キラとレイナは格納庫へと連れてこられ、ストライクとルシファーの前に立つ。


「OSのロックを外せはいいんですね?」

ガルシアはそれ見やり、ニヤ ニヤと笑みを浮かべる。

(…下衆が)

そんなガルシアをレイナは心 の中で吐き捨てる。

「ふむ、それはもちろんやっ てもらうが、ね…君らにはそう、もっといろんな事ができるのだろう?たとえば、こいつの構造を解析し、同じものを造るとか、逆にこういったMSに対して有 効な兵器を造るとか……」

「僕らはただの民間人です。 軍人でも軍属でもありません。そんな事をしなくちゃいけない理由はありません」

「だが、君らは裏切り者のコーディネイターだろう?」

ねちっこく発されたガルシア の言葉に、キラは凍り付いたような衝撃を受けた。

レイナは眉を寄せる。

「裏切り者……?」
「どんな理由でかは知らないが、どうせ同胞を裏切った身だろう…ならばユーラシアで戦っても同じだろう?」

ガルシアは機嫌を取るように 言った。

キラはそんなガルシアの言葉 に身体を振るわせている。

「違う…僕は……!」

「地球側につくコーディネイ ターというのは貴重だよ…心配いらない、君らは優遇されるよ。ユーラシアでもな」

裏切り者……その言葉がキラ の身体を襲う。

ナチュラルとコーディネイ ター…敵と味方……中間に立つなど許されないという事実をこの男に突きつけられた。

「さて、ではやってもらおう か……」

ガルシアの促しにキラがスト ライクへ向かおうとすると、それをレイナが押し止めた。

キラは驚いてレイナを見詰め る。

「なんのつもりかな……?」

余裕の笑みを崩さないガルシ アにレイナは意にも返さない。

「さっきから聞いてれば…随 分と言いたいことを言ってくれるわね」

「君も偉そうには言えないの ではないかな…どうせ同胞を裏切ったコーディネイターだろう」

「…私はコーディネイター じゃない」

「では何だというのかね?」

「あんた達のような貧相な頭 じゃ、言ったところで理解できるはずないでしょ」

「貴様っ!」

挑発するような口調に傍に構 えていた兵士達が銃を向けるが、レイナは臆することもなく睨む。

「私を撃つ……撃ってみなさ い。死にたいならね……」

嘲笑を浮かべる。

「どういう意味かね?」

そんな態度にガルシアは今迄 の余裕が崩れている。

「私の機体……アレのOSに はちょっと仕掛けがしてあるの」

くいっとルシファーを指す。

「OSにロックをかけてか ら、24時間以内に解除されなかった場合……自爆するようにね」

その言葉に全員が衝撃を受け る。

「下手に動かしたりしても無 駄よ…その瞬間に自爆スイッチが起動するようにセットしてあるから……こんな要塞は軽く吹き飛ぶわよ」

不適な笑みを浮かべるレイナ にガルシア達は動揺する。

「レイナ…ホントなんです か?」

キラはオロオロしながら小声 で尋ねる。

「…ただのハッタリよ」

だが、冷静に言い返されたの で、キラは唖然となる。

(でもまあ、流石にずっとこ のままって訳にはいかないしね)

ザフトが引き下がったとはレ イナは思っていない。

それに…敵に奪取されたGの 中に厄介な機能を持つ機体があることを知っているからだ。

恐らく…もう間もなく来る。

「キラ…OSのロックを解除 するのにどれぐらいかかる?」

「え……?」

「いいから!」

「あ、1分もあれば……」

訳が解からずに答える。

「私が合図したら、一気にス トライクに乗りなさい……敵が来るわ」

その言葉にキラは眼を見開い た。

 

 

 

ブリッツは静かにアルテミス へと取り付いた。

モニター越しにニコルはキッ と睨み、右腕のトリケロスを構える。

照準がセットされ…トリケロ スが火を噴いた。

 

膠着した状態が続く。

それを破るように鈍い地響き が格納庫を揺らす。

ガルシアが驚いて管制室を呼 び出した。

「なんだ、この振動は!?」

《不明です、周囲に機影無し!》

「だが、これは爆発の振動だろうが!」

続いて更なる振動が襲ってく る。間違いない、攻撃を受けているのだ。

 

 

「長々距離からの攻撃かもし れん! 傘を開け! 早く! 何をしている!!」

管制室は慌てふためいて、急 ぎ傘を展開しようとする。

壁面に設置されたリフレク ターが起動する。

「アレか!」

それを確認したと同時にブ リッツが姿を現わす。

ビームサーベルを振りかざ し、リフレクターを斬り裂いていく。

 

 

《ぼ、防御エリア内に MS!? リフレクターが落とされていきます!!》

「なんだと、そんな馬鹿な!?」

傘が破られた事に呆然とする ガルシア達。

傘の絶対性を過信していた彼 らの自業自得であった。

今がチャンスと思い、レイナ は行動を起こす。

「今よ!!」

レイナの叫びにキラはストラ イクへと駆け出す。

驚いて銃を構える兵士達にレ イナは動じることもなく駆け寄る。

兵士が引き金を引く。

だが、レイナは身体の重心を 寸前でずらし、弾丸をかわす。

弾丸はレイナの銀髪の一部を 吹き飛ばすが、レイナは気にもせず兵士に近づき、ボディブローをかます。

腹に拳を叩きこまれ、鈍い音 を上げながら兵士は崩れる。

すかさず銃を奪い、レイナは 近くにいた兵士に向かって発砲した。

両手足を撃ち抜かれ、兵士達 は苦痛を上げて倒れる。

「くっ…!!」

そんな光景に恐れを抱いたガ ルシアは副官と共に格納庫から出て行った。

「……臆病者が」

レイナは追おうともせず、た だ軽蔑するだけであった。

キラはそんなレイナの姿に呆 然となり、動きを止めていた。

「…何をしているの、早く行 きなさい!」

未だ行動していないキラを叱 咤すると、キラは急いでコックピットに飛び込み、OSを起動させる。

ソードストライカーを選択 し、カタパルトレーンへと向かう。

ガントリークレーンからパ ワーパックが装着され、ストライクにフェイズシフトが施される。

キラは一気にアークエンジェ ルから飛び出した。

 

