イザーク達が前線に到着すると、そこには一方的ともいえる状況が拡がっていた。カオス、ガイア、アビスの3機は元より、それに並ぶように暴れ回る一群によって、ザフト側の部隊が次々と駆逐されていく。

「あいつら…っ」

その光景に怒りを憶え、突撃をかけようとするイザーク達だったが、ラストバタリオンによって戦線を押している連合の他部隊が立ち塞がり、攻撃を仕掛けてくる。焦燥に歯噛みするも、別方向より割り込んだヴェネッサのザクファントムが両手のビーム突撃銃を乱射し、ダガーLを撃ち落とす。

「おかっぱ、ここは俺達が抑える! お前らはあいつらを頼むぜっ」

ヴァネッサに続くようにライルらルーファス隊のMSがダガーLやウィンダムを相手に襲い掛かり、破壊していく。

「早くいけこのノロマ!」

両腕を縦横に振り、近づけさせまいと道を拓くヴェネッサにイザークは一瞬呆気に取られる。彼女のイメージは常に好戦的ということだった。いや、それは語弊がある…彼女はとにかく無茶を好む。相手が強いほど自分で倒すという信念を持っている。それを抑え、自分達の盾となっている今の光景にイザークは熱いものを憶え、不適な笑みを浮かべた。

「油断して墜とされるなよっ」

「へっ、いらねえ心配だぜ…モタモタしてっと、あいつらも俺が貰うからなっ」

互いに憎まれ口を叩き合いながらも、互いを信頼し、イザークは通信を聞いていたリーラ達を促し、奮戦するヴァネッサ達に敬礼しながらその切り拓いた道を通り、一気に前線へと舞い込んでいく。

後に続くアグニスもまたその短いやり取りで交わされる彼らの信頼にどこか共感を得、そしてそれに負けまいと己を奮い立たせる。

やがて、その視界にラストバタリオンの機体が飛び込んでくる。

「あの4機は俺達が相手をする…そちらは周囲の敵を頼むぞ」

「了解した」

「イザーク、くるよっ」

「散開!!」

接近と同時に気づいたアビスとカオスがこちらを狙い撃ち、5機は散らばった。イザークはストライクEに狙いを定め、ガトリング砲を斉射しながら急加速する。接近に気づいたストライクEは弾丸を回避するも、その軌跡を読んでいたイザークはその背後へと滑り込み、ビームアックスを振るう。

「おおおおっ」

渾身の一撃として繰り出されるも、ストライクEは左腕のビームサーベルを展開し、横殴りの刃を受け止める。

至近距離での干渉が互いを弾き、カズイは微かなダメージに歯噛みし、イザークは相手の反応に舌打ちする。

ストライクEが両掌のアンカーを発射し、真っ直ぐに飛ぶそれをイザークは毒づきながら回避する。

「愚直なっ」

だが、カズイはニヤリと醜悪に笑い、アンカーの先端が後方で浮遊していたザクウォーリアの残骸に突き刺さり、カズイはそれを力任せに引き寄せた。遠心力で引き寄せられたその残骸を勢いよくザクファントムに振り投げ、イザークは眼を見開く。

「何だとっ!?」

予想外の攻撃に回避するも、振り投げると同時にアンカーを解除したストライクEが一気に肉縛し、体当たりする。

「ぐはっ」

鈍い衝撃が身体に突き刺さり、視界を霞ませる。体当たりというのはある意味で諸刃の剣だ。衝撃が仕掛けた側にも降り掛かるのだから。だが、カズイも衝撃に呻きながらもその卑下た笑みを崩さず、むしろその痛みすら高揚感を掻き立てているように見える。

密着した状態で蹴りを叩き入れるも、ザクファントムはシールドで衝撃を受け止め、イザークもまたビームアックスを振るい、装甲を傷つける。

距離を取ったストライクEはビームサーベルを抜き、互いに急加速で咆哮を上げながら交錯する。

「このおおっ!」

リーラの振り被ったオルトロスが火を噴くも、標的にされたガイアは寸前で獣型となり、その変形時の反動で予想もしない方向へ回避する。その回避法にリーラは発射のタイミングを僅かにずらすも、相手はまるで獣のように俊敏な動きで紙一重で回避する。

