「レイナァァァ!!!」

キラは焦り、突入角度を深く 傾け、降下していくルシファーを追った。

先程から通信で何度も呼び掛 けているが、返事は返ってこない。

PS装甲もとうに切れ、灰色 の装甲へと戻り、機体を真っ赤に染め上げ、摩擦熱の温度差に赤い尾を引きつつ地球へ降下してゆくルシファー。

コックピット内の温度は止ま る事を知らず高まり、パイロットを守る耐熱耐火耐衝撃のセーフティーシャッターが作動しているも焼け石に水。

キラはそれでもなお、追い続 けた。

そして遂に…ストライクはル シファーに追いつき、ルシファーを抱え込み、シールドを前面に掲げて護るように降下していく。

だが、コックピット内部に充 満した熱量は、機器を次々と狂わしていく。

 

 

ブリッジは混乱にあった。

トール達は叫び、モニターに は地球に落ちていくストライクと、抱えられたルシファーの映像が浮かんでいる。

「あのまま……降りる気 か!?」

冷静なナタルも焦る。

だが、もはや収容する余裕も ない…そんな事をすれば、瞬く間に艦内は焼け爛れてしまうか、降下姿勢を保てなくなる。

機体のカタログスペックを今 は信じるしかないのだ。

「本艦とストライク、ルシ ファーの突入角に差異! このままでは降下地点が大きくずれます!!」

パルの悲鳴のような声にブ リッジは冷水を浴びせられたように青ざめる。

「キラ、キラ! レイナさ ん、戻れないの!? 艦に戻って! お願い!!」

「無理だ…ストライクの推力 ではもう……」

ナタルは流石に沈痛な面持ち で呟く。

ストライクはルシファーを抱 えているのだ…ルシファーは既に機能を停止し、ストライクの推力だけではもう戻ることはできない。

ブリッジに漂う沈黙を破るよ うにマリューは決断した。

「艦を寄せて! アークエン ジェルのスラスターならまだ……!」

「しかしそれでは、本艦の降 下地点も……」

ノイマンが抗議をするが、マ リューはねじ伏せる。

「ストライクやルシファーを 失っては意味がないわ……早く!」

危ぶむように、ノイマンはス ラスターを操作する。ゆっくりとアークエンジェルが近づいていく。

キラもそれに気付いた。

そして、角度を調節し、スト ライクとルシファーは無事、アークエンジェルの甲板に着艦できた。

だが…降下地点はアフリカ北 部……ザフトの勢力圏下であった。

 

 

機動戦士ガンダムSEED 

TWIN DESTINY OF  DARKNESS

PHASE-14  闇夜の砂塵

 

 

アフリカ北部の砂漠に降下し たアークエンジェル。

回収されたストライクとルシ ファーだったが、キラは無事ではあったが、レイナは重症であった。身体に傷をおい、コックピット内に黒々とした血が飛び散っていた。

加えて意識も不明であり、キ ラは何度も呼び掛けた。

そこへムウとアルフが駆けつ け、急ぎレイナを医務室に連れ込んだ。

キラやその仲間達に看病を任 せ、アルフは整備の方へと回り、ナタルはブリッジにて待機。

そしてマリューとムウが艦長 室にてミーティングを行っていた。

「ここがアラスカ」

ムウの指が、モニター上の世 界地図の一点を指し、その先が動いていく。

「んで……ここが現在地」

止まった先は、アフリカ北 部…ムウは軽く溜め息をついた。

「やなトコに降りちまったね え…見事に敵の勢力圏だ」

「仕方ありません…あのま ま、ストライクやルシファーと離れるわけにはいかなかったのですから」

手に持ったコーヒーカップを 一口飲み、答えるが、マリューの表情には苦悩が見て取れ る。

アークエンジェルが降下した アフリカ北部は、『親プラント』を表明しているアフリカ共同体の地区であり、既にザフトの勢力下にある。

まさに、敵陣の真っ只中に放 り出されたも同然の状況なのだ。

しかも、地上は、開戦時にザ フトが投下したNジャマーの影響で、常に電波が撹乱され、しかも情報を得ることもできない。

このNジャマーによって、核 エネルギーが封じ込まれ、物量で上回る地球軍は、MSを主力とするザフトに苦しい戦いをしいられている。

それを打破するためのXナン バーとアークエンジェルだ……だからこそ、あの時友軍圏内に降りることを放棄してまで、ストライクとルシファーを回収したことは間違った判断ではなかった だろう。

