ミネルバから発進したMS隊もまたユニウスΩの交戦圏内へと突入していた。シンのインパルスとステラのセイバーを先頭にルナマリアとセスのザクウォーリア、レイのザクファントムがと続く。やや距離を置いて並行するリンとキラのザクウォーリアと刹那の吹雪、そして一番後方にマコトのセレスティが飛行していた。

「あいつら……っ!?」

 ジュール隊のみならず、テロリストまで見境なく襲うアビス、ガイアの姿。そして、ストライクEの姿にシンは怒りを憶える。

「カオスがいない、ってことはこっちの有利なんじゃないの?」

 現われているのは2機のみ。カオスは先の戦闘で大破近くにまで損壊させた。あの短期間では修理が終わらなかったと見るべきだろう。なら、充分分がある。

「優先順位を履き違えるな」

 勇み足でボギーワン側のMSに向かおうとするルナマリアらを制するように鋭い声が響く。

「私達の目的はユニウスΩの破砕だ。敵を倒すことじゃない」

 リンからの叱咤にルナマリアは憮然と口を尖らせる。

「解かってます! けど撃ってくるんだもの! アレをやらなきゃ、作業もできないでしょう!?」

 反抗的に言い募るルナマリアによく聞こえるように大仰な嘆息が通信機から響く。

「だから目的を履き違えるな。あの機体を墜としたとしてもユニウスΩが落ちてしまっては何の意味もない。仮にも赤なら、状況を把握して行動しなさい」

 呆れ気味に咎められ、ますます不機嫌度が増すが、そんなルナマリアを無視し、セスが口を挟む。

「御忠告、感謝します。ですが、今の貴方の立場はあくまで客人です。こちらの指示には従っていただきます」

 リンは気にも留めず肩を竦める。

「ならどうする? 相手はこちらを無差別に攻撃してきている。なら、あの強奪犯とこの騒ぎを起こしたテロリストは少なくとも友軍ではないということ。敵性勢力2つに挟まれては、作業に集中できない」

 あの強奪犯が何故ここに現われたかはこの際どうでもいい。だが、それがこの状況を更に混乱させている。

「敵を退けた上で破砕を成功させる…それならば、問題はないでしょう」

 悪びれもなく言い放ち、セスは戦況を分析しながらフォーメーションを指示する。

「シン、ステラ、二人はボギーワンのMSの迎撃に向かって、私が援護に就く! ルナマリアとレイはジン部隊の方へ!」

「解かった!」

「うん!」

 シンとステラが当然とばかりに応じ、機体を翻して飛行する。

「ちょっとセス、なんで!?」

 前回煮え湯を飲まされたためか、ルナマリアが不満を漏らすが、セスはしれっと聞き流す。

「役割上の問題よ」

 今回の編成からしてみれば、この配置は順当なものだ。高機動型のインパルスと機動力と火力を有するセイバーの2機がセカンドシリーズに当たり、近接型のウィザード装備のセスが前衛及びサポート役に就く。そしてガナー装備のルナマリアはメテオブレイカーの守備に就き、そのお目付け役にはレイが当たる。

