帰投したアスランはラスティの容態を聞くために医務室を訪れていた。

「アスランか」

「怪我はどうだ?」

「それ程酷くはないが…一 度、プラントに戻ってちゃんと検査した方がいいみたいだ」

包帯が巻かれ、それを吊るラ スティの姿が痛ましい。

「ミゲルがやられたそうだ な」

「ああ……」

アスランも俯く。

あの未確認の黒いMSによっ てミゲルのジンが墜とされるのを見ていた。

「そうか…」

「とにかく、お前は休め。俺 はクルーゼ隊長に呼ばれている。じゃあな」

「ああ」

短く返事すると、アスランは 医務室を後にした。

 

 

「アスラン=ザラ!出頭いた しました!!」。

「ああ、入りたまえ」

ドアの向こう側から聞こえる クルーゼの声に応えて部屋へと入室する。

「失礼します…」

殺風景な部屋にあるデスクに 座るクルーゼに向き合うアスラン。

「君と話すのが遅れてしまっ たな…呼ばれた理由は解かっているのだろう?」

「はっ!先の戦闘では勝手な 行動をして、申し訳ありませんでした」

「懲罰を課すつもりはない が…話は聞いておきたい。あまりに君らしくない行動だったからな、アスラン」

アスランは顔を顰めて俯く。

「あの2機の内の一機が起動 した時も君は傍にいたな?」

やや間を開けてアスランは諦 めたように話し出す。

「申し訳ありません…私とし たことが、思いもかけぬことに動揺し、報告が遅れました。あの残された機体の内の一機……アレに乗っているのはキラ=ヤマト。月の幼年学校で、私と友人 だった…コーディネイターです」

「ほう」

「まさか、あのような場で再 会するとは夢にも思わず、どうしても…確かめたくて……」

アスランの話を聞いていたク ルーゼは小さく息を吐いた。

「…そうか。戦争とは皮肉な ものだ。君の動揺もいたしかたあるまい……仲のよい友人だったのだろう……」

「……はい」

アスランは低く答え返した。

すると、クルーゼはシートか ら立ち上がり、アスランに近づく。

「解かった、そういうことな ら、次の出撃…君は外そう」

アスランは驚いて顔を上げ る。

「そんな相手に銃は向けられ まい……私も君にそのようなことはさせたくはない」

「いえ、隊長…それは……」

「君のかつての友人でも、今 敵なら、我らは撃たねばならん…それは解かってもらえると思うが……」

アスランは動揺して身を乗り 出す。

「キラは…あいつは、ナチュ ラルにいいように使われているんです!優秀だけど…どこかボウっとして、お人好しだから…その事にも気付いていなくて…だから、説得したいんです!アイツ だってコーディネイターなんです!こちらの言うことが解からないはずありません!」

「君の気持ちは解かる…だ が、聞き入れない時は?」

アスランは息を呑む。

「その時は……私が、撃ちま す」

困惑と悲痛さを漂わせた表情 でそう言った……

 

 

 

アルテミスへと残り僅かと なった時、アークエンジェルに警報が響いた。

「大型の熱量感知!戦艦のエ ンジンと思われます。距離200、イエロー3317マーク02チャーリー、進路ゼロシフトゼロ!」

「横か! 同方向へと向かっている!?」

ムウが叫び、気付かれた…と いう恐怖が全員を襲う。

「だがそれにしてはだいぶ遠 い……」

ナタルの言う通り、ヴェサリ ウスは、アークエンジェルの左舷方向を並行して航行していた。

「読まれているぞ!! 先回りしてこっちの頭を抑えるつもりだ!!」

ムウは舌打ちした。

「ローラシア級は!?」

ナタルも焦りながら後方の CICにいたパルに尋ねる。

「本艦の後方300に進行す る熱源……!何時の間に!?」

敵2隻によってアークエン ジェルは完全に挟み込まれた。

「やられたな。このままでは いずれ、ローラシア級に追いつかれて見つかる……だが逃げようとしてエンジンを使えば、あっという間にナスカ級が転進してくるって訳だ」

マリューやナタルも呆然とな る。

「おい、二艦のデータと宙間 図をこっちに出せ」

「な、何か策が!?」

狼狽するマリューにムウは苦 笑を浮かべる。

「…それを、これから考える んだよ」

 