だが、そのために新たな危機 に直面し、ここで撃破されてしまえば、本末転倒ではないだろうか……そう、マリュー自身…あのまま見捨てることはできなかった。

2機のMSに乗る、少年と少 女を…切り捨てる決断ができなかった。

「……ともかく、本艦の目 的、及び目的地に変更はありません」

マリューは重い口調で答え る。

「問題は、どう行くか……だ な?」

ムウが改めて世界地図を見や る。

ここから北上すれば、ユーラ シア連邦の勢力圏に逃げ込め、そこから陸伝いにアラスカを目指せる…だが、ヨーロッパ方面に展開しているザフトの規模ははっきりとは解からない…おまけに 先のアルテミスでの一件で、ユーラシアが快くアークエンジェルを迎え入れてくれるか解からない。

次は、ここから西を目指すと いう航路だが、確かにアラスカまでの道のりは短いが、そのためにはザフトのジブラルタル基地を突破しなければならず、自殺行為でしかない。

となれば、残るは海上から陸 沿いにアラスカへと向かうルートしかなかった。

(嬢ちゃんなら、どういう判 断をしてくれるかな…?)

レイナなら、どの航路を取っ た方がいいと答えるだろうか。

少なくとも、彼女は自分達に 匹敵するほどの作戦立案能力と判断力、洞察力を持ち合わせている。

そして…パイロットとしても 優秀な部類に入ることは間違いないだろう。

そこで、ムウはレイナを頼り きりにしているという考えに至り、苦笑を浮かべた。

ムウが振り返ると、マリュー は、沈みきった表情でデスクを見詰めていた。

「大丈夫か?」

「……ええ」

ムウが声を掛けると、マ リューもぎこちないながら笑みを浮かべて答えるが、次の言葉に笑みが強張る。

「……副長さんとも?」

マリューはビクッと身を一 瞬、強張らせる。

「……大丈夫よ」

それでもなお、答え返すが… その口調は酷く空虚に聞こえる。

「なら、いい…じゃ、俺はも う寝るぜ……流石にクタクタだからな」

「ええ…私は、一度医務室に 顔を出してから休みます」

軽い口調でムウは艦長室を後 にし、マリューはレイナの容態を尋ねようと、立ち上がる。

不意に、もう一度…モニター の地図を見やる。

目的地は遥かに遠く…また、 そこへ辿り着くための手段も、今のマリューには思いつかなかった。

 

 

