人気のなくなった地下ドック にて、静かに出発の時を待つアークエンジェル。

《注水、開始。注水、開 始……》

警報が鳴り響き、アークエン ジェルの周囲に、海水が勢いよく噴出し、水音が木霊する。

「オーブ軍より通達、周辺に 艦影なし。発進は定刻通り」

「了解したと伝えて」

パルの報告に答えると、アー クエンジェルはゆっくりと起動シーケンスに突入する。

ドックの外では、既に数隻の オーブ艦が待機している。

「護衛艦が出てくれるんです か?」

サイが驚いてトノムラを見や る。

「隠れ蓑になってくれようっ てんだろ? 艦数が多い方が特定しにくいし、データなら後でいくらでも誤魔化しがきくからな」

したり顔で答えると、トノム ラはコンソールに向き直る。

ドックに海水が満たされ、や がて底部が完全に覆われる。

「ドック内にアスハ前代表が お見えです……あ、ヤマト少尉とクズハ特務中尉を上部デッキへ出してほしい…と言われてますが?」

やや不審げな表情で呟くパル に、マリューも首を傾げたが、取り敢えずは二人に連絡した。

 

数分後、上部デッキへと続く ハッチを開け、デッキに出たキラとレイナは、周囲を見渡す。

その時、桟橋から駆けてくる カガリに気付いた。

「キラァァァ、レイ ナァァァ」

軍服で駆け寄ってくるカガリ の姿に、二人は眼を丸くした。

「カガリ?」

「あの子、何で……?」

タラップを必死に昇ってくる 姿に苦笑するも、カガリの性格からしてまた無理矢理密航でもしてくるのではないかという危惧はあったが……

「キラ、お前の! ご両親… あそこにっ………!」

走りながら、荒い口調で指差 すカガリに、キラは弾かれたようにその先に視線を向けた。

ドックを見下ろす監視ブース に、眼を向けると…ウズミの前、最前列のガラス越しに、久方ぶりに見る懐かしい両親の姿があった。

キラは思わず息を呑み、身を 固くする……レイナもゆっくりと眼を向け、キラの両親を視界に入れる…隣には、フィリアとカムイの姿もある。

カリダがガラスに縋り、何か を叫んでいる…声は聞こえなくとも、その口は、確かにキラの名を呼んでいた……そして、眼元に涙を浮かべ、顔を俯かせる。そんなカリダの肩にハルマが手を かけ、何時もの穏やかな笑みを浮かべ、頷いている……その姿に、キラの眼にも涙が浮かぶ。

「………優しい人達ね」

揶揄するような口調ではな く、どこか優しい声色でレイナが呟き、キラはいたたまれなくなり、顔を俯かせる。

逢えば、責めてしまうかもし れないという懸念があった……だが、今久しぶりに見る両親の姿に、安堵感が浮かぶ。

「お前…どうして、逢っ て……あげないんだよっ………」

いつの間にやら、タラップを 昇り切ったカガリは、呼吸を激しく乱しながらも、キラに問い掛ける。

カガリの言う通りだ…何故、 逢わなかったのだろうと、キラもこの時後悔した……話したいことは山ほどある……だが、そこまで考えてキラは首を振った。

「今は…ゴメン……って、伝 えてくれる?」

微かに握り締められた拳に、 力がこもる……やはり、今はまだ…両親に面を向かって逢うことができない。

「今は…僕………」

震えるような口調で唇を噛 む。

アスランとの再会…母の親友 だったレノアの死……そして、アスランと今は敵同士であること……少し逢わなかった間に、あまりに多くのことがあり過ぎた……こんなもやもやとした気持ち では、両親と向き合うことができない。

