戦いが終わり…明けの砂漠の本拠では、勝利に沸き返る声が響く。

広場では大きな焚き火が焚か れ、人々は酒に酔う。

だが、そんな雰囲気とは裏腹 に……レイナは一人、アークエンジェルの甲板にいた。

下の騒ぎとは逆で…静かさに 満ちている。

レイナは……不意に…空を見 上げる。

よくよく考えてみれば…地球 の星空をゆっくりと見上げるのは、降りてから初めてかもしれない。

レイナは……何気に…口ずさ んでいた………

 

 

哀しみの天使は

黒き月に舞う

 

 

眼を閉じ、周囲に彼女の歌が 響く。

 

 

「……歌?」

その歌声を、同じくアークエ ンジェルに残っていたキラが偶然にも聞きつけた。

歌声に誘われ…後部の展望 デッキへと続く道を歩いていく。

 

 

幻の未来よ 追い求め夜を迷う

二人 翼拡げ 空を駆ける

 

 

近づくにつれて、声が鮮明に なり…声の主が識別できた。

「……レイナ?」

半ば、半信半疑なまま、展望 デッキを覗き込む。

そこには……歌を口ずさむレ イナの姿があった。

 

 

夢 胸に抱き 翼 奏でる心の音

 

 

彼女の心を表すような…哀し みと切なさに満ちた歌声……

レイナはキラのことにも気付 かず、歌い続ける。

 

 

天使は想う

神は何処

この想い 永遠にとどむる神は何処

 

 

歌い終わったのか……レイナ は一息つき、眼を開ける。

何処で覚えたのかも解からな い歌……

誰かが教えてくれたような気 がするが…それが誰かも解からない。

ただ…喪われた何かを思い出 させてくれるかもしれない………

そんな思いだけで…何度も口 ずさんだ。

レイナはまた……星空を見上 げるのであった。

だが…不意に、気配を感じて 振り向いた。

「誰?」

そう問い掛けると…ハッチの 影から、気まずそうな表情のキラが顔を出した。

「キラ……」

「ごめん、覗くつもりはな かったんだけど……」

「別に……聞かれて、まずい もんじゃないし」

興味無さそうに、レイナは視 線を星空に戻す。

キラは無言のまま、レイナに 近づく。

「今の歌……」

「ん…ああ、アレ。頭の中に ただなんとなく残ってただけ……何時、覚えたのか、誰に教えられたのかもわかんない……」

面倒くさそうに話し、レイナ は手すりに腰を掛ける。

「レイナは……あの人と戦っ たこと……後悔してないの?」

何を聞くかと思えば……レイ ナはキラを見やる。

だがよくよく考えてみれば… レイナ以外は、バルトフェルドが死亡したと思っている。

砂漠の虎は倒した……確かに そう報告した。

レイナ自身…別に嘘は言って いない……バルトフェルドを殺したとは言っていないだけで、どう解釈するかは勝手だが……

「別に……後悔するぐらいな ら、最初から戦わないわ………」

素っ気なく答えるレイナに、 キラはまたもや俯く。

「たとえ肉親であろうと…親 友であろうと……互いの信念が違うならば………決して同じ道にはならないわ………覚悟ができていない、今の貴方は…パイロットとしては優秀でも、戦士とし てはあますぎるわ」

そう指摘されても、キラには 言い返せない。

「だって、僕が戦わなく ちゃ……」

「聞き飽きた……なら、護る ことの意味を考えたことある…護ることは……殺すこととイコールじゃないのよ…今の貴方は、それを言い訳にしてるようにしか聞こえないわ」

互いに無言となり……二人の 間には沈黙が流れた。

月光だけが……それを照らし ていた………

 

 

機動戦士ガンダムSEED 

TWIN DESTINY OF  DARKNESS

PHASE-20  海の罠

 

 

アンドリュー=バルトフェル ド率いるザフト軍との激戦を勝ち抜いたアークエンジェルは、アフリカ大陸を東に向かって抜け、一路…目的地であるアラスカを目指そうとしていた。

ヨーロッパ方面を避け、中立 国の連なるインド洋を航行することが決定した。

低空飛行で、砂漠を越え…岩 山を越えるアークエンジェルの眼前には、雄大な海が拡がっていた。

「海へ出ます……紅海です」

海に出た瞬間、トール達は思 わず声を上げる。

海面を飛行するアークエン ジェルに随行するようにイルカの群が泳いでいる。

マリューはやや肩の力を抜 く。

「少しの時間なら、交代で デッキに出ることを許可します。艦内にもそう伝えて」

マリューの提案に、クルー達 は沸き立つ。

流石に、連日の戦闘で…疲労 が溜まっていたのだろう。

れいによって、いい顔をしな いのはナタルだけである。

帽子を被り直し、格納庫へと 通信を繋いだ。

 

