機動戦士ガンダムSEED 

TWIN DESTINY OF  DARKNESS

PHASE-09  双翼の邂逅

 

 

航行を続けるアークエンジェ ルに先遣隊からの通信が入った。

《本艦隊のランデブーポイン トへの到着時刻は予定通り。合流後、アークエンジェルは本艦の指揮下に入り、本隊との合流地点へ向かう。後僅かだ、無事の到達を祈る》

護衛艦『モントゴメリ』艦長 のコープマンの落ち着いた口調にマリュー達は安堵の溜め息をつく。

画面が広がり、コープマンの 隣にいた軍艦には似合わぬスーツ姿の中年男性が映る。

《大西洋連邦事務次官、 ジョージ=アルスターだ。まず、民間人の救助に尽力してくれたことに礼を言いたい》

マリューは思い当たり、相槌 を打つが、次に出た言葉に当惑する。

《あーそれと、その…救助し た民間人名簿の中に、我が娘、フレイ=アルスターの名があったことに驚き、喜んでいる…できれば、顔を見せてもらえるとありがたいのだが……》

マリューを含めたクルー達は やや唖然となる。

最愛の娘の姿を見たいという 気持ちは解からないでもないが、公私混同もいいところだ。

《事務次官殿、合流すればす ぐに会えます》

苦りきった口調でコープマン が抑える。

「こういう人だよ…フレイの お父さんって」

サイが苦笑を浮かべる。

 

 

 

一方、アークエンジェルより 先に先遣艦隊を射程に捉えていたヴェサリウスでは、主要メンバーが集められていた。

「地球軍艦艇の予想航路で す」

作戦モニターに航行図が映し 出され、クルーゼは顎に手をやる。

「ラコーニとボルトの部隊の 合流が予定より遅れている。もしあれが足付きに補給を運ぶ艦なら、このまま見過ごす訳にはいかない」

クルーゼは指示にアスランが 大きな声で反論した。

「仕掛けるのですか? 隊 長、それではラクスは……!?」

「落ち着いてください、アス ラン=ザラ」

いきり立つアスランを隣にい たリンが冷静な口調で抑える。

こちらを見やるアスランにリ ンは動じもせず言う。

「私達は軍人です、アスラン =ザラ……ラクス嬢の身を案じる気持ちは解からなくもありません……ですが、眼の前に敵がいるなら…戦わなければならない」

焦りを抱くアスランの姿にク ルーゼやアデスも気付いたが、それでも咎めはしない。

「それに…この空域に敵を放 置しておけば、ラクス嬢に危険がふりかかる可能性もあります」

「我々はこの艦隊を攻撃す る。これは命令だぞ、アスラン」

「……了解しました」

アスランは俯きながら、静か に頷いた。

 

 

 

「レーダーに艦影3を捕捉!  護衛艦モントゴメリ、バーナード、ローです」

アークエンジェルのブリッジ に歓声が起こる。

しかし…それも束の間だっ た。

レーダーパネルを見詰めてい たパルは、急に怪訝そうな表情になる。ノイズが入ったのか、画面が乱れ、計器を調整しても修正されない。

「これは……」

「どうしたの?」

マリューがパルを見やるが、 徐々に青ざめる表情を見て表情を変えた。

「ジャマーです! エリア一 体、干渉を受けています!」

パルの悲鳴のような報告に、 ブリッジは冷水をかけられたように静まり返った。それが何を意味するのか、誰にもはっきりと解かった。

先遣隊は……敵に見つかって いたのだ。

 

 

 

ヴェサリウスのカタパルトか らジンが発進していく。

ジンが5機先行し、続けてリ ンの漆黒のシグー:ヴァルキリーが発進態勢に移行する。

その姿をイージスからアスラ ンは見詰めていたが、そこへ通信が入ってくる。

《アスラン=ザラ……よろし いですね?》

確認をするような問い掛 け……

「…ああ」

《……その機体の性能、見せ てもらいます》

微笑を浮かべるその表情とは 違い、その真紅に輝く瞳は…冷たさに満ちている。

「リン=システィ……出撃す る!」

電力ケーブルが外れ、漆黒の 戦乙女は戦場に舞う。

イージスの固定ロックが外 れ、イージスが発進口に待機する。

本当は、ラクスの生死を一刻 も早く確かめたい……

脳裏に…クルーゼ、パトリッ クの言葉が蘇る。

だが、それを遮るようにキラ の姿が浮かぶ。

「……アスラン=ザラ! 出 る!!」

だが、それらの迷いを振り切 るようにイージスが発進していく。

機体に真紅のカラーが施さ れ、イージスが先行する友軍機に合流し、艦隊へ向かっていく。

 

