艦首ハッチが開き、カタパル トへ移動するメビウス・ゼロ。

《メビウス零式、フラガ機… リニアカタパルトへ》

誘導に従い、ゼロがカタパル トに接続する。

ムウがヘルメットのバイザー を下ろすと同時に、メビウス・ゼロが発進していく。

遅れてパイロットスーツに着 替えたキラとレイナが到着した。

「遅いぞ! 坊主! 嬢ちゃ ん!」

「すいません!」

マードックの怒鳴り声を横 に、キラとレイナはそれぞれの機体に乗り込む。

起動シークエンスを進めてい ると、ミリアリアが敵戦力を報告してくれた。

《敵はナスカ級にジンが現在 4機、シグーのカスタム機が1機。それとイージスがいるわ! 気をつけて!!》

イージスという単語に、一瞬 キラの動作が止まる。
だが、そこに割り込むようにサイからの通信が飛び込んできた。

《キラ! 先遣隊にはフレイ のお父さんがいるんだ! 頼む!!》

「……解かった!」

プレッシャーを感じつつ、キ ラは短く答え、ストライクをカタパルトへ進めた。

《カタパルト接続…エールス トライカー、スタンバイ!》

固定されたストライクにエー ルパックとビームライフル、シールドが装着される。

《システム、オールグリー ン…進路クリア! ストライクどうぞ!!》

キラはペダルを踏み込み、ス トライクを発進させる。

艦外へと出たストライクに PS装甲がONとなり、エールが火を噴く。

 

《カタパルト接続、ルシ ファー…スタンバイ!》

続けて左舷デッキが開き、ル シファーがカタパルトに固定される。

「ジン4、シグーのカスタム 機…ヴァルキリー……それにイージスか…」

先程のラクスとの会話が脳裏 を駆け巡る。

そう……自分はまだ死ねな い……自分自身を知るまで………

だからこそ…戦う……

操縦桿を握り締め、スラス ターを噴かす。

 

自分にはできる……

自分を護るためなら……

自分が生き残るためな ら………

 

「……戦える…殺せる……た とえ、相手が誰であろうとも!」

 

キッと前を見据える。

その瞳には……はっきりとし た闇が浮かび上がっていた。

《進路クリア! ルシファー 発進、どうぞ!!》

レイナはルシファーを発進さ せる。

機体に漆黒のカラーリングが 施され、ルシファーは宇宙に舞う。

アークエンジェルから発進し たストライクとルシファーは加速し、先行するゼロに追いつく。

 

 

 

既に戦況は地球軍の圧倒的不 利であった。

MA隊はほぼ壊滅に近い。

アルフのインフィニートが奮 戦しているが、一機でどうにかなるものでもない。

その時…戦線にアークエン ジェルが姿を現わした。

「バリアント、一番二番!  撃てぇぇぇ!!」

アークエンジェルより放たれ た光弾はモントゴメリ直前まで迫っていたジンに命中し、ジンは爆発に消える。

「アークエンジェル……!」

「来てくれたのか…!」

喜びの声を上げるアルスター の横で、コープマン艦長は拳を握り締めて肘掛を叩いた。

「……馬鹿な!!」

 

 

アークエンジェルの登場は ヴェサリウスからも確認されていた。

「足付きです! MS2!  MA1の発進を確認!」

オペレーターの報告にクルー ゼはニヤリと笑みを浮かべる。

「本命の登場だ……今度こそ 仕留めさせてもらう、雑魚にあまり時間を掛けるなよ」

 

 

MA形態のイージスは先端の クローを開く。

その中心に位置する砲口か ら、大火力のエネルギーが放たれ、ローの船体を貫いた。

爆発するローを見やりなが ら、アスランは機体内にアラートが響いたので、そちらに視線を変える。

彼方からこちらに接近してく るストライク。

イージスはMS形態へと変形 し、ストライクに向かっていく。

互いにすれ違いざまにビーム を放つ。

 

 

ルシファーは向かってきたジ ン1機を撃ち落す。

「……!!」

その時、脳裏に電流のような ものが駆け巡る。

(何……この感覚!)

レイナは戦闘空域を見渡し、 その感覚が導く方向へ進んでいく。

 

 

リンのヴァルキリーは先程か ら、インフィニートを攻撃していた。

放たれた機銃がインフィニー トの火器を撃ち抜く。

「くそっ…!!」

アルフは舌打ちしながら、武 装を切り離し、その場から離脱する。

「MA如きがチョロチョロ と……!!」

怒りを覚えていたリンの脳裏 に電流が走る。

思わず、機体を停止させ…あ さっての方向を見やる。

「この感覚……まさか!」

ヴァルキリーは反転し、加速 する。

 

 

(この感覚……誰? 私を呼 ぶのは……)

(…この感覚……まさか、ま さか…!)

