夜が明け、光が砂漠を照らす。

ディアクティブモードになっ たストライクとルシファーを、太陽の光が煌かせる。

その2機を、バギーから降り た少女は、睨みつけるように見上げた。

 

 

機動戦士ガンダムSEED 

TWIN DESTINY OF  DARKNESS

PHASE-15  再会

 

 

アークエンジェルは戦場から 少し離れた所に着陸した。

艦の傍に何台もの正体不明の バギー集団が集まってくる。

ディアクティブモードのスト ライクとルシファーはアークエンジェルの前に立ち、相手を窺っているようにも見える。

「……まったく、頭痛の種が 消えないわね」

モニターから、バギーを降り てきた者達を見やり、レイナは軽く額を抑えた。

見た目からして、正規の軍人 ではない…かといって、面白半分で戦っているような連中でもない……正直、こういう連中が一番厄介だと思う。

昔の経験から言えば……

 

初飛行から帰還したスカイグ ラスパーから降りたムウは、マードックに尋ねた。

「レジスタンスだぁ?」

「そうらしいですぜ」

「少佐、俺らは白兵装備で待 機っす」

アルフに答え、ムウもパイ ロットスーツのまま、ハッチへと向かう。

 

「味方…と、判断されます か?」

アークエンジェルのブリッジ で、ナタルがマリューに問い掛ける。

「少なくとも、銃口は向けら れていないわね」

しばし迷った後、答えると同 時にシートを立つ。

「ともかく、話してみるわ。 向こうにもその気はあるようだから…うまく転べば、いろいろと助かるわ」

クルー達はどこか不安げな表 情を浮かべているが、マリューは僅かな自信を持って微笑んだ。

「後をお願い」

マリューが到着すると、ハッ チには、既に銃を構えた兵と、ムウやアルフも待機していた。

「一難さって…また一難です ね」

苦笑を浮かべるアルフ。

「こっちのお客さんも、一筋 縄じゃいかなさそうだな」

いつもの軽薄そうな口調で答 え、ムウは銃のカートリッジに弾を装填した。

「俺、これはあんま得意じゃ ないんだけどねえ……」

軽く溜め息をつき、銃をホル スターに入れるムウ。

その意外性に、マリューは微 笑を浮かべ、緊張がほぐれた気がした。

ハッチが開かれ、地球のひん やりした風が砂を巻き上げ、マリューは砂漠の大地に降り立った。

マリューがムウとアルフを 伴って、降りてくると、男達は警戒の視線を浮かべ、リーダーらしき人物が前に歩み出た。

彼は鋭い視線で、マリュー達 を見やる。

「助けていただいた……と、 お礼を言うべきなのでしょうね? 地球連合軍第8艦隊所属、マリュー=ラミアス少佐です」

マリューが名乗ると、男は寡 黙な眼で無表情のまま見据える。

「俺達は『明けの砂漠』だ。 俺の名はサイーブ=アシュマン。礼なんざいらねえ、解かってんだろ? 別にあんた達を助けたわけじゃない」

サイーブの真意を計ろうと、 マリューが見詰め返すと、サイーブはニヤリと笑みを浮かべる。

「…こっちもこっちの敵を 討ったまででね」

どうやら、この者達は、地元 の反ザフト勢力…レジスタンスといったところだ。

「砂漠の虎相手にずっとこん な事を?」

ムウがやや呆れた声を上げ る。

「……あんたら2人の顔は、 どっかで見たことがあるな」

ムウとアルフを交互にジロリ と睨む。

「ムウ=ラ=フラガだ」

「アルフォンス=クオルド… 残念ながら、こちらは見覚えがないんだがな」

素っ気なく答えるムウとアル フに、サイーブは小気味そうに笑う。

「『エンディミオンの鷹』に 『蒼き疾風』…こんな所で会えるとはな」

意表を衝かれ、ムウとアルフ の表情がやや強張る。マリューも同様だ。

こんな砂漠のど真ん中に、そ こまでの情報が伝わっているとは……

「情報もいろいろとお持ちの ようね…では、私達のことも……?」

「地球軍の新型特装艦:アー クエンジェルだろ? クルーゼ隊に追われて地球へ逃げてきた…で、アレが……」

サイーブは視線を変え、傍ら に立つストライクとルシファーを見上げる。

「X105、X000…… 『ストライク』、『ルシファー』と呼ばれる地球軍の新型機動兵器のプロトタイプとテストタイプだ」

サイーブの代わりに答えるよ うに、後ろに立っていた金色の髪の少女が口を開いた。

