レセップスが待機する砂漠 に、ザフトの輸送機が数機降下してくる。

輸送機からは、MSが次々と 降ろされてくる。

「ディンはともかく…なんで ザウートなんかよこすかね? ジブラルタルの連中は……」

苛立たしげにバルトフェルド が吐き捨てるように愚痴をこぼし、補給品目の書類をデスク上に放り投げる。

「バクゥは品切れか?」

「はぁ…近々発動される大規 模な作戦のために、これ以上は回せないということらしいです……」

ダコスタも溜め息混じりに答 える。

流石のジブラルタル基地も、 砂漠の虎が僅か数日の間にバクゥ5機を失い、さらには3機も損害を受けるなどと、まったく予想できなかったのだろう。

バクゥの代わりにジブラルタ ルが補給したのは、二機種のMS。

『AMF−101 ディン』 と『TFA−2 ザウート』である。

ジンをベースに、大気圏内で の飛行を可能とした空中専用MSとキャタピラ駆動のタンクモードと人型モードの二形態を併せ持つ砲撃支援用MS。

だが、砂漠の戦闘で、ディン はともかく、ザウートでは、バクゥと差がありすぎる。

対MS戦では、明らかに的と しかならないような鈍重な機体だ。

決戦を控えている今、バルト フェルドも不貞腐れる。

「その埋め合わせのつもりで すかね。クルーゼ隊のあの3人は……」

ダコスタは不意に、窓から外 での搬入作業を見やる。

ザウートに続いて降りてきた のは、見慣れぬ3機のMS。

『ヴァルキリー』、『デュエ ル』、『バスター』だ。

「やれやれ…あのお嬢様の同 僚の方々か」

バルトフェルドも、窓際に立 ち、MSを見やる。

レセップスには、バナディー ヤで修理したリベレーションもまた搭載されている。

意識の取り戻したリーラが、 参戦を希望したのだ。

「まあ、噂の漆黒の戦乙女は ともかく…後の二人はかえって邪魔になりそうな気もするけどな…宇宙戦の経験しかないんじゃな」

「エリート部隊ですからね」

ダコスタも皮肉混じりに呟い た。

こんな地上の辺境でも、『漆 黒の戦乙女』の名は響いている。

地上において、彼女の名を轟 かせたのは、華南宇宙港陥落である。

後に宇宙へと戻り、クルーゼ 隊に配属されたと聞くが、そこそこ腕は立つのだろう。

だが問題は他のパイロットで ある。

クルーゼ隊は主に宇宙戦を主 流にし、構成員はザフト内部でもエリート達を集めた部隊だが、それゆえにプライドが高く、他の部隊において隊の和を乱す可能性も否めず、正直厄介なお荷物 を預かったという心境だ。

「クルーゼ隊ってのが特に気 にくわん。僕はアイツ、嫌いでね」

「……って、ラウ=ル=ク ルーゼがですか?」

バルトフェルドと並び立つ エースパイロットであるクルーゼに対し、はっきりと言いのけ、ダコスタは二人の間に何か確執でもあったのだろうかと、首を傾げる。

「他人に眼を見せなかった り、あんな趣味の悪い変態仮面をつけてる奴なんて信用できるか」

シンプルかつなんの根拠もな い意見に、ダコスタは深く肩を落とした。

だがまあ、自分はこの上官の こんなところが気に入ってるからこそ、副官を務めているのだろう……たとえ、胃痛が酷くとも。

 

 

機動戦士ガンダムSEED 

TWIN DESTINY OF  DARKNESS

PHASE-19  砂漠の決着

 

 

