同時刻、宇宙空間を航行する一隻の艦。ザフトのローラシア級を改装したような外観を持つ艦。それは、裏世界でその名を轟かせる傭兵:サーペントテールの運用する輸送船であった。

 その一室。メンバーの一員であり、情報収集、整備等のサポート面で欠かせない存在である風花=アジャーの私室。自室のコンソール画面でキーを打つ傍ら、風花はデータを整理していく。

『……風花ちゃん』

 真剣にウィンドウに向き合っていた風花は突然耳に聞こえた声に思わず手が止まり、かけていたヘッドギアを取る。

「今のは……」

 幻聴か。だが、あの声は風花にとって忘れられない声…無意識に、まるでそれが呼び寄せるように振り向くと、薄暗い部屋のなかにぼうっと浮かび上がる影。それは幻か、夢か…風花の前に佇むのは、プレア=レヴェリーだった。

「プレア……」

 懐かしい人物の顔に持っていたヘッドギアを取り落とす。微かに響く落下音が夢ではないことを告げる。

『驚かせてゴメン』

 そう言って微笑むプレアの顔は最後に見た頃とまったく変わっていない。風花がプレアと最後に言葉を交わしたのは2年前。大戦終結後のジェネシスαでのことだった。火星圏へと旅立つロウ達にプレアは共に行き、そしてその世界を見てみたいと告げ、同行していった。

 だが…それが最期の別れであることを風花は察しっていた。こんな時は聡明な自分の思考が嫌になる。プレアの寿命が長くないことに…恐らく、火星に辿り着いても長くは生きられないことを…それを告げようともしたが、プレア自身がそれをよく理解していた。その上であの笑顔を浮かべ、旅立っていったからこそ、風花も笑顔で見送った。そのプレアが今、眼の前に立っている。たとえ、夢や幻だとしても嬉しかった。

『実は、お願いがあるんだ……』

「え?」

『君も知っているだろう。ジャーナリストのジェスさん。今、あの人は窮地に立たされている……』

 告げられた名は風花にも聞き覚えがある。何度か依頼で同行・もしくは敵対したこともある。あのジェスが窮地に立たされている。戸惑う風花にプレアは変わらぬ笑顔のまま話を続ける。

『あの人を助けたいんだ。力を貸してくれないかい? あの人を救うことが、多くの人々の幸せに繋がるのだから』

 その言葉に、一瞬息を呑んだ後、大仰に溜め息を零し、肩を落とした。

「変わらないね、プレア…まだ皆の幸せを考えているんだ」

 唐突に現われ、こちらの情緒も無視したように一方的に依頼を申し込まれたというのに、風花は何故か怒るというよりも嬉しさと呆れが半々に胸中を過ぎる。風花は良くも悪くも現実志向だ。だからこそ、全員の幸せを考えるプレアの考えを最初は理解できなかった。だが、今も変わらず持ち続けている頑固さ加減に感心するのも確かだった。

「了解、その依頼…風花=アジャーことサーペントテールが引き受けます」

 できうる限りの笑みで了解の意を伝える。その真摯さが伝わったのか、プレアの笑顔はより柔らかなものに変わる。

『ゴメンね、君を巻き込んでしまって……ありがとう、風花ちゃん……』

 その言葉を最期に…プレアの姿は光の粒子のように霧散していく。あたかも…幻想のように……静寂の戻った私室で、風花は小さく口を尖らせ、悪態を衝いた。

「本当に変わらないんだから…ちゃんは止めてって言ったじゃない……」

 その口調はどこか嬉しそうであり、風花は気合を入れるように拳をググッと握り締め、コンソールに向かい、まずはジェスの現在位置を収集し始めた。依頼人は厄介なことに護衛対象の所在を教えなかったのだから。

 だが、それは慣れたもの。すぐさまジェスの所在地を割り出し、風花は仲間達のもとに走った。大切な者との約束を果たすために………









 最初の襲撃から既に2日目。その間に襲撃の気配はなかったが、ジェネシスα付近では不気味な静寂が支配し、嵐の前の静けさを呈していた。

 ステーションでは、いつ起こるか解からない襲撃に備えての厳戒態勢が続いていた。ステーションのハンガーでは、ゴールドフレーム天をはじめとし、M1AにTFが所有するゲイツRにバスターダガー等が整備を受けていた。既にウイルスの駆除も終了し、システムは順調に稼動しているものの、警備隊の損耗は簡単には補修できず、実質戦力はTFのみ。

 それでもパイロットの疲労も考慮し、現在は周辺警戒はレイスタ部隊が行ってくれている。

「二人ともお疲れさん」

 M1Aの整備を行っていたニコルとシホのもとにマイが歩み寄り、持っていたドリンクを放り投げ、それに気づいたニコルとシホが受け取る。

「あ、どうも」

「ありがとうございます」

 整備を終え、一息といったところだろう。そんな二人を一瞥し、マイはストローを咥えたまま機体を見上げる。

「やっぱ戦力的にはキツイわね〜」

 思わずそう漏らす。戦力はTFが所有するMSが数機のみ。ジェネシスαを護りながら戦うとなると流石に苦しい。

「そうですね…でも、大丈夫ですよ」

「艦長もそうだったけど、その自信はどっからくるの?」

 笑顔で告げるニコルに思わず問い返すと、意味ありげに笑みを噛み殺す。眉を寄せ、首を傾げる。

「キョウさんは決して根拠のない判断はしない方ですし…それに、信じているからですよ。あの人達の絆を…仲間を」

 そう…二人はそれを知っている。ASTRAYに連なる者達の絆を…そして、その仲間達を……かつての自分達のように。これは言葉にするには難しいものだろう。部外者であるマイからしてみれば、そんな曖昧なものに共感はしないだろうが、その思いは解からないでもない。

(仲間……か)

 思わず内心にポツリと漏らし、瞳がやや陰りを帯びるも、それは鳴り響いた思考に掻き消された。

 けたたましいアラートがファクトリー内に鳴り響き、マイ達のみならず、作業を行っていた者達は一斉に作業を止め、ハッと顔を上げる。

《緊急事態発生、緊急事態発生! 偵察5号機より入電! 4時の方角より、戦艦と思しき熱源多数。ジェネシスαに向けて進攻中。迎撃態勢に入れ!》

 穏やかでない警告。だが、予想していた通りだった…やはり敵は来た。マイはバッとニコルとシホに向き直る。

「私らも出るよ!」

「了解!」

「解かりました!」

 3人は互いに機体に乗り込み、ハッチを閉じるとともに機体を起動させる。カメラアイに光が灯り、動き出す。そして、ステーションより離脱していくゴールドフレーム天、M1A、そしてTF所属のパイロット達が搭乗するゲイツR、バスターダガーが布陣する。

 それに続くようにステーションから離脱するツクヨミ。それを背に向かうMS部隊。

《目標、光学明彩で確認。IFF反応なし》

 ツクヨミから索敵を行っているマリアからの通信にマイはカメラをズームアップし、接近中の敵影を捉える。

 接近してきているのはIFF反応無しの連合艦艇。アガメムノン級戦艦にネルソン級護衛艦、ドレイク級駆逐艦で固められた一部隊。

 IFF反応を消しているのは後の余計なトラブルを避けるためだろう。曲がりなりにもジャンク屋組合は地球とコロニー政府間の間で認められたものだ。国家ではないにせよ、中立の立場として様々な国に援助、もしくは人員の提供を行っている以上、迂闊に刺激しては国際問題にもなる。

