その頃…ドックに面した司令ブースへと飛び込んだナタルはその惨状に言葉をなくしていた。

爆発によって正面のガラスは砕け散り、僅かに点灯する非常灯のみが薄暗い部屋を照らす。

だが、動く者などなにもない。

散らばる瓦礫の間にはブースにいた士官や兵士達の制服が無残に漂い、その前方に艦長の遺体を見つける。

「誰か…生き残っている者はいないのか!?」

ナタルの悲痛な叫びに応えるものはいない。

その時、別方向のドアが壊され、そこから一人の人物がライトを片手に入ってきた。

「バジルール少尉!ご無事でしたか?」

ライトに照らされたナタルは眼を覆いながら相手を確認する。

ライトを片手に寄ってきたのはアーノルド=ノイマン曹長であった。

 

 

戦場に信号弾が打ち上げられる。

それに応じてジンが後退していく。

「引き上げる?」

その行動に疑問を浮かべる。

だが、すぐに違った思考が流れ込んでくる。

「いや…まだ何か……これは!」

何かに気付いたムウは態勢を立て直すべくゼロを発進させる。

そして…ヴェサリウスから発進する1機のMS…シグー。

そのコックピットにはクルーゼの姿があった。

「私がお前を感じるように…お前も私を感じるのか…不幸な宿縁だな…ムウ=ラ=フラガ」

憎悪と奇妙な笑みを浮かべ呟くと共に、一路、ヘリオポリスへと向かうのであった……

 

 

戦闘後、ヘリオポリス各所に生々しい戦闘の跡が残る。

未だ鳴り止まぬ非常警報…そしてその近くにある公園にフェイズシフトの解けたストライクガンダムとルシファーガンダムが鎮座していた。

ストライクガンダムのコックピットからキラに肩を貸してもらいながら降りてきたマリューはストライクの周囲に集まってきたトール達にも手を貸してもらい、眼前のルシファーを見上げる。

(まさか…この機体が動くなんて……一体、誰が……?)

