突如出現した黒衣の機体、アーモリー・ワンで自分を襲ってきた機体が再び眼前に佇んでいる現実にマコトは恐怖を抱く。

 そんな恐怖を喰らうようにゼロは笑みを張りつけたまま、死神を駆った。マコトがそれを視認した瞬間、蹴りがセレスティに叩き込まれた。

「がっ!」

 鋭い衝撃が身体を襲い、セレスティは吹き飛ぶが、スラスターを噴かし、地表に脚をつきながら踏み堪える。

 その間にも死神は黒衣の下から抜いた黒刃を煌かせ、セレスティはシールドを掲げて受け止めようとするが、振り払われた斬撃にシールドごと吹き飛ばされ、メテオブレイカーの残骸に叩きつけられる。

「ぐはっ」

 再度身を襲う衝撃に苦悶を漏らす。シールドは斬撃に大きく切り裂かれ、破損している。

「うぅぅ、このっ」

 硬直するなか、ビームライフルを取り出し、撃ち放った。だが、そんな素人丸出しの射撃で相手が怯むはずもなく、死神は黒衣を靡かせながらビームのなかを掻い潜る。だが、マコトはそれは折り込み済みだった。

 瞬時にビームライフルを投げ飛ばす。死神はそれを難なくかわすが、その隙を衝いてトリガーを引くと同時に機体を後退させた。

 次の瞬間、ビームライフルが暴発し、その爆発が死神に降り掛かる。予想外の攻撃だったのか、死神は動けず、炎が包み込む。

「やった……」

 安堵の溜め息を漏らすが、それは再び絶望に変わる。炎から飛び出すように現われる機影。跳躍し、セレスティの前に着地した死神の黒衣は炎に焼け焦げ、ボロボロになっていた。もはやその役目を果たすことはなく、黒衣はボロッと崩れ落ちていく。その下から現われる死神の姿に、マコトは眼を剥いた。

「なっ……!?」

 全身を走る形状と背部の紫の翼、そして全てを呑み込まんと錯覚する黒を全身に纏うその姿は、マコトにとって信じられないものだった。

「セレスティ……?」

 呆然と呟いた先には、セレスティとほぼ同型の機体が佇んでいた。まるで鏡映しのように佇むその姿。モニターに表示される文字。

「クレ…セント……? あの機体の名、なのか?」

 唖然と呟き、眼前に佇む黒衣のセレスティ:クレセントを凝視した。金色と真紅のオッドアイが不気味に光り、クレセントが跳躍する。

 息を呑んだ瞬間、クレセントは黒刃を鞘に収め、腰部から黒光りする銃を取り出し、空中で構えたと同時にトリガーを引き、放たれるビームが襲い掛かった。

「うわっ!」

 無数のビームの光条が機体を掠め、装甲の排熱が起こるが、その弾幕に動きを抑制され、留まるセレスティの足元に向けて放たれた一射が大地を吹き飛ばし、セレスティを弾く。

 悲鳴を上げながらセレスティは残っていた最後のメテオブレイカーに激突し、それを吹き飛ばしながら大地を抉り、先程吹き飛ばされたジンハイマニューバの傍で止まる。

「こ、小僧……」

 あの衝撃時の影響か、打ちつけた際に身体を傷め、あばらが折れたかのように脂汗を浮かばせながらサトーが呻く。

 マコトもまた、度重なる衝撃にコックピットでシェイクされ、身体中が悲鳴を上げ、内側から漏れてくる嘔吐感に苦しむ。

 そんな2機の前に悠然と立ち、歩み寄る漆黒の機体は、まさに死を齎す死神そのものであった。

「フフフ、その程度? もっと愉しませてよ」

 唐突にコックピットに響いた高い声に、マコトとサトーは息を呑む。

「お、女……?」

 あれだけの殺気と冷気を感じさせ、さらに自分達をいいように翻弄している機体のパイロットが女であることにマコトは呆然となる。だが、そんなマコトの様子にゼロはクスリと笑みを浮かべる。

「でも、もうそろそろ舞台の閉幕も近いわね。なら、フィナーレにいかないとね」

 愉しげに周囲を一瞥する。既に彼らが立っている大地は重力の影響下に捉われ始め、大地が大気を覆う熱によって灼熱を帯び、赤く染まりかけている。よく見てみれば、大地も大きく鳴動を始めている。もう限界高度ギリギリだ。

「さて、と……最初の贄は、やはりこの舞台を整えてくれた者かしらね」

 銃口をジンハイマニューバに向け、サトーは睨むが、身体が動かず、呻くだけだ。その声に笑みを噛み殺す。

「ホント、貴方達は予想外だったわ。ミスト達に贄を用意しろとは伝えたけど、あれだけの情報と装備でここまでやってくれるなんて……嬉しい誤算だったわ」

「な、何……?」

「あら? 気づいていなかったの? まさか、貴方達がこれだけのことをできたと? アハハハ、違うわ。お膳立てはしてあげただけよ、ただ次の舞台のための仕掛けを用意できるのならば、誰でもよかったのよ」

