ムウ…そしてレイナの予感は 当たった。

アルテミスへと入港したアー クエンジェルは大層なもてなしを受けた。

武装した兵士やMAがアーク エンジェルを取り囲み、内部へと突入した兵士達によって銃を突き立てられ、クルーと民間人は食堂へと集められた。

 

機動戦士ガンダムSEED 

TWIN DESTINY OF  DARKNESS

PHASE-06  臆病者の砦

 

 

「これはどういうことか、説 明していただきたい?」

抑揚のないナタルの問い掛け に、ユーラシアの士官はねっとりした笑みで答える。

「一応の措置として、貴艦の コントロールと火器管制を封鎖させていただくだけです」

「封鎖?」

「貴艦には船籍登録もなく、 無論我が軍の識別コードもない。状況などから判断して、入港は許可しましたが……残念ながら、貴艦はまだ、友軍と認められたわけではない」

正論のようだが、所詮は矛盾 の言い分だ。

本当に敵の可能性があるとし たら、そもそも入港を許可したりはしないだろう。

「では、士官の方々は私と同 行願いましょうか…事情をお伺いします」

マリュー、ナタル…そしてム ウが連れられ、アルテミス内部へと同行させられた。

 

 

アルテミスの司令室に映し出 されたアークエンジェルを見詰める人物…アルテミス司令官のジェラード=ガルシアだ。

「大西洋連邦極秘の軍事計画 か……」

「よもやあんなものが転がり 込んで来ようとは…ヘリオポリスが絡んでいるという噂は本当だったようですね」

隣に立つ副官の言葉にガルシ アは笑みを浮かべる。

予想もしなかった収穫に……

「連中にゆっくりと滞在して いただくこととしよう」

そこへ、マリューら3人が連 れてこられた。

「ようこそ、アルテミスへ」

慇懃な物腰でマリューらを招 き入れる。

ガルシアは3人の名を各自名 乗らせたあと、持っていたIDを手元のコンピューターで検索する。

「成る程…君らのIDは確か に大西洋連邦のもののようだな」

その態度にムウはやや嫌味を 込めて言い返す。

「お手間を取らせて申し訳あ りません」

「いやなに、輝かしき君の噂 は私も耳にしているよ、『エンデュミオンの鷹』殿…グリマルディ戦線には私も参加していた」

同じく嫌味を込めた言い回し に、ムウは苦笑を浮かべた。

「おや…では、ヴィラード准 将の部隊に?」

「そうだ、戦局では敗退した が…ジン5機を落とした君の活躍には我々も随分励まされたものだ」

「ありがとうございます」

「しかし、その君が…まさか あんな艦と共にここへ現れるとはな」

「特務でありますので…残念 ながら、子細を申し上げることはできませんが……」

ムウは会話の中から薄々、予 感が当たっていることを理解し、顔を顰める。

だが、未だそれが理解できて いないマリューは本題を切り出す。

「できるだけ早く補給をお願 いしたいのです…我々は一刻も早く、月の本部に向かわねばなりません。それに、まだザフトにも追撃されていると思われ……」

「ザフト……これかね?」

マリューを遮るように鼻で笑 いながら、手元のスイッチを押す。

壁面のモニターにアルテミス から程近い宙域に停泊している艦の姿が映し出される。

「ローラシア級!」

息を呑むマリュー達とは対照 的にガルシアは態度を崩さない。

「見ての通り…奴らは傘の外 をウロウロしているよ。先程からずっとな…まあ、あんな艦の一隻や二隻、ここではどうということはない。だが、これでは補給を受けても出られまい?」

「奴らが追っているのは我々 です…このまま留まり、アルテミスに被害を及ぼしては……」

ムウの言葉はガルシアの高笑 いによって掻き消される。

「あっはっは! 被害だと… このアルテミスが?奴らは何もできんよ……そしてやがて去る、いつものことだ…奴らとてこの衛星の恐ろしさはよく知っている」

「しかし、奴らは……!」

なおも反論しようとするムウ をガルシアは手を上げて遮る。

「とにかく君達も少し休みた まえ…大分お疲れのようだ。部屋を用意させる」

言い換えれば……体のいい監 禁ということだろう。

「奴らが去れば、月本部との 連絡の取りようもある…全てはそれからだ」

ムウは連行されながら棘のあ る口調で問い掛けた。

「アルテミスは……そんなに 安全ですかね?」

「安全さ…母の腕の中のよう にな」

せせら笑うようにガルシアは 答えた。

 

 

 

アルテミス周辺の宙域に停滞 するガモフ…そのブリッジではミーティングが行われていた。

「傘はレーザーも実体弾も通 さない。まあ、向こうからも同じ事だが」

ガモフの艦長であるゼルマン が説明する。

戦力的には圧倒的に有利で あったが、アルテミスは難航不落の要塞としてその名が知られていた。

それは、光波防御帯と呼ばれ る強力なエネルギーシールド…通称、『傘』を有するこの要塞は、いかなる艦砲射撃及び実体弾をも受け付けない。それを展開している様子がまるで透明な傘を 開いている様に見えるため『傘のアルテミス』という名がつけられた。

