砲火とともに命の灯が咲き乱れるなか、ユニウスΩよりやや距離を置いた宙域に航行する一隻も艦影があった。

 宇宙の漆黒の闇のなかに溶け込み、まるで亡霊のように静止する艦は全体を薄暗い灰色で覆い、その場で佇んでいる。

 息を殺しているのかと錯覚するほど静寂を保つなか、艦内の一画でモニター越しにその戦闘を見やる人影。金色の髪を靡かせながら、戦闘の程をバイザー越しに見据えるゼロ。

 ユニウスΩ全体を映すなか、数ヶ所に分散して行われている戦闘に加わっているMSが映し出される。

 ジンハイマニューバを正確な射撃と接近戦で退けるザクウォーリア、左手のビームシールドで防御し、複合ライフルを手に応戦する吹雪。アビスとヒットアンドアウェイを繰り広げ、連携で攻めるザクウォーリアとインパルス。

「舞台の流れは変わっていない。それに……」

 微かに視線を動かし、別のウィンドウに表示されるメテオブレイカーを運搬するセレスティとザクウォーリアを見やり、口元を微かに歪める。

「やはり出てきたのね。最後の役者」

 揶揄するように呟いた瞬間、ゼロの後方に人影が立つ。純白の強化スーツにも似たものに身を包む黒髪の青年:アベルが不躾に顎をしゃくる。

「もういいのか?」

 はやるように尋ねるアベルにゼロは苦笑を浮かべ、肩を竦める。

「ええ、そろそろね」

 間もなく、ユニウスΩが周回軌道を超え、重力圏内へと突入する。恐らく、その前にユニウスΩの質量は半分以下にまで落ちるだろうが、舞台はまだそこで終わらない。いや、そこからが本当の舞台が始まるのだ。

「それより、話さなくていいの? せっかくあそこで戦ってるのに?」

 見やりながら含んだ笑みを見せるゼロが癪に障ったのか、舌打ちする。

「そんな必要は無い、あいつは甘さを捨てきれない半端者だ」

「あら、可愛いじゃない。脆くて、儚くて。私はだから好きなんだけどね」

 揚げ足を取るようにクツクツと笑う様子に何を言っても無駄と踏んだのか、だんまりを決め込む。その不可侵の様子に肩を竦める。

「ま、例の連中も思ったよりも足掻いてくれたようね。それだけ、地球に対する憎念が激しいのかしら」

 髪を掻き上げ、嘲笑し、ゼロはゆっくりとアベルの脇をすり抜け、静かに闇へと身を消していく。それを一瞥し、アベルは繋がれたままのモニターに視線を走らせる。

「俺はなんだってやってやるさ」

 自身へ呪縛のように囁き、アベルは踵を返し、瞳の奥に爛々と感情の炎を宿し、闇へと姿を消した。

 灰色の戦艦の艦中央の胴体部に備わった稼動コンテナと思しき部位が動き、船体下部に移動する。下部に備わった区画にゆっくりとドッキングし、下部のハッチが開放され、その先にリニアラインが虚空に展開される。

 ハッチの奥の闇から姿を見せる機影。全身を灰色に近い白で包み、ダークパープルで細部を彩られた機体は背部の翼を模したスラスターを拡げ、ゴーグルフェイスの下のツインアイを紅く輝かせる。

 粒子が満ち、灰色の天使は身を浮かし、リニアラインを走るように打ち出される。電磁レールに導かれ、飛び出す天使に続き、ハッチから幾体もの漆黒の衣に身を包んだ破壊の天使達が飛び立つ。

 赤黒い粒子を噴出し、推進剤の尾を描きながら戦艦より飛び出す機影。そして、その最後に現われる全身をボロの衣で覆った機体。覆われた下に輝く金色と真紅の瞳を不気味に鳴動させ、加速を得ず、自機の推進のみハッチから飛び出す。

 刹那、衣の下から強力な粒子とともに推進力を得て、死神が飛び立つ。

 幾条も赤黒い軌跡を描き、破壊と混沌を齎す天使達が命煌く戦場へと向かうのであった。







 限界高度へと近づくなか、激しい戦闘を掻い潜り、破砕作業は必死に続けられていた。

 ゲイツRがメテオブレイカーを設置し、起動させていく。掘削ドリルが地表へと掘り進み、穴を拡げていく。セレスティもまたメテオブレイカーを設置し、起動させては次の破砕ポイントへ運搬を行っていた。

 道中、テロリストの邪魔はあったものの、護衛に就いてくれたルナマリアのおかげでなんとかかわし、また他の迎撃隊も奮戦しているのか、最初に比べて攻撃も緩んでいた。

《メテオブレイカー4番、6番起動!》

 すぐ傍で稼動するメテオブレイカーを見やり、マコトは配置図を表示し、確認する。予定されていたポイントの内、無事設置できた箇所が赤く表示され、そして空白の白のままの箇所を分析し、残りのメテオブレイカーで行える最適な配置を割り出し、そこへ抱えるメテオブレイカーを運搬し、マコトはその巨体を持ち上げ、地表に立てかける。