「そちらもメテオブレイカーの支援に回っていただきます、レイ、貴方が指揮を出して」

「解かった」

「しょうがないわね!」

 淡々と応じるレイと悪態を衝きながら渋々応じるルナマリア。

「死ぬな」

 最後にそう付け加えると、セスのザクウォーリアもまた身を翻し、シン達の後を追う。だが、ルナマリアはどこか呆気に取られていた。

「セスってば、変なとこで律儀なんだから」

 正直、無愛想なだけに意外だったが…それでも、何故か嬉しさが隠せず、ルナマリアは小さく笑い、レイも口元を軽く薄める。

「よっしっ私らもいくわよっ!」

 威勢のいい啖呵とともに機体を加速させるルナマリアとレイに続き、リン達もまた機体を加速させ、ユニウスΩの氷の大地へと向かっていく。

「またここへ…いや、因果か」

 小さく吐き捨て、リンは操縦桿を引いた。ザクウォーリアがブレイズのスラスターを噴かし、戦場へと舞い降りる。

 眼下では、ゲイツRがメテオブレイカーを護りながら、氷原へと降下していくが、その動きはメテオブレイカーのみに気を取られ、攻撃に対し隙が多い。

 その隙を逃さず、ジンハイマニューバがビームライフルを構えるが、させまいとリンはビーム突撃銃を構え、応射した。ほんの一呼吸の間に放たれた一撃がジンハイマニューバの腕ごとライフルを破壊し、振り返った瞬間を狙い、第二射を放ち、吸い込まれるようにボディを貫き、ジンハイマニューバが爆発する。

「動きが悪すぎる…戦闘下での作業に慣れていないのか?」

 いくら今回の任務が当初は破砕作業となっていたとはいえ、戦闘時における対応も含まれているはずだ。だが、ゲイツR部隊の動きはどこか硬い。

 となれば、考えられるのはこういった緊急時における経験不足故だ。

「あとでイザークに文句を言ってやらないとね」

 部下の教育が甘いのではないかと苦笑を浮かべ、リンは斬機刀を振り上げて迫るジンハイマニューバに視線を走らせ、スパイクシールドで斬撃を防ぎ、軌道をずらす。空いたボディに向けて拳を叩き込み、弾くと同時に突撃銃を斉射し、頭部とボディを撃ち抜かれ、ジンハイマニューバが炎を噴き上げながら氷原に落下し、爆発する。

 キラもまたジンハイマニューバと相対し、銃を撃ち合う。飛行しながら撃ち合い、ビームが機体を掠める。過ぎる閃光がキラの思考を軋ませる。

 久方ぶりに味わうこの戦場の緊迫感、そして慣れない量産機種の操作にキラは汗を浮かべる。だが、攻撃を紙一重でかわしながら、キラは機体を操作し、その感覚を身に憶えさせていく。

「よしっ」

 唐突にキーボードを引っ張り出し、キラは素早くキーを叩き、OSを書き換えていく。自分の思い描く機動を再構築し、アップロードすると同時にジンハイマニューバがザクウォーリアの上を取り、機体を陰が覆う。

 勢いよく振り下ろされる斬機刀だったが、それは虚空を斬る。パイロットが驚愕した瞬間、ザクウォーリアは距離を取り、ビームトマホークを振り上げて迫る。

「うおおっっ」

 気迫とともに振り薙がれた一撃が斬機刀の刀身ごとボディを切り裂き、ジンハイマニューバが爆発する。

「凄…」

 2機のザクウォーリアの戦闘にルナマリアは思わず呆然と漏らす。その動きはとても精錬されたものだった。そして、ルナマリアの闘志を駆り立てさせる。

「負けてらんないわっ」

 意気揚々にオルトロスを構え、トリガーを引く。ビームの奔流がジンハイマニューバに襲い掛かるが、それを分散して回避し、ビームを浴びせてくる。

「きゃぁぁっ、このったかがジンのくせにっ!」

 振動に呻き、そして微かな悔しさがルナマリアを焦らし、オルトロスを連射するも、その火力故に相手を捉えることができない。火線を掻い潜り、ジンハイマニューバが斬機刀を抜き、肉縛する。

 息を呑んだ瞬間、横合いから放たれたビームがジンハイマニューバの腕を破壊し、弾き飛ばす。続けて放たれたビームが脚部、ボディを撃ち抜き、爆発する。

「何をやっている、ルナマリア。お前は地表で支援に徹しろ」

 嗜めるように平淡な口調で呟き、レイのザクファントムがザクウォーリアの前に立ち、敵機を牽制する。後方支援装備の状態で高機動型の前に出るなど、無謀でしかない。ルナマリアは苛立ち紛れに応じ、後方へと下がっていく。

 刹那の吹雪はマコトのセレスティのガードを務めながらゆっくりと地表へと向かっていた。戦闘要員ではないマコトはメテオブレイカーの設置作業の支援に回り、刹那はそれまでの護衛を買って出ていた。地表まで迫ったとき、アラートが二人のコックピットに響き、ハッと顔を上げると、ジンハイマニューバがビームを乱射しながら襲い掛かり、刹那は吹雪のビームザンパーを振り上げ、シールド形態を展開し、セレスティを庇う。

