オーブ近海の海中を進むボズゴロフ級潜水母艦:クストースト。

カーペンタリアから発進した この潜水艦には、アスランをはじめとしたザラ隊のメンバーが乗り込んでいた。

「足付きは今、マラッカ海峡 を突破し、アラスカへの航路を進んでいる……防空圏内に逃げ込まれては、こちらも迂闊に手出しできない」

アスランが、地図を覗き込み ながら、話し掛ける。

同じく、モニターに浮かぶ地 図を覗き込んでいるザラ隊の隊員達。

「先のマラッカ海峡で、友軍 が足付きに攻撃を掛けたが、撃破するには至っていない」

アスランの横で、副官のリン が補足する。

それを聞き、イザークは表情 を顰める。

撃破された友軍には気の毒だ が、他の部隊に足付きを墜とされるのだけは我慢ならない。

「とはいえ、相当のダメージ は負っているはず……よって、今から一時間後、この地点で奇襲を掛ける」

リンが地図の一点を指差す。

「オーブの領海に近いです ね……大丈夫でしょうか?」

「なぁに、領海に入る前に沈 めてやればいいさ」

不安げなニコルに、ディアッ カがいつも陽気な口調で答えた。

「いいか……ヘリオポリスか らの因縁、ここでつけるぞ」

静かなアスランの口調に、全 員が頷いた。

 

 

一時間後……海上に浮上する クストーストの上部ハッチが開き、そこからイージス、ヴァルキリー、デュエル、バスター、ブリッツ、リベレーションの6機が射出される。

続けて、5つの物体がクス トースト内から飛び出し、ヴァルキリーを除いた5機がそれに飛び乗る。

飛行能力を持たないMSの空 中支援を行うサポートメカ:グゥルだ。

6機は、眼前にいるであろう 敵に狙いを定める。

「いくぞ!!」

イージスが先頭を切り、MS は発進した………

 

 

機動戦士ガンダムSEED 

TWIN DESTINY OF  DARKNESS

PHASE-25  平和の国

 

 

マラッカ海峡を突破したアー クエンジェルは、傷ついた船体で航行を続けていた。

オーブ近海に差し掛かった 時、艦内に警報が響き渡った。

「左舷、レーダーに機影!  数5…いえ、6!」

センサーを監視していたトノ ムラが叫び、チャンドラが機種を特定する。

「機種特定! イージス、 ヴァルキリー、デュエル、バスター、ブリッツ、リベレーション!!」

因縁の部隊の出現に、クルー 達の間に緊張が走る。

「……こんなところま でっ!」

マリューは思わず奥歯をギリ リと噛み締める…相手の執念深さに。

「総員、第1戦闘配備! 対 潜、対空、対MS戦闘用意!!」

だが、すぐさま気持ちを切り 替え、指示を飛ばす。

ゴッドフリート、バリアント が起動し、ミサイル発射管やイーゲルシュテルンのハッチが開く。

続けて、カタパルトが開き、 艦載機が発進していく。

「進路クリア、スカイグラス パー各機、発進どうぞ!」

《ムウ=ラ=フラガ、ラン チャーグラスパー、出るぞ!!》

《アルフォンス=クオルド、 エールグラスパー、出る!》

2機のスカイグラスパーが、 海面を滑るように発進し、続けてストライクとルシファーがスタンバイする。

「ストライクはIWSP…ル シファーはオーバーハングを装備……」

発進口で、ストライクに IWSPが装着され、コンバインシールドとビームライフルを持つ。

ルシファーにはオーバーハン グが装着され、ビームライフルとシールドを構える。

「進路クリア……ストライ ク、ルシファー、どうぞ!」

《キラ=ヤマト、ストライ ク、いきます!》

《レイナ=クズハ、ルシ ファー、出撃する!》

白と黒の機体が発進し、4機 がアークエンジェルの周囲に展開する。

 

 

アークエンジェルの索敵範囲 外から、急スピードで迫ってくる6つの機影……

「ストライクゥゥ! 今日こ そ、貴様を倒す!」

デュエルの中でイザークが吼 える。

「さぁて…そろそろ沈んでも らおうか……」

楽しげに呟き、ディアッカは バスターの銃を構える。

「イザーク! グゥルは小回 りがきかないんだよ! 気をつけて!」

不安げに話しながら、リベ レーションのライフルを向けるリーラ。

「ザフトのために……貴方に は沈んでもらいます!」

静かな決意とともに、ニコル はブリッツのトリケロスを構える。

(姉さん……私達の因縁、こ こで終わらせましょう……)