「動きが変わってる…? 前より速いっ!?」

先のユニウスΩ戦で見た動きよりも僅かばかり反応が速い。それがリーラを戸惑わせる。

ガイアは獣型と人型を使い分けながら、こちらを撹乱で威嚇しつつ接近し、その牙を突き立てる。寸前で駆けるガイアの翼刀が降り掛かり、リーラは身を捻るも、ビームの余熱が装甲を融かす。砲撃用のウィザード装備では懐時の対処と回避が大きくなってしまい、ガイアのような機体特性では相性が悪い。

翻弄されるリーラを見据えながら、レアは視線を鋭く細める。ユニウスΩでこちらを苦しめた相手を手玉に取るという興奮が身体を沸騰させる。再調整時に脳内にインプットされた先の戦闘時における敵機の戦闘データから最適な反応値に構成する。彼ら第3世代型エクステンデッドの強みは安定した精神と状況や敵に合わせて己のアビリティを変化させられるというものだった。

ビームサーベルを抜き、斬り掛かるガイアに向かい、オルトロスを離し、ビームトマホークを抜き放つ。滑るように振り払われた一撃が交錯し、火花を散らしながら互いを照らし、バイザー越しにリーラとレアは歯噛みする。

ディアッカとラスティが連携しながらアビスに襲い掛かる。火を噴くオルトロスを寸前で回避し、身を捻ってビーム砲を応射する。6条の火線を交わし、ラスティが舌打ちし、ミサイルで応戦するも、全てが薙ぎ払われる。

アビスの追撃は止まらず、なおも胸部のカリドゥスを放ち、シールドで咄嗟に受け止めるも、その熱量に押し負け、弾かれる。

「ぐぉぉぉっ」

「ラスティ!」

呻くラスティを助ける前に回り込むアビスがそのツインアイを爛々と輝かせ、ビームランスを振り回しながら突き刺す。寸前で身を捻るも、穂先が装甲を掠め、嫌な実感を憶えると同時に無意識に脚を振り上げ、アビスを蹴り飛ばす。

「もらったぜっ」

体勢を崩したアビスをオルトロスの砲口に定めるも、それより早く射線に割り込む紫の影。ヴェールクトが援護に回り、ビームを浴びせてくる。

「うわっと」

瞬時にバーニアを噴かせ、その反動で射線を外し、回転しながら再度狙いをつけ、ヴェールクト目掛けてトリガーを引く。

相手の不意を衝いたとディアッカが確信する。だが、絶妙のタイミングで放ったはずの一撃はヴェールクトの側面を掠めた。その状況に戸惑う。

(ミスった? 俺が…!)

それは決して自惚れでもなくディアッカにとって経験故の砲撃だった。だが、現実にそれは捉えることなく終わり、ヴェールクトは再び反撃に転じてくる。不意を逆に衝かれ、回避に集中するディアッカの後方から体勢を戻したラスティが突撃し、ビーム突撃銃を構える。

「墜ちろぉぉっ」

ほぼ至近距離で連射するが、そのビームをヴェールクトは尽く俊敏な動きで回避し、逆にラスティを驚愕させる。

「かわしたっ!?」

あれ程接近しての狙撃が児戯のごとくかわされ、ラスティだけでなくディアッカも軽いパニックに陥るが、散開したヴェールクトの後方から走る無数の火線に気づき、翻弄される。アビスが戦線に戻り、ヴェールクトと連携し、攻撃する。相手の不気味さに二人は嫌な汗を流す。

そして、アグニスのデルタアストレイはカオスとヴェールクト数機を相手に苦戦していた。高速で飛行するデルタアストレイの背後をカオスは巡航形態で追撃し、エレボスは狙いを定める。

「見ねえ奴だな…だが、墜とすぜっ」

アンノウンを示す敵機に対し、恐怖も不安も抱くことなく…ただ手強い敵を墜とすという興奮のみに身を委ね、カオスの機動ポッドを切り離し、己の意思をのせて飛ばす。回り込み、左右から放つビームと後方から放たれる攻撃にアグニスは舌打ちし、操縦桿を捻る。

