東の空が白く染まり、水平線から太陽が僅かに顔を覗かせる。

 

………悲劇と死闘の一 日………その始まり………

 

映えるような朝陽を背に、5 機のMSはアークエンジェルに襲い掛かろうとしていた。

「いくぜ!」

「……っ!」

吼えるようにディアッカがバ スターの超高インパルスライフルを構え、迷いを振り切るようにリーラもリベレーションのスナイパーライフルを放った。

 

「敵影5! 5時方向、距離 3000!」

「同方向より熱源接近! 数 2!」

慌しくシートに着いたCIC が、叫びを上げ、マリューが素早く指示した。

「回避! 取り舵!!」

遠距離から放たれたビーム を、アークエンジェルは船体を傾けて回避する…掠めたビームはそのまま海面を蒸発させる。

これが、戦いの狼煙となっ た。

「アンチビーム爆雷用意!  艦尾ミサイル発射管、ウォンバット装填! イーゲルシュテルン、バリアント起動!!」

ナタルの指示に、アークエン ジェルは素早く火器を起動させ、迎撃態勢に移行する。

「パイロットは!?」

「1号機、2号機…フラガ少 佐、クオルド大尉出ます! ストライクとルシファーは後部デッキへ!」

 

発進カタパルトが開き、ムウ の1号機が発進態勢に移行する。

「くそっ、このまま済むとも 思わなかったがな!」

毒づきながら、ムウはバイ ザーを下ろす。

「なんとか凌ぐしかないっす ね」

苦い口調でアルフが答えつ つ、発進OKを告げるパネルが表示され、ムウは操縦桿を引いた。

「ムウ=ラ=フラガ…出る ぞ!」

エンジンが唸りを上げ、ラン チャーグラスパーが発進する。

続けてアルフの2号機がセッ トされる。

「アルフォンス=クオル ド……いくぞっ!」

ムウを追うように、エールグ ラスパーが発進していく。

片方のカタパルトでは、スト ライクとルシファーがそれぞれ発進準備を進めている。

IWSPを装着し、さらには ビームサーベルがセットされる…Xナンバー相手である以上、実剣はあまり役に立たない……そしてエール用のビームライフルとビームコーティングシールドを 装着する。

コックピット内で、キラは苦 々しい思いでいた……自分が、アスランの仲間を殺してしまったせいで、彼らは絶対に自分達をこのまま見逃さないということを………

「キラ」

不意に、通信からレイナの声 が聞こえてきた。

「……戦えるの……今の貴方 に…」

虚を衝かれたようにキラが息 を呑み込む……だが、キラの答は一つしかない。

「………うん」

選択の余地など最初からな い……たとえ、アスランを撃ってでも、皆を護らなければならないのだから……

その言葉に、呆れたのか、そ れとも無駄だと悟ったのか、レイナはそれ以上言葉を掛けようとはせず、二機はそのまま後部デッキに向かって降り立った。

 

 

バスターとリベレーションの 砲撃が続く中、徐々に接近する3機。

アスランはビームライフルを 構え、奥歯を噛み締める。

同じく、後部デッキに立った ストライクのコックピットで、イージスの姿を確認し、キラは痛々しい視線を浮かべた。

「でえぇぇぇぇぇ!!」

先陣を切るデュエルがビーム を放ち、続けてイージスとヴァルキリーも攻撃してくる。

「バリアント…… てぇぇぇぇ!!」

アークエンジェルから放たれ るバリアントの閃光を、5機は散開して回避する。

続けて艦尾からミサイルが放 たれるが、デュエルやヴァルキリーはレールガンや機銃を使って撃ち落し、イージスもビームを放ちつつストライクとの距離を縮めていく。

デッキに立ったストライクが ビームライフルとレールガンを駆使して狙撃する。

3機はそれらの火線を掻い潜 り、接近してくる…ルシファーがスラスターを噴かし、飛び上がる……頭上からビームライフルを構え、狙撃する。

アスランは舌打ちしながら シールドでビームを受け止める。

イージスの援護にヴァルキ リーが回り、ビームマシンガンを乱射してルシファーに迫る。

レイナはシールドで受け止め つつ、距離を取ってビームキャノンを放つ。

その間にもバスターとリベ レーションはアークエンジェルに向かって砲撃を続行する。

近接戦を主眼とするデュエル やヴァルキリー、イージスがMSへの攻撃を引き受け、バスターやリベレーションは火力を活かしてアークエンジェルを攻める……二機は左右に分かれ、挟むよ うに激しい攻撃を執拗に繰り返す。