 

格納庫の片隅では、砂漠で仕 入れたソナーの調整をキラが行っていた。

トノムラとチャンドラが操作 確認をし、ムウがそれを眺めている。

同じく眺めているマードック のインカムに、ナタルの声が聞こえてきた。

《マードック曹長、ソナーの 準備はどうなっているか?》

「今やってまさあ。坊主が最 後の調整中です…もう少し待ってください」

《急げよ…それと、自分より 上の階級の者を『坊主』と呼ぶのはどうかな。規律の乱れる元だ…注意しろ》

頭を掻きながら、顔を顰める マードックに、そのやり取りを聞いていたムウ達は笑いを噛み殺すように苦笑を浮かべた。

「急げってさ」

「そう言われても…これ、ザ フトのなんですから、そう簡単には繋がりませんよ」

キラもやや、言葉を濁しなが ら、ソナーを見やる。

「やれやれ…アルフ、そっち はどうだー?」

肩を竦め、ムウは離れた場所 で作業を行っているアルフに声を掛ける。

スカイグラスパー2機の横に 並ぶ、もう一つの戦闘機…ザフトのVTOL戦闘機:イン フェストゥスがあり、そのコックピットで、アルフが調整を行っている。

「取り敢えず、なんとか使え そうっす」

コックピットから顔を出し、 答え返す。

先の戦闘で、放棄された敵駆 逐艦の中から、物資の調達を行ったアークエンジェル。

その中に、小破状態で置き捨 てられていたインフェストゥスを発見したのだ。

戦闘でダメージを負い、着艦 後に撤退したので、そのままにされたのだろうが…幸いにも、修理パーツもそれなりに残されており、使えそうだと運び出したのだ。

カガリの蛮行で、ジンが使い ものにならなくなったので…少しでも戦力として使えるならばとの判断だ。

その後ろでは…ストライクと ルシファーの修理が急ピッチで進められている。

スカイグラスパー2機はさし て目立った損傷は無かったものの、2機はダメージが大きかった。

互いにパワーパックは中破状 態…さらには、ルシファーは左翼のウイングスラスターを、ストライクは右腕を損傷している。

ルシファーは、レイナも修理 に参加しているためか、パワーパック以外ならなんとかもうすぐ終わりそうだが、ストライクの方はまだ時間が掛かりそうだ。

 

 

クルー達が休憩に入る中、 アークエンジェルのブリッジでは、マリューやナタルと並び、キサカがモニターを見詰めていた。

砂漠での戦闘が終わった翌 日…アークエンジェルが出発する時になり、カガリが乗艦を希望したのだ。

当然ながら、マリュー達は当 惑したが、彼女は半ば強引に乗り込んできたので、渋々了承したといったところだ……下手に断っても、密航ぐらいしかねない勢いだったせいもあるが……とも あれ、カガリとキサカが共に乗艦し、現在、航路の検討を行っていた。

「確かに赤道連合はまだ中立 のはずだが……しかし、呆れたものだな、地球軍も。アラスカまで自力で来いと言っておいて、補給すら寄越さないとは……」

痛いところを衝かれ、マ リューは顔を顰める。

ハルバートンから、アークエ ンジェル降下のことはアラスカにも伝わっているはずなのに、援軍どころか補給すら派遣しない。

やはり、上層部は、自分達の ことをさほど重要視していないのかもしれないと懸念する。

「戦闘は、極力避けるのが賢 明だろうな」

「だが、インド洋のど真ん中 を行くというのは、こちらにとっても厳しいぞ。何かあった場合には、逃げ込める場所が無い」

キサカに反論するようにナタ ルが呟く。

内陸部は、ザフトの勢力下に あるために、避けて通る航路を選択することは、自然そうなってしまう。

見通しのいい海の上では、確 かに無防備すぎる。

「ザフトは領土拡大戦をやっ ているわけではないんだ。大洋の真ん中は、一番手薄さ……ま、後は運だな」

肩を竦め、皮肉るように呟く キサカに、マリューは溜め息をついた。

果たして、自分達の運は良い のか悪いのか………

 

 

 

キラは、人気のない後部デッ キに出た。

後部デッキは、周りがほとん どよく見えない位置にあり、休憩に入っているクルー達も、ほとんどが上部のデッキに出ており、キラにとっては有難かった。

光が眩しかった。

デッキに出たキラは、照りつ ける日差しを受けつつ、キラは腰を落とした。

砂漠でのこと思い出すと、胸 が軋んだ。

自分で傷つけた人を想う事が どれだけ身勝手な事か解かっていながら、それでも心配してしまう自分の心が解からない。

キラの耳に、あの砂漠での印 象深い男の言葉がよぎる。

 

――――ああ、待ちたまえ!  彼らまで邪道に落とす気か!?

