ツィーグラーを撃沈したルシ ファーは戦線に戻ると、目的の相手を探す。

「……いた!」

感覚の導くままに、戦線に突 入し、ヴァルキリーを見つける。

ヴァルキリーも気付いたよう で、こちらへと向かってくる。

ルシファーはビームライフル で、ヴァルキリーはビームマシンガンで撃ち合う。

ビームとビームがぶつかり合 い、周囲は閃光に包まれる。

ルシファーとヴァルキリー は、銃器を下げ、ビームサーベルと重斬刀を取り出し、接近戦に移る。

2機の剣が交じり合い、エネ ルギーがスパークする。

ヒットアンドアウェイを繰り 返しながら、2機はぶつかり合う。

互いの存在を、確かめ合うよ うに…… 

 

 

デュエル、バスター、リベ レーションの3機が突出して、アークエンジェルに向かってくる。

第8艦隊が立ちはだかるが、 大した抵抗もできずに次々と墜とされていく。

マリューはいたたまれない思 いに捉われる。

アークエンジェルは、未だ戦 闘に参加さえできない…無論、アラスカにこの艦を届けなければならないという重要な目的は理解している。だが、このまま見ているだけでいいのだろうか…… そして、マリューは決断した。

「メネラオスへ繋いで!」

モニターに、慌しくなってい るメネラオスのブリッジが映し出される。

《……何だ!?》

怒号に近いハルバートンの問 い掛けに、マリューは答える。

「本艦は艦隊を離脱し、ただ ちに降下シークエンスに入りたいと思います! 許可を!」

《何だと!?》

「敵の狙いは本艦です…本艦 が離れない限り、このままでは艦隊は全滅します!」

ハルバートンの表情が、苦い ものを噛んだように歪める。

既に艦隊の半数近くが戦闘不 能に陥り、もしルシファーや2機のMAが参戦しなければ、全滅という可能性があることをあっさりと部下に指摘されたのだ。

「アラスカは無理ですが、こ の位置なら地球軍制空圏内へ降りられます! 突入限界点まで持ち応えさせすれば、ザフト艦は振り切れます!」

マリューは一歩も退くことな く、懸命に訴える。

「閣下!」

やがて……ハルバートンの顔 に苦笑が浮かぶ。

《……相変わらず無茶な奴 だ、マリュー=ラミアス》

「部下は……上官に習うもの ですよ」

マリューも笑い返す。

《いいだろう! アークエン ジェルはただちに降下準備に入れ、限界点まではきっちり送ってやる……送り狼は一機も通さんぞ!》

マリューの熱意に、ハルバー トンは頼もしげに笑みを浮かべた。

 

 

メネラオスより、各艦に向け て通信回線が開かれる。

《メネラオスより各艦コント ロール。本艦隊はこれより、大気圏突入限界点までのアークエンジェル援護防御戦に移行する……》

ハルバートンの凛とした声が 戦場に響き渡る。

《厳しい戦闘ではあると思う が、かの艦は明日の戦局のため、決して失ってはならぬ艦である。陣形を立て直せ! 我らの後ろに敵を通すな!!》

言葉の中に秘められた強い意 志が、兵達を奮い立たせる。

《地球軍の底力を見せてや れ!!》

ハルバートンの演説の中、 アークエンジェルは降下シークエンスに突入する。

「修正軌道、降角6・1、 シータプラス3……」

「降下開始…機関40%、微 速前進、4秒後に姿勢制御……」

「降下シークエンス、フェイ ズワン……大気圏突入限界点まで10分……」

 

入り乱れる激戦の中、展開中 のMS部隊にヴェサリウスからのレーザー通信が届く。

アークエンジェルが降下する という内容に、全員が驚愕し、イザークは歯を噛み締める。

「……させるかよ!」

密集し、立ち塞がる防衛線 に、デュエルが突っ込み、残りの4機も続く。

駆逐艦が退きながらも、全砲 門で迎撃してくるが、5機は物ともせずかわし、メネラオスからの主砲も、止めることはできず、遂にデュエルが第一隊列を突破し、続けて第二隊列も突破して いく。バスターやリベレーションも続いて突破した。

