ザフト軍・アジア攻略部隊駐 屯地……

ユーラシア連邦や東アジア共 和国を相手に進軍する部隊に、ジブラルタルからの連絡が入ったのは夜であった。

「そうか……砂漠の虎が敗れ たか」

部隊の総指揮官である男は、 微かな動揺で答えた。

上層部で話題となっていた地 球連合軍・大西洋連邦の新造戦艦:足付きがクルーゼ隊の追撃を振り切り、さらには地上に降下後…地上における名将のバルトフェルド隊をも打ち破ったという のだ。

最初に聞いた時は思わず耳を 疑った程だ…だが、実際にバルトフェルドはMIAとして認定され、問題の足付きは紅海を沿岸に沿って航行し、インド洋に入ったらしい。

そして現在は西アジア諸国を 湾岸に沿って航行している。

攻撃を仕掛けるとならば、自 分の部隊が一番近い。

だが、バルトフェルド隊を 敗ったという程の実力…生半可な部隊では相手にもならず、また勝つにしても相応の損害は覚悟せねばならない。

それでも、それが上層部の指 示である以上、従わねばならないのだが……

男は部下を呼び寄せた。

「すぐにガーランド=マリク を呼べ」

「はっ!」

部下が敬礼をし、慌てて退出 する。

「砂漠の虎に墜とせなかった 艦…果たして、奴に…金色のグリフォンに仕留められるかな」

天井を仰ぎながら、男はポツ リと呟いた。

 

 

機動戦士ガンダムSEED 

TWIN DESTINY OF  DARKNESS

PHASE-21  暁の挽歌

 

 

先の紅海で、初の海中戦闘を 繰り広げたルシファーは帰還後、パーツの洗浄が行われた。

長い間海水に浸かっていたた めに、駆動路に塩が付着し、放っておくと錆びてしまうからだ。

そのために、装甲を外して中 の細かな間接パーツまでも洗浄せねばならず、かなりの重労働だ。

「ふぅ」

思わず額を拭い、レイナは溜 め息をついた。

ある程度は終わったものの、 これから先…海中での戦闘が無いとは言い切れないだろう。

なにせ、水中用のMS相手に はどうしても相手のホームグラウンドに飛び込むしか対処法がないのだから……その度にこんなことをやらなければならないとは、レイナでなくても憂鬱になる だろう。

格納庫を出たレイナは不意 に、窓の外を見やった。

日差しが照りつける中を、 アークエンジェルは西アジアの湾岸に沿って航行している。

あまり海上に出すぎれば、ま た前回のように水中部隊に襲われるかもしれないと憂慮しての判断だが、この辺にいるザフトはなにも水中部隊だけではない。

ヨーロッパやアジア方面に展 開している部隊も多々あるのだ。

微かな不安を覚えつつ、レイ ナは自室に戻った。

 

 

 

アークエンジェルが航行する 湾岸地域より僅かに離れた場所に、その部隊が近付きつつあった。

周囲をザウート数機に、バ クゥが数体………

奥には、MSを移送する駆逐 艦が数隻と並んでいる。

その中心には、旗艦である陸 上艦:マハード…レセップスよりも火力を重視した艦だ。

アジア攻略部隊が、アークエ ンジェル撃破のために2個中隊を派遣したのだ。

その部隊の指揮を任されてい るのは、ガーランド=マリクであった。

「目標は?」

「現在、湾岸に沿って移動 中……後数十分で会敵」

ガーランドの問い掛けにオペ レーターが素早く返答する。

「よしっ、全艦戦闘配備!  第1戦闘配備発令! MS隊、戦闘機隊、順次発進させよ!」

「了解!!」

護衛艦の周囲のザウートがタ ンクモードで進軍し、それに続くバクゥ隊。

バクゥの中には、最近配備さ れたTMF/TR−2 戦術偵察型:ステルスバクゥの姿もある。

続けてディン部隊が発進して いく中、旗艦であるマハードのデッキにある発進口が開いていく。

MSを上空へと射出するため のカタパルトが伸び、その下にはMSが固定される。

その中の一機……全身を金色 にカラーリングした全身を強化装甲と武装で固めたジン。

 

