「ジン、後退!」

トノムラの報告に、クルー達 は疑念を浮かべる。

その時だ……さらなる緊張が 走ったのは。

「敵艦より、ミサイル接 近!!」

クルー達の間にどよめきが起 こる…今のアークエンジェルでは、回避など到底不可能だ。

ナタルが慌てて指示を飛ば す。

「撃ち落せ!! イーゲル シュテルン、ウォンバット! てぇぇぇぇ!!!」

アークエンジェルに向かって くる何十発というミサイルが迫り、イーゲルシュテルンとウォンバットが弾幕を張って撃ち落す。

だが、それも艦隊長のガーラ ンドには予想済の範疇だった。

空中で撃ち落されたミサイル から、強烈な閃光が放たれた。

ミサイル内に埋め込まれた圧 電素子がミサイルの爆発と同時に強力な電磁波を放出した。

アークエンジェルの頭上で起 こった閃光がアークエンジェルを包むように瞬き、揺さぶりをかける。

「くっ!」

刹那、マリュー達はガクンと いう重力の落下に身体を一瞬浮かせた。

アークエンジェルは翼を捥が れた天使のように、高度を低下させ、失速していく。

次の瞬間、アークエンジェル は海に落下するのではなく、砂浜に座礁した。

座礁の瞬間、船体が激しい振 動に包まれ、クルー達は歯噛みしながらそれに耐え切った。

揺れが収まると、やっとの思 いでマリューが顔を上げた。

あまりに唐突のことだったの で、CICなどに座っていた者以外が、突然襲い掛かった眩いばかりの閃光に眼をやられ、閉じてしまう。

「じょ、状況は……!?」

未だに開けられない眼で、 CICへと振り向くが、CICの方でもかなりの混乱がおきていた。

「艦、座礁!! パワーが低 下!!」

「センサー、及びレーダーが 機能低下!」

「艦内への接続端末がやられ たようですっ!」

次々とコンソールの光が消え ていく。

ミリアリアやサイもまた切迫 した表情で操作するも、電子系統が回復しない。

「いったい、何が起こっ た!?」

少なくとも、攻撃を受けたダ メージではない。

「こ、これは……EMPで す! 先程のミサイルには、圧電素子が埋め込まれていたもよう……かなりの被害を受けたようです!」

いくらアークエンジェルが最 新鋭で、EMP対策を施してあるといっても、アレだけのEMPをしかも密集して受ければ、流石にもたない。

質より量だ……相手の指揮官 の大胆な作戦に歯噛みする。

「急いでシステムを再起動さ せろ! サブシステムに切り替えだ!!」

ナタルの指示に素早く動く も、一度機能を停止したシステムが立ち戻るのは時間が掛かる……その間、この艦は巨大な棺桶そのものだ。

そして、それを見逃すほど敵 は甘くない。

先程後退したジンがまたもや 再接近してきた。

「ジン接近! 数8!!」

半数以上の火器が使用不能の 現在、それは絶望を齎すには十分であった。

だが、それでも諦めるわけに はいかない………

「残った火器で迎撃!! 各 ブロックの隔壁緊急閉鎖!! 全クルーに通達、中央ブロックにすぐさま退避!」

センサーの機能も低下してい るため、手動で目標を補足し、乱射する。

広範囲の乱射でジンの攻撃を 僅かに半減できたものの、全てを撃ち落すことはできず、弾がすり抜けて船体や周囲に着弾する。

 