「よし……っ」

 気が緩んだ一瞬、上空からビームが撃ち込まれ、周囲を砕きながら機体を振動させ、歯噛みする。

「このっ!」

 ルナマリアがオルトロスを構えて砲撃し、攻撃してくるジンハイマニューバを迎撃する。

「マコト! 急いで!」

 焦りか、それとも敵の攻撃故か、硬い声にマコトも頷き、必死に作業を進めていくが、それを阻止せんとジンハイマニューバ数機がウイングを拡げ、突進した。

「やらせないわよっ」

 オルトロスを連射し、火線の密度が上がり、突貫してきたジンハイマニューバ一体のボディを吹き飛ばし、もう一体の片腕を吹き飛ばすが、相手は怯まない。

 コックピットで男は狂気に彩られた眼をギラギラと燃やし、操縦桿を引く。スラスターが最大出力で放射され、最高速に乗る。

「まだくるのっ?」

 既に半壊といっていい状態にも関わらず突貫してくるジンハイマニューバにルナマリアは唇を噛み、砲撃を収束する。隙間なく放たれる火線に億しもせず、ただひたすら真っ直ぐに突進した結果、機体をビームに捥がれ、ルナマリアのほんの手前で遂に限界を超えた機体が爆発する。

 煙が2機を覆うなか、四散した破片が、飛び散り機体に当たる。背後にいたセレスティにジンハイマニューバの頭部が当たり、マコトは息を呑む。

「な、なんなのよ…こいつらっ」

 自殺紛いの突貫にさしものルナマリアも恐怖に引き攣らせたように歪ませる。死さえも恐れていない相手の行動に茫然となり、思わず作業の手が止まる。

 どれ程硬直していたのか、通信から聞こえてきた叱咤にハッと我に返った。

「何をしている、作業を急げ!」

 いつの間にか、現われたレイが叫び、マコトは慌ててメテオブレイカーの作業に戻るが、ルナマリは未だ硬直が解けていない浮かない表情のまま、その作業を見守った。

 既に大方のテロリストのジンハイマニューバを葬り、作業も進んでいた。リンもまたビームアックスを振り上げ、一体を真っ二つに切り裂き、爆散させた。

 閃光をモニター越しに見やりながら、周囲を確認する。ここら一帯は片付けた。あとはどれだけ作業が間に合うかだが、その時…コックピットに響いたアラートに顔をそちらに向ける。

「まだいたのか…っ」

 舌打ちするように毒づく先にはジンハイマニューバが斬機刀を抜いて加速してくる。ビームアックスを構え、リンは機体を加速させる。

 相手が振り被ったと同時に薙ぎ払い、鋼鉄の激突音とともに振動が機体を揺らす。

「やらせん、やらせはせんぞぉぉぉ!!」

 唐突に通信から響いてきた声にリンは微かに息を呑む。

「貴様らのように惰弱な輩となったザフトごときに、我らが想い、やらせはせんっ!」

(この声……)

 通信機から一方的に聞こえてくる声。恐らく相手も通信回線を開いた意識などないのだろう。ザフト系列同士の機体が今の衝撃で接触回線が偶然開かれたのだろう。そして、その声の主に、リンは記憶のなかにあった該当者が浮かんだ。

「悪いけど…あんたの歪んだ想い、やらせてやるわけにはいかないのよ……元ザフト本土防衛隊所属、サトー遊撃隊長!」

 リンの叫びに相手も一瞬、動きを止め…リンはその隙を衝き、強引に斬機刀ごと相手を弾き飛ばした。

 回転させたビームアックスを構え、距離を取る。

「第2次ヤキン・ドゥーエ戦終結後に突如戦線離脱、戦後行方不明と聞いていたけど、やはり生きていたか」

「その声、貴様…漆黒の戦乙女か!?」

「本土で何度か顔を合わせたことがあったな、もっとも話をしたのは今回が初めてだけど」

 相手からの驚愕と怒りの声にフッと肩を竦める。

 かつて、リンがまだザフトに属していた頃、確かクルーゼ隊に転属になる前のことだ。特務隊へ配属となり、本土での防衛任務に就いていた頃、本土守備隊の面々と幾度か模擬戦を行った。そのなかであった一人が、当時の防衛遊撃隊の任に就いていたサトーだった。

「まさかこんな大それた真似をしでかすとはね」

「黙れ! ザフトを、我らが同胞を裏切った卑しい裏切り者が!」

 罵倒に対し、リンは冷ややかに鼻を鳴らす。

「否定はしない、だけど…貴様に言われる筋合いもない!」

 両肩のハッチを開放し、ミサイルを一斉射する。数十発のミサイルが弧を描き、ジンハイマニューバに降り掛かるが、サトーは気迫を振り上げ、ビームライフルを乱射し、ミサイルを撃ち落としていく。

 爆発の華が咲き乱れ、周囲を包み、その閃光を切り裂いて迫るザクウォーリアがビームアックスを振り上げ、サトーはシールドを掲げて受け止めた。

「昔話も恨み言もどうでもいいわ、訊きたいことがあるわね、ユニウスΩを移動させた手段……何処で調達した?」

 リンが一番気に掛かっていたのはその事実。ユニウスΩというコロニークラスの質量を移動させるとなると、手段は限られてくるが、その手段をこのサトー達が元々保有していたとは思えない。もしそうなら、もっと早い段階で動いていただろう。時間が経てば経つほど不利なのは組織的なバックのないテロリスト側の方が不利なのは明白。なら答は簡単、何処からか略奪したか…あるいは、誰かがそれを齎したかだ。

