互いに一歩も引かぬなか、艦載機による突入が開始される。ザフト側のMSで先陣を切る一部隊。先頭を進むオレンジカラーのブレイズザクファントムと青と赤のコントラストを見せるライトブルーとオレンジレッドのツートンカラーのスラッシュザクウォーリアが突き進む。

「いくぞ、セラフ! 敵艦を墜とすっ」

機体と同じオレンジカラーのパイロットスーツに身を包み、敵艦を睨むのはハイネ=ヴェステンフルスだった。

「了解!」

それに続くのは赤いパイロットスーツに身を包む女性、前大戦時にホーキンス隊に属したセラフ=クリオトレンダが力強く頷く。

共に前大戦最終決戦を生き延びたエースの二人を擁する遊撃軍:ヴェステンフルス隊は砲火のなかを掻い潜りながら連合艦艇へと襲い掛かる。

敵艦からも護衛の艦載機が立ちはだかる。ドッペンホルンを噴くダガーLの砲撃を回転するように回避し、ハイネは手持ちのビームライフルを連射し、ダガーLの戦闘力を奪う。友軍の被弾に固まる機体に向かい、セラフが飛び込み、咆哮とともにビームアックスを一閃する。

ボディを横一文字に切り裂かれ、胴体が割れたダガーLが爆発し、その破片が艦艇の甲板に激突し、体勢を崩す。その隙を逃さす、ハイネとセラフが波状攻撃を浴びせ、護衛艦の装甲を紙細工のように砕き、離脱した瞬間…艦艇が炎に包まれた。

その炎を哀しげに一瞥し、セラフは呻いた。

「なんで…なんでまたっ」

それは何に対しての怒りなのだろうか…あれ程の犠牲や蟠りを経てようやく得たと思っていたものはもはや何も無い。

「っ!?」

怒りに打ち震えていたセラフの背後に回り込む機影。ウィンダムがビームライフルを向けた瞬間、息を呑む。だが、その銃口に光が収束した刹那…ウィンダムは横殴りに貫かれた光弾にボディをひしゃげさせ、爆発に消えた。

その閃光に呆然となるセラフに通信機から声が響く。

「ボヤッとするな、セラフ」

「ご、ごめん」

呆れるような叱咤にセラフは恥じ入るように応じる。その様子にハイネはやや気難しそうな面持ちで続けた。

「お前の気持ちは解かるがな、今は割り切れ…死ぬぞ」

低く…そして重みのある言葉がセラフの迷っていた心持ちに響き、セラフは首を振り、顔を上げる。

「解かってる…まだ、死ぬつもりはないよ」

「ならいい、このまま次の艦を墜とすぞっ」

「了解!」

互いに相手を鼓舞し合い、2機のザクが飛び立つ。スラスターを噴かし、対空砲火を展開する艦艇に向かい、セラフは恐れることなく飛び込んでいく。

「はぁぁぁぁっ!」

己の迷いすら振り切るように渾身の一撃を降り下ろすビームアックスの一撃に艦橋は真っ二つに切り裂かれた。

離脱と同時に護衛艦が轟沈し、炎が咲き誇る。他の友軍機もまた艦隊に突撃し、対空網を掻い潜り、ジンの突撃銃とバズーカが火を噴き、駆逐艦のエンジンを撃ち抜き、炎に包み込む。だが、距離を取った瞬間、別方向から撃ち込まれたビームにジンが被弾し、消滅する。

間近での友軍機の消失にハイネとセラフが息を呑む。ハッと顔を上げた瞬間、上方より降り注ぐ攻撃の嵐に機体を上昇させ、回避する。歯噛みする彼らの前に向かってくる編隊。

「おいおい、こいつはまた…大勢お客さんの登場だな」

軽薄な言葉を漏らすが、その表情はやや強張っている。向かってくる編隊は軽く見積もっても大隊クラスの規模だ。

「機体照合…データ未登録の機体あり!?」

敵機の詳細を照会していたセラフがカメラで捉えた敵機のデータに眼を見開く。CG図で表示されるやや鈍重な形状の機体。大隊に組み込まれているダガーLやウィンダムとは違うその重装甲のMSが編隊の3分の1を占めている。