格納庫内で、カガリが意気込 んで走ってきた。

「おいっ、あの戦闘機を出さ せろっ!!」

挑むような口調で、カガリが マードックに噛み付く。

「ああん!?」

ただでさえこちらは眼も回る 忙しさだというのに、カガリの物言いに不機嫌さを隠せない。

「使えるんだろ! 機体を遊 ばせていたら、やられるだけだぞっ!」

「武装も積んでない戦闘機が 出たところで何の役にも立てねえだろうがっ!!」

余計なことに構っている暇は 無いと言わんばかりに怒鳴り散らす。

「カガリ!」

いきり立つカガリの腕を掴む キサカに、カガリが睨むような視線を向ける。

「離せキサカ、私はこんな所 で戦わずに死ぬのはごめんだ!」

「だからと言って、今出ても すぐに撃墜されるぞっ!」

キサカの叱咤に口を噤む。

集中砲火を受けている今の状 態では、出た途端に撃墜されるのは眼に見えている……加えて、冷静さを欠いている今のカガリだ………

遠回しにそう指摘され、カガ リは言い返せずに口を噤む。

「解かったら、その辺でジッ としてろ!!」

怒鳴り、マードックは被弾箇 所の修理へと向かって駆けていく。

残されたカガリは、悔しげに 壁を叩きつけた………

 

 

アークエンジェルが砂浜に不 時着した瞬間を狙って、マハードと駆逐艦が接近してきた。

「足付き、座礁!!」

「敵艦、EMPによりほぼ沈 黙!」

モニターには、ほぼ沈黙する アークエンジェルの姿が映し出されている。

それに向けて、マハードの主 砲やデッキにザウートが砲撃を行う。

「敵艦の装甲は強固だ…油断 するなっ! MS隊は敵機の足止めを!!」

戦艦さえ墜とせば、もはや抵 抗もできまい…ガーランドはそう睨んでいた。

こちらのMS部隊も、予想以 上に損耗が激しい……既に3割に近い機体が撃破・戦闘不能に陥っている。

「一応、敵艦に降伏勧告を打 電しておけ」

「はぁ…はっ、はい!」

一瞬、意図が解からずに戸惑 うオペレーターを横に、ガーランドはアークエンジェルを見やる。

正直、このまま降伏してくれ た方が、こちらもこれ以上余計な被害が出ずにすむとガーランドは思っている…戦争とはいえ、部下が死んでいくのを見るのは忍びないのだ。

だが、そんなガーランドの願 望は叶うことはなかった………

 

 

その頃、空中戦を繰り広げて いたルシファーは、ジン・アサルトシュラウドとシグー隊を相手に一機で奮戦していた。

グゥルを駆り、シグーが突撃 機銃で狙撃してくるも、機動性はこちらに分がある。

狙撃をかわし、一体に照準を 合わせると、トリガーを引いた。

ビームキャノンが火を噴き、 一条がグゥルを…もう一条がライフルごと右腕を撃ち抜き、シグーが落下していく。

「野郎っ!!」

部下の機体がやられたこと に、ヴァネッサは怒りにかられ、ビーム砲を乱射する。

舌打ちし、スラスターを小刻 みに動かし、ビームをかわす。

「くっそぉぉぉ、てめえを見 てると、あいつを思い出すぜっ!!」

眼前の黒い機体が、自分がラ イバル視しているリンと重なる……

ビーム砲を下げ、対艦刀を取 り出し、ルシファーに斬り掛かる。

「正気……!?」

その行動に思わず眼を見開 く。

バーニアを逆噴射させ、後退 して斬撃をかわす…だが、ジン・アサルトシュラウドは機体の増加ブースターを駆使し、無理矢理態勢を変えて振り上げる。

機体特性も完全に無視したよ うな戦い方に、レイナは微かに溜め息をつきながら、シールドで受け止め、空いたボディを蹴り飛ばす。

「どわぁぁぁ!!」

弾き飛ばされるジン・アサル トシュラウド……レイナは機体を更に高々度に舞い上がらせる。

シグーも後を追おうとする も、グゥルの推力では高度を上げるのが容易ではない。

「ちっくしょぉぉ!!」

コックピットで歯軋りする ヴァネッサの元に通信が入る。

「隊長、無茶し過ぎないでく ださい! それにその機体じゃ、近接戦は……」

「うっせー! ぜってぇアイ ツは俺がぶっ倒してやるぅぅぅ!!」

聞く耳持たずに吼えながら、 グゥルの推力を最大値にまで引き上げて上昇していく。

その様子に、ライルは頭を抱 えたくなった……火力重視の機体で、インファイトを挑んでどうするのだろう…パイロットの性格から考えて、機体特性が合っていないような気がすると、ライ ルは切に思ってしまったが、それでも遅れまいと必死に後を追った。

