「シートの後に!」

マリューがキラに促す。

それに従ってキラは戸惑いな がらもシートの後ろの方へと移動し、開いたシートにマリューが座り込む。

「せめてこの機体だけでも… 私にだって動かすくらいなら!」

まだ出血が止まらない腕をレ バーに乗せ、左手で起動ボタンを押す。

それから、モニター表示ス イッチ、索敵スイッチ、バランサー制御スイッチを押し、OSを立ち上げる…

コックピットの壁にモニター が灯り、周りの状況が映る。

そんな中、キラはモニターに 映る隣に横たわるイージスを見やる。

キラの脳裏に蘇る先程の情 景……

 

幼い頃のアスラン……

そして…ナイフを振り上げ、 鬼気迫る表情のアスラン……

 

その二つの映像が鮮明に浮か ぶ。

(アスラン…いや、まさ か………)

未だに信じられずに呆然と呟 く。

その間にもOSは起動し、そ ちらに眼を向ける。

 

welcome to  M.O.S

地球軍のマークを背に文字が 浮かび、セットアップが始まる。

 

-eneral

-nilateral 

-euro−Link 

-ispersive 

-utonamic 

-aneuver

 

「ガン…ダム?」

咄嗟に、OSの赤く輝く頭文 字を読み上げてキラはそう呟く。

マリューは左手で握っている レバーを前に押し出した。

すると、エネルギーインジ ゲーターにエネルギーが満ちていった。

そして、機体は力強い振動を 始め、鈍い金属音と、エネルギーケーブルの弾く音が伝わり、次第に、ガンダムは上半身を起こしていった。

 

マリューがスイッチを入れる と、ガンダムは手で上体を起こし、背中のケーブルラインを排除しながら地に脚をついた。

そして、まだ光の灯っていな いアイセンサーに光が灯る……

炎が鋼色の装甲に照り映え、 聳え立つその威容を赤く照らし出した。

 

 

機動戦士ガンダムSEED 

TWIN DESTINY OF  DARKNESS

PHASE-02  堕天使

 

 

『―――ヘリオポリス全土に レベル8の避難命令が発令されました。住民は速やかに最寄の退避シェルターに――――』

政府広報のアナウンスががら んとした街に響き渡る。

ジンの攻撃が続く中、ヘイオ ポリスの人々はシェルターに向かって逃げまとう。

そんな中、カトウゼミから逃 げ出したトール達もシェルターに向かって走っていた。

だが、その足が止まる。

モルゲンレーテの建物が崩壊 し、その爆煙の向こう側から灰色のMSが2機姿を現わした。

その内の1機、イージスはジ ンのすぐ近くへと着地する。

既に識別信号は変えてある。

それによって認識したジンの パイロット、ミゲル=アイマンは通信を繋ぐ。

「遅かったな、アスラン」

だが、アスランはそれに答え ずに別の言葉を発する。

「ラスティは後退した!」

「何!?」

その言葉にもう1機を見や る。

「向こうの機体には地球軍の 士官が乗っている!」

ミゲルは残りの一機を見や る。

飛び出したストライクガンダ ムは着地するが、おぼつかないフラフラとした足取りで動く。

機体が大きく傾き、キラは倒 れないように身体を踏ん張る。

コックピットで悪戦苦闘しな がら操縦するマリューだが、MSの動きはぎこちない。

表示されるいくつものモニ ター。

見慣れたヘリオポリスの無残 な風景に唖然となり、画面の隅に動く人影を見たキラが声を上げる。

「! サイ!トール!ミリア リア!」

モニターには瓦礫の中を逃げ るトール達の映像が映し出されていた。

 

「ちぃ!」

ミゲルは舌打ちしながらジン のライフルで攻撃する。

銃弾がストライクの足元に着 弾し、ストライクはバランスを崩す。

「なら…あの機体俺が捕獲す る……お前はそいつを持って早く離脱しろ」

それだけ告げると、ジンがス トライクに向かう。

その光景を見詰めるアスラン は表情を歪める。

 

――――キラ=ヤマト……

あの月でのかけがえのない幼 馴染。

(キラ…いや!そんなはずは 無い…あいつがあんなとこにいるはずが……)

首を振って必死に考えを打ち 消す。

キラであるはずがない…キラ は月にまだいるはずだ。

こんな所で…しかも、地球連 合軍の新型機動兵器の開発に関わっているはずがない。

アスランは奥からキーボード を取り出し、素早くOSを書き換え始めた。

 