「なら、最高にもてなしてやろうかっ」

だが、それに恐れることなくハイネは不適に笑い、機体を加速させる。

「全機、突入するっ! 一歩も引くなっ」

出現した大部隊に圧倒される部下や友軍に向かって渇を入れ、セラフもまた機体を加速させる。2機のザクが先陣を切って進み、その姿に勇気づけられた友軍機は士気を回復させ、続かんと機体を加速させる。

突入してくる連合部隊。先陣を切るのはブルーユニオンのセンチュリオンが率いる部隊だ。

「全機に告ぐ! これより俺達の聖戦が始まるっ! 宇宙の化け物どもに俺達の力を見せてやれっ」

「「「「「「青き清浄なる未来のためにっ!!!」」」」」」

宣誓するセンチュリオンの指揮官に倣うように口々に叫び、狂気にギラついた眼でダークブルーで塗装されたダガーL部隊がビームを一斉射し、ザフト側もまた応謝した。

放たれたビームが掠め合い、両者に降り掛かり、数機が被弾し、光輝を晒す。そして互いに突入した機体群が入り乱れる。

センチュリオンはその鈍重な外見とは裏腹に鋭い機動でジンやシグーの銃撃を回避し、リニアライフルで応謝する。高速で発射される弾丸がその加速と相まって高い貫通力を得て、ボディを容易に貫き、機体を破壊する。

ビームサーベルを抜き、斬り掛かるゲイツRに向かって加速し、胸部のパルスレーザーを放ち、その腕を砕き、体勢が崩れた隙を衝いてビームサーベルで一閃し、破壊する。その戦闘力に慄き、動きの鈍るザフト軍に向かい、友軍から激しい砲火が浴びせられる。

怯むザフト軍のなかへと突入していく一体のセンチュリオン。コックピットのなかで敵影を睨むアレットの視線が鋭く吊り上がり、加速した体当たりを喰らったゲイツRが吹き飛び、大きく身を仰け反らせる。

その質量と重装甲からなる一撃は装甲すらもひしゃげさせ、歪むボディに向けて至近距離でリニアライフルを放ち、コックピットを撃ち抜き、破壊する。それを一瞥すらせず、次なる敵影目掛けて加速し、突撃銃で近づけさせまいとするジンに向かって嘲る。

「そんなもので……っ!」

弾丸が掠めようとも気にも留めず、銃弾のなかを突っ切り、背中から取り出したビームショットを両手に構えて一斉射し、正確にコックピットのみを撃ち抜き、破壊する。

それには一切の躊躇すらなく、その爆発を見据えるアレットの口元は歓喜に歪んでいた。だが、そんな余韻すら愉しむ余裕はないとばかりに上空から別の敵機を告げるアラートに気づき、その方角に向けてビームショットを放つが、突入してくる機影はそれを回避した。その瞬間、驚愕と困惑に見開かれたアレットの視界に飛び込むオレンジのボディ。

「それ以上はやらせないぜっ連合の新型さんよっ!」

回転しながらビーム突撃銃を放ち、ランダムに放たれるビームがセンチュリオンのビームショットを掠め、アレットは舌打ちする。

素早く手離した銃身が爆発し、鈍るセンチュリオンに向けてザクファントムがビームトマホークを抜いて切り掛かるが、センチュリオンもまたビームサーベルを抜いて振り上げる。

互いの刃が干渉し、火花を散らすなか、ハイネとアレットは互いに相手を睨み、毒づいた。

「ハイネ!」

援護に向かおうとするなか、後方でナスカ級が火を噴き上げて轟沈し、その爆発にハッと振り向くと、爆炎の奥から姿を見せる機影。

両肩に背負う巨大な砲口から煙を迸らせるダークブラウンに染める機体のゴーグルフェイスが怪しく光った瞬間、その砲口が火を噴いた。

一斉射される砲撃のなかをセラフは歯噛みして回避するも、反応が遅れ、友軍機が被弾し、閃光に包まれていく。圧倒的な火力に呻くなか、連合のMSが防衛網の薄くなった箇所をすり抜け、艦隊へと向かっていく。