しかしガモフの艦長であるゼ ルマンが言う様に、これを展開している限りアルテミス側からも攻撃は無い。
「だから攻撃もしてこないって事? バカみたいな話だな」

ディアッカは呆れた口調で呟 く。

「だが防御兵器としては一級 だぞ。さして重要な拠点ではないため、我が軍もこれまで手を出さずにきたが……」

いくら強力な防御兵器を誇るとはいえ、所詮は辺境の小惑星を改造した小規模な要塞で有るがために、ザフトにおいても地球連合 においても戦力的価値は殆ど無いために放置されていた。

「あの傘を突破する手段は今 のところ、無い。厄介な所に入り込まれた……」
「どうするの、出てくるまで待つ?」

クスクスと笑うディアッカの 冗談にイザークは苛立ちながら睨みつける。

先の戦闘でも敵機を撃墜でき なかったことがイザークをさらに苛立たせていた。

優秀な母親の遺伝子を受け継 いだコーディネイターである自分が、ナチュラルの操るMSに遅れを取るなど、プライドが許さないのであろう。

「ふざけるなよ、ディアッ カ…お前は用を終えて戦線に戻られた隊長に、何も出来ませんでしたと報告したいのか? それこそいい恥さらしだ!」

イザークの物言いに流石の ディアッカも黙り込む。

「傘は常に開いている訳では ないんですよね?」

唐突に、先程から戦略パネル を凝視していたニコルが口を開いた。

「ああ、周囲に敵のない時ま では展開していない。だが傘が閉じている所を狙って近付けば、こちらが衛星を射程内に入れる前に察知され、展開されてしまうだろう」

「僕の機体……ブリッツなら うまくやれるかもしれません。あれにはフェイズシフトの他にもう一つ、ちょっと面白い機能があるんですよ」

悪戯めいた表情で…ニコルは作戦を説明した。

 

 

アークエンジェル内では人々 が不安に狩られていた。

「ユーラシアって味方のはず でしょ?…大西洋連邦とは仲悪いんですか?」

「そういう問題じゃねえよ」

サイの問い掛けにトノムラは 言い返し、パルは溜め息をついた。

「はぁ〜〜識別コードがない のが悪い」

「それってそんなに問題なん ですか?」

臨時のメンバーである、軍の 内情を知らないトールが問い掛けるが、尋ねられたチャンドラは口を閉ざす。

「そんなのはただの建前 よ……本音は別のところにあるわ」

答えるように呟いたレイナ に、近くに座っていたノイマンとマードックは驚いた表情を浮かべた。

この少女は軍の実情を理解し ている。

レイナは頬づえをついて、溜 め息を漏らした。

(……やってられないわ。所 詮は足の引っ張り合い、そして利権の取り合い)

地球連合内の対立はなんとな く解かっていた…そもそも地球連合とはC.E70に対プラントを目的として設立されたが、所詮は寄せ集めの部隊。

ザフトのような結束力などな い……互いが互いを牽制しあう、言わば内部にも敵を抱えているような状態なのが現状だ。

特に『アークエンジェル』と 『G』を開発した大西洋連邦と、ユーラシア連邦のライバル関係は明白であり、ここへ逃げ込んだのはある意味、ライオンの群れから虎の檻の中へ逃げ込んだよ うなものだ。

(もっとも…もうすぐ来るだ ろうけど)

ユーラシアの技術者に、あの ロックを解除できる者など恐らくいまい…というか、コーディネイターでも解けるかどうか怪しい。

ならばどうするか…必ずパイ ロットかメカニックを探しに来る。

そんな考えを抱いていると… 予想通り、ユーラシアの士官が入ってきた。

先頭に立つ禿頭の男が横柄な 口調で尋ねる。

「私は当衛星基地司令官、 ジェラード=ガルシアだ。この艦に積んであるMSのパイロットと技術者は何処だね?」

「あ……」

素直に手を上げて立ちあがろ うとするキラをマードックが押し止めた。

そんなキラをレイナは睨みつ ける。

どうやら、キラだけはまだ ロックをかけたことの意味が解かっていないらしい。

キラは訳が分からずキョトン としていると、ノイマンがむっつりした声で問い質した。

「何故我々に聞くんです?  艦長達が言わなかったからですか?」

「何っ!?」

その言葉にガルシアの隣に立 つ副官がノイマンの胸を掴む。

「それとも…聞けなかったか らですか?」

キラはようやく理解した。

ガルシアは幾分気分を害した ようだが、不意に笑うとノイマンの近くまで歩いてきた。

「成る程…そうか、君達は大 西洋連邦でも、極秘の軍事計画に選ばれた優秀な兵士諸君だったな」

「ストライクとルシファーを どうしようっていうんです?」

「別にどうもせんよ。ただ、 せっかく公式発表より先に見せていただく機会に恵まれたのだ。色々聞きたくてね…パイロットは?」
「フラガ大尉ですよ。お聞きになりたいことがあるんなら、大尉にどうぞ」