輸送機から降りたMSがレ セップス甲板上に降り立つ。

離陸する輸送機が、風と共に 細かな砂を巻き起こし、機体から降りたイザークとディアッカに降り掛かる。

「うわっ、なんだよこりゃ!  ひでえトコだな!」
顔を顰めつつ、砂を払いのける

早速、砂漠に対してのマイナ スイメージを持ち始める二人に向かって、挨拶のために甲板に出たバルトフェルドが声を掛ける。

「砂漠はその身で知ってこ そ…ってね。ようこそレセップスへ、指揮官のアンドリュー=バルトフェルドだ」

イザークとディアッカは慌て て背筋を伸ばし、敬礼を行う。

「クルーゼ隊、イザーク= ジュールです」

「同じく、ディアッカ=エル スマンです」

「うむ…ところで、もう一人 いるはずだが……」

バルトフェルドは噂の漆黒の 戦乙女の姿が見えず、周囲を見渡す。

その時、ヴァルキリーが背中 の巨大なスラスターと新たに両肩に装着されたバーニアを噴かし、レセップス甲板に降り立った。

太陽の光が、その漆黒のボ ディを煌かせる。

ハッチが開き、漆黒のパイ ロットスーツを纏った人物がラダーを使い、降りてくる。

甲板に降りたパイロットは、 バルトフェルドの元に向かって歩み寄りながら、ヘルメットを取る。

ヘルメットの下から現れたリ ンの素顔を見た瞬間…バルトフェルドはやや怪訝そうな表情を浮かべる。

(こいつは……驚いたな。あ の娘にそっくりだ……)