レイナとリンは互いに感じ合 う感覚の導くままに進む。

そして……遂に相手を捉え る。

互いのモニターに映る機 体……

 

漆黒の堕天使と漆黒の戦乙 女……

 

2機はすれ違う。

だが、互いに反転し、相手に 向かって攻撃する。

「貴方…誰!? 私を…知っ ている……!?」

「ふふふ、そう……貴方なの ね…まさか、生きていたなんてね」

焦燥感を浮かべるレイナに対 し、リンは嘲笑を浮かべる。

ルシファーはビームサーベル を抜き、ヴァルキリーは重斬刀を取り出す。

2機の斬撃がぶつかり合う。

エネルギーがスパークする。

そして……互いに相手を認識 し合う。

 

「リン…システィ……それが 貴方の名!?」

「…レイナ…クズハ……そ う、それが今の貴方の名!?」

 

2機は弾き合い、もう一度距 離を取る。

銃撃戦に移り、互いを撃ち合 う。

「…誰!?……誰なの、貴方 は!?」

苦悩を浮かべるレイナ。

「嬉しいわ……貴方とこうし て巡り遭えて…ねえ! 姉さん!!!」

嬉しそうに叫びながら、リン は向かっていく。

 

 

ゼロがジンに向かっていく。

ガンバレルを展開し、ジンに 損傷を与える。

だが、そこへ残りの1機が突 入してきた。

「ちぃぃ!!」

慌てて回避行動に移る。

だが、そのジンは進路上に攻 撃を晒され、慌てて方向を変える。

「大尉! 大丈夫っす か!?」

そこへ飛来してくるインフィ ニート。

その蒼いボディにムウが眼を 見開く。

「お前…アルフか!」

「はい! お久しぶりっす、 大尉!!」

「まさか、お前が先遣隊と共 に来てるとは……な!!」

ガンバレルでジン2機を翻弄 する。

「こっちも驚きましたよ!」

インフィニートも二連リニア キャノンとバルカンで応戦している。

「よっし! いくぞ!!」

「了解!!」

ムウとアルフは呼吸を合わ せ、一気に全火力を放つ。

2機の火力にジンが被弾し、 爆発する。

だが、爆発する直前にジンの 持っていたバズーカから弾頭が放たれ、それがゼロに被弾した。

「ちぃぃ!!」

ムウは歯噛みする。

「大尉! その機体ではこれ 以上、戦闘は無理です! ここは俺が抑えます!!」

残りのジンを牽制するアルフ にムウは済まなさそうに答えた。

「すまん……ったく、これ じゃ立つ瀬ないでしょ! 俺は…!」

悔しさに歯噛みしたまま、ゼ ロはアークエンジェルへ帰還していく。

 

 

膠着している戦況を見詰めな がらクルーゼは立ち上がる。

「残りのMSを発進させろ」

既に投入したジンを4機も 失っている。

これ以上、余計な時間を掛け ないためにも、持てる戦力を全て投入する。

ヴェサリウスからさらに2機 のジンが発進していく。

 

 

白と紅の機体は互いに軌跡を 描きながらビームを撃ち合う。

ストライクがビームサーベル を抜き、それに呼応してイージスもビームサーベルを展開する。

近接し、相手に向かって振り 下ろす。

互いのビームサーベルをシー ルドで受け止め、エネルギーがスパークする。

2機の後方で…護衛艦が爆発 に包まれた。

 

 

ルシファーとヴァルキ リー……2機の黒い機体もまた激しい攻防を繰り返していた。

ヴァルキリーの機銃をシール ドで受け止め、頭部と胸部のバルカン砲で牽制し、距離を取る。

「フッ…流石はPS装甲、シ グーの銃では傷一つできないか……ならば!」

機銃を捨て、ヴァルキリーは バックから新たな銃を取り出す。

手に持った銃に腰部から取り 出した弾倉を取り付ける。

銃口を向け…コックピット内 の照準がセットされる。

トリガーを引いた瞬間……光 を纏った光弾が放たれる。

「何……!?」

レイナは驚いてシールドで受 け止める。

「ビーム兵器……!!」

厄介な武装を持ち出してき た、とレイナは舌打ちする、

ヴァルキリーは鋭い機動性で こちらを正確に狙ってくる。

「極限まで軽量化したボディ に、背中の高機動スラスター……!!」

相手のヴァルキリーのデータ が表示される。

「おまけに、無駄弾を撃って こない……こういう奴が、一番怖い!!」

ビームマシンガンを放ってく るヴァルキリーに応戦するようにビームライフルを放つ。

 