アンチビーム爆雷やラミネー ト装甲に阻まれつつも、ダメージは蓄積していく。

「今日こそ叩き落してや るっ!」

「これ以上、させるか よっ!!」

二機目掛けて、スカイグラス パー二機が左右に離れ、攻撃を仕掛ける。

アグニをバスターは間一髪で 避け、横をすり抜けるスカイグラスパーに向かって狙撃する。

リベレーションはシールドで ビームを受け止めつつ、バルカンとグレネードで応戦する。

澄んでいた青空に暗雲が立ち 込め、周囲が暗く淀んでいく。

だが、それでも戦闘は激しさ を増す。

「ええぇい!!」

イージスが接近し、ビームを デッキ上のストライクの放つが、キラは歯噛みし、シールドで受け止めつつデッキを蹴り、バーニアを噴かしイージス目掛けて飛び上がる。

だが、横からデュエルが5連 ミサイルとシヴァを放ってくる。

「えぁぁぁぁ!!」

イザークの気迫を込めて放た れる攻撃を、キラは反射神経を駆使し、空中でストライクの機動を変える。

眼前でミサイルが爆発し、閃 光がコックピットを包み込む。

 

「ヘルダート、 てぇぇぇっ!!」

アークエンジェルから牽制す るように後部からミサイルが一斉に発射される。

「そんなモンで!!」
バスターが二丁の銃を合体させ、対装甲散弾砲でミサイルを撃ち落す。

「「もらったぁぁ!!」」

一瞬無防備になったバスター を二機のスカイグラスパーが狙う。

「ディアッカ!!」

だが、そこへリベレーション が割り込み、アグニとビームをシールドで受け止めるも、ビームの熱量にシールドが融解し、二機は離脱する。

「フザケるな!!」

横を抜ける二機に向かって、 バスターがミサイルを放った。

追尾してくるミサイルに、ム ウとアルフは舌打ちし、高度を下げる。

捉えられる瞬間、海面ギリギ リにまで降下した二機は瞬時に高度を引き上げ、上昇する…その機動を追えず、ミサイルが海面で爆発する。

銃撃戦を繰り返すルシファー とヴァルキリー……ヴァルキリーは可変ブースターとスラスターを駆使し、小刻みに動きながらビームマシンガンを放つ。

ルシファーはシールドで受け 止めつつ、距離を詰めようとするヴァルキリーに対し、バルカンで牽制する……ヴァルキリーは左腕の突撃機銃を乱射する……逸れた弾はアークエンジェル船体 に着弾し、爆発を起こす。

レイナは舌打ちしながら、ス ラスターを噴かし、ビームキャノンを連射しながら突っ込んでいく……ビームサーベルを抜き、斬り掛かるルシファーに対し、ヴァルキリーはビーム対艦刀で受 け止める……エネルギーがスパークし、レイナとリンは互いに歯噛みした。

 

イージスが一気にアークエン ジェルに取り付き、イーゲルシュテルンやヘルダート発射口を正確に狙撃する。

爆発がブリッジを激しく揺さ ぶる。

激しい誘爆がに轟き、アーク エンジェルは煙を上げる。

「イーゲルシュテルン4番、 5番被弾!」

「ヘルダート発射管、隔壁閉 鎖!!」

被害状況が次々と報告され、 クルー達の間にも切迫した雰囲気が漂う。

「アラスカは!?」

縋るようにマリューは通信席 に振り仰ぐ。

「ダメです! 応答ありませ ん!!」

カズィが泣きそうな表情で答 え、マリューが歯噛みする…その間にも、ナタルは素早く応戦の指示を出す。

「ゴッドフリート照準! 当 てろよ…てぇぇぇぇぇ!!」

勢いよく放たれたゴッドフ リートを、イージスはグゥルを小刻みに動かしながら回避する。

集中力が高まっている今の イージスには、余程のことでは当たらない。

ストライクは未だ、デュエル 相手に苦戦していた……ビームをかわしつつ、デュエルが距離を縮めてくる。

「許せないんだ よぉぉぉ!!」

自身のプライドを傷付け、ニ コルをも殺した相手………デュエルはビームサーベルを引き抜き、ストライクに斬り掛かる。

これ以上デュエルを近付けさ せないために、ストライクもビームサーベルを抜き、飛び上がりデュエルの刃を受け止める。
「お前はぁぁぁ!!」

怒り任せに振り下ろされる デュエルの刃は、以前よりも重みと強さを感じさせる。

性能でいえば、デュエルの方 が僅かに劣っているというのに……キラは明らかに押されているように感じた。

 