ZGMF−1017D:ジ ン・アサルトシュラウド

 

連合から奪取したデュエルに 装着された追加装甲:アサルトシュラウドをさらに強化したものをジンに装着した強化型ジン。

そのジンを駆るのは、アジア 戦線において名を轟かせるパイロット……

金色のグリフォン:ヴァネッ サ=ルーファスである。

「おーしっ、野郎共! いく ぜっ!!」

機体と同じ金色に近いショー トカットの髪に、こちらは一般的な緑のパイロットスーツに身を包んだ女性が呼び掛けた瞬間、周囲から男達の号令が響いた。

ヴァネッサのジンが射出され たと同時に続けてシグーが発進する。

そして、空中サポートメカの グゥルが飛び出し、その上にドッキングする。

「いいかっ! 他の奴らに遅 れんなよっ!!」

勇み足にグゥルのブースター を噴かし、飛び立つ。

それに続くはヴァネッサ小隊 の副官であるライル=レテーネの駆るシグーだ。

《ヴァネッサ隊長、あまり無 茶な突撃は止めてください。それに今回は他の部隊との連携を……》

「やっかましいっ!!」

通信越しに怒鳴りつけられ、 ライルは思わず萎縮する。

「んなことやってたら、おい しいとこ取られちまうだろうがっ! なにより今回は、久々の大物だしなっ!」

聞く耳持たずの態度で、ヴァ ネッサのジンが加速する。

その様子に、ライルは大きく 溜め息をつく……既に諦めてしまっているのだろう。

なにより、ヴァネッサの性格 を考えれば……彼女はとかく上を目指したがる…故に、同期で入隊したリン=システィが早々と特務隊に入り、試作機のテストパイロットを務めていると聞き、 なにがなんでも手柄を立てて特務隊に入ろうと意気込んでいる。

試作機を任されるのはパイ ロットの腕が優秀な証……だからこそ、ヴァネッサはリンに対抗意識を燃やすのだが、肝心のリン本人はそんなヴァネッサをまったく相手にもしていない…とい うより、まったく興味を示さない。

それが余計にヴァネッサのラ イバル心を掻き立てているのだが……ともかく、地球に降りたリンやクルーゼ隊でも墜とせなかった足付きを墜とせば、リンに一泡吹かせられると考えたのだろ う…なにせ、リンが黒い機体を愛用してると聞くや否や、自分は目立って敵を引き寄せようと機体を金色に塗り変えるほどの対抗意識だ…ちなみに、自分もジン が配属時には塗るのを手伝わされた。

「おいこらっ、ライル! 遅 れてるぞっ!」

ハッと顔を上げると、眼を吊 り上げたヴァネッサの顔が入り、ライルは慌ててグゥルのブースターを噴かす。

ジン・アサルトシュラウドを 先頭に、シグーで構成されたヴァネッサ隊がアークエンジェルに向かって襲い掛かろうとしていた……

 

 

 

湾岸線を航行中であったアー クエンジェルのレーダーからでも接近しつつある部隊の反応がキャッチされていた。

「レ、レーダーに反応!」

パルの報告に、マリュー達が ハッと顔を上げる。

「9時の方向…ジャマーの影 響で、数特定は不能!!」

「その後方に大型の熱量を感 知…戦艦クラスです!」

トノムラとチャンドラから続 けて報告が飛び、マリューは奥歯を噛み締める。

陸沿いに進んでいる以上、内 陸方面に展開しているザフトの部隊との会敵は避けられないが、なるべくなら見つかりたくなかったのいうのが本音だ。

しかし、現に敵が迫っている 以上、迎撃せねばならない。

「総員、第1戦闘配備。本艦 はこれより、敵部隊を迎撃します。全包囲を警戒。敵の襲撃に備えよ! 対空、対艦、対MS戦闘用意!!」

「ミサイル発射管:ウォン バット全門装填、イーゲルシュテルン、バリアント起動!」

ナタルの指示に、艦尾のミサ イル発射口が開き、両舷のバリアント、ゴッドフリートの砲身が起動する。

「スカイグラスパー、MS発 進させろっ!」

「はいっ!」

 

 

 