「貴様にそのような事を話す舌など持たんわ!」

 問答無用とばかりに吼え、シールドで弾き、斬機刀を突き放つが、リンは機体を傾けて切っ先をかわし、再度ビームアックスを振り払う。

 薙がれた一撃がシールドに突き刺さり、熱が表面を融かす。

「我らが行うは真理よ! 我らこそ、忘れ去られた死者達の代弁者であり、真のザフトの正義を行使する者! 貴様如き下らぬ理想に降った偽善者に何が解かる!」

 衝撃と熱に融解するシールドを強引に弾き、ザクウォーリアを吹き飛ばすが、弾かれたザクウォーリアはバーニアを噴かし、機体を宙返りさせ、下方から蹴りを叩き上げた。

「ぐぉぉぉっ」

 衝撃に身体を打ちつけ、呻くサトーにリンは嘲笑する。

「はっ、それがこの大それた真似の理由? くだらない!」

「我らが想い、愚弄するか、小娘!」

 憤怒に染まった形相でサトーは吼え、機体を強引に戻し、斬機刀を抜いて突進する。ザクウォーリアがシールドを掲げ、受け止める。

「滑稽ね、何が想いよ。ただの自己満足に酔い痴れているだけの狂信者が!」

 シールドを弾き、引いた拳を強く叩き入れ、ジンハイマニューバのボディを殴り飛ばす。

「死者の代弁? それがどうした、死者は何も語らない、何も思わない、何も願えない…貴様らはそれを勝手に自己解釈し、自分達の行動を正当しているだけに過ぎない! そんなガキみたいな理屈、解かってたまるものか!」

 弾いたジンハイマニューバに追い討ちをかけ、再び脚部を振り上げ、そのボディを弾き飛ばす。

 死者は何があっても死者だ。死者はもはや何も望めない…何も、解からない。死者を悼む心を否定はしない。だが、それを己の都合のいいように解釈し、己の行動の正当性を説くなど、議論にも値しない。

「貴様に何が解かる!? 我らのこの悔しさが!」

「解かってもらいたいの、私に? ハッ、それが本音でしょうがっ」

 一蹴し、ビームアックスを振り上げ、ジンハイマニューバに斬り掛かる。振り上げたライフルを切り落とし、振り払ったロッドで弾き飛ばす。

「なら自分の意志で語れ! 死者を引き合いに出すな!」

 所詮、こいつらは今の世界に納得できていないだけ。無論、全ての者が望む世界など決してありはしない。どこかしらに歪みがあり、理不尽がある。だが、眼の前の男達はそれを受け入れることも諦めることも、克服することもできない。

「あんた達はただ解かってもらいたいだけでしょう! この世界に…自分達のその歪んだ思いを!」

 彼らが望むのはそれだけ。自分自身に注意を引かせたいだけのただの子供の理屈だ。そこに死者を、ユニウスΩという理由を持ち上げているだけに過ぎない。だからといって、それをまかり通す訳にはいかない。

「所詮、貴様と我らは価値観が違う! こんな欺瞞に満ちた世界に浸かる貴様とはな!」

 話す舌はもはや持たないといった口調にリンは冷たく一蹴する。

「お生憎、私もあんた達とは違う! だけど、自分で選んだ現在をわざわざ壊すつもりもないっ!」

 リンとてこの世界で多くのものを喪い、そして憎悪した。だが、それを含めて今の世界を選んだ。選んでしまったのだ…その責任は負う。自分達の選んだ選択を否定するつもりもなければ、溺れるつもりもない。

 だからこそ、この鎖に囚われた者達は自分が止める。たとえ、それがどんなに卑しいことだとしても。過去の亡霊を始末するのは同じ業に縛られし者の運命。

 ザクウォーリアとジンハイマニューバが獲物を手に激しい交錯を繰り返すなか、周囲では徐々に作業が収束し始めていた。

 ユニウスΩの地上に降り立ち、作業を懸命に続行していたゲイツR隊が数基のメテオブレイカーの起動に成功していた。勢いよく地表に吸い込まれていく掘削ドリルを見送り、パイロットが歓声を上げる。 やがて、地中深くで本体が爆発し、鳴動が起こり、凍てついた大地が激しく震動し、亀裂がその地表を縦横に走る。

 サトーのジンハイマニューバを振り切ったリーラは作業班と合流し、進行を指示しながらユニウスΩの状況を逐一収集し、解析していた。

《副隊長、1号機及び3号機の爆発を確認!》

「了解、地表に変化は?」

《……ありません》

 落胆する部下の声にリーラも面持ちを苦くする。彼女は期待を込めてユニウスΩを確認していたが、鳴動はすぐに収まり、亀裂の入った大地は再び沈黙する。

「リーラ、ダメだ! まだ足りてねえ!」

 焦るディアッカにリーラも同じ気持ちだった。やはり、対象の質量が巨大すぎる。この巨大なコロニーの片割れは、一基や二基程度のメテオブレイカーでどうにかなるものではない。

「作業は続行! 生き残っている機体は集結し、作業の支援を!」

 気を取り直し、リーラは素早く指示を飛ばし、ディアッカ、ラスティと共に作業班の支援へと回る。

だが、作業を継続するゲイツR隊にジンハイマニューバが襲い掛かる。

「しつこいっての!」

 ミネルバからの援軍でどうにか態勢を持ち直し、相手の数もかなり減らしたが、それでもテロリスト側は撤退すらせず抵抗してくる。

 ラスティのザクウォーリアがビーム突撃銃を拡散させ、ジンハイマニューバの体勢を崩す。

「ええい!」

 その隙を衝き、ディアッカのザクウォーリアがオルトロスを砲撃し、強烈なビームが機体を灼く。

 爆発を見届けながら、3人はそれぞれの方角で防衛に徹する。そこへ、上空で敵機を迎撃していたイザークが降下してきた。

「急げ! モタモタしてたら割れても間に合わんぞ!!」

 その叱咤に発破をかけられ、ゲイツR隊はきびきびと作業を進行し、それを確認し、リーラは周囲の状況を注意深く索敵し、レーダーが離れた位置にある熱源を捉えた。

「っ!?」

 ハッと見上げた先、上空で四散するデブリで巨大な狙撃銃を構えるジンハイマニューバに気づいた。銃口を向ける先には、一人奮戦するイザークの機体がある。デブリに身を隠しているため、イザークは気づいていない。