ストライクとデュエル、ルシ ファーとヴァルキリーが戦闘を繰り広げる中、イージスはグゥルを離れ、アークエンジェルの直上に舞っていた。

イーゲルシュテルンの弾幕 も、より垂直には迎撃できない。

「直上にイージス!」

「何!!?」

トノムラの叫びに、ナタルが 絶句する。

モニターには、真上から見下 ろす赤い機体が映える。

空中でMAに変形し、スキュ ラを放った。

「面舵!!」

真上からでは、剥き出しと なったブリッジはいい的だ……ノイマンが必死の思いで舵を切る。直撃は避けられたが、スキュラは左側面を見事に抉る。

バリアントの砲身が爆発し、 船体に激しい誘爆が起こり、コンソールがショートし、クルー達の悲鳴が上がる。

イージスは落下しながらMS形態に戻り、グゥルの上に飛び乗る。

黒い煙を上げるアークエン ジェル……被害は深刻だ。船体が大きく傾き、急速に高度が落ちている。

「プラズマタンブラー損傷!  レビテーター、ダウン!」

「揚力、維持できません!」

「姿勢制御を優先して!」

「緊急パワー、補助レビテー ターに接続!!」

次々と上がる被害状況に対処 するマリューやナタルの口調も焦りがちだ……その時、唐突にトールが副操舵席から立ち上がった。

「出ます!!」

焦燥と怒りを滾らせた表情 に、クルー達が驚きの声を上げるが、それに構わずトールはインカムを外し、走る。

「危ないですよ! このまま じゃ!!」

「待ちなさい、ケーニヒ二等 兵………!」

マリューが慌てて静止させよ うとするが、被弾の衝撃がまたもやブリッジを襲い、言葉がもぎ取られる。

そのままブリッジを飛び出し たトールは、一気に格納庫に向かっていった。

パイロットスーツに着替え、 被弾箇所の修理に走り回る整備士達の間を抜け、トールはインフェストゥスのコックピットに飛び乗った。

彼の胸中には、敵への怒りが 渦巻いていた……そして、同時に自分が艦を護らねばという使命感にかられていた。

カタパルトに移動し、発進態 勢に移行する中で、ヘルメットのバイザーを下ろす。

《無茶はすんじゃねえ ぞっ!》

「大丈夫です!」

気掛かりそうなマードックに 力強く答え、開いていくハッチを睨む。

トールは、本人も気付かぬう ちに自信と慢心を履き違えていた……いくらシミュレーションをこなそうとも、実戦においては気休めにしかならない。しかし、今のトールにそんな事を理解す る余地もなかった……リニアカタパルトがインフェストゥスを打ち出し、Gを感じながら、トールは出撃した。

 

 

「くそっ!」

一旦デッキに着地したストラ イクのコックピットで、キラは焦るように歯噛みし、再び飛び上がる。迫ってくるデュエルに向けてイーゲルシュテルンで牽制し、ビームを撃つが、デュエルは グゥルから飛び上がり、攻撃をかわす。

