《全艦密集陣形にて、迎撃態 勢!》

メネラオスのハルバートンが 指示を出し、第8艦隊は、アークエンジェルを囲むように布陣し、駆逐艦、戦艦から次々とメビウス隊が発進していく。

《アークエンジェルは動く な! そのまま本艦につけ!》

何十隻という艦隊と、百を越 えるMA隊に護られていても、アークエンジェルのブリッジには重苦しい雰囲気が漂っていた。

敵は、戦艦3隻にMSが15 機…数の上でいえば、こちらが圧倒的ではあるが、MSとMAの戦力比が1:5である以上、とても楽観視できない。

「イーゲルシュテルン起動!  艦尾ミサイル発射管コリントス装填!」

ナタルは次々と武装の起動を 指示する。

「ゴッドフリート、ローエン グリン、発射準備!」

「敵MS機種特定…ジン9!  ヴァルキリー! イージス、デュエル、バスター、ブリッツ…それと……待ってください! ライブラリ未登録の機体が1機!!」

全員が息 を呑む。          

ザフトは、この戦線に新型機 を投入してきたという事実に……

「すみません、遅れまし た!」

その時、ドアが開き、降りた はずのヘリオポリスの学生達が飛び込んでき、以前からの自分達のシートに当然のように着く。

「貴方達……」

マリューが呆然と呟く。

志願兵です。ホフマン大佐が受領し、私が承認しました」

事情を知っていたらしいナタ ルが報告すると、マリューは眼を見開く。

「あ、キラの奴は降ろしまし た」

CICに入ったサイが、困惑 するマリューに答える。

「俺達じゃ、あいつの代わり までは無理かもしれませんけど…いないよりはマシでしょ」

トールはノイマンに合図を送 り、トノムラは背後の2人をちらりと見て笑みを浮かべる。はじめは驚いていたクルー達も、今は嬉しそうに彼らを受け入れていた。

だが、マリューは彼らの決意 をありがたいとは思いつつ、胸中は複雑であった。

彼らなりの決意があってこと なのだろうが、それはあまりにもあまく、後の彼らの人生にどのような影を落とすのか……不安を覚えずにはいられなかった。

 

 

ジンが散開し、ジンとメビウ スが砲口を向け合った。

宇宙の闇に閃光の華が咲 く……メビウスの放つミサイルやリニアカノンをかわし、ジンはライフルやバズーカでメビウスを撃ち落していく。

戦闘をヴェサリウスのブリッ ジで見詰めるクルーゼは、つまらなさそうに呟いた。

「ハルバートンは、どうあっ てもアレを地球に降ろす気だな…大事に奥にしまい込んで何もさせんとは……」

「こちらはラクですが、敵 MSも出てませんし……」

「戦艦とMAだけでは、もは や我らに勝てぬと知っている……良い将だよ。アレを造らせたのも彼だということだしな……」

クルーゼは、戦場を飛び交う 4機のXナンバーを見やり、冷笑を浮かべる。

「ならばせめて…この戦闘で その自説、証明してさしあげよう……」

 

 

機動戦士ガンダムSEED 

TWIN DESTINY OF  DARKNES

PHASE-13  呪われた瞳

 

 

アークエンジェルの格納庫は 騒然としていた。

念のために、ゼロとインフィ ニートが待機し、整備員も慌しく動き回っている。

だが、ムウやアルフは納得が いかない…味方がやられているのを黙ってみているなどできないのだ。

「おい! なんで俺達は戦闘 待機なんだよ!?」

ムウが通信機を片手にブリッ ジに繋ぎ、マリューに怒鳴るように尋ねる。

「いくら第8艦隊でも、敵に はXナンバーがいるんだろ…それに、未確認機も確認したって聞いた……かなりヤバイ状況だぞ」

アルフもムウの横でなんとか 出撃許可を貰えるように粘るが、マリューは顔を顰める。

《本艦への出撃指示はまだあ りません! 引き続き待機してください!!》

苦悩を感じさせる表情で言う マリューに、ムウやアルフも口を噤む。

「……私が行くわ」

その時、二人は背後から聞こ えてきた声に驚いて振り返る。

そこには…艦を降りたと思っ ていたレイナがパイロットスーツでルシファーへと向かっていた。

「嬢ちゃん…降りたんじゃな かったのか!?」

ムウやアルフは暫し、唖然と していたが、レイナは何時もの冷静な口調で答える。

「……ま、いろいろあって ね…出るわ」

言うや否や、コックピットに 飛び込み、ルシファーが起動する。

整備員は慌てて退去し、ルシ ファーが発進口に向かっていく。

「あんな若い頃から、戦場と か戦争とかに駆り出されたら…後の人生、キツイぜ……」

「……そうっすね」

寂しげに呟くムウに、相槌を 打つアルフ。

その二人を見ていたマードッ クはふと思った……今のは、自分達の経験からではないだろうか、と……

そうしている間に、ムウやア ルフはそれぞれの機体に乗り込んだ。

やはり、彼らはジッとしてい られる性分ではないのだ。

 