 シールドにビームが中和され、周囲に霧散する。

「刹那さん!」

「ここは僕が、貴方はメテオブレイカーの方へ!」

 吹雪が一歩も動かず、相手の攻撃を受け止めているのは、セレスティが止まっているからだ。ここに留まっては邪魔になるとマコトは頷き、機体を地表へと向かって加速させた。それを確認したジンハイマニューバが逃すまいと銃口を向ける。だが、刹那はシールドを解除し、機体を加速させ、ビームダガーを取り出し、投擲する。

 ダガーが迫り、ライフルを貫き、爆発にジンハイマニューバが弾かれる。体勢を崩した隙を衝き、左手のショットガンを放ち、ビームの弾丸が吸い込まれるようにジンハイマニューバのボディを撃ち貫き、爆散する。

 その爆発を眼にもくれず、刹那は次の目標を定める。

「これを地球へ落とさせはしない……っ」

 譲れぬ決意を胸に、刹那は吹雪を駆り、斬機刀を振り払うジンハイマニューバに向けて左腕のビームザンパーを振るう。2機が交錯し、離れた瞬間……ジンハイマニューバのボディに大きな一閃が刻まれ、切り口から炎を噴き上げ、ジンハイマニューバは爆散する。

 爆発の炎が頭上で幾つも咲き乱れるなか、マコトはようやく地表に到達し、メテオブレイカーを設置している作業班のゲイツRを発見する。だが、奇襲によって数機が喪われ、数が足りなく、おまけに慣れないのか、作業に戸惑っているようだった。

 そんななか、セレスティに気づいたゲイツRのパイロットがこちらを見やり、見慣れない機種に警戒心を抱き、ライフルを構えようとするが、マコトは慌てて通信回線を開く。

「こちら、戦艦ミネルバの所属の者です。作業支援のため、参りました」

 相手がザフトの周波数と識別で通信を送ってきたため、ゲイツRも警戒を緩め、銃を下ろす。それに安堵し、マコトは機体をメテオブレイカーに取り付かせ、重機を垂直に設置していく。

「急ぎましょう、かなり作業が遅れています」

 その言葉に応じ、ゲイツRも重機を支え、掘削用のドリルの設置場所へ整えていく。

 固定されたメテオブレイカーが垂直に立ち、ゲイツRが掘削機の起動キーを押そうとするが、そこへ銃弾が撃ち込まれ、動きが止まる。ハッと振り向くと、ジンハイマニューバが突撃銃を手に銃弾を放ってきた。

「くっ」

 咄嗟にマコトはセレスティを前に跳び出し、シールドを掲げる。上下に開いたシールドが銃弾を弾く。だが、その衝撃が振動となって機体を揺さぶる。

 呻くなか、別の機体が無反動砲を手に迫る姿が映る。

「あんなものまで……っ!」

 重装備に眼を見開くが、その瞬間、無反動砲から砲弾が発射される。あんなものを受け止めてはシールドが保っても、衝撃で吹き飛ばされる。右手にビームライフルを構えるが、横殴りに放たれたビームの奔流が砲弾を呑み込み、直上で大きな爆発が起こる。

「うわっ」

 閃光に眼を一瞬閉じ、怯むマコトの耳に通信が飛び込む。

「大丈夫!?」

「ルナマリア?」

 そちらを振り向くと、やや離れた地表でオルトロスを構えるザクウォーリアが佇み、バーニアを噴かして傍に着地する。

「ここは私に任せなさいっ」

 ぐっと足腰を据え、安定を得たルナマリアは照準を合わせ、滞空するジンハイマニューバに向けてトリガーを引いた。

 奔流が幾条も放たれ、マコトもセレスティのビームライフルを構え、敵機を牽制するように発射し、ビームの弾幕に遮られ、動きの鈍るなか、作業に集中したゲイツRがメテオブレイカーを起動させる。