その間にもジンは76mmマ シンガンを発砲し、ようやくバランスを保ちかけていたストライクに大きな揺れが襲う。

「くっ!」

不慣れな操縦でマリューはな んとか攻撃をかわすが、その振動によってキラはバランスを崩し、マリューの前面に倒れ込む。

「離れなさい!死にたい の!?」

「す、すみません……」

マリューの言う事ももっとも だが、元々身体を固定していないキラにはこの激しい振動の中でジッとしていることの方が困難だ。

「ふん…そんな動きで!」

隙だらけのストライクに剣を 振り上げて迫る。

ジンが迫る様子がモニターに 映る。

「ちぃぃ!」

マリューは舌打ちしながらあ るスイッチを押す。

すると…それに連動して今ま で灰色だったストライクのボディに鮮やかなカラーリングが浮かび上がる。

そして両腕をクロスさせてジ ンのサーベルを防ぐ。

「こ、これは…!?」

キラだけでなく、ミゲルもこ れには驚いた。

「バカな…一体、どうなって いるんだ、こいつの装甲は!?」

離脱するジンに同じXナン バーのOSを解析していたアスランから通信が入る。

「こいつらは…フェイズシフ トの装甲を持っているんだ…展開されたら、ジンのサーベルでは通用しない」

フェイズシフト……位相転移 システムは以前から理論的には開発されていた。だが、それを兵器に採用したのはこのXナンバーが初だ。一定の電流を流すと位相転移が起こり、装甲が硬質化 してミサイルなどの実体弾を初め、あらゆる物理攻撃を無効化する強度を持つようになる。

証明するかのようにイージス にも鮮やかな赤のカラーリングが暗い鋼の色を脱ぎ捨てるように施される。

そして撃ち出されたミサイル をイーゲルシュテルンで砲撃する。

「お前らは先に離脱しろ…何 時までもウロチョロするな!」

ミゲルの叱咤にアスランはス トライクを見やる。

脳裏に幼い頃のキラの面影が 浮かぶが、唇を噛み、イージスは離脱していく。

その光景を為す術も無く見詰 めるマリューとキラ。

だが、機体内に警報が鳴り、 ジンが再度迫ってくる。

「邪魔よ!」

マリューは操縦桿のトリガー を引く。

連動してストライクの頭部に 装備された75mm対空バルカン砲・イーゲルシュテルンが発射されるが、弾丸は虚空を切る。

(! まさか…これはま だ……!)

バルカンの弾丸が逸れたのは 完全な照準修正がされていないからだと悟るが、再び衝撃を受けてその考えが消える。

「ふん!いくら装甲がよかろ うと!!」

剣を振り上げ、ストライクを 弾き飛ばす。

「そんな動きで!!」

再度殴りつけ、ビルに叩きつ けられるストライク。

瓦礫が降る下ではトール達が 逃げていた。

コックピットのモニターにも その映像が映る。

だが、ジンは容赦なく迫って くる。

「生意気なんだよ…ナチュラ ルがMSなど!!」

フラフラと起き上がったスト ライクは後方へと後ずさるが、その先には恐怖に脅えるトール達の姿。

「!!」

キラは眼を見開く。

突き出される剣。

襲い来る激しい動悸にキラは 身を乗り出し、スイッチを押す。

それに連動してストライクは しゃがみ込み、剣をかわす。

それだけでなくキラはマ リューの手の上からレバーを握って引く。

しゃがみ込んでいたストライ クは起き上がりながらジンに体当たりをくらわす。

「うおわぁぁ!」

流石にその反撃は予想外だっ たのか、ジンは態勢を崩して倒れ込む。

ジンの巨体が吹き飛ぶのを眼 を丸くして驚愕の表情で見詰めるトール達。

キラはモニター越しにジンを 睨みつける。

「君…?」

マリューもその行動に唖然と なる。

だが、キラはお構いなしにシ ステムを動かし、OSの調整画面を呼び出す。

「ここにはまだ人がいるんで す…こんなものに乗ってるんだったら、何とかしてくださいよ!」

キラの言葉にマリューは自分 の不甲斐なさに口を噤む。

そして呼び出されたOSの画 面を見てキラは驚愕する。

OSはまったくもって不完全 な状態だったからだ。

「む、無茶苦茶だ…こんな OSでこれだけの機体を動かそうだなんて」

「まだ、全て終わってないの よ!仕方ないでしょ!!」

そうこうしている間にもジン は立ち上がって来る。

「くっ、どいてください!」

キラはマリューに叫ぶ。

「早く!」

マリューは面食らうが、素直 に身体をシートの後ろへと移動させ、代わりにキラがシートに座り込み、シートの後ろからプログラム用入力キーボードを取り出す。

そして素早くOSのセッティ ングを変えていく。

その眼にも止まらぬ速さにマ リューは驚愕する。

(この子……!?)