技術仕官であったマリュー自身も驚愕と困惑の中にいた。

この機体はG計画のプロトタイプとして開発された全てのGの元となった機体。

だが、その操作の難しさと制御するOSを組めなかったために破棄が決定されていた。

その機体をあそこまで自在に扱いこなす…一体、どんなパイロットが乗っているのか。

やがて、ハッチが開き…そこから姿を現わした人影にその場にいた全員が眼を見開く。

想像とはあまりにかけ離れた少女の姿……

「! あの娘……」

その姿に見覚えがあったキラが声を上げる。

その間にもコックピットから降りてくる。

「貴方が…アレを動かしてたの?」

「見れば解かるでしょ」

上擦る声で尋ねるマリューに素っ気なく応えるレイナ。

「貴方達…こっちに集まりなさい」

マリューは懐から銃を取り出すと、銃口を向けて全員を促す。

「助けてもらったことは感謝します…でもアレは…地球軍の機密事項です。民間人が触れていいものじゃないのよ!」

睨みながらそう答える。

「なんだよ…さっき操縦してたのはキラじゃんか……」

小声でそう呟くトールをマリューはキッと睨みつける。

そして銃口を向ける。

「一人ずつ…名前を聞かせてちょうだい」

「サイ=アーガイル」

「カズィ=バスカーク」

「トール=ケーニヒ」

「ミリアリア=ハウ……」

そこまで終わると…マリューは一番知りたかった二人に銃口を向ける。

「キラ…ヤマト」

キラは答え返すが、レイナは無言のまま答えようとはしない。

「答えなさい!」

痺れを切らしたマリューが怒鳴るが、レイナは臆した様子も見せない。

その態度に諦めたマリューは時間が惜しいのか後回しにする。

「私は、マリュー=ラミアス。地球軍の士官です。申し訳ないけど…貴方達をこのまま解散させるわけにはいかなくなりました」

その言葉に驚愕する一同。

レイナの眼が一瞬細まる。

「事情はどうあれ…軍の重要機密を見た貴方達は、然るべき所と連絡が取れ、処置が決まるまで、私と行動を共にしてもらいます」

「何でなんですか!僕達はヘリオポリスの民間人です…中立です!軍とかなんとか全然関係ないんです」

「そうだよ…大体、何で地球軍がヘリオポリスにいるんだよ…そっからしておかしいじゃんか」

「そうだよ…だからこんな事になったんだろ!」

マリューの言葉に非難の声を上げる。

キラは眼を伏せる。

だが、銃声が響き渡る。

宙に向けて銃を放ったマリューはキッと睨みつけ、トール達は押し黙る。

「黙りなさい…何も知らない子供が」

その迫力に押されてしまう。

「中立だから…関係ないといえばすむ…まさか本当にそう思っているんじゃないでしょうね……ここに地球軍の重要機密があり、貴方方はそれを見た…それが今の、貴方達の現状です」

周囲には人っ子一人いない廃墟の街並み……

そして撃破されたジンの残骸……

それらがマリューの言葉を証明していた。

「そんな乱暴な……」

「乱暴でもなんでも、戦争をしているんです」

その言葉にキラはハッとなる。

「ナチュラルとコーディネイター…貴方方の外の世界はね」

「……だからと言って、子供に銃を向けるなんて地球軍も底が知れてるわね」

ボソッと吐き捨てるように呟かれた言葉…マリューはレイナに銃を向ける。

「私を撃つ?……別にいいわよ、撃ってみなさい。どうせ、撃ったところで状況は変わらないし、貴方は罪悪感に襲われるだけ」

冷たい真紅の眼光を向けられてマリューは僅かに怯む。

「だいいち…機密っていうわりにはザフトに襲撃を受けた……情報の漏洩がどこかであったということ」

レイナはマリューの性格を見抜いていた…今のも単なる虚勢、眼の前の女性仕官は非情になるようなタイプではない。

「回りくどいことせずにさっさと次にやるべき事を言ったら?ザフトのMSを撃退した以上、何時次の襲撃があるかわからないんでしょ…私は命が惜しいから」

レイナはそう言うと、身を翻し、ルシファーへと向かう。

その姿にマリューやキラ達も呆然となるのであった。

 

 

コロニー周辺を慎重に気を払いながら動くゼロ。

コックピットのムウの額にも汗が流れる。

「!!」

その時、敵意を感じる。

眼を向けた方向には…コロニーの影に隠れていたシグーがライフルを放ってきた。

それを急加速してよけながらムウは相手を感じ取る。

「貴様…ラウ=ル=クルーゼか!!」

これまで何度も戦場で渡り合ってきた宿敵。

だが…何故か、ムウはその存在を感じ取れる……五感よりも深い場所で感じる相手の気配。

シグーに回り込み、ガンバレルを展開するが、シグーは悠々とかわす。

「お前は何時でも邪魔だなムウ=ラ=フラガ!もっともお前にも私がご同様かな!!」

皮肉げに呟き、クルーゼはシグーをヘリオポリス内へと向ける。

「くっ、奴め!ヘリオポリスの中に!!」

舌打ちをしながらムウもその後を追ってヘリオポリス内に突入する。

 

 