 嘲笑を浮かべ、突き衝けられる事実にサトーは茫然自失となる。ゼロが命じたのはあくまで次の舞台へ進むための最高の仕掛けを興じること。それは前大戦の悲劇の一つであり、この世界にとって忌むべき象徴であったユニウスΩ。それを利用できるのならば、誰でも構わなかったし、ユニウスΩが落ちようが落ちまいが構わなかった。

 そして、ユニウスΩは恐らく阻止されると踏んでいた。いくらお膳立てをしたとはいえ、こんな突発的なアクシデントを阻止できないほど組織力を低下させてはいないと踏んでいたが、それは組織の質の低下か、もしくは贄を過小評価し過ぎていたか。どちらにしろ、この状況はゼロにとって予想外を通り越しての僥倖だった。

「貴方達はよく踊ってくれたわ。世界を新たな混沌へ誘う一石を投じる哀れな狂信者という役割をね」

 そう、ゼロが求めたのはそれだけ。ただ世界に一石を投じ、波紋を起こすこと。だが、その波紋は思いのほか大きくなることに笑みを隠せない。

「き、貴様ぁぁぁっ!」

 憤怒に駆られ、サトーは操縦桿を引き、既にスクラップに近いジンハイマニューバを生きているスラスターを限界まで噴射させ、クレセントに向かって突貫するが、ゼロは呆れたように肩を竦め、つまらなさ気にトリガーを引いた。

 放たれたビームが肩を吹き飛ばし、脚部を撃ち抜く。それだけでバランスを崩し、ジンハイマニューバはつんのめり、転倒する。その衝撃に計器に身を打ちつけ、さらに激痛が全身を走り、苦悶する。

 そんな苦しむ様を見やり、溜め息を零す。

「言ったでしょ、もう贄ごときがこれ以上舞台を動く必要はない。貴方達は最高の舞台を用意してくれたからね。でも、カーテンコールを受ける必要はないわ。そのまま退場してもらいましょう」

「わ、我らが想いが…願いが、貴様ごときに、汚されてなるものかぁぁっ」

 既に失神してもおかしくないほどの激痛だというのに、サトーは気迫を振り絞り、ヨロヨロと立ち上がる。

 その姿にマコトは悲痛な叫びを上げる。

「もう無理だ、やめろっ! 死んじまうぞっ!」

 もはや大破同然。いや、いつ爆発してもおかしくないほどに損壊したジンハイマニューバ。

「あんたはまだ死んじゃいけないんだっ! 生きて、死んだ者の分まで、生き足掻かなくちゃいけないんだっ!」

 そう…彼らは罪を犯した。だが、それを死を以って終わらせるのはただの逃避だ。そして、彼らが想う者達のためにも、生きて、生き足掻くことが最大の責任だ。それが、彼らと同じでありながら、その道を選んだマコトの選択であり、彼らもまた過去だけに囚われ続ける道から抜け出す選択だった。

「小僧!」

 その時、耳に飛び込んできた声にビクっと身が震え、息を呑む。

「貴様は言ったな、自分本位の考えで世界を掻き乱すなと。だが、我らにはこうするしかなかった! この途方もない哀しみを、憎しみをぶつけなければ、我らは生きていけなかった! それを罵られることを受け入れよう! 我らは利用されていただけの愚か者だったとなっ」

 サトー達ももしかしたら解かっていたのかもしれない。こんな復讐など、虚しいだけだという現実に。だが、それでも彼らは退くわけにはいかなかった。一度鬼畜に堕ちた者は、もはや進むしかなかった。それを誤魔化し、正当化するために死者を持ち出した。冷静になって初めて自分の愚かしさを知った。

 ジンハイマニューバは残った片脚を軸に立ち上がり、片腕に掴んだパイプを杖に身を支え上げる。

「忘れるなっ、これが戦争という業が生み出す闇という歪みだっ! 我らは望んで鬼畜に堕ち、闇に身を染めた! 負の感情は決してそう捨てきれない! 一度歪んだものは二度と元には戻らん!」

 その瞬間、生き残ったスラスターが火を噴き、ジンハイマニューバが加速する。だが、マコトは声を上げることができず、そしてなおも耳にサトーの独白が続く。それは、死に逝く者が最期に伝えようとしている想いだった。

「だが小僧、貴様は決して我らのように堕ちるなっ! 貴様は言った、生きて生き足掻けと! ならば、その己が信念をこの歪んだ世界で貫け!」

 加速するジンハイマニューバに向けてクレセントがビームライフルを構え、無情にトリガーを引く。

 放たれるビームが残った四肢を砕き、そして装甲を貫き、毟り取っていくが、加速は止まらない。それは、まさに命の灯火の消える刻……蝋燭が最期の炎を際立たせるかのごとく……

「小僧、貴様の名は?」

「……マコト、マコト=ノイアールディ」

 ほぼ無意識に…そう名乗っていた。身体の感覚も無い、まるで金縛りにあったように硬直したなかで、ただ五感のみが憎々し気に働き、眼前の光景をより鮮明に伝えてくる。

「マコト…いい名だ! ナチュラルの貴様に、最期に教えられた。貴様は、我らが棄てた道を進め! 生き足掻け! うぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 最期の咆哮を上げ、突進するジンハイマニューバに向けて、ゼロはつまらなさ気に一瞥し、ライフルではなく黒刃を抜き取る。

