嬢ちゃん、名前は?」

 軽く口に摘みながらそう尋ねると、セトナはニコリと笑った。

「セトナ=ウィンタースです」

 万人に好かれそうな笑顔。それがマイの印象だった。

「ささ、どうぞ」

 勧める料理を摘み、マイもまた笑みで応じた。





 あれから一日…ようやく自力で動けるほどに回復したジェス。アウトフレームの改修も完了していた。たった一日で回復したジェスのタフさとロウの仕事の手際の良さに感心と呆れが漂うなか、ジェスはカイトと共にアウトフレームを見上げていた。

「どうだい、こいつが生まれ変わった新しいアウトフレーム。アウトフレームDだ」

 不適な笑みでアウトフレームを指す。全体的に見てもその姿は今までのゴツゴツとしたものではなく、もっと曲線を帯びたシャープな装甲形状に変わっている。どちらかと言えば、あの機体と同一と言っても差し支えないほどだ。これが、アウトフレームの本来の姿でもあるのだ。

 そして、大きな特徴としてアウトフレームの頭部にもう一つのコックピットが付随された。それは、ロウがジェスとカイトのために用意した手だった。無茶をしそうなジェスをせめて自分の手の近いところで護らせるために用意した。だが、理由はそれだけではない。相手が量子コンピュータを媒介して使用するウイルスに対抗するためにもメインカメラが外され、代わりにジェスがそこに乗り込むことで文字通りアウトフレームDの眼となり、相手の特殊能力に対処する。

 機体の最終調整のために乗り込むカイトとジェス。カイトは胸部コックピットに、そしてジェスは頭部のコックピットに搭乗する。アンテナをヘッドカバーが閉じ、メインカメラには特殊な強化ガラス。そして接面部位には機密用の準備を施し、ノーマルスーツ無しでも活動が可能な程の機密性を確保した。

「パワーレベル良好、そっちはどうだジェス?」

 操縦コックピットでカイトは機体の状態を確認する。パワーはともかく、それ以外は確かに以前と比べても改良されている。これなら、問題はないだろう。ロウの腕に感心しつつ、カイトは頭部のジェスに問い掛ける。

「ああ、視界良好…見てやるぜ、アイツの真実を!」

 ガラス越しにカメラを構え、ジェスは決意を新たに固める。どのような形であれ、これでジェスもあの敵と戦うことができるのだ。

 機体の確認を終えた二人が降りると、ロウも頷く。

「これであいつとも…プロメテウスとも戦えるはずだ」

「プロメテウス…?」

「あのMSの名さ」

 聞きなれぬ名に尋ねると、ロウは驚愕させる言葉を呟いた。それがあの宿敵の名であるとジェスは息を呑む。

「ああ、機体ナンバーZGMF-X06A:プロメテウス。それがあの機体の名さ」

「プロメテウス…神の炎、ね。随分と高慢な名ね」

 マイは頭を掻きながら鼻を鳴らす。

 人の世に火を伝えた神の名…ジェスも僅かばかりに握り締める手が汗ばむ。

「ああ、それとな…アウトフレームとはきょうだい機に当たる」

 やや表情を顰めて重くそう告げたロウにジェスは今度こそ驚愕に眼を見開いた。ロウが発した言葉の意味がうまく理解できず、ジェスは困惑するが、そんなジェスにロウはなおも続けた。

「アウトフレームは、元々ここにあったプロメテウスの予備パーツを俺が組み上げたんだ」

「元は、あの敵と同一の機体ということだな」

 横から呟いたカイトに思わず振り返る。

「カイト、気づいていたのか?」

 確かにアウトフレームと似通っているとは思っていたが、徐々に思考が理解してくるにつれて不快感にも似た感情がこみ上げてくる。

 あの機体と自分のアウトフレームが同じ機体…その事実を振り払うようにジェスは頭を振った。

たとえ、二機が同型の機体だとしても、それはただの事実でしかない。短いが、アウトフレームはジェスにとって愛機と呼べる機体だ。それが変わる訳でもない。ジャーナリストなら事実は客観的に受け止めるべきだと自制する。

「大丈夫か?」

 流石にショックだと思ったのか、心配そうにロウが尋ねるが、ジェスは頷き返す。

 ロウは安心すると、説明を続ける。

「二機はまったく同じという訳じゃない。正確には、あっちが本物。こっちは予備パーツだったんだろう。最初にここに残されていたアウトフレームには装甲や動力部など不足部品が多かった。それらは俺が勝手に作って組み込んじまったし、そもそもアウトフレームは作業用にカスタマイズしてある」