「ま、待ちなさ…っ」

阻もうとするが、その眼前を過ぎるビームに足を止める。

ザクウォーリアの眼前に飛び込む機体:バスタードが獲物を狙うように火を噴き、セラフは回避する。

「よけた? 凄い凄い…イリアを愉しませてよ! 弱い奴ばっかでつまんないからぁ」

口元を醜悪に歪め、バスタードは砲口を向けた。繰り出されるビームが機体を掠め、セラフは呻くも、その間隙の無さに迂闊に反撃もできず、翻弄されていく。

「ほらほらっ反撃しないと…死んじゃうよっ」

だが、そんな相手の反応を愉しむようにイリアは猛禽ように逃すまいと攻撃の密度を上げていく。

要であるハイネとセラフが拘束され、そのために防衛網が薄くなった隙を衝き、ユニオンの部隊が艦隊の護衛に衝くMSを駆逐する。センチュリオンのライフルに機体を貫かれ、爆発するゲイツRの穴を埋めるように後退したザクウォーリアだったが、背後からビームサーベルに貫かれて掻き消える。

そして、連合の正規部隊が艦隊に容赦ない砲撃を浴びせ、ウィンダムの放った鉄鋼弾が艦橋を潰し、蛇行したナスカ級が同型艦に激突し、2隻を閃光に包む。

いいように蹂躙されるなか、無数の閃光が咲き乱れた。

その頃、左翼では機動性を活かし、側面から回り込む部隊にゴンドワナの司令部はすぐさま迎撃隊を組織し、応戦に向かわせた。

プラントを直接狙うには流石に距離が遠いが、それでも防衛隊の側面を衝かれては防衛網が瓦解しかねないために即座に敵を撃滅せねばならず、こちらもまた艦艇による護衛は出せず、機動力を活かしたゲイツRを中心に固め、向かう。

駆逐艦から吐き出されるダガーLとウィンダムに向かっていくゲイツR隊。互いに放たれるビームの応酬が機体を貫き、次々とその機影を炎に包み込む。

ドッペンホルンの砲撃が轟き、ゲイツRの編隊に穴を空け、突入するウィンダムがビームサーベルでボディを一閃する。マイナーチェンジされているとはいえ、前大戦期の改修機と最新量産機種ではやはり性能差はなく、また数を推して進軍する連合側の猛攻の前に防衛隊は苦戦を強いられる。

だが、一歩も引くまいと必死に応戦し、火を噴くレールガンがウィンダムを怯ませ、振り被ったビームにコックピットを貫かれ、また撃ち落とされる。一体のウィンダムが撃墜された後から突入してくる真紅の影に気づいたのはその時だった。ゲイツRのパイロットがその機影を視認した瞬間、困惑する。それは、友軍機であるはずのシグーだった。

「友軍機!?」

一瞬の戸惑い…だが、それが生死を分けた。動きの鈍ったゲイツRにシグーのパイロットであるジストは苦い笑みを浮かべた。

「悪いが…敵なんだよっ」

相手に微かに同情するも、その動きを止めず、振り被った重斬刀の一撃にボディを切り裂かれ、ゲイツRが被弾する。その光景にようやく敵機と認識したザフト軍は一斉に襲い掛かるも、ジストは動揺するでもなく口笛を吹くような気安さでその大軍へと突撃する。

ビームと弾丸が飛び交うなかを掻い潜り、突撃銃を乱射し、敵機を怯ませ、その隙を衝いて一気に肉縛し、もう一方の重斬刀を抜き、両手に構えた刃で縦横無尽に切り掛かる。密接した状態では火器が使えず、また動きを制限されたザフト軍はその攻撃によっていいように蹂躙されていく。

数機がビームサーベルで応戦するも、その反応はシグーとは思えないほどの機敏であり、掠めることもなく逆に反撃を受ける。相手を仰け反らせたジストは悪態を衝く。

「へっ…これが優等種様の力かよっ」

振り被った刀身に頭部を殴打され、体勢を崩すゲイツRを蹴り飛ばした。

「ぐっ、怯むなっ! 相手はたかが一機、我らの機体を侮辱…ぎゃぁっ!」

ムキになった隊長機が一斉射を仕掛けようとするも、上方より降り注ぐビームに機体を貫かれ、爆散する。

「ようやく援護か」

自嘲気味に肩を竦める。ジストが突入して数分…ようやく援軍がフォローに回ってきた。正直、後少し遅ければやばかったが…自分が墜ちても上層部は何の感慨も沸かないだろう。