「ちぃぃっ」

身体を圧迫するような反動が掛かるも、それを気迫で噛み殺し、三方からの攻撃を潜り抜け、捻った状態で応射する。

相手の反撃にエレボスも強張り、カオスを上昇させて回避する。そのまま直上へ加速し、急降下で襲い掛かる。

「喰らいやがれぇぇぇ」

回転させながら多重攻撃を浴びせ、デルタアストレイは装甲を掠める。微かに焦げつく赤い装甲にアグニスは機体を上昇させた。真っ直ぐにカオスを捉え、左手の実剣を構え、相手の意気に感化されたエレボスもまたビーム刃を展開し、スピードを上げる。

互いに高速に入り、激突しかねないコースで相手に向かって斬り掛かる。咆哮と交錯の音が周囲に轟くかのように錯覚する。

一瞬の交錯から離脱した両機…デルタアストレイの胸部に微かに傷跡が走り、カオスはVPSによってダメージこそなかったが、衝撃の影響か、大きく蛇行する。振り向き様に逃すまいとアグニスは狙撃するが、それより早く回り込むヴェールクトがシールドを手に盾となる。

ビームを防がれ、歯噛みするアグニスは即座に接近戦に持ち込むべく加速する。ビームを放ちながら迫るデルタアストレイに向けてヴェールクトはビームサーベルを抜き、斬り返す。左手の実剣を振り払うが、ヴェールクトはシールドで防ぎ、衝撃に耐える。

「耐えた!? だがっ」

防がれるシールドを軸に身体を捻り、蹴りを振り上げるが、ヴェールクトもまた同じ支点で機体を捻り上げ、蹴りをかわす。

「こいつら!?」

その反応にアグニスが眼を剥くも、背後からの殺気に強引に弾き離れる。カオスが割り込み、ビームサーベルを振り翳し、デルタアストレイもまた実剣を振り払い、斬撃を受け止めた。

ラストバタリオンと激戦を随所で繰り広げるなか、イザークはストライクEを相手にビームアックスを振り払い、弾き飛ばす。距離を取ったストライクEの援護に回り込むヴェールクトがビームを浴びせる。

舌打ちして距離を取りながらガトリング砲を連射し、敵機を牽制する。そこへガイアを振り切ったリーラが援護に回り、オルトロスを砲撃するが、ヴェールクトは俊敏な動きで砲撃を回避する。

「また…っ!」

リーラは焦燥にも似た苛立ちを憶える。先程からこの新型と思しき相手に攻撃を仕掛けても、致命傷を与えられない。これはパイロットの腕ではない…全機が似たような回避パターンを用いている。

それはイザーク自身も感じていることだった。理由が解からない故に苛立ちはますます募るが、その敵機の回避パターンが妙な既視感を呼び起こす。

(あの動き、どこかで……?)

記憶の内を掻き回して探り寄せるも、ぼやけて見えない…そこへ再度ヴェールクトがビームサーベルを振り翳し、イザークは無意識にアックスで弾き返す。背を向けて距離を取るヴェールクトに迂闊なと毒づいて背後からガトリング砲を放つも、ヴェールクトはまるで背後に眼がついているように散弾をかわし切った。

「何……!?」

背後からの攻撃をかわしたという事実よりも、その動きがイザークの内の霞み掛かっていた記憶を呼び起こした。

「イザーク、あの動きって…!?」

とてもではないが、従来のナチュラルの操縦するMSではあり得ない回避機動にリーラもまた気づいたのか…声を上げるも、それを確信させるようにイザークが眼を見開く。

「あの回避機動は…ストライクだと!?」

ヴェールクトの回避パターンの機動がストライクに重なって見えたのだ。あの2年前の戦争…イザークにとって好敵手ともいえた相手。連合のGAT-X105:ストライク―――キラ=ヤマトの機動に。

だが、同時に疑問も沸き上がる。キラは今は連合に居ない…そしてなによりこの場に展開しているヴェールクト全てが同じ機動を行っているのだ。

「まさか…相手はキラさんの戦闘データをOSに!?」

考えられる可能性は一つ…キラの乗っていたストライクの戦闘データはアークエンジェルによって連合に届けられた。そのデータは当時の連合首脳部によって採用されることはなかったが、そのデータがもし使用されているとしたら……キラのストライク並みの戦闘機動が可能なMSが何体でも投入できるということ。