アルテミス内に突入したブ リッツはトリケロスでメビウスを撃ち落しながら奥へと向かう。

アークエンジェルの姿を確認 すると、攻撃しようとするが、ソードストライクが姿を現わす。

「あいつ! 今日こそ!!」

グレイプニールをストライク に向かって放つ。

それに対してストライクも左 腕のパンツァーアイゼンで応戦する。

2つは中央でぶつかり合い、 弾き返される。

「くそっ!! こんな所ま で!!」

シュベルトゲーベルを抜き取 り、ストライクは構える。

 

 

傘が破られた瞬間、ガモフは 再度接近してきた。

ガモフから発進するデュエ ル、バスター。

「アイツは……!?」

「あの要塞ごと沈めてやる さ!!」

ニコルに遅れまいと、2機は アルテミスへ突入する。

 

 

振動で動揺した見張りの兵士 達を制圧したアークエンジェルクルー達は自力でアークエンジェルの発進準備を進めていた。

「起動するぞ!」

ノイマンが先頭になり、ブ リッジに飛び込んですぐさま自分の持ち場に滑り込む。

「艦長達が!?」

「このままじゃただの的だ!」

艦長たちが戻らない事に不安を感じてはいたが、このままではただの的になってしまう。

だが、彼らの心配は杞憂であった。程無くして自力で脱出したマリュ―達が艦橋にやってきたのだ。

「艦長!」

クルー達が喜びの声を上げ、 ムウはサイ達の頭をくしゃっと掻き回す。

マリュ―とナタルが急ぎ自分のシートに着く。

「アークエンジェル、発進し ます!!」

 

 

唸りを上げるアークエンジェ ルの直上で戦闘を行うストライクとブリッツ。

キラは迷いながらシュベルト ゲーベルを振る。

先程のガルシアの言葉が脳裏 を掠める。

どうしようもない哀しみが襲 う。

「くそっ! もう…僕達を 放っておいてくれ―――――っ!!!」

振り払うようにブースターを 噴かし、ブリッツに近接する。

ランサーダートを叩き落しな がら、シュベルトゲーベルを猛然と振り回す。

その気迫にニコルも圧倒され る。

既に外の戦いにはバスターや デュエルも加わり、激しい戦いが繰り広げられている。

展開していた戦艦やMAを撃 ち落し、2機はアルテミス内に突入し、所構わず破壊していく。

「何をしている! 艦を出 せ!!」

管制室に飛び込んだガルシア は動揺しながら命令を下す。

「このアルテミスが…たった 一隻の敵に……!!」

その言葉は最後まで続かな かった。

バスターが撃ち落したメビウ スが管制室へと叩きつけられ、管制室を吹き飛ばした。

 

「あの艦は…!?」

「解からない…ニコル、何処 だ!?」

デュエルとバスターはアーク エンジェルを探して、飛ぶ。

アークエンジェルは反転して 戦いから離れるように艦を移動させて行く。

「ストライクを戻して! 反 対側の港口から、アルテミスを離脱します!!」

 

 

《キラ! キラ戻って!  アークエンジェル発進します!!》

ミリアリアからの通信にキラ は戦闘を中止し、後退する。

「逃げるのか!?」

ブリッツがそれを追おうとし たが、爆発に邪魔されて追撃を遮られてしまった。

爆発の中から飛び出したスト ライクはアークエンジェルの艦橋に降り立つ。

「ストライク着艦!」

「アークエンジェル発進!  最大船速!!」

エンジンが火を噴き、炎が煌 くアルテミスから離脱していく。

その光景をアルテミスより脱 出した3機は悔しそうに見詰めるしかなかった。

 

アークエンジェルが離脱して 数日後……アルテミスは陥落した。

 

 

帰還したストライクから出る キラ。

「坊主」

ムウの呼び掛けにも答えず… キラはむすっとした表情で格納庫から出て行った。

「どうしたんだ?」

マードックは解からないとば かりに手を挙げる。

「…今は、そっとしておくべ きですよ」

レイナだけは何時もの表情で 答えた。

「………貴方自身が選んだ道 よ…キラ=ヤマト」

不意にストライクを見上げな がら呟いた。

キラ自身が決めた道だ…なら ば、どれだけの苦悩があるかは解かっているはずだ。

自分は一度選択肢を与えたの だ……後は本人自身の問題。

「私は…選ばざるをえなかっ た……この道を……」

 

 

 

《次回予告》

 

 

語る者もいない…虚空に漂う 墓標……

生者と死者の狭間で子供達は 迷う……

 

果て無き闇の中に…人の業を 見る……

 

次回、「業の証」

 

哀しみを越えろ、ガンダム。

 

 


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