 それを振り被った瞬間、勢いよく前方に向けて突き放った。突き出された刃は突進してきたジンハイマニューバのボディを貫通し、サトーの半身を抉り、帯びただしい鮮血が噴出し、コックピットを真っ赤に染めるだけでは足らず、宇宙にばら撒かれていく。

 出血多量、呼吸困難……普通なら、そこで人間は死を迎えるはずだった。だが、サトーの意識はまだ途切れていなかった。血に充血するその眼は、ひたすらクレセントを凝視し、ジンハイマニューバはクレセントへの加速を止めず、トドメを刺したと確信していたゼロの意表を衝き、そのまま掴み掛かり、倒れ込む。

 その光景にマコトは動かないと思っていた手を伸ばす……その瞬間、ジンハイマニューバのエンジンが炎を噴き上げた。

 閃光がボディからこもれ、爆発が機体を包み込み、それはクレセントを呑み込んだ。

 爆煙が周囲に拡散し、セレスティの周囲を駆け抜けていく。だが、マコトは呆然と爆心地を見詰めるのみであった。その胸に燻るのは、何なのであろうか……あのパイロットはテロリストであり、敵だったはず。なのに、この内に沸くいいようのない感情は……その時、モニターが爆煙の先に熱反応を捉え、ハッと視線を向ける。

 煙のなかで動く機影。だが、マコトはそれが誰のものであるか即座に理解した。煙が周囲に霧散し、その後から姿を見せる漆黒のボディ。

 悠然と立ち上がるクレセントは、あの爆発を至近距離で受けたというのに、目立ったダメージは愚か、傷さえも確認できなかった。せいぜい、熱で装甲が焦げた程度。引き攣っていく貌の視線に、クレセントが足元を一瞥する。

 そこには、四散した兵士の亡骸の成れの果て……ジンハイマニューバの破片が飛び散っていた。それを暫し無言で見下ろしていたクレセントが、突如脚を振り上げ、残骸を踏み砕いた。

「あ、ああ……っ」

 眼を見開くマコトに向かい、くぐもった哄笑が聞こえてくる。

「ククク、フフフ…アハハハハ、まったくもって愚かね、特攻? 流石は狂信者…最期まで愚かに奈落へと自ら堕ちるとはね」

 高らかに嘲笑し、死者の骸を卑下するゼロとクレセントに、呆然となっていたマコトの内に沸々と沸き上がってくる感情………ああ、そうか、と…その瞬間、何かの鼓動が大きく脈打ち、セレスティもまた呼応するようにシステムが起動する。





【BLASTER MODE STAND BY READY】





 コックピットが赤い光に覆われ、計器類が輝いてく。それは、まるでマコトの内に今滾る感情を吸うように。

「これが……怒り、か」

 ポツリと漏らした瞬間、内で何かが弾けたような錯覚とともに赤い閃光が視界を覆う。







【DRIVE】







 身を大きく震わせるセレスティはその蒼穹の瞳が紅く爛々と輝き、スラスターが蒼と紅が入り混じった粒子を放出する。

 セレスティを包む閃光にゼロは初めて訝しげに眉を寄せた。

「これは、眼醒め…いや、違う………」

 戸惑うゼロ。そして、そのセレスティの変貌は離れたミネルバにいるカスミにも届いていた。

 頭を抱え、呼吸が乱れる。まるで共鳴するかのごとく、その金色の瞳の奥が鈍く光る。

 鼓動が大きく脈打った瞬間、マコトは操縦桿を引いた。

「うおおおおっっっっ!!!!」

 その怒りに呼応し、セレスティはスラスターを強く噴射し、その身を超加速させる。瞬く間に距離を詰め、ビームサーベルを振り払った。

 咄嗟に跳躍したクレセントの下方を鋭く煌く剣閃、だが、ビームライフルを構えた瞬間、マコトは振り払った刃の勢いを殺さず、機体を一回転させ、振り薙いだ。

 薙がれた刃が銃身を斬り飛ばし、一拍の後…爆発が2機の間に木霊する。

「なに…っ!?」

 ゼロが微かに舌打ちした瞬間、セレスティはクレセントに肉縛していた。獣ごとき咆哮を上げるセレスティの真紅のカメラアイが爛々と輝き、左手の掌を突き出し、クレセントの頭部を掴み、強く握り締める。

 灼けるような摩擦が起こり、ゼロは眼を細める。

「舐めるなぁぁぁっ」

 脚部を振り上げ、セレスティを蹴り飛ばし、スラスターを拡げ、そのまま一回転し、弾いたセレスティの腹部目掛けて蹴りを叩き入れた。

 それをセレスティは両腕をクロスさせ、受け止めるも、その衝撃を堪えきれず、弾かれる。追い討ちをかけるべくビームサーベルを抜き、斬り掛かるクレセントがビームサーベルを振り下ろすが、セレスティはその動きを読んでいたようにクレセントに飛び込み、左腕で握っていた右手を弾き、その反応に眼を剥くも、ゼロは冷静に左手のビームサーベルを振り下ろすが、セレスティはクレセントの弾いた右腕を掴み、それを掴み下ろした。掴まれた右腕が左腕に当たり、結果的に両方の腕が防がれ、そのまま空いた右手のビームサーベルを突き刺し、クレセントの装甲を掠める。