「起動確認! 協力感謝する!」

 音を立てて掘削のドリルが地表に潜っていく。だが、これだけではまだ足りない。後数ヶ所埋めなければ、半分に割ることもできない。

「そちらは自分が! 貴方方は急いでください!」

 身を翻し、メテオブレイカーを抱えるゲイツRから奪うように持ち、叫ぶ。

「解かった、スマン!」

 既に作業要員の機体が喪われている現状では、分散するには人数が足りない。ゲイツRは数機でメテオブレイカーを抱え、別の削岩ポイントに向かい、それを確認すると、素早くユニウスΩの地形図を表示し、最適な掘削ポイントを割り出し、メテオブレイカーを抱えて機体を移動させていく。

「移動する、ルナマリア援護を頼む!」

「まっかせなさい!」

 自信満々に応じ、敵機を牽制しながらザクウォーリアが移動し、セレスティとザクウォーリアが別のポイントへと移動していくのであった。

 その移動を視認したジンハイマニューバが狙い撃とうと銃を構え、ビームを連射する。移動中のため、反撃に転じれず、ビームが氷原を融かし、蒸発させる。

 ビームに晒され、マコトとルナマリアが歯噛みするが、そこへザクウォーリアが割り込み、ビーム突撃銃で応射する。ほんの一呼吸の間に放たれたビームがジンハイマニューバのボディを撃ち抜き、吹き飛ばす。

 怯む僚機に向けて突撃し、右手に腰部から取り出したスピアが伸び、長身のロットとなり、先端にビームの鉞が展開される。長身のビームアックスを片手で悠々と振り払い、ボディを両断し、破壊する。

コックピット内でリンは軽く鼻を鳴らす。マッドに頼んで出撃前に突撃銃の予備カートリッジとスラッシュ用のビームアックスをやはり追加させておいて正解だったかもしれない。そんな一瞬の思考を遮るように、ビームの飛来に気づき、操縦桿を引いて機体を捻る。

 リンの動きに強敵と判断したのか、2機のジンハイマニューバが側面からビームを放ちながら突撃してくる。脚部に装備されたスラスターを噴かし、その推進によってザクウォーリアは宙返りで鮮やかに火線をかわし、間髪入れず左手のビーム突撃銃を放った。アクロバティックのような3次元機動に眼を見張り、一瞬動きの止めたジンハイマニューバを精密な射撃で正確に機体を撃ち抜き、破壊する。墜とされたなか、片腕を喪った機体が斬機刀を抜き放つが、そんな一瞬の隙を逃さず、再度引いたトリガーから放たれるビームがボディを射抜き、機体を吹き飛ばした。

 瞬く間にジンハイマニューバを一蹴したその腕に思わず移動中だというのにマコトもルナマリアも見惚れてしまった。

「やっぱ凄い…流石、漆黒の戦乙女ってのは伊達じゃないかも」

 その称賛にはマコトも同感だった。リンと名乗った女性の異名はマコトも聞いた覚えがある。A.W.の最終決戦を最期に姿を消したザフトのエース。あそこまで見せ付けられると、ルナマリアは何か張り合うのも馬鹿馬鹿しく思えてきた。

「何をしているの、急ぎなさい!」

 スピードを落としているのに気づいたのだろう、その叱咤に慌てて目標ポイントまで急ぎ、機体を加速させる。それを見届けると、リンは軽く溜め息を零す。

 だが、それも続けて響いたアラートに掻き消され、その方角を確認すると、離れた場所でメテオブレイカーの設置に当たっていたゲイツR隊に向かってビームが降り注いでいた。

 ダークカラーを施されたダガーLがビームガービンを手にメテオブレイカーを抱えて動きの鈍いゲイツRをいたぶるように狙撃する。

「ちっ!」

 小さく舌打ちする。これ以上破砕部隊がやられても作業が遅れても間に合わない。機体を翻し、素早くビーム突撃銃の連射を浴びせる。ダガーLはシールドで防御し、エレボスは不快気に眉を寄せる。