それは、同時に最悪の可能性も示唆させるものであり、イザーク達を震撼させた。







幾つも咲き誇る砲火を戦闘空域よりやや離れた位置に散在する小惑星帯から監視するように身を潜める一群。

プラントの極軌道側から戦端から一部始終を見詰め、停泊するのは連合のアガメムノン級数隻と複数の護衛艦からなる小艦隊だった。

戦端が開かれてどれだけの時間が経ったか…その瞬間がきたことを、旗艦であるネタニヤフの艦橋でオペレーターが艦長に状況を報告する。

「本隊、戦闘を開始しました…防衛艦隊は予定通り、とのことです」

「プランは予定通りに進行中…作戦承認確認」

順調に進行する様に、艦長である男は醜悪な笑みを浮かべる。どう見ても、一艦隊の指揮官に分不相応の知性のない面構えだった。

「よし、予定通りだな。こちらも行くぞ」

ニタリと笑みを浮かべたまま、艦長は全艦に発進を告げた。

沈黙を保っていた艦隊はまるで獲物を狙うハイエナように嬉々として動き出す。加速し、真っ直ぐに戦闘宙域を横切り、向かう先はプラントだった。

「この青き清浄なる世界に、コーディネイターの居場所などないということを今度こそ思い知らせてやるのだ! 青き清浄なる未来のために!」

宣誓するように叫ぶ指揮官に続き、復唱する艦隊要員達。彼らは、L2から派遣されたラース=アズラエル直属の奇襲艦隊だった。アルザッヘルで補給を行い、受け取ったあるものを運搬し、栄えある英令を受けた者達だった。

アガメムノン級戦艦数隻の艦首発進口が開き、カタパルトが展開される。その奥に悠然と姿を見せるGAT-04:ウィンダム。その背後に巨大なランチャーがドッキングされ、バイザー下のツインアイに光が灯る。それは、獲物を見定める獰猛な光。

走る光のラインに祝福を受けるかのごとく射出される。次々と僚艦から発進するウィンダムで編成される部隊。全機が同じランチャーを装備している。両肩に背負うランチャーには、忌々しいマーキングが施されている。

『核』を示すエンブレムを背負うウィンダム隊は、クルセイダーズという皮肉な名を与えられていた。

極軌道上で周辺の哨戒任務にあたっていた一機の長距離偵察型ジンが小惑星の陰から隠密に進攻するその編隊を捉えたのはその時だった。モニター越しに圧倒される数で迫る編隊よりも、それらが背負う見間違うことのないマークにパイロットの顔が恐怖と怒りに染まり、即座にゴンドワナの司令部へと届けられた。

ゴンドワナの内部に設けられた巨大なCICには、中央の立体映像MAPを囲むように高官が戦況を分析し、判断するなかへ下部のオペレーターからの戦況報告が続く。

《連合軍、MS隊20、第2エリアへ侵攻中。第3艦軍はオレンジ、ベータ15へ》

ゴンドワナを中心に展開される戦闘空域図。至るところでザフトと連合の戦闘が繰り広げられ、友軍マークが消失する度に悲痛なものが浮かぶ。

《右翼に連合艦艇7隻、ワイズン隊に迎撃!》

《第4エリア掃討後、補給部隊を》

《第一防衛ライン、突破されました…ヴェクター中隊、出撃を!》

各所で一進一退の攻防が続くも、連合側の動きを探る高官達は議論を交わす。

「敵主力隊の狙いは、やはり軍令部とアプリリウスか?」

正面に展開されている部隊規模は相当なものだ。おまけに、先のアーモリー・ワンで確認された強奪隊とセカンドシリーズの存在を確認し、苦々しい思いを抱く。

他にもかなりの部隊数が投入されており、ザフトも当然ながら主力隊とゴンドワナ揮下部隊を迎撃に回させているため、未だ最終防衛ラインには到達していない。だが、最終的な目標がどこか絞り込めず、未だ不安を掻き立てる。