 

《敵艦影発見!敵艦影発見! 第一戦闘配備!!軍籍にあるものはただちに持ち場につけ!》

そのアナウンスは艦内に響 き、格納庫でセッティングを行っていたレイナとキラにも聞こえた。

(ったく…だから言ったの に)

内心、舌打ちをする。

予想していたとはいえ、改め て起こると事の大きさを痛感する。

《キラ=ヤマト、レイナ=ク ズハの両名はブリッジへ!》

続けてのアナウンスに二人は 一路、ブリッジへと向かった。

 

 

ブリッジから格納庫へと向か う。

キラ自身は未だ迷っていた。

なにより…敵の中にアスラン がいるのだ……戦わなければならないという息苦しさが襲う。

「キラ…今からでも遅くはな いわ。貴方は出なくてもいい」

キラはレイナを振り向く。

「自分を押し殺して戦争をし ても……壊れるだけよ、自分自身が」

その言葉に更に押し黙る。

戦場での迷いは、すぐさま… 自身を死へと招く……レイナはそう認識していた。

角を曲がった所で二人は立ち 止まる。

通路の向こう側から、キラの 友人達が地球連合軍の軍服に身を包んで、チャンドラに連れられやってきたのだ。

「トール…皆も……どうした の、その格好?」

「ブリッジに入るには軍服を 着ろってさ」

さらっと言うカズイに続き、 襟を正していたサイが説明する。

「僕らも艦の仕事、手伝おう と思って。人手不足だろ?普通の人よりかは機械やコンピュータの扱いには慣れてるし」

「軍服はザフトの方がカッコ いいよな…階級章もねえから、なんかマヌケ」

おどけて言うトールをチャン ドラが小突く。

「お前らばっかりに戦わせ て、守ってもらってばっかじゃな……俺達もやるよ」

その決意に、キラは呆然とし たままだ。

「こういう状況なんだも の……私達だって、できることして……」

「皆……」

キラは胸の内が熱くなるのを 感じる。

「じゃあな、キラ」

「あとでね」

トール達はブリッジへと向か う。

「あ、お前ら…今度はパイ ロットスーツを着ろよな」

チャンドラは注意だけする と、後を追う。

キラは暫しそれを見送ってい たが、やがて踵を返した。

 

 

先行するヴェサリウスは遂に アルテミスの姿を確認した。

「アレが…」

「アルテミスの傘だ」

前方に光に包まれた衛星が映 る。

「既にこちらを察知している のだろう…展開中だな」

「地球の新型艦…ついに捕捉 できぬまま来てしまいましたが……」

「頭は抑えた…ここで仕留め るさ」

言葉を濁すアデスにクルーゼ は自信ありげに答えた。

「180度回頭!相対速度、 アルテミスに合わせ微速後進!!」

逆噴射で向きを変え、アルテ ミスを背にヴェサリウスはゆっくりと進む。

獲物を待つかのように……

 

 