だが、それを待ってくれるほ ど敵は甘くない。

剣を振り上げ、再度迫ってく る。

プログラム画面を睨みつつ、 視界の隅でジンを捕らえ、同時に到達予想時間と処理作業に要するプロセスを頭の中で計算する。

「!!」

邪魔はさせまいとキラは片手 でトリガーを持ち、修正した照準システムでバルカンを発射する。

今度の放ったバルカンはジン の装甲に全て着弾する。

「何!!?」

突然の攻撃の変わりように驚 き、バランスを崩しかけるが、それでも突撃していく。

だが、ストライクは右腕を 引っ込め、突撃してきたジンのスピードを利用してカウンターの要領でジンの頭部に拳を叩き込んだ。

火花を散らし、ビルに叩きつ けられるジン。

今がチャンスだと思い、キラ はOSの修正を再開する。

「キャリブレーション取りつ つ、ゼロ・モーメント・ポイント及びCPGを再設定」

だが、それでもまだOSの修 正は完了しない。

軽く舌打ちしてさらに細かな OS部分の修正画面を呼び出す。

「ちっ、擬似皮質の分子イオ ンに制御モジュールを直結…ニュートラルリンゲージ・ネットワーク、再構築……メタ運動関数パラメータ更新、フィードフォワード制御再起動、伝達関数、コ リオリ偏差修正、 運動ルーチン接続…システムオンライン!ブートストラップ起動!……全システム起 動!」

OSを書き換えられ、ストラ イクのカメラアイに新たに光が宿る。

 

「なんなんだアイツ…急に動 きが!」

相手の突然の動きの違いに戸 惑いながらもジンは剣を収め、腰からライフルを取り出す。

それが機体へと着弾し、スト ライクはバランスを崩す。

衝撃によって振動に包まれる コックピット。

キラは足元のペダルを踏み込 み、レバーを引き上げる。

刹那、バックパックのブース ターが火を噴き、ストライクは空中に舞い上がる。

さっきまでの稚拙な動きが見 違えたようにシャープになる。

ジンもライフルを撃ちながら それを追う。

空中で激しくぶつかり合う2 機。

キラはその間にストライクの 武器を探していた。

バルカンでは致命的なダメー ジを与えられていない。

「武器…!」

画面に表示されるのは頭部の イーゲルシュテルンと両腰に装備されたアーマーシュナイダーのみ。

「あとは、アーマーシュナイ ダー…これだけか!」

毒つきながら両腰からアサル トナイフを取り出し、両手で掴む。

地上へと着地し、銃弾をかわ しながら走る。

「くそっ!チョロチョロ と!!」

ミゲルは苛立つ。

「こんなコロニーの中 で……!!!」

ストライクはブースターを全 開にして加速する。

銃撃の中を掻い潜り、ジンに 突撃する。

「やめろぉぉぉぉぉ!!!」

ジンの懐へと一気に飛び込 み、左手のアサルトナイフをジンの右肩の間接部へと差し込む。

火花が散る中、残った右手の アサルトナイフでジンの首筋を貫く。

激しく火花が散り、ジンの コックピットには異常を告げるシグナルが点灯する。

「ハイドロ応答無し?多元駆 動システム停止!?ええいっ!」

ミゲルは舌打ちしながらシー ト横のレバーを引き、ハッチを吹き飛ばす。

コックピットから飛び出すと 同時に飛び去る。

その行為に逸早く気付いたマ リューが声を掛ける。

「いけない!ジンから離れ て!!」

「!?」

言われるや否やキラはストラ イクを動かし、ジンから離れる。

次の瞬間、ジンは…爆発し た。

その激しい衝撃に呑み込まれ ながらストライクは転倒する。

爆発の煙が立ち込める中…友 軍機が倒されたことに周囲にいた他のジンが気付く。

「ミゲルが……!」

「ちぃい、ナチュラル め!!」

3機のジンが転倒したストラ イクに向かってくる。

「まずい、早く起こし て!!」

マリューが叫ぶが、キラの動 作は間に合わない。

その時、ストライクの後方に あったモルゲンレーテのラボが崩壊し、その中から一体の影が姿を現わす。

その機影に気付いたジンも動 きを止める。

キラとマリューも突然姿を現 わした機体に眼を向ける。

「! アレは…X000!! どうして!!」

モニターに映る真紅の翼を持 つ漆黒の機体にマリューは驚愕に眼を見開いた。

 

 