左右のカタパルトデッキに移 動する二機のスカイグラスパー。

1号機にはランチャーが、2 号機にはIWSPがそれぞれ装着される。

《スカイグラスパー1号、フ ラガ機、2号、クオルド機…発進位置へ》

シャッターが降り、カタパル トハッチが開いていく。

《進路クリア、フラガ機、ク オルド機、発進どうぞ!》

ムウとアルフが互いにヘル メットのバイザーを下ろし、操縦桿を引いた。

「ムウ=ラ=フラガ、ラン チャーグラスパー、出るぞ!」

「アルフォンス=クオルド、 IWSPグラスパー、出る!」

車輪とエンジンが唸りを上 げ、二機のスカイグラスパーが戦場へと飛び出した。

続けて、ストライクとルシ ファーが発進カタパルトへ移動する。

《APU起動、カタパルト接 続……システムオールグリーン…》

ルシファーにはオーバーハン グパックが装着され、両脚にミサイルポッドが装填される。

ストライクは、高機動戦闘に 備えてエールパックだ。

《進路クリア、発進どう ぞ!》

「キラ=ヤマト…ストライ ク、いきます!」

「レイナ=クズハ……ルシ ファー、出撃する!」

エールストライク、ルシ ファーが発進し、アークエンジェルもその艦首を敵の向かってくる方角へと転換する。

 

 

「レーダーに反応! 敵で す!」

パルの悲鳴のような報告が響 く。

モニターにはこちらに向かっ てくるMS部隊の姿が映る。

数からして、確認された敵部 隊の先発隊であろう…その後ろには、さらに大部隊が控えているはずだ。

規模からして、先のバルト フェルド隊よりも多くのMSが出てくる可能性が高く、クルー達の間に緊張が走る。

インフェストゥス五機に、バ クゥが三機、ディン四機の姿が浮かぶ。

「迎撃っ! ゴッドフリート 発射後、フラガ少佐とクオルド大尉を迎撃に! ストライクとルシファーはバクゥを!!」

「ゴッドフリート照準! 目 標、敵中心! 撃てぇぇぇぇ!!!」

ナタルの号令とともにゴッド フリートが火を噴き、空中に展開している部隊に襲い掛かった。

 

 

編隊の中心に向かって伸びて くるビームの奔流に、運悪くインフェストゥス一機が呑み込まれ、爆発する。

その余波を受けた周囲のディ ンやインフェストゥスが態勢を崩す。

そこへムウとアルフのスカイ グラスパーが向かってきた。

「アルフ! 先にディンを仕 留めるぞっ!!」

「了解!!」

太陽を背に急降下してくるス カイグラスパー二機に気付いたディン隊がライフルを構えるが、逆光によって眼が眩む。

その隙を突いて、レールガン とアグニが火を噴いた。

火線をまともに受けたディン が爆発する。

だが、旋廻したスカイグラス パーに向かって残ったディン二機が狙撃してくる。

ムウとアルフは巧みに操縦 し、攻撃を回避し、急旋廻と同時にミサイルを放つ。

ミサイルがディン一機のライ フルを破壊し、バランスを崩したディンに向かって、アークエンジェルから放たれたミサイルが直撃する。

アークエンジェルはすぐさま イーゲルシュテルンを自動操縦で対インフェストゥスに弾幕を張る。

 

地上に降りたルシファーとス トライクはバクゥの迎撃に向かう。

バクゥはレールガンとミサイ ルを斉射してくるが、二機は機動性をいかし、回避する。

すり抜けたミサイルが後方で 爆発し、それに紛れてルシファーが上昇し、バクゥの上を取る……刹那、トリガーを引く。

ビームがバクゥのボディを貫 き、バクゥが爆発する。

僚機が倒され、バクゥは距離 を取るように後退する。

後を追おうとするも、彼方か ら砲撃が轟き、襲い掛かってきた。

「艦砲ですっ! 6時方 向!!」

「同方向より敵空母、及び駆 逐艦2!」

ブリッジを、先程の艦砲が掠 め、激しい振動に襲われる。

そして…アークエンジェルを 砲撃した敵艦隊が姿を現わした。

艦砲を多く装備した空母に、 ザフト標準の駆逐艦だ。

そして、三隻の艦の砲台がこ ちらに向けられる…さらに、空母と駆逐艦のデッキには、ザウートの姿がある。

統合した濃密な砲撃がアーク エンジェルに襲い掛かる。

「回避!」

艦首の向きを変えようとする も、その巨体で完全に…しかも、発射されてからの回避は不可能だ。また、圧倒的な火力の差に、アークエンジェルの弾幕は無力化されてしまった。