ブリッジにもアラートが響 く。

「どうしたの!?」

マリューが振り返り、尋ね る。

「格納庫より…レイナさんが ルシファーで発進するそうです!」

マリューは眼を見開き、他の クルー達も驚愕に包まれた。

一番、残りそうになかった少 女の名を聞いたからだ。

何故…という思いが駆け巡 る……少なくとも、彼女は残る理由が無いのではないだろうか………

カタパルトが開き、ルシ ファーが発進していくのを、やや呆然と見詰めていた。

そして、すぐにムウとアルフ からの通信が飛び込んできた。

《艦長! 嬢ちゃんの奴が出 た! やっぱ、俺もいくぜ!!》

「ですが、大尉!」

《艦長、俺からも頼みます。 やはり、第8艦隊だけでは持ちこたえられない!》

二人の真剣な瞳に気圧され… マリューは暫し、眼を瞑った後…やがて決断した。

「解かりました……ただし、 降下までには戻ってください!」

《《了解!!》》

通信が終わると同時に、2機 のMAが飛び出し、戦場へと向かう。

 

 

 

戦場は熾烈を極める…その中 で、舞う6機のMSの戦闘が目立つ。

戦線を掻い潜り、MA形態に 変形したイージスのスキュラによって、3機のメビウスが撃ち落され、ブリッツは一機一機正確にメビウスを撃ち落し、後方からの超長距離から狙撃し、駆逐艦 のエンジンを撃ち抜くリベレーション、デュエル、バスターの2機も圧倒的な機動性と火力を駆使し、MA部隊を一瞬の内に撃ち落していく。ヴァルキリーもま た、その機動性を活かし、重斬刀でメビウスを両断し、機銃で撃ち落していく。

MSの攻撃は徐々に艦隊に 迫っていく。

「ええいっ、イージスにバス ター、デュエル、ブリッツか……!」

自らが開発を推進したMSの 有効性を、このような形で味わうことになろうとは、なんたる皮肉であろうか。

「確かに見事なMSです な……だが、敵に回しては厄介なだけだ」

隣のホフマンが冷ややかに言 う。

「あの4機…なんとしても墜 とせよ!」

だからこそ…自らの手で倒さ なければならない。

 

 

先方の駆逐艦隊が突撃してき た6機に向けて砲撃するが、6機は散開し、イージスは華麗な動きで駆逐艦の懐に飛び込み、クローで砲台に取り付き、零距離からスキュラを放ち、誘爆を起こ して、駆逐艦は離脱していく。

ブリッツはミラージュコロイ ドを展開し、艦のレーダーから消える…混乱する艦のブリッジ直前に姿を現し、驚愕するクルーを前に、左腕のグレイプニールでブリッジを潰す。

バスターはガンランチャーと 収束火線ライフルを中央でドッキングさせ、長高インパルスライフルとして構え、駆逐艦の船体を砲口から火を噴いたビームが貫いた。

ヴァルキリーが対空砲を掻い 潜りながら接近しつつある…PS装甲を持たないヴァルキリーで、もし一発でも当たれば、致命傷となるというのに、ヴァルキリーは加速する。その時、駆逐艦 のエンジンの一基が貫かれた…後方から、スナイパーインパルスライフルを構えたリベレーションだ。リベレーションは、正確な射撃で、エンジンのみを撃ち抜 いていく。

バランスの取れない駆逐艦の ブリッジ向けて上方から一気に降下し、重斬刀でブリッジを斬り落とし、ヴァルキリーは離脱する。

その時、リベレーションの リーラはデュエルの姿に気付く。

(何で…確か、出られる状態 じゃないって聞いたのに……)

デュエルのパイロットが負傷 し、今回の作戦には出られないと思っていたリーラは当惑するが、すぐに表情を引き締め、デュエルに追い縋っていく。

《リーラ! 前に出すぎだ ぞ!!》

「デュエルの援護に回りま す!」

アスランからの通信を切り、 先行するデュエルに追い縋っていく。

デュエルはMA部隊に護られ た駆逐艦に狙いを定めていた。

向かってくるMAに向けて ビームライフルで迎撃している…その時、駆逐艦の砲台がデュエルを狙っているのに気付いた。

「危ない!」

叫ぶと同時にスナイパーライ フルで砲台を撃ち抜いていた。

その援護に呆気に取られたイ ザークだったが、すぐに我に返り、シヴァとビームライフルを連射し、駆逐艦を轟沈させる。

「大丈夫ですか!?」

リーラは急ぎ、デュエルに通 信を繋ぐ。

画面に、イザークの姿が映し 出され、顔の半分以上を覆う包帯が痛々しい。

《お前は……》

「クルーゼ隊に配属されたリ フェーラ=シリウスです…私が援護します!」

《……解かった、頼むぞ。そ れと、ストライクを見つけたら手を出すなよ!》

通信が途切れ、デュエルとリ ベレーションは突入していく。

 