《少尉、敵の反撃が激しいところがある。そちらへ回れ》

そんなジストに追い討ちをかけるべく、周辺の敵機を一掃した隊長機のウィンダムから通信が入り、ジストは内心の不満を押し殺して応じる。

「了解」

抑揚のない声だったが、相手は気分を害するでもなく、鼻を鳴らし、通信を切った。

「さて、雑種は雑種らしくやるとするかっ」

自身を誤魔化すように渇を入れ、ジストは指定された宙域へと向けて機体を加速させる。

ジストが向かう先では、連合側の機体が苦戦を強いられていた。ダガーLのビームの嵐のなかを掻い潜り、加速する一体のザクウォーリアがミサイルを発射し、誘導弾が周囲で拡散し、衝撃が機体を揺らす。

その隙を衝き、突入するザクウォーリアの振り被るトマホークの一撃がダガーLを両断し、爆発させる。

「フッ」

パイロットであるルカスは口元に小さく笑みを浮かべる。久方ぶりに味わうこの戦闘の高揚感と興奮、これが一種の麻薬のようにルカスに満足感を与えてくれる。

「もっと私を愉しませてくれ」

静かに呟きながらもその眼はまるで獲物を求める野獣のようにギラつき、次なる敵を吟味するように動き回る。

そして、敵の編隊のウィークポイントを瞬時に定め、そこを衝くように突撃銃を連射し、編隊の構成を崩し、その隙を衝いて突撃をかける。スパイクシールドを前面に回し、加速で突貫する一撃に標的にされたダガーLのボディが突き刺さり、大きく歪む。

そのまま加速し、ダガーLを串刺したまま別の機体へと突っ込み、2機を弾き飛ばす。衝突の衝撃で爆発する2機を一瞥し、振り抜いたトマホークを振り被り、投げ飛ばす。回転する刃がボディを切り裂き、それに気を取られた隙を衝いてミサイルを発射し、他の機体を撃破する。

瞬く間に周囲の敵を一掃したルカスは浸るように酔う。その時、別の反応が響き、愉しげに首を傾げる。

「次の獲物が来てくれたか?」

その姿を確認しようと眼を向けた瞬間、ルカスは僅かばかり眉を寄せた。

「ほう? シグーとは…鹵獲された機体が相手か……それもまた、一興」

接近してくるシグーの姿に高揚感が再び燃え上がり、ルカスはシグーに相対するために機体を加速させた。





右翼、左翼ともに艦隊とMSによる激しい砲火が飛び交うなか…両者旗艦艦隊を有する中央戦線は更なる激戦を極めていた。

互いのMSは防衛戦を突破し、艦隊にまで接敵し、護衛部隊と激しい砲火を浴びせあう。ナスカ級の艦橋前で迎撃するザクウォーリアが貫かれ、爆散し、艦前方の視界を覆い、その隙を衝いて突入するダガーLの放つ鉄鋼弾が艦橋に突き刺さり、炎に包まれる。ウィンダムをビームサーベルで斬り裂き、突入するゲイツRの放つビームが駆逐艦のエンジンを貫き、轟沈させる。

次々と爆炎の華が咲き乱れるなか、連合軍は遂に旗艦であるゴンドワナ周辺にも到達し始めた。直衛に就くバルファスが己の身を文字通り盾とし、その猛攻を喰い止めるなか、ゴンドワナも直轄の遊撃隊の出撃を下した。

ゴンドワナのカタパルトから第2陣のMS隊が次々と出撃するなか、イザークやヴァネッサの隊も発進シークエンスに入った。

《悪い冗談…だったらよかったね》

隣接するカタパルトで発進口に移動するリーラからの通信にイザークも苦いものを浮かべる。結局、憂いは最悪の形で具現化してしまった。終戦から2年…まだ、それだけしか経っていないというのに、また再び開戦など…悪夢であればどんなにいいか。