せめて…全てが終わり、気持 ちの整理がついたら……果たして、そんな時が来るのかも怪しいが……キラは今一度、両親をジッと見詰めた。

「……解かった」

そんなキラの心情を理解した のか、カガリもそれ以上追求しようとはしない。

キラはカガリに向き直ると、 こちらを見るカガリにぎこちなく微笑んだ。

「カガリも元気で……その… いろいろ、ありがとう………」

硬い表情で礼を告げ、踵を返 すと、カガリも激情にかられるように叫び、キラに抱き付いた。

「キラ! お前……死ぬな よっ!」

半泣きに近い表情で、カガリ はキラの華奢な身体を抱擁し、乱暴に叩く。

その心遣いに、キラも泣きそ うになる……ここに至るまで、彼女の存在に慰められたことも多々あった……せめて最後は笑って別れようと、なんとか涙を堪える。

「大丈夫…もう、大丈夫だか ら……」

答え返すようにキラもカガリ の背を叩いた。

そんな別れを惜しむ二人に、 傍で見ていたレイナは呆れたように声を掛けた。

「あー貴方達……盛り上がっ てるところ悪いんだけど、ラブコメをしたかったらもう少し場所を弁えなさいね」

その言葉に、二人はハッとし たように離れるが、互いに顔が赤い………

もっとも、お互いに相手に好 意を抱いているかと問われればそうではないが…キラにとっても、カガリにとっても、何故かお互いを近く感じるのだ……親も違えば、育った環境も違うという のに…不思議な親近感がある………

レイナは苦笑を浮かべたま ま、ブースを見やると…キラの両親がどこかオタオタした様子でこちらを見ている…まあ、カガリは仮にもオーブ首長家の人間…言わば、お姫様だ。キラの両親 も流石に肝を潰したのかもしれないと思った。

そして…こちらをどこか寂し げに見詰めているカムイと、表情を顰めているフィリアを見やりながら、レイナは数日前のことを思い出していた。

 

 

数日前……実験を終えたレイ ナは、フィリアにある話を持ちかけられた。

「私を、オーブに……?」

尋ね返すレイナに、フィリア が頷く。

「ええ…既にラミアス艦長達 には連絡がいっているはずだけど……貴方の身柄を、オーブにて引き取りたいの」

「……私に、オーブの犬にな れと?」

どこか含みのある笑みを浮か べるレイナ。

絶句するフィリアに、肩を竦 め返す。

「冗談よ……でも、何故私 を…私は別に、オーブに引き取られる程、価値のあるものだとは思っていないけど……」

「それは……」

言葉を呑み込む……まだ、彼 女に真実を話すには早過ぎる。

「……まあ、別に私は構わな いけど」

その言葉に、虚を衝かれたよ うに怪訝そうな表情を浮かべる。

「どの道、アラスカまで行く 気はないし……まあ、こっちも雇われた手前、防空圏までは護衛する義理があるからね…それ以上は、私の知ったことじゃない」

なにより、アラスカの現状を 知れば、好き好んで行きたがる奴などいはしないが……と、内心で毒づく。

「フィリア=ノクターン…貴 方やカムイが私にどう関係あるのかは知らない。でも、貴方達が私の失われた過去に関係しているというのだけは解かる……でも、私はそれをわざわざ教えても らうつもりはない」

他人から教えられた過去な ど、なんの価値もない……自身の記憶は、自身の手で知ってみせる………

「………私は所詮、それしか できない女か」

自嘲気味な笑みを一瞬浮か べ、レイナはその場を去った………

 

……貴方はやはり、ヴィアの娘なのね………

小さくポツリと呟かれた言葉 は、聞こえることなく消えていった………

 

 

最後の挨拶とばかりに、レイ ナは人差し指と中指を立てて、軽く合図する。

そして踵を返すと、カガリが こちらを見ていた。

「レイナ……お前も…って、 お前は殺しても死ぬような奴じゃないな」

キラと同じく見送ると思った が、どこか呆れたように呟く言葉に、レイナは怒りを感じるどころか、笑い出してしまった。

「…ひっどいわね。まあ、簡 単にくたばるつもりはないしね……貴方も、お転婆はほどほどにね」

お返しとばかりに揶揄するよ うな言葉を掛けるが、カガリは余計なお世話だと言わんばかりに口を尖らせた。

そして、どちらかでもなく、 互いに別れの挨拶とばかりに手を叩き合った……衝突してばかりではあったが…最後には笑い合うことができた瞬間だった。

そして……キラとレイナは艦 内へと戻り、カガリが降りると、アークエンジェルのメインエンジンに火が入り、ゆっくりと前方に開いていくハッチに向かって進んでいく。

ハッチからこもれる太陽の 光……外で待機していた護衛艦隊にエスコートされ、アークエンジェルは最後の航海へと旅立つ。

その姿を、カガリは見送り続 けた………

 

 

 