 

アークエンジェルのブリッジ は騒然となっていた。

戦況は目まぐるしく変わり、 それに対応してマリューとナタルが指示を出している。

「ゴッドフリート、一番照準 合わせ! てぇっ!!」

「ゼロ、帰還します! 損傷 あり!!」

そんな時、ドアが静かに開 き、フレイがブリッジに入って来た。

だが、皆持ち場に手一杯で気 付くのが遅れた。

「ナスカ級よりミサイル!  ローに向かっていきます!」

少しでも戦況を知りたくて やって来たのだが、モニターに映る戦闘の様子を見ると青褪めてしまう。

フレイに逸早く気付いたのは カズィだった。

「……フレイ!?」

「パパ…パパの艦はどれな の!?」

フレイは震える口調で叫ぶ。

「今は戦闘中です! 非戦闘 員はブリッジを出て!」

マリューの言葉に後押しされ て、サイがCICから飛び出し、フレイを連れ出そうとするが、フレイはサイの腕の中で激しく暴れ出した。

「離して! パパの艦は…… どうなってるのよお!?」

スクリーンに映るローがミサ イルの直撃を受け、爆発に消える。

「ロー! 撃沈!!」

その時、通信が入り…モニ ターにコープマンの姿が映る。
《アークエンジェル! これは命令だ!! すぐこの宙域から離脱しろ!!》

「しかし……!!」

苦渋の命令にマリューは思わ ず唇を噛み、反論を試みる前にフレイが叫んだ。

「パパ!」

コープマンの後方に、アルス ター事務次官の姿があったのだ。

父の生きている姿に、安堵感 を覚えるが、当の本人は取り乱して、モニターの娘の姿に気がついていない。

《バカな! ここでアークエ ンジェルに退かれたらこっちはどうなる!!》

《誰か! 事務次官を救命 ポッドにお連れしろ! とにかく、一刻も早くここから離れるんだ! いいな!?》

再度伝えると、一方的に通信 を切断する。

「パパ……パパぁっ……!」

「フレイ! さ、行こう!  ここに居ちゃだめだ!!」

引き摺るようにサイに連れ出 されるフレイ。

「…ナスカ級よりさらに熱 源! ジン2です!!」

「MA隊、残存1!」

背後のドアが閉まるまで、絶 望的な戦況が飛び交う。

通路に蹲るように身を縮める フレイを、サイが抱き寄せる。

耳元に…掠れた声が囁かれ る。

「キラは……?」

「え?」

フレイは勢いよく顔を上げ、 見開いた眼でサイを見る。

「キラは!? あの子は何を やってるの!?」

「頑張って戦ってるよ。で も、向こうにもイージスがいるし……」

「でも、『大丈夫』って言っ たのよ!」

フレイは金きり声でさらに言 い募る。

「『僕達もいくから、大丈 夫』だって!!」

サイはフレイを宥めながら、 居住区へと連れて行く。

『大丈夫』と、繰り返しなが ら……気休めとはいえ、この状況では他に言いようが無かった。

その時、通路の奥から……細 い、歌声が聞こえてきた。

綺麗で…穏やかで優しいメロ ディが二人の耳に入った。

士官室でただ一人、ラクスが 歌い続けていたのだ。

その歌声が…フレイの心境を 逆撫でし、挑発する……

彼女はサイの手を振り切っ て、士官室に走る。

乱暴に開けられたドアに、ラ クスはキョトンとした表情で振り向く。

そこには…憎悪を抱いたフレ イの醜悪な表情があった………

 

 

 

ヴァルキリーと戦闘を繰り広 げるルシファー。

「……フラガ大尉は離脱、 MAが1機頑張ってるか……」

モニターに眼をやりながら、 状況を分析する。

「キラはイージスの相手で動 けない……」

先程から、ストライクはイー ジスに動きを封じられている。

そして…自分は眼前の漆黒の ヴァルキリー相手で手一杯だ。

おまけに…先程、敵艦からジ ンが2機発進したのを確認した。

「…最悪ね」

戦況は予想以上にこちらの分 が悪い。

はっきり言って、地球軍の戦 力など、アテにはならない。

「いや…あるにはあるか」

この状況を打破する手 が………

そう…あの歌姫を………

思考の中で、ヴァルキリーの 重斬刀が迫り…思考が中断する。

そして……また一つ、地球軍 の戦艦が沈む。

 