「イザーク…!」

 通信で呼び掛けるには間に合わない。反射的に素早く身を翻し、リーラはオルトロスの砲口をデブリに向けると同時にトリガーを引いた。

 解き放たれるビームの一射がデブリを捉え、足場にしていたものを喪い、ジンハイマニューバが吹き飛ぶ。デブリに身を浴びながら吹き飛ぶ機影に気づいたイザークが振り向き様にガトリング砲を放ち、機体を粉々に撃ち砕いた。

 レイのザクファントムが両手でビーム突撃銃を構え、ストライクEに斉射する。エールの機動性を駆使し、その狙撃をかわすも、正確な精度にカズイは歯噛みする。その後方からキラのザクウォーリアが迫り、ハッと振り返った瞬間、ビームライフルの砲身を切り落とされ、素早く捨て、腰部からハンドガンを抜き、至近距離で発射する。

 歯噛みして機体を後退させるキラの後方では、アビスのフルバーストが火を噴き、インパルスとセスのザクウォーリアが分散して回避する。

 ビームランスを振り被り、インパルスを突き突くが、それをかわし、後方へと逸れるアビスに向かってザクウォーリアがガトリング砲を斉射し、アビスが肩でガードする。

 片脚を喪ったセイバーはガイアからの砲撃をかろうじてかわしつつ、距離を取っていた。追撃するガイアをかわし、デブリを盾に身を隠し、ガイアの砲撃がデブリを吹き飛ばす。四散する破片に紛れ、セイバーはビームライフルを放ち、ガイアはシールドで防ぐが吹き飛ぶ。

 刹那の吹雪は地表付近で支援に回り、ショットガンを周囲に散弾させ、ジンハイマニューバを牽制し、体勢の崩した隙を衝き、ビームブレードでボディを一閃し、破壊する。

 そして、炎を一瞥し、刹那は焦れる思いで作業を行うセレスティを見やる。急がなければ、限界高度に入ってしまう。このままでは、この質量全てが落ちかねない。そんな刹那の不安の先では、セレスティがメテオブレイカーを設置し、起動させた。

 他のメテオブレイカーも起動し、掘削ドリルが地中に打ち込まれ、コロニーの鉄板を抉りながら潜行し、深く身を沈めていく。それらがやがて目標地点に到達し、爆発する。

 互いに交錯し、幾条も刃を、光弾を交わす彼らの眼下で、大地が衝撃に揺れた。

 今まで以上に一際大きな震動が凍った大地を包み、亀裂が大きく拡がっていく。その光景に戦闘を繰り広げていた者達の注意が一瞬逸れる。亀裂はみるみるうちに拡がり、大地を侵食していく。地表が隆起するように断裂し、亀裂が拡がり、その先に同じ星空が覗いた。その光景をリンと戦闘を中断し、離脱したサトーは残存軍と合流し、唖然と見詰めていた。

「グレイト! やったぜ!」

 二つに割れたユニウスΩにディアッカはいつもの調子でガッツポーズを決め、通信回線を通して作業班の歓声が響く。

 ラスティやリーラもどこか安堵した面持ちを浮かべ、イザークも微かに頬を緩める。

 ユニウスΩはほぼ真っ二つに裂け、僅かに遊離しながら漂っていく。反動で撒き散らされた岩塊が周囲に四散し、戦闘は一時中断された。

 両者とも回避と状況把握に専念し、それは母艦たるミネルバやガーティ・ルーも同様であった。

 タリアはどこか硬い面持ちで見詰め、雫は微かに息を呑み、ラクスは哀しげに瞳を揺らし、手を組む。デュランダルは黙祷するように黙礼した。

 ガーティ・ルーの艦橋ではモニター越しに起こった光景にエヴァはどこか安堵と憂鬱さが入り混じったように溜め息を零し、制帽で目線を隠し、ロイはなにかを思案するようにサングラスの奥に視線を隠し、喉を潤すように唾を呑み込んだ。

 割れたユニウスΩの質量の内、約半分は遊離しながらその反動で落下軌道から外れていくが、逆にもう半分はその衝撃で僅かばかり押されたのか、微速で進路を変更しないまま突き進んでいく。

 一仕事憶えたような達成感に多くの者が浸るなか、リンは冷静に状況を分析し、機体を加速させた。

 キラもまたそれに応じ、機体を未だ加速していくユニウスΩに降下させた。

「まだまだよ、まだ半分以下にまでしか軽減できていない」

 突如通信回線を通して聞こえてきた声に損耗の大きい部下のゲイツR隊を下がらせ、メテオブレイカーを受け取って作業を継続していたイザーク達は一瞬、耳をそばたてる。気づくと、視界に端に2体のザクウォーリアが横切るのが映る。