相手への殺気を漂わせ、ヴァ ルキリーを疾走させるリン。

「まずは艦の足を止める!  各機、散開しろ!」

指示を飛ばしながら…アスラ ンはモニターで確認した親友の駆る機体にイージスを向けた。

 

 

バスターとリベレーションが それぞれ長距離用の火器を構え、アークエンジェルに向けて放った。

「回避!」

マリューの指示に、アークエ ンジェルは船体を傾け、かろうじてその二射をかわすが、船体に振動がビリビリと伝わってきた。

体勢が崩れたアークエンジェ ルに向かって、一気に加速するイージスにヴァルキリー、デュエルとブリッツが続く。

バスターとリベレーションは 機体特性を生かし、後方支援に回り、超高インパルス長射程狙撃ライフルとスナイパーインパルスライフルを同時に放つ。

援護射撃の間隙を縫い、4機 がアークエンジェルに襲い掛かる。

「バリアント、ウォンバッ ト、撃てぇぇぇ!」

近づけさせまいと、アークエ ンジェルはミサイルとバリアントで応戦するが、4機は悠々とかわし、撃ち落していく。

リベレーションが爆発に隠れ るように、照準を合わせ、トリガーを引く。

射線はアークエンジェル左舷 を掠め、船体に爆発が起こり、黒煙が上がる。

僅かに船体を傾けるアークエ ンジェルに、4機が攻撃を仕掛ける。

ブリッツがトリケロスで、 イージスがビームライフルで、ヴァルキリーがビームマシンガンで、デュエルも、220ミリ径5連装ミサイルを放つが、イーゲルシュテルンが対空砲火で迫る 攻撃を撃ち落し、弾幕を張る。

「ディアッカ、リーラ! 早 く艦の足を止めろ!」

イザークは苛立たしげに舌打 ちすると、通信越しに二人に向かって怒鳴った。

「解かっている!」

「……今度こそっ!」

再度、火器を構えるが、そこ へ敵機接近のアラートが響く。

上空から2機のスカイグラス パーが突っ込んでくる。

「うおりゃぁぁぁ!!」

雄叫びを上げながら、ムウは バスターに向かってアグニを放つ。

いくら威力が落ちているとは いえ、ストライク用の火器であるアグニの直撃を受けては一溜まりもない。

「ちっ!」

ディアッカは舌打ちをしなが ら回避行動を取る。

「ディアッカ……!」

その横で、ディアッカに気を 取られたリーラは、慌てて攻撃に気付き、回避しながら、左腕の58ミリグレネードランチャーを放つ。

「ちぃぃ……!」

舌打ちしつつ、アルフはエー ル装備のスカイグラスパーの機動性を活かし、かわしつつ、ミサイルで撃ち落す。

ただでさえ小回りが利かない グゥルに乗っていては、戦闘機といえど、脅威だ。

おまけにバスターとリベレー ションは長距離からの攻撃に特化した機体だ。2機のスカイグラスパーは相手を引きつけ、アークエンジェルへの砲撃を喰い止める。

長距離からの援護がなくな り、アークエンジェルは砲撃を周りに取り付いている4機に集中させる。

4機は艦を墜とそうと攻撃を 繰り返すが、アークエンジェルに装備されている火器が凄まじく、なかなか致命傷を与えられない。

仮にもザフトの戦艦を考慮し て開発されただけのことはあり、その性能は侮れない。

焦れたのか、今まで離れて攻 撃していたデュエルが飛び出す。

「イザーク、一人で出過ぎる な!」

「うるさい!」

この弾幕の中に突っ込んでい くなど、無謀でしかない。

アスランはイザークを嗜める が、それすらもイザークにしてみれば神経を逆撫でするものでしかない。

無視して突撃するデュエルの 前に、ルシファーがビームライフルで近づけまいと撃ってくる。

「ルシファーの相手は私がす る……アスラン、貴方は艦を」

リンが冷静に呟き、ルシ ファーに向かって加速する。

まったく……副隊長が切り 立ってどうするのか……改めて、隊長という役職に頭を抱えながら、アスランは隣のニコルに指示を出す。

「エンジンを狙う……ニコ ル、左から回り込め!」

「はい!」

黒煙を上げている左に後方か らブリッツが回り込み、アスランはイージスの高度を上げ、直上からアークエンジェルに向かってビームライフルを構えながら急降下していく。

(コイツさえ、沈めれ ば……!)