激しい振動が船体を揺さぶ る。

「イーゲルシュテルン、5 番、6番沈黙!」

「艦内28ブロックで火災!  隔壁閉鎖!!」

 

「ちっ! あの艦…アジア戦 線のマハードじゃねえか!」

敵旗艦を視界に入れたムウが 毒づく。

自分は直接戦ったことはない が、アジア戦線においてユーラシアを相手に進軍している有数の部隊の一つだ。

「ガーランド=マリクっす か! 俺ら、随分ザフトに評価されてるみたいっすね!」

軽口を叩くが、アルフの表情 にも苦悶が見て取れる。

なにしろ、三隻の艦隊から ディン10機に、グゥルに乗ったジンが15機も発進してきたのだ。

こちらの存在を危険視してい るからこそ、これだけの部隊を派遣したのだろうが、これはかなりキツイ。

加えてMS隊の周囲にはイン フェストゥスが何十機と飛び回っている。

しかもその動きは、コーディ ネイターが乗っているとはいえ、機動性が半端ではない…というよりも………

「あんな動き…いくら、コー ディネイターでも持つのか!?」

それが率直な感想であった。

あれだけの高機動を繰り返せ ば、中にいるパイロットにはかなりの圧力が加わる…パイロットの方が先に参ってしまう。

懸念を抱く二人を他所に、イ ンフェストゥスがほぼ間近…インファイトのように急接近する……操縦桿を捻り、ギリギリですれ違うも…そのコックピットを視認した瞬間、ムウは眼を見開い た。

コックピットには、人影がな かったのだ……代わりに、なにか機械的なものが埋め込まれている。

「少佐!」

呆然となっていたムウであっ たが、アルフの声に我に返ると、すぐ眼前にジンが迫ってきていた。

「にゃろうっ!!」

照準も合わせずにトリガーを 引く…アグニのビームがジンに直撃し、ジンが融解する。

「アルフ! 敵戦闘機はどう やら無人機だぞ!」

「何ですって!!?」

アルフも驚愕する…それもそ うだろう……無人機など、未だ地球連合では実用化に至っていない代物なのだから……

 

 

 

その頃、アークエンジェルと の一定距離を保ちながら、所定位置に着いたマハードをはじめとした艦隊は、砲台となってアークエンジェルを砲撃する。

相手は宇宙艦…地の利はこち ら側にある。

「敵MS、及び戦闘機が展開 中…足付きのダメージは不明ですが、かなりのものと思われます!」

モニターを凝視するガーラン ドは、戦略パネルを睨みながら、指示を出す。

「敵戦闘機はディン隊と無人 機に任せろ! 無人機のAIは?」

「最優先攻撃目標、足付き艦 載機に設定…プログラムバグは、今のところありません!」

そう……アジア戦線に配備さ れたインフェストゥスの約5割近くに、本国で開発中であった無人操縦システムを搭載している。これは、人的資源の劣るプラント側が進めていた技術でもあ る……コーディネイターは確かにナチュラルを遥かに上回る身体能力を有するが、それでもパイロットとして育成するには時間が掛かる上に、人的な補充はなか なか難しい。

それで考案されたのが、人で はなく自動操縦システムを兵器に組み込むという発案が成されたのも、ある意味自然の成り行きであったかもしれない。

そして、本国でロールアウト したテスト用のAIを地上で実戦テストするために、戦闘機などに搭載された。また、これらの結果から本国でもMS搭載用に改修している。

「よしっ! ジン及びバクゥ 隊は足付きに攻撃を掛けろ! ヴァネッサ隊は敵MSの撃破だ!!」

矢継ぎのごとく飛ぶ指示に、 布陣しているMS隊はそれぞれの相手に向かっていく。

「ザウート隊は砲撃を続行!  マハード及び僚艦に打電、EMPミサイルを全門装填!!」

アークエンジェルに対する攻 撃は、まさに苛烈を極めようとしていた。

 