 

 

接近してくるMS部隊に、先 遣艦隊内にアラートが響き渡る。

「MA部隊! 発進急が せ!!」

艦隊の指揮官であるコープマ ンは即座に迎撃態勢に移行させる。

「ミサイル及びアンチビーム 爆雷! 全門装填!!」

モントゴメリの主砲が動き、 ミサイル発射管が開く。

「クオルド中尉!」

コープマンは通信回線を開 く。

画面の向こう側には、一人の 青年が映る。

《解かっている! こちらも 出る!!》

 

護衛艦や駆逐艦から離脱し、 出撃していくMA部隊。

そして……モントゴメリ内か ら一機の蒼いカラーリングのメビウスが姿を現わす。

いや…一般のメビウスとは形 が違う。

その大きな高機動スラスター に加えて、機体各所に備えられた重武装……

連合の『蒼き疾風』…アル フォンス=クオルドの駆るメビウス・インフィニートである。

「アルフォンス=クオル ド……出るぞ!!」

メビウス・インフィニートが 発艦し、他のMA部隊もそれに続いていく。

「熱源接近! MS7! ジ ンが5! シグー1!……これは!」

機種特定を行っていたモント ゴメリのオペレーターが驚愕に叫ぶ。

「…イ、イージス!!  X303、イージスです!!」

コープマンは息を一瞬止め る。

 

同じく、メビウス・インフィ ニートのコックピット内でもアルフは息を呑み込んでいた。

「おいおい…例のXナンバー かよ、おまけに……」

イージスの傍に映る漆黒の機 体……

「漆黒の戦乙女かよ……!」

ジンだけならどうにかなった かもしれないが……これでは、艦を護り切るのは難しいかもしれない。

「一体どういうことだね!?  何故、今まで敵艦に気付かなかったのだね!?」

「艦首下げ! ピッチ角 30! 左回頭、よう角20!!」

咎めるアルスターをコープマ ンは無視して、指示する。

艦が態勢を変え、アルスター はバランスを崩してコープマンに凭れ掛かる。

「アークエンジェルへ反転離 脱を打電!」

「な、何だと!? 合流でき ねば、ここまで来た意味がないではないか!」

抗議するアルスターにコープ マンは怒鳴り返す。

「あの艦が墜とされることに なったら、もっと意味がないでしょう!?」

アルスターも言葉を詰まらせ る。

 

 

 

アークエンジェルに戦闘が キャッチされた。

「前方にて、戦闘と思しき熱 分布を検出! 先遣隊と思われます!」

「モントゴメリより入電!  『ランデブーは中止、アークエンジェルは直ちに反転離脱』とのことです!!」

「敵の戦力は!?」

マリューは下部を見やる。

「イエロー257マーク 402、ナスカ級!」

続けてレーダーが敵MSの機 種を特定する。

「熱紋照合、ジン5! シ グー1…カ、カスタム機……ヴァルキリーと確認!」

ブリッジ全員が眼を見開 く………漆黒の戦乙女……

「それと…待ってくださ い……これは!」

最後の機種特定を見たトノム ラが息を呑む。

「イージス! X303、 イージスです!」

マリューは一瞬、驚きに眼を 見開いた。

「では…あのナスカ級だとい うの?」

ラウ=ル=クルーゼの率いる 部隊。

俯いていたマリューが、何か を決意したように顔を上げた。

「……今から反転しても、逃 げ切れると言う保障もないわ…総員第一戦闘配備!!  アークエンジェルは先遣隊援護に向かいます!」

 

 