思わず、脳裏にそんな考えが 浮かび、アスランはトリガーを引く。

だが、アークエンジェルの甲 板で、IWSP装備のストライクが、レールガンとビームライフル、ガトリング砲を使い、砲台となって応戦する。

イージスとストライクが互い の姿を認識し、キラとアスランは僅かに息を呑む。

その間に、ブリッツはアーク エンジェルに接近し、ランサーダートをバリアントの砲身に向かって放った。

突き刺さった場所から火が上 がり、バリアントの砲身が折れ、海中へと沈み、アークエンジェル内は火災に見舞われ、バランスを崩し、高度をおとしていく。

「ちっ……!」

レイナは舌打ちしながら、 デュエルの相手を行う。

ビームを我武者羅に放ってく るが、シールドで受け止め、オーバーハングのビームキャノンの照準をグゥルにセットする。

MSを破壊するより、足を奪 う方が早い……だが、トリガーを引く前に横から警告音が響き、レイナは瞬時に操縦桿を動かした。

機体を捻り、横から迫ってき たビーム弾を回避する。

同じ方向から、ビームを展開 した対艦刀を手に、ヴァルキリーが突撃してきた。

レイナもビームライフルを腰 部に固定し、ビームサーベルを抜いて応戦する。

ビームがぶつかり合い、ス パークする中、レイナとリンは互いに歯噛みする。

 

ブリッツ、デュエルがアーク エンジェルの火器を次々に破壊していく。

「イーゲルシュテルン、5 番、7番被弾!」

「損害率、25%を越えまし た!」

次々と、艦の被害状況が拡大 していくのに、マリューは焦燥の表情を浮かべる。

「イージス、ブリッツ、デュ エル接近!」

歯噛みしていたナタルが声を 荒げて叫んだ。

「ウォンバット、照準!  グゥルを狙うんだ、ストライクにもそう伝えろ!」

「グゥル、ですか…?」

「MSが乗って、飛んでるア レだよ!」

一瞬、逡巡したミリアリア に、トノムラが間髪入れず答え、ミリアリアは頷いた。

「は…はいっ!」

 