マリューは驚いて少女を見や る…彼女が口走ったのは、地球軍内部でも極秘であるはずの情報が、どうしてそこまで知られているのか……

「さて…お互い、何者だか解 かってめでたしといきたいところだが、こっちとしちゃ、とんだ災いのタネに降ってこられてびっくりしてんだ……ま、こんなとこに降りちまったのも事故なん だろうが、あんた達がこれからどうするのか、そいつを聞きたいと思ってね?」

何かを探るように話すサイー ブに、マリューは小さく尋ねる。

「…力になっていただけるの かしら?」

「フン! 話そうってんな ら、まずは銃を下ろしてもらわねえとな」

鼻で笑い、マリュー達は驚愕 する。

どうやら、待機していた兵達 の存在も気付いていたらしい。

「アレのパイロットもだ」

この会談を見守っていたスト ライクとルシファーを顎で指し、マリューは短く溜め息をつくと、向き直る。

「クズハ特務中尉、ヤマト少 尉…降りてきて」

その指示に、レイナは軽く息 を吐き出し、キラもハッチを開放して、ラダーから地上に降りる。

キラがヘルメットを取り出す と同時に、レイナは遅れてハッチを開け、コックピット外にその身を晒した。

現れたレイナとキラの姿に、 レジスタンス達の間にどよめきが起こる。

「ああ? あれがパイロット か?」

「両方とも、まだガキじゃね えかよ」

だが、その中で息を呑み、大 きく驚いている者がいた…次の瞬間、その少女はキラとレイナの前に駆けていった。

 

ラダーから降りたレイナは、 風に揺れる髪を掻き上げる。

久しく感じる地球の風だ……

「レイナ…大丈夫なの?」

キラは僅かに眼を逸らしなが ら、レイナに尋ねる。

「……心配はいらないわ」

何故キラは眼を逸らしている のか…そこで初めて、レイナは自分の格好に気付いた。

パイロットスーツも着ずに、 しかもジャケットを羽織っただけで、肌蹴た下には、包帯だけでかろうじて胸の辺りが隠れている程度だ。

だが、レイナはどうというこ ともない…見られて、恥ずかしいというような乙女的な感情など、元から無い。

その時、レジスタンスから駆 け寄ってきた少女に気付いた。

「お前……!」

少女が突発的に近づいたの で、ムウとアルフは瞬時にホルスターに手をかけるが、それを牽制するように長身の男が立ち塞がり、鋭い眼光を覗かせている。

そして、少女はキラとレイ ナ…特にキラをケンカ腰に見詰め、手を振り上げる。

「お前が何故、あんなものに 乗っている!?」

繰り出された拳は、キラの顔 に届く寸前で、隣にいたレイナが割り込んで止めた。

「なっ…は、離せ!」

少女は掴まれた腕を振り解こ うとするが、レイナは握り締める手に力を込める。

「ここじゃ、初対面の相手に いきなり殴りかかるのが礼儀なのかしら」

冷静に呟くと、怪訝そうに少 女を見ているキラに眼を向ける。

「それとも…知り合い?」

少なくとも、この少女はキラ だと認識して怒りを向けている。

だが、キラはいかにも見覚え がないといった表情をしている。

「なに……ひょっとして、昔 に捨てた彼女?」

「「違う(います)!!」

真顔で、とんでもないことを サラッと言うレイナに、両者とも、口を揃えて叫ぶ。

キラは必死に記憶を手繰り寄 せ、こちらを睨みつける少女の顔に、何かを思い出し、眼を見開く。

「君…あの時、モルゲンレー テにいた……」

あの運命の日…自分がシェル ターに避難させた少女だ。

キラが呆然としている間も、 少女はレイナの手を振り解こうともがいていた。

「くそっ、離せよ、この馬 鹿!」

彼女のもう一方の拳がレイナ に向かって振り上げられるが、レイナは素早く腕に力を込め、少女の身体を投げ飛ばした。

ドン、という音と共に、少女 の身体は砂漠に背中を打ち付けられた。

周囲の者達は唖然となってい る。

それは、殴り掛かった少女の 行動へか…それとも、少女とはいえ、腕一本で軽々と投げ飛ばしたレイナへの驚きか……

「…悪いわね。私は、相手が してくる礼儀をそのまま返す性質だから」

見下ろすレイナの視線に、少 女は立ち上がり、歯軋りをしながら再度殴り掛かろうとする。

「カガリ!」

サイーブに咎められ、カガリ と呼ばれた少女は渋々引き下がった。最後にあの印象的な眼差しで憤怒を感じさせながらレイナとキラの顔を睨み、仲間達の所へ戻って行く。キラは困惑した顔 でそれを見送っていた。