制服の襟を整えながら、アス ランとリンはクストーストの薄暗いブリッジに入る。

「演習ですか?」

考えられる可能性を込めてア スランが尋ねると、モンローがデータパネルを指し示した。

「スケジュールにはないが な。北東に向かっている……艦の特定、まだか?」

彼もまた、アスランやリンの カンが当たっていることに期待するようにオペレーターに問い掛ける。

だが、アスランやリンは既に 確信していた。

ここから北東に真っ直ぐ進む とあるもの……アラスカ本部だ。

「ようやくお出ましかし ら……」

口元に軽く笑みを浮かべるリ ン……

アスランは眉を寄せ、やや厳 しい口調で指示を出す。

「戦闘準備に入ります。艦の 特定、急いでください!」

それだけ伝えると、アスラン とリンはブリッジを後にし、すぐさまロッカールームに向かった。

互いに、銃を向け合う相手と 戦うために………

「第一戦闘配備発令。繰り返 す、第一戦闘配備発令!」

艦内に警報が鳴り響き、他の パイロット達も急ぎ戦闘体勢に入るのであった。

 

 

 

朝靄の中を突っ切り、護衛艦 群に先導されながら、アークエンジェルはオーブ領海外へと向かう。

「間もなく、領海線上です」

「周辺に敵影なし」

トノムラとチャンドラの報告 にマリューは頷きながら、前を見据える。

「警戒は厳に……艦隊離脱 後、離水、最大船速」

「艦隊旗艦より入電…『我こ れより帰投する、貴艦の健闘を祈る』」

カズィが慣れない電文を読み 上げると、マリューは微笑む。

「『エスコートを感謝する』 と返信を」

指示を出し終えると、オーブ 艦は徐々に速度を緩め……そして、アークエンジェルのエンジンが火を噴き、その巨体を海上から持ち上げていく。

水飛沫を上げながら、アーク エンジェルはその白い機体を煌かせる……あとは、アラスカへ進むのみ…マリューは決意のこもった視線で前を見据えた。

 

飛び立ってからすぐに、パイ ロットスーツに身を包んだキラとレイナが互いにブリーフィングルームに姿を見せ、両者は眼を見開いた。

「レイナ……何で…?」

「それはお互いさまだと思う けど…敵さんが、オーブの発表を鵜呑みにして撤退したとは思えないだけよ」

素っ気なく答えると、レイナ はそのままデッキへと向かい、キラも訝しげな表情のまま後を追った。

二人は互いに確信を得てい た……オノゴノで互いに出逢った相手から、自分達の所在を知られたことを…そして、アークエンジェルがオーブを出たと同時に攻撃を仕掛けてくることも。

デッキへと現われた二人の姿 に、マードックは眼を丸くする。

「なんだぁ、坊主に嬢ちゃん も? まだなんの命令も出てねえぞ」

首を傾げるマードックに、キ ラは眼を合わせずキャットウォークを伝っていく。

「領海を出れば、ザフトの攻 撃が始まります……」

「ああん?」

呑み込めない様子でマードッ クが尋ね返すが、それより早くキラはコックピットに入り、ハッチを閉じる。

マードックはレイナの方を振 り向くが、こちらは無言のままコックピットへと入っていった。

 

 

 

各自、自 機に搭乗した一同は、出撃の時を待ち構えている。

《オーブ 艦隊より離脱艦あり、艦特定……足付きです!!》

その報告 に、イザークは正直意外そうな声を上げる。

続けて ヒュウ、と口笛を吹いたのはディアッカだ。

「やるも んだねぇ、よく解かったな……タネを教えてもらいたいぜ」

揶揄してみせたのはディアッ カだけで、大抵こういう時に口を出すイザークは珍しく沈黙を保っていた。

「……当たりましたね、アス ラン、リン」

ニコルが弾んだ声を上げる。

「やっぱり…いたんだね」

リーラも半ば感心した面持ち で告げるが、それがイザークは気に喰わなかったらしい、

「おい、アスランにリン…お 前ら、クルーゼ隊長みたいに敵を感じるってんじゃないだろうな?」

その問い掛けに二人は沈黙で 答える……互いに相手を思い浮かべ、瞑目した後、表情を引き締めた。

「各機出撃……グゥル射出 後、足付きを強襲する」

「出撃する……今日こそ足付 きを墜とすぞ!!」

アスランの号令とともに、ク ストーストは浮上し、甲板の発進口を開いていく。

《離水確認よし…ハッチ解 放、進路クリア……射出始め!》

潜水空母からのMSの射出 は、もちろん宇宙でのそれとは大きく違う。

艦底が海水に浸かっていると いう前提があるため、MSや装備の射出は艦体上部を用い、カタパルトは上空に向けて垂直に突き出され、そこからMSを空中へ打ち上げる。

3つの射出口から打ち出され るイージス、ヴァルキリー、デュエル、バスター、ブリッツ、リベレーション……続けて五機の空中支援メカ:グゥルが打ち出され、ヴァルキリーを除く五機が グゥルの補助OSを繋げ、飛び乗るようにドッキングする。