アークエンジェル艦内に警報 が鳴り響く。

キラは自室を飛び出し、ロッ カールームへと向かう。

途中、レイナも合流してき た。

「まったく……!!」

レイナは舌打ちする。

まったく…この艦の艦長の判 断には毎回毎回困らされる。

救助に来た艦隊を逆に救援に 行くなど……

二人がちょうど、ラクスの部 屋の前を通り過ぎようとした時、ドアが開き、ラクスがひょっこりと姿を現わした。

「また…!?」

キラは歩みを止める。

レイナも思わず立ち止まっ た。

「何ですの? 急に賑やか に……」

「戦闘配備なんです。さ、中 に入って」

「ここの鍵はどうなってる の……?」

押し込まれるラクスを見やり ながら、レイナがぼやく。

「戦闘配備って……まあ、戦 いになるんですの?」

「そうです……ってか、もう なってます」

「……キラ様やレイナ様も、 戦われるんですか?」

曇りのない、瞳で見詰めら れ、キラは言葉に詰まる。

「……そうよ」

だが、レイナだけは冷静に答 える。

「……とにかく、今度こそ部 屋から出ないでください、いいですね?」

キラはそれだけ伝えると、先 に駆けていく。

「……私も行くわ、ザフトが 来てるし…まあ、貴方にとっては酷なことかもしれないけど」

そう…自分達はこれから、彼 女の同胞であるコーディネイターと戦うのだ。

「レイナ様は…何故、戦われ るのですか?」

ラクスの問い掛けに、レイナ は少し間をあけて…答えた。

「……自分を護りたいだけ。 自分を知らずに死ぬのは……嫌だから」

やや表情を俯かせて、答え る。

「私は別に…この戦争に興味 なんかない、無意味なことをし続ける連中は嫌いだけどね」

最後にそう付け加えると、ラ クスはやや微笑を浮かべて頷いた。

レイナはラクスを部屋へと押 し込み、しっかりと鍵をかけ、格納庫に向った。

 

 

キラが走っていると、突然腕 を掴まれ、歩みが止まる。

「キラ! 戦闘配備ってどう いう事? ねえっ、パパの艦は!?」

不安な顔のフレイだった。

事情を知らないキラは戸惑 う。

「だ、大丈夫よね? パパの 船、やられたりしないわよね!?……ね!」  
キラは事情は理解できなかったが、焦って相手の欲する言葉を言う。

「大丈夫だよフレイ、僕達も 行くから」

宥めるように微笑むと、キラ はフレイの腕を放し、急いで格納庫に向けて走っていった。

その後姿を、不安そうにフレ イは黙って見送った。

 

 

戦場は混戦を極めていた。

だが、ザフト側はMSを一機 も損失していないの対し、地球軍側は既に半数近くのメビウスが墜とされている。

ジンに向かってバルカン砲と リニアキャノンを撃つが、ジンは攻撃を回避し、バズーカやライフルでメビウスを撃ち落す。

アルフの駆るメビウス・イン フィニートも部下のメビウス隊と隊列を組んでいたが、編隊のメビウスがまた一機撃ち落される。

「くそっ……!」

悔しさに歯噛みする。

一機のジンに照準を合わせ、 持てる火器を全て叩き込んだ。

圧倒的な火力に流石のジンも 回避できず、ジンが一機爆発に消えた。

それに気付いたザフト側がや や動揺する。

まさか…友軍機が撃ち落され るとは考えられなかったのだろう。

「蒼いメビウス…成る程、噂 の『蒼き疾風』か」

3機編隊で突入してきたメビ ウスを撃ち落したリンは狙いをインフィニートに定める。

76ミリ重突撃機銃を撃ち放 つ。

「くっ……!」

アルフは必死に回避し続け る。

それを横にイージスは圧倒的 な機動性をいかし、メビウス部隊を撃ち落しながら敵艦に向かう。

懐に飛び込み、機関部にビー ムを撃ち込む。

誘爆を防ぐために、艦は機関 部を切り離し、戦線を離脱していく。

イージスはMA形態へと変形 し、続けてもう一隻へ向かう。

「護衛艦バーナード、沈 黙!」

「X303イージス! ロー に向かっていきます!!」

「クオルド中尉は!?」

「敵MSと交戦中!!」

モントゴメリ内でアルスター はその戦況に唖然となる。

「奪われた味方機に墜とされ る……そんなふざけた話があるか!?」

 


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