「もっと細かく砕かないと、地上への被害は軽減できない」

 声の主の判断は正しい。半分に割れたとはいえ、ユニウスΩの直径は10キロにも及ぶ。それだけでも未だ地上への脅威としては充分だった。

 だが、彼らが驚いたのはそんな事ではない。その声に…本来なら、ここに居るはずがないであろう人物の声であったからだ。

「え?…リン、さん……!?」

 リーラが眼を丸くし、久方ぶりに呼ぶかつての仲間の名を驚きを込めて口にし、それと同時に続けて響いた声に一同はさらに頭のなかを混乱させられた。

「急がないと、もう後少しで限界高度に到達するよ!」

 その声は、彼らも普段から聞き慣れていた声だったが、先の人物よりももっと意外な相手だったことが、さらに驚きを誘った。

「なっ!? お前、キラか!?」

「マジかよ!?」

 ディアッカにラスティが互いに顔を見合わせるように驚きの声を上げた。

「貴様らっ…こんなところで何をやっている!?」

 まったく以って予想だにしていなかった者達の登場に、その場にいた者達の心情を代弁するようにイザークは思わず喧嘩腰に声を荒げた。

 リンとキラ……その声は間違いなく、かつての戦友だった者のものだった。キラは最初、敵として…リンは部隊の同僚として戦い、あの大戦を共に戦い、そして生き延びた。だが、自分達と違い、キラは戦後、軍から離れ、クライン外務次官秘書として活動し、リンもまた裏世界に身を投じたと聞いていたが、何故彼らがこんな場所へ、しかもさも当然のようにザフトのMSに乗って現われたのか、次々と沸き上がる疑念だったが、それをリンは事も無しにスルーした。

「そんなことはどうでもいいでしょう、今は作業に集中しなさい! 説明ならあとでしてあげるわ」

 かつて…まだイザーク達が同じ部隊でいた頃の副官口調で、しかもイザークの神経をどこか逆撫でる冷静な声に、全員の思考がハッと現実に戻る。

「あ、はい!」

「「あ、ああ!」」

 思わず以前と同じ調子で応じる一同にイザークも憮然と怒鳴り返す。

「解かっている!」

 最後に別れてから既に2年という時が経過しているが、やはりどれだけ経とうともイザークにとってはアスランと同じくいけ好かない相手であることは変わりない。いきなり唐突に現われて、何の説明もなしに指示がましい口を利き、いいところを掠め取っていくあたり、まるで何も変わっていない。

 だが、それにどこか安堵している自分も否定できなかったのか、口元が微かに緩む。他の面々も最初は戸惑っていたが、やがて懐かしい再会に緊急時だというのに笑みが浮かぶ。

 メテオブレイカーを運搬するディアッカとラスティのザクウォーリアの周囲を飛ぶイザークとリーラのザクファントムと並行するように合流するリンとキラのザクウォーリア。

 6機のザクが飛行するなか、リンの苦笑が通信から響く。

「相変わらずね、あんた達……少しは変わったかと思ったけど」

 苦笑混じりに呟かれた台詞まで横取りされ、イザークは思わずムッとする。

「貴様もだ!」

 2年前のかつてザラ隊の頃に噛み付いていた時と同じように怒鳴るイザークにリーラは微笑を浮かべ、ディアッカは首を曲げながらもかつて繰り広げられていた光景を思い出していた。

「フフフ」

「やれやれ……アスランと同じ調子でいちいち喰って掛かるなよ」

 唯一違うのはアスランもイザークと同じように怒鳴り返すのであれば、リンは常に手玉に取っている感じだが、単に扱い慣れているだけかもしれないが。

「でも、なんでキラまで一緒なん? だいたい、クライン外務次官の秘書官殿がそんなMSに乗っているなんていろいろマズイんじゃないっしょ?」

 思わず問い返すが、キラは苦笑を浮かべる

「いろいろあってね、それもこれが無事終わったら話すよ」

 こっちも取り付くしまもないとばかりに笑顔で拒否され、その勝手振りにイザークも怒鳴り返す気も失せたのか、憮然としたままだ。

「なんか、2年前を思い出しちゃいますね」

 その雰囲気に触発されたのか、リーラがポツリと漏らす。場所こそ違えど、ユニウスセブンを舞台に落下阻止、そしてその面々もまたかつてと同じとなると、運命じみたものを感じてしまう。

 こんな状況でなければ、ゆっくりと会話でも交わしたい。キラはともかくリンに至ってはこの2年の間、まったく音信不通だったのだから。

そんなリーラにリンは肩を竦める。

「リーラも相変わらずね、戦場にロマンチズムを求めるなんて」

「そうですか?」

「実際はもっと殺伐したものだしね」

 リンの言葉に呼応するように進路前方からデブリの陰から飛び出してくるジンハイマニューバに気づき、全員の表情が一気に引き締まる。

 何の会話もなく、イザークとリンの機体が突出し、すれ違い様にリンが敵のビームライフルを撃ち抜き、すかさず回り込んだイザークの振るったビームアックスの一撃でシールドごと左腕を切り飛ばす。体勢の崩した隙を衝き、リーラがオルトロスを砲撃し、ボディを撃ち抜く。

 爆発が轟くなか、もう一機が仲間の仇を討とうと迫るが、ラスティがミサイルを発射し、ジンハイマニューバを怯ませ、横合いに回り込んだキラがビームトマホークを一閃し、上半身を両断する。