 

 

キラは、慌しく動き回る整備 班を驚かせながら、ストライクに乗り込んだ。

手に持っていた折り紙の花を コンソールの隙間に挟み込み、操縦桿を握る。

フレイを…この艦を護るため に………

その時、降下シークエンスが 続いていた艦内にチャンドラの驚愕の叫びが伝わる。

《デュエル、バスター、続け て未確認機の3機が先陣隊列を突破!》

《メネラオスが交戦中!》

キラは真剣な面持ちでブリッ ジへ通信を入れた。

 

 

《艦長、僕が出ます!》

「キラ……君…?」

マリューは突然のことに息を 呑む。

いや…レイナが残っていたか ら、もしやとは思っていたが……

《カタログスペックでは、ス トライクは単体でも降下可能です…このままじゃ、メネラオスも危ないですよ!》

キラの声に、マリューは決断 を迫られる。

何故残ったのか…それは、言 わずともトール達のためだろう。優しい子だ…だが、戦場ではそれが命取りになりかねない。

そして、一つ間違えば、地球 の重力に引っ張られていくというのに……だが、彼女の逡巡は、ナタルによって打ち破られる。

「解かった、ただし、フェイ ズスリーまでに戻れ! スペック上は大丈夫でも、やった人間はいないんだ、中がどうなるかは解からないぞ、高度とタイムは常に注意しろ!!」

ナタルは何時もの冷徹な口調 で言い、キラは頷くと同時に通信を切った。

「バジルール少尉!!」

マリューは憤怒の感情をぶつ けるが、ナタルは臆することなく受け止める。

「ここで本艦が沈められた ら…第8艦隊の犠牲の全てが無駄になります!!」

二人は暫し…睨み合っ た………

 

 

カタパルトハッチが開き、視 界一面に青く輝く地球が映る。

まるで…そのまま落ちていき そうな錯覚に陥り、キラはレバーを握り締める。

「……キラ=ヤマト、いきま す!!」

ストライクが虚空に飛び出 し、方向転換しようとした瞬間、フットペダルが重く感じる。

「くっ…重力に引かれている のか?」

キラは操縦系統を微調整し、 フットペダルを踏み込んだ。

眼前に拡がる、戦場を目指し て……

 

 

「ベルグラーノ撃沈!」

「限界点まであと5分!」

「閣下、これ以上は……これ えは本艦が保ちません!」

ホフマンの叫びに、ハルバー トンは頑として首を振らない。

「まだだ……!」

振動が伝わるブリッジに、オ ペレーターの声が上がった。

「アークエンジェルより、 X105ストライク発進を確認!」

「何だと!?」

モニターには、白く輝く機体 が映し出されている。

だが…あの機体に乗っている のは誰なのだろうか……考えるまでもない、あのキラ=ヤマトという少年が乗っているのだろう。

レイナと同じく、彼もまた戦 う道を選んだと言うことだろうか……しかし、レイナとキラではまったく戦う理由が違うことを、ハルバートンは知る由もない。

 

 

アークエンジェルを目指して いたデュエルのコックピットに、ストライクの姿が映る。

「ようやくお出ましか…スト ライク!」

やっと獲物を見つけ、デュエ ルは加速する。

「この傷の礼だ…受け取 れぇぇぇぇぇ!!」

ビームサーベルを抜き、一気 に斬り掛かる。

 

同じく、ストライクのコック ピットにも、デュエルの接近を告げるアラートが響いていた。

だが、目視した機体は、先日 とは明らかに異なる。

「デュエル…装備が……!」

ライフルで狙撃するが、機動 性も向上しているらしく、デュエルはあっさりとかわし、ビームサーベルで迫ってくる。

寸でのところでかわし、スト ライクは後退する。

 