パイロットブリーフィング ルームでパイロットスーツに着替えたキラが首のチャックを締める。

「ほう…やっとやる気になっ たてことか、その格好は?」

からかうような口調で、同じ くパイロットスーツに着替えたムウが入ってきた。

「大尉が言ったんでしょ… 今、この艦を護れるのは僕達だけだって……戦いたいわけじゃないけど、この艦を護りたい。皆が乗っているんだから……」

僅かに尖った口調で言うキラ にムウも首を振る。

「俺達だってそうさ…意味も なく戦いたがる奴なんざ、そうはいない……戦わなきゃ護れねえから、戦うんだ」

真剣な表情で言うムウにキラ も頷く。

「戦う理由は、人それぞれで すけどね」

そんな二人に声を掛けるよう に更衣室から出てきたレイナが現れた。

「お、嬢ちゃん…結構似合っ てるじゃねえか」

「それって、褒めてるんです か?」

呆れたように呟く。

全身を染めるような漆黒のパ イロットスーツ……試作機のテストパイロット用に用意されたスーツだが、彼女にはこれしか身体に合うサイズがなかった。

それでも胸が圧迫されている が……

「パイロットスーツって嫌で すよね…ボディラインがはっきり出ちゃうから」

「それがいいんじゃないか」

おどけて言うムウにレイナは ジト眼で睨む。

「大尉って…部下の女性職員 にセクハラするタイプですね」

「…おいおい、そりゃキツイ んじゃねえか」

「馬鹿言ってないで、さっさ と作戦を説明してください。時間はないんですから」

とてもこれから戦闘に行くよ うには見えないやり取りにキラは僅かに苦笑を浮かべた。

 

 

ブリーフィングを終えた3人 は格納庫へと入り、それぞれの機体へと向かう。

「とにかく、艦と自分だけを 護るように考えるんだぞ」

「は、はい!大尉も気をつけ て」

「ドジらないでよ」

ムウは親指を立て、メビウ ス・ゼロに乗り込む。

そしてレイナとキラは並び立 つルシファーとストライクへと向かう。

ストライクのコックピットへ 辿り着いたキラが乗り込もうとすると、レイナが声を掛ける。

「キラ…最後に聞くわ」

背中から掛かる声に振り返 る。

「覚悟はできたわね……ここ まで来たら、逃げられないわよ」

最後の確認をするような問い 掛け……キラは頷き返した。

その答えにレイナは軽く息を 吐くように肩の力を抜く。

「そう……なら、いいわ」

それだけ言うと、レイナもル シファーへと向かう。

キラも見送ると、コックピッ トシートに着き、シートベルトを締める。

(アスラン…君も来るの か……この艦を沈めに……)

これから戦う相手のことを思 い、キラは黙り込む。

ルシファーのコックピットに 収まったレイナも身体をシートに固定する。

(しっかし…また随分と無茶 な作戦ね)

半ば呆れたような心持ち。

今度の作戦もほぼ運任せに近 い…というより、作戦と言えるのかどうかも怪しい。

アークエンジェルとG2機に 攻撃と注意を集中させている間に、ムウのメビウス・ゼロが隠密潜行で前方のナスカ級を叩き、その混乱に乗じて離脱するといったものだ。

それにしても…アークエン ジェル自身を囮にするという発想に感心しつつ呆れてしまった。

言わば、潜行中にアークエン ジェルが沈んでしまっては元も子もないのだ。

その辺は自分達への信頼の現 われか…どっちにしても迷惑だが。

レイナはシステムを立ち上 げ、それに連動してルシファーは起動音を響かせる。

《ローラシア級、後方90に 接近!》

《艦長、そろそろタイムアウ トだ。出るぞ!》

《はい、お願いします!》

《この作戦はタイミングが命 だからな……後を頼む!》

《解かりました…お気をつけ て》

ブリッジとの通信を終え、ム ウのメビウス・ゼロがゆっくりと発進口内を進む。

《メビウス零式…フラガ機、 リニア・カタパルトへ》

発進口へ固定され、アークエ ンジェルの右舷フライトデッキが開く。

「ムウ=ラ=フラガ、出る!!戻ってくるまで沈 むなよ!!」

固定器が外れ、メビウス・ゼ ロが勢いよく発進していく。

続いて、ストライクとルシ ファーも発進口へと移動する。

ストライクは右舷デッキへ、 ルシファーは左舷デッキへと向かう。

《ストライク、ルシファー… 発進位置へ!》

機体がカタパルトに固定され る。

《カタパルト接続…システム オールグリーン》

ハンガーが外れ、キラとレイ ナはヘルメットのバイザーを下ろす。

《キラ》

通信機から聞こえてきた声に キラがハッとする。

「ミリアリア!」

《以後、私がMS及びMAの 戦闘管制となります……よろしく!》

照れ隠しなのか、笑いながら ウインクするミリアリアの姿に、キラは苦笑した。

《ストライク…装備はエール ストライカーを》

ストライクの上の天井が開 き、ガントリークレーンに吊られたユニットが現れ、ストライクのバックパックに装着される。

続いて左右から武装が現れ、 右手に57m高エネルギービームライフル、左手にビームコーティングシールドが装着される。

ルシファーにも同様に左右か ら武装が現れ、右手に60m高エネルギービームライフル、左手にストライクと色違いの漆黒のシールドが装着される。

《アークエンジェルが噴かし たら、すぐに敵が来るぞ…いいな!?》

念を押すようなナタルの問い に強く頷き返す。

 