 

キラとレイナも、向かってく るバクゥ隊に向かっていた。

肉眼で確認しただけでも、バ クゥは7〜8体はあると見ていい………

レールガンとミサイルの嵐が 襲い掛かり、二機はシールドを掲げて爆風を防ぐ。

ルシファーは上空へと上昇 し、ビームキャノンをセットする……ビームが大地に向かって放たれ、バクゥ達は散開する。

その隙を突いて、ストライク がバクゥに取り付き、ビームサーベルを突き立て、ボディを貫くと同時に跳躍する。

疾走していたバクゥが爆発す る……その光景を見詰め、キラは思わず表情を苦悩に歪める。

脳裏に、バルトフェルドの顔 が過ぎる…あの機体に乗っていたのも、彼のように魅力的な人物なのだろうか…自分の手が恐かった……命を奪い続ける自分自身が………

「キラ、前!」

だが、そんな葛藤もレイナか らの叱咤と、身に感じる衝撃に消えた。

バクゥが一斉射でストライク を狙撃してきた。

PS装甲で致命傷には至らな いが、コックピットに伝わる衝撃までは中和できない……キラが顔を上げると、黒い影が姿を見せた。

モニター越しに光る赤い一線 のカメラアイ……ステルスバクゥだ。

全身をステルス化したバクゥ は、かなり接近しなければレーダーでも確認できない…そのためにキラの反応も遅れた。

ステルスバクゥがその四肢を 使って、ストライクを弾き飛ばす。

「うわぁぁっ!!」

転倒したストライクに向かっ て容赦なく降り注ぐミサイルの嵐……

爆発が機体を浮かせ、ストラ イクは感覚を失い、されるままになる………だが、砲撃を続けるバクゥに向かって上空にいたルシファーがビームライフルで狙撃してきたので、砲撃が微かに緩 む。

「飛べ、キラ!」

レイナの叫び、キラは我に返 り、慌ててレバーを引く。

エールパックのスラスターを 噴かし、地上に沿って後退する。

「キラ、貴方はアークエン ジェルの援護に回って!」

「え…それじゃレイナ が……!?」

ここでストライクが後退した ら、ルシファー一機で前線を支えなければいけなくなる。

相手のMSの数は、数十近く あるのだ……ここは二機で防御に回った方がとも考えるのは自然であった。

「今の貴方は足手纏いよ!  それに、揃って後退したら、敵艦への攻撃はどうするのよっ!」

そう言い返され、キラは何も 言えなくなって口を噤む。

後ろ髪を引かれる思いで、キ ラは歯噛みしながら後退していく。

逃がすまいとバクゥが後を追 おうとするも、ルシファーのミサイルが行く手を塞ぐ。

「……同じ手が、私に通用す ると思ったの!」

瞬時に振り向くと、そこには ステルスバクゥが迫っていた……バクゥ数機を囮とした電撃攻撃だ………ブリッツを利用した戦法を既に熟知していたレイナにとっては、一度見せた攻撃法は通 じない。