「ああん?」

 苛立ちながらダガーLはバックパックのストライカーパックに装着されたガンバレルを展開する。4つの兵装ポッドがワイヤーで繋がれながらも不規則な動きでビームを浴びせてくる。

「ガンバレル…けど、私には通じないっ」

 空間認識能力を必要とする特殊兵装。だが、この装備は愚か、ザフトのドラグーンシステムすら扱ったことのあるリンにしてみれば、対処するのは難しくない。ガンバレルの不規則な動きをレーダーではなく、モニター越しの視線で追い、眼のなかで瞳が縦横無尽に動き、その動きを見切る。四方から放たれるビームをかわし、その動きから瞬時に次弾の発射タイミングと軌道を予測し、トリガーを引く。

 2基のガンバレルが撃ち落とされ、エレボスが一瞬硬直する。爆発を掻い潜り、懐に肉縛するザクウォーリアがビームアックスを振り上げ、ハッと我に返ったエレボスが機体を逸らすも、僅かに遅く、斬撃がシールドを切り裂き、反射的に離す。

 割れるシールドの隙間目掛けて、ダガーLはイーゲルシュテルンを放つが、そんな弾丸でどうにかなる訳でもなく、弾丸を弾きながらザクウォーリアは拳を突き衝いた。

 頭部が殴打され、鉄の激突音とともに装甲が僅かにひしゃげる。ゴーグルカメラに微かに亀裂が走り、映像が一瞬ブレる。大きく背後に吹っ飛ばされたエレボスは振動に呻きながら、貌が憤怒に染まる。

「てんめぇぇぇぇっ!!」

 怒りに駆り立てられ、ダガーLは残りの2基のガンバレルでザクウォーリアを狙う。

「しつこい…っ」

 いつまでも時間を掛けていられない。こちらは時間が惜しい。相手がどんな思惑にせよ、この戦闘に介入するのは無意味のはずだ。相手の思考が読み切れず、毒づく。

 ムキになったように喰らいつくダガーLが矢継ぎ早に連射を浴びせてくるが、機体バーニアをフルに活用し、曲芸のようにかわし、スパイクシールドで受け止めると同時にビームトマホークを抜き放ち、投擲する。

 回転するビームの刃が直線に並んでいたガンバレルを両断し、破壊する。

「何だこいつ……強いっ!」

 まるで歯牙にもかけられていないようにこちらの攻撃をかわし、逆に追い込んでくるザクウォーリアの不気味さにエレボスは呻いた。

 ダガーLを一蹴したリンはすぐさま破砕部隊の援護に戻り、ジンハイマニューバに向かって行く。

 キラもまた的確な射撃で一機一機確実にジンハイマニューバを行動不能、撃破していた。機体の爆発がメットのバイザー越しに照り映え、キラの表情が苦悶に歪む。

 やはり、この感覚だけはどうにも慣れない。だが、そんな憂鬱な迷いさえ赦されず、別方向から接近する反応に気づき、モニターに視線を走らせる。

 表示には、『UNKOWNO』と刻まれ、データ未登録機が現われる。例の強奪犯が所有する謎のMSだ。すぐさま振り向き、臨戦態勢に移るなか、モニターには蒼穹のカラーリングを施されたセカンドシリーズ、いや…かつて自身が駆った連合のG系統の流れを組むであろう機体が真っ直ぐに向かってきた。

「あの機体…!?」

 アーモリー・ワン、そしてデブリ帯で確認したストライクに通じる能力を有する機体:ストライクEが両手のビームライフルを斉射し、ザクウォーリアを狙う。

「くっ」

 密度の高い射撃速度にキラはシールドで防ぎ、そして身を翻して回避する。射線を外すとともにビーム突撃銃を連射するが、ストライクEはエールストライカーのスラスターを駆使し、ビームをかわし、機体を加速させる。

 キラのまた機体を加速させ、互いの距離を縮めながらビームを撃ち合う。肉縛しながら互いを掠めるビーム。距離を取ると同時に反転し、再度急接近した瞬間、トリガーを引いた。互いの一射が頭部を掠め、キラとカズイは歯噛みする。