医務室にて、運び込まれたレ イナはすぐに治療が行われた。

軍医を手伝うのは、ミリアリ アとフレイが呼ばれた。

「彼女の服を脱がせてくれ… とにかく、傷口を消毒しないと」

「は、はい…フレイ、そっち 持って」

パイロットスーツを脱ぎ、下 に見える黒のアンダースーツには、見た目では解からないが、黒々とした血が付着しており、傷の深さを物語ってる。

フレイは心底嫌そうな顔を浮 かべるが、渋々レイナの身体を抱き起こす。

手に血が付着し、フレイは嫌 悪感から眼を閉じる。

ミリアリアはレイナのアン ダースーツを上から脱がすと、現れたレイナの身体を見て、眼を見開いた。

いや…驚愕しているのは、ミ リアリアだけでなく、フレイや治療を行おうとした軍医も同じであった。

白い身体に、いくつも刻まれ た傷跡…とてもではないが、少女の身体とは思えないほど、深い傷跡があちこちにある。

血を流し続けている傷跡も、 それに新しく加わったものだ。

暫し、呆然となっていたが、 軍医は慌てて意識を覚醒させ、傷口を治療し始める。

そして、身体に包帯を巻きつ けると、レイナは横にされる。

フレイは急ぎ、洗面台に向か い、手を洗う。

必死に手を洗う…何かを洗い 捨てるように………

その時、医務室の扉が開き、 マリューが入ってきた。

「あ…貴方達」

ミリアリアとフレイを見る… いや、廊下にキラ達がいることから、容易に想像できたことだが。

「あ、レイナさんはま だ……」

「ありがとう…貴方達ももう 休んでいいわよ」

マリューが笑いかけると、ミ リアリアとフレイは連れ立って医務室を後にし、キラは医務室の中を覗き込もうとするが、ミリアリアに論され、渋々と下がった。

扉が閉まると、マリューは軍 医に問い掛ける。

「どうなの…彼女?」

「外傷は意外と軽傷で済みま した…ですが、コックピット内の温度熱による影響かは解かりませんが、まだ意識の方は戻っていません」

「そう……」

マリューは、表情を暗くし、 俯き加減にレイナを見やる。

その視界に、レイナの身体に 刻まれた傷跡が入ってきた。

「……? 何、この傷 は…?」

不意にレイナの腕を持ち上げ ると、軍医は言葉を濁す。

「解かりません…少なくと も、先の戦闘の際に負傷した傷ではないと思いますが……」

マリューは痛ましげに腕を見 やる。

一体、この少女はどんな人生 を歩んできたのだろう……少なくとも、『普通』という概念は当て嵌まらないだろう。

「それと艦長…彼女のことで すが……彼女は、ナチュラルでも、コーディネイターでもありません」

眼を驚愕に見開くマリュー。

そう言えば、最初の頃にそん な事を言っていたような気がするが、マリュー自身もすっかり忘れていた…いや、彼女だけでなく、クルーのほとんどが、彼女をコーディネイターと思っている と言った方が正しいかもしれない。

「彼女の遺伝子配列を調べて みたのですが、この配列は、コーディネイターのものとも違います」

コンピューターのディスプレ イに表示された遺伝子パターンは複雑に絡み合っており、コーディネイターのものと違った配列を形成している。

しかし、ナチュラルというに は遺伝子配列が違いすぎ、結果としては、彼女はどちらでもないとしか言えないのだ。

「それともう一つ…彼女の身 体から、微弱ながら機械的な反応が検出されています……」

「機械的な反応?」

「ええ…ですが、それが何な のか…ここの設備ではそこまで解かりません」

マリューは今一度、眠り続け るレイナを見やった……

「この事は、他のクルーには 他言無用にして」

マリューの真剣な瞳に圧さ れ、軍医はやや唖然として頷いた。

 

 

 

場所を変えて宇宙……

先の地球軌道での戦いで、多 くの戦力を失ったヴェサリウスは、応急処置で一路、プラント本国を目指していた。

パイロット控え室で、アスラ ンは格納庫に並ぶイージスとブリッツを見やる。

戦闘開始時には、ここにあっ た機体のほとんどが未帰還となった。

「あ、ここにいたんですか、 アスラン?」

部屋に入ってきたニコルの声 に、アスランは顔を上げる。

「さっき確認してきました… その、イザークとディアッカ、それとリンという人は無事が確認されました…ですけど、リーラという方がまだ見つかっていないそうです」

アスランは眼を見開き、息を 呑む。

共に出撃した黒髪の少女の顔 が過ぎる。

「あ、だけど大丈夫ですよ… 降下地点は、大まかに見てもアフリカ北部だそうです。あの辺りは、ザフトの勢力圏ですし…取り敢えず、そこに駐留しているバルトフェルド隊が捜索を続行す るそうです」