 

「セレウコス被弾、戦闘不 能! カサンドロス沈黙!! アトラス、航行不能!!」

「アンティゴノス、プトレマ イオス撃沈!」
メネラオスのオペレーターが上擦った声で報告し、ホフマンが愕然として立ち上がる。

「何だと!? 戦闘開始後、 たった6分で……5隻をか!?」

その時、遥か前方の敵艦隊が 前進してきた。

「敵ナスカ級、及びローラシ ア級接近!!」

「セレウコス、カサンドロ ス、アトラスにレーザー照射!!」

ハルバートンの眼が驚愕に見 開かれる。

次の瞬間、離脱しようとして いた駆逐艦は砲撃によって沈んでいった……

「おのれ……クルーゼめ!」

睨みつけるハルバートンの元 に、更に驚愕的な報告が飛び込んでくる。

「アークエンジェルより、 X000ルシファー、メビウス・ゼロ、メビウス・インフィニート発進を確認!!」

サブモニターに眼を向ける と、こちらへと向かってくる漆黒の機体が映る。

「提督! ルシファーより通 信!」

手元の通信画面にレイナの顔 が映る。

《……援護するわ》

予想できたことだった…あの 時の別れの彼女の言葉の意味を汲み取れば……

だが、ハルバートンは言葉を 濁す……

「しかし…」

《このままじゃ、艦隊は全滅 するわよ…それに、私は貴方の命令を聞く義理はないし……私はあくまで、協力者よ》

微かに口元に笑みを浮かべ る。

「……解かった、頼む」

答えるように通信が途切れ、 ルシファーはメネラオスを追い抜き、敵部隊の中に突っ込んでいく。

それを追うように2機のMA が突入していく。

「メビウス隊に通達! 陣形 を立て直しつつ、ゼロとインフィニートに続け!!」

 

 

「……!」

メビウスを撃ち落したリンは ある感覚に捉われる。

「……姉さん!?」

モニターに拡大すると、ルシ ファーがスラスターを噴かし、こちらへと突っ込んできていた。

気付いたジン2機が攻撃を仕 掛けようとするが、ルシファーは持っていたシールドを投げつけた。

予想できなかった攻撃にジン 2機はシールドによって弾かれ、バランスを崩した瞬間、ルシファーは左右の腰部からビームサーベルを抜き、ジン2機を両断した。

ジン2機が爆発に包まれ、ル シファーはさらに加速する。

「まさか……!」

リンは、相手の思惑を考え付 き、眼を見開く。

 

 

戦線に到達したゼロとイン フィニートは、友軍のメビウス隊を引き連れ、陣形を立て直す。

ゼロのガンバレルが火を噴 き、ジンに攻撃が浴びせられる。そして、周囲に展開していたメビウス隊の集中砲火が降り注ぎ、ジンが撃ち落される。

「大尉! あの娘…敵艦隊に 突っ込む気っすよ!!」

「ちぃい…無茶しやがる!  アルフ! ここは俺に任せてお前は嬢ちゃんを追え! お前の機体なら、追いつけるはずだ!」

「了解! ついでに艦隊も、 墜としてきますよ!!」
冗談めいた口調で答え、インフィニートは加速する。

編隊の中から飛び出す蒼のメ ビウスに気付いたジンが攻撃しようとするが、邪魔はさせまいとゼロが攻撃する。

しかし、やはり機体性能の差 は大きく、味方のメビウス隊も撃ち落されていく。

 

 

「……ん?」

神経を眼前の艦隊に集中させ ていたレイナは追い縋ってくるインフィニートに気付く。

《おい! 無茶するなよ な!》

通信が入り、アルフの怒号と も取れる声が飛び込んでくる。

「……無茶でも何でも、これ が一番効率がいいんですよ」

レイナは笑みを浮かべる。

レイナの狙いは、敵艦のう ち、どれでもいいから一隻を沈め、敵に混乱を与えるといったものであった。だが、敵陣の中に突っ込んでいくのは、無謀とも取れる。

「私にはできます……私に は、死への翼がついてるんですから」

ゾクッとするような笑みを浮 かべ、レイナはルシファーを加速させる。

通信が途切れた後も、アルフ はやや身震いした。

(あの娘…いったいどんな生 き方をしてきたんだ……?)