 

空中で未だ、ディン隊とイン フェストゥスの無人機に苦戦するムウとアルフ……その時、上昇してくるルシファーがビームサーベルを抜き、ディン一機を頭上から斬り捨てる。

肩から真っ二つにされ、爆発 するディン……ディン隊はすぐさま攻撃をスカイグラスパーからルシファーに切り替える。

突撃機銃の雨をかわしなが ら、離れていくルシファーの後を追っていく。

敵の数が減ったことに、好機 とばかりにムウとアルフは無人機に攻撃を集中させる。

連携を取りつつ、火力を密集 してインフェストゥスを撃ち落していく。

そして、再度離れると、戦法 を切り換えてヒットアンドアェイでインフェストゥスの編隊を分散させる。

一対一なら性能的にはスカイ グラスパーの方が上……アルフが編隊を崩すと、浮ついた一機にムウはアグニを放ち、無人機を撃ち抜く…それによって発生した爆発を利用し、アルフがレール ガンで動きの鈍っている無人機を撃ち落す。

 

ディン隊の追撃を受けなが ら、ルシファーは地上へと降りていく……その時、前方からレールガンが放たれ、回避する。

前方から、こちらを狙うよう にジン・アサルトシュラウドが向かってくる。

瞬時にバーニアの逆噴射で、 制動をかけ、機体を翻し、上昇する…その後を追うディン隊……だが、さらにそれを追うヴァネッサの表情が苛立たしげに歪む。

「くぅおらぁ、そいつは俺の 得物だぞ!!」

火器を重視しているジン・ア サルトシュラウドにとっては、味方機の識別が邪魔してレールガンなどが撃てず、ヴァネッサは歯噛みする…もっとも、それもレイナにとっては策なのだが…… 一対多数の場合で、乱戦に持ち込めば少なくとも同士討ちを恐れて火器の多用はできないと踏んでいるからこそ、一定の距離を保ったままディンの追撃を受けて いるのだ。

だが、何時までも鬼ごっこを 興じるつもりもない………機体を旋廻させ、ディン二機に向かって腰部から抜いたビームサーベルで機体を両断する。

爆発する前の一拍…ルシ ファーは倒したディン二機の両手から突撃機銃を奪い取る……次の瞬間、ディンが爆発に消える。その閃光に怯む敵機目掛けてルシファーが加速する。

両手には先程のディンから 奪った突撃機銃が握られている。

これがXナンバー相手なら通 用しなかっただろうが、相手は通常のMS……しかも乱戦になればビームライフルより突撃機銃のような連射が可能なマシンガンタイプが有利だ。

両腕に握る突撃機銃をディン やシグーに向かって放つ……乱射に近いが、弾の8割近くが敵MSにまるで吸い込まれるように直撃し、爆発していく。

「……!!」

両腕の突撃機銃でそれぞれ別 の敵機を狙う。いや、敵を照準に入れているわけではない……正確さを重視する狙撃と違って、乱射は狙いをつける必要などない…加えて、ここにもレイナの能 力の一端が加わっている。

撃った瞬間には、そこには敵 機の姿はない……だが、次の瞬間には敵機が自ら弾道上に現われるのだ……敵の次に起こすであろう動作を予測し、その可能性が高い場所に向かってトリガーを 引いているに過ぎない……だからこそ、100%とまではいかなくても大まかな予測だけで相手を攻撃できる……

だが、敵機もやられてばかり ではない……ディンやシグーは当然ながら応戦するが、ルシファーはその攻撃をまるで読んでいるかのごとくスラスターやバーニアを小刻みに駆使し、弾道をか わす……いや、弾が到達する時点にはもうその場にはいないのだ。

それによって戸惑い、動きの 鈍る相手に向けて突撃機銃を乱射する……次々と機体を撃ち抜かれ、爆発する…ルシファーは弾切れになった銃を捨て、撃ち墜した敵機の銃を奪ってまた同じ戦 法を繰り返す。