マードックが答えたが、ガル シアはそれを鼻で笑った。

「先の戦闘はこちらでもモニ ターしていた。ガンバレル付きのゼロを扱えるのはあの男だけだ。それくらい私でも知っている…仮に彼がパイロットだとしても、2機が戦闘をしていた…パイ ロットは他にもいるはずだ」

ガルシアは辺りを見渡した。 誰も答える様子がない所を見ると、近くにいるミリアリアの腕を掴んだ。

「きゃっ」

嫌な笑みを浮かべながら痛が るミリアリアを立たせる。

「まさか女性がパイロットと も思えないが、この艦の艦長も女性という事だしな……」

そのやりように…キラの我慢 が切れた。

「止めてください! アレに 乗っているのは僕です!!」

 

 

 

アルテミスから遠ざかるガモ フ。

ハンガーに固定されたブリッ ツのコックピットでニコルは準備を進める。

「ミラージュコロイド、電磁 圧チェック…システムオールグリーン」

準備を終えると、ニコルは軽 く溜め息をついた。

「ふぅ…テストもなしの一発 勝負か……大丈夫かな?」

不安げに呟くニコル。

そんなブリッツを控え室から パイロットスーツに着替えたイザークとディアッカが見詰めていた。

「しかし、地球軍も姑息なモ ノを造る」

イザークの呟きにディアッカ は嘲笑するように唇の端を吊り上げる。

「ニコルには丁度いいさ…臆 病者にはね」

イザークも同じような笑みを 浮かべ返した。

 

十分な距離を取った後…アル テミスからリフレクターの光が消え、傘が解かれていく。

そのチャンスを狙って、ガモ フからブリッツが発進する。

アルテミスへ向かうブリッツ の機体からガスのようなものが噴出し、機体を覆っていく。

やがて…ブリッツの機体は宇 宙に同化するように消えていく。

「ミラージュコロイド、生成 良好…散布現損率35%……使えるのは80分が限界か……」

完全に宇宙に消えたブリッツ は、真っ直ぐにアルテミスを目指した。

 

 

 

「坊主…彼女を庇おうという 心意気は買うがね…アレは貴様のようなひよっこが扱える物じゃないだろう。ふざけた事を言うな!」

ガルシアは突然殴りかかって きたが、コーディネイターであるキラにとって、その拳は全く脅威には感じられない。あっさりそれを躱すや、逆に腕を掴んでねじり上げた。

ガルシアの身体がみっともな く床に転がるのを見て、兵士達は眼を丸くする。

「僕は、貴方に殴られる筋合 いはないですよ」
「なんだと!?」

ガルシアの顔が怒りと屈辱で どす黒く染まる。周りの部下達が慌ててキラを拘束しようとするが、それをサイが邪魔した。

「止めてください!」

だが、サイは殴られて床に転 がされた。悲鳴を上げたフレイがサイの身体に縋りつき、兵士達を睨む。

「ちょっとやめてよ! キラ の言ってることは本当よ!!」

フレイの言葉にトール達は驚 いた表情を浮かべる。

「その子と隣に座っている子 がパイロットよ。だってその子達、コーディネイターだもの!」

マードック達が痛恨の表情と なり、兵士達は唖然となって動きが止まる。キラはそんな彼らを逆に睨み返している。

レイナは一人…眼を細めてい た。

自分はコーディネイターでは ないのだが……どうやら、あのフレイという少女の中では、自分はコーディネイターということになっているのだろう。

まあ、MSが動かせるという 時点でナチュラルと思えというのも無理ではあるが……

やがて、キラに銃が向けら れ、レイナにも銃を向けられる。

自分は関わらないつもりだっ たのに…他人のために自分の身を危険に晒すほど、レイナはお人好しではない。

レイナは軽く息を吐き出す と、立ち上がる。

またもや厄介な事態に巻き込 まれたという諦めを抱いて……

 

連れて行かれたキラとレイナ を見送った後、トールがフレイをなじった。

「何であんな事言うんだよ、 お前は!」

「だって、本当の事じゃない!」

フレイは悪びれずに言った。 それがトールの怒りをさらに掻き立てる。

口には出さないが、ノイマン やミリアリア達も咎めるような視線を向けている。

「キラ達がどうなるとか、全 然考えない訳、お前って!?」

「お前お前ってなによ。キラ達は仲間なんだし、ここは味方の基地なんでしょ。パイロットが誰かぐらい言ったっていいじゃな い。なんでいけないのよ!?」

まったく罪悪感を感じていな いフレイの物言いに、トールが激しい憤りを感じていた。

「……地球軍が何と戦ってる と思ってるんだよ!」

 

 


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