「だがまだ解らん! 敵班の動き、どんな小さなものでも見逃すな!」

確かにセオリー通りなら、国防本部と中枢であるアプリリウスを陥とすことを是とするが、相手は予測できない行動を取る。故にプラント周辺の死角となる位置には哨戒機を展開し、監視を行わせていた。

その時だった、哨戒中の一機からの緊急入電が飛び込んできたのは。

《極軌道哨戒機より入電。極軌道にて敵別働隊発見…マーク5型、核ミサイルを確認!?》

報告を受けたオペレーターも内容を読み上げながら顔を引き攣らせる。その情報は瞬く間にCIC内を混乱に陥らせる。

連合はまたもや核を用いてきたのだ。考えられない可能性では無かったが、それでもなおやはり驚愕は大きい。

「何だと!?」

「数は!?」

混乱するオペレーターを一喝するように冷静に努めながら問う高官にハッと我に返り、内容を続読する。

《ふ、不明です! ですが、かなりの数のミサイルケースを確認したとのことです!》

一発でもコロニーを崩壊させる威力を持つ核ミサイルが相当数の数を用意していると判断した高官達はすぐさま国防本部、評議会…そして、展開中の全部隊に極軌道の奇襲部隊迎撃を発した。





ハイネのザクファントムが放つビームをアレットのセンチュリオンが避け、両手のショットライフルを撃ち返し、機体を掠める。

「ちぃぃ! やるじゃないかっ」

鈍重な外見からは予想もできない機動力と敵パイロットの高い腕。今の連合にこれ程のパイロットがいるとは思いもしなかったが、だからといって退くつもりなど毛頭ない。

自機をトップスピードに乗せ、ビームを撒き散らせながらハイネは急加速する。ビームに晒されたセンチュリオンは動きを固まらせる。そのまま加速し、シールドスパイクを突き出して突貫し、センチュリオンに激突する。

衝撃が互いの機体に振動し、アレットは呻く。だが、唇を噛み締めながら睨みつける。

「舐めるなぁぁっ」

強引にバーニアを噴かし、体勢を戻したセンチュリオンがその腕を振り、ザクファントムを殴りつける。続けての衝撃にハイネが身を打ちつける。格闘戦も考慮されているその機体設計故に、センチュリオンはコックピットにも衝撃中和用のクッションシートが搭載されている。それがアレットの衝撃を和らげたが、ハイネはそうもいかない。

弾かれるザクファントム目掛けてリニアライフルで追い討ちする。狙われたハイネはシールドに被弾し、呻く。

「このぉぉ」

仮にもエースと呼ばれるハイネはその衝撃に耐え、スラスターを噴かして上昇する。距離を取り、ミサイルを一斉射し、無数の弾頭がセンチュリオン周囲で拡散し、機体を焦がし、融かす。

装甲を傷つけられながらも、センチュリオンは怯むことなく爆発のなかを突っ切り、ザクファントムに襲い掛かり、ビームサーベルを振るい、ハイネもまたビームトマホークを振るった。

交錯した瞬間、ビームサーベルが左肩のショルダーシールドを斬り飛ばし、トマホークがセンチュリオンの左腕をライフルごと切り裂いた。爆発が機体を襲うなか、2機はダメージを気にも留めず、再度撃ち合う。

リニアライフルの弾丸とビーム突撃銃の熱量が宙域を行き交い、砲火の華が咲き乱れる。そして、再度急接近した2機は至近距離で敵機に向けて銃口を構え、ハイネとアレットの視線が交錯した瞬間、トリガーを引き、視界が閃光に包まれた。

同宙域で同じくセラフのザクウォーリアが両肩のガトリング砲を連射し、牽制する。その牽制をむしろ愉しむようにバスタードを駆るイリア。

イリアはバスタードのシールドに装備された対艦弾頭を発射し、数発のミサイルが弧を描きながらザクウォーリアに向かうも、緩慢な動きに回避しようとした瞬間、ミサイルが砕け散った。

内部から放出される無数のベアリングにも似た細かな弾頭が周囲に拡散し、セラフだけでなく周囲に布陣していた友軍機にも降り掛かり、装甲をひしゃげさせ、爆発する。混乱するなかへ両肩のシュラークを発射し、ゲイツRが、シグーが撃ち抜かれ、爆発する。