爆発に巻き込まれ、斜めに傾いたアークエンジェル……

アークエンジェルのブリッジにてナタルとノイマンの姿があった。

「無事だったのは…艦にいた数名のみです。もっとも、全員が工員ですが…」

悔しげに呟くノイマン。

「状況は…ザフト艦はどうなっている?」

「解かりません…私共も、周辺の状況を確認すのが精一杯で……」

ナタルは無言でアークエンジェルのシステムを起動させる。

ブリッジ内に光が灯り、艦の状態を示す画面が表示される。

レッドシグナルが点灯しているのはほんの数ヶ所で、さして重大な被害はなかった。

伊達に地球軍の新造戦艦ではない。

「流石はアークエンジェル…これしきのことで沈みはしないか」

「ですが…港口側は瓦礫が密集してしまっています」

たとえ無事でも、閉じ込められてしまったことには変わりない。

ナタルは苦悶を浮かべながら通信回線を開く。

だが、回線にはノイズが走っていた。

「まだ、通信妨害が続いている…ということはこちらが陽動……」

そこでナタルはある考えに至る。

「ザフトの目的はモルゲンレーテということか!」

自ら辿り着いた結論に愕然となる。

「くそ!あちらの状況は…『G』はどうなったのだ!これでは何も解からん!!」

苛立たしげに呟く。

《こち…ら…X105……スト…イク…地球…応答願います……》

雑音混じりの通信が飛び込んできた。

 

 

「こちらX105ストライク!地球軍!応答願います」

公園にてストライクのコックピットでキラはアークエンジェルとの交信を試みていたが、電波妨害が激しく、通信も出来ない状態だった。

「…ダメか」

溜め息をつきながら通信インカムを外す。

レイナの方は通信回線がまだ繋がっていないため、起動準備を進める。

元々破棄される予定であったためにロクな設定もされていないようだ。

そこへ一台の大型トラックが走ってきた。

運転席から降りてきたサイがマリューの元まで駆け寄る。

「ナンバー5のトレーラー…あれでいいんですよね」

確認を取るサイ。

「ええ…ありがとう」

「で…この後僕達はどうすればいいんですか?」

「ストライカーパックを使えば、そしたらキラ君、もう一度通信をしてみて」

「はい」

頷くと同時に作業を始めていく。

 

 

コロニー内に場所を移したクルーゼはライフルを後方のゼロに向かって放つ。

「くっ!正気か!こんな所で!!」

かわしながらムウもゼロのリニアガンで応戦するが、シグーはそれを易々とよけ、逸れた弾はコロニーを破壊する。

シグーはコロニーの遮蔽物の影へと身を隠す。

「この辺で消えてくれると嬉しいんだがね…ムウ!!」

遮蔽物を突破すると同時にライフルを放つ。

銃弾がゼロのガンバレルを貫き、それに連動して数個のガンバレルも爆発するが、間一髪切り離しに成功し、ゼロは加速する。

 

 

アークエンジェルのブリッジにて艦長シートに座るナタル。

「艦を発進させるなど…この人員では無理です」

ノイマンは抗議するが、ナタルは作業の手を止めず、逆に叱咤する。

「そんな事を言っている間に、どうすればいいのかを考えろ。モルゲンレーテではまだ戦闘が続いているかもしれんのだぞ…それをここに篭って、見過ごせというのか!」

その言葉に口を噤む。

同時にドアが開き、残りの人員が入ってくる。

ジャッキー=トノムラ伍長、ロメル=パル伍長、ダリダ=ロー=ラパ=チャンドラU世伍長。

「連れてまいりました」

「シートにつけ、コンピューターの指示通りにやればいい」

「はいっ!!」

3人は分かれ、それぞれのシートに着く。

「外にはまだ、ザフト艦がいます…戦闘など、出来ませんよ」

「解かっている…艦起動と同時に特装砲の発射準備…できるな、曹長?」

その言葉にノイマンは諦めたようにシートに着く。

「発進シークエンス・スタート…非常事態のため、プロセスC−30からL−21まで省略……主動力オンライン!!」

「出力上昇…定確まで……450秒」

アークエンジェルにエネルギーが伝わっていくが、元々エネルギー充電も十分にされていなかったため回るのが遅い。

「長すぎる!…ヘリオポリスとのコンジットの状況?」

状況を打破するため、ナタルはアークエンジェルとヘリオポリスとの接続ラインを確認する。

「あ……生きてます!」

「そこからパワーを貰え…コンジット、オンライン!パワーをアキュムレーターに接続」

「接続を確認…ブロー正常、定確まで……20秒!」

「生命維持装置異常なし」

「CICオンライン」

「武器システムオンライン…FCSコンタクト…地場チェンバー及びペレットディスペンサー……アイドリン正常」

「外装衝撃ダンパー、最大出力でフォールド!」

「主動力コンタクト…エンジン異常なし。アークエンジェル全システムオンライン……発進準備完了!」

モニターに『AII OK NETWORK』の文字が浮かび上がる。

「気密隔壁閉鎖…総員、衝撃及び突発的な艦体の破壊に備えよ……微速前進、アークエンジェル発進!」

アークエンジェルのブースターノズルが展開し、そこから火が噴く。

そしてゆっくりとその白い機体を発進させていくのだった……

 