「こいつ…っ、この反応……っ!?」

 さっきまでとはまったく違うこの動き。まるで先読みされているような感覚……だが、こんな動きができるはずがない。

 戸惑うゼロに対し、マコトは怒りの赴くままにセレスティを駆る。青い惑星を背景に灼熱の崩れゆく大地を舞台に激突する2機の姿は、まるで分かたれた半身同士のようだった。



―――――狂獣と化した純白の機神は主の怒りのままに……

―――――無情に死を齎す黒衣の機神は主の非情のままに……



 それぞれに相反する想いに突き動かされ、ぶつかり合う2機にとって、もはや世界は関係なかった。

 ただ、己が想いの導くままに……墓標に眠る魂さえも、灼き尽くさんとする灼熱の炎が立ち昇るなか、白と黒の相反する機神は刃を交えた。

 それは、彼らだけの世界……純粋な想いの果ての………未来という名の次なる舞台への最終楽章………フィナーレの曲が奏でられる…………それが、誰によって奏でられるかは知ることもなく………







 セレスティとクレセントの激突が続くなか、やや離れた位置でもまた、激しい攻防が続いていた。

「うおぉぉぉ!!」

 雄叫びを上げながら、シンはインパルスをエンジェルに向けて突進させる。ガトリング砲を放ってくるビームの弾丸が周囲を爆撃し、地表を砕き、礫を撒き散らす。それらが機体に衝突し、大きく揺さぶられるも、それに怯むことなく、突撃し、ビームサーベルを振り抜くが、その刃は左手に展開されたエネルギーシールドによって防がれる。

 歯噛みするシンに向かい、エンジェルは右手に背丈程もある巨大な双斧刀を振り被り、その巨大な刃が迫り、咄嗟に防御するも、その重い一撃に弾かれる。

「がぁぁぁっ!」

 呻きながら吹き飛び、地表を抉る。

 その横では、吹雪が地表を滑走しながらエンジェルと銃撃戦を繰り広げていた。ビームショットガンを構え、トリガーを引くが、それはエンジェルを掠めることもなく過ぎり、逆に応射してくるエンジェルの攻撃の正確さに圧倒され、歯噛みする。

「くっ! なんて正確な射撃なんだ、それに、機動性に反応値も高い!」

 エンジェルの能力を解析し、焦りは増していく。機体を掠める一撃に咄嗟にビームシールドを展開して受け止める。

 その瞬間にはエンジェルは跳躍し、翼を拡げる。皮肉にも、それは天使よりも悪魔を思わせる。

 バイザーが輝き、ビームガンを連射してくる。刹那は転がるように回避し、距離を取ろうとするが、そこへ別の反応が飛び込み、反射的に身を屈めた。

 屈んだ吹雪の直上を掠める斬撃の一閃。双斧刀を構えたエンジェルが振るった刃の遠心力で硬直する隙を衝き、起き上がる様に脚を振り回し、エンジェルを弾く。

 だが、砲撃していたエンジェルが背後に回り込み、ハッと振り向いた瞬間、鋭い衝撃が機体を襲った。

「うわぁぁっ」

 振り下ろされた一撃に吹雪の装甲が砕け、吹き飛ばされる。

 キラは残りの2機を相手にビームトマホークを構えて挑んでいた。既に突撃銃を喪い、攻撃が限定されているが、キラはエンジェルとの間合いを詰めながら必殺に振るう。だが、それも虚しく繰り出される連撃を悉くかわした。

「くそっ、なんで……っ!?」

 脳裏を掠める疑念と苛立ち。何故この機体が再び姿を現わしたのか…いくらリンからその可能性を示唆されていたとはいえ、キラは半信半疑だった。だが、現実にここに存在している。

 振り下ろした一撃をかわしたエンジェルは攻勢に出た。双斧刀を振り被り、ザクウォーリアに向けてその巨大な実刃を仕向けてくる。縦横から繰り出される一撃一撃にキラは歯噛みしながら回避、捌き、シールドで防御しながら耐える。完全に攻守が逆転され、押されるなか、距離を取ったエンジェルが渾身の一撃とばかりに振り払い、シールドで防ごうとするが、その一撃は重量が載せられた重い一撃であり、実刃といえど、ザクウォーリアのシールドに激突した瞬間、その装甲を歪めさせるだけに留まらず、左腕の関節部まで到達し、そのまま吹き飛ばす。

「ぐぅぅ」

 完全に左腕を再起不能にされ、吹き飛ぶザクウォーリアに向けて上空で滞空していたエンジェルがビームガンを発射し、それがキラのザクウォーリアの脚部を撃ち抜き、爆発が機体を再度吹き飛ばす。

 3機は完全に押されていた。数の差もあるが、なにより長時間戦闘における疲労が機体とパイロットの両方に圧し掛かっていた。そのために、完全に翻弄され、今や防戦一方となっていた。

 その様を一瞥したリンは舌打ちする。

(状況は最悪…っ! このままじゃこっちもやばいっ)