これなら、自機のエネルギー をできるだけ温存できる……グゥルと同じで火器にもセキュリティを施さなかったのがザフト側のミスだ。

レイナの見切り…そしてルシ ファーの機動性が合わさってこそ、この戦法が可能なのだ。

ディンやシグーは次々に行動 不能にされていくに対し、ルシファーに対してダメージを与えられない……

敵機の数がみるみる減少して いく………

 

 

機能の回復していないアーク エンジェルには、容赦ない攻撃が降り注ぐ。

それでもなんとか撃沈を免れ ているのは、艦の周囲で奮戦するキラのストライクだ。

デッキにまで上昇し、電力 ケーブルを接続して砲台となって接近してくるジンやバクゥを相手にアグニやバズーカで応戦している。

既に四機近くのジンが墜とさ れ、残ったジンもストライクの砲撃に迂闊に近寄れずにいた。

バズーカやミサイルでストラ イクを狙うも、それは逸れるようにデッキ周辺に着弾し、アークエンジェルの船体を傷付けていく。

キラは歯噛みする……このま ま戦闘が長引けば、アークエンジェルが保たない。

右肩のガンランチャーで、ジ ンを狙い撃つ……ミサイルがジンの周囲で爆発し、グゥルが損傷を受け、動きが鈍る…そこを狙ってアグニを放つ。

ビームの奔流がジン3機を呑 み込み、大きな爆発と閃光が巻き起こる……刹那、キラはケーブルをパージし、ブースターを噴かしてジャンプする。

残った最後のジンに向かっ て、左右の腰部から抜いたアーマーシュナイダーをジンのボディに突き刺した……肩とボディを貫かれたジンを蹴り飛ばし、離脱する。

大地に墜とされたジンは爆発 する……そこへ、先程から大地を疾走していたバクゥが襲い掛かってきた。ミサイルの連射が降り注ぎ、コックピットが激しい振動に包まれる。

キラは歯軋りで耐える……モ ニターで確認できたのは、ノーマルのバクゥが四体……だが、肝心のステルスバクゥの姿が見えない。

「何処だ……!」

姿を探すようにセンサーを見 やるも、その機影を捉えられない。

焦るキラを他所に、バクゥの 攻撃は続き、舌打ちしながらバズーカを構える。

その時、コックピットに警告 が響いた。

「!!」

戦士として研ぎ澄まされた感 覚が、キラに襲い来る敵の気配を感じ取らせた。

そのまま身を後ろへと下げた 瞬間、前方から飛び出したステルスバクゥが3次元センサーアレイを不気味に輝かせながら飛び出してきた。

口に咥えたビームサーベルを 展開し、頭を振り被った瞬間……バズーカの砲身が斬り落とされていた。

ステルスバクゥは身を翻す が、ストライクはバズーカの爆発をもろに受け止め、弾き飛ばされる。

「うぁぁぁっ!!」

爆風によって弾き飛ばされ、 転倒する。

トドメを刺そうと、ステルス バクゥが再度、ビームサーベルを展開して飛び掛かってきた。

回避は間に合わない……キラ の呼吸が止まろうとした瞬間……上空から舞い降りた閃光がステルスバクゥのボディを貫き、ストライクの頭上で爆発する。

眼を閉じていたキラが恐る恐 る眼を開けると……アルフのIWSPグラスパーが舞い降りてきた。

「待たせたな、キラ!」

ディンをルシファーが引き付 けてくれたおかげで、インフェストゥスの無人機を時間は掛けたが、なんとか全機撃ち墜としたムウとアルフは、ムウが敵艦隊の攻撃に……アルフがアークエン ジェルの援護に回ったのだ。

「助かりました、大尉」

キラ自身も、安堵の溜め息を ついた……

 

 