宇宙に対して制約は出るもの の、向こうのMSは空中戦が可能であるため、それに対するにはこちらも空中戦で仕掛けるしかない。それでも、機動力の差は拭えないが……

アークエンジェル目指し、六 機は飛び立った………

 

 

接近してくる機影はすぐさま アークエンジェルのレーダーでもキャッチできた。

「レ、レーダーに反応! 数 5…いや6!」

パルが叫び上げ、クルー達の 間に緊張が走る。

「機種特定…イージス、ヴァ ルキリー、デュエル、バスター、ブリッツ、リベレーション!!」

「潜んでいた? 網を張られ たのか…!」

ナタルが歯軋りし、マリュー も表情を顰める…やはり、すんなりと行かしてくれる相手ではない。

だが、ここで墜とされるわけ にはいかないのだ。

「対潜、対空、対MS戦闘用 意!」

表情を引き締め、矢継ぎのご とく指示を飛ばす。

やがて、モニター越しに肉眼 でも確認できる位置にまで因縁のMS隊の姿が見えた。

「逃げ切れればいい! 厳し いとは思うが、各自健闘を!」

「ECM最大強度! スモー ク・ディスチャージャー投射! 両舷煙幕放出!!」

 

その頃、上部デッキに出たラ ンチャーストライクとルシファーは、アークエンジェルから伸びる外部パワーケーブルを掴む。

ストライクはアグニに、ルシ ファーは後方腰部に接続する。

「コンジット接続、補助パ ワーオンライン!」

「射角、及び射撃スタンバイ 完了」

アークエンジェル本体からの エネルギー供給のため、エネルギー切れのなくなったアグニとビームキャノンを構え、待機する。

刹那、アークエンジェルから 煙幕弾が放たれ、周囲で炸裂する…続けて艦橋の両脇からスモーク・ディスチャージャーから濃い煙が発され、煙幕とともに船体を覆い隠し、ストライクとルシ ファーの姿も煙に消える。

そして、左右のカタパルト デッキが開いていく。

「あまり緊張はするな、上空 からストライクとルシファーの支援だけやればいい」

「はいっ!」

上擦った口調で答えつつ、 トールはインフェストゥスのコックピットのシートベルトを締め、ヘルメットのバイザーを下ろす。

「出るぞ! 墜とされるな よっ!」

アルフの激励が飛び、エール グラスパー、IWSPグラスパーが飛び立っていく。

《ケーニヒ機、進路クリア… 発進よし……気をつけて》

ミリアリアの不安げな声に答 えることもなく、トールは発進パネルがONになると同時に操縦桿を引いた。

シミュレーションでは再現さ れなかった強烈なGが身体を圧迫し、息が詰まる。

一抹の不安を抱えながら、三 機の戦闘機が飛び立った。

 

 

クストーから射出された六機 は、アークエンジェルへと一直線に向かう。

イージス、ヴァルキリーを先 頭にデュエル、ブリッツが続き、更にその後方をバスター、リベレーション が追う。

やがて、射程に入ったと思っ た瞬間……アークエンジェルから放たれたミサイルが周囲で爆発し、それは 濃い煙となってアークエンジェルを覆い隠す。

「煙幕!?」

「チッ、姑息なマネを!」

イザークが舌打ちしながら デュエルを下方に突っ込ませようとする。

「イザーク、前に出過ぎない で! バスターとリベレーションは長距離から足付きを狙撃!」

先走るイザークを嗜めなが ら、リンは指示を出す。

煙幕を展開するのはある意味 諸刃の剣だ……煙幕によって視界を互いに遮られる以上、どうしても有視界での戦闘は不可能…加えて地上に投下されたNジャマーによりレーダー類は役に立た ない。これが艦載機同士の戦闘ならいざ知らず、相手は戦艦だ。多少煙に巻かれようが、その巨体を狙うだけなら問題はない。

そしてこちらには煙幕に身を 隠そうともその巨体に攻撃できるほどの火力を備えた機体が三機もある……イージスのスキュラにバスターとリベレーションのインパルスライフル……あの火力 なら、たとえ直撃は避けられてもダメージは否めまい。