「そう…か」

相槌を打ちながらも、今のア スランは別のことを考えていた。

それは…イザーク達と並んで 大気圏に突入したキラのことだ。

PS装甲を持たないリンの ヴァルキリーも無事に地球に降り立ったのだ…ストライクに乗っていたキラも無事であると思いたい。

「帰投は未定だそうです。し ばらくはジブラルタル基地に留まるそうで」

素直に仲間の安否を感じるニ コルに、やや後ろめたい思いにかられながら、アスランは誤魔化すように尋ねた。

「……イザークの傷の具合は どうなんだ?」

「ああ…でも、心配はありま せんよ。あの時もあれだけの戦闘をやってみせたんですから」

「そうか…そうだな」

アスランも内心の葛藤を押し 隠し、軽く頷き返す。

「そう言えば…僕らはずっと 別行動でしたから直接会ってないんですけど、リン=システィとリフェーラ=シリウスってどんな人ですか?」

尋ねてくるニコルに、アスラ ンは考え込む。

どう…答えるべきか……

リーラはまだ、会って間もな い…しかし、こと女性が極端に少ないコーディネイター社会において、女性の身でパイロットに志願したことには驚きを隠せない。

だがリンは…プラントから ずっと一緒に行動しているが、最初に会った時はどこか冷たい感じのする少女だった…だが、時たま見せるあの哀しみを感じさせるような憂いのある瞳……その 二面性にやや戸惑いを感じることがある。

「俺の口からどうとは言えな いが…リンはパイロットとしては優秀な方だと思う。リーラはまだ俺も会って間もないから、どうとは言えないが……」

「そうですか……でも、どういうことでしょうか」

「何が?」

「結局僕らは、あの2機…ス トライクとルシファーと新造戦艦の奪取にも、破壊にも失敗しました……」

アスランの表情が強張る。

「奇妙だ……確かにXナン バーの性能には目を見張るものがあります。でもこちらにも同型機が4機…それに、あの戦いではこちらが自信を持って臨んだのに……あの足付きにしても、装 甲も火力も大したものだとは思いますが、無敵の戦艦ではありません。それを、どうして逃してしまったのか……クルーゼ隊が、ですよ?」

ニコルは苦笑を浮かべ、アス ランは我に返る。

クルーゼ隊も半数以上のメン バーが、失われ、また主力パイロットのほとんどが地球へと降下してしまった。

「このことで隊長はまた…… 帰投命令が出たんでしょう?」

アークエンジェルには、余程 の強運があるのだろうか……任務達成率の高いクルーゼ隊が、ここまで梃子摺るとは、当初は誰も予想できなかった。

だが、アスランの中には、 アークエンジェルの強運を喜ぶ部分があり、それがニコルを前に後ろめたさを覚えさせる。

「クルーゼ隊長でも落とせな かった艦だ、ということになるさ。委員会もそう見てるさ……」

抑揚のない声で答え、アスラ ンは地球に降り立ったキラのことを思い浮かべる。

もし、足付きが危険な存在と して認識されれば、当然…それを撃破するために戦力を惜しまない可能性もある。

「……アスラン?」

ニコルの言葉に、アスランは 慌てて次の言葉を紡ぐ。

「ああ、いや……とにかく、 心配はないさ。この帰投も何か別の作戦に関する事のようだから……」

「あ、そうなんですか」

ニコルの安堵した表情を見詰 め、ブリッツの調整をすると出て行った。

一人になったアスランはま た…考え込んでいた。

地球に落ちていった…かつて の友を………

 

 

 

(………何?)

意識の闇の中で…レイナは眼 を覚ました。

いや…眼は開いていても、声 が出ない。

まるで、水の中にいるように 息苦しい……

ぼやけた視界の向こう側に… 人の顔が見える。

(……誰………)

少なくとも…記憶の中に見覚 えはない……だが…知っている気がする。

そして…何故か、この顔には 酷い嫌悪感が浮かんでくる。

人影がこちらに近づいてく る。

(……やめろ……来る な………)

手が触れようとした瞬間…レ イナの意識は覚醒した。

 

「私に……触る なぁぁぁぁぁ!!」

大声で叫びながら、レイナは 起き上がった。

「レイナ……」

「はぁはぁ……キラ?」

息を乱しながら、横を振り向 くと…そこにはキラが心配そうに座っていた。

「大丈夫……酷く魘されてた ようだけど」

「……ここ、何処?」

少なくともあの世ではあるま い……

「医務室だよ…アークエン ジェルの。覚えてない…シャトルを護ろうとして……デュエルの攻撃を受けて、大気圏に突入して…着艦した時、意識も既に無かったし…怪我も酷かったから」