機関部を狙おうと接近してく るイージスを、甲板で砲台となるストライクが必死に牽制する。

IWSPを使えば、飛行は可 能だが、この状態では、少しでもバッテリーをセーブした方が得策だ。

「下がれ、アスラン! こい つは俺が……!」

イージスの横から割り込むよ うにデュエルが接近していく」

「イザーク、迂闊に……!」

アスランの言葉も虚しく、キ ラは照準をデュエルのグゥルに合わせ、トリガーを引いた。

アサルトシュラウド装備の デュエルは重力下では大きく機動性を殺がれる……グゥルでもそれを賄えず、グゥルが貫かれた。

だが、爆発寸前にグゥルから 飛び、ビームサーベルを抜くと、重力に引かれるがままにアークエンジェルのストライクに切り掛かろうとした。

「……取り付く気!?」

そのデュエルの動きに気付い たレイナは、先程から鍔迫り合いになっているヴァルキリーを引き離そうと、蹴りをボディに叩き入れ、離脱すると同時にビームキャノンを放つ。

ビームの射線に晒され、リン は舌打ちしながらヴァルキリーを後退させる。

離れたルシファーは、そのま まデュエルに向かっていく。

落下してくるデュエルは、ル シファーに気付き、空中で無理矢理態勢を変える。

「邪魔するなっ!」

ストライクを討つ前にルシ ファーを墜とそうとビームサーベルを振り上げるが、ルシファーはビームサーベルを横へと薙いだ。

交錯して離れた瞬間……デュ エルのビームサーベルは柄から斬り落とされていた。

「何!?」

イザークが驚愕する間もな く、振り向こうとした瞬間、モニターにルシファーの脚が迫っていた。

ボディに強烈な蹴りを喰ら い、デュエルは落下スピードも加わり、海面へ叩き落された。

「お…俺を踏み台にしやがったぁぁぁぁ」

イザークの苦渋の声も聞こえ ず、レイナは目標を変える。

「キラ!」

踏みつけると同時にレイナが 通信に向かって呼び掛けると、その意図を察したキラが、ストライクを飛び上がらせる。

飛び上がったストライクは、 ルシファーの背を踏み台にし、ルシファーはスラスターを噴かし、ストライクを高く押し上げる。

刹那、ストライクのブース ターも火を噴き、2段ジャンプでストライクは、空中で援護に回ろうとしていたブリッツに、真正面から体当たりする。

「う、うわぁぁ!!」

その予想を超える動きに、ニ コルも対処できず、弾き飛ばされ、ブリッツは落下し、ストライクはそのまま対艦刀をグゥルに突き刺し、破壊すると同時に甲板へと降下する。

「ニコル!!」

まっ逆さまに落ちていくブ リッツに気を取られるイージス。

「アスラン!」

そこへ間髪入れずリンからの 通信が響き、瞬時に警告音が鳴ったので、アスランは機体を旋廻させる。

イージスに向かってルシ ファーがビームライフルで応戦してきた。

ルシファーはそのまま甲板か ら飛び上がり、ヴァルキリーに向かっていく。

入れ違いに甲板に戻ったスト ライクは、再び砲台となり、イージスを狙撃する。

回避しながら、アスランは眼 を見張る。

(これ程、腕を上げているな んて……!)

こちらには、ストライクやル シファーと同系統のMSが4機、それに劣らない2機もあるというのに、これ程苦戦するとは………

苦い表情で、アスランは親友 の駆るストライクに銃口を向けた………

 

 

その戦闘をジィーっと監視す る戦闘機………

無機質なカメラが覗く光景に 触発されるように、戦闘空域に無数の戦闘ヘリを従えた艦隊が接近しつつあった。

また、この映像は近海のオー ブにも届けられていた……

《……ご覧いただいている映 像は、今、まさにこの瞬間…我が国の領海から僅か20キロの地点で行われている戦闘の模様です》

興奮気味の女性キャスターの 声が、聞こえ、あらゆるメディアから領海間近で繰り広げられているアークエンジェルとザラ隊の戦闘が中継されている。

白亜の艦の周囲には、爆発の 華と、MSの機影が映り、画面横には生中継を表す『LIVE』の文字が表示されている。

《政府は不測の事態に備え、 既に軍の出動を命じ、緊急首脳会議を召集……》

街を行き交う人々が、街頭モ ニターやテレビに映っている戦闘の様子に思わず立ち止まって見詰めてはいるが、そこには緊迫したものはなく、まるで映画でも見ているかのように興奮してい る。

オーブ連合首長国……赤道直 下の二十以上の群島から構成された、工業と宇宙港からなる国。首都オロファトのあるヤラファス島には、この国の象徴とも言うべき活火山『ハウメア』が聳 え、これを利用した地熱発電によって工業がオーブの冨を築いた。

《…また、カーペンタリアの ザフト軍本部、及びアラスカの地球連合本部へ強く抗議し、早急な事態の収集、両軍の近海からの退去を求め……》

テレビ中継は、オーブの政治 の要である内閣府官邸にも届いていた。

会議室では、険しい表情で官 僚達が中継を見詰めていた。

テーブルの中央に座する現 オーブ代表であるホムラ=ナラ=アスハが左方に座る男を見やった。

「ウズミ様……」

難しい表情で映像を見ていた 男は、溜め息を軽くつき、背凭れに凭れた。

「……許可なく領海に近づく 武装艦に対する我が国の措置に例外はありますまい…ホムラ代表」

そう言われ、ホムラは困惑し た表情を浮かべる。

「はあ…しかし……」

「テレビ中継は、あまり有り 難くないと思いますがな……」

まるで、独り言のように呟く と、ホムラは何かに気付いたように、慌てて側近を呼んだ。

ウズミ=ナラ=アスハ…… オーブ前代表であった男であるが、その威厳を携えた物腰は、未だに強い影響力を持っていた。

ウズミは、内心を悟らせない ように、鋭い視線でモニターを見据えていた。

 