「部隊規模的には一大隊クラスか…豪勢なことで」

 今度は恐らく正規軍が含まれているはずだ。たとえ特務情報部といえども、所詮は連合の一部隊でしかない。それ程の戦力を擁しているとは思えない。なら、そのバックにつく者の存在もここで掴める。

 貌が引き締まり、マイは前方の敵機を鋭く見据える。一応、客将という立場でMS隊の指揮権を与えられているマイは敵戦力と自軍の戦力を計算し、それらを天秤にかけてフォーメーションを算出する。

「艦長、私が前面に出る。M1A2機はそれぞれ組ませて左翼と右翼に……」

 如何せん、こちらは遊撃ではなくあくまで拠点防衛のための布陣を取らねばならない。だが、こちらの戦力数が圧倒的に劣っている。恐らくこちらを包囲戦で殲滅に掛かるだろうから、マイとツクヨミを含めた主戦力で正面を担い、後はニコルとシホをそれぞれ左右に護衛をつけて分散させるしかない。だが、この戦力差では長くは保たないと歯噛みするより早くキョウからの返答に驚愕した。

《いや、この戦力差では分散するのは各個撃破の危険がある。TFはこのまま正面に展開する》

「はあ?」

 思わず声を上げる。

 いや、確かにキョウの言っていることは正論だが、それでは敵は迂回してジェネシスαに取り付いてしまう。今回はジェネシスα防衛が任務のはず。だが、そんなマイに対しキョウは決して馬鹿になった訳ではないように笑みを浮かべた。

《頼んだぞ》

「あ、ちょっと……ああ、もうっ!」

 追求するより早く通信が途切れ、マイは溜め息を振り撒くように頭を振る。まったく訳が解からないが、艦長がそう指示した以上は仕方ない。

「T5から7はT2と私につけ! T3以下各機は援護しろ!」

 素早くフォーメーションを組みなおし、マイはゴールドフレーム天を加速させる。それに続くように突撃部隊にニコルのM1A以下、ゲイツRが続く。そして、後方支援にシホのM1Aを配し、バスターダガーを部隊に組み込んだ。

 やがて、敵艦隊からMSが出撃してきた。モニターに表示されるマーキングが次々に増加する。

 機種を特定したコンピューターが表示し、マイは眼を細める。

「ダガーLにウィンダム……そう簡単には尻尾を出さないか」

 やや落胆した面持ちで吐き捨てる。敵が使用してきたのはダガーLとウィンダムという、地球側の勢力が多く保有する機体だ。故に、背後につく勢力はまだ絞り込めない。だが、それも敵を迎撃してからだった。

 ドッペンホルン装備のダガーL部隊が砲撃し、それに応戦するようにシホのM1Aが大型ライフルを構え、バスターダガーがガンランチャーと収束砲を連射し、両者の中央で激突し合い、激しい火花が散る。

 その爆発のなかへと飛び込んでいく突撃前衛部隊。ダガーLがビームガービンを手に連射し、襲い掛かる。それをかわし、ゴールドフレーム天はトリケロス改を構え、ビーム砲を発射し、一機のコックピットを撃ち抜き、破壊する。

 ニコルのM1AもダガーLのビームサーベルをシールドで受け止め、逸らすと同時に蹴り飛ばし、ビームライフルで機体を撃ち落とす。

 ゲイツRがレールガンを斉射し、敵機の足並みを乱す。崩れた隙を狙い、ゲイツRがビームサーベルで機体を両断する。

 そして、支援部隊が前線に追いつき、友軍機の援護に入る。ドッペンホルンが火を噴き、ゲイツRの腕を吹き飛ばす。トドメを刺そうとするが、バスターダガーがミサイルを発射し、ダガーLが激しい爆発に掻き消える。

 シホのM1Aが正確な射撃で敵機の頭部や武装を撃ち抜き、戦闘不能に追い込んでいく。

「っ、やっぱりこっちがキツイ!」

 悪態を衝きながらビーム刃でダガーLのボディを切り裂き、弾き飛ばす。純粋な戦力差は約3倍。こちらはパイロットの腕を差し引いたとしてもあちらは初期戦力でそれだけの差があるが、あちらはまだ予備戦力があるはずだ。

 そして、こちらの防衛線を抜け、ツクヨミ目掛けて敵機が迫る。ツクヨミはイーゲルシュテルンで応戦しているが、明らかに分が悪い。

「T3、あんたは戻れ!」

「りょ、了解!」

 シホのM1Aが身を翻し、ゲイツRと共にツクヨミの援護に後退する。それを一瞥する間もなく、マイの意識は眼前に迫ったウィンダムに引き戻された。

 ビームサーベルを振り上げて迫るウィンダムをトリケロス改で受け止めるも、その勢いに押し込まれる。振り払おうとするが、そこへ横殴りに別のダガーLがビームサーベルを振り上げて迫る。

「っ!」

 だが、それに気づいたマイはバックのマガノシラホコを射出し、高速で伸びるワイヤーの先端がダガーLの頭部を突き刺し、貫通する。メインカメラを破壊され、行動不能になったダガーLにウィンダムのパイロットの注意が逸れ、力が弱まる。その一瞬の隙を逃さず、トリケロス改を振り上げ、ウィンダムを弾き飛ばす。弾き飛ばしたウィンダムに向けてダガーLを投げ飛ばし、2機が激突し、その衝撃で爆発が咲き誇る。

 軽く息継ぎをするが、センサーが迂回コースを取ってジェネシスαに迫る部隊を捉える。

「マズイ…っ、接近する熱源!」

 その時、別の方角から接近する大型の熱量反応が2つ捉えられた。その艦から発せられるのは正規軍のIFFではなかったが、マイにとっては敵ではないものだった。

「そういうこと……流石、前大戦を戦っただけはあるわねっ」

 キョウの判断とそして、ASTRAYという絆に引き寄せられる者達に感嘆の念を抱き、マイはゴールドフレーム天を駆り、前面へ加速した。





 その頃、ステーションでは最終調整を終えたアウトフレームDが射出口にスタンバイしていた。右手には専用のビームライフルを構え、ソードストライカーがセットされている。

《ジェスさん、マディガンさん、出撃OKです!》

 ユンからの管制に従い、アウトフレームDが構える。

「準備はいいぜ!」

「こっちもだ、カイト!」

 互いに各々のコックピットに乗り込んだジェスとカイトが頷き合い、発進を告げる電磁パネルが点灯し、ケーブルがパージされ、アウトフレームDの機体を浮遊感が包み込む。

「「アウトフレームダッシュ! ゴーッ!!」」

 二人の声が重なり、バーニアが火を噴き、アウトフレームDはその身を宇宙へと飛ばす。その加速力は以前までのものと比べ物にならず、Gがジェスの身を圧迫するも、やがて視界に大きく拡がる宇宙が飛び込んでくる。

 二人の眼には、前方で激しい火花が咲き乱れる戦場が映る。

「うわっ防衛戦は始まってるじゃないかっ!」

 初めて見ると錯覚するかのような激しい攻防。前線はTFが奮戦しているおかげで防衛ラインを抜けてくる機体が少なく、まだ後方配置に就いているレイスタでも対処できているが、敵の物量は油断ならない。