…何故、彼女がこんな所にい るのか、と。

 

 

ザフト軍のヨーロッパ、アフ リカ南部攻略の拠点、ジブラルタル基地。

ここに、第8艦隊との戦闘 で、不運にも地球の重力に捕まり、降下したバスター、デュエル、ヴァルキリーのパイロットであるリン=システィ、イザーク=ジュール、ディアッカ=エルス マンの3名が収容されていた。

デュエルとバスターは、PS 装甲のおかげで、外装が焦げた程度で済んだが、リンのヴァルキリーはダメージが酷かった。

バックパックのスラスターを 逆噴射させ、摩擦熱を僅かながら中和したものの、機体への負担は大きく、バックパックのスラスターがほぼ全壊してしまった。

しかし、全壊したのが大気圏 を突破した後であったので、幸いにもコックピット内が焼き爛れることはなかった。

漆黒のザフトの軍服に身を包 み、リンは通信室へと向かう。

先程、宇宙にいるクルーゼか ら、通信が届いたらしい。

もっとも、リアルタイムでは ないが……

「よ、あんたが漆黒の戦乙女 かい?」

リンが顔を向けると、そこに は赤の軍服を着たディアッカと、顔に包帯を巻いたイザークが立っていた。

「俺はディアッカ=エルスマ ン。で、こいつがイザーク=ジュール」

「……リン=システィ。最初 の質問だけど、Yesよ」

「直に会うのは初めてだけど よ、結構綺麗だな」

からかうようなディアッカの 口調にも答えず、リンは無表情のまま歩みを再開する。

「おいおい、待てよ」

ディアッカが慌てて後を追 い、イザークはむっつりした表情のまま、後を追った。

 

3人が通信室に入ると、ク ルーゼからの通信が再生される。

《3名が無事にジブラルタル に入ったと聞き安堵している。先の戦闘ではご苦労だったな》

労う画面のクルーゼに、ディ アッカは皮肉げに笑う。

「死にそぉになりましたけ ど」

耐熱カプセルもなし、MS単 体で大気圏に突入したのだ…PS装甲がなければ、機体ごと焼き尽くされていたかもしれない。

幸運なことに、落下地点が地 中海であったために、無事に着水できたのだ。

だが、二度とやってみたいと は思わない。

《リフェーラ=シリウスの消 息が未だに不明と聞き、私自身も心配している。そして、残念ながら足付きとストライク、ルシファーをしとめることはできなかったが、君らが不本意とはい え、共に地上へ降りたのは幸いかもしれん》

今まで、任務達成率の高いク ルーゼが遂に逃してしまったのは、悔しさに感じるところではあったかもしれないが、その声色には表れていない。

《足付きは今後、地球駐留部 隊の標的となるだろうが、君達も暫くの間、ジブラルタルに留まり、共に追ってくれ》

言葉を区切ると、、クルーゼ が仮面の瞳をこちらに向け、揶揄するように笑みを浮かべる。

《無論…機会があれば、討っ てくれてかまわんよ》

通信が終わり、腰掛けていた ディアッカは後方に立つリンとイザークに向き直る。

「……だってさ。宇宙には 戻ってくるなってこと? 俺達に駐留軍と一緒に、足付き探して、地べたを這いずり回れってかよ」

ディアッカは深々と溜め息を つく。

彼らはともにエリート部隊の クルーゼ隊に所属する自分達が、地上で足付きを追わねばならないことに釈然としないものを感じている。

エリート意識の強い彼らにし てみれば、当然かもしれないが……

「……それ以外に、先程の命 令は取りようがないけど」

リンは冷静に呟き、軽く肩を 落とす。

リン自身…クルーゼ隊に配属 前は宇宙戦だけではなく、地上戦も若干ながら経験がある。

2人と違い、大して懸念があ るわけでもないが、リンは…なぜかクルーゼが好きになれない……波長が合わないとでも言うのか………それに、自身のヴァルキリーも今現在、このジブラルタ ル基地で改修中だ…それが終わるまでは、動こうにも動けないが……