他人の空似にしては似過ぎる その顔立ちに、当惑するが、なんとかそれを抑え込む。

「隊長…あの子、前にバナ ディーヤで会った子に似てませんか?」

あの時、現場にいたダコスタ も怪訝そうな表情で、小声でバルトフェルドに尋ねる。

「確かにな…だが、恐らくは 別人だ。まさか、こんな身近でドッペルゲンガー現象に遭遇できるとはね……」

相変わらず、意味不明な言い 回しに、ダコスタはこっそり溜め息をついた。

そうしている間に、リンはバ ルトフェルドの前に立ち、敬礼をする。

「クルーゼ隊所属、リン=シ スティです…只今を持ちまして、貴官の指揮下に入ります」

内心の動揺を隠しつつ、バル トフェルドは3人に向かって敬礼を返す。

「宇宙から大変だったな、歓 迎するよ」

「ありがとうございます」

心にも無い事を口にしたバル トフェルドにイザークが答え、バルトフェルドはイザークの顔を覗き込む。

その端整な顔に走る傷跡 を……

「戦士が消せる傷を消さない のは、それに誓ったものがあるからだ……と思うが、違うかね?」

予期せぬ言葉に、イザークは 一瞬表情を歪め、視線を逸らすが、バルトフェルドはその反応を楽しむかのように言葉を続ける。

「そう言われて顔を背けるの は『屈辱の印』……とでも言うところかな?」

流石のイザークもカッとな り、バルトフェルドに噛み付く。

「そんなことより! 足付き の動きは!?」

バルトフェルドとイザークの やり取りに、ダコスタはまたもや胃が痛くなるのを感じる。

しかし思うところだが、いく ら別部隊のパイロットとはいえ、これは上官に対する礼儀がなっていない、とダコスタは思わずにはいられない。

まあ、挑発した上官にも問題 はあるのだが、幸先のいいスタートではない。

肝心のバルトフェルド本人 は、別段気分を害した様子も見せず、余裕の笑みを浮かべている。

「あの艦なら、ここから西方 へ180キロの地点……レジスタンスの基地にいるよ。無人探査機を飛ばしてある。映像を見るかね?」

飄々とした口調で話しなが ら、バルトフェルドは視線を2体のXナンバーへと向ける。

イザークとディアッカはやや 毒気を抜かれたようなポカンとした表情でバルトフェルドを見やっている。

「成る程、同系統の機体だ な……アイツらとよく似ている………」

魅入られたような表情で呟く バルトフェルドに、ダコスタは意外そうに思い、リンはやや眼を細める。

「バルトフェルド隊長は既に 連合のMSと交戦経験があると聞きましたが……?」

その声に、バルトフェルドは 振り返り、肩を竦める。

「ああ…そうだな、僕もク ルーゼ隊のことは笑えんよ」

クルーゼ隊を愚弄しているの か、それとも本音だったのか……意図が掴めずにイザークとディアッカは顔を顰める。

「ああ、そうだ…君らの同僚 のリフェーラ=シリウスが格納庫にいる…会ってきたまえ」

そう言われ、イザークはハッ と気付く。

「失礼します!」

矢のように素早く敬礼し、レ セップス内に駆けていくイザークにディアッカは唖然となる。

「お、おい、イザーク…失礼 します」

ディアッカも慌てて敬礼し、 後を追っていく。

「おやおや…一途だね」

含みのある笑みを浮かべるバ ルトフェルドに、先程まで不安な面持ちだったダコスタは自分の取り越し苦労だったと何度目か解からない溜め息をついた。

「バルトフェルド隊長…お聞 きしてもよろしいですか?」

一人、その場に残ったリンが 尋ねる。

「連合のMS…ルシファーと 戦ってみて、どうでしたか?」

意表を衝かれ、バルトフェル ドは一瞬言葉に詰まる。

「……そうだな。一言で言う なら…面白い相手だな」

「面白い……?」

バルトフェルドの脳裏に、先 日…バナディーヤで出逢った少女の顔が浮かぶ。

「そう…今までの退屈さを吹 き飛ばしてくれるような面白い相手だ」

笑みを浮かべ、そう言い回す バルトフェルドに、リンは軽く笑みを浮かべた。

「……そうですか。貴方も面 白い方ですね」

「そうかい?」

「ええ…クルーゼ隊長より は、好感が持てますよ」

何気にもらしたその一言に、 バルトフェルドは笑い上げる。

「はははっ! クルーゼは部 下に慕われていないのかね?」

言葉の中に探るような視線を 含める。

「……少なくとも、信用でき る…とは言えないですね」

何より、仮面で隠したあの眼 が気に入らない。

他人に対して眼を隠す…それ は、自身を殺すためか…奥底に、本心を隠し切っていると思わざるを得ない。

そんな得体の知れない上官 に、部下が命を預けきれるかと言われるとそうでもない。

リンは、自分の邪魔をしなけ れば別にクルーゼが何を考えていようと構わないが、少なくとも…油断のできない部分を持っていることは確かだった。

「君とは気が合いそうだな」

「……ですが、あまりに自分 を曝け出し続けるというのも問題ですがね」

豪快に笑うバルトフェルド に、さり気に釘を刺し、バルトフェルドは苦い笑みを浮かべ、ダコスタはそんな様子に心底驚いた表情を浮かべていた。

 

 