 

バーナードがジンに撃ち抜か れ、爆散する。

残るは旗艦のモントゴメリの み。

ジンはアークエンジェルより も先にモントゴメリを沈めようと、襲い掛かる。

「ローエングリン発射準備!  ジンが来るぞ! ストライクとルシファーは何をしている!?」

唇を噛み締めるマリューの元 に通信が飛び込んでくる。

《艦長!》

被弾して、帰還したムウから だ。

《ダメだ! 離脱しなきゃ、 こっちまでやられるぞ!!》

「しかし……」

眼前で攻撃に晒されるモント ゴメリを見捨てるという決断ができない。

頼みの綱のストライクとルシ ファーはそれぞれイージスとヴァルキリー相手でとてもではないが、援護に向かえない。

ジンの放ったバズーカがモン トゴメリの主砲を潰す。

その時、再びブリッジへの扉 が開き、飛び込んできたフレイと引っ張られるラクスを見てカズィは言葉を失った。

ブリッジクルー全員がそれに 気付き、振り向く。

フレイは蒼白で、眼だけがギ ラギラと光っている。

「……この子を、殺す わ……!」

割れたようなフレイの口調 に、ブリッジの者が衝撃を受ける。

「パパの艦を撃ったら……こ の子を殺すって……! あいつらに言って……!」

その絶叫に全員が言葉を失く す。

「……そう言っ てぇぇぇぇっ!!」

獣のような叫び…だが、既に 遅すぎた。

ヴェサリウスから主砲が放た れ、それは既にボロボロとなったモントゴメリの船体を貫いた。

刹那…激しい爆発が起こ り……そして、徐々に艦の残骸が浮かび上がる。

救命ポッドを射出する暇さえ 無かった……

「い やぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!」

その残酷な光景に…フレイは 悲鳴を上げる。

ふらつく身体を慌ててサイが 抱きとめる。

「あ……あああ………ああ あっ………」

もはや、フレイの口から出る のは、呻き声のみ。

ラクスは眼の前で父親を殺さ れたフレイを痛ましげに見やった。

マリューも痛ましげにフレイ を見詰めている。

だが、ナタルだけは別のもの を見ている。

モントゴメリを撃沈したジン 2機とヴェザリウスが進路を変える。

こちらに狙いを定めて………

「艦長!」

ナタルは叫ぶが、マリューは 動かない。

ナタルはシートを蹴り、上に 飛び出すと、カズィからインカムを奪い取り、全域周波数で通信を送る。

「バジルール少尉!」

それに気付いたマリューが咎 めるが、ナタルは無視する。

「ザフト軍に告ぐ! こちら は地球連合軍所属艦アークエンジェル! 当艦は現在、プラント最高評議会議長シーゲル=クラインの令嬢、ラクス=クラインとザフト軍特務隊所属のメイア= ファーエデンの両名を保護している!!」

 

 

ナタルの言葉に、アスランは 驚き、動きを止める。

リンもまた動きを止め、周囲 のジンも動きを止めた。

だが、それはキラ達も例外で はなかった……

 

 

「ラクス様!?」

ヴェザリウスのブリッジでア デスが声を上げた。

モニターに映った地球軍女性 士官の背後に、確かにラクスの姿が映ったからだ。

《偶発的に救命ポッドを発見 し、人道的立場から保護したものであるが、以降…当艦への攻撃が加えられた場合、それは貴艦のラクス=クライン嬢とメイア=ファーエデン両名への責任放棄 とみなし、当方は自由意思でこの件を処理するつもりであることをお伝えする!》

非情に言い切る。

つまり…こちらを撃ったらラ クスを殺す、という脅しだ。

クルーゼがせせら笑うように ひとりごちる。

「…恰好の悪いことだな。援 護に来て、不利になったらこれか」

「隊長……」

「ああ、解かっている、全 軍…一時攻撃中止だ」

 

 

ナタルはインカムを外し、先 程から睨みつけているマリューを見返した。

「……Gとアークエンジェル を、ここで沈めるわけにはいきません」

「解かっているわ…ナタル」

マリューは冷ややかに応じ た。

 

 

 


《次回予告》

 

 

憎悪はさらなる悲劇を生もう とする。

黒き少女は、歌姫を傷付いた 少年の元へ導く。

 

だが…もう一人の黒き少女は 蠢く。

 

傷付いた心は、波紋を広げて いく……

 

次回、「黒き道」

 

呪いを抱き、飛べ、ガンダ ム。



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