 残った最後の一機が特攻紛いにビームを乱射しながら迫るが、イザークは両肩のガトリング砲を連射し、弾幕を避けて飛んだジンハイマニューバはリンのビームによって頭部と火器を奪われ、そこへ待ち構えていたディアッカのオルトロスに機体を貫かれて爆散する。周囲に四散するジンハイマニューバの残骸、ほんの一瞬の出来事だった。恐らく、相手のパイロットも何が起こったのか判別できなかったかもしれない。それ程までに、6機の連携はごく自然だった。知らず知らずの内に感覚が2年前のそれに戻りつつあるかのような錯覚が一瞬、イザークを襲う。無意識に口元に軽く笑みが浮かび上がっていたのを慌てて引き締める。

「急ぐわよ、前衛は私とイザーク、キラで。リーラ、バックアップをお願いね、ディアッカとラスティはメテオブレイカーをしっかり護りなさい」

 それだけ告げると、リンは先陣を切り、他の面々も極自然のようにそれに応じてフォーメーションを取る。その光景が、2年前のあの瞬間に重なる。

「ちっ」

 軽く自身を嗜めるように舌打ちする。リン=システィという女はやはり頭にくる。ここにアスランやニコルも勢揃いしていたら、もはや恐いもの知らずであっただろう。そんな驕りでもなく確信にも似た自信がある。それは、イザーク自身が戦場で信頼できる数少ない相手だからかもしれない。

「イザーク、遅れてるわよ」

「解かっているわ!」

 思わず怒鳴り返し、イザークも慌てて機体を加速させ、6機は再び目標破砕ポイントの座標に向かって急ぐ。

 その様子を頭上で破片を避けていたステュクスが気づいた。モニターに映し出される6機の姿に、愉悦を浮かべる。

「この期に及んで何を?」

 地表に向かって降下し、それに気づいたシンが慌てて追随する。

「シン…っ、くっ!」

 岩塊に遮られ、セスは後退する。その間にもアビスはザクに迫り、胸部と肩のビーム砲を一斉射し、太い熱線が氷原を融かし、その攻撃に呼応するようにバッと跳び、数機が左右に展開する。

「イザーク! 左!」

 叫ぶと同時にリンは機体を加速させ、間髪入れずイザークは怒鳴り返した。

「うるさいっ!」

 リンのザクウォーリアがアビスの攻撃を流麗に回避し、ステュクスは眼を見開く。

「僕の攻撃を…っ!?」

 完全に見切られている事態に慄くステュクスに向け、リンはビームの連射を浴びせかけ、慌ててシールドで防御するが、それは囮だった。そのままアビスを過ぎった一瞬、ステュクスの注意が逸れ、その隙を衝き、アビスの背後にイザークのザクファントムが回り込んだ。

「今は俺が隊長だ! 命令するな! 民間人がぁぁっ!」

 さっきから命令じみた指示を飛ばすリンにイザーク自身憤慨していた。何故、今更同じ部隊でもないリンに自分がそもそも従わねばならないのか。おまけにリーラ以下もさも当然のように行動していることが気に喰わなかったが、イザークは怒鳴り返しながらもビームアックスを一閃させ、防御に引き上げたアビスのビームランスの柄を真っ二つに叩き斬る。機を逸さず飛び込んできたリンのザクウォーリアがビームアックスを煌かせ、すれ違い様にアビスの左脚を斬り飛ばす。

「くぅぅっ!」

 息つく間もない一瞬の間に戦闘不能に追い込まれたアビスにトドメとばかりにリーラがオルトロスを構え、スコープで覗く。

「戦場で動きを止めたら、危ないよ」

 相手を嗜めるように呟き、トリガーを引く。砲撃されたビームがアビスの装甲を抉り、吹き飛ばされる。

「がぁぁぁっっ!」

 端正な顔を苦痛と屈辱に歪め、呻くステュクスにカズイが眼を見開く。

「ローランド少尉!?」

 アビスの危機にストライクEが加勢に駆けつけるも、そこへキラがビーム突撃銃を手に突入していく。

 キッと見据えるキラは正確な射撃でストライクEを翻弄し、カズイは苛立ち、両手にハンドガンを構えて応射するが、キラはそれを見越したように回避し、追おうとした瞬間、眼前に青い影が飛び込んでくる。

 注意をキラに集中させられた隙を衝き、イザークはビームアックスを振り被り、肉縛した間合いで勢いよく振り下ろし、ストライクEの左腕を斬り飛ばす。

 たじろぎ、後退しながら相手への憤怒に燃え、至近距離でハンドガンを振り上げるが、それを予測していたのか、リンのザクウォーリアがビームトマホークを投擲し、ストライクEの右腕を切り落とした。

 瞬く間にアビスとストライクEを戦闘不能に追い込んだその戦闘技能に追撃していたシンは思わず見惚れてしまった。

(凄い、あれが…本物のエースの力かよ)

 偶然通信から聞こえた彼らのやり取り。まるで喧嘩するような言い合いだったにも関わらず、彼らは一糸乱れぬ見事な連携で敵を一蹴した。それは、彼らが連携することで個々の力を何乗にも飛躍させているように感じた。

 あのパイロット達をシンは知っている。自分はかつて彼らと共に戦った。だが、それは決して肩を並べてではない。彼らは自分が到底追いつけない高みにいた。それに悔しさを抱き、同時に憧れを抱いた。

 だからこそ、この2年間、シンは必死に己を高めてきた。それはインパルスの正規パイロットに選ばれたことからも決して自惚れだけではない。だが、再び彼らの実力を目の当たりにし、未だ自身が目指す高みには届いていないと自覚させられる。

(俺も、いつか……っ)