 既にメテオブレイカーが2基とも倒壊し、もはやここに留まる意味はない。それに間もなくここに向けてミネルバが砲撃してくる。いや、それより大気圏に突入する方が早い。どちらにしろ、危険な状況だった。

 なんとかしてこの場を離脱しなければならないが、シンやキラ達は振り切れず、また自分もこのエンジェル相手に手一杯だった。

 眼前で槍を構える灰色のエンジェル。カラーリングからして、制式カラーともあの漆黒カラーとも違うことから、なにかしらあるとは思っていたが、リンは戸惑う。

(この動きに反応は確かに無人機じゃない、明らかに有人仕様だ)

 機械で制御された機体にはどこかしらに必ずその特徴が現われる。だが、この機体は搭乗者と思しき者のクセのようなものが反映されている。ギリッと奥歯を噛み締める。

 2年前…この機体に使用された技術に嫌悪感を抱く。だが、もはやどうすることもできない……倒すしかないのだ。

「そんな姑息な動揺が私に通用するものか」

 小さく吐き捨て、ザクウォーリアは右手のビームアックスを振り構え、エンジェルもまた槍を身構え、相手に向かって突貫する。

 振り上げられる刃と刃が激突し、互いに受け止め、避け、打ち払いの交錯が続き、その衝突が互いを照り映えさせる。

「貴様、何者だっ!?」

 思わず回線に向かって苛立たしげに叫び、鍔迫り合いを弾き、シールドを突き上げて体当たりする。スパイクシールドの一撃をボディに喰らい、弾かれるエンジェル。

 追い討ちをかけるべくビームトマホークを投擲するが、エンジェルはバルカンを放ち、その軌道を歪め、槍を振り被って叩き落とす。

 トマホークが大地に散ると同時に、ザクウォーリアがビームアックスを振り上げて斬り掛かる。エンジェルは左腕のシールドを展開し、その刃を受け止める。

 息つく間もない攻防にアベルは小さく舌打ちする。

(ちっ、やはり反応が鈍い! だが、二度も遅れを取るものか……っ)

 シールドを振り上げ、ザクウォーリアを弾き飛ばし、左手のビーム砲を発射する。体勢の崩れたリンは反射的にシールドで防御するが、その熱量に耐え切れず、表面が融解する。

「くっ」

 舌打ちし、シールドをパージして離脱する。次の瞬間、シールドはビームによって爆散した。

 着地した瞬間にはエンジェルが横殴りに肉縛し、槍を突き刺す。リンはビームアックスの柄を突き立て、その軌道を逸らす。金属の摩擦の火花が散り、膠着する。互いに押し合い、固まるが、リンはブレイズウィザードのミサイルハッチを開放し、アベルが眼を見開いた瞬間、ミサイルが発射された。同時にリンは一瞬の緩んだ隙を衝き、エンジェルを弾き、距離を取った。

 ミサイルがエンジェルに集中し、幾つもの爆発が包み込む。あまりに至近距離だったため、その衝撃波がリンの機体にも降り掛かり、大きく揺さぶる。

「この程度でやれるとは思えないけど」

 なんとか耐え切り、爆心地を冷ややかに見やる。そして、煙が四散し、その奥から姿を見せるエンジェル。装甲は微かに焼け焦げているが、大したダメージではない。

 煙が完全に晴れ、同時に2機は動き出す。ビーム砲を連射してくるエンジェルの攻撃を滑走して回避し、リンは歯噛みする。

 もうこちらには飛び道具が無い。時間も迫っている……それが余計に焦りを募らせていく。

(なにか、なにかきっかけでも……っ)

 些細でもいい…この膠着状態を打破するようなきっかけが、とリンが思わず逡巡した瞬間、レーダーが音を発した。

「っ!? 新しい反応……っ!?」

 接近してくる熱反応。だが、それはIFF反応を特定できない。また増援かと顰めるが、それが一瞬の隙を生み、ハッと気づいた瞬間、エンジェルが間合いに肉縛した。

 リンは反射するように身を屈めるが、僅かに遅く、突き出された槍がバックパックのウィザードを貫く。

 不覚と舌打ちする間もなく、リンはウィザードをパージする。一拍後、ウィザードが爆散し、体勢を崩したザクウォーリアにエンジェルが蹴り上げ、機体を吹き飛ばされる。

「がはっ」

 大地に叩きつけられ、衝撃に身体を打ちつけ、苦悶する。身体が麻痺し、苦悶を漏らすリンに向かい、エンジェルが槍を振り上げて直上から突き刺し掛かる。

「これで…最期だっ、騎士!!」

 悪鬼の形相でトドメを刺さんと迫り、リンの瞳にその穂先が寸前に映った瞬間、横殴りに飛来した閃光がエンジェルに襲い掛かり、注意をリンにのみ向けていたアベルは反応できず、その光刃に機体を斬り裂かれ、体勢を崩す。

 その隙を逃さず、リンは右手のビームアックスを振り上げ、柄の先端がボディに刺さり、吹き飛ぶ。 即座に立ち上がり、距離を取り、先程の光刃が飛来した方角を見やると、ユニウスΩに向かって接近してくる機影があった。