飛び掛かってきたステルスバ クゥをシールドで弾き飛ばし、転倒させる。

仰向けになり、ジタバタする ステルスバクゥの頭部を、ルシファーの足で踏み砕いた。

機能を停止するステルスバ クゥ……残りは七機………その時、上空から銃弾が降り注ぎ、レイナは機体を捻り、身を翻す。

攻撃してきた方角に振り向く と、レイナは思わず唖然となって眼を見開いた。

グゥルを駆り、突撃してくる 金色のジンに………

「おっしゃぁぁぁっ! 見つ けたぜぇぇぇっ!!」

ヴァネッサがコックピット内 で吼え、両肩の115mmレールガン:シヴァと220mm 径5連装ミサイルポッドで狙撃してくる。

レイナは舌打ちしながら、 シールドを掲げて攻撃を受け止める。

「金色のMS……!?」

あんな派手なカラーリングを 施すとは……余程、腕に自信があるのか…それとも単に自己顕示欲の強いバカか………

戦闘中にも関わらず、そんな 考えが思わず過ぎる。

金色のジンは、右腕に構える M69バルルス改特火重粒子砲でこちらを正確に狙撃してくる……

どうやら、前者のようだ…… まあ、それでもリンのヴァルキリーに比べれば、火力を重視した機体だけに機動性はそれ程高くはない。

MS戦での決め手はいかに相 手より素早く動き、一撃で倒すかだ………言わば、重視するのは機動性と一撃必殺の武器さえ持てば、他のちまちました武装は要らないし、大幅な火力を備えて 一対一のMS戦に挑むなどナンセンスだ。

だからこそ、レイナ自身はい くら稼働時間延長のためとはいえ、オーバーハングパックの鈍重さにはやや動きを制約されるものがある…これが宇宙空間なら、さして問題はないかもしれない が………

「ジンの新型…いえ、強化 型………!」

素早く相手のジンのスペック を確認する。

外見は、デュエルの強化装甲 と類似点が多々ある……加えて、ジンのD型装備に大容量のプロペラントタンク……かなり、攻撃を重視した機体だ。

ビーム砲を回避し、上空へと 舞い上がる…ルシファーの目標が変わったことによって、バクゥ隊がアークエンジェルに向かって進撃していく。

「……仕方ない」

空中に舞い上がってみれば、 金色のジンに加えてシグーで構成されたMS部隊……これの対処だけでこちらは手一杯だ。

軽く愚痴をこぼしながら、ル シファーはシグー編隊の中へと突撃した。

 

 

「左舷よりジン、来ます!」

「ヘルダート、撃 てぇぇぇぇ!!」

後部のミサイルが放たれ、 グゥルに乗って向かってくるジン三機がミサイルの爆発に晒される。

宇宙空間ならいざ知らず、地 上でグゥルという制約を受けるジンには、アークエンジェルの対空を掻い潜るのは容易ではない。

回避に専念するジンにナタル はゴッドフリートを向けさせた。

「ゴッドフリート照準、 てぇぇぇ!」

ゴッドフリートが放たれ、ジ ンが二機吹き飛ばされる。僚機の撃墜に、残ったジンは距離を取り、バズーカで応戦してくる。

弾頭が、艦橋に着弾し、ブ リッジは一層激しい振動に包まれる。

クルー達は表情を歪め、カ ズィは泣き出しそうな悲鳴を上げる。

「くっ、留散弾頭弾、 てぇぇぇ!!」

艦尾から放たれたミサイルが 空中で爆発し、中に埋め込まれていた弾が四方に弾け飛ぶ。

威力は落ちるものの、ジンは 動きを制約され、回避が鈍る。

「今だ! バリアント、 てぇぇぇ!!」

それを狙って放たれたバリア ントがジンを蒸発させる。

「ラミネート装甲、排熱危険 域に到達まで後500!」

「バリアント1番、砲身温度 危険域に達します!!」

次々と飛び込んでくる不利な 報告……マリューは歯噛みする。

「フラガ少佐とクオルド大尉 は!?」

「現在、敵MS及び戦闘機と 交戦中!」

「左舷よりジン接近!!」

「対空! イーゲルシュテル ン自動照準セット!!」

アークエンジェルの周囲を覆 うようにジン部隊が向かってくる。ライフルやバズーカ、ミサイルを容赦なく撃ち込んでくる。

イーゲルシュテルン、ミサイ ルがそれらを必死に喰い止めるが、全てを防げるはずもなく、弾幕を突破した弾頭が船体を傷付けていく。

クルー達は、すぐ間近に迫る 死の予感に恐怖する。

 

 