「凄い数だ、ジェネシスは保つのか?」

「ジェス、俺達の相手はこいつらじゃないぞ!」

 思わずカイトが叱咤する。二人の目標はあくまでプロメテウスだ。だが、まだその機体が現われたという情報は入っていない。

「だが、このままじゃ……」

 このままでは消耗戦に入る。となると戦力的に不利なのはこちらだ。唸るジェスだったが、そこへ通信が飛び込んでくる。

《大丈夫だよ!》

 聞き覚えのある声が耳に入ったと同時にコックピットのモニターに映る人物を見て、ジェスは驚愕する。

《サーペントテール、依頼により到着しました!》

「風花! でも、何故…!?」

 モニターに映る風花の姿に、ジェスは思わず叫ぶ。何故サーペントテールがここに居るのか…その問いに、風花は笑顔で応じる。

《貴方は皆に支えられてるってこと! ほら、彼も……っ!》

 そのタイミングでアウトフレームDに急接近する機影。ハッと見やると、ジェスにとって見覚えのある機体が飛び込んできた。

《そういうことだ…雑魚の始末は俺達傭兵の仕事だ!》

 颯爽と現われたのは、マントを羽織り、ボディに髑髏のレリーフをあしらった機体。傭兵部隊:シャークレギオンのカナード=パルスの駆るドレッドノートHだった。

「げっ、カナード!?」

 ジェスの顔が苦いものに変わる。以前、新兵器の取材でマティアスが雇った護衛で一緒に仕事をしたのだが、その時の対応にジェスの内に苦手意識が刷り込まされてしまった相手だ。だが、カナードは不適な笑みを浮かべたままジェスを一瞥する。

《露払いは俺達がやってやる…お前はお前の真の敵を撃て!》

 一方的に告げ、カナードは操縦桿を切り、指定された場所に向かってドレッドノートHを加速させた。

 そして、アウトフレームDのモニターには急接近するサーペントテールとシャークレギオンの部隊が映り、ジェスは内に熱いものを感じずにはいられなかった。

 仲間達が自分達のために駆けつけてくれたことに…その友情にジェスのみならず、カイトも熱く滾るものを憶え、不安など微塵もない決意に満ちた表情で二人の思いに導かれるようにアウトフレームDは宿敵を探し、戦場に舞った。





 TFが正面で防衛する間に合流したサーペントテール、シャークレギオンの面々はそれぞれ迎撃に入り、風花は一人ステーションの管制室に入り、中央コンソールで戦況を分析していた。

 真剣な面持ちで見入る彼女はとても分相応のものではなく、一介の指揮官のようにも見て取れる。

「TFのおかげで正面からの敵の攻撃は防げていますので、2-3エリアの敵配置は…」

 正面にいるのが旗艦隊ならあとはその分艦隊のみ。エリア毎にシミュレーション図を表示し、敵の進攻ルートを算出、そして敵戦力を分析する。2-3エリアから迫ってくるのは護衛艦数隻に駆逐艦、そしてMS編成はダガー系統が8割を占めている。

「ここにカナードを配置します。敵は多いですけど、問題はない筈です」

 統制は取れているが、別段目立った動きはない。なら、カナードがいいだろう。強敵に会うと熱くなりすぎるし、なにより動力源から考えてもカナード以下、シャークレギオンの面々で問題はない。

 その様子を横から面白いように見詰めるプロフェッサーとその戦術ぶりに感心するリーアム。そして、風花は問題の劾とイライジャの配置を取り決める。残りのエリアはかなり広範囲に展開しており、また敵機の数もそこそこだ。

「残りのエリアを劾とイライジャで分担するとなると…負けはしないだろうけど、時間が掛かるかも……ちょっとパワーが不安だな」

 二人の腕を信用はしているが、生憎と両機のブルーセカンドとザクはバッテリー駆動炉で、通常の移動にもエネルギー消費する。加えて敵の数からしてみれば、エネルギーが保つかどうは五分五分といったところだ。

 悩む風花に向かってプロフェッサーが不適に笑い、話し掛ける。

「それなら良い物があるわよ♪」

「え?」

 反応する風花を横に意地の悪い笑みを張りつけたまま振り向き、リーアムを凝視する。その視線を幾度も見てきたリーアムが嫌な予感が身を這うも、それを気にも留めず、言葉を続けた。

「アレ、使うわよ。緊急事態だし、いいわよね? 組合長さん?」

 それはむしろ問い掛けではなく、脅迫に近いかもしれない。既に決定権など無いに等しいかもしれないが、リーアムは引き攣った笑みを張りつけたまま、頷き返した。

 確認が取れると同時にプロフェッサーは風花に劾とイライジャに一度後退を促し、そしてステーション内に保管されているあるモノの射出を指示した。



 防衛力の低下したエリアから突撃をかけるMS部隊。ダガーL部隊が一気にジェネシスαに迫る。レイスタが防衛に阻むも、武装の差が覆せず、次々に撃墜、被弾していく。蹴散らし、突破したダガーLがジェネシスαの寸前まで迫った瞬間、突如アラートがコックピットに鳴り響いた。

 ハッとした瞬間、パイロット達は眼前に迫る光条が最期に眼に灼きつき、その身が一瞬の内に熱く焦がされた。

 大容量のビームに機体を蒸発させられ、爆発する僚機にダガーLが浮き足立ち、進攻が止まる。彼らがそのビームが飛来した方角を畏怖の眼で見据えた。

 真っ直ぐに加速する白い機影。MSにしては桁違いな加速力だが、機影は戦艦と呼ぶにはあまりに小さい。ダガーL部隊の前に立ち向かってくるのは、白き流星、MS用の拠点攻撃、そして大火力を補う補助パーツ:ミーティアだった。

 前大戦最終決戦時に運用され、大破した2機は修復されたものの、核エンジンを内臓していることから廃棄待ちになっていた。

 そのミーティアの中枢には、純白の装甲の下に走る青のフレーム。傭兵:叢雲劾の駆るMBF-P03:アストレイブルーフレームセカンドL。

 コックピットでは、劾が眼前に迫る敵部隊を射程に収め、サングラスの下の眼光を光らせる。

「ミーティアとの連動システム及び核エンジンオールグリーン、ミッションを遂行する」

 冷静な口調で呟くと同時に劾は正面モニターに捉えた敵機を見据え、照準が無数にロックされたと同時にトリガーを引いた。

 ブルーセカンドLの駆るミーティアが構え、全兵装をフルオープンアタックを仕掛ける。ビーム、ミサイルと無数の熱源が放たれ、周囲に布陣していたMS部隊に襲い掛かり、一撃で行動不能に追い込む。

 無数の爆発が宇宙を埋め尽くさんばかりに輝くなか、瞬く間に敵機が一掃された。劾はその光景を一瞥し、別のエリアに固まる敵機に向けてミーティアを駆った。

 そして、そのブルーセカンドLの勇姿を見届けるイライジャ専用のザクファントム。モノアイが動き、イライジャは軽く笑みを浮かべる。

「やっているな、劾!」

 寡黙だが、派手に相手を叩く様にイライジャは苦笑を浮かべ、自身もまた意識を眼前に集中させる。イライジャのザクファントムもまた、ミーティアにドッキングし、艦隊に向けて航行していた。

 鋭い加速が身を圧迫するが、イライジャは歯噛みしながら耐える。

 その足を止めようとMSが立ちはだかるも、イライジャは加速を止めず、さらにスラスターを噴かせ、攻撃を振り切り、進路上に立ち往生したダガーLがその質量に弾かれ、粉々に砕け散る。思わずゾッとしてしまったが、慌てて意識を振りも戻す。