「リーラ!」

格納庫に飛び込んだイザーク は、いきり立つように叫ぶ。

整備を行っていた者達は、何 事かと思いイザークの方に振り向くが、そんな視線を気にもせず、イザークは目的の人物を探す。

「……イザーク」

その時、消え入りそうな儚い 声で名前を呼ばれ、イザークが振り向くと、そこには目的の人物……リーラが佇んでいた。

「無事だったか!」

姿を見るや否や、イザークは そこが格納庫内ということも忘れてリーラに抱きつく。

抱きつかれたリーラは、頬を 染めてどぎまぎする。

「う、うん…お、落ち着い て」

「そうそう、落ち着けってイ ザーク」

リーラに続くように、後ろか らディアッカの呆れた声が掛けられる。

「お前さ…もう少し場所考え ろよ」

嗜めるディアッカに、イザー クはややしかめっ面でリーラから離れる。

「あの…ディアッカさん」

「ディアッカでいいって。可 愛い子には特に…てぇ」

軽薄そうな表情でリーラに笑 い掛けるディアッカに、イザークは後頭部を殴る。

「ってぇな…イザーク」

「貴様がバカなこと言うから だ…それより少し席を外せ」

キツイ視線で睨まれたので、 ディアッカは肩を竦めて離れていった。

イザークとリーラは、リベ レーションの足元まで移動し、周囲に人気がないのを確認する。

「久しぶり…ですね、イザー ク」

「ああ…敬語はいいって言っ てるだろうが」

「ご、ごめん…でも、イザー ク…その傷……」

表情を僅かに歪め、リーラは イザークの顔の傷に触れようとするが、イザークは振り払うように顔を背ける。

「これは…俺の決意だ。奴 を…ストライクを倒すまで、この傷は消さない」

意志のこめられた瞳で語るイ ザークは、リーラの髪に触れる。

「髪を切ったのか…しかも黒 く染めて……あんなに綺麗な赤い髪だったのに」

少しばかり、バツが悪そうな 表情で、リーラは俯く。

「いつ……気付いたの?」

正直、リーラは当惑する…… 視線を逸らしながら、尋ねる。

「最初からだ…あの時、宇宙 でお前から通信を受けた時……流石に最初は単なる他人の空似かと思ったが、それはないと思った……お前の顔を、俺が見間違えるということはないからな」

断言したイザークに、嬉しさ がこみ上げるも、同じように不安も拡がる。

「……報告、するの?」

恐る恐る尋ねると、首を振っ た。

「いや…そこまでして、軍に いるんだ……半端な覚悟じゃないことぐらい、俺だって解かる」

「……ありがとう」

離れたくなかった……またあ そこへ帰りたくない。

「しかし、何故パイロットに なんか……希望すれば、本部のオペレーターにでもなれただろうに……」

コーディネイター社会では女 性が極端に少なく、また軍に志願する女性など、ほんの一握りだ…そして、大抵がオペレーターに回される。

パイロットになる者は滅多に いない。

「うん…でも、私……パイ ロットになったこと、後悔してないよ」

「どうしてだ…?」

「…貴方の傍にいられるか ら……貴方と同じ世界にいられるから…もう、あそこへは戻りたくないの」

咎めるようなイザークに、 リーラは震える口調で答え、不安げに瞳が揺れる。

そんな不安を紛らわせるよう に、イザークはリーラを抱き締める。

「大丈夫だ…お前は、俺が絶 対に護ってやる」

「……うん」

今、はっきりと感じられる温 もりに…リーラは安堵感を覚えた。

 

 

先程のやり取りの中、アーク エンジェルの動きは即座にキャッチされた。

「動き出しちゃったって?」

レセップスのブリッジに入っ たバルトフェルドは、オペレーターに問い掛ける。

「はっ! 北北西へ向かって 進攻中です」

バルトフェルドの後ろには、 ダコスタとリンもいる。

続けてモニターに、アークエ ンジェルの艦影が映し出される。

「足付き……敵艦の進攻目標 は?」

リンの問い掛けに、バルト フェルドはアークエンジェルの進攻方向と地図を見比べる。

「タルパティア工場区跡地に 向かっているか……ま、ここを突破しようと思えば、僕が向こうの指揮官でもそう動くだろうがな」

「隊長……」

指示を待つダコスタに、バル トフェルドはやや表情を困らせるが、それでも楽しげに首を振る。

「うーん……もうちょっと 待ってほしかったが…仕方ない」

こちらの準備は未だ不安があ るものの、敵が動く以上、見逃すことはできない。

「レセップス、発進する!  コード02! ピートリーとヘンリー・カーター、フレッチャーに打電しろ!」

バルトフェルドの指示に、ブ リッジは慌しくなり、発進態勢に移行していった。

「女性に先にアクション起こ させちゃうなんて、悪いことしたな」

何時もの訳が解からない言い 回しに、ブリッジメンバーは呆れ返る。

「……待たせ過ぎるのも、女 性に対して冒涜じゃないんですか?」

さり気に突っ込まれ、バルト フェルドにはやや表情を顰めて考え込む。

バルトフェルドをやり込めた リンに、クルー達はどこか感嘆の眼差しを向けていた。

 

 

 

タルパティア工場区跡地に向 かうアークエンジェル内の食堂で、出撃前の休息を取るパイロット達。

レイナ、キラ、ムウ、アルフ の4人は同席し、これからの戦闘に備えて英気を養っている。

キラはちらりとレイナを盗み 見る。

脳裏に、昨晩の自分の行動が 浮かび上がる…いくらカッとなったとはいえ、女の子相手に押し倒してしまい、キラは罪悪感にかられるが、当のレイナはさして気にした様子も見せず、普通に 食事を取っている。