「やるしかない…俺達がやらねば、プラントは護れん」

どんなに現実から眼を背けたくとももはや宣戦布告は撤回されず、眼前の敵も消えはしない。ならば、自分達のするべきことは決まっている。

《解かってる。今は、迷ってちゃいけない》

意識を切り替えるようにリーラも表情を引き締める。この辺の切り替えはやはり場数を踏んでいる故か、そんな様子にイザークは軽く安堵する。

「俺達は発進後、前方の主力隊に向かう」

通信で各機に指示を送り、イザークはヘルメットのバイザーを下ろす。

《シエラ・アンタレス1、発進スタンバイ。射出システム、エンゲージ》

管制の指示と同時にイザークとリーラのザクファントムがカタパルトに設置され、固定ハンガーが外れる。

「結局こうなるのかよ…やっぱり」

苦い思いを押し殺しつつ、イザークは管制に発進を告げる。

「こちらシエラ・アンタレス1、ジュール隊、イザーク=ジュール、出るぞ!」

「シエラ・アンタレス2、リフェーラ=ジュール、出ます!」

己を奮い立たせるように叫び上げ、操縦桿を押す。発進の加速が機体にのり、鋭く射出されるスラッシュザクファントムとガナーザクファントム。

それに続くように、ディアッカとラスティの機体も発進口に設置された。

「ジュール隊、ディアッカ=エルスマン、ザク発進する!」

「ジュール隊、ラスティ=マックスウェル、ザク行くぞ!」

ガナーザクウォーリアとブレイズザクウォーリアが加速し、そして揮下の友軍を率い、ジュール隊は突破してきたMS隊を迎撃しつつ、前線へと向けて加速した。

戦場に突入すると同時に拡がる火線と閃光…絶え間なく走る光の舞踏は命の輝きというイルミネーションを得て美しいと錯覚する。だが、そんな感慨を抱く余裕もなく、イザーク達は向かってくる敵機に意識を集中した。

ダガーLの編隊がビームを撃ちながら突撃し、散開するとともにディアッカがオルトロスを振り被り、砲撃する。高出力のビームが一機を正確に捉え、編隊を崩す。その隙を衝き、突入するイザークとラスティがビームアックスとトマホークを振り被り、ボディを両断する。背中を見せる隙を衝いて背後から迫るも、気づくこともなく…ダガーLのパイロットは次の瞬間、横殴りに撃ち込まれた光芒に意識を呑まれた。

イザークの背後で爆散するダガーL。それを一瞥するでもなく、イザークが見据える先にはオルトロスを構えるリーラのザクファントム。一瞬のうちに敵機を一掃した彼らは身を翻し、ひたすら前線に向かった。

彼らが向かう前線は更なる激戦が繰り広げられていた。両軍入り乱れての混戦に陥っており、友軍機同士の連携が取り辛い状況に陥っていた。乱戦となれば、機体性能以上にパイロットの技量が明確な差となって現われる。ハードの面々では両軍ともに差はないが、ソフト面での差はやはり浮き彫りとなっていた。連合側はナチュラルで複雑なMSの操作を行うためにサポートのOSに頼り切る一面がある。また、連携戦を主眼にしているため、パイロット個人の技量はやはり低い。そのため、乱戦において孤立すれば瞬く間にザフト側に撃破され、眼に見えないほどの被害がジワジワと連合側を蝕んでいた。

だが、その戦況は投じられた一石によって覆された。徐々に押し返していたザフト側のMSが瞬時に大量に撃破される。慄く彼らの前に現われる機影。ガーティ・ルー指揮下のラストバタリオン隊が戦線に姿を現わした。

先程の手痛い一撃を放ったアビスは両肩を下ろし、ステュクスが口元を歪める。

「さて、獲物がうじゃうじゃ…たくさん釣らせてもらいましょうっ」

吟味するように宙域を一瞥し、加速するアビスが両手のビームランスを振り被り、標的に決めたゲイツRに向けて突き刺し、呆気に取られたゲイツRはあっさりとコックピットを貫かれ、それを振り上げ、ゴミにように振り捨てる。その光景にようやく我に返ったザフトが反撃するが、アビスは肩の装甲で防ぎ、切り込んでいく。