 その先には、アガメムノン級戦艦が映り、イライジャはキッと視線を細めた。

「俺だって……っ」

 負けじとミーティアの対艦用の大型ビームサーベルを展開し、加速する、近づけさせまいと対空砲で狙い撃つが、それを回避する。だが、この巨体では全てをかわせず、数発が機体を掠め、振動させる。それに怯まず、急所のみをずらす。そして、遂に船体の直前にまで到達し、ビームサーベルを振り上げ、イライジャは咆哮を上げながら振り下ろし、巨大な刃が船体を真っ二つに切り裂き、そのまま離脱する。一拍後、切断面から火の手があがり、アガメムノン戦艦は閃光に包まれた。

 爆発の炎が照り映え、ミーティアの純白の外装を赤く焦がすも、イライジャはその余韻に僅かに浸っていた。だが、直後響いたアラートにハッとすると、動きを止めたミーティアにウィンダムが数機襲い掛かってきた。

「うおっ」

 咄嗟に反応できず、ビームの射線に晒されてしまったが、別方向から撃ち込まれたビームがウィンダムのボディを貫き、破壊する。

 爆発に呆気に取られるイライジャに叱咤が飛ぶ。

「油断するな、イライジャ」

「あ、ああ済まん!」

 援護した劾は身を翻し、再び敵陣のなかへと突入していく。あの同じ巨体を操りながらも、劾の動きには一切の無駄が無い。その腕には嫉妬よりも尊敬を抱く。そして、それに負けまいとイライジャも己の未熟さを叱咤し、後に続いた。

 劾とイライジャが担当しているエリアはミーティアという強化パーツにより、優位に動き、もう一方のエリアではカナード以下、シャークレギオン隊が奮戦していた。

 母艦であるコスモシャークを陥とさんと迫るダガーLを護衛に就くストライクダガー改が立ち塞がり、一歩も通さない。彼らもまた仮にも正規の訓練を受けた軍人達だ。故に連携においては決して劣っていない。

 各々にカスタマイズされたストライクダガー改は互いのアドバンテージを活かし、連携で一機一機的確に撃墜していく。

 そして、開けたと同時にメリオルは前方の敵艦を見据え、照準を合わせる。

「主砲、撃てぇぇぇぇ」

 メリオルの号令とともにコスモシャークの前部主砲が発射され、真っ直ぐに迫る光条が射線上の敵機を巻き込みながら火花を咲かせ、護衛艦の船体を貫く。

 護衛艦が体勢を崩し、爆発する。艦の消失に浮き足立つ敵陣のなかに果敢と飛び込んでいくドレッドノートH。その風貌に圧倒される敵MS。動きを止めたダガーLに向かい、カナードは左腕のアルミューレ・リュミエールをビームランスに変換し、突き刺す。

 頭部を打ち抜かれ、体勢を崩すダガーLのボディを蹴り、右手のRFW-99ザスタバ・スティグマトビームサブマシンガンを連射し、ボディを粉々に撃ち砕く。

 かつて搭乗していたハイペリオンと共通の武装を施されたこの機体はカナードにとって扱いがよく、また彼の相棒とも言える機体だ。

 右眼に施されたスコープカメラが敵機を捉え、ドレッドノートHはバックパックのイータユニットをバスターモードで展開し、一斉射する。ビームが2機のダガーLのボディを撃ち抜き、破壊する。

 そして、敵機が密集するなかへとドレッドノートHが飛び込み、ビームキャノンとビームマシンガンを手に周囲に向けて一斉射する。正確とは言い難いが、ランダムに撃ち込まれるビームの嵐に敵も翻弄され、次々と破壊される。

「どうした? この程度じゃ俺は倒せんぞっ!」

 気迫に圧倒されるように尻込む敵部隊。その時、彼方から一筋のビームが飛来し、カナードが気づいた瞬間、ビームがマントに着弾した。

「ぐぉぉっ!」

 激しい振動が機体を襲い、マントが熱によって融解し、融け落ちる。ビームコーティングを施されているとはいえ、緩和できる熱量ではなかった。マントの破片を散らすように弾かれるなか、カナードはキッと睨むように見上げると、ダガーL部隊のなかから現われるように姿を見せる機影。

 だが、機体形状は周囲のダガーLとは明らかに形状が違っていた。ダガーフェイスではあるが、右手に保持する巨大なビームカノンに肩に背負った2門の巨大な砲身。ダークブラウンに近いカラーリングを施されたMSは赤いバイザーを鈍く輝かせる。

「くっ…ほう、この俺に当てるとは、雑魚にも少しは骨のある奴がいるか」

 苦悶に歪んでいたカナードの顔が一瞬で不敵なもの変わるが、その内は不快感が漂っている。

 今まで不意打ちで被弾などしたことが無かったために悔しさを滲ませるも、相手の機体のパイロットはコックピット内でせせら笑う。

「へぇ、凄いんだ……ビックリ」

 笑みを噛み殺し、無邪気な笑顔をバイザー下で浮かべる。ブラウンとダークピンクに塗装されたパイロットスーツを纏う少女と思しき人物は愉しげにドレッドノートHを見やる。

《ト、トレイスター少尉!?》

 僚機から上擦った声が聞こえてくるも、問われた当のパイロット、イリア=トレイスターは無視するように視線だけをドレッドノートHに注ぐ。

「あいつを壊せばいいんだよね〜愉しそう愉しそう♪」

 自身の夢想に酔いしれるイリアに僚機から怒声が飛ぶ。

《命令を聞け、トレイスター少尉!》

 その叱咤に今まで笑っていたイリアが眼を伏せる。静かになったと思い、再度命令を下そうとするが、それより早く顔を上げたイリアの視線が鋭く細まる。

「あんた、煩い」

 抑揚のない声で呟き、次の瞬間…右手のビームカノンが火を噴き、ウィンダムのボディを貫き、ウィンダムが爆発に消えた。

「あたしに命令しないで……鬱陶しい、邪魔、つまんない…だから愉しませて♪」

 不機嫌だった顔が瞬時に緩み、イリアは自身の搭乗する機体、GAT-FA02/E:バスタードが加速し、ドレッドノートHに襲い掛かる。

 バスタードの両肩の2連装高エネルギー砲:シュラークツヴァイが火を噴き、カナードは身を翻す。

射線をかわすと同時にビームキャノンを発射するも、バスタードも悠々と跳びはねるように回避し、応戦してくる。

 カナードは舌打ちし、ビームサブマシンガンで狙い撃つも、高速で迫る光弾をシールドで防ぎ、ビームカノンで応戦し、空中で激突し、中央から凄まじい閃光が拡散し、視界を一瞬覆う。