キラはまたもや溜め息をつ き、手元の食事にも手付かずの状態が続く。

「なんだ、まだ食ってないの か」

キラのトレーを覗き込んだム ウが咎める。

「あ、いえ……」

「多少、無理してでも食べて おいた方がいい…これから長丁場になるからな」

水を飲みながら、アルフもキ ラに声を掛ける。

「そうそう…ほら、これも食 えよ」

ムウが手に持っていた料理を キラのトレーの上に置く…ドネル・ケバブ……キラが僅かに表情を強張らせるが、それに気付かず、ムウは自身もまたケバブにがぶりつく。

「やっぱ、現地調達のもんは 美味いね〜〜」

満足げな笑みを浮かべるムウ に、キラは呆れ返る。

「少佐…まだ食べるんです か?」

先程から、ムウは既に二人前 近く食べ、見てるこっちが胸焼けしそうな量だ。

「俺達はこれから戦いに行く んだぜ? うんと食っとかなきゃ、力出ないだろ」

「……だからって、食べ過ぎ じゃないの。戦闘中にもどしたりしないでよ」

ムウの前の席で食事を取って いるレイナが、釘を刺すように呟く。

確かに、戦闘前にコンディ ションを整えておくのもパイロットの務めだが、ムウの場合、Gによって、身体が圧迫されてもどしてしまうのではないかという不安がある。

「少佐…流石にそれぐらいに しといた方がいいんじゃないっすか? コックピット内でもどしたりしたら、マードック曹長に怒鳴られるっすよ」

「へいへい…ほら、お前も食 えよ。ソースはヨーグルトをかけてだな……」

手にしたヨーグルトソースを 差し出すムウの姿に、先日会った男の顔がだぶり、キラは思わず視線を逸らす。

「ん……どうした?」

「いえ……その、虎もそう 言っていました。ソースはヨーグルトの方が美味いって……」

キラの言葉に、ケバブを口に 入れかけたムウの手が止まる。

「……フーン、なかなか、味 の解かる虎さんだな」

揶揄するような口調で、改め てケバブを口に入れる。

先日のバナディーヤで、3人 がバルトフェルドと接触したという報告は既になされていた。

「キラ…先日、何があったか は知らんが……あまり敵の事は考えるな」

嗜めるような口調で言うアル フに、思わず声を上げる。

「アルフの言う通りだ…これ から命のやり取りをしようって相手のことなんか知ってたって、やりにくいだけだろ」

その言葉にキラは冷水をかけ られたように固まる。

そうなのだ…これから自分 は、あの男と戦わねばならない。

たとえ、どんなに相手を憎む ことができなくても……だが果たして、戦争に終わりなのどあるのであろうか……自分がこのまま、コーディネイターを…同胞を殺し続けなければならないの か……バルトフェルドの問いと、レイナの問いが交錯し、キラは頭を抱える。

その時、思考を遮るように爆 発音が響き渡った。

「どうやら…休憩は終りね」

飲んでいたコップを置き、レ イナは小さく呟いた。

 

 

砂漠の空に立ち昇る轟音、爆 発と地響きが起こり、黒い煙が空を覆い尽くしている。

レジスタンス達の間に動揺が 起こる。

「あれだけの地雷を、一瞬 で……」

一人がポツリと漏らした言葉 に、サイーブが怒鳴る。

「うろたえるな! 攻撃を受 けたわけじゃない!」

一渇するものの、レジスタン ス達に拡がる動揺は抑えられない。

「……くっ!」

カガリも悔しそうに歯噛みす る。

「虎も…いよいよ本気で牙を 剥いてきたようだな……」

サイーブが、静かに呟く。

 

 

 