「システム、再起動!」

「パワー、戻ります!!」

砲火の中、ようやくEMPの ダメージからシステムが立ち直ったようだ。

艦の計器類に光が灯り、非常 灯のみであったブリッジにもようやく光が充満する。

「離床!」

マリューの指示にノイマンが 操縦桿を引き上げる。

エンジンを噴かし、アークエ ンジェルは傾いていた船体を戻し、飛び上がろうとする。

だが、その瞬間が無防備であ り…敵の指揮官であるガーランドも睨んでいた。

「う、右舷より水切り 音!!」

トノムラの悲鳴に近い叫びが 上がる。

弾かれたようにモニターを見 やると、アークエンジェルの右側……つまり海上を滑るように急接近してくる物体……

「魚雷…い、いえ……これ は…MSです!!」

クルー達が絶句し、動きが止 まる。

海上を低飛行で接近する漆黒 の機体……ZGMF/TAR−X1 戦術航空偵察型ジン。

ステルスバクゥと同様の3次 元センサーアレイを装備したエアロシェルの瞳を不気味に輝かせ、一気に迫ってくる。

ステルス機能を追及した機体 特性…加えて、先のEMP攻撃でセンサーやレーダー類が不調であったためアークエンジェルの管制から発見が遅れたのだ。

ジンはそのまま高度を上げ、 ブリッジに真っ直ぐに向かっていく。

「対空!!」

「間に合いませんっ!!」

切羽詰ったマリューの言葉 に、悲鳴が上がる。

JDP3−MMX50:試製 近接戦ビーム突撃銃がブリッジの真正面で向けられ、エアロシェルが外れ、ジンのモノアイがこちらを睨む。

眼前に迫る死……ブリッジの クルー達の時間が止まる。

だが……確実にブリッジを 狙ったこのパイロットは優秀ではあっただろうが…その時間が命取りとなった。

「ちっ……!」

ジンの存在に気付いたアルフ が舌打ちする…今からでは間に合わない………だが、もう一人は違った。

地上にいたストライクのコッ クピットで、キラの心臓がドクンと強く脈打つ。

刹那……視界がクリアにな り、キラの表情が変わる。

「アークエンジェルは……や らせない!」

叫ぶと同時にペダルを踏み込 む…上昇する加速を得るために駆け出し、進路上にあった先程パージしたエールパックからビームサーベルを抜き、ブースターを全開にして飛び上がった。

ジンがトリガーを引く瞬間… それがスローモーションのようにキラの視界に入る。

加速したストライクはそのま まジンに体当たりした。

あまりに突然の攻撃に、ジン はバランスを崩し、ブリッジより弾かれる。

だが、ジンは銃口をストライ クに切り替える……銃口を向けられた瞬間、キラは対艦バルカンを放った。

バルカンが突撃銃ごとジンの 腕を吹き飛ばす。

ジンは慌てて、離脱しようと するが……それをキラは逃さない……ビームサーベルを展開し、ジンに向かって振り下ろした。

ボディを両断され……アーク エンジェル直上で爆発が起きた。

爆発の閃光に……クルー隊は 暫し、呆然とし……キラは呼吸を激しく乱していた………

 

 

 

「偵察型ジン……反応、途絶 えました」

苦々しい口調で呟くオペレー ターに、ガーランドは悔しげに拳をパネルに叩き付けた。

その時、マハードのブリッジ に警報が鳴り響いた。

「て、敵戦闘機接近!!」

無人機を退けたムウのスカイ グラスパーだ。

「対空!! 撃ち落せ!!」

マハードをはじめとした駆逐 艦、ザウートの砲火が轟く。

「うぉぉぉ りゃぁぁぁぁ!!!」

対空砲火を掻い潜り、ムウは 駆逐艦の一つに狙いを定め……トリガーを引いた。

アグニの閃光がブリッジに直 撃する。

速度が鈍り、他の二隻もまた 微かに動きを鈍らせる。

ムウはマハードのデッキ上に 展開しているザウート目掛けてアグニを放つ。

ザウートのボディを貫き、そ のままマハードの艦砲を撃ち抜く……だが、爆発したザウートのキャノンが暴発し、弾き出された弾頭がスカイグラスパーのランチャーパックに被弾する。暴発 した攻撃だっただけに、流石のムウも反応ができなかった。