ランスを振り被る度にジンが、シグーが、ゲイツRが次々と餌食になり、爆発の花道が後方で咲き誇る。それが何にも勝る勲章とでもいうようにステュクスは快感に浸る。

「まったく…これではスリルがありませんねぇ」

呆気なく崩れていく戦線に嘲笑を浮かべ、展開した全火器を振り払うようにフルバーストし、周囲の敵機を撃ち落とした。

「アハハハハ、まるでゴミのようですよっ」

次の瞬間、一際大きな爆発がアビス前方で巻き起こり、光がアビスを照り映え、その悪鬼の嘲笑を轟かせた。

アビスの猛攻を一瞥し、エレボスはカオスを加速させる。

「派手にやってやがるな、ステュクス…俺も、愉しませてもらうぜっ」

ステュクスばかりに獲物を喰らわれてたまるかとはやるように操縦桿を引き、エレボスは久方ぶりに駆る愛機の爪を突きたてる。

巡航MA形態でミサイルが飛び交うなかを掻い潜り、螺旋を描きながら一気に敵機へと肉縛し、爪先のビーム刃で擦れ違いざまに切りつけ、腕を飛ばすと同時にクローで機体を掴み、ボディを握り潰す。コックピットのなかでひしゃげる恐怖に慄くパイロットの悲鳴は、潰されたコックピットのなかへと掻き消え、ジンは爆発に消える。

それを一瞥し、ターンを描きながら再び舞い降りるカオスがMS形態となり、ビームライフルを振り被り、連射する。放たれる一撃がシグーのボディを貫き、間髪入れず展開する機動ポッドが不規則な軌道を描きながらナスカ級に襲い掛かり、火を噴くビームが対空砲を破壊し、船体を蹂躙していく。

弾幕が弱まり、懐に飛び込んだカオスのカメラアイを艦橋から捉えた瞬間、振り被った一撃に艦橋が潰された。

「おらおらおらっ、じゃんじゃん掛かってこい! 俺が全てぶっ壊してやるぜっ」

猛々しく吼え、襲い掛かる敵機に向けれ恐れもなく飛び込んでいく様はまさに野獣のそれであり、凶暴だった。

派手に暴れ回る2機に遅れまいとガイアが戦場に突入し、ビームライフルとビーム砲の応射で一機一機正確に撃ち抜く。

「壊す…壊す」

呪詛のようにモニターに映る敵機を睨み、底冷えするように呻くレアの鋭利な視線とともに射抜かれた敵機は次の瞬間、爆発に消える。

相手を貫いた後に咲くこの閃光がレアにはたまらなく愉しく…そして綺麗だった。それがいいようのない快感となって身を走り、焦がす。もっともっと見たい…眼元を薄っすらと歪め、レアは止まることなく加速する。

ガイアの放ったビームが援護に入ったバルファスに阻まれ、レアは怒りに頬を染めた。

「壊す…壊すっ」

再度ビームを放つも、ビームフィールドを展開するバルファスのシールドは生半可な熱量では破れず、それがレアに不快感を齎す。

「なんで、なんで墜ちない……っ」

自分の快楽の邪魔をする敵機を憎悪のような眼で睨み、バルファスの攻撃のなかを掻い潜るガイアは唐突に獣型となり、AMBACでビームを交わす。突如相手の姿が変わり、バルファスのAIが目標のロストと誤動作を起こし、一瞬のタイムラグが生まれる。

ガイアの獣型形態時の姿を再目標と設定する寸前、金属片に飛びついたガイアはその四肢で足場を強く蹴り、慣性にのってバルファスに突貫する。翼のビーム刃が光り、バルファスが振り返った瞬間、ボディを大きく切り裂いた。

炎がガイアの黒い装甲を赤く燃え上がらせ、撃墜した歓喜がレアの身体を侵食し、満たす。

セカンドシリーズ3機の強襲―――それは瞬く間に前線部隊に伝わり、戦慄させる。ザフトの次世代機として軍内部で宣伝されていた機体が牙を剥くというのは前線兵士にとっては衝撃的だった。

動揺から動きの鈍るザフト側を連合が見逃すはずもなく、攻勢に打って出た連合の攻撃の前に防衛網は再び押し戻されることとなる。道を切り拓くラストバタリオンの存在は連合側にとって高い士気効果を齎していた。