地雷原を砲撃したレセップス は、砂漠の海を滑るように疾走する。

それに追従する2隻の駆逐 艦。

それぞれの甲板には、補給さ れたザウートがそれぞれ2機ずつ配備されている。

「ピートリーよりスコーピオ ン隊、全機発進!」

「フレッチャーより、ディ ン、ジン・オーカー…発進スタンバイ完了とのことです!」

各艦からの報告に、ダコスタ が頷く。

「ヘンリー・カーターはどう か?」

別行動を取っているもう一隻 の駆逐艦の状況を尋ねる。

「所定の位置に向かっており ます…敵に察知された兆候は認められません」

「よしっ! レセップス全 速!!」

巨大な艦が唸りを上げ、戦場 に向かって駆けた。

 

 

 

タルバディア工場区跡地に到 着したアークエンジェルのパイロット控え室では、既にパイロットスーツに着替えた四人がいた。

「そうだ! 1号機に『ラン チャー』、2号機に『エール』だ!」

ムウが艦内放送で怒鳴るよう にマードックに指示する。

「レジスタンスの連中には悪 いが…正直、当てにならん……俺達で何とかするしかない」

アルフの口調に、キラも頷 き、レイナも呆れたような視線を浮かべている。

レジスタンス達は、今回も自 走砲を抱えたバギーでの参戦だ…敵はMS……はっきり言って話にならない。

前回にあれ程忠告したにも関 わらず、だ。

恐らく、敵は持てるだけの戦 力を投入してくるだろう…地上に降りて以来、ここまで大規模な戦闘は初めてだ。

「お前らも踏ん張れよ…ま あ、お前さんらのことだ……その心配は無いと思うがな」

二人に声を掛け、ムウがキラ の肩を叩く。

「あ…少佐」

不意に、思いついたキラはム ウに声を掛ける。

「バーサーカーって、知って ますか?」

唐突の質問に、ムウだけでな くアルフも怪訝そうな表情を浮かべる。

「バーサーカー……そりゃ、 何かの神話に出てくる狂戦士のことだろ?」

「きょう…せんし……?」

「ああ、そうだ…狂った戦士 と読んで『狂戦士』……普段は大人しいんだが、戦いになると、まるで人が変わったように戦いに狂う戦士のことだ」

アルフの説明に、キラは背中 が冷たくなるのを感じる。

あの時、バルトフェルドは自 分を『狂戦士』と呼んだ……自分は、今のアルフが語ったイメージと噛み合わない。

いや…だが、戦闘になれ ば……キラは自分が自分でなくなるのを感じ取っている。

これまで、幾体ものMSを撃 破してきたのだ…それは、確実に人を殺しているのだ。

その事実すらも…今のキラに は認知するほど余裕がなくなった……というよりは、もはや人の死に何も感じなくなっていたのだ……そんな自分自身が、酷く恐ろしい。

「どうしたんだ、いきなりそ んな事聞いて……?」

「い、いえ…なんでもないで す……」

ムウが不審そうにキラを見て いるので、キラは慌てて誤魔化す。

変にカンの鋭いムウだ…余計 な気遣いを使わせたくない。

だが、そんなキラの心配を他 所に、怪訝そうに見ていたが、艦内スピーカーの音に、思考が消える。

《フラガ少佐、クオルド大 尉、クズハ特務中尉、ヤマト少尉は搭乗機にてスタンバイをお願いします……》

ムウとアルフが出ようとし、 キラも続こうとするが、肩をレイナに掴まれる。

振り返るキラに、レイナが目 配せすると、ムウに声を掛ける。

「少佐、大尉…先に行ってく ださい。すぐに追いかけますから」

「ああ、遅れるなよ」

さして気にも留めず、二人が 控え室を出ると、残されたキラとレイナは向き合った。

「キラ……迷ってるの? あ の男と戦いたくない…そう思ってるんじゃない?」

的を得たレイナの言葉に、キ ラの身体がビクッと震える。