舌打ちし、素早くランチャー パックをパージする。

大火力を失ったスカイグラス パーでは、敵艦を相手にするのは危険と踏んだのか、後退する。

「敵戦闘機離脱!」

「あ、足付き離礁!!」

マハードのブリッジは衝撃に 包まれる…EMPの影響から立ち直るのが目論見よりも早過ぎる。

アークエンジェルのゴッドフ リートの砲門がこちらに振り向けられた。

しかも、こちらもかなり接近 していたために、回避は間に合わない。

それらを瞬時に悟ったガーラ ンドは叫んだ。

「総員、対ショック姿勢!!  敵艦の砲撃、くるぞっ!」

ゴッドフリートが放たれたの はほぼ同時であった……伸びるビームがマハードの上部に直撃し、ザウートごと主砲や装甲を蒸発させられた。

激しい振動がブリッジを襲 う。

「しゅ、主砲2番から5番沈 黙!!」

「ザウート消失!」

「第8区画で火災! エンジ ンにも火が回ります! 消化、間に合いません!!」

次々と報告される損害に、 ガーランドは顔を顰めた。

練りに練った作戦を、敵は尽 く跳ね返してきた……敵のその健闘には、素直に感嘆の念を抱かずにはいられない。

それと同時に…自身も覚悟を 決める……

「総員、ただちに退艦せよ!  残存部隊は、本隊と合流後、指示は本隊に委ねる!」

オペレーター達が驚愕の視線 を浮かべる。

全員が言葉をなくし、茫然自 失となる中…異常を告げる警告音だけがブリッジに響く。

「何をしている! 降りよ、 と言っているのだ! これは命令だっ! 命を粗末にするな!」

その叱咤に、呆然となってい たクルー達は我に返る……そして、ガーランドの決意を悟ると、全員が敬礼を行った。

ガーランドも微かに笑みを浮 かべて敬礼を返した。

 

 