「くっ」

 歯噛みした瞬間、閃光を裂くように飛び出してくるバスタードがビームサーベルを抜き、斬り払う。

 ドレッドノートHは左腕のシールドを展開し、刃を受け止める。激しいスパークが巻き起こり、両機を照り映えさせる。

「おのれぇぇぇ!!」

 強引に弾き飛ばし、至近距離からサブマシンガンを連射するが、バスタードは機動性を駆使し、攻撃をかわす。

「きゃはははは! 愉しい、愉しい、愉しい!!」

 哄笑を上げながらイリアは曲芸のように飛行し、シュラークツヴァイを連射し、ドレッドノートHは翻弄される。

「くそぉぉぉぉっ」

 振動のなか、カナードは相手への憤怒に突き動かされ、機体を無謀にも突撃させる。だが、高火力のなかに飛び込むのは無謀すぎた。一射が機体を掠め、装甲を融解させる。

 それにより、カナードがさらに熱くなろうとレバーを握り締めた瞬間、それに重なるように手に感じたもの。それによってカナードの沸騰していた感情が冷静さを取り戻す。

「解かっている…俺は熱くなっていない」

 己と…そして、そこにいるであろう者に呟き、カナードはレバーを引き、ドレッドノートHを後退させる。その動きにイリアは首を傾げる。

「あれれ? もう終わり? もっと愉しもうよ!」

 逃すまいと加速するバスタードだったが、カナードは距離を取り続け、イリアはますます不満気に歪める。

「逃がさないって言ってるでしょぉぉぉ!」

 苛立ちが募り、最高速にのるバスタード。それを確認し、カナードは口元を微かに歪めた。

「そこだっ」

 突如機体に制動をかけ、急停止したドレッドノートHが腕を左右に振り上げ、両腰部に備わったプリティスが発射される。アンカーの先に備わったアルミューレ・リュミエールがビームランスを展開し、真っ直ぐにバスタードに向かう。最高速にのっていたため、回避などできるはずもなく、ビームランスとバスタードが正面衝突する。ビームランスがバスタードのビームカノンとシールドを貫き、急制動をかけられた反動でバスタードは放り飛ばされた。

 一拍後、武装の爆発と共にプリティスを引き戻す。カナードはバスタードを追う。動きの止めたバスタードのコックピットでイリアは身体を震わせる。

「嫌い…あんたなんか嫌いだぁぁぁぁぁぁっ」

 先程までの無邪気な子供のものではなく、殺気を滲ませた歪んだ貌でドレッドノートHを睨み、シュラークツヴァイを連射しながら襲い掛かる。

「おおおおおっっ」

 カナードもまた応戦するようにドレッドノートHのビームキャノンを発射し、閃光が幾つも咲き乱れ、戦場を包み込んだ。



≪イリア=トレイスター≫


 それぞれのエリアで激しい攻防が続くなか、正面で迎撃を行っていたTFの面々はほぼ周囲の敵機を一掃していた。

 トツカノツルギでウィンダムの頭部をひしゃげさせ、動きを封じたと同時にトリケロス改を振り払い、ボディを両断する。瞬時に離脱し、爆発を見据えながらマイは軽く一息つく。

「これで粗方片付いたわね」

 正面に展開していた部隊のほとんどは既に撃破した。こちらも数機が被弾したが、なんとか保った方だろう。

「マイさん、こちらはなんとか終わりました」

 ゴールドフレーム天に寄るM1A。ニコルに気だるげに相槌を打つ。

「了解。しかしまあ、艦長もあんた達も人が悪いな…援軍があるならハッキリ言いなさいよ」

 咎めると、ニコルは苦笑する。

「すいません、ハッキリと答える程、僕達も確信があった訳ではないんで」

 確かにハッキリとした確証はなかったかもしれないが、ある程度の確信はあったということだろう。

 サーペントテールにシャークレギオン、どちらも前大戦のデータで確認できたものだ。随分また大きなものが関わってきたと思う。だがまあ、思わぬ援軍のおかげで戦況はこちらに傾いたと見ていいだろう。

「ニコル、あんた達は敵MSの残骸をいくつか回収して」

「構いませんが…何故?」

「企業秘密」

 指を立ててそう告げるマイにニコルは曖昧に応じる。マイは周辺の警戒を行おうとしたが、コックピットに響いたアラートにハッと身を捻る。

 身を翻した瞬間、光弾が虚空を掠める。

「ちっ、増援……っ」

 まだ予備戦力があったのかと振り向くと、彼方から向かってくるMSは数機。前方を進む機体を光学映像が捉え、映し出される。

「これは……まさか、X03?」

 先陣を切るのは鈍重な外観を誇るダークブルーのMS。今まで確認できたダガー系統ともウィンダムとも違う。そのMS、センチュリオンのコックピットでアレット=ヒューノスは独りごちた。

「アレが目標か」

 モニターに映るジェネシスα。今回、彼に下されたのはジェネシスαの奪取。アレの威力は前大戦で証明済み。なら、ブルーユニオンがアレを欲しても仕方ない。

 だが、それはそれで面白い。かつて、自分達が誇った兵器で滅ぼされるのもまた皮肉なものだろう。アレットは小さく笑みを零し、前方で立ち塞がるMSを一瞥する。

「さて…通してもらうぞっ」

 ゴールドフレーム天を見据え、センチュリオンが加速し、ビームサーベルを抜いて斬り掛かる。だが、マイはその斬撃を見切り、かわす。そして、トツカノツルギを振り下ろすも、センチュリオンの装甲に阻まれる。

 甲高い金属の激突音が真空の宇宙に木霊するかのように響く。

 マイは舌打ちし、距離を取る。逃すまいと腕のパルスレーザーで狙撃する。レーザー弾を軽やかにかわし、ゴールドフレーム天は距離を取り、大きく迂回すると同時にセンチュリオンの下方に素早く回り込み、トリケロス改で狙撃する。

 逆に射線に晒されたセンチュリオンは回避行動を行うも、機体の巨体さから俊敏な動きが咄嗟に取れず、ビームが機体を掠める。

 そのままゴールドフレーム天が加速し、ビーム刃を振り上げ、センチュリオンもまたビームサーベルを振り下ろし、ビーム刃が交錯し、火花が散る。

 僅かな干渉の後、2機は弾かれるように距離を取る。

「やはり、X03か! なら、ブルーユニオン…奴らもやはり!」

 装備等は変更されているようだが、あの機体フォルムは見覚えがある。数年前の次機主力機をかけたトライアルでウィンダムに敗退した機体だ。試作型が数機生産されただけで、実戦投入もないまま解体されたと公式記録にはされていたが、戦後開発陣の一部とデータが紛失した。そして、それはそのままブルーユニオンに渡ったと調べがついていたが、これで確信と手掛かりが現われたことになる。

「絶対に逃さない! 悪いけど、墜とさせてもらうっ」

 マイの視線が鋭く細まり、ゴールドフレーム天が再加速で迫り、センチュリオンもまたビームサーベルで応戦する。

 幾条も刃が煌き、交錯する2機。互いの軌跡を描くなか、ゴールドフレーム天が空いたセンチュリオンのボディを蹴り飛ばし、弾く。

 衝撃に呻きながらアレットはセンチュリオンのリニアライフルを連射し、弾丸がゴールドフレーム天の装甲を掠め、振動させる。マイも衝撃に歯噛みし、ウイングを展開して飛翔し、斬り掛かる。

 振り薙がれた一撃がセンチュリオンの左腕を斬り飛ばし、爆発が包んだ。





≪アレット=ヒューノス≫




 ジェネシスα周辺の戦闘が熾烈を極めるなか、一機のみで宇宙空間に滞空するアウトフレームD。ジェスとカイトは緊迫した面持ちで因縁の相手の姿を捜し、そして待ち構えていた。