「ううっ」

拡散弾によって装甲を掠められたセラフは衝撃と友軍機の消失に悲痛な面持ちとなる。だが、そんな傷みすら味わうようにイリアは攻撃を続ける。

「アハハハハ、キレイキレイ! もっと必死で逃げないと…死んじゃうよ♪」

可愛らしく首を傾げながらも、その眼は獲物を狙う小悪魔のように歪み、イリアは被弾して必死に後退しようとするザフト機を狙う。

逃げまとうゲイツRに向けて手持ちのビームライフルで狙い、脚部を吹き飛ばす。恐怖に歪むパイロットの前で次は肩を撃ち抜く、衝撃で背を向けたゲイツRのバックパックに弾丸を撃ち込み、スラスターを歪ませ、響く衝撃にパイロットは恐慌状態に陥る。

相手の恐怖が最高潮に達した瞬間、イリアはまるで天使のように笑顔を浮かべた。

「バイバイ」

無邪気に…そして無慈悲に放たれた一射がコックピットを貫き、ゲイツRが爆散する。その光景にセラフは感情が沸騰する。麻痺していた身体に鞭打ち、セラフはザクウォーリアを加速させる。

「うぉぉぉぉっ!」

咆哮を上げながら迫るザクウォーリアにイリアは慌てるでもなく口元をニタリと歪める。

「私に近づくと…死んじゃうよぉ!」

放たれるガトリング砲が機体を掠めるなか、シュラークを連射する。ビームが機体を掠め、融かすも怯まずセラフは突撃し、接近してビームアックスを振るう。

振り下ろされた一撃がシールドを切り裂き、バスタードを吹き飛ばす。衝撃に身を打つイリアは表情を顰めることなく笑みを浮かべていた。

「痛い? そうか、これが痛いんだ? じゃあ、貴方にもしてあげる!」

痛みすら快楽のように全身を駆け巡る。イリアはそれをなおも求め、ザクウォーリアに襲い掛かり、セラフは砲撃をかわしながら左手にビームトマホークを抜き、両手に得物を構えて突貫する。

振るう刃の一撃をイリアは間近に漂っていたダガーのシールドを拾い上げて防ぎ、そのまま蹴り弾く。弾かれたセラフは呻きながらトマホークを投擲し、回転刃がバスタードの右腕を切り飛ばし、イリアの放ったビームが右肩の装甲を吹き飛ばした。

左翼では、互いに退かない攻防が続く。駆逐艦に迫るゲイツRがビームとレールガンを放ち、艦橋を潰すも、次の瞬間には回り込んだウィンダムに貫かれ、爆発する。だが、そのウィンダムもまたバルファスの放ったキャノンに消える。

連鎖のように次々と宇宙に消えるなか、舞う二つの機影。ワインレッドのシグーとダークグレーのザクウォーリア。シグーの放つガトリング砲を悠々と回避し、ビーム突撃銃で応戦する。

そのビームを回転しながら回避し、ジストは内に沸き上がる高揚感を抑え切れずにいた。連合に入り、この鹵獲機を与えられて最前線に送り込まれるというあからさまな現状さえ、自身の価値を高めるという目的のために割り切っていた。だが、今は違う…この眼前に立ち塞がる相手は今まで演習で相手した連合の機体や先程まで駆逐してきたザフト機とも違う。まごうことなきエースクラスだった。

「本物の優等種様にようやく巡り会えたな…嬉しいぜ!」

ようやく己の真価を確認できる相手と合間見えた歓喜とその相手と繰り広げる戦いの興奮がジストの気配をより研ぎ澄ませていく。

シールドから抜いた重斬刀を振り被り、斬り掛かる。ザクウォーリアはシールドで受け流し、空いた隙目掛けてトマホークを振るうが、ジストは左手の突撃銃を滑り込ませ、トリガーを引いた。

弾丸がトマホークの刀身を砕き、ルカスは感嘆の声を上げながら距離を取る。

「ほう? なかなかどうして」

鹵獲された機体を使用していることからも、相手もコーディネイターではないかと踏んでいたが、その腕は下手をすれば、友軍パイロットよりも秀でている。それ程の腕を連合で磨いたという感心と、こうして戦いを愉しめるという喜色がルカスに笑みを浮かばせる。