 視線が絡んだと思われた瞬間、カズイはビームライフルを捨て、両手にバックパックからビームサーベルを抜き、キラもまた突撃銃を腰部にマウントし。肩からビームトマホークを抜き放ち、飛び出す。

 両手のビームサーベルが上段から斬り下ろし、ビームトマホークが振り薙がれる。甲高い鉄の切り裂く音が機体を伝って振動する。距離を取った瞬間、ザクウォーリアのボディとストライクEのボディにはそれぞれ一閃が刻まれていた。

 衝撃がコックピットを走り、カズイは呻き、視線が冷たく歪む。

「うわぁぁぁぁっ」

 絶叫し、ストライクEを反転させ、両手のアンカーランチャーを発射する。咄嗟のことに反応が遅れたキラはザクウォーリアのボディをワイヤーで絡められ、両腕を拘束される。ストライクEがそのアンカーを両手で掴み、それを加速させながら回転させていく。そのパワーを発揮し、ザクウォーリアを振り回し、その遠心力がコックピットにGとして掛かり、キラの身体を圧迫する。

 歯噛みし、呻くキラだったが、上方より放たれたビームがワイヤーを正確に貫き、突如切り離された両機はそのまま逆方向に吹き飛ぶ。

 バーニアとスラスターを駆使し、回転していたボディを止めるカズイの眼に飛来する純白のザクファントムが映る。

 モニター越しに睨むレイの瞳が鋭く細まった瞬間、ザクファントムはビーム突撃銃を放ち、ストライクEを翻弄する。逃すまいとバックパックの誘導ミサイルを発射し、十数発のミサイルが弧を描きながら真っ直ぐにストライクEに着弾し、爆発が機体を吹き飛ばす。

 爆煙から弾かれるストライクEを見据えながら、レイはワイヤーから抜け出したキラを冷ややかに見やる。

「その程度なのか?」

 聞こえてもいない相手に冷淡な声で皮肉るように呟き、レイは蔑むように鼻を鳴らす。

 まるで存在を無視するようにレイはザクファントムを加速させ、離れていった。





 破砕部隊の直衛に入るなか、シン、ステラ、セスの3人もまたアビス、ガイアの2機に向かっていた。

 その宙域に到達した瞬間、アビスが両肩を開き、メテオブレイカーごとゲイツRを狙おうとする光景が飛び込む。

「くっ」

 先行するシンは歯噛みし、アビスの注意を引かせるためにビームライフルで狙撃する。

 その攻撃に気づいたステュクスは肩を向け、ビームを防ぐ。

「フフフ、本命のお出ましですか」

 愉しげに嘲笑し、機体を翻す。

「今日こそ、僕が地獄へと釣り上げてさしあげましょう!」

 高らかに哄笑し、アビスは両肩の3連装ビーム砲を斉射する。6条の閃光が襲い掛かるなか、シン達は瞬時に分散し、攻撃を回避する。

「はぁぁぁっ」

 飛び出したセスが咆哮し、ザクウォーリアがビームアックスを振り上げてアビスに襲い掛かる。アビスもまたビームランスを突き上げ、互いの刃が激突し、エネルギーをスパークさせる。

 干渉波が反発し合い、2機を弾くように吹き飛ばす。セスは両肩のガトリング砲を乱射する。ビーム弾が襲い掛かるが、アビスは両肩を前面に突き出し、ビーム弾を防御する。

 着弾の爆発がアビスを爆煙に包む。一瞬、攻撃を緩めるが…次の瞬間、爆煙を裂き、強大なビームの奔流が襲い掛かり、セスは後退して回避する。

「セス!」

 インパルスが飛び込み、ビームライフルでアビスを狙うが、ステュクスもまた不規則な機動で回避してみせる。

「くそっ、こいつら…!?」

 あまりに変幻的な機動にシンは戸惑う。こんな動きは少なくともナチュラルでは不可能だ。それが余計に混乱を誘う。交錯しながら撃ち合うインパルスとアビス。

 胸部のカリドゥスを放ちながら掠めさせ、インパルスはビームライフルで応戦する。掠める熱量が装甲を焦がし、歯噛みする。

 アビスはビームランスを突き立てて加速し、突進する。一気に懐に飛び込まれ、ランスを連撃で突かれ、シンは必死に機体を回避させる。頭部、ボディを紙一重で掠め、追い込まれていく。