リンの指示に行動しようとし た瞬間、煙幕から三機の戦闘機が飛び出してきた。

「3機!?」

多少なりとも驚く……ただの 戦闘機ならともかく、アークエンジェルの艦載機は並大抵の腕ではないのは既に周知の事実だ。

デュエルがビームライフルを 放ち戦闘機を牽制する。

「おおっと!」

「当たるかっ!」

「うわぁぁっ!」

だが、不意を衝かれて撃たれ たビームを、エールグラスパーとIWSPグラスパーは悠々と回避するが、トールのインフェストゥスだけはギリギリで回避する。

三機の戦闘機中…一機に眼を 留めたアスランは眉を顰めた。

あの中にある一機は、間違い なくカーペンタリアに移動する際に自分が乗っていた輸送機を墜とした機体だ…不意に、脳裏にアレのパイロットであったカガリの顔が浮かぶ。

だが、とアスランは思い直 す……カガリ はオーブの姫と自ら大々的に明かした。

そんな彼女がアークエンジェ ルに同行できるはずもない……だとすれば、アレにはまた別パイロットが乗っているのだろう、と考える。勿論、その人物だ誰かなどはアスランには解からない ことであった。

 

上昇するインフェストゥスの コックピット内で、トールは息をつく。

「よしっ、悪くないぞ!」

「ストライクとルシファーの 支援は任せるぞ!」

「はいっ!」

未だ、緊張の抜け切らぬ口調 で答えつつ、トールは震える手でコンソールに座標を打ち込み、ストライクとルシファーに通信を繋ぐ。

「こちら、インフェストゥ ス、ケーニヒ機…ストライク、ルシファー聞こえるか!? 敵の座標と射撃データを送る」

インフェストゥスから敵機の 展開状況が二機へと転送される……煙幕の内側で身を潜める二機は、当然ながら視界は0…おまけにレーダー類は使えない。だが、送られてきたデータから、敵 機の現在地を絞り込む。

そこへ向かってアグニとビー ムキャノンが火を噴いた。

 

煙幕の向こう側から、鋭い火 戦が放たれる。

だが、アークエンジェルの火 器ではない……敵MSからの攻撃だ…この状況では向こうも有視界はきかないはずだが、たった今上空で飛ぶ艦載機のデータからこちらの位置をおおよそにだが 割り出したのだろう。

「散開!」

このまま固まっていては、い くら命中精度が落ちるとはいえ、狙いうちだ。

連射されるビームを回避しな がら、イージス、ヴァルキリー、ブリッツ…デュエル、バスター、リベレーションの二組に分かれる。

だが、その行動は向こうに とっては好機となった。

デッキにて狙撃していたスト ライクとルシファーではあるが、やはり他人の眼からのデータでは、どうしてもタイムラグが出る。同時にパワーケーブルを外し、PS装甲をONにすると同時 にデッキから飛び上がった。