空中戦を繰り広げるスカイグ ラスパーは、ディンとインフェストゥスの部隊に苦戦を強いられていた。

いくらムウやアルフの腕が立 つとはいえ、多勢に無勢の状況だ。

「くぉぉぉぉぉっ!!!」

吼えながら、ムウはアグニを 放ち、ディン一機を撃ち抜く。

空中爆発を物ともしない無人 機は桁外れの加速力と機動性を駆使して機銃やサイドワインダーで応戦してくる。

それに対し、アルフは IWSPのブースターを利用した曲芸飛行を行う。

人間としてのクセまでも表現 できない無人機では、そのトリッキーな動きには僅かに反応が遅れる。

「もらっ たぁぁぁぁぁ!!!」

動きの鈍った一瞬を突いて、 レールガンと単装砲を連射した。

編隊を組んでいた中心のイン フェストゥスが爆発し、その余波両隣の無人機も巻き込む。

「少佐! アークエンジェル が!」

モニターに眼をやった瞬間、 集中砲火を浴びているアークエンジェルの姿が浮かぶ。

「くそっ!」

援護に向かおうとするも、そ れらを阻むようにディン隊が囲むように展開し、ライフルで狙撃してきた。

歯噛みしながらかわし、ムウ とアルフは眼前の敵に集中するしかない。

 

 

アークエンジェルの元にまで 後退したストライクは、エールのスラスターを噴かし、群がっているジン部隊に向かって飛び上がった。

咄嗟のことで反応の遅れたジ ン一体のボディをビームサーベルで両断する。

胴体が二つに分かれ、爆発す るジン…そして、ドッキングのとけたグゥルの上に飛び乗る。

無論、グゥルにもセキュリ ティぐらいはあるだろうが、そもそも連合にMSを開発できるとは思っていなかったザフトは、規格を限定しなかったことが仇となった。

グゥルの補助OSを素早く自 機のOSと直結させてコントロールを奪う。

周囲を飛び交うジンに向かっ て、ビームライフルを放つ。

だが、グゥルに飛び乗って飛 行能力を得たまではよかったが、その機動性はIWSP時とは比べ物にならないぐらい鈍い。

キラは微かに苛立ちを含みな がら、トリガーを引くも、その安定性の低下は精度を極端に下げる。

ジンも紙一重といった状態で かわすが、それでも運悪く機体の一部を吹き飛ばされるジンもある。

ゲージに眼をやると、既にエ ネルギーがレッドゾーンに達しようとしている……この複数の相手に対し、エール装備では不利と悟ったキラは格納庫へと通信を繋いだ。

「マードック曹長、ラン チャーパックとバズーカを射出してください!」

《はぁっ? ランチャーとバ ズーカ!?》

「この状況では、火力の高い 方が有利です…格納庫から落としてください……こちらで拾います!」

答えると同時に通信を切り、 敵に集中する。

さらにそこに、地上からバ クゥ隊の砲撃も加わってきた。

本来なら、スカイグラスパー にパワーパックを移送してもらう方がいいのだが、肝心のスカイグラスパーは空中で足止め…とてもではないが、こちらの援護に回れそうにもない。

グゥルのドッキングを解除 し、ブースターを最大加速で打ち出す。

グゥルはそのまま真っ直ぐに 飛行していたジンに突っ込み、爆発する。

地上に降りたストライクに、 バクゥが襲い掛かってくる。

レールガンやミサイルでこち らを狙撃し、一定以上の距離を詰めてこない。

その時、自身を狙う気配を感 じ、振り向くと…ステルスバクゥがビームサーベルを展開して突撃してきた。

寸前で跳躍し、上から斬り掛 かってくる…咄嗟に身を捻るも、エールパックの一部が斬り落とされ、キラはすぐさまエールパックをパージする。

小規模な爆発が背中で起こ り、バランスを崩す………

《坊主、射出するぞ!》

そこへタイミングよくマー ドックからの通信が飛び込んできた。

カタパルトが開き、そこから ランチャーパックとバズーカが射出され、ストライクの間近に落とされる。

キラはすぐさまストライクを 駆け出し、ランチャーパックを拾い上げる……だが、それを許すまいとバクゥ隊が狙撃してくる。

それを阻もうと、アークエン ジェルの火器が弾幕を張る……ランチャーパックを素早く装着し、キラは再度PS装甲を発動させる。

そして……アグニを構え、バ クゥ目掛けて放った。

ビームの奔流が接近し過ぎて いたバクゥ二機を呑み込み、バクゥが爆発する。

その時だった……ミサイルが 飛来したのは………

 


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