「何…このチャチなOS は……」

起動させたルシファーに搭載 されていたOSを見た瞬間…レイナは唖然となり、愚痴る。

まったくもって不完全な状 態……これでは戦闘どころかまともに動くのさえ不可能に近い。

シートの奥からキーボードを 取り出し、瞬時にOSを書き換える。

「空中姿勢制御、システム直 結…エネルギーラインオンライン、ゼロ・モーメント・ポイント及びCPGを再設定…制御モジュールを直結…ニュートラルリンゲージ・ネットワーク、再構 成……メタ運動関数パラメータ更新、フィードフォワード制御再起動、伝達関数、コリオリ偏差修正、 運動ルーチン接続…システムオンライン、ブートストラップ起動……全システム再起 動」

刹那…ルシファーの真紅の瞳 が輝き、ウイングスラスターが青白い光を放つ。

次の瞬間…ルシファーに向 かってジンがライフルを乱射してきた。

レイナの瞳に敵の攻撃の軌道 が映り、操縦スティックを握り、機体を旋廻させる。

同時に索敵、機体のオプショ ン画面を呼び出す。

モニターに表示される機体形 式番号。

 

『ZGMF−1017』  『GAT−X105』

 

「ジンが3機…向こうの機体 は形式番号からするとこの機体と同系機……戦闘してるところから見ると、あの機体は地球軍のもの」

どちらにしろ、向かってくる なら倒すまでだが…先にこちらを攻撃してくるジン3機を相手にする方が先であった。

別の画面に表示される機体各 所に搭載されたオプション武装……その内の一つを選ぶ。

胸部マシンキャノン砲で降下 しながらジンを狙撃する。

降り注ぐ銃弾にジンの動きが 鈍る。

その隙をついてレイナは次の 武装を選択する。

ルシファーは腰部からビーム サーベルを抜き、急降下していく。

降り立つと同時にジンの間を 駆け抜ける。

通り過ぎると…ジン3機は両 腕、両脚を斬り裂かれ、爆発した。

爆発の中……ルシファーは ゆっくりと起き上がる。

炎に照らされるその姿は…ま さに堕天使のそれであった。

 

 

 

その頃…爆発したシャフト内 を漂う残骸と死体……

その内の一つがぶつかり、ナ タル=バジルールは意識を取り戻した。

司令ブースを飛び出し、直後 爆発に巻き込まれて意識を失ったところまでは覚えている。

状況確認のために辺りを見渡 すが、広がるは施設の破片と血まみれの死体のみ……

「艦は…アークエンジェル は……!」

呆然となっていたが、すぐに 壁を蹴り、無重力の中を司令ブースへと向かって飛んだ。

 

 

同じく、ヘリオポリス外では 未だに戦闘が続いていた。

出撃したメビウスは全て落と され、唯一ムウの駆るゼロが奮戦しているが、ジンの1機が輸送船のエンジン部分を破壊する。

「操舵不能!!」

オペレーターの悲痛な声。

艦はコントロールを失い、爆 発によって生じた慣性に従ってコロニー外壁へと衝突コースを取った。

迫り来るコロニーの壁が艦長 達の最後の光景となった。

外壁にぶつかり、爆発する輸 送船。

それを見詰めるジンに向かっ てゼロが迫る。

「ちぃ、この戦力差ではどう にもならんか!」

舌打ちをしながらガンバレル を展開し、ビームの攻撃をジンに浴びせる。

それによってジンの右腕が砕 け、ジンは離脱する。

追い討ちをかけようと反転し たところで別に機影が港から飛び出してきたのをキャッチする。

「新手か…いや!」

モニターに映るはMSだが、 ムウには見覚えはない。

だが、ゼロのコックピットに はMSの機体ナンバーが表示されている。

「あれは…X303!奪われ ちまったのか!!」

それは…地球連合によって開 発されたXナンバーであった。

イージスがヴェサリウスへと 向かうのを唇を噛み締めながら見詰めるのであった。

 

 

 

戦闘の状況がヴェサリウスに も伝わる。

「オロール機被弾…緊急帰 投!消火班Bデッキへ」

オペレーターの報告にクルー ゼは眉をやや上げる。

「オロールが被弾だと…こん な戦闘で」

アデスは意外そうに呟く。

「どうやら…いささか煩いハ エがいるようだな」

それに答えるように軽く笑み を浮かべたクルーゼが呟く。

その言葉の意味が理解できず にアデスは頭は捻るが、更に別の報告が飛び込んでくる。

「ミゲル=アイマンからの レーザービーコンを確認…エマージェンシーです」

「あ、コロニー内に突入した ジン全てのシグナルロスト!!」

その報告には流石もクルーゼ も表情を変える。

「ミゲルが機体を失い、ジン が全て撃破されたところまで事態が動いてるとなると……」

言いながらクルーゼは席を立 ち、身を翻す。

「どうやら…そのままにはし ておけん」

誰にも聞こえずに呟くと…格 納庫へと向かうのであった。

 



BACK  BACK  BACK





inserted by FC2 system