未だ、突撃機銃を構えた戦法 を繰り返すルシファー……既に、展開していたMSの半数近くが撃破・戦闘不能になっている。

「くそぉぉぉぉ!!」

怒りにかられ、ヴァネッサは レールガンやミサイル、ビーム砲を所構わず撃ちまくる。

圧倒的な火力に、迂闊に近付 けず、ルシファーは距離を取る…だが、そんな行動もヴァネッサから見れば逃げているとしか見えない。

「俺と戦え! この腰抜け野 郎!!」

逃げるのも一つの手なのだ が……レイナがヴァネッサの叫びを聞いていたら、こう返していたかもしれない。

レイナは組み合おうとするジ ン・アサルトシュラウドを無視し、周囲にいる他のMSばかりを狙う。

シグー隊の面々も、決して腕 が悪いわけではないが…機体性能、パイロットの腕…その両方において上回っているレイナ相手には、荷が重いとしか言いようがない。

「隊長!」

「何だよ!?」

苛立つヴァネッサは、通信を 繋いできたライルに怒鳴るように尋ねる。

「マハードから打電です!  『我、艦を放棄する! 残存部隊は直ちに撤退せよ!』とのことです!!」

「何だとぉぉぉ!!」

流石に声が上擦る…慌てて確 認すると、旗艦であったマハードは炎上している………そして、マハードを脱出する乗組員達のバギーが映る。

「くそっ!」

歯噛みしながら、ルシファー を睨む。

このまま引き下がるのか…… 答えはNOだ。このまま引き下がるよりは、せめて敵MSの一機でも撃墜しておかなければ、自分の気が収まらない。

「おめえらは下がれ! こい つは……俺がやるっ!!」

鬼気迫る声と表情に、パイ ロット達は追撃を止め、僅かに後退する。

レイナはやや訝しげにモニ ターを見やるが、シグー隊が後退したと同時にジン・アサルトシュラウドが一機で突撃してきた。

あらかたMSは倒し終え た……レイナも突撃機銃を捨て、ビームライフルを構えながら向かっていく。

「喰らえっ!!」

接近しながらミサイルを放 つ……ルシファーはシールドを掲げて爆発を防ぐ。

「かかったなっ!」

ニヤリと笑みを浮かべたヴァ ネッサは、コンソールの一部を叩き付けた。

刹那……ジン・アサルトシュ ラウドのアーマーが周囲に弾け飛んだ。

弾切れになった時のための眼 晦ましようの脱着システムだ……ほぼ間近に接近していた状態でパージしたため、装甲がルシファーに直撃する。

流石のレイナもその攻撃は予 想外だったのか、シールドを弾き落とされた上に、一瞬視界が奪われた。

「もらったぁぁぁぁ!!」

その隙を逃さず、上空から最 後の武器である対艦刀を振り下ろしてくるジン……だが、レイナは振り向きざまに反応した。

振り下ろされる対艦刀の刀身 を左手で弾き、軌道を逸らす…同時に右手を伸ばし、柄の部分を掴み取り、グイッと引き寄せた。

「なっ!?」

ヴァネッサが驚く間もなく、 ジンは掴んでいた手を離し、対艦刀を奪われる。

右手でそのまま対艦刀の向き を変え、左手で刀身を押し上げつつ、ビーム刃が展開する。

そのビームの刃が真っ直ぐに 自分の機体に向かってくる………ヴァネッサは、無意識に機体を後退させた。

だが、ビーム刃がジンの右腕 を斬り飛ばし、爆発する。

その爆発に吹き飛ばされるジ ン………

「どわぁぁぁぁ!!」

激しい振動に包まれるジン を、急ぎ後方に回り込んで受け止めるライルのシグー。

「隊長、後退します!」

「尻尾巻いて逃げろっての か!」

「いい加減にしてくださ いっ! その状態で戦えると思ってるんですか!!?」

倍近い声で怒鳴られたため、 流石のヴァネッサも口を噤んだ。

「……解かったよ」

尖った口調で答え返すと、ジ ンを抱えたままシグーが後退していく。

その時、モニターには、アー クエンジェルへと向かっていくマハードが映った。

「おいっ、マハードが!?」

「そんな…確か、退艦命令が 出たはずなのに……!」

煙と火災を上げながら真っ直 ぐにアークエンジェルに向かっていく…誰かがマハードを操舵しているとしか考えられない。

ヴァネッサは急ぎ、マハード のブリッジへと回線を繋いだ。

「おい! 誰だ残ってるバカ は!!?」

《…上官に対してバカとは何 事だ、ヴァネッサ=ルーファス》

通信越しに怒鳴ったが、返っ てきた低い口調に、思わず身が引き締まった。

「し、失礼しました! ガー ランド艦長!!」

毎回、怒鳴られていた習性 か…反射的に背筋を立てて謝罪する。

《ハハハッ、冗談だ……だ が、最後にお前の声を聞けてよかったかもしれん。もう、こうやって怒鳴ることもなさそうだしな……》

苦笑を浮かべるガーランドに 対し、ヴァネッサはハッと気付いた。

「そ、そうだ! 何をやって るんですか、すぐに脱出してください!!」

《悪いが、それは聞けん な……私は、この作戦を任された以上、命を懸けてでも足付きを墜とさなければならない義務がある……》

意志を秘めた口調で言われ、 ヴァネッサは言葉を失くす。

《ハハハッ…まあ、それは建 前だ………私も、一生に一度ぐらいはカッコいい役回りを演じてみたかっただけだ……お前達、若い者が死ぬにはまだ早過ぎる》

子供じみた笑みを浮かべ、 ガーランドは穏やかな視線を浮かべる……まるで、子を思う父のように………

「ガーランド艦長!!」

ヴァネッサも…ライルも…… 微かに眼に涙を滲ませて叫ぶ。

《バカもん! 泣く奴がある か……私は、お前達のような部下を持てて誇りに思う…だからこそ、生き延びろ……早くにこっちにき…ら…承知……ん………》

最後まで続かず……通信が途 切れ、モニターはノイズにまみれる。

ヴァネッサとライルは…… アークエンジェルに向かっていくマハードに対し、静かに敬礼を送った………

 