先程の、恐ろしいまでの笑み に冷や汗が流れるが、それは、眼前に立ち塞がったジンに注意を変え、消える。

ジン2機がライフルで妨害し てくるが、ルシファーはビームサーベルを抜き、インフィニートは火器を構える。

2機はジンに向かって攻撃 し、止まることなく通り過ぎる。

通り過ぎた後には、一機のジ ンはボディを上下に両断され、もう一機は全身を撃ち抜かれ、爆発に消えた。

もはや敵艦までの進路上に敵 はいなかった。

 

 

「敵MSが艦隊に!」

リーラが気付くが、イザーク は歯軋りしながらアークエンジェルを睨みつける。

《俺達の任務は足付きの撃破 だ…艦隊は他の奴に任せろ!》

「は…はい!!」

デュエル、リベレーション、 バスターが続き、艦隊やMAを蹴散らしながらアークエンジェルへと向かっていく。

 

 

艦隊に突入したレイナは、そ の狙いをローラシア級の一隻に定めた。

「敵MS接近!」

「撃ち落せ!!」

ヴェサリウスのアデスが叫 び、3隻から対空砲火が放たれるが、ルシファーとインフィニートは小刻みに動きながらかわし、取り付いていく。

艦に対して、MSの有効性は ザフトに取って周知の事実だ。

レイナはローラシア級: ツィーグラーに狙いを定め、後ろの腰部に取り付けていたビームライフルを抜き、ブリッジ目掛けて急降下しながら放った。

「墜ちろぉぉぉぉ!!」

ビームがブリッジを貫き、続 くようにインフィニートも装備していたミサイル、リニアガンとバルカンをありったけ撃ち込んだ。

ブリッジに続き、2つの主砲 も潰され、艦の船体が誘爆によって爆発していく。

ルシファーは急降下しなが ら、機体を旋廻させ、エンジンに照準を合わせる。

「……チェックメイト」

軽く呟き、エンジンを撃ち抜 いた。

エンジンが爆発し、ツィーグ ラーは爆発に包まれていき、ルシファーは身を翻して離脱する。

爆発の余波が並行していた ヴェサリウスとガモフを襲い、ヴェサリウスのブリッジは驚愕に包まれた。

「ツィーグラーが!?」

「ちぃぃ…蒼き疾風にあの黒 いMSか!」

クルーゼが忌々しげに呟く。

巡洋艦1隻と、ジンを続けて 半数近くも失ってしまった。

自身の勝算が覆されそうにな る要因を…クルーゼは睨みつけた。

 

 

ハルバートンは巧みに艦隊を 維持していた。

損傷艦を無傷の艦隊で囲み、 重ねるように砲撃を繰り返す。

だが、艦隊の既に3分の1近 くが戦闘不能となり、MA隊の損耗も激しい。

その時、前方の敵艦隊付近で 大きな熱量が確認された。

「敵、ローラシア級の反応 1、消失!」

オペレーターの報告に、メネ ラオスだけでなく、友軍のほとんどが歓声に沸く。

(フッ…あの無茶な戦い方… やはり、奴の名を持つだけのことはある)

苦笑を浮かべ、肩を竦めた。

今の戦術は、昔…ハルバート ン自身が本人から聞いた戦法と酷似していた。

そして……やはり、単なる知 り合い程度ではないと確信する。

「あいつら…やりやがった な!」

ムウも笑みを浮かべ、ガンバ レルを展開して、ジンに攻撃を浴びせる。

他のメビウスも続き、ジンが また1機爆発する。

連合の士気が上がるのに対 し、ザフト側の動揺は大きかった。

 

 

「…ツィーグラーが……沈ん だ!?」

思わぬ事態に、リーラは呆然 となる。

そのために、動きが鈍る。

その時、護衛艦の一隻が主砲 をリベレーションへと向ける…アラートが響き、慌てて回避しようとするが、その前に護衛艦が船体をビームによって貫かれ、爆発する。

《おい! 大丈夫か!?》

バスターがリベレーションを 援護したのだ。

「あ、はい…すみません!」

《お前新入りか…しっかりし ろよな! イザークを追うぜ…ついてこれるか!?》

「はい!!」

バスターとリベレーションは 敵の防衛網に突っ込んでいくデュエルを追う。

「イザーク…リーラまで!」

アスランは舌打ちする。

イージスで後を追おうとした が、こちらも予想以上の損害が出ているため、迂闊に戦線を動けない。

 


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