その時、先程から黙り込んで いたイザークが、おもむろに顔を覆っていた包帯を解き始めた

「おい、イザーク!」

ディアッカは驚いて立ち上が る。

包帯を解いたイザークの顔に は、傷跡が斜めに刻まれていた。

ストライクとの戦闘で受けた 傷跡をおしてまで、あの戦闘に参加し、地球降下までいたのだ。

傷の具合は聞いていなかった が、今では消せるはずの傷跡を残していることにディアッカは言葉をなくす。

それ程までに、ナチュラルの 操縦するMSにおくれを取ったことが、イザークに取って大きな疵となっているのだろう。

怒りで顔を歪め、彼は歯を喰 いしばる。

「機会があれば……だと?」

殺気を振り撒き、叫んだ。

「討ってやるさ! 次こそ必 ず、この俺がなっ!」
地球に降下してからというものの、イザークはどこかおかし いとディアッカは思っていた。

新しく配属されたリフェーラ =シリウスが行方不明と聞いた途端、傷をおしてまで探しにいこうとはする、さらにはストライクを討つためにバルトフェルド隊に志願するなど、なにか、執念 のようなものを感じ、ディアッカは口を噤んだ。

 

 

 

サイーブの申し出で、アーク エンジェルは明けの砂漠の前線基地があると思しき場所に向かって低空飛行を行っていた。

甲板上では、敵襲に備えてス トライクとルシファーが待機している。

互いに、ディアクティブモー ドでエネルギーを節約し、警戒にあたっている。

レイナはルシファーのコック ピットから、ストライクを見やる。

先程の、カガリと呼ばれた少 女と会った時から、キラは黙り込んだままだ。

だが、キラのことはともか く…レイナはあのカガリという少女について思案していた。

初対面ではあるはずだが…何 処かで見たような記憶があるが、はっきりとは思い出せない。

その時、レイナは顔を上げて モニターに映る砂漠を見た。

レーダーには何も映っていな いが、何かが引っ掛かるような感覚を受けた。

不審に思ったレイナは、PS 装甲を作動させ、甲板より飛行する。

《レ、レイナ…》

《クズハ特務中尉、どうし た?》

通信からキラの慌てた声とナ タルの警戒心の篭った声が響くが、レイナは無視し、自身の感覚が導く方向に向かってルシファーを飛行させた。

アークエンジェルより数十 メートル離れた地点に飛行してきたルシファーのモニターで、周囲を確認する。

(確か、この辺だったと思う けど……)

モニターを見詰めていると、 その視線が止まる。

モニターには、砂漠に埋もれ るように何かが突き出しているのが見えた。

下半身がほぼ砂で埋まってい るが、それは間違いなくMSの姿。

レイナは砂漠に降り立ち、ル シファーでそのMSを砂から引きずり出した。

「このMS……」

色こそ灰色で違うが、そのシ ルエットには見覚えがある。

そう…あの地球軌道での戦い で見かけたザフトのMS………

《クズハ特務中尉! 何を やっている!? 早く戻れ!》

通信機からナタルの怒号が聞 こえ、レイナは軽く溜め息をついて通信を繋げる。

「こちらレイナ…砂漠上にて ザフトのものと思しきMSを発見」

《何だと…機種は?》

「…データにはない。ただ、 宇宙での戦いで見かけたやつね」

《放っておくわけにはいかな いわね…クズハ特務中尉、そのMSを回収して》

マリューから指示が届き、レ イナはルシファーでそのMSを背負うと、先行しているアークエンジェルを追った。

 