内閣府官邸と同じく、オーブ の某所でも、その映像を食い入るように見詰めている者達がいた。

小さな休憩室のような一室 で、眼前のモニターに映る映像を見詰める少年と少女……

その後ろでは、金髪に眼鏡を かけ、白衣を纏った女性が難しげな表情を浮かべていた。

少年の眼が、モニターに映る ルシファーを追う。

「アレに、彼女が……」

ポツリと漏らした少年の呟き に、女性は表情を歪める。

「……Pシリーズ…そして、 GATシリーズ………オーブの造り上げたものが、こうまで残ってしまうなんて……」

女性は視線を逸らし、部屋の 窓から、彼方の戦闘を見やった。

「あの娘が…無事に生きてい た……そして…あの子達と共にある………これも、運命の導きなの……ねえ、ヴィア…セシル………」

複雑な心境で、女性は今一 度、画面上の戦闘を見やった。

 

 

 

アークエンジェルは、未だ激 しい砲火に晒されていた。

被弾によって、大きく揺れる 艦内で、カガリはよろめきながら、壁に縋り、拳を強く打ち付けた。

「……くそっ!」

苛立たしげに呟き、通路を進 む。

先程、確認した敵影の中に、 イージスの姿を確認した……あの孤島で過ごしたアスランの顔が脳裏を駆け巡る。

やはり、あの時、引き金を引 かなければならなかったのだろうか……今更、言っても仕方がないことではあるが、そうすれば、今…この艦が脅威に晒されることはなかったはずだ。

やりきれない気分で、カガリ はブリッジへと続くエレベータに乗り込む。

「カガリ! 待て、どうする つもりだ!?」

後を追ってきたキサカもエレ ベータに乗り込むと、カガリの腕を掴むが、カガリはそれを振り払いながら叫んだ。

「離せ! このままでは沈 む! オーブのすぐ傍だというのに……!」

歯噛みしながら、言葉が震え る。

「こんな……私はこんな…… くそぉぉぉ!!」

やりきれない怒りを、壁へと 叩き付けた。

 

 

デュエル、ブリッツを欠き、 バスターとリベレーションはスカイグラスパーに抑え込まれ、イージスとヴァルキリーはストライクやルシファー相手に奮戦していた。

火力を主眼にし、砲撃を繰り 返すルシファーに対し、ヴァルキリーは機動性を小刻みに活かしながら回避し、接近戦を仕掛けてくる。

「ちっ…!」

高速で動き回るヴァルキリー を、レイナは持ち前の反射神経で追うが、肝心の機体がついてこない。

「くっ! 反応が遅い!」

OSを変換しながら反応速度 を変更するが、それでも合わせるのがやっとだ。

ミサイルポッドを開き、ミサ イルを放つ。

迫るミサイルを落としなが ら、ヴァルキリーのモノアイが動き、リンはモニターに映った艦影に眼を細めた。

「アスラン……6時方向、 オーブ艦隊の姿がある」

リンからの通信に、アスラン もモニターを見やる。

海上を、真っ直ぐに突き進ん でくる艦隊に、無数の戦闘ヘリ群。

「……厄介ね」

舌打ちしながら、リンはオー ブ艦隊を睨んだ。

 

 

オーブ艦隊の接近は、アーク エンジェルのブリッジでもキャッチしていた。

「領海線上に、オーブ艦 隊!」

「何?」

チャンドラの報告に、ナタル が眼を見張る。

「助けにきてくれた の……?」

困惑するナタルとは逆に、カ ズィは安堵の声を上げるが、マリューは奥歯を噛み締めて冷徹な指示を出した。

「領海に寄り過ぎてるわ!  取り舵15!」

カズィやトールが唖然とな る。

「しかし!」

「これ以上寄ったら撃たれる わよ!」

ノイマンの抗議を、マリュー は毅然と遮る。

「そんな……!」

カズィが信じられないような 声を上げる……無理もない。

彼らにとって、オーブは母国 なのだ……だが、今現在、彼らの身分は地球連合の軍人なのである。

オーブからしてみれば、自国 の領域を侵したものでしかない。

「オーブは友軍ではないの よ! 平時ならまだしも、この状況では……」

言いよどむマリューの言葉を 遮るように、ドアが開き、カガリが飛び込んできた。

「構うことはない! このま ま領海へ突っ込め!」

クルー達は驚いて彼女を見や るが、カガリは構うことなくマリューに近づく。

「オーブには私が話す! 早 く……」

「貴方が…? しかし……」

突然のことに戸惑うマリュー に、パルが声を荒げた。

「展開中のオーブ艦艇より入 電!」

瞬間、モニターに、乱れた画 質とともに、艦隊の司令官らしき男が映る。

《接近中の地球軍艦艇、及び ザフト軍に通告する》

 