3機に遅れまいとカズイのストライクEとそれに率いられるヴェールクト部隊も戦線に加わる。

「各機、散開! 敵防衛網を崩す、奴らに俺達の恐ろしさを見せてやれ」

《《《《了解!》》》》

カズイの鼓舞に応じ、ヴェールクトが散開し、各個に敵機へと襲い掛かる。見慣れぬ機種の登場に動揺が走る。ヴェールクトはその背部のスラスターを噴かし、保持する巨大な砲身を構え、一斉に斉射する。

鋭く放たれる高出力のビームがシグーやゲイツRを貫き、破壊する。ウィンダムの強化改修機であるヴェールクトは高い機動力を発揮し、敵の密集地帯へと飛び込んでいく。だが、その機体を捉えきれず、戦々恐々するパイロット達。隊長機であるザクファントムがその機動を読み、絶妙のタイミングでビームを放つが、それは虚空を過ぎる。そのほぼ真横には悠々とこちらを見据える敵の姿があり、眼を見開くパイロットが次に眼にしたのは灼きつくような白い閃光だった。

真正面からボディを撃ち抜いたストライクEはスラスターを小刻みに動かし、加速する。ビームガービンを両手に構え、腕を縦横無尽に動かしながら銃口を周囲へと次々に放ち、全方位で動く全ての敵性目標を正確に撃ち抜いていく。

その戦闘能力に畏怖したザクウォーリアがビームトマホークを振り被って肉縛するも、カズイはガービンを素早くマウントし、振り下ろされるトマホークを左腕のシールドで受け流し、空いたボディ目掛けて至近距離からアンカーを放ち、先端の突起がボディを撃ち抜き、貫通する。背中で固定されたアンカーを振り被り、ザクウォーリアの骸を大きく引きながら加速し、後方にいたローラシア級目掛けて投擲した。

遠心力の加わったその巨体は弾丸となってローラシア級の船体に激突し、爆発する。それによって装甲板に穴が開き、蛇行するローラシア級に向かってヴェールクトが一斉に砲火を浴びせ、戦艦が轟沈する。

その爆発を見据えながら佇むダークブルーの軍団は、次なる生贄を求めて飛び去った。

セカンドシリーズを擁するラストバタリオンの猛威はすぐさまゴンドワナCICに届けられ、司令部は遊撃隊のジュール隊及びルーファス隊に最前線に向かう指示を出した。

「連中が!?」

知らせを受けたイザークが驚愕し、他の面々も息を呑む。

強奪された3機がこの場に現われた…それは、もはや確信に近かった疑念が的中したことに他ならなかった。あの強奪犯は、やはり連合の一部隊だったのだ。

「こりゃまずいぜ」

「かなり苦戦してるみたいっしょ」

詳細を確認したディアッカやラスティも苦く歯噛みする。既にその3機と同伴する部隊によって無視できない被害が出ている。このままでは、正面突破される恐れもある。

《おい、聞こえるかおかっぱ!》

そこへ飛び込んできた通信にイザーク一瞬頬を引き攣らせるも、それを抑え込んで怒鳴り返す。

「聞こえてるわっ貴様も確認したな! 俺達は前線に向かうぞっ」

《言われるまでもねえ! 遅れるなよなっ》

互いに喧嘩腰で伝え合い、ヴァネッサ率いる中隊は身を翻し、別の部隊に後を任せて前線に向かう。

「俺達もいくぞ、遅れるなっ!」

間髪入れず力強い返答が返り、イザーク達もまた機体を加速させ、前線へと急ぐ。

「司令部から入電…マーシャンの機体と合流し、前線へ向かえ……マーシャン?」

唐突に送られた内容に首を傾げる。

「マーシャン? 火星のか? 連中が何故この戦闘に介入する?」

思わず問い掛けるも、リーラも戸惑っているのか、返答に窮している。マーシャンが何故プラントと連合の戦闘に介入するのか…友好な関係というのは聞いているが、腑に落ちない。