 あのプロメテウスという機体は、元々このジェネシスαに在ったものだった。ロウは実物を見てはいなかったが、ここに残されていたデータからその存在を知った。

 そのデータによると、プロメテウスは元々、前大戦時の折にザフトで開発されていた次世代型主力MSの試作機の一機だったらしい。当時、この機体は別の機体とツインプランで開発が進められていたが、ヘリオポリスにおいて当時の大西洋連邦軍が開発し、奪取されたGATシリーズ4機のデータによって、急遽仕様が変更されたらしい。

 齎されたPSシステム、ビーム兵器等の当時の最先端技術の試験機としてこの2機は改修され、片方はZGMF-X05:リベレーション、もう片方がZGMF-X06:プロメテウスというコードネームを与えられた。

 だが、プロメテウスは歴史の表舞台に立つことはなかった。その後、新技術の試験ベースとして幾度か改修を受けた。最終的には、試作核エンジンとNJCの試験、そして、奪取し損ねたGAT-X105:ストライクの装備換装機能が施された。奪取した4機に残されていたデータと戦闘によって得たデータからそのフレーム構造を模倣し、連合のストライカーパック機能を付随させた。それにより、プロメテウスとアウトフレームは連合系のストライカーパックの交換機能が可能らしい。

 意外なところで繋がる謎にジェスは圧倒されるばかりだ。

 となると、現在のZGMF-1000シリーズやZGMF-X56Sインパルスが背面への装備換装機能が採用されているのもそこが原点になっているのではないか。だとすれば、アウトフレームとインパルスらセカンドシリーズは親戚関係になる。

 遂先日まで取材していた最新鋭兵器が自分の愛機と関係のある機体だと解かると少なからず興奮を憶えた。まるで突然、存在さえ知らなかった生き別れの兄弟と出会ったような不思議な感覚だった。

 だが、そこで一つの疑問にぶつかる。話の流れからすれば、プロメテウスはザフト製の機体のはずだ。なのに今現在は別の組織に運用されている可能性が高い。

「恐らく、そのプロメテウスって機体もここから強奪された……じゃない?」

 マイが口にし、ロウを見やると何とも言えない表情を浮かべる。

 生憎とロウはデータであの機体の存在を知っただけだ。ロウ達がここに足を踏み入れた時には既にあの機体はここに無かったのだ。だが、当たらずとも遠からずといったところだろう。

 奪った敵の兵器をそのまま使用するのは戦争では珍しくない。

 そして、ロウはジェネシスαで剥き出しのフレーム状態のままで捨て置かれていたアウトフレームを発見し、ここに残されていたパーツ類を使い、あの機体に仕上げたのだ。

「ロウ、こいつとあいつの能力差は?」

 アウトフレームとプロメテウスの因果関係を聞き終えたカイトが徐に尋ねる。経緯はこの際関係ない、問題はこの機体でそのきょうだい機に勝たねばならないということだけだ。そのためにアウトフレーム、そしてプロメテウスの能力を把握しておかねばならない。

「まず装甲が違う。あっちは進化したPS装甲だが、こっちは発泡金属装甲だ」

 あちらには2段階に強度をフェイズシフトさせる特殊なPS装甲だが、こちらは軽いだけが取り得の発泡金属だ。

「強度はないが、軽い分、スピードはこっちが勝るというわけか」

 発泡金属など正直装甲とは言い難い。だが、それ故に重量は軽く、機体の軽量性を齎し、機動性を上げる。

「弾を避ければ問題はない。あんたならできるだろ?」

 不適に問うロウにカイトも同じように返す。

「フン、言ってくれるな」

 だが、その貌には自信が漂っている。みすみす相手に喰らってやるなどカイトのプライドが赦さない。

「動力も違う。あっちは核エンジンを載せているが、こっちはバッテリーだ。主な違いはその二つってところだ」

 純粋な出力とパワー、そして稼働時間で言えば明らかにアドバンテージを握られている。

「いや、奴は真実を歪める能力を持っている。それこそ、あのMSの最大の能力だ」

 そう…プロメテウスの最大の特徴はそうしたウイルス散布能力による特殊能力だ。

「そうだったな。多分、あの機体を入手した組織が後から付加した機能だろう。進化したPS装甲も含めてな」

 ウイルスを散布・運用する能力は元々プロメテウスには備わっていなかった。PS装甲にしてもあの当時はまだ初期のものに近かったはずだ。なら、それらの特殊な能力や装備は奪取したプロメテウスに合わせて新しく開発されたものだ。