やや前方に出ていたデュエル とバスターが、なんとか足付きを探そうと更に前に出る。

遅れてリベレーションも続 く…その時、煙幕の中からバーニアを吹かし、ランチャーストライクとルシファーが飛び出してきた。

「ストライクゥゥゥ!!」

一瞬、眼を見張るものの、宿 敵の出現にイザークが吼え、ビームライフルを撃つ。

「こっから先へは行かせねぇ よ!」
「っ!!」

バスターとリベレーションの グゥルからミサイルが、バスターは94ミリ高エネルギー収束火線ライフルとガンランチャーで、リベレーションはグレネードで応戦する。

ルシファーはスラスターを駆 使して回避し、ランチャーストライクも重力下のなかで見事に攻撃をかわしつつアグニを放ち、それがバスターのグゥルを掠める。

「うわっ!!」

振動がコックピットを激しく 揺らし、注意が逸れる…気付いた瞬間には、眼前にルシファーが迫り、バスターを蹴り飛ばした。

グゥルとのドッキングを外さ れ、真っ逆さまに落ちていくバスター…ルシファーはビームサーベルでグゥルを貫き、爆発させる。

「このぉ!」

反転し、デュエルのグゥルか らミサイルが放たれるが、ストライクは対艦バルカンで応戦し、グゥルのエンジン部分を損傷させる。

「うがぁっ!」

黒い煙を上げ海に落下してい くデュエル。

「くそぉっ!!」

ただでは落ちないとばかり に、シヴァとミサイルを連続で放つ。

ストライクは咄嗟に身を捻る が、それにより態勢を崩す……その隙を突こうとリベレーションがライフルを構える。

照準がストライクに合わさっ た瞬間……スコープの前にルシファーの頭部が迫った。

「え……きゃぁっ!」

驚く間もなく、リベレーショ ンは体当たりで吹き飛ばされ、ルイファーはビームサーベルでシールドを斬り裂く。

爆発に弾き飛ばされ、成す術 もなく海中へと落下していく。

スカイグラスパー二機と交戦 中のイージスらだったが、デュエル、バスター、リベレーションの三機が一気に落とされたことに舌打ちする。

「……ちっ!」

イージス、 ヴァルキリー、ブリッツが共に煙幕の中へと再び戻っていくストライクとルシファーを追う。

「コイツぅ!」

ニコルが忌々しげに叫びなが らビームを放ち、イージスとヴァルキリー もそれに続くようにビームライフルとビームマシンガンで狙撃するが、ストライクとルシファーはまるで鳥のようにかわす。

「ええい!」
アスランが舌打ちしならが更に距離を縮めようとしたが、それはすぐに押し止められる。

「アスラン、下がりなさ いっ!」

突然のリンの叱咤と、煙幕に 隠れていたはずの足付きの艦首が姿を現わしたのは同時だった。ゴッドフリートから放たれるビーム攻撃がイージス、ブリッツを襲う。

もし、リンの呼び掛けがなけ れば、直撃を受けていた可能性が高い…慌てて後退する二機……だが、そこへ追い討ちをかけるようにバリアント、ウォンバットが放たれる。

イーゲルシュテルンでミサイ ルを撃ち落すイージス

バリアントを避け、シールド の突撃機銃でミサイルに応戦するヴァルキリー、ブリッツもビームで応戦していた。

デッキに戻ったキラは、ラン チャーパックを外す……状況からして換装した方がいい。

《クオルド機、きます!》

サイの声が響き、アルフの2 号機が上空からアークエンジェルのデッキ目掛けて降下してくる。

《ストライク、エールへの換 装、スタンバイです》

《俺からのプレゼント…しっ かり受け取れよ!》

本来は、ストライクにストラ イカーパックを輸送するための機能も持つスカイグラスパーだ…だが、宇宙空間での換装と違って制約が多い……初の空中換装にキラも息を詰まらせる。

「大尉…どうぞ!」

ストライクがデッキを蹴って ジャンプする…ブースターを噴かし、相対速度を合わせながら、スカイグラスパーがエールパックを射出する。

ストライクのバックパックか らの誘導により、エールパックが装着され、翼が開き、機体がトリコロールに色づく。続いて切り離されたビームライフルとシールドを受け取り、空中換装を成 功させた。

「アイツ、空中で換装 を!?」
ニコルが驚愕の声を上げ、アスランも 息を呑む。

機動力の上がったストライク が、そのままスラスター噴かし、ビームサーベルでブリッツに斬り掛かる。

「はぁぁ!!」

グゥルのバーニアを噴かし応 戦しようとするブリッツは、機体を振りかぶり、左腕のグレイプニールを発射するも、ストライクはビームサーベルで斬り捨て、間髪入れずトリケロスのビーム サーベルを展開し、応戦する。

リンのヴァルキリーは、飛行 してきたルシファーに応戦するように対艦刀を抜く。

高機動をいかした近接戦を得 意とするヴァルキリーに対し、レイナは距離を保ったまま遠距離からの火力を重視した狙撃に徹する。

ルシファーとヴァルキリーは 互いの特性を考えれば、まったく逆の設計思想であり、レイナとリンの戦闘スタイルもそれに次ぐものだ。

だからこそ、自身の得意とす る間合いを取り合う。

イージスを牽制するようにス カイグラスパー二機が迫るが、イージスはイーゲルシュテルンで応戦する。

その時、今迄上空に退避して いたはずのインフェストゥスが急降下し、ストライクとブリッツの戦闘に割り込み、ミサイルを放った。

ニコルは咄嗟に右腕を引き上 げ、ミサイルを防ぐ…インフェストゥスが 体勢を崩し、右腕部から黒い煙を上げるブリッツの横を通り過ぎる。

しかし、ニコルはそれに気を 取られた。

バランスを崩したブリッツの 懐に一気に飛び込み、ビームサーベルを振り下ろす。

ブリッツの右腕が斬り落とさ れ、そのままグゥル上から蹴り飛ばすと、ブリッツのグゥルを乗っ取った。

《やったぜっ!》

トールの歓声が聞こえ、キラ は冷や汗を浮かべながらも苦笑した。

 