 モニターに表示される映像には、『UNKNOWN』を表示している。拡大すると、そこには戦闘機と思しき機影が3つ。そして、その戦闘機の上に立つ3つの熱反応。

「MS……?」

 リンが眼を見開く前で戦闘機から飛び立つ3機のMS。先程、エンジェルを弾いたビッグワンを掴み取り、そのままユニウスΩへと向かっていく不知火、吹雪、陽炎の3機。

「番場隊長、限界高度まで後8分ですっ!」

「了解、目標を叩く! 各機散開!!」

 先陣を切る不知火のなかで壮吉が叫び、空魔を駆る菜月、空、天音は機体を翻し、エンジェルに向けて機銃で狙撃する。

「空、天音! 時間が無い! 一気に片付ける!」

「了解!」

「OK! 燃え尽きてお星様だけは勘弁!」

 軽口を叩き合いながら、空魔が機銃でインパルスらを押していたエンジェルを狙い、機銃が装甲を掠め、注意を逸らされるエンジェルにシンはここぞとばかりに反撃に出た。腰部からレーザーナイフを抜き取り、それをエンジェルに向けて突き刺す。

 ボディを貫いたエンジェルがそのダメージを処理し切れず、ゴーグルフェイスにデータの乱れが表示され、身を硬直させる。そのまま畳み掛けるようにシンはナイフを振り上げ、装甲を切り裂き、その裂け口に向けてバルカンを斉射し、銃弾が内部機器を破壊し、エンジェルは内側から粉々に吹き飛ぶ。

「アレは、空魔…!? でも、どうしてここに……っ!」

 その爆発と突如現われた日本の機体に刹那は戸惑うが、そこへエンジェルの一機が双斧刀を振り上げて迫り、反応が遅れ、眼を見開く。勢いよく振り下ろされる刃に眼を逸らすが、その衝撃がいつまでもこず、不審気に刹那が眼を向ける。

 そこには、振り下ろされる刃を横から差し出された二刀の剣に止められていた。その剣を握るのは、刹那の吹雪と同型の機体。そして、そのカラーリングに刹那はパイロットが誰であるかを即座に理解した。

「菜、菜乃葉、さん……?」

 思わず間抜けな声を漏らし、通信機から苦笑じみた声が返ってくる。

「うん…久しぶりだね、刹那君」

「ど、どうしてここに!? 貴方は確か、別任務に就いていると」

「いろいろあって、ね!」

 事情が解からずに困惑する刹那を横に菜乃葉は抑え込んでいたエンジェルの刃を操縦桿を押し上げ、力任せに押し返した。

 相手も負けじと押してくるが、それは、刹那への注意が逸れ、刹那は自身の吹雪を操作し、左腕のビームザンパーを展開し、その刃を振り払った。

 光刃がエンジェルの脚部を切り裂き、支えを喪ったエンジェルは一瞬バランスを崩し、菜乃葉は続くように両手の桜花と雛菊を交錯させ、エンジェルに向けて斬撃を叩き込んだ。

 装甲を紙のように斬り裂き、内部機器をばら撒きながら、エンジェルは仰向けに倒れ込み、爆発する。

「流石ですね」

「ううん、君こそ…でも、油断大敵だよ」

 嗜められ、刹那は苦い表情を浮かべ、乾いた声を漏らす。

「けど、本当にどうして…?」

「まあ、いろいろあってね。それもこれが終わったら話すよ。今は、眼の前を切り抜けることに集中しなくちゃ」

 言うが否や、菜乃葉は機体を加速させ、残りのエンジェルの掃討に向かう。この極限化の状況でのあの剣捌き。刹那自身も見惚れてしまいそうな技の冴えに勇気付けられ、刹那もまた後を追うように加速し、菜乃葉の吹雪と並行する。2機の吹雪が向かう先、四肢を半分喪ったキラのザクウォーリアに向けてビーム砲を構えるエンジェルが上方からのビームによって銃身を撃ち抜かれた。

 空中で狙撃用の大型ライフルを構える陽炎のカメラアイを通し、沙雪の瞳がエンジェルを凝視する。

「これは、タイプが違う……? どういうこと?」

 先のヘリオポリスで戦ったエンジェルとは少しばかり仕様が違うことに疑念を浮かべるも、今は相手の沈黙が最優先と思い直し、照準サイトが定めると同時にトリガーを引き、幾条も放たれるビームがエンジェルを翻弄し、その場に釘付けにする。

 足止めされるエンジェルに向かって地表スレスレで飛行する空魔3機がミサイルを一斉射する。数十発のミサイルが弧を描きながらエンジェルに着弾し、無数の爆発の華が咲き、その熱風に吹き飛ぶエンジェルの頭部を陽炎の一射が撃ち抜き、目標は完全に沈黙した。