 どれ程時間が経過したのか…頭部コックピットで周辺を眼を皿のように見回すジェスは彼方に飛来する機影をカメラに捉えた。

「来た!」

 レンズ越しに捉えた機影が白い軌跡を描きながら真っ直ぐにアウトフレームDに向かってくる。赤のカラーリングを全身に施したアウトフレームDの相似形のきょうだい機。ZGMF-X06A:プロメテウス。その機体から分かたれて誕生した機体同士、ここに邂逅した。

 相手の目標も同じらしく、こちらを狙い撃つように加速し、アウトフレームDの眼前に迫った瞬間、頭部の巨大なホーンアンテナが光り、ウイルスが強制送信され、アウトフレームDのコンピューターが感染し、コックピットに着くカイトは正面モニターにプロメテウスが幾つも映し出され、驚愕の声を上げる。

「!? ジェス!」

「解かってる!」

 反射するようにジェスもまたカメラを構えてプロメテウスの姿を撮り、その映像がリアルタイムでアウトフレームDのコンピューターと繋がれる8に送信される。

「カイト、こいつだ!」

【フィルターヲカケルゾ!】

 量子コンピューターではない8が映像を解析し、それを反映させ、モニターに幾つも表示されていたプロメテウスの姿が消え、一機に収束される。

「見えた! そこだっ!」

 相手の姿さえ見えれば、カイトにとって恐れるものではない。流れるように操縦桿を切り、アウトフレームDのビームライフルが火を噴き、ビームが正確にプロメテウスに襲い掛かり、相手のパイロットは舌打ちし、トリケロス改で受け止め、距離を取る。

 逃すまいと追撃するアウトフレームD。距離を取って翻弄するプロメテウスにジェスとカイトは俄仕込みの連携で応戦する。

 ソード装備である今の状態では距離を取られてはビームライフルしか手持ちの火器は無い。なんとか引き寄せようとパンツァーアイゼンを発射するも、相手もそれを見越してか、一定の距離を取り、先端のアンカーをかわし、一瞬にして飛び込むと同時に刃を展開し、ワイヤーを切り離す。

「ちっ」

 舌打ちし、カイトはパンツァーアイゼンを排除する。もはや役に立たない以上、少しでも機体を軽くした方がいい。ロウの指摘通り、アウトフレームDの機動性は決してプロメテウスに劣っておらず、むしろ軽量化している分、スピードは勝っている。だからこそ、相手からの攻撃も致命傷を避けられているが、こちらの攻撃も致命傷にはならず、膠着状態になっている。

 ディバインストライカーの機動性を駆使し、トリッキーな動きで翻弄し、攻撃してくるプロメテウスの動きをジェスは必死に眼となって追い縋るも、人間の動体視力だけでそれを追うのは至難の業だった。だが、ジェスは諦めずに相手の動きに喰らいつく。少しでも気を抜けば、カイトの眼が失われてしまう。

 レンズを向け、それを送信してカイトがビームライフルで狙い撃つも、プロメテウスは紙一重で回避し、ジェスは歯噛みする。

「くそっ速い……っ」

 思わず悪態を衝く。プロメテウスの動きが速く、それを眼で追うのは難しい。トリケロス改のビームをアウトフレームDがビームサインを取り出し、扇状に展開して防ぐ。防ぐと同時にビームライフルを放つも、プロメテウスもまた身を翻す。

 なかなか決定打が互いに出ない。だが、それも仕方ない。ジェスが捉えた映像がカイトに伝導されるまで、若干のタイムラグがある。その僅かなタイムラグのせいでカイトの腕を以ってしても相手に決定打を出せずにいるのだ。

「眼で追うだけじゃ……ダメだ、見えていない真実を見る…」

 カメラ越しにプロメテウスの動きを見据える。たとえ、相手の実体が掴めていようとも、それはただ眼の前の事実でしかない。隠された真実を見据えるために、ジェスはプロメテウスの動きを脳裏に浮かべ、読みきる。

「それが、ジャーナリストだ!」

 脳裏で幾重にもブレるプロメテウスの動きが一点に収束され、ジェスはその方角へカメラを向けた。そこにハッキリと映る姿に叫ぶ。

「右だ、カイト!」

「おう!」

 間髪入れず、カイトはジェスが指した方角に向けてビームライフルを捨て、左肩のマイダスメッサーを掴み、投げ飛ばした。ビーム刃を展開し、回転しながら迫る刃がその空間に飛び込んだプロメテウスのディバインストライカーに突き刺さり、システムがショートする。

「ぐっ」

 仮面の人物の顔が苦悶に歪み、プロメテウスは距離を取る。

「よし!」

 遂に相手に対し決定打を出し、意気込むジェスにカイトが不適に応じる。

「どうやら、真の姿が見えてきたようだな、ジェス!」

「ああ、次に仕掛けてきた時、決める!」

 向こうもこれ以上長引かせる余裕はあるまい。なら、次に姿を見せた時が最後のチャンスになるだろう。アウトフレームDは左手にビームサインを構え、右手にシュベルトゲーベルを抜き、構える。ここまでまったく使用せずにいた奥の手。プロなら切り札は最後まで取っておくもの。手を全て曝け出した時点で、あのプロメテウスの不利は決定したのかもしれない。

 虚空に消えたプロメテウスを待ち構え、静かに佇む。ジェスの全神経を張り詰めさせ、この距離感さえ霞む宇宙を見渡し、相手の出方を窺う。

 無音の静寂のなか、ジェスの五感がある変化を捉える。それは、ジャーナリストというただ一瞬の光景を捉えるためだけに鍛えられたものゆえか。

「来た!」

 向かって左手に見える光。だが、ジェスはその更に奥に鈍く光る機影を嗅ぎ取った。

「違う、奴は…右だ!」

 左手から真っ直ぐに迫るレイスタの残骸。だが、それに眼もくれず、アウトフレームDは右手に向かって飛び掛かる。それより早く突撃してきたレイスタの残骸を左手のビームサインで弾き飛ばし、その瞬間…プロメテウスがトリケロス改を振り上げて迫る。

 遠隔操作によるフェイント攻撃だったが、ジェスの眼は真実を捉えた。そして、カイトはシュベルトゲーベルを振り被り、真っ直ぐにボディ目掛けて突き刺した。

 穂先がプロメテウスの胸部コックピットハッチとボディの装甲の隙間に突き刺さり、相手の動きが止まる。PS装甲といえど、関節等のフレームや隙間は通常の強度しかない。その僅かな隙間を狙うのは、並大抵の腕は不可能だ。

 かつて、南米において切り裂きエドことエドワード=ハレルソンの戦いを垣間見たジェスは、その時の戦法をカイトに頼み、カイトは見事それに応えた。

「やったぞ、カイト!」

「当然だ、俺はプロだからな」

 称賛にもどこか満更でもないといった表情で応じ、動きを止めたプロメテウスを拘束するように左手で機体を掴み、覗き込むように対峙する。

「聞こえるか? 俺はジェス=リブル! あんたに聞きたいことがある!」

 接触回線でジェスは通信を試みる。カイトにわざわざこんな戦い方を頼んだのはこのためだった。

「何故攻撃してきた? あんたは誰だ?」

「私は…ぐっ……」

 回線越しに聞こえる問答に仮面の下で苦痛に呻き、口元が歪み、頭を抑える。

「あんたは何のために動いている? 真実を教えてくれ!?」

 なおも続くジェスの問い。自身にとって対極に位置するこの機体を駆る者の真意。それを確かめんと叫ぶジェスの言葉に脳裏に響く傷みはますます増す。

「真実……私…の………?」

 片言のように反芻し、それが引き金になったかのように脳裏に次々と光景が浮かび上がる。

 赤いMSを手に入れようとデブリ帯で戦い、敗れた記憶。その後に続くように様々な光景が浮かび、一人の男と行動を共にする。そして、何者かによる襲撃。捕らえられ、一つのステーションへと連行され、そこで様々な薬物処置に精神コントロールを受ける光景が浮かぶ。