「解からない、でもマーシャンの機体が一機、こっちに向かってるって。IFFは既に登録されているからとしか」

要領を得ない指示ではあるが、取り敢えずは合流しなければと周囲を見渡すと、それらしい機影に気づいたディアッカが声を上げた。

「お? アレじゃねえか」

指差す先を見やると、そこにはプラント側から加速してくる一体の白と赤を基調とした見慣れぬ機影が軌跡を描きながら飛行している。

プラントから飛び立ったアグニスはデルタアストレイをすぐさま戦闘宙域に向けた。モニター越しに見える激しい戦闘の様は、アグニスに緊張感を齎す。

「これが、戦争だというのか……」

これまで火星圏では戦闘行為は多少なりともあれど、本格的な武力抗争は起きなかった。未だ不安定な生活圏である以上、迂闊な消耗は避けるというのがスタンスである以上当然ではあるが、資料で知っていても眼にする初めての戦闘の光景に気圧されるような錯覚を憶える。

思わず動きを止め、砲火を見詰めていたが、それは自身に向けられる殺気にも似た気配によって掻き消えた。

「ちっ」

舌打ちして操縦桿を引き、ボディを後方へと逸らした瞬間、上方から降り注いだビームが眼前の空間を過ぎる。上方からビームを放ちながら迫るウィンダムに気づき、アグニスはデルタアストレイを跳ぶように加速させる。

左手に抜く実剣を振り被り、擦れ違い様にウィンダムに向けて叩きつける。その刃はウィンダムの装甲板を紙細工のように切り裂き、ウィンダムは上下に分かれて一拍後、炎に包まれた。

それを一瞥するアグニスの瞳には憐憫も恐怖もない…暫しその場に佇むが、そこへ別のシグナルの接近を告げるアラートが響き、そちらにモニターを向ける。

ザクタイプのMS4機が並行するように飛ぶ様が映り、アグニスも警戒を解く。

「なかなかいい動きだな…お前か、マーシャンの助っ人というのは?」

どこか尊大な物言いで問う声は、編隊のなかで中心に位置している青いザクファントムのものからだと悟り、アグニスは短く応じた。

「そうだ。無理を言って参加させてもらった」

「成る程、買って出るだけの腕はあるようだな」

こちらを値踏みするように静止した機体から見据えるような視線を感じる。その様子に呆れたようにディアッカとラスティが声を掛けた。

「おい、失礼だぞイザーク」

「そうっしょ、相手は善意の協力者。もう少し言い方ってもんが」

どうにも余所者には喧嘩口調で話す性質に自重するようにと苦言するも、イザークはムッとして怒鳴り返す。

「やかましい! お前らこそ隊長の俺になんだ、その口の聞き方は!?」

いくら普段が馴れ馴れしい同僚とはいえ、組織としての序列がある以上、余所者にはそうした毅然な態度で接せねばならない。咎めるイザークに何処吹く風とばかりだが、それに苦笑しつつ、リーラが話し掛ける。

「こちら、ザフト軍ジュール隊です。協力に感謝します…貴方の識別コードは既に全軍に伝達済みなので、撃たれる心配はありません。ですが、貴方はあくまで客人です。場合によっては撤退してもらうことと、私達の指示に従うことが条件です」

協力は確かにありがたいが、組織戦である以上、迂闊に動かれてはこちら側の足並みが乱れる恐れもあるため、それをコントロールせねばならない。アグニスもその思惑を悟ってか、反対もなく応じる。

「了解した」

「ありがとうございます。では、我々はこれから前線に向かいます。貴方はそのバックアップを……後武運を」

軽く指を振り、リーラのザクファントムが加速し、他の機体もそれに続く。飛び去っていく様子を僅かに見送るアグニスの内にはそのパイロット達の存在が去来していた。

憎まれ口を叩き合い、そしてそのなかに感じる確かな信頼…先程の優しげな声の存在にアグニスは思考を巡らせる。

「アレが、ザフト兵…か」

兵士ではないアグニスにとって彼らは未知の存在だった。だが、彼らのプラントを護るという意志は強く伝わり、アグニスもまた自身のこの場に立った意志に逡巡する。

(俺もまた…護らねばならぬものがある)

微かな共感を抱き、眼を開いたアグニスは操縦桿を押し。デルタアストレイを後を追うように加速させた。


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