 突如乱入してきた日本のMSに立ち上がったアベルは怒りを露に吐き捨てる。

「くそっ、邪魔を…っ」

 毒づいた瞬間、陰が掛かり、不知火がビッグワンを振り被り、叩き落してくる。スラスターを噴かして回避し、バルカンを連射する。

 不知火はビッグワンを回転させて銃弾を叩き落し、振るうスティッキに槍で受け止めるが、不知火はそのままビッグワンを支点に身を捻り、脚部を振り上げる。

 蹴りが叩き込まれ、弾かれるエンジェルのなかでアベルは呻く。

 着地して踏み堪えるが、再び響くアラートに振り向き、ザクウォーリアがアックスを振り上げて迫る。

 振り下ろされる刃が槍の柄を斬り裂き、ザクウォーリアの拳が間髪入れず叩き込まれ、頭部をひしゃげさせる。

「何故彼女と同じ動きをしているのか知らないけど、そんな猿真似で機体の性能を引き出せるかっ」

 ルンと同じ動きに戸惑いはしたが、逆にそれが相手の枷ともなっていた。エンジェルとルンのミカエルでは前提とされる性能が違う。そして、エンジェルも元々は生体コアを用いて運用するタイプだ。パイロットという制約を得たためにその能力も僅かばかり制限されている。

 リンは鼻を鳴らし、ビームアックスを再度振り上げてエンジェルに迫る。

「あんたにはいろいろ訊きたいことがある! 逃がさんっ!!」

 四肢を切り落とし、自由を奪おうとするが、それより早くエンジェルが翼を拡げ、舞い上がり、宙を切ったアックスの刃が大地に突き刺さる。

 舌打ちして見上げる先…浮遊するエンジェルのなかでアベルは計器を操作しながら歯噛みする。

「ちっ、駆動系がやられたか、カメラも半ば使えん! 無理な改修が祟ったかっ」

 リンのザクウォーリアとの戦闘で蓄積されていたダメージと不知火の猛攻に流石のエンジェルも無視できない損傷を負っていた。日本軍がこの戦闘に介入したおかげでエンジェルは3機喪失している。これ以上の戦闘は得策ではないと、アベルは身を翻す。

「命拾いしたな! だが、次はこうはいかん! 血属たる貴様はこの俺が必ず消去する!」

 ザクウォーリアを激しい感情の入り乱れた視線で睨みつけ、エンジェルは翼を拡げ、飛び立とうとする。それを察したリンは素早く機体を跳躍させる。

「逃がすものかっ!」

 ここで得たせっかく手掛かりを逃がすまいとエンジェルに跳躍するザクウォーリアとの間に黒いエンジェルが割り込む。

「邪魔だっ!」

 ビームアックスを振り下ろし、そのボディを両断する。だが、それは結果的に時間の空白を生み、アベルのエンジェルはその間に戦線離脱してしまう。

 悔しげに歯噛みするリンの背後に回り込む最後のエンジェル。リンが応戦しようとするが、それより早く下方からの光刃にエンジェルが切り裂かれ、爆散する。

 冷静にその爆発を一瞥し、下方の不知火を見やる。

「アレが、日本軍……そして、奴は………」

 彼方に消えたエンジェルを憎々し気に睨むが、爆発によって四散したエンジェルの破片が大地に突き刺さり、爆発する。それが引き金になり、大地に亀裂が大きく走る。

 既に摩擦熱による影響で地盤が脆くなっていたため、急速にその亀裂は拡大し、今リン達が立っている場所にもそれが伸びてくる。

 だが、リンは半ば冷めた状態だった。既にあの戦闘で推進力を使い果たしている。もはやミネルバまで帰還する余裕は無い。

「このまま降りるしかない、か」

 自嘲気味に肩を落とす。なんとか手頃な破片を突入の際の盾にしようと動こうとした瞬間、亀裂が突如足元で起こり、リンはバランスを崩す。

「しまっ……!」

 崩壊した大地は既に構造材が変化し、まるで原初の地球の大地そのものだった。灼熱の大地が崩れ、その場に留まっていたMSを呑み込んでいく。

 滑り落ちていくように彼らは引力によって捉われ、赤い尾を描きながら抗う術もなく大気の底へと落下していくのであった。

 崩壊の影響はセレスティとクレセントの戦闘にも及びかけていた。だが、2機は崩れていく地表に気づくこともなく、交錯を続けていた。

 セレスティの刃をクレセントは紙一重で避け、黒刃を振るい、セレスティの装甲を傷つける。

「少し不覚は取ったけど、機体に振り回されているだけかしらね」

 苛立たしげに一瞥する。最初は予想外の反撃を受けたため、不意を衝かれたが、時間の経過とともにゼロは相手の動きを予測し、対処していた。

 確かに異常な反応速度だったが、肝心の機体の動きにパイロットがついていけていない。そしてその攻撃も単調なものだ。

(だけど、それだけじゃこの異常な動きは説明できない)

 独りごち、セレスティを睨む。攻撃は最初から致命傷に至っていない。この極限化でこうまで戦えるのは予想外だった。

「うわぁぁぁぁっ」

 マコトは憤怒の形相でクレセントに刃を斬り払うが、クレセントは上方に跳躍するように飛び、斬撃を回避し、その瞬間、砕けた大地の破片が2機に襲い掛かり、セレスティに着弾し、体勢を崩す。