 自分も必ずあの高みへと昇ってみせる。闘志を新たにするシンの耳にレイの叱咤が飛び込んできた。

《シン! 何をしている! 作業はまだ終わってないんだぞ!》

「あ、ああ!」

 慌てて我に返り、シンもまた作業支援に戻る。

 地表では、メテオブレイカーの設置作業が黙々と進められている。この半分の質量をさらに細かく砕かねばならない。

 ゲイツR隊がほぼ作業に集結したため、マコトを含めた面々もまた地表付近で支援に就き、周囲を警戒していた。

 既にほぼテロリスト側の機体は一掃されたはずだ。あの強奪犯にしても抑え込まれている。

 これでなんとかなるかとマコトが僅かに緊張を緩めるが、セレスティのセンサーが警告音を発する。

 ハッと見やると、やや離れた空域でセスのザクウォーリアが3機のジンハイマニューバに襲われていた。

 セスは3機を相手に奮戦しているが、相手も手だれ。決定打が出ず、膠着している。このままでは、いずれ疲労から隙を衝かれる。そう推察したマコトはルナマリアに通信を繋いだ。

「ルナマリア」

「ん? 何?」

「俺が次に通信を送ったら、その方角に向けて攻撃してくれ」

「へ? それってどういう…?」

 言葉の意味が解からず、首を捻りながら問い質そうとするより速く、セレスティが身を翻す。

「頼んだぞ!」

 スラスターを噴かし、飛び上がるセレスティにルナマリアはますます困惑する。

「あ! ちょっとこら! 何なのよ、もう!」

 悪態を衝くルナマリアを置き、マコトは一路機体を上昇させてセスがいる戦闘宙域に向かうが、それまで互角にジンハイマニューバの攻撃を捌いていたザクウォーリアの動きが急に鈍りだした。

 その様子に何かのトラブルかと考え、機体を加速させた。

 ジンハイマニューバの攻撃をシールドを翳して受け止めるが、意識が集中できず、弾かれる。

「ぐっ、うぅぅぅっ」

 歯噛みしながら頭に響く痛みに呻く。

 唐突に内側から響く痛み。視界がぼやけ、呼吸が微かに乱れる。

(こ、この感じ…まさか…っ!?)

 ハッとコックピット内に響いたアラートに顔を上げると、ジンハイマニューバが斬機刀を振り上げて迫り、反応できずにザクウォーリアはボディを斬りつけられる。

「ああああっっ!」

 鉄の引き裂かれる音とともにザクウォーリアの胸部に鋭い斬撃が刻まれ、モニターを一瞬ブレさせる。

 不覚と後悔する間もなく、衝撃が身体を襲い、痛みが倍化されて苦悶を上げるセスに向かい、ジンハイマニューバは容赦せずに斬り刻んでいく。

 機体を叩き切られ、その度にコックピットがシェイクされ、セスは全身を打ちつける。苦痛に呻くセスに向かい、トドメを刺そうとビームライフルを構える。

「くっ、私は…まだ……っ」

 霞む視界のなか、回避を試みるより速く、ビームが解き放たれる。回避は愚か、防御すら間に合わない。だが、そこへ白い影が飛び込んでくる。

「うぉぉぉぉっ」

 あらん限りの声を叫び上げ、セレスティがザクウォーリアの前に割り込み、シールドを翳す。ビームがシールドに集中し、爆発が包み込む。

 その爆炎にジンハイマニューバが攻撃を止めるが、その瞬間、煙を裂いてザクウォーリアを抱えたセレスティが飛び出す。

「このっ」

 集中砲火を受けたため、表面が融解してもはや使い物にならなくなったシールドを投擲し、一目散にその場から離脱をかける。

 ジンハイマニューバが斬機刀でシールドを弾き飛ばし、逃すまいと2機を追撃する。ビームが後方から掠め、振動が機体を揺らす。

「き、さま…私に構うなっ、お前も死ぬぞっ」

「黙ってろっ」

 声色がどこか震えているセスに向かって怒鳴り、マコトは掴む手に力を込め、そのまま攻撃を必死に回避しながら敵を引き付ける。

(もう少し……っ)

 無秩序な軌道を描きながら回避し、飛行するなか…そのタイミングを見計り、レーダーを確認する。レーダーに映る敵機の反応がある形になった瞬間、マコトは叫んだ。

「今だっルナマリア!」

 それと同時にスラスターの噴射口の向きを変え、その無理な機動が機体フレームに負荷をかけ、コックピットに強烈なGを与えるが、マコトはそれに耐え、歯を喰いしばって強引に機体を傾けた。

 セレスティは突如進行方向を真横へとずらし、飛び去っていく。不審に思った一同が次の瞬間、先程までの進行方向上に赤いザクウォーリアが佇んでいるのが視界に飛び込んできた。

 離れた位置で待ち構えていたルナマリアは微かにニヤッと笑みを浮かべた。

「人使い荒いんだから、いっけぇぇぇぇっ!!!」

 咆哮とともに構えていたオルトロスの砲口が火を噴き、太いビームの奔流が真っ直ぐに伸びる。

 反動が機体に掛かるも、ルナマリアはバーニアを噴かし、踏み止まる。チャージされた一撃はこれまでのなかでも最大の熱量を携えて真っ直ぐ突き進む。

 その光景にジンハイマニューバのパイロットの眼が見開かれる。最高速にのっていたジンハイマニューバはそう簡単に進路変更はできず、また回避も間に合わない。そして、そのビームに機体を灼かれ、装甲を蒸発させていく。僅かに融けた瞬間、内部機器が熱量によって膨張し、爆発する。