その通信は、全周波で戦場に 響き、パイロット達は思わず動きを止める。

《貴艦らはオーブ連合首長国 の領海、領域に接近中である。速やかに進路を変更されたい。中立国である我が国は、武装した船舶及び航空機、MSとうの事前協議なき領域への侵入を一切認 めない。速やかに転進せよ》

「フン…都合のいい時だけ、 中立か……」

軽蔑するように、鼻を鳴ら し、レイナはオーブ艦隊を見やった。

この場にあるアークエンジェ ルや、ルシファーを含めたG兵器……いや、それだけではない…リベレーションやヴァルキリーに使用されている技術も、元を正せば、オーブが造り上げたもの だ。

連合に加担し、兵器協力して おきながら、いざ都合が悪くなれば中立主義……あのじゃじゃ馬お姫様ではないが、流石に皮肉ってやりたい気分だと、レイナは毒づいた。

だが、この状況では流石に拙 い……ザフトが引いてくれることを願いたい気分でいたレイナは、続けて流れた通信に、露骨に嫌悪感を見せた。

《繰り返す、速やかに進路を 変更せよ…この警告は最後通達である。本艦隊は転進が認められない場合、貴艦らに対して発砲する権限を持っている!》

中立国らしい権限の振り方 に、レイナは吐き捨てた。

「そんなに中立を貫きたいな ら…少しは信念を見せてみなさいよ、バカどもが……!」

 

 

先程から、戦闘は沈黙を保っ ているが、アークエンジェル内では、トール達がショックを隠せなかった。

「こ、攻撃って…俺達 も……? そんな……」

絶望に打ちひしがれるカズィ に、愕然となるトール達の横で、チャンドラやトノムラ達は毒づいていた。

「何が中立だよ。アークエン ジェルはオーブ製だぜ」

カガリは歯軋りし、叫ぶと同 時に駆け出した。

「構わん! そのまま領海へ 進め!」

駆け上がり、カズィからイン カムを引っ手繰ると、周波数を合わせる。

「この状況を見ていて、よく そんなことが言えるな!!」
怒鳴るような口調で発せられた声に、向けられたオーブ艦の司令も、パイロット達も一瞬、眼を丸くした。

「アークエンジェルは今から オーブの領海に入る! だが攻撃はするな!!」

あまりにも身勝手な言い草 に、腹を立てながら、司令官の男はモニター越しにカガリを睨んだ。

《な、何だお前は!?》

「お前こそなんだ!? お前 では判断できんというなら行政府へ繋げ! 父を……」

一瞬、躊躇いがちに言葉を呑 み込んだが…カガリはキッとした表情で叫んだ。

「ウズミ=ナラ=アスハを呼 べ! 私は……私は、カガリ=ユラ=アスハだ!!!」
唐突に告げられた事実に、キラやムウ、アルフだけでなく、アークエンジェルのクルー達は愚か、アスラン達も一瞬戸惑った。

 

だが、ここに一人だけ違う反 応を見せている者がいた。

「あの…バカ娘………」

思わず頭を抱えそうになり、 レイナは溜め息をついた。

……事態を余計ややこしくし てどうするのだ。

という以前に、そんな脅しじ みた言葉で、向こうが従うか考えないのか………

 

 

静まり返っていたブリッジ に、ざわめきが起こる。

オーブの人間でなくてもその 人物の名を知っている。

――――ウズミ=ナラ=アス ハ。

『オーブの獅子』と呼ばれる オーブ連合首長国・前国家元首の名を知らない人間の方が、珍しいぐらいだ。

そして、その彼を、父と呼ぶ なら……

キサカがやれやれと肩を竦 め、気付かれないように、モニターに目配せする。

その視線を感じた司令官は、 呆然としていたが、やっとのことで口を開いた。

《な……何を、バカなこと を……! 姫様がそんな船に乗っておられるはずがなかろう!》

「何だとっ!?」

司令官の反応も最もである が、自身の勇気を振り絞って叫んだだけに、カガリは噛み付く。

《もし仮に真実であったとし ても、何の確証もなしにそんな言葉に従えるものではないわ!》

「貴様……っ!」

カガリがさらに怒鳴りつけよ うとしたが、それより早くオーブ側からの通信は一方的に切られた。

「おいっ!」

ノイズしか返ってこない画面 に呼び掛けるが、唖然となっているクルー達は、次の瞬間、襲い掛かった衝撃に、現実に戻った。

 