――――どこで勝ち負けを決 める? どこで終わりにすればいい? 敵であるものを全て滅ぼして……かね?

 

砂漠の虎…アンドリュー=バ ルトフェルドの言葉がキラについて回る。

戦いたくなかったのに…戦っ てしまった………

膝が震え、堪えるように膝に 自分の顔を隠し、蹲る。

瞼をキツク閉じても、また涙 が溢れ出す……

自分には、同胞のために泣く 資格などないと解かっていても……溢れる涙を止めることができない………

(でも、だって……僕が戦わ なきゃ、倒さなきゃ、皆………)

迷わないと決めたはずだっ た……護りたいから、迷ってはいけない…たとえ、同胞と敵対しても……

だが、キラは出会ってしまっ た……あの男と。

戦いたくはなかった……だ が、仲間達を護るためには、戦わなければならなかった。バルトフェルドの言う通りなのだろうか…敵を殺しつくすしか、戦争が終わる手段はないのだろう か……戦争には、そんな結末しかないのであろうか………

 

――――貴方が選んだので しょう……戦う道を………

 

不意に、声が聞こえたような 錯覚に陥り、顔を上げた。

だが、周囲には、自分が思っ ていた少女の姿はない。

バルトフェルドと同じく…… 彼女の言葉も、キラの中を駆け巡る。

 

――――……貴方にその覚悟 はあるの? 殺す覚悟と…殺される覚悟が………

――――欲張れば…手にして いたものが全て零れてしまうわよ………

――――後悔するぐらいな ら…最初から戦わないわ………

――――護ることの意味を… 考えたことあるの? 護ることは…殺すこととイコールじゃないのよ……

 

――――今の貴方に……同胞 のために泣く資格があるの………?

 

あの晩…砂漠の月下の下でレ イナに言われた言葉。

彼女は殺した…バルトフェル ドを……彼女は後悔していない………

それは相手への侮辱でしかな いからだ…信念が違えば、それは敵……レイナの言う通りなのだろうか……思考のループに入り、縮こまるキラの背後でドアが唐突に開いた。

「何だ、お前もデッキに出て たのか?」

無造作に投げ掛けられた言葉 に、膝を抱えてそこに顔を突っ伏していたキラが、ビクッと肩を震わせた。

現れたカガリは、そのままキ ラに近づき、不意に、顔を覗き込むと、驚いた表情になる。

「お前……泣いてたのか?」

ストレートに尋ねるカガリ に、キラは踵を返し、黙ってその場を去ろうとしたが、カガリは慌てて手首を掴んで止める。

「待てよ」

キラは肩越しに振り返るが、 無言のまま、どこか拒絶的な雰囲気だ。

カガリは一瞬躊躇った後、キ ラの身体を強引にこちらを向かせ、抱き締めた。

「………え…?」

戸惑いに硬直するキラの背中 を、カガリはあやすように叩く。

「よしよし、大丈夫だ……大 丈夫だから」

優しげに呟き、何度も背を叩 く。

大丈夫だ……大丈夫」

宥めるような感覚に、キラは 戸惑いながらも身を委ねた……身体の奥に渦巻いていていた何かが沈静化していくようだった。

「……落ち着いたか?」

「…あ……うん……」

上擦った口調で答えるキラ に、怪訝そうにカガリは見やるが、自分がキラの両手首を握っていたことに気づいて慌てて離れた。

「ご、誤解するなよ!? 泣 いてる子は放って置いちゃいけないって、ただそれだけのことなんだからな!!」

照れ隠しにズカズカと入り口 の方に歩いていき、どかっと片膝立てて壁に座り込む。

その仕草に、キラは小さく笑 う。  

「お前さ……なんかいろいろ おかし過ぎ」

「え?」

ぶっきらぼうな口調で言わ れ、キラが振り返る。

「だいたい…何でお前コー ディネイターなんだよ?」

「え?」

流石のキラも戸惑い、カガリ は慌てて言い換える。

「…あーじゃなくて。なん で、お前コーディネイターのクセに地球軍にいるんだよ?」

あまりにストレートに尋ねて くるカガリに、キラは苦笑を浮かべる。

「……やっぱり、おかしいの かな。よく言われる……」

ぼやくように呟きながら、カ ガリの横に腰掛ける。

横に座ったキラを見ながら、 口を開く。

「おかしいとか、そういうこ とじゃないんだけどな。けど、コーディネイターとナチュラルが敵対しているから、この戦争が起きたわけで…お前にはそういうのはないのかってことさ?」