「うわぁぁぁぁ!!」

トリケロスとグレイプニール を失ったブリッツには既に戦闘能力はなく、そのまま真っ逆さまに落ちていくブリッツにアスランが叫ぶ。

「ニコル!! くそっ!!」

イージスはストライク目掛け ビームを放ち、シールドで防ぎつつもストライクもビームで応戦する。

「アスラン……っ!」

脳裏に、夕暮れのフェンス越 しの再会が過ぎる……戦いたくないのに、戦わなければならない……どうしようもない怒りがこみ上げてくる。

「はぁぁっ!!」

向かってくるイージスのグゥ ルを、ストライクのビームが射抜いた。

アスランは舌打ちしながら、 その爆発に巻き込まれないように一瞬早くグゥルとのドッキングを解除し、そのまま黒い煙を上げるグゥルをストライクのグゥルに衝突させた。

ストライクもまたドッキング を解除して飛び上がる。

その瞬間を狙って、MAに変 形したイージスのスキュラがストライクを狙う。

アレをまともに受ければ、一 溜まりもない…ストライクは間一髪でそれをかわすと滞空用の推力が切れたのか再度、アークエンジェルデッキに降下する。

降下と同時にゴッドフリート が火を噴き、イージスの左側面を掠った。

「くっ!」

MS形態に戻ったイージス は、足場を求めて付近の小島のような岩場に着地する。

もはやエネルギーは残り少な いはず…このまま撤退してくれ、というのがキラの本音であったが、それに反してイージスは小島に降り立つと、銃口を向ける。

何故……何故、自分達をそっ としておいてくれないのか………怒りにかられるキラのもとに、ムウからの通信が入る。

《キラ! IWSPを射出す るぞ!!》

ストライクのバッテリー残量 が残り少ないのを察して、ムウがIWSPをパージする。

キラはエールパックをパージ し、IWSPに換装すると、イージスの降り立った小島目掛けて降下していった。

 

小島に降り立ったイージス は、ビームライフルを構えるも、イーゲルシュテルンに狙い撃ちとなる。

エネルギーゲージに眼をやる と、残量を告げるアラートが響く。

「ちっ」

シールドで攻撃を防ぎつつ も、見る見るエネルギー残量が減っていく。鳴り響くアラートに舌打ちしながらも、レーダーが敵の接近を知らせる警告音を発し、ハッと顔を上げた。