あのバルトフェルドとの出逢 いは、キラの中に酷く印象付けられ、なにより…ああやって笑い合えた者と戦わなければならないことに正直心苦しいものを感じている。

「図星みたいね」

「……戦いたくないかもしれ ない。僕はあの人と………」

「そんなあまい考え、今すぐ 捨てなさい」

ピシャリと冷たく言い切った レイナにキラは愕然となる。

「戦場で、自分を殺そうとす るなら…それは敵よ。キラ……貴方、私が敵になったら、私を殺せる?」

「そんな…! 僕がレイナ を…!」

「私が…アークエンジェル を……貴方のお友達を殺そうとしていても?」

考えたくないことに、キラが 必死に否定しようとするが、そんなキラを嗜めるようにレイナは言葉を紡ぎ、キラは口を噤ませる。

「私は殺せるわ…仮に貴方だ としても……私の敵になるなら、撃つだけよ……あの男、アンドリュー=バルトフェルドはまさにそれよ。たとえ、どんなに相手が憎めない相手でも、どんなに 親しい相手でも…敵ならば倒さなければならない……それが戦争よ」

キラの脳裏に、バルトフェル ド…そしてアスランの姿が浮かぶ。

彼らを撃たなければならな い……撃たなければ、自分の大切な者達を護れない……そう決めたはずなのに…キラは、自分の決意が、いかに甘かったかを突きつけられた。

「貴方に…その覚悟はある の?」

射抜くような視線に、キラは 言葉を失う。

「殺す覚悟と……殺される覚 悟が………」

答えられず、キラは眼を背け る。

「それがないなら…今すぐ MSから降りなさい! 貴方は戦争に向かないわ」

「で、でも……! 護る覚悟 なら…!」

「貴方みたいな半端な護る覚 悟なんて…弱いわ。キラ…兵士というのはね、皆どこか狂ってるのよ……狂わなきゃ、とても耐えられないからよ…人を殺すことに」

言い返そうとしたキラを、レ イナは一蹴する。

力も無いくせに……理想を求 め続ける連中も気に食わないが…覚悟も何もできていないくせに力を振るうことほど、気に食わないことはない。

「バーサーカー…兵士は皆、 そう呼ばれるのよ……狂わなければ、戦争なんかできないから……貴方は、なまじパイロットとしての資質が高過ぎたのが不幸ね。結果、貴方は戦場から抜けら れなくなった……」

ヘルメットを持ち、控え室か ら出ようと、キラの前を過ぎる。

「最後にこれだけ言っておく わ……キラ、一人に護れるものなんて、たかがしれてるわ。それを欲張って…多く護ろうとして手を拡げれば、今まで護っていたものが、全て零れ落ちることも あるのよ……」

最後に…一言だけ、静かに告 げると、レイナは部屋を出た。

 

「人はね…修羅にはなれて も……神様にはなれないのよ………絶対にね」

 

レイナの言葉が、キラの脳裏 を駆け巡る。

自分は自己満足だけで戦って いるのか……だとしたら、自分は何のために同胞と戦わなければならないのか……

おぼつかない足取りで、キラ は控え室を出た。

 

 

工場跡区を滞空するアークエ ンジェルのレーダーに敵影が捉えられる。

「……レ、レーダー に………」

慌てるようなカズィの口調 に、全員の注意が向く。

「レーダーに敵機とおぼしき 影! 攪乱酷く、数は捕捉不能!!  一時半の方向です!!」

「その後方に大型の熱量3!  敵空母、及び駆逐艦と思われます!!」

トノムラとチャンドラの報告 に、全員の気が引き締まり、幾つもの戦闘ヘリの機影が肉眼でも確認できはじめた。

「総員、第一戦闘配備! 対 空、対艦、対MS戦闘、迎撃開始!」

矢継ぎのように指示を飛ばす マリュー。

「ストライク、ルシファー、 スカイグラスパー発進!!」

ナタルの指示に、ミリアリア が発進準備を進める。

 

 