「君には……?」

「私は別に、コーディネイ ターだからどうこうって気持ちはないさ」

「……僕も」

「ただ、戦争で攻撃されるか ら、戦わなきゃならないだけで……」

「僕も」

先程から、同じ答えしか返さ ないキラに、カガリが釈然としない思いにかられる。

「でもさ……最近、あいつの 言ったことも考えるようになったんだ」

「え……?」

「あいつさ…私を二度も叩い た……」

不機嫌そうなカガリの態度 に、キラも思い当たる。

「ザフトだって…意味も無く 戦争を仕掛けたりはしてこないよな……でも、私達にとっては、やっぱ攻撃してくるから戦わなきゃいけないわけで……」

そう…相手が攻撃してくるか らこちらも反撃する。

だが…どちらかが滅びない限 り、それは永遠に繰り返される。

「うん……」

キラとて、敵がアークエン ジェルを攻撃してくるから……皆を護るために仕方なく戦っているだけだ。

だがそれは、ザフトにとって は見逃せないのだろう…自分達への危険へ繋がるものを放っておくなど、決してしない…だからこそ、執拗なまでに攻撃してくる。

そして…キラは必死にそれと 戦い続ける……その連鎖の繰り返しだ。

バルトフェルドが言ったよう に…戦争は、何処で終わりにすればいいのか………

「だけどさ…あいついった い、何なんだ?」

「え……?」

「あ、じゃなくて…あいつは いったい、何考えて戦ってるのかってことだ?」

そう尋ねられると…キラも黙 り込む。

そう言えば…レイナが何故戦 うのか、聞いたことがなかった……少なくとも、自分とは違うはずである。

彼女が何を思い、戦っている のか……キラにも解からない。

最初は確か…死にたくないか ら戦うと言ってたような気がする……だけど、今は………キラと同じく、レイナもあの時戦いから離れられるはずだったのに、レイナは戦う道を選んだ……キラ の思考はますます深みに嵌っていく

「第一、あいつ……ホントに 何なんだろうな…ナチュラルでも、コーディネイターでもないって……訳が解かんないこと言ってさ」

 

――――ナチュラルでも… コーディネイターでもない……この世界の異端者………

 

あの時、確かにレイナはそう 言った。

異端者……いったい、どうい う意味なのだろう………

「でもさ…これだけは解かる ぞ。あいつも……何かに必死に足掻いてるって」

カガリの言葉の意味が解から ず、首を傾げる。

「あいつの眼を間近で何度も 見たからな…あいつ、何かを必死に追い求めている…無理矢理自分を押し殺しているように見えるんだ……」

叩かれるたびに、見た彼女の 憂いを携えた瞳……

正直、レイナに対してあまり 好感を持っていないようなカガリのその言葉に、苦笑を浮かべつつ、今の言葉を反芻させる。

キラは、そんなことを考えた ことがなかった……何時も、自分より冷静に判断し、戦う彼女に……時に、自分の心を見透かすようなことを言うから…レイナに、あまり話し掛けなくなっ た………受け入れも拒絶もしない…ただ、何時も事実だけを自分の前に突き出すから………