終戦前から何度か戦い、最終戦にも加わった。だが、その後は物足りない毎日だった。大きな戦いもなく、時折出没する海賊やゲリラとやり合うのみ。それは、ルカス自身を酷く空虚なものへと追いやる。

そして、デュランダルという為政者によって牛耳られるプラントは、ルカスにとってまさに牢獄に近く、飼い殺しにされている気分だった。生まれながらにして戦いのみを欲しているルカスにとっては、今の回りの世界は味気ないものだった。だが、その腕ゆえに軍部は除隊を許可せず、また仮に出ても自分には戦いしか望めない。

そこへ勃発したこの戦争…それがルカスに久方ぶりの高揚を与え、それに導かれるままに出逢った強敵を前にルカスは愉しむべく機体を駆る。

互いに戦いを求める獣達は、この用意された舞台を堪能すべく、ぶつかり合う。

戦闘中央部では、突撃してきた連合軍と防衛軍の激しい艦砲の撃ち合いが続く。ヴァネッサの駆るゴールドのザクファントムはブレイズのスラスターを噴射し、立ち塞がるダガーLを強引な機動で回避しつつ、両手の突撃銃を乱射し、破壊、もしくは被弾させる。ヴァネッサの先に映るのは一隻の護衛艦。対空砲火を潜り抜け、肉縛すると同時にバックパックからミサイルを吐き出す。

「おらっ喰らいやがれっ」

放たれるミサイルが護衛艦に降り注ぎ、装甲を穴だらけにしながら噴き出した火に呑まれ、轟沈する。

一気に離脱し、墜とそうと躍起になるダガーLを一瞥し、応戦する。ヴァネッサ達のような熟練になれば、未だOSの補助なしに満足な動きのできない大多数のナチュラルの駆るMSはそれ程大きな脅威ではないが、彼らの恐ろしさはその数にある。

「くそっぞろぞろと後から沸いてきやがるっ」

ライルの駆るザクウォーリアがオルトロスを放ち、一隻の駆逐艦を狙い撃つ。横っ腹を貫かれ、炎上するも、その後から倍近い数の艦艇と夥しい数のMSが押し寄せてくる。やはり、純粋な物量差は覆せないものを思わせるも、ヴァネッサは怖気づくことなく友軍を鼓舞する。

「いいか、てめえら! 防衛線を一歩も通させるな!」

威勢のいい返答とともに突撃する敵軍を迎撃するために向かう。連携を取ろうとしているダガーLだったが、させまいと一方の銃で狙い、一機を牽制すると同時にもう一方で狙い撃ち、ダガーLを撃ち抜く。僚機の消失に浮き足立つ敵機を逃すまいと再度両手で狙い、頭部とボディを貫かれ、爆発する。

「しかし、こいつらいったいなにがしたい!?」

予備カートリッジを装填しながら、ヴァネッサは連合の行軍に疑問を抱く。いくら物量が大きいとはいえ、既に投入されている連合側も3割近い損耗を受けているはずだ。なら、なにかしらのアクションを起こすはずだが、連合の攻撃は開始と同時に力押しの正面突破のみ。

それが、なにかしらの嫌な予感を抱かせる。いくらなんでも愚直に正面から行軍しても、最終的な被害が馬鹿にならないはずだ。それを考えられないほど無能なのか、それとも別の思惑があるのか……試行錯誤していたヴァネッサのもとにゴンドワナからの緊急通信が飛び込んだのはその時だった。

「何だ? 極軌道に別働隊…核だとっ!」

思わず腰を浮かせるほど驚愕する。

「隊長!」

同じく通信を確認したライルが上擦った声で呼び掛ける。

「やられたぜ…こいつら、ただの囮だ!」

自分達の関心がただ正面のみに向けられていたという敵の陽動に怒りを憶えるが、それよりも早く迎撃に向かおうとするが、それを阻むように連合軍が立ち塞がる。

「くそっどきやがれっ」

焦りながら銃を乱射するも、まるで壁のように現われる無数のMSに、悪寒と焦燥は募り、苛立つ。

突撃してきたダガーLをトマホークで一閃したヴァネッサは、なおも急いだ。


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