左右のカタパルトデッキに移 動する2機のスカイグラスパー。

1号機にはランチャーが、2 号機にはエールがそれぞれ装着されている。

それぞれ、ビームの熱対流の パラメーターは調整されている。

《スカイグラスパー1号、フ ラガ機、2号、クオルド機…発進位置へ》

シャッターが降り、カタパル トハッチが開いていく。

《進路クリア、フラガ機、ク オルド機、発進どうぞ!》

ムウとアルフが互いにヘル メットのバイザーを下ろし、操縦桿を引いた。

「ムウ=ラ=フラガ、ラン チャーグラスパー、出るぞ!」

「アルフォンス=クオルド、 エールグラスパー、出る!」

車輪とエンジンが唸りを上 げ、2機のスカイグラスパーが戦場へと飛び出した。

続けて、ストライクとルシ ファーが発進カタパルトへ移動する。

《APU起動、カタパルト接 続……システムオールグリーン…》

ルシファーには先の戦闘でも 使用したオーバーハングパックが装着され、両脚にミサイルポッドが装填される。

ストライクにも、新たなパ ワーパック;IWSPが装着され、キラの元にマードックからの説明が飛ぶ。

《いいか! こいつは大気圏 内での飛行も可能だが、制御に気をつける!》

「はい!」

キラは素早くスペックを確認 しながらも、脳裏には先程のレイナの言葉を反芻させていた。

戦えるのか…今の自分に……

《進路クリア、どうぞ!》

「キラ=ヤマト…ストライ ク、いきます!」

迷いを振り払うようにキラは ストライクを発進させた。

「レイナ=クズハ……ルシ ファー、出撃する!」

続けてルシファーも発進し、 戦場へと身を躍らせた。

 

「!?」

リニアカタパルトから射出さ れたストライクの眼前に、すぐさまアジャイルが迫る。

キラは瞬時にシールドで発射 された機銃を受け止め、イーゲルシュテルンで迎撃する。

……迷っていたら殺られる… キラは意識を戦闘に集中させる。

同じく射出されたルシファー のコックピットで、レイナも戦場を把握していた。

アジャイル部隊目掛けて2連 装ビームキャノンで数機撃ち落す。

敵の戦力を素早く確認する。

レセップス…それに続く駆逐 艦が2隻。

空中には、戦闘ヘリ:アジャ イルだけでなく、VTOL戦闘機:インフェストゥスが無数に飛び交い、そこにはディンの機影が5機加わっている。

地上には、かなりのMSの数 がある……バクゥ、ジン・オーカーがミサイルやレールガンで、さらにはレセップスなどからの砲撃がアークエンジェルに襲い掛かる。

その隙間を縫ってアジャイル やインフェストゥスが接近していく。

だが、ムウとアルフのスカイ グラスパーが旋廻し、アークエンジェルに群がる敵機を撃ち落す。

2機はそのまま敵艦へと向か う。

だが、そこにディンが襲い掛 かる。

ムウとアルフは歯噛みしなが ら回避する。

「少佐! ディンは俺がやり ます…少佐は敵艦を!」

「おう!」

火力の高いランチャーパック 装備のムウが敵、駆逐艦へと向かい、それを阻もうとするディンにアルフのスカイグラスパーが機銃で威嚇する。

ディン部隊はライフルで攻撃 してくるが、機動力の高いエールパック装備のスカイグラスパーは素早く回避し続ける。

「喰らえっ!」

装備されたビームライフルか ら放たれたビームがディンのボディを貫き、ディン一機が爆発に消える。

地上に展開するMS部隊の迎 撃に向かうキラとレイナ。

砂漠仕様のジン:TMF/S −3 ジン・オーカーが、ミサイルやライフルを手に攻撃してくるが、ルシファーは機動性と飛行性をいかし、かわす。

ジン・オーカー一機に照準を 合わせ、トリガーを引く。

両腕を吹き飛ばされ、戦闘不 能となったジン・オーカーが砂漠に沈む。

レイナはモニターの中で、敵 の数を視認する。

「ジン・オーカーが9機…… バクゥが8機……!」

モニターの隅で、ストライク がバクゥ一機を撃ち抜いたのを確認し、残りは7機。

スラスターを噴かし、ルシ ファーは戦場に舞う。

 


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