ああ……と、そこまで至っ て、思い出した。

確かに、シャトルの盾となっ て地球に落とされた気がする……

道理で、胸の辺りに鈍い痛み を感じるわけだ。

……また、死に損なったか

「え……何か言った?」

ポツリと小さな声で呟いたの で、キラは聞こえなかった。

「何でもない……で、地球に 降りたんでしょ…何処なの?」

「アフリカ北部の砂漠だよ」

……ザフトの勢力圏のど真ん 中ではないか。

レイナは大きく溜め息をつい た。

「キラ」

その時、キラの後ろから声が 掛かり、二人がそちらを向く。

レイナは声の主に思い当た り、彼女との一件を思い出す。

近づいてきた少女…フレイは キラに近寄り、甘えるように……いや、見せつけるようにと言った表現の方が正しいかもしれない。

「探したわ」

キラに向ける甘い声…だが、 そのレイナを見る視線は、敵意に満ちている。

嫉妬とは違う……まるで、自 分のペットを取られまいとする主人のようだ。

(……成る程)

その視線から、フレイの思惑 を、大まかながら感じ取ったレイナは呆れたように溜め息をつく。

まあ、正直…キラとどうなろ うが、自分には関係ないというのが本音だ。

「あ、うん……」

困ったように答えて、立ち上 がろうとしているが、ちらちらとこちらを振り向いている。

「私は大丈夫よ」

仕方なしに、素っ気なく答え る。

「……キラ、女には気をつけ なさい」

「え……?」

一瞬、振り返ったが、すぐに フレイに手を引っ張られ、医務室を出て行った。

ドアが閉まると、もう一度軽 く溜め息をつき、天井を見上げた。

(……何やってんだろ、私)

……ホントにらしくない。

シャトルを庇ったこともだ が、他人に対して干渉するなんて、ホントに自分らしくない。

だがまあ…忠告はしたのだ。

それでキラがどういう選択を するのかは本人の問題だ……というより、アークエンジェルに残ったのも案外、あのフレイ辺りが絡んでいるのではないかと思う。

彼女が正気ではないのは、自 分の身を持って知っている。

コーディネイターを憎み、そ して……コーディネイターであるキラを使って、自分の世界を壊したものに復讐するつもりか……

「そんな事しても…虚しいだ けなのにね」

他人に復讐を任せるのは気に くわないが…それ以上に、復讐なんて虚しいだけなのに……

それを望む少女も……それに 気付かずいる少年も………

「……愚かな子達」

その中に…自分も含まれてい ることに……レイナは苦笑を浮かべた。

 

 

部屋に戻ったキラは、フレイ の態度に違和感を覚えていた。

コーディネイターを嫌悪して いるはずのフレイが何故、自分に構うのか。

「あ、キラ…これ……整備の 人に渡してくれって頼まれたんだけど」

先程、格納庫から来た整備兵 に手渡されたものをキラに差し出すと、キラはやや眼を見開いた。

それは……紙の花…あの時、 女の子がくれたものだ。

「あ…ありがと」

キラはぎくしゃくとして受け 取る。

そう…この花をくれた子を… 護らなければならなかったのは自分なのに……結果はどうだ。

あの女の子を…ヘリオポリス からの避難民達を助けたのは他でもないレイナ自身だ。

そして…そのせいで傷つい た。

自分は……何もできなかっ た…あの時、ビームを放ったデュエルを…たとえ、同胞の血で手を染めてでも倒さなければならなかった。

そうすれば…レイナは傷つか ずに済んだかもしれない。

レイナ自身は…自惚れるな、 と言うかもしれないが………

「ぼくは……」

表情を落とすキラに、フレイ は手を回す。

「キラ…私がいるわ……」

キラが眼を上げると、フレイ は微笑み、キラの頭を包むように抱き締める。

「大丈夫…私がいるか ら……」

甘い温もりに…キラは縋りつ いていく。

「私の想いは…貴方を護るか ら……」

甘い誘惑に…キラは酔い…… 身を委ねた……傷ついた心を…癒すように………

 

 

 

「マニュアルは夕べ見たけ ど…なかなか楽しそうな機体だねぇ……しかし、『ストライカーパックも付けられます』って……俺らは宅配便かよ」

「それ…いいっすね」

ムウの言葉に、コックピット にいるアルフが面白がって相槌を打つ。

翌朝、格納庫で、ムウとアル フは、新たに搬入された戦闘機を見詰めていた。

 