降下していくアークエンジェ ルの盾となる第8艦隊は、またもや護衛艦が砲火に晒され、紅く尾を引きながら、地球へと墜ちていく。

メネラオスが奮戦していると ころに、ようやく前線からムウとアルフが戻ってきた。

地球が近づいているため、ジ ンもこれ以上は迂闊に近づけない。

「閣下、これ以上はもう限界 です!」

「解かった…全艦、ただちに 重力圏より離脱!」

メネラオスは重力下の影響が 出る前に離脱を開始した。メネラオスに続くように生き残りの艦が地球軌道から離れていく。

「すぐに避難民のシャトルを 脱出させろ!」
ハルバートンの指示に、メネラオスから一機のシャトルが射出され、徐々に姿勢を制御し、地球へと降下シークエンスに突入していく。

それを見届けると、ハルバー トンは一瞬安堵の笑みを浮かべ、やがてすぐに前をキッと見据える。

「第8艦隊はこの場で固定!  敵艦を通すな! 火線を集中しろ!!」

第8艦隊が陣形を再編し、戦 闘可能な艦がメネラオスを中心に展開していく。

 

 

アークエンジェル護衛に戻っ たムウとアルフはバスターとリベレーションの迎撃に向かう。

ゼロはバスターを、インフィ ニートはリベレーションに…ゼロがガンバレルを展開し、バスターに銃弾を浴びせていく。

「くそっ! 機体が重 い!!」

地球の重力に引き寄せられ、 バスターの動きが鈍くなっていることに、ディアッカは舌打ちする。

リベレーションはスナイパー インパルスライフルを構えるが、こちらも同じく重力の影響にさらされ、うまく照準が合わない。

その隙を突いて、インフィ ニートはここぞとばかりにミサイルやリニアガンを連射してくる。

「ううぅぅ……!」

PS装甲のおかげで致命傷に は至っていないが、それでも激しい振動がコックピットを襲い、リーラの表情は歪む。

 

 

そして…未だ、激しい攻防を 繰り返すルシファーとヴァルキリー。

刃と刃を交え合い、時には撃 ち合う……互いの装甲に刻まれた傷跡がそれを物語る。

戦いの中で、レイナは確信的 なものをぼんやりとだが感じ取っていた。

(やはり……彼女は、私の過 去を知っている………!)

徐々に自身の感覚が高まって いく。

ヴァルキリーが連続で放って くるビームマシンガンをシールドで受け止めるが、コックピットにアラートが響いてきた。

(……ちっ!)

軽く舌打ちする。

もう、バッテリーも残り少な い…おまけに地球の重力下に徐々にだがさらされつつある……だが、ここで引くわけにはいかなかった。

重斬刀で斬り掛かってくる ヴァルキリーを頭部と胸部のバルカンで応戦するが、ヴァルキリーは意にも返さず振り下ろしてくる。

機体を後退させ、斬撃をかわ すが、ヴァルキリーは背部の大型スラスターでルシファーの上を取り、シールドの突撃機銃をほぼ零距離から発射した。

PS装甲で実体弾は防げて も、その衝撃までは防げず、ルシファーは弾き飛ばされる。

「もらった……!」

リンは加速しようとするが、 その時、後方から残存のジンが3機、ルシファーに向かっていった。

ジン部隊はせめて、敵のMS を墜とそうと、一気に襲い掛かってきた。

銃弾にさらされるルシファー のコックピットの中で、レイナの呼吸は荒くなっていた。

「はぁはぁ…はぁ………」

 

死ねない…自分はまだ……死 ねない………死んでたまるものか…………!