 自身を実験動物のように覗き込む研究員と思しき者達の奇異な視線に取り乱す。

「私、は……エ…エリサ………」

 脳裏を過ぎる記憶の最期に浮かぶ人物。一人の女性士官が見下ろし、不適な笑みを浮かべる。

『これからは、私の道具として飼ってあげるわ……ケナフ=ルキーニに関わったことを恨むのね』

 その言葉が引き金になり、消されていた記憶が覚醒し、溢れ出す。

 ヘルメットを脱ぎ捨て、そして、仮面に手をかけ、剥ぎ取る。その下から現われる素顔。

「私は、エリサ=アサーニャ! 私は…私は、あの女に利用された……私を、道具にしたあの女に……っ!」

 彼女の名は、エリサ=アサーニャ。かつて、海賊としてルキーニとつるみ、レッドフレームを手に入れようともした。その後、彼女はルキーニと行動を共にするも、ルキーニが狙われ、彼女は捕らえられた。そして、強化手術を施され、記憶も操作された。

 次の瞬間、彼女の首に巻かれた金属質のチョーカーが光り、音を発した。それが彼女の記憶を更に呼び覚ます。これは、拘束の証にして保険。神経と接続され、精神操作から逃れた瞬間、脳波の乱れをキャッチし、爆発する首輪。

 その事実を思い出した瞬間、エリサは激しく取り乱す。

「いやっ、私は…私はまだ死にたくないっ」

 半ら狂のように恥も外聞もなく泣き叫び、コンソールの一部を叩いた瞬間、プロメテウスのウイルスをコントロールするシステムが暴走する。

「助けてっ助けてよぉっルキーニィィィィィィ!!!」

 悲痛な叫びが木霊するなか、機体中を走るエネルギーが暴走し、その干渉で突き刺さっていたシュベルトゲーベルが弾かれる。

「うわっ」

 その衝撃は間近にいたアウトフレームDにも及び、怯むように突き放される。

「エリサ! あの女とは誰なんだ!?」

 機体から発せられるエネルギーの光に眼を覆いながら叫ぶジェスは次の瞬間、驚愕に眼を見開いた。

 プロメテウスのハッチが開放され、パイロットが機外へと飛び出したのだ。システムの暴走がハッチのロックを解除し、空気が排出され、その気流がエリサの身体を弾き出す。ヘルメットを剥いだエリサの顔は涙でぐしゃぐしゃに歪み、だが、一瞬にして真空の苦悶が拡がる。もがき苦しむエリサだったが、次の瞬間…首に巻かれた金属質の首輪が赤く光り、小規模な爆発が起こり、真っ赤な液体が宇宙空間にばら撒かれる。首筋を中心に施される血化粧。

 茫然と見入るジェスの眼には、瀕死のエリサの唇が微かに動くのが映る。



――――――ま・てぃ・す



 赤く染まった唇は…そう呟いているように見えた。苦悶に歪んでいた表情が固まり、エリサの身体は乱気流に流され、虚空の闇へと放り出されていった。

 あまりに衝撃的な光景にジェスは呼吸すらできず、乾いた声を出し、身体を凍らせていた。

 コントロールを失ったプロメテウスのウイルスは暴走し、それはダイレクトにジェネシスαへと感染し、それによって発射プログラムが起動する。

 だが、それを止めることは叶わず、ジェネシスαの内部で核エネルギーがコピーレント化され、γ線となって収束し、ミラーブロックの先端から膨大なレーザー波が解き放たれた。

 膨大なレーザーの渦はそのまま突き進み、虚空の彼方へと消えていった。そのあまりに非現実的な光景に戦場は一瞬静寂に包まれた。

 残ったのは、焼け焦げたミラーの残骸と煙を噴き出すジェネシスα。やがて、何が起こったのか実感し、カイトは舌打ちし、吐き捨てる。

「くそっ! 最期にウイルスを飛ばしやがった!」

 カイトもあのエリサの最期に蒼然となってしまい、反応ができなかった。MSのプロを自称しながらも、間近で久々に見た凄惨な死に様に思わず凍ってしまったのだ。

 ジェスもまた間近で見た凄惨な死に冷たい汗が頬をつたり、息を飲み込む。

「エリサ=アサーニャ…最期の言葉は、『ま』『てぃ』『す』…俺にはそう見えたが……」

 網膜に焼きついたエリサの最期の言葉。声は聞こえるはずもなかった。だが、彼女の唇は確かにそう呟いた。ジェスは、真実に辿り着くためのキーを相手から引き出せたのだ。だが、今のジェスにはそんな事を喜ぶ余裕は無かった。

 エリサの首に巻かれた首輪…アレが爆発したのは確認した。口封じのためだろうか…人をあのような凄惨なやり方で殺す相手に対し、ジェスは吐き気がするような憤怒を憶えた。





 ジェネシスαがレーザー波を放った後、停止した戦闘は再開されたが、戦力の要であったプロメテウスを撃破されたのを確認した各部隊は撤退を指示した。

 ドレッドノートHと戦闘を繰り広げていたイリアのバスタードだったが、打ち上げられた信号弾に動きを止め、唇を尖らせる。

「つまんない、もう終わり? せっかく愉しかったのに……」

 遊び足りないといった顔で不満を零すが、やがて溜め息を一つ零すと静かに俯く。

「でも、少し疲れちゃった……帰ろうか」

 独り言のように呟くと、操縦桿を動かし、バスタードは身を翻す。不審げに構えるカナードを一瞥し、呟く。

「また縁があったら会おうね……」

 刹那、バーニアが火を噴き、バスタードは急加速で戦線を離脱していった。その様に僅かに呆気に取られるが、やがてカナードは顔を険しく歪める。

「ふざけやがって……次に遭った時は、必ず倒してやる」

 久々に邂逅した手強い相手。戦闘用に調整された所以か、熱くなる血にカナードは再戦の意気を燃やすのであった。

 次に邂逅した時にこそ、決着を着けると…その望みが果たされるかどうか、今のカナードには知る由もなかった。

 その一方で、マイのゴールドフレーム天はアレットの駆るセンチュリオンを追い詰めていた。

 左腕を斬り落とされたセンチュリオンは右手のリニアライフルを放ち、近づけさせまいとしているが、それを児戯のごとくかわし、距離を詰める。

「悪いけど、逃がすわけにはいかない…その機体、鹵獲させてもらうっ」

 撤退信号が打ち上がったのは確認した。連合時代と意味は変わっていなかったらしい。残った敵機も撤収を始めているが、この機体を逃しはしない。

 マイはゴールドフレーム天のマガノイクタチを起動させる。コロイド技術を応用した非殺傷兵器。相手のバッテリーエネルギーを自機へと流電させ、相手を行動不能に陥らせる。敵機を無傷で鹵獲するには最適の装備だった。