砂の海にポツンと浮かぶ小島 のような岩山に、アークエンジェルはバギーに先導されて近づいていた。

岩の隙間を縫うように進み、 両翼で突き出た岩壁を削りながら、岩山の谷底に着陸し、上空からの偵察に備え、隠蔽用のネットをかけていく。

「サイーブ! どういうこと だよ、こりゃ!?」

岩山にいた者達が、その威容 に眼を張り、先導するサイーブに抗議するが、サイーブはむっつりと命じる。

「客人だ、仲良くしろ。それ と、医者を連れてこい」

サイーブは、ルシファーが背 負ってきたMSを降ろすのを見詰めながら指示した。

ルシファーとそのMSの周囲 にマリュー達やキラが集まってくる。

「確かに、あの時に確認され たMSね」

間違いなく、先の地球軌道上 でのザフトとの戦闘で確認された、未確認のMS。

「でもよ、あの機体…確か色 が違ってなかったか?」

「そう言えば…そうっすね」

同じくあの戦闘に参加してい たムウとアルフも首を捻る。

あの時、戦場で戦っていた機 体には、鮮やかな紫色が施されていたはずだ。

「ひょっとして、アレもPS 装甲を採用しているのでは……」

ナタルの指摘に、マリューは 言葉を詰まらせる。

確かに言われてみれば…今の 状態はPS装甲OFFのディアクティブモードに見えなくもない……しかし、この短期間で地球軍の技術をそこまで自軍のものにできるザフトの技術力の高さ に、改めてマリューは驚く。

コックピットから降りたレイ ナは、素早くMSのコックピット付近へと近づく。

「クズハ特務中尉!」

ナタルが止める間もなく、レ イナはハッチを開放させた。

コックピット内を覗き込む と、そこには、赤いザフトのパイロットスーツを纏った人物が気を失っていた。

レイナが右手を取ると…ちゃ んと脈は打っている。

どうやら、生きているよう だ…もっとも、もしあのままレイナが発見しなければ、機体ごと砂の餌食になっていたかもしれないが……

だが、生きていることがここ ではどう扱われるか……レイナは身体を抱き起こす。

その時、妙な違和感に襲われ る。

(この子……)

感じた違和感を、取り敢えず は押さえ、レイナはその人物を連れてコックピットから出る。

「おい、嬢ちゃん…パイロッ トか?」

「生きているのか?」

「ええ…取り敢えずは」

レイナは外傷がないことを確 信すると、ヘルメットを取る。

その現れた素顔に…一同は、 眼を見張った。

黒髪を持つ、少女が眠ってい た。

だが、とてもではないが軍人 には見えない。

いくら、ザフトや連合でも、 この年で最前線に出る者が少なくないとはいえ、実際に見ると、ギャップがある。

「女、だよな……?」

やや上擦る口調で問い掛け る。

コーディネイター社会におい て、女性は極端に数が少なく、女性がパイロットとして戦場に出ることは極端に少ない。

パイロットとして生き延びる には、それなりの腕を必要とするのだ。

『漆黒の戦乙女』や『蒼の稲 妻』のように……

「とにかく、アークエンジェ ル内に運びましょう」

マリューがそう提案し、レイ ナは頷く。

その時、サイーブがカガリと 一人の老医師を連れ立ってやって来た。

「そいつがパイロットか…… そっちも子供か」

どこか、呆れたような口調 だ…先のキラやレイナといい、MSに乗るのは子供が多いのかと思ってしまう。

「怪我をしてるかもしれん… 取り敢えず、うちの医者に見てもらう」

この言葉に、カガリが露骨に 反応する。

「サイーブ! 何でザフトの 奴を助けるんだよ!?」

連合ほどではないが、カガリ 自身…コーディネイターであるザフトと戦っているだけに、『コーディネイター=敵』というイメージが強いのであろう。

だが、そんなカガリをサイー ブは嗜める。

「カガリ、確かに俺たちゃ、 ザフトの砂漠の虎と戦っている。だがな、いくらザフトの者でも子供まで見殺すようなことはできん。俺は別にコーディネイター全てが憎いわけではない!」