 

その瞬間、レイナの中で何か が目醒めた……

瞳が紅に強く輝き、顔を上げ る。

 

敵のジンの動きが……トリ ガーを引く瞬間…照準………発射から着弾までの距離と時間………全てが見えた………

 

キーボードを引き出し、瞬時 にOSを変換し、操縦桿を握り締め、ペダルを踏み込んだ。

ルシファーの瞳が一瞬輝き、 スラスターを噴かして一気に加速した。

銃弾は虚空を切り、ルシ ファーはジンの上へと飛び上がった。

ジンのパイロットは驚き、慌 てて照準を合わせるが、それより早くルシファーは動き、銃弾は虚空を切る。

ジン3機は何度も連射する が、ルシファーは俊敏に動くだけで、銃弾は全て虚空を切る。

ジンのパイロット達は、銃弾 がまったく見当違いの方にばかり発射され、当たらないことに驚くが、ルシファーは何時までも回避してるだけでなく、攻撃に移る。

右手のビームライフルでジン 一機を撃ち抜く、爆発と同時に懐に飛び込み、残りの2機を左腕に握ったビームサーベルでボディを斬り裂いた。

ジン3機が爆発に消え、リン は驚愕する。

(今のは……!)

逡巡する暇もなく、ルシ ファーはヴァルキリーに向かってきた。

リンはビームマシンガンを放 つが、ルシファーはまるで、撃つ場所が解かっているようにかわす……撃つより先に行動している。

ルシファーはヴァルキリーに 近接し、ビームサーベルで斬り掛かり、シグーも重斬刀で応戦する。

(これが…姉さんの……マシ ンチルドレンの力………!)

噛み締め、気負いしまいと声 を張り上げ、応戦する。

2機は縺れ合い、そのまま地 球軌道へと落ちていく。

 

 

その頃、戦いは既に勝敗を決 しようとしていた。

残存の第8艦隊は再編成し、 火線を集中し、ザフト艦を攻撃していた。

ヴェサリウスとガモフも懸命 に応戦していたが、たった2隻の火力では、メネラオスを含め、約十近く健在する第8艦隊に太刀打ちできるものでもない。

MSを向かわせようにも、ジ ンの反応は全て消失し、デュエル、バスター、リベレーション、ヴァルキリーの4機はアークエンジェル側の機動兵器部隊と交戦中であり、イージスとブリッツ も既にバッテリーが切れかけの状態で、残存のMA部隊と交戦中である。

もはや、この戦いの勝敗は決 していた。

圧倒的な砲火にさらされ、 ヴェサリウスのブリッジは激しく揺れる。

クルーゼは拳を握り締め、悔 しさに歯軋りしながら衝撃に耐えている。

「おのれぇ、ハルバートン め……アデス! 離脱するぞ! MS隊呼び戻せ!」

「しかし……!」

アデスとて、もはや勝敗は解 かっているが、この砲火にさらされた現状では、離脱しようとすれば、あっという間に艦は沈められてしまう。

その時、並行していたガモフ がヴェサリウスの前に出てきた。

「ガモフ! 出過ぎだぞ!  何をしている、ゼルマン!!」

アデスは、立ち上がって叫 ぶ。

《……ここまで追い詰め…引 くことは……もとはと言えば我ら………》

通信回線に、ガモフのゼルマ ン艦長が映る。

だが、攻撃の影響か、映像は ぶれ、音声も乱れている。

ノイズ混じりに聞こえてくる 声は、冷静で、アデスはゼルマンが何かを覚悟したことを悟る。

《…我らが盾となる………足 付きを……》

生真面目そうな表情と共に、 映像は途切れる。

ガモフはヴェサリウスを庇う ように、砲火をその身に受ける。

アデスは呆然となる…いや、 ヴェサリウスのブリッジにいる者達が………

確かに、幾度となく追い詰め ながらも、アークエンジェルを墜とせなかったのは失策だ…だが、それは全てゼルマン達だけの責任ではないはずだ。

「ヴェサリウス、離脱す る!」

「隊長!?」

呆然となるクルーの中で、一 人冷静に指示を出すクルーゼに、アデスは非難の眼を向けるが、クルーゼは何時もの冷静なままだ…苦悩さえ見れない。

「ガモフの犠牲を無駄にはで きんだろう……?」

アデスは無言で前を見据え た…砲火にさらされ、宇宙に散っていく僚艦に静かに敬礼を送った。

 