「何!?」

IWSPに換装したストライ クが、上段に構えた対艦刀を振り下ろしイージスに斬り掛かってきたのだ。

「アスラン!!」
ライフルで応戦しようとするイージスの銃身を真っ二つに斬り裂き、ライフルが爆発する。

後方に飛ぶイージスに、それ でも容赦なくアークエンジェルからの攻撃は続く。

だが、ストライクがイージス を追撃するので、攻撃がやんだ。

《ヤマト少尉! 深追いはす るな!》
ナタルの指示も、今のキラには聞こえず、対艦刀を構えたまま、イージスに通信を繋ぐ。

「もう下がれ! 君達の負け だ!」

「何を……っ!!」

頭に血が昇り、カッとなって 操縦桿を強く握り締める。

怒りのままに右腕の内蔵式 ビームサーベルでストライクに斬り掛かるイージスに、ストライクも応戦する。

「やめろアスラン! これ以 上戦いたくない!」

ビーム刃はストライクを掠る こともなく、振り下ろされたビーム刃を左手の対艦刀で受け止め、右手の対艦刀を振り下ろすも、イージスはシールドでなんとか防ぐ。

接近戦では、明らかにストラ イクの方が有利なうえ、今のイージスはエネルギー残量がほとんど残っていないのだから。

だが、アスランは激昂しなが ら、シールドで対艦刀を弾く。

「何を今更! 撃てばいいだ ろっ! お前もそう言ったはずだ!!」

通信機越しに聞こえてくるア スランの叫びに、キラは眉を寄せる。

「アスラン……っ!」

苦悩に満ちる声……それさえ も、今のアスランの怒りを駆り立てるには十分だ。

昔から…ずっとキラに対し、 兄のように接していた自分を手酷く傷付けられた感覚だった。

何もできず、いつも自分に泣 きついたキラに、自分が負ける……

イージスのビーム刃とストラ イクの対艦刀が交わり、火花を散らす。

「お前も俺を撃つと、言った はずだ!!」

あの時…ラクスを引き渡した 時、互いにそう言い合った……なのに、こちらを攻撃しておいて煮え切らない口調に対し、アスランは憤りを隠せない。

本気になりきらないキラに対 し、屈辱を覚える……

二人の思いは何かもすれ違 う……既に、互いに殺し合うしか二人には残されていない。

左腕のシールドを捨て、左腕 にも内蔵式ビームサーベルを展開する。

だが、ストライクはそれを防 ぐとそのままイージスの顔面を、対艦刀を握った右の拳で殴り飛ばした。

激しい衝撃と共に吹き飛ばさ れるイージス。金属同士がぶつかり合い、激しい火花が散る。
地面に叩き付けられ、それと同時にPS装甲もダウンしディアクティブモードとなるイージス。

もはや、アスランには勝ち目 がない……唖然としたまま、振り上げられる刃を見詰める。

「アスラン!!」

通信越しに聞こえるキラの叫 びにも、もはや無反応だ…操縦桿を握っていたその手から力が抜ける。

「アスラン下がって……!」

その時だった…スピーカーか らニコルの声が飛び込んできたのは………

対峙する二機の間近から、ミ ラージュコロイドを展開していたブリッツが出現する。

『BLITZ』と名付けられ た機体故の電撃戦法……右腕を失い、左手にランサーダートを抱えたブリッツが、ストライク目掛けて走ってくる。

「はぁぁぁぁ!!」

ランサーダートがストライク に突き出される。

「っ!!」
息を呑むキラ。

あまりに突然であったため… キラの身体が無意識に…反射的に応戦する。

無意識に操縦桿を引いてスト ライクの上半身を僅かに屈めブリッツからの攻撃を避ける。

だが、既に戦士としての感覚 を研ぎ澄まされたキラの身体はさらにその先に行動した。

スローモーションのように振 り上げられていた二刀は……ゆっくりと弧を描き………ブリッツのボディ目掛けてクロスするように振り下ろされた。

「うわぁぁぁぁっっ!!!」

ニコルの絶叫……弾き飛ばさ れるブリッツ………

その光景を造り出したキラ も……助けられたアスラン自身も、声を出すことができず…ただ呆然と、スローモーションのように吹き飛んでいくブリッツを呆然と見詰める。

空中で戦闘を繰り広げていた レイナとリンも思わず、動きを止め…眼下で起きた光景に見入っていた……

「アスラン……逃 げ…………」

微かな声が響き……ブリッツ は、海中へとその機体を水没させていった…………

先程までの戦闘の砲火が嘘の ような静寂に包まれるキラとアスラン……

互いに、眼の前で起きた現実 を理解できないでいる………

舞い上がる水滴……大きな波 紋を拡げる海面………そして静寂…………それがまるで永遠に続くかと思われた……………

だが、次の瞬間……アスラン は絶叫した。

「ニコルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ」

呆然と立ち尽くすイージスに 降り掛かる水滴……その機体に響く音が、不協和音のようにアスランを打ちのめした………

 

 

 

 

 

澄みきった海の中を、それと は反する海底の闇にどこまでも堕ちていく黒い機体……

機体中に刻まれた傷跡から、 大量の泡が吹き出してく……

さらに深く…深く沈みゆく機 体……

やがて水圧が徐々に、傷つい た身体を蝕んでいく………

剥がれ落ちていく装甲…それ は海底の闇に黒い雪のごとく降る………

ひしゃげ、変形したコック ピットの中で…ニコルは静かに死を感じた………

脳裏に…プラントで最後に見 た母の顔が過ぎる……

 

「母さん……僕の…ピア ノ………」

 

遺言のように呟き、手を伸ば すニコル……

その時、ガシッという音とと もに機体が何かに掴まれた。

薄れゆく意識の中で…自機を 掴むMSの姿が見えた………

《まだ間に合う! 急 げ!!》

《了解! 死ぬなよ……ニコ ル!!》

知っている声が聞こえたよう な気がした………

だが、それを確かめることな く……ニコルの意識は深い闇の中へと落ちていった………

 

 

 

 

 

 

 

 

《次回予告》

 

戦場に消えた戦友………それ は、更なる哀しみを齎す。

狂気を胸にあいまみえる子供 達……

 

少年達は…少女達は命を懸け てぶつかり合う…

 

互いを憎み、互いに哀しみを 負う…その果てにあるものは……

刃が己が命を狙う時……その 先に思うものは…記憶か…それとも………

 

 

次回、「閃光の死闘」

 

業火を駆け抜けろ、ガンダ ム。

 


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