完全にザフト…コーディネイ ターを敵視している地球軍とは違う、と遠回しに言う言葉に、マリューは顔を顰める。

ザイーブ達にとっては、ザフ トも地球軍も同類だ……支配される側にしてみれば。

「カガリ…サイーブにも子供 がいる。その気持ちを少しは察してやれ」

サイーブの隣に立っていた老 医師にそう言われ、カガリは口を噤んだ。

「という訳だ、文句はないよ な?」

「ええ、解かりました」

「ちゃんと捕虜として扱え よ」

念を押すようなサイーブに、 ナタルが何かを言いかけたが、マリューが腕で抑え、頷いた。

「クズハ特務中尉、彼女を アークエンジェルへ」

「はいはい、了解」

肩を貸したまま、レイナはパ イロットと老医師を連れてアークエンジェル内へと入っていく。

残されたマリュー達をサイー ブが促し、岩山の奥に案内されていく。

そして、電灯が灯っている が、薄暗く、通信設備などの整った司令室らしき場所へと入った。

「こんなとこで暮らしてんの か?」

「ここは前線基地だ。皆、家 は街にある…まだ焼かれてなけりゃな」

ムウの問い掛けに答えなが ら、サイーブは端のポッドを持ち上げる。

「街?」

「タッシル、ムーラ、バナ ディーヤから来ている奴もいる…俺達はそういう街の有志の一団だ……コーヒーは?」

「ありがとう」

マリューが手を差し出した が、サイーブは注いだカップに口をつけながら、「好きなのを使いな」とだけ、素っ気なく伝えると離れていく。

手持ち無沙汰になったマ リューは、コーヒーを断念して、慌てて後を追った。

先のカガリと呼ばれた少女が サイーブに近寄り、何かを耳打ちして行った。ムウは去って行く彼女を見送り、サイーブに問い掛けた。

「彼女は?」
「俺達の勝利の女神だ」
「へぇ?」

ムウはからかうような口調を 浮かべる。

「勝利の女神…ね。名前 は……?」

アルフが反芻し、問い返す と、サイーブはギロリと睨むように見返す。

アルフは肩を竦めた。

「女神様じゃ、名前を知らな きゃ悪いだろう」

サイーブはコーヒーを啜った 後、むっつりした顔で答えた。

「……カガリ=ユラだ」

話題を逸らすようにサイーブ はカップを置き、地図を広げる。

「アンタらはアラスカに行き てえってことだがな…まず、アフリカ大陸を出る算段だな……いくらザフトの勢力圏とはいえ、砂漠中に軍隊がいるわけじゃねえ。だが、三日前にビクトリア宇 宙港が落とされちまってから、奴らの勢いは強い」

淡々と情勢を語るサイーブに マリューが驚愕する。

「ビクトリアが…!」

「三日前!?」

流石のムウやアルフも顔を顰 める。

「ここ、アフリカ共同体は元 々プラント寄りだ。最後まで抵抗していた南アフリカ統一機構も遂に地球軍に見捨てられちまったんだろうよ。ラインは日に日に変わっていくぜ」

「華南に続いてビクトリア… 現状は芳しくないな」

地図を見ながら唸っていたア ルフが呟く。

最早、地球軍に残されている のはパナマ宇宙港のみ。

「そんな中で頑張るねえ、あ んたら」

気を取り直したムウが問い掛 けると、サイーブはジロリと睨む。

「俺達にとっちゃ、地球軍も ザフトもおんなじなんだよ…どちらも支配し、奪いにくる」

マリューは当惑して眼を伏せ る。

「じゃあ何で俺達を助けるん だ?」

ムウの問い掛けに、サイーブ は小さく笑みを浮かべる。

「敵の敵は味方…というやつ だ。あの艦は、大気圏ではどうなんだ?」

「そう高度は取れない」

ナタルが応じ、サイーブは地 図上に身を乗り出す。

「山脈が越えられねえってん なら、あとはジブラルタルを突破するか……」

「この戦力では、ちと無謀だ な」

アルフが顔を顰める。

敵の地上侵攻の拠点であるジ ブラルタルをアークエンジェル一隻だけで突破するなど、不可能という問題ではない。

「なら、頑張って紅海へ抜け て、インド洋から太平洋に出るっきゃないな」

「太平洋……」

四人はその航路を検討し始め る。

「補給路の確保なしに、一気 に行ける距離ではありませんね」

「下手をしたら、カーペンタ リアの部隊と衝突する可能性もある」

「大洋州連合は完全にザフト の勢力下だろ? 赤道連合はまだ中立か?」

地図上で議論し合う四人に、 サイーブが呆れる。

「おいおい、気が早えな。も うそんなとこの心配か?」

不審そうに見詰める四人に、 サイーブは地図上の、現在地であるアフリカ大陸の一点を指す。

「ここ、バナディーヤには、 レセップスがいるんだぜ」

一瞬の沈黙のあと、四人は大 きく肩を落とした。

どうやら、前途多難のよう だ。

 


BACK  BACK  BACK




inserted by FC2 system