「あいつには……ナチュラル もコーディネイターも、多分おんなじなんだろうな………」

「僕もそう思うよ…コーディ ネイターだって、皆と同じなのに………」

キラが呟くと、カガリは手を 振る。

「違うって…あいつにしてみ たら、ナチュラルもコーディネイターも根本的には変わらない…同じ人間だって言ってるのさ」

そう言われ、キラも気付く。

だが、二つに分かれて対立し なければならないほど、ナチュラルとコーディネイターは違っているのだろうか…と、キラ自身も考えていた。

「でも、お前達は、私達より ずっといろんなことができるだろ、生まれつき」

「ちゃんと練習したり、勉強 したり、訓練すればね。コーディネイターだからって、赤ん坊の頃からなんでもできるわけじゃないよ」

「そりゃそうだよな」

カガリも改めて気付いたよう に、相槌を打つ。

「それに見たとこ、私達とた いして変わんないよな、お前…泣き虫だし、どっか抜けてるし……」

面と向かって言われ、流石の キラも傷つく。

そう言えば…レイナにもよく 無茶をやって『バカ』と何度も言われた覚えがある。

「確かに、怖い病気にはなっ たりしないし…なにかの才能とか、身体とか……いろいろ遺伝子をいじって生まれたのが僕らだけど……」

一旦、言葉が呑み込まれる。

「でも…それって、ナチュラ ルの…っていうか、夢だったんじゃないの、皆の?」

望んでコーディネイターとし て生まれてきた者は恐らくいまい…第二世代はともかく、第一世代のコーディネイター達は、皆…ナチュラルの両親の夢を託されて生まれてきたはずなのに…な のに、その存在を疎まれる。

「ま、そうだよな……」

カガリも眉を寄せ、真剣に考 え込む…考えれみれば、こんな風に自分の存在について話したことはなかったような気がする。

「だけどさ…お前、他に言い たい奴がいるんじゃないのか?」

「え……?」

「あいつが気になってるんだ ろ…レイナがさ」

不意打ちに近いその言葉に、 キラは虚を衝かれたように反応した。

「お前って態度に出やすいよ な……」

 

 

キラとカガリの会話を盗み聞 きつつ、ハッチの陰で、フレイは一人立ち尽くしていた。

フレイの表情が歪む。

フレイの思惑を壊しかねない 会話…賭けに勝ったはずのフレイの思惑は、今まさに危うい位置にあった

常にキラに付き纏い、優しく 慰めて、自分の思い通りにする。

そのために、敢えて自分の身 まで差し出したはずなのに……

今のキラは…戦うことを拒ん でいるように見える。

身体で繋ぎ止めようとして も、最近のキラはそれを拒む 

何時までもそれだけでキラを 自分の道具にしておけると考えていたフレイの考えは甘かったと思わずにはいられない。 

カガリが現れてから漠然と感 じていた不安… バナディーヤから戻ったキラは、自分ではなく、何故かよくレイナの元にいくようになってから、確信に変わった。

 

キラが…フレイを必要としな くなってきたことを……

 

キラが護ろうとしているの は……アークエンジェルに乗っている者達だ…フレイはその中に含まれているに過ぎない。

自分がどれ程浅ましいかは解 かっている…だが、今更止めるわけにはいかないのだ。

コーディネイターに殺された 父の仇を取るまで………

親友が乗っているとかいう イージスのパイロットはもちろん…あの女にも死んでもらわなきゃ……そして最後には……

だからこそ、今…キラを自分 の手元から離すわけにはいかないのだ。

フレイはピンク色の軍服を脱 ぎ、タンクトップの裾を結んで短く見せる。

あの余計なことを吹き込むカ ガリとかいう女も、キラの心を奪おうとするレイナも……目障りな存在だ………

 

顔を僅かに赤くするキラに、 カガリは声を掛ける。

「ま、あいつに言いたいこと があるんだったら…ちゃんと言った方がいいぞ。あいつ、ちゃんと答えてくれるような気がするし…少し、ムカつく奴だけど…うん」

頷くカガリに、キラが口を開 こうとした瞬間…陽の光から自分を遮るように影が掛かった。

「キラ、こんな所にいた の?」

「フレイ……」

「ふぅ、探しちゃったわよ」

髪を掻き上げ、胸を強調しな がら、キラの腕を取る。

「なによ、デッキに出るな ら、誘ってくれればいいのに……」

無理に立ち上がらせ、腕に胸 を押し付ける。

「あ……ああ、ごめ ん………」

胸を押し付けられ、どぎまぎ するも、今のキラには…それすらも煩わしかった。

案の定、カガリを見やると、 どこかしらけた眼を向けている。

「気持ちいいわね…でも、あ んまり長くいたら陽に焼けちゃうな…少ししたら、部屋に戻りましょ」

明らかに自分達の関係を露骨 に表すフレイに、キラは顔を顰める。

カガリはどこか、呆れたよう な眼を向け、肩を竦めると、背を向ける。

「じゃあな…お邪魔みたいだ から」

「あ……」

カガリはそのままデッキを後 にし、キラは思わず声を上げそうになった。

そんなカガリの背中を…フレ イは敵意に満ちた眼で睨んでいた。

 




BACK  BACK  BACK






inserted by FC2 system