「ほらほら、どうしました!? 先の戦いはマグレですかぁ!」

 愉悦を浮かべながら渾身の一撃を突き放ち、シンは反射的にシールドを掲げるが、ビーム刃がシールドの上部を突き抜け、肩の装甲を掠め、抉る。

 振動が機体を揺さぶった瞬間、アビスの背後に現われる影にステュクスの貌が強張る。

 ザクウォーリアがビームアックスを振り払い、ロッド部に弾かれ、アビスは吹き飛ばされる。

 弾くと同時にザクウォーリアは飛び、ビーム突撃銃で狙撃する。吹き飛ばされていたアビスだったが、ステュクスは背部のビーム砲を発射し、その反動で相手の射線をかわし、ユニウスΩの地表の崩れたビルの上に着地し、瓦礫を撒き散らす。

 身を振り被り、アビスの全火器をフルバーストし、圧倒的な火力がインパルスとザクウォーリアを掠める。シンとセスは互いに頷き合い、インパルスが飛び出し、ビームライフルで応射する。

 空中でぶつかり合うビームが相殺し、掻き消される。閃光が両者の間に満ちるが、ステュクスは冷静に見極め、口元を軽く歪め、身を構えた。そして、閃光から飛び出すインパルスがビームサーベルを斬り払うが、アビスは肩で受け止め、強引に後方へと弾き飛ばす。

「君は囮、本命は……っ」

 すぐさま前方へと眼を向けた瞬間、微かな間を空けて飛び出してくるザクウォーリアがビームトマホークを投擲する。回転して迫るトマホークを嘲る。

「そんな子供騙しで!」

 ランスを振り被り、トマホークを弾き飛ばす。そして、ザクウォーリアに急接近し、ランスを突く。

 真正面から迫るランスの軌道をセスは視線で追い、眼前で両手を叩きつける。頭部の寸前で止められるビーム刃。ザクウォーリアの両手がランスの柄を押さえ、ギリギリのところで止められた。

「ぐっ、往生際が……っ」

「かかった……っ」

 悪足掻きと力を込めた瞬間、セスはその力の方向を逸らし、柄の軌道をずらす。体勢を崩したアビスの後方からアラートが響き、ハッと見やると、先程後方へ弾いたインパルスがセスの投擲したビームトマホークを構えて迫る。

「うぉぉぉっ」

 シンの気迫と同時に振り下ろされたトマホークに肩の装甲が切り裂かれ、アビスは弾き飛ばされ、ステュクスは苦痛と屈辱に呻いた。

 シンとセスがアビスを相手取る横で、ステラのセイバーはガイアと交戦を繰り広げていた。背部のスラスターを拡げ、機動力でガイアを翻弄するセイバーだったが、ガイアもまたビームウイングを駆使し、相対していた。

 真っ直ぐに向かってくるセイバーの赤い機影にレアの内に増大された敵への憎悪が沸き上がる。

(悪い…奴……ロイの、敵………っ)

 敬愛する上官が示した自分達の敵。あの赤い機体も悪魔だと…レアは眼を見張り、獣のようにセイバーを目指す。

 ガイアがビームライフルを放つと同時にセイバーも撃ち返す。光条が互いの機体を掠め、虚空に呑み込まれる。レアが回避しながら連射するも、ステラも負けじと撃ち返し、幾度となく接近する2機のカメラアイを通し、ステラとレアの視線が交錯する。

 攻撃が当たらない状況にレアは苛立ち、強引に突進する。セイバーもスラスターバーニアを噴かし、攻撃を回転飛行でかわし、2機はいつしかユニウスΩの大地へと降下していく。朽ちた鉄の大地の上に聳える廃墟の上空を飛び、撃ち合う2機のビームが建造物を吹き飛ばし、破片を四散させる。