 ビームのなかで咲き乱れる爆発に、微かに熱が燻る砲口を構えたままだったルナマリアが息を吐き出し、そして歓喜に包まれ、ガッツポーズを決めた。

 そして、ステラのセイバーはガイアを牽制しつつ、シン達との合流を目指していた。片脚を喪い、機体バランスが損なわれているが、それでもステラは正確な射撃とセイバーの火力を武器にガイアを寄せ付けないでいた。

「こいつ、しぶとい!」

 相手の往生際の悪さに苛立ちながら、レアは砲撃をかわし、ガイアを獣型に変形させ、デブリ弾きながら距離を詰めてくる。獣型形態で動き回るだけでも困難だというのに、こんな型破りな動きを実践するパイロットにステラは息を呑み、ビームライフルを必死に放つが、ガイアはやがて大きく跳躍し、MS形態に変形する。

「「はぁぁぁぁぁっ」」

 ステラも応じ、ビームサーベルを抜き放ち、二人の視線と咆哮がシンクロした瞬間、二つの刃が交錯し、エネルギーがスパークする。

 だが、純粋なパワーではガイアが圧倒し、セイバーを弾き飛ばす。体勢を崩したセイバー目掛けて刃を振り払うが、セイバーの眼前に割り込み、吹雪がビームザンパーで刃を受け止め、ビームブレードで斬り払う。

 装甲が融かされ、レアがひっと頬を引き攣らせ、距離を取る。そして、ガイアは反射的に変形し、両翼のビーム刃で切り掛かってくる。刹那もシールドを解除し、刃に変化させ、機体を加速させる。

「うぉぉぉぉっ!」

 振り払われた刃が交錯した瞬間、ガイアの片翼を切り飛ばし、ガイアが失速する。だが、吹雪も今の衝撃でシステムが破損したのか、ビームザンパーから光が消え、歯噛みする。その瞬間、彼方に信号弾が打ち上がった。

 戦場を照らすその閃光に一同が一斉に振り向くと、例の強奪犯の母艦であるガーティ・ルーのものであった。少数の人間は、その意味が『撤退』であると悟り、既に満身創痍に誰もが近い状態だったカズイ達も潮時とばかりに頷く。

「くそっ、また負け戦かよ」

 ストライカーパックを喪い、機体も既に半壊に近い状態のダガーLのなかでエレボスが毒づき、ステュクスも忌々しげに吐き捨てた。

「リスクが大きいですしね」

 プライドを傷つけられたためか、普段の理知的な一面を微かに留めながらもその怒りはありありと漂っている。

「撤退!」

 カズイが間髪入れず指示し、その色とりどりの閃光を安堵した面持ちで見詰めていたレアは素早く身を翻し、離脱していく。

 ダガーL、アビスも続くなか、カズイは先程まで戦闘を繰り広げていたザクウォーリアを一瞥し、キッと眼を吊り上げた。

「次に遭ったとき、必ず倒してやるよ」

 相手への怒りと憎悪を宿らせ、ストライクEもまた離脱をかけ、シン達はやはり意外そうな面持ちで見上げていた。

 一方的に介入し、また唐突に去っていくその行動理由が解からずに首を傾げる。

「皆、ボウっとするな、まだ作業は完了していないんだぞ」

 レイからの叱咤に我に返り、一同は一度合流する。被弾したセスとステラの機体を抱えたセレスティと吹雪が合流し、ルナマリアとレイへ手渡す。

「頼みます」

「OK、セスしっかりしなさいよ」

 損壊したザクウォーリアに手を貸しながら気遣うも、セスは言葉を濁す。先程の戦闘の様子からどこか負傷したのではないかと不安に思い、急がせる。

「取り敢えず、急いでください」

「了解っと」

「レイ、ステラを頼むな」

「ああ、解かった」

 セイバーを預かったレイも淡白ながらしっかりと頷き、4機はそのまま帰還するべくユニウスΩより離脱していく。

「マコト、お前も戻れ、そろそろヤバイ」

 流石に限界高度に迫りつつある。ここから先は機体も重力に縛られ、コントロールが難しくなる。いくらなんでもマコトの腕では危険すぎる。

「いや、まだ大丈夫だ」

 そんな危惧を無用とばかりに拒否し、流石のシンも声を荒げた。

「マコト!」

 マコトは立派にやってくれた。誰が何と言おうとそれは絶対だ。ここで退いたとしても何も恥じることなどない。むしろ称賛されてしかるべきだろう。

 だが、頑なに拒み、マコトはユニウスΩを見渡す。

「まだ作業は続いているだろう。それに、まだこれだけの質量だ。少しでも軽減させないと、地上への被害が大きい」

 正直、不安はある。だが、マコトは自らここに来たのだ。最後まで見届けたい。それがどんなに危険なことだとしても。

「はぁ…解かったよ、ったく頑固だな」

「性分なんでね」

 深々と溜め息をつき、諦めたシンに申し訳なさそうに謝罪し、予備のメテオブレイカーに取り付こうとするセレスティに並ぶように吹雪も手を取る。

「刹那さん?」

「僕もまだ残ります。地球には僕の故郷があります、だから少しでもやらなきゃいけないんです」

 刹那は正直、シンやマコトに共感を持ち始めていた。身を危険に晒してまで地球のために必死に戦う彼らに。無論、まだザフトを…プラントを完全に信じたわけではないが、その溝を少しずつ埋めていけるような錯覚を憶えた。

 3人は頷き合い、そのままメテオブレイカーを抱え、地表を飛行していく。各々の意志に従い、そして一つになっていくように。


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