イージスとブリッツは戦線か ら離脱し、ヴェサリウスまで後退する。

もう、リン、イザーク、ディ アッカ、リーラの4人は戻れない。

砲撃にブリッジが、砲台 が……次々と撃ち抜かれ、ガモフは虚空に散っていった……

「ゼルマン艦長!」

ニコルの悲痛な叫びが聞こ え、アスランも暫し、呆然と燃えていく僚艦を見詰めていた。

 

 

ガンバレルでバスターを地球 に向かって後退させていく。

「どうだ…! もう戻れま い、バスター!!」

ムウはゼロを駆り、軽く笑み を浮かべる。

インフィニートもリニアガン でリベレーションを地球の重力に捕まらせた。

「大尉…そろそろ限界で す!」

アルフに頷き返し、ゼロとイ ンフィニートはアークエンジェルに向けて離脱していく。

バスターやリベレーションは 追えない。

「ダメだ、戻れない……!」

「落ちる……!」

大気圏に突入し、ディアッカ やリーラはもはや戻れず、なんとか地球に降りるしかなかった。

 

 

アークエンジェルの甲板にア ンカーを打ち込み、ゼロとインフィニートは大気圏に突入し、摩擦熱に耐えながら艦内に滑り込む。

「坊主と嬢ちゃんは!?」

ゼロのコックピットから飛び 出したムウが叫ぶが、ルシファーとストライクはまだ戻っていない。

ブリッジでは、降下シークエ ンスが最終フェイズに突入していた。

「フェイズスリー! 融除剤 ジェル展開!!」

「ストライクとルシファーを 呼び戻せ!!」

「キラ! レイナさん!  戻って!!」

ミリアリアが懸命に呼び掛け るが、通信機からはノイズしか返ってこない。

「艦、大気圏突入!!」

アークエンジェルは艦底部を 地上に向け、大気圏に突入し、噴出口から透明のジェルが排出され、底部を包み込み、ラミネート装甲内の温度がジリジリと高まっていく。

 

 

ルシファーとヴァルキリーは 大気圏に突入し始めていた。

それでも、両者の戦いは止ま らない。

「「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」

互いに吼えながら、刃と刃が ぶつかり合う。

後退したヴァルキリーは、ズ ンと機体に重力が掛かり、動きが鈍る。

その隙を逃さず、ルシファー はビームサーベルで斬り掛かり、遂にヴァルキリーのシールドごと左腕が斬り落とされた。

爆発し、衝撃で地球に落ちて いく。

(ちっ…大気圏に突入した か!)

舌打ちし、姿勢制御を変え る。

PS装甲を持たないこの機体 では、単体での大気圏突入能力はない……だからこそ、背面のバックスラスターを全開で噴かし、摩擦熱を僅かながら中和し、ヴァルキリーは降下していく。

その様を見たレイナは追撃し ようとはしない…こちらもそろそろ限界だ。

その時、レイナの脳裏に衝撃 が走り、頭を抑える。

脳裏に…映像が浮かび上が る……

「………っ!」

唇を噛み、ルシファーは加速 する。

 

 

デュエルのビームサーベルを シールドで弾き返し、距離を取る。デュエルがビームを放って追い討ちをしてくるが、ストライクも後退しながら撃ち返す。

デュエルがバーニアを噴か し、突っ込んでくるのに向かってストライクも自ら突っ込んでいく。シールドでビームライフルを払いのけ、バーニアを噴かし、蹴りを叩きつける。

頭部に蹴りがヒットし、その 勢いでデュエルは地表に向かって大きく飛ばされた。

この隙に離脱しようとするス トライクだったが、逃すまいとデュエルがビームライフルを構えた時……デュエルとストライクの間に割り込むように1機のシャトルが降下してきた。