 レアはレバーを引き、ガイアが破片を弾きながら地表へと急降下し、その最中獣型形態となり、大地を抉りながら急制動をかけ、背部のビーム砲を一斉射する。そのビームに晒され、セイバーは上空へ逃れ、ビーム砲を展開して応射する。

 砲口からエネルギーが迸った瞬間、レアはペダルを踏み、制動をかけていたガイアはその勢いを利用し、大地を蹴って機体を跳びあがらせる。

 そのまま浮遊していた破片へと着地し、再び力強く蹴り、空中で変形し、瞬く間にセイバーの懐に飛び込み、蹴りを突き出す。振り返ったセイバーは腹部に無防備に蹴りを喰らい、振動が激しくコックピットを揺さぶる。

「くぅぅぅ」

 衝撃に身を打ちつけ、呻くステラはそのまま吹き飛ばされ、慣性に流されて勢いを殺すことなく氷原へと仰向けに叩きつけられ、凍った大地を抉り、建造物を吹き飛ばしながら長い溝を刻み込んだ場所で動きを止める。

 ダメージに鈍るセイバー目掛けてトドメを刺そうとガイアが迫る。

「これで終わりね! 赤い悪魔!」

 勝ち誇った歓喜と狂気の笑みを浮かべ、舞い上がるガイア。ビームサーベルを抜いてコックピットを狙った瞬間、硬直していたステラは操縦桿を握り締めた。

「まだ……っ」

 次の瞬間、セイバーはスラスターを噴かし、機体を強引に押し上げ、ガイア目掛けてセイバーが脚部を振り上げる。

 両手で大地に機体を支えて空中回転したセイバーの蹴りに弾き飛ばされるガイア。その衝撃が身体を押しひしぐ。

「なに…っ?」

 相手の行動の奇怪さに戸惑いながら、吹き飛ぶ機体を制御し、空中で静止すると同時にビーム砲を放ち、間髪入れずセイバーもまたビーム砲で応戦する。互いの放ったビームが中央で激突し、眩い閃光が両者を包み込む。

「うわぁぁぁぁっ」

 相手への憤りと憤怒をより滾らせ、レアはガイアを加速させ、セイバーに向かって執拗に襲い掛かる。

 乱雑に放たれるビームがセイバーだけでなく周囲まで容赦なく吹き飛ばしていく。その勢いに圧されたのか、ステラはセイバーを離脱させるが、レアは逃さない。追随するガイアに歯噛みする。

(なに、この感覚……?)

 先程から内に走る感覚にステラは戸惑う。アーモリー・ワンから幾度となく味わったこの釈然としない感覚。ガイアの動きが、ブレるようにステラの瞳に流れていく。

 眼を向けた空間へと飛び込んでくるガイア。ビームサーベルを振り被り、斬り掛かってくる刃をシールドを掲げて受け止め、弾き、蹴りを叩き入れる。

 弾かれたガイアが獣型形態となり、岩塊に着地し、一瞬身を屈め、強く身を弾く。真っ直ぐに襲い掛かるガイアが両翼にビーム刃を走らせ、一直線に飛来する。

 交錯した瞬間、セイバーの左脚が切り飛ばされ、バランスを崩す。

「ぐぅっ」

 機体が揺さぶられ、歯噛みするが、すぐさまパーツをパージし、離脱する。姿勢を立ち戻すなか、ステラの混乱はより深くなる。

 相手のガイアを…いや、ガイアのパイロットを自分は知っているのか、そんな疑問が一瞬過ぎるが、ステラの思考を遮るようにビーム砲とビームライフルで狙撃してくるガイアの攻撃を回避し、氷原を飛行する。

 セイバーとガイア、それを通してステラとレアは視線を絡ませ、飛び交う。

 ユニウスΩの地表のいたるところで炎が咲き乱れる。そして、その氷で覆われた大地は刻一刻と地球へとの降下軌道へのカウントダウンを進むのであった。


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