 その隙を逃すほどゼロは甘くはなく、セレスティに向けて急降下し、腹部目掛けて蹴りを叩き入れる。鋭い衝撃が身体を圧迫させ、マコトは吐血する。

 だが、その激痛に耐え、マコトは手を伸ばしてクレセントの脚部を掴む。ゼロの視線が細まり、鼻を鳴らす。

「悪いけど…私が誘いを受けるのは一人だけ。灼熱の大気のなかへ堕ちるのは……独りでいきなさいっ」

 無情に吐き捨て、ゼロはスラスターを全開で噴かし、脚を振り上げてセレスティの拘束を振り解こうとする。だが、マコトも必死に喰い下がり、なかなか離れない。

「しつこい男は……嫌いよっ」

 鬱陶しいとゼロはクレセントのバルカンを斉射し、セレスティの頭部に弾丸が着弾し、それによって怯み、ゼロは遂に拘束を振り解いた。それだけに留まらず、ゼロはセレスティに圧し掛かり、踏み台にして離脱した。

 その力の反作用に従い、引力の鎖に絡めとられたコトは真っ逆さまに拡がった亀裂の底へと堕とされていく。

 急速に離れていく漆黒の機体に手を伸ばすが、それは届かず、徐々に離れていく。そして、マコトはコックピットに充満していく熱気に初めて気づいた。

 だが、重力に捉われているため、まともな突入体勢も取れない。いや、そもそもこの機体が大気圏を突破できるという可能性すら解からないのだ。

 灼熱に包まれるなか、モニターに映る地球の姿は、どこまでも蒼く、そして大きかった。









 同時刻、地球のオーブ連邦首長国。

 前大戦の最終決戦で戦死した者達の墓標が無数に立ち並ぶなか、岬の端に大きく佇む巨木。その巨木の下部に添えられた簡素な石碑。6つの名も無い石碑の一つの前に佇む人影。

 銀色の髪を首筋で束ね、黒衣のロングコートを羽織り、静かに佇む人影の顔には、まるで顔を隠さんばかりに右眼を覆った包帯が無造作に巻かれている。唯一露出している左の瞳が紅い輝きを放っているが、その奥は暗い。

 無言のまま墓を見据えていた人影は、唐突に吹き荒れる風に初めて顔を上げた。その瞳は青と赤が入り混じったように幻想的な淡い紫に染まる空へと向けられる。

 瞳のなかに空から落下してくる巨大な構造物が映る。赤い炎を纏い、尾を引きながら大気圏で崩れ、崩壊していく墓標。

 風が吹き荒れ、海が大きく波立つ。だが、そんな光景さえもまるで非現実的なもののように取れる。

 銀色の髪が風に靡く。その人影――――レイナ=クズハは無言と無機な瞳のまま、そのユニウスΩを凝視し続けた。

 その小さな口元が微かに動く。それは、呼吸だったのか…それとも、なにかを漏らしたのか……誰に聞こえるともなく虚空に掻き消えていく。









 世界は再び新たなる運命を誘う。そして再びそこに存在する全てに問い掛ける。

 それは福音なのか? それとも厄災なのか?

 だが、それはこの世界に存在する全てへの問い掛けであり、無限の回答。

 無数の意思が交錯し、そして重なり、また反発する。それらは折り重なり、この世界を成していく。

 だが、その世界そのものへ干渉することは誰にもできない……それは常にそこに在り続けながら、不変のものであり…誰にも変えられないのだから………

 そして世界は再び新たなる一石を投じ、それが大きな波紋となっていく。多くの意思が定義する世界が再び戦乱という運命の嵐を吹き荒れさせる………

 それは必然であり…不変であり……永遠の理………







――――C.E.74.2.14



 この日…地球に多くの流星が降り注いだ。

 それはかつての運命を引き起こしたものであり、墓標……過去から続く連鎖というなの一石……それが投じられた時…新たなる運命の幕が開かれる。

 それは、次なる世界への道標となるのか…あるいは……この世界を壊す礎となるのか………

 それは…誰にも解からない…………















《次回予告》



降り立つ大地。

そこは、新たな混迷に包まれる世界だった。

全力を尽くした…だが、そんな思いすら世界は拒否していく………





過去からの闇が引き起こした炎が大地を呑み込み、それは歯止めのきかぬ濁流へと変わっていく。

嘆きが、哀しみが、怒りが、憎しみが世界を侵食していく。

虚構の平和は脆く崩れ、世界は無情にも新たなる戦乱を呼び寄せる。





そんな悪意に包まれる世界に少年達が目指すものは……





次回、「PHASE-19 混迷の大地」



戦乱渦巻く戦場に立て、セレスティ。













・・・・ひ、非常に疲れました(汗

長くなるとは予想していましたが、書いても書いても終わらない、を繰り返し、ようやく完成しました。

第一クールのラストを飾るユニウスΩ攻防戦、いかがでしたでしょうか?

時間軸的には前作の衛星軌道戦に当たるんですが、アレに比べると面子が地味でした。いえ、物語の時間上、仕方ないことなんですが、量産機の戦いをうまく書けたか不安です。

この話はまた書くことが多くて大変でした。特に大変だったのが後半のマコトとサトーの戦闘。ここが凄く難題で何回も書き直して形にしましたが、それでもまだどこか粗があります。

次回からいよいろ第二クールに突入・・・新捏造OP&EDも一緒にお送りします。

ではではww




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