 そのためには敵機をホールドしなければならず、接触しなければならない。距離を詰めようと迫るゴールドフレーム天にアレットは歯噛みする。

「くそっ、こんな所で殺られるわけには……っ」

 まだ自身の目的を何も果たしていない。ブルーユニオンに身を投じたのは全て、コーディネイター殲滅のためだ。その目的も果たせず、こんな所で朽ちるのかと、歯噛みし、遂にゴールドフレーム天が眼前にまで迫った瞬間……

《隊長!!》

 その叫び声と共に、センチュリオンは弾かれ、ダガーLがマガノイクタチに拘束された。その光景にマイだけでなくアレットも驚愕に包まれる。

 部下であるダガーLが身代わりになったことに一瞬茫然とするも、そこへ苦しげな部下の声が響いてくる。

《隊長、隊長はまだこの先必要な方…我らの青き清浄なる未来のために……敵討ち、頼みます!》

 無茶な突撃でマガノイクタチの当たり所が悪かったのか、破損したコンソールで身体を切り、既に大量の出血が起こっており、瀕死の状態であった。

 それを察したアレットは無言のまま、身を翻す。部下の意気を無駄にしないために…スラスターを噴かし、高速で離脱するセンチュリオン。

「しま……っ」

 それに気づいたマイは悔しげに歯噛みするが……次の瞬間、ダガーLのボディが光を発し、それが何か悟った瞬間、ゴールドフレーム天はダガーLの爆発に巻き込まれた。

 爆発の閃光が拡散し、ニコルとシホが驚愕する。

「「マイさん……っ」」

 ハッと我に返り、機体を確認しようと爆発に接近する。朦々と立ち込める爆煙、MSとはいえ、あの熱量を至近距離で受けてはいくらなんでも一溜まりもない。必死に機体反応をサーチする。

 どれ程凝視していたのか…やがて、センサーが爆煙のなかに一つの熱反応を捉え、それに眼を見開くと同時に煙のなかから掻き分けるように飛び出してくる漆黒の機体。

 全身の装甲を融解させ、右腕が半ば融け落ちている。満身創痍に近い状態ながらも、原型を留めるゴールドフレーム天に二人は安堵し、通信に叫ぶ。

「マイさん、無事ですか!?」

「なんとかね……」

「よかったぁ」

 苦い口調で応じるマイに二人は安堵の溜め息を零す。マイは顔を顰めながらバイザーを上げ、ヘルメットを取る。

 首を振り、呼吸を乱しながら打ちつけた身を微かに強張らせる。

「まさか、自爆なんてね……自己犠牲なんて、ふざけた真似」

 ダガーLのパイロットがセンチュリオンを庇い、逃した。相手の行動に悪態を衝き、舌打ちする。

「大事な手掛かりを見逃しちゃった…おまけに機体も半壊……後で大目玉かな」

 結果的にはこちらの負けだ。踏んだり蹴ったりの結果に大きく自身に毒づく。

「ああ、もう!」

 ドッと背中をシートに預け、肩を落とす。

「ジェネシスが発射されたみたいだけど……」

 原因は解からないが、ジェネシスαが発射されたのは事実。だが、それが何処へ発射されたのか……発射された進路から予測できるに、アステロイド帯があるが、特に人工物は無かったはずだ。

「これで、終わればいいんだけど……」

 それが何を意味しているのか、マイ自身にもよく解からなかった。漠然とした矛盾に思考を巡らせるなか、爆発の衝撃の影響か、機体内の主電源が落ち、コックピット内が次々にブラックアウトしていき、マイは闇のなかに思考も…己自身も埋没させていった。

 敵艦隊が完全に撤退したのを確認し、ジェネシスαへ一時帰還する。偶然か必然か…放たれたジェネシスの一撃が、新たな混乱を招くとも知る由もなく………









 ジェネシスαより遠く離れたアステロイドベルト地帯。特務情報部の所有するステーションが隠れ蓑としているこの空間を、ジェネシスαのレーザー波は過ぎっていた。

 通過した後は無残にも融け落ちた様々なデブリが四散し、消滅した空間がポッカリと空いている。その奥に一際大きく煙を噴き上げるデブリがあった。

 黒々とした破片となって漂うのは、特務情報部の宇宙ステーションであった。ジェネシスαのレーザー波はピンポイントでステーションを破壊したのだ。だが、それはただの蛻の殻であった。

 その付近を航行する一隻の艦。スチールブルーに近いカラーリングを持つその艦は、ラストバタリオンが運用するガーティ・ルーと同型の外観を持っていた。

 そのガーティ・ルー級戦艦の艦橋で、特務情報部の長であるマティスはほくそ笑んでいた。

「スカウトもやってくれるわね」

 無残な姿になったかつての居城を一瞥し、マティスはスカウト0984ことエリサ=アサーニャに毒づいた。自我を取り戻したと同時に首輪の爆弾が起爆するように体内に組み込み、それが発動したようだが、どういう偶然か、プロメテウスのウイルスが暴走し、ジェネシスαがステーション目掛けて砲撃してきたのだ。それは、重なった偶然の結果でしかない。だが、マティスにはただの無駄な足掻きであった。

「でも、私があそこにいつまでもいると思うなんて、お馬鹿さん……情報は常に変化しているものなのよ」

 そう…あのステーションはもはや拠点としては用済みだった。エリサの行為は確かにステーションを破壊せしめたものの、あらゆる事態を想定して動いたマティスの思考が上回っていた。

 過去の遺物を切り捨て、マティスは次なる舞台のための一手を思索し、優美に佇む。

「今の攻撃もちゃんと記録したわね?」

 艦を操舵するクルーの一人に問い掛けると、素早く返答が返ってくる。

「はい、マティス様。全て残しました」

 その返答に満足し、マティスは微笑む。

「ジャンク屋組合が連合基地を攻撃……これは使えるわ」

 プロメテウスとスカウト0984、そして宇宙ステーションの損失を補って余りあるほどの最高のカードが手に入った。これで、新たなる一手が取れる。

「ユニウスΩ落下と併せてセンセーショナルなニュースが世界を席巻することになるでしょうね」

 ユニウスΩの件は未だに詳細が掴めていないが、そうした想定外の情勢さえも上手く利用してこそ、自身の能力の素晴らしさを実感できる。

 それが……『一族』の長たるマティスの役目なのだから。これからの世界を夢想し、マティスは徐に懐に手を入れる。

「さて……そろそろ邪魔なカードを切るとしましょうか」

 取り出したそれは、カードの束。それをシャッフルする。微かに見えるカードの絵柄には、トランプの文字と人の顔が映し出されている。

「イレギュラー13……まず消えてもらうのは………」

 シャッフルしていた手が止まり、カードの束の中から2枚のカードを抜き取る。それを右手で拡げ、絵柄を確認する。

「この二人……フフフフ」

 笑みを零しながら、自身が選び出したカードの人物を見やる。



―――――カテゴリー2:ロウ=ギュール

―――――カテゴリーQ:ラクス=クライン



 2枚のハートの記号が印字されたカードには、その二人の顔が映っていた。















《次回予告》



宇宙を彷徨うもう一つの墓標。

それは、かつての始まりの地…運命の発端となった地………

刻を超え、再び来訪する者達を襲う影。



運命の輪を拡げるように蠢く意思。

かつて崩壊した地を再び染める砲火。

その先にあるのは、未来か…混沌か………





だが…その全てを呑み込まんと闇から舞い戻る影。

奏でられるのは…過去から甦りし…天上の死人の讃歌…………





次回、「PHASE-15 過去からの死者」



過去を超え…飛べ、ムラサメ。


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