「エンジン始動!同時に特装 砲発射!目標、前方ナスカ級!!」

マリューの指示と同時にエン ジンが低い唸りを上げ、両ブレード先端から陽電子破城砲『ローエングリン』がその砲身を突き出す。

「ローエングリン…撃 てぇぇぇ!!」

砲身から放たれた閃光が真っ 直ぐに伸びていく。

 

 

「前方より熱源接近…その後 方に大型の熱量感知!!戦艦です!!」

前方から襲い来る閃光がヴェ サリウスを掠める。

「回避行動!」

「こちらに気付いて慌てて 撃ってきたか…」

笑みを浮かべるクルーゼ。

閃光はヴェサリウスを掠めて 消えていく。

 

「熱源感知…敵戦艦と推測」

「MS隊…発進させよ!!」

その動きは後方のガモフにも 伝わり、格納庫でデュエル、バスター、ブリッツが静かに動き出す。

 

 

同じくヴェサリウスでもMS の発進準備が進められる。

「先の言葉信じるぞ…アスラ ン=ザラ」

《はい》

念を押すクルーゼにアスラン は頷き返す。

ハッチが開き、固定されてい たイージスが電力ケーブルを外し、宇宙にその身を躍らせる。

 

 

《前方ナスカ級よりMS発進 を確認……機影一です!》

《キラ=ヤマト、レイナ=ク ズハ…ストライク、ルシファー発進だ!!》

《キラ!レイナさん!》

「……了解」

「了解」

二つの発進ハッチが開いてい く。

向こうに見える漆黒の宇宙 に、キラは吸い込まれそうな錯覚と恐怖を覚え、呼吸が荒くなり、操縦桿を握る手が震える。

だが、それを打ち払うように 仲間達の姿が浮かぶ。

自分は一人じゃない…その思 いがキラを奮い立たせる。

一瞬眼を閉じ、やがて前を キッと見据える。

 

『GAT−X105   AILE STRIKE  LAUNCH CLEAR』

 
「キラ=ヤマト…ガンダム、行きま す!!」


カタパルトが動き、ストライクを射出する。

同時に電力ケーブルが外れ、 宇宙にその姿を現わしたストライクの灰色のボディにトリコロールのカラーリングが施され、ストライクは宙を舞った。

 

続けて左舷ハッチが開き、ル シファーが姿を現わす。

コックピット内でレイナもま た眼前に拡がる宇宙を見詰める。

だが、キラとは違い、落ち着 いた様子で操縦桿を握り締める。

彼女の瞳に宇宙が映し出さ れ、レイナも前を見据える。

 

『GAT−X000   LUCIFER  LAUNCH CLEAR』

 

電磁パネルに発進OKを告げ る表示が映る。

「レイナ=クズハ……ルシファーガンダム!出撃 する!!」

叫ぶと同時にペダルを踏み込 む。

背中のスラスターが唸りを上 げ、粒子を吐き出す。

カタパルトが動き、ルシ ファーを射出する。

電力ケーブルが外れ、身体に 掛かるGを感じながら、ルシファーは宇宙へと躍り出る。

PS装甲がONになり、灰色 のボディに宇宙の闇に同化するような漆黒のカラーリングが施され、真紅に輝くウイングスラスターが拡がる。

 

堕天使は今…宇宙へと舞っ た………

 

 

 

 

 

《次回予告》

 

 

子供達は銃を取り合う……

己が正義を信じ……

 

無音の闇に響く砲火の前 に……子供達は戦いの記憶を刻む。

 

次回、「混迷の戦い」

 

闇を駆け抜けろ、ガンダム。

 



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