「だが、そいつに対する備えは万全だろ?」

「ああ」

「ジェスがアウトフレームDの眼となって相手を見る……操縦はマディガン、あんたが操縦してくれれば、8もOSがウイルスに制御されないように専念できる」

 8をアウトフレームDのメインシステムと直結し、それをメインカメラコックピットに座ったジェスが捉えた映像を解析し、モニターに投影する。このため、8は機体の操縦をできなくなるが、カイトが乗り込めば何の問題もない。

【ジェスノ時ヨリハ楽ソウダナ、任セロ!】

「アウトフレームDは全体的に戦闘用に改修してある。今挙げた違い以外、基本的な能力では同等になるはずだ」

 元々のフレームは同じものだ。機体の反応も機動性もそれ程大差はないだろう。後はパイロットの腕次第だ。

「ホントにこれで勝てるかなぁ?」

 傍で話を聞き入っていた樹里が不安気に漏らす。マイナス思考が強いだけにこう考えると際限がないが、隣に佇むセトナは不安を滲ませず、ハッキリと告げた。

「ジェス様ならきっと勝てます!」

 笑顔で自信ありげにそう告げたセトナに勇気づけられるように、ジェスも強く頷く。

「ああ、きっと勝てる! この機体で…アウトフレームDで奴と戦う、真実を護るために!」

 その顔は昨日までの憤怒だけに歪んでいたものではなく、どこか決意を漂わせるものだった。

 それを見届けると、ロウは肩を竦め、身を翻す。

「ロウ?」

 その態度に声を掛けるより早くロウは宙を飛び、手を振る。

「よし、それじゃあ俺はちょっくら出かけてくる?」

 唐突に告げた言葉の意図を一瞬図りかねず、一同は首を傾げる。この情勢下でいったい何処へ向かおうというのか。

「ユニウスΩさ。止められなくても、何かやれることはあるはずだ」

 そう告げたロウは、見るものを引きつけるような気持ちのいいものだった。思わず見入るなか、ロウは背中越しに親指を立てて格納庫を後にし、それに置いていかれまいと樹里も慌てて後を追う。

 揺るぎない信念を漂わせるその背中に、ジェスは無意識にカメラを構えてシャッターを切った。

「本当に凄い奴だな…ロウ=ギュールって奴は……」

 ジェスがこれ程、一人の人間に入れ込んだのは実に久しぶりだ。自分達のためにアウトフレームDという機体を造り上げ、今また危険が漂うユニウスΩへと向かおうとする。そんな姿勢にカイトも珍しく素直に相槌を打つ。

「ああ。機体の特性は解かった。後は戦い方だな……」

 ロウを見送ると、一同は再びアウトフレームDを見上げる。

「敵は姿を消せる上に格闘戦能力も高い…どうやって奴を倒すかだが……」

 さしものカイトも頭を悩ませる。機体の性能上、ロウから告げられた特性以外に差はないと見ていいだろう。だが、問題はパワーと相手の特殊性にある。アウトフレームDには基本武装と言えるものは何も無い。ビームサインが多少の自衛手段になる程度で、あとはカイトの自作した専用のビームライフルのみ。後はストライカーパック換装により、多少アビリティを強化できる程度だが。

「問題はもう一つあるわね。次の襲撃は恐らくかなりの激戦が予想できるわ」

 相手が姿を晒した以上、もはや単機でどうこうするようなレベルではないだろう。相手の思惑がどこにあるかは解からないが、少なくともジェネシスαが邪魔なことだけは間違いない。なら、次はかなりの大掛かりな襲撃が予想できる。

「そっちは私達が何とかするけど…プロメテウスとかっていう相手の援護に回れるかは解からないわね」

 相手の戦力がどの程度が解からない以上、戦力的に限りのあるTFだけでは防衛に手一杯になる可能性が高い。なるべく、邪魔はさせないつもりだが、逆に援護も期待しないと述べられ、余計なお世話だとばかりにカイトは鼻を鳴らす。

「…カイト、ソード装備で出てくれないか?」

 黙り込んでいたジェスが呟き、そちらに視線を向ける。

 ジェネシスαには出所が不明なジャンクの他に軍の装備やパーツが純正、複製を問わず流通している。その中にはストライカーパックも多数含まれており、生産数の多いストライカーパックもこのジェネシスαには数基保管されている。

「構わんが…どうするつもりだ?」

 ジェスの真意が掴めず眉を寄せるも、ジェスは迷いもせず告げた。

「俺に…考えがある」

 そう……これがジェスとカイトの戦いなのだ。そして、相手を倒すためではない。真実を求めるために…ジェスは初めて自ら戦いに身を委ねようとしていた。


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