 

バスターが94ミリ高エネル ギー収束火線ライフルをアークエンジェルに放つ。

「ご心配なくってね、領海に なんて入れないさ!!」

グゥルでアークエンジェルと の距離を詰めながら、バスターが攻撃を加える。

領海に入る前に沈めようと、 ガンランチャーとライフルを構える。

「その前に決める!!」

その時、バスターに向かって スカイグラスパーが突撃してきた。

「毎度毎度…!」

ムウの叫びとともにアグニが 放たれ、ディアッカは舌打ちしながらかわし、先に墜とそうと、照準をスカイグラスパーにセットする。

ビームを旋廻しつつかわし、 目標を見失ったビームは、オーブ艦隊の方角の海面を蒸発させる。

「ディアッカ! オーブ艦に 当たる! 回り込むんだ!」

「そんなこと……!」

アスランからの通信に、ディ アッカは一瞬注意が逸れる。

その隙を衝き、キラはバス ターのグゥルに狙いを定め、トリガーを引いた。

ビームがグゥルを貫き、バス ターは踏み台にして離脱する。

「くそっ!」

それでも、地球の重力に引か れて落下しながらもアークエンジェルに向けて超高インパルス長射程狙撃ライフルを放った。

その一撃は、見事にアークエ ンジェルのエンジンに被弾した。

激しい衝撃が船体を襲い、ク ルー達は悲鳴を上げる。

「1番、2番エンジン、被 弾!」

「48から55ブロックまで 隔壁閉鎖!」

「推力が落ちます!」

「高度、維持できません!」

各所からの被害に、アークエ ンジェルは黒煙を上げながらゆっくりと落ちていく。

マリューが唇を噛み締める中 で、バランスを崩したカガリを支えながら、キサカがマリューに独り言のように囁いた。

「……これでは、領海に落ち ても仕方あるまい」

その言葉に、マリューはハッ と顔を上げ、カガリも驚く。

キサカは、意味ありげな笑み を微かに浮かべ、言葉を紡ぐ。

「心配はいらん、第2護衛艦 群の砲手は優秀だ……巧くやるさ」

「……解かりました」

キサカの意図を理解したマ リューは決意し、ノイマンに向き直った。

「ノイマン少尉! 操縦不能 を装ってオーブ領海へ! オーブ艦への発砲は厳禁! パイロット達にもそう伝えて!」

ノイマンとミリアリアが戸惑 いながらも頷いた。

アークエンジェルはゆっくり と船体を傾け、オーブ艦隊の中へと着水していった……

 

 

「突っ込む気か……!?」

ストライクの砲撃に晒されて いたイージスは、オーブ艦の中へと突っ込んでいくアークエンジェルを意外そうに見ている。

グゥルを失い、落下しつつ あったバスターをリベレーションが受け止めるが、2機の重量を支えられる程、グゥルの推力は高くない、

途端に失速し、戦闘不可とな り、リベレーションとバスターは後退していく。

アークエンジェルが領海内へ と着水していったので、ルシファーもヴァルキリーと距離を取り、後退していく。

その時、オーブ艦から全周波 数で通告が発せられた。

《警告に従わない貴艦らに対 し、我が国はこれより自衛権を行使するものとする!》

その通信とともに、オーブ艦 隊から砲撃が始まり、推力低下により海に着水したアークエンジェルは身動きが取れず、まさに狙い撃ちといった形でオーブ軍の砲火を受ける。

だが、その光景を見ていたリ ンは眉を顰める。

(おかしい……あの距離 で………)