FX−550:スカイグラス パー…ストライクの支援用に開発された地上型戦闘機だ。

 

この機体の特徴として、スト ライクのパワーパックを使用できる点が挙げられる。

ストライカーパックの武装を そのまま使うことも可能で、ストライクにストライカーパックを届けるという役目も持っている。

「はは、大尉と中尉なら… じゃねえか、少佐と大尉ならどこへでもすぐさまお届けできます…てね」

マードックが笑いながら応じ る。

1号機にはムウが…2号機に はアルフは搭乗することがそれぞれ決定している。

「ハルバートン提督の計らい とはいえ…この状況で昇進してもな……」

ムウはややウンザリした表情 を浮かべる。

「確かに…昇進したからっ て、状況に変化はありませんしね」

アルフも2号機のコックピッ トから顔を出し、溜め息をつく。

地球降下前…ハルバートン が、アークエンジェルのクルーを全員、一階級昇進させてくれたのは、せめてもの親心ではあったのだろう。

だが、現状ではまったく役に は立たない。

「ガキ共は野戦任官ってこと らしいすよ。坊主は少尉…まあ、パイロットですからね」

「ああ…その他もまとめて二 等兵さ。やれやれ……」

ムウも1号機のコックピット を覗き込み、機体のチェックを進めながら軽く溜め息をついた。

志願したキラ達にも階級が与 えられ、トール達は2等兵…キラは立場上、士官の位を与えられていた。

「そう言えば…彼女の方は特 務中尉らしいっすよ」

アルフが話に割り込む。

「はあ? あの嬢ちゃんが特 務中尉……なんでまた?」

「ハルバートン提督がそう配 慮したらしいっすよ。聞いた話だと、彼女はハルバートン提督に雇われた…まあ、傭兵みたいな協力者っていう立場みたいらしいっす」

つまり…キラ達とは違い、一 時的な士官であるということか。

「その事で、バジルール中尉 はなんか機嫌悪かったみたいですけど」

ムウも苦笑を浮かべる。

軍規に厳しい彼女は、そんな 特異的な立場を認めたくはないのであろう。

まあ、しかし…特異的な立場 とはいえ、仮にも中尉という士官の階級を与えられているのだ。これからの作戦会議などに、彼女が口を挟んでも、ナタルも文句は言えない。

現状を打破するためには、少 しでも頭数が欲しいのが現実だ。

「そういや、嬢ちゃんの意識 は戻ったんすか?」

マードックに尋ねられ、ムウ は気を取り直す。

「朝には戻ったてさ…今は 眠ってる……まったく、ルシファーが凄いんだか、あの嬢ちゃんの方が凄いんだか……そういや、嬢ちゃんや坊主はなんで時々、アレのことを『ガンダム』って 呼ぶんだ?」

メンテナンスベッドに収まっ たストライクとルシファーを見やり、マードックは笑う。

「ああ、起動画面に出るんす よ。ジェネラル・ユニラテラル・ニューロリンク……なんたらって。そいつの頭文字を繋げて読んでるんでしょ、軍の方じゃ一番最初の『G』だけで……」

「ガンダム…ね」

愛称で呼ぶくらい…あの機体 も2人にとって愛機というやつになったのだろうか。

ムウやアルフは微笑ましげ に、『ガンダム』と呼ばれる2機をもう一度見やった。

 

 

砂漠に息を潜めるアークエン ジェルを、遠くから見詰める一団があった。

「……図面でしか見たことは ないが、間違いないだろう」

暗視スコープを下ろし、アー クエンジェルの姿を確認した外套を羽織り、金色の髪を揺らす人物は後ろに控えていた仲間に告げる。

「あれはヘリオポリスで建造 されていた、地球軍の新型強襲機動特装艦、アークエンジェルだ」

無言で、今一度アークエン ジェルを確認していると、背後で無線の鳴る音がした。

側にいた少年がすぐさまジー プに駆け寄って、無線を取る。

「どうした?」

《虎がレセップスを出た。バ クゥ五機を連れて、その艦の方へ向かっているぞ》

「……!!」

一団は身を翻し、急ぎその場 から去った…… 

 

 


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