 

「敵空母、突っ込んできま す!」

危機を脱したアークエンジェ ルだが、最後の最後で襲い掛かってくる脅威にクルー達は動揺する。

真正面から、黒煙と炎を上げ ながらこちらに衝突するコースを取っているマハード。

こちらは大気圏内では高度が 取れず、おまけに先のダメージの影響で、高く上がることはできない……しかも、この接近されている状態では、生半可な攻撃をして、マハードを爆破させよう ものなら、その爆発によってアークエンジェルにどれだけの被害が出るか予想もできない。

「艦長、ローエングリン を!」

ナタルも同じ結論に至ったの か……敵艦を完全に消滅させられる陽電子砲の使用を求めてきた。

マリューもすぐさま反論でき ず、言葉に詰まる。

確かに、この状況ではもはや それしかない…だが、それによって引き起こされるであろう汚染被害を思うと決断に踏み切れない。

「敵空母、距離1000!  衝突まで後300!」

「艦長!!」

追い詰めるようなナタルの叱 咤……クルー達を見殺しにはできない。自分は今、この艦に乗っている百数十名の命を預かる艦長なのだ。

「ローエングリンスタンバ イ! パイロットに射線上より退避を通達!!」

やっとか、という思いでナタ ルも命令を復唱する。

「ローエングリン、スタンバ イ! 艦内に通達、総員対ショック防御を取れ!!」

ナタルの指示でCICが慌し く機器を操作し、艦内に非常事態が通達される。

アークエンジェルの艦首から 二門の砲身が現れ、その銃口が真っ直ぐに向かってくるマハードにセットされる。

「照準、敵空母!」

「了解!」

パルが照準をマハードにセッ トする……地上で使用するのは初のことだけに、クルー達の間に緊張が走る。

エネルギーが臨界を越えて砲 口に集中していく。

「ローエングリン、撃 てぇぇぇぇぇ!!!!」

アークエンジェルの艦首から 強力な閃光を帯びたエネルギーが放たれる。

伸びる閃光が進路上の大地を 薙ぎ払いながら、マハードに突き刺さった……ブリッジで、ガーランドは静かに眼を閉じ、閃光の中に掻き消えた……

主砲を…船体を蒸発させ、消 滅させていく……次の瞬間、爆発が起き、爆風が巻き起こった。

船体が揺さぶられ、クルー達 はシートのしがみつきながら耐える。

揺れが収まり…顔を上げる と……そこには焼け爛れた大地に先程まで空母であった艦の黒こげの残骸があるだけであった……焦土と化した大地には、もはや草木は育たない。

地上に生まれた地獄……そん な形容がピッタリであった。

その光景に、マリュー達はお ろか、流石のナタルも半ば呆然となっていた。

マリューは自分の決断とはい え、この地獄を生み出してしまったことに対する懺悔のように、胸元で両手を握り締め、唇を噛んだ……そして同時に、もう二度と…地上で特装砲を使うまいと 誓うのであった………

 

修理のために着陸するアーク エンジェルのデッキに立つストライク、ルシファー、そして二機のスカイグラスパー。

もう、陽は傾き、地平線の彼 方に消えようとしていた………

パイロット達にとっても、か なりの疲労を伴う戦闘であった…ルシファーのコックピットから出たレイナはハッチに座り込み、風を熱った肌で受けながら、髪を掻き上げた。

 

 

 

この敗戦により、ザフトはア ジア戦線の規模縮小を余儀なくされ、部隊の一部は再編後、カーペンタリアに組み込まれた…後に来る、大きな戦いに備えて………

 

 

 

 

 

 

《次回予告》

 

 

母なる大地に降り立つ少年 達……

再会も間もなく、彼らは再び 戦場へと向かう。

 

海に潜む影が再び襲い掛か る……

そんな中…少女は少年と出逢 う………

 

次回、「運命」

 

心を研ぎ澄ませ、ガンダム。



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