アークエンジェルはもはや身 動きが取れない的でしかないのに、オーブ艦の攻撃は、その周囲にばかり着弾している。

まるで、わざと外しているか のように……

「ちっ…オーブめ、とんだ茶 番を見せてくれる……!」

オーブの意図を理解したリン は、吐き捨て、砲撃の中に突っ込もうとするが、それを阻むように戦闘ヘリが割り込んできた。

舌打ちし、ヴァルキリーを静 止させる。

「リン、ここは一度引 く……!」

「アスラン、このまま見逃す 気か…!?」

ディアッカから非難めいた言 葉が返ってくるが、アスランはぴしゃりと遮る。

「ザフトはオーブと戦争をし ているわけではないんだぞ……!」

苦虫を踏み潰したかのような アスランの口調に、リンは静かに息を吐き、マシンガンを下ろす。

確かに、ここでオーブと事を 交えても、何にもならない……

「……解かった。一時、撤退 しましょう」

ヴァルキリーが反転し、イー ジスらも続く。

アスランは、今一度、水飛沫 の中に隠れていくアークエンジェルを見やった……

キラだけでなく、彼の中に巡 るのは、全周波で流れた少女の声……あの無人島で一夜を共に過ごしたカガリのものであった。

あの時の印象から、とても姫 君なんてものから程遠い印象に、どことなくこそばゆい気分になりつつ、アスランは帰還していった……

 

 

「さて……とんだ茶番だが、 致し方ありますまい」

行政府の閣僚室で、ウズミは 静かに呟き、ゆっくりと立ち上がった。

閣僚達は、一様に気難しげな 表情を浮かべている……領海侵犯を犯したアークエンジェルは、オーブにとって単なる連合の艦と割り切れるものではに…さらに、その艦にウズミの娘までが乗 り込んでいたというのは、余計に事態をややこしくしたが………

「公式発表の文章は?」

「既に草案第二条が……」

当たり前のごとく、控えてい た秘書官は、現代表のホムラではなく、ウズミに草稿を手渡し、当のホムラも閣僚達もそれを当然のように見詰めている。

「よいでしょう……こちらは お任せする。あの艦とモルゲンレーテには私が……」

草案に眼を通したウズミはホ ムラに言うと、部屋を後にしようとする。

その時、閣僚達の中から誰か がポツリと漏らした。

「どうにも厄介なものだ…あ の艦は……」

その言葉に、ウズミは足を止 め、僅かに振り返った。

「今更言っても仕方あります まい……元々は、我々が蒔いた種ではありませんか」

釘を指すように窘められ、閣 僚達は口を噤み、ウズミは険しい表情で部屋を後にした。

 

 

 

ザフトが撤退した後、アーク エンジェルは周囲をオーブの護衛艦に囲まれ、オーブ群島の一つに接近していた。

アークエンジェルの甲板に て、ディアクティブモードのストライクとルシファーが佇み、キラは困惑した面持ちで見詰めていた。

レイナもまた、コックピット のハッチを開き、ハッチに立ち、吹き荒む風を受けながら、接近しつつある島を見詰めていた。

「獅子の眠る国……か。はて さて………どんな歓迎が待っていることやら」

軽く溜め息をつき、肩を竦め る、

少なくとも、善意で助けてく れたとは思っていない……まして、中立を主張する国が、一方の陣営を助けることなど、あってはならない…となれば、何かをこちらに求めている可能性が高 い……レイナは今一度、視線を海の彼方に消えた敵影を求めて彷徨わせた……

 

《指示に従い、艦をドックに 入れよ》

先導する護衛艦から、先程の 司令官の固い口調で指示が入る。

オーブ艦群に監視されるよう に、アークエンジェルはオーブ群島の一つへと近づいていくと、切り立った岩壁にカモフラージュされていた巨大なハッチが開き、アークエンジェルはゆっくり と向きを変え、バックでドックの中へと入り、奥へと進む。

「オノゴノは軍とモルゲン レーテの島だ…衛星からでもここを窺うことはできない」

むっつりとした表情で語るキ サカに、マリューは戸惑いを浮かべながら尋ねる。

「……そろそろ、貴方も正体 を明かしていただけるのかしら?」

キサカはフッと笑みを浮か べ、背筋を伸ばした後、敬礼を行う。

「オーブ陸軍第21特殊空挺 部隊、レドニル=キサカ一佐だ……これでも護衛でね」

顰め面を浮かべているカガリ を見やり、苦笑を浮かべる。

その言葉に、ミリアリア達は 驚いていた。

「あちゃ〜…じゃあ、やっぱ り本物?」

思わず漏らす。

代表首長の顔は知っていて も、流石にその娘の顔までも知っていたわけではないらしい…

マリューは探るような視線を キサカへと向ける。

「我々はこの措置を、どう 取ったらよろしいのでしょう……?」

「それは、これから会われる 人物に、直接聞かれる方がよろしかろう…『オーブの獅子』……ウズミ=ナラ=アスハ様にな」

マリューはナタルと顔を見合 わせ、戸惑いを隠そうとはしなかった……

 


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