 

未だ戦闘を繰り広げるゼロとシグー。

残った最後のガンバレルを展開するが、シグーは上から急降下し、ガンバレルを蹴り付ける。

それによってガンバレルは破壊され、ゼロは残ったリニアガンで攻撃する。

 

 

運ばれた大型トラックの元まで歩み寄るストライク。

トラックの荷台部分が開かれ、その中には巨大な銃と装備の類が格納されていた。

だが、キラはどれが目的のものか解からない。

「どれなんですか…パワーパックって?」

コックピットから身を乗り出し、マリューに尋ねる。

「武器とパワーパックは一体となっているの…そのまま装備して」

その指示にオプション兵装『ランチャーパック』の接続を開始する。

トール達はトラックからの作業に回っていた。

「避難警報…まだ鳴り止まないね」

鳴り続ける警報音にミリアリアが不安げに呟く。

「親父やお袋達も避難してるのかな…?」

「あ〜あ、早く家に帰りたいぜ」

思わず愚痴を漏らしていると…天井から爆発音が響いてきた。

その方向に眼を向けると…コロニーを支えるシャフトを破ってゼロとシグーがヘリオポリス内に突入してきた。

シグーのモノアイが動く。

コックピットに表示されるストライクとルシファーの映像……

「ほう…あれか。未確認機が2機」

存在を確認したクルーゼが呟く。

「2機?…残ったのは1機のはずじゃなかったのか!?」

同じく確認したムウも焦る。

 

 

地上に向かって急降下してくるシグー。

だがそれを阻むようにゼロが突撃してくる。

思わず進路変更をするが、その際に突風が巻き起こり、トール達は悲鳴を上げる。

「装備をつけて!早く!!」

マリューも焦りながら駆け寄ってくる。

キラは必死にOSを書き換え、ランチャーパックを接続していく。

空中でシグーを押さえるゼロ。

そのゼロに向かって上から突撃してくるシグー。

「くっ!!」

ムウはリニアガンの砲身を上へと向けるが、それより早くシグーが剣を抜き、砲身を切り落とした。

「何!!?」

驚愕するムウを尻目にクルーゼは不敵な笑みを浮かべながらストライクとルシファーへ再接近する。

「今のうちに沈んでもらう!!」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

ランチャーパックがアジャストされ、キラはフェイズシフトを作動させる。

灰色のボディに色が浮かび上がり、ランチャーストライクガンダムが立ち上がる。

 

眼の前に立ち塞がるコロニーへの壁に突っ込んでいくアークエンジェル。

「特装砲発射と同時にアークエンジェル最大船速!!」

ナタルの指示にアークエンジェルの前部の左右ブレードの正面に巨大な砲口が出現し…エネルギーを放つ。

ドカァァァァァァンンンンン!!!!

凄まじい爆発と共に壁は破壊される。

 

「何!?」

その爆発に驚き、動きを止めるシグー。

崩れ落ちた岩盤と立ち込める爆煙の中から戦場に姿を現わす白い巨体……

キラもその戦艦に眼を奪われる。

「……天使の箱舟」

その姿を視界に入れたレイナは小さく呟く。

 

天使の名を冠せし艦…アークエンジェルは今、その息吹を上げた………

 

 

 

 

《次回予告》

 

私は…ナチュラルでもコーディネイターでもない……

 

レイナはルシファーを駆り、敵を撃つ。

その銃口の先にあるものは……

 

次回、「崩壊の大地」

 

己が敵を…撃て、ガンダム。




BACK  BACK  BACK




inserted by FC2 system