「メネラオスのシャト ル!?」

本来なら、キラも乗っていた であろうヘリオポリスの避難民を載せたシャトルが偶然にもストライクとデュエルの間を横切った。

「よくも邪魔を…! 逃げ出 した腰抜け兵がぁぁぁぁ!!!」

デュエルがライフルの先を シャトルへと向ける。

「やめろおぉぉぉぉ!! そ れには…!!」

キラは絶叫した。バーニアを 噴かし、ストライクをシャトルへと向ける。

だが、ストライクが到達する よりも先にビームは放たれ……ストライクより早く黒い機体は現れた。

「レイナ!?」

ストライクの後方から凄まじ いスピードで追い抜き、一気にシャトルの後方に回り込み、ルシファーは両腕をクロスさせ、自らの機体でシャトルの盾となった。

ビームが着弾し、ルシファー は爆発に包まれ、地球へと向かって弾き飛ばされた。

「お姉ちゃん……」

シャトルは無事だった……避 難民達は眼前で自分達の盾となり、落ちていく黒い機体を見やった。

あの黒い機体に乗っているの は…まだ少女だということを………

その少女の決死の行動で自分 達が助かったことを……

だが、その少女が今まさに炎 に焼かれて消えていくのを…ただ、呆然と見詰めた……

 

 

降下して行くアークエンジェ ルを見守る第8艦隊。

艦隊の半数以上を失ったが、 クルーゼ隊も巡洋艦2隻とジン9機を失い、旗艦のヴェサリウスも中破状態で撤退し、勝敗としてはこちらの勝利かもしれない。

ハルバートンは、苦悩を浮か べた表情で、アフリカ大陸に降下していくアークエンジェルを心配そうに見送っていた。

ハルバートンは再び表情を引 き締め、残存艦に月基地への帰還を指示する。

損傷の激しい艦を誘導し、被 弾したメビウスを収容し、行動可能なメビウスは艦隊の周囲に展開する。

ハルバートンは指示を出し終 えると、今一度…地球に落ちていくアークエンジェルを見詰める。

彼女は…果たして大丈夫であ ろうか………

そして…彼女なら、この 先……アークエンジェルを導いてくれるかもしれないという思いに逡巡する。

(クズハの娘よ…どうか…… 彼らを導いてくれ………)

 

 

大気圏に突入し、摩擦熱で漆 黒のボディを赤く染めながら…ルシファーは堕ちていく……

レイナの意識は既に朦朧と し、先のビームの直撃の影響がコックピット内にまで届き、破片が身体に突き刺さり、血が流れている。

頼みの綱のルシファーは既に バッテリーが切れかけ、このままでは大気圏を突破する前にPS装甲がダウンする方が早いだろう。

コックピット内の温度は上昇 し、全てを焼き尽くすような灼熱が充満する。

だが、それでも…レイナは冷 静だった……そして…自嘲気味に苦笑を浮かべた。

(らしくないな……他人を 庇って死ぬなんて………)

今までの自分なら、恐らくそ んな事はしなかっただろう……

自分が生き延びるだけで精一 杯だったから……

他人を庇うなんてことを……

(キラ達に影響されたか な……)

薄れゆく意識の中、虚ろな瞳 でモニターに映る眼下を見た。

 

蒼く輝く地球を………

 

 

 

 

 

《次回予告》

 

 

堕天の少女は地球に堕ち る……

眠る中で、己の過去に苦悩す る……

 

ここにいるそれぞれの思い に…子供達は迷う……

新たな出逢いは、彼らに何を もたらすのか……

 

次回、「闇夜の砂塵」

 

砲火の空を…駆け抜けろ、ガ ンダム。



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