そのまま重力に引かれながら も、デュエルはストライクに迫った。

「っ!!」

「このおおっ!!」

息を呑むキラに向かって、鬼 気迫る表情で、デュエルはコックピット部分に思い切り蹴りを叩き込んだ。

シールドでなんとか防いだも のの、その衝撃は凄まじくストライクはそのまま重力に捕まり、落下していく。

キラはなんとか操縦桿を引い て態勢を立て直すと、デュエルがグゥルに飛び乗る瞬間を狙い、トリガーを引いた。

レールガンとビームライフル が火を噴き、レールガンがグゥルを…ビームがデュエルの右脚を撃ち抜いた。

「何!?」

一拍置いた後、右脚が爆発 し、デュエルは空中に投げ出される。

「くっそぉぉぉ!!!!」

デュエルは落下しつつも、最 後の抵抗とばかりにシヴァを連射する。

ギリギリでかわし続けるスト ライクだったが、一射がとうとうストライクが手にしていたビームライフルを掠る。

キラはハッとライフルを捨 て、シールドを掲げて間一髪のところで爆発を防いだ。

「キラァァァァァ!!!」

態勢の崩れたストライクに向 かってイージスが容赦なくビームを放つ。

寸前でキラはスラスターを噴 かし、シールドを掲げて加速する……だが、イージスはグゥルとのドッキングを解除し、グゥルをストライク目掛けて突撃させる。

次の瞬間……イージスから放 たれたビームがグゥルを貫き、ストライクの眼前で爆発し、それによってストライクは吹き飛ばされる。

「キラ……っ!」

微かに注意の逸れたレイナ は、眼前に迫ったヴァルキリーの蹴りをまともに喰らってしまった。

弾き飛ばされ、衝撃がレイナ の身体を襲う。

「……他所見などっ!」

追い討ちをかけるようにビー ムマシンガンを乱射する。

ビームの銃弾が降り注ぐ中、 レイナはその瞳の中に、ヴァルキリーを映した瞬間、トリガーを引いた。

ビームキャノンから放たれた 二条のビームが真っ直ぐに伸びていく。

回避できない……レイナはそ う踏んだが、リンは乱暴に操縦桿を引き戻した。

刹那、バーニアが逆噴射し、 ヴァルキリーのボディを後方へと推し戻す……だが、僅かに遅れたビームマシンガンが撃ち抜かれ、爆発する。

爆発した瞬間、暴発した弾丸 がルシファーに襲い掛かり、オーバーハングパックに着弾した。

「……ちっ!」

レイナは舌打ちし、素早く オーバーハングパックをパージする。

後方での爆発に、ルシファー は島へと弾かれる……その後を追い、ヴァルキリーも降下していく。

雷鳴が轟き、豪雨が降り注 ぐ。

付近の島に叩き落されたスト ライクは、木々を薙ぎ倒し、不時着する……落下の衝撃の影響か、なかなか立ち上がれないでいたストライクにイージスが迫る。

落下スピードがのって振り下 ろされた刃を、ストライクはかろうじてシールドで受け止めた。ビームが干渉し、火花が散り、キラとアスランは歯噛みする。

そのまま弾き合い、互いに ビームサーベルを持ち、激突する。

 

 

火災が起き、煙を上げるアー クエンジェル……船体が大きく傾き、高度を維持するのも困難であった。

ブリッジには先程から警告音 が鳴り止まず、コンソールも不調が続く。

エンジン部分では、マードッ ク達が懸命に消火活動を行っているが、遂に高度を維持するのも限界に達したのか、ノイマンが叫ぶ。

「姿勢制御不能!!」

「着底する! 総員衝撃に備 えよ!!」

大地が迫り、ビリビリと振動 する中で、サイが声を荒げる。

「2時方向にバスター!」

高度を落としていくアークエ ンジェルに突っ込むようにバスターが回りこんでくる。

「ゴッドフリート、バリアン ト照準!」

ナタルが叫ぶが、今はそれに 反応できる者はいない。

眼前に迫る島の緑の木々に向 かって、アークエンジェルは突っ込んだ。

大地は抉れ、木々を薙ぎ倒し ながらアークエンジェルは不時着する…衝撃が船体を襲い、クルー達は悲鳴を噛み殺し、必死に耐える。

島に乗り上げるような形で停 止したアークエンジェル……

クルー達が未だ、その衝撃か ら立ち直っていない隙を狙い、両脇に砲を構えたバスターが向かってきた。

「これでっ!」

真っ直ぐにブリッジを狙おう とするバスター……だが、そこへムウのスカイグラスパーが突っ込んできた。

「やらせるかぁぁっ!」

雄叫びを上げ、ビーム砲が グゥル目掛けて連射される。

ビームがグゥルを貫き、ディ アッカは舌打ちしながら飛び上がる。

空中で二丁を合体させ、対装 甲散弾砲を放ち、同時にスカイグラスパーからもアグニが放たれた。

両者の放ったビームはすれ違 い…次の瞬間、バスターは右腕を……スカイグラスパーは左翼を吹き飛ばされた。

ムウは歯噛みしつつ、操縦桿 を引き、海面へと降下していく機体の機首を持ち上げる。

煙の尾を引きながら、スカイ グラスパーはなんとか海面に着水した。

「ディアッカ!」

被弾したバスターの援護に向 かおうとしていたリベレーションは、アークエンジェルのブリッジに向かってスナイパーライフルを構える。

「やらせない……っ!」

ニコルのように死なせはしな い……必死の思いで構えるリベレーションに向かって、ビームの雨が降り注いだ。

「……っ!」

気付くのが後少し遅れたら、 間違いなくやられていただろう……咄嗟に身を捻ったリベレーションは、ビームにライフルと右腕を撃ち抜かれた。

後退したリベレーションに向 かってアルフのスカイグラスパーが旋廻してきた。

「……もらったっ!」

アルフがトリガーを引いた瞬 間、ビームライフルとビーム砲が連続で発射された。

真っ直ぐに向かってくるビー ム……リーラは、瞬時に回避が不可能と悟ると、左腕に装着していたシールドを投げた。

回転しながらシールドは、 コックピットに伸びていたビームを打ち消し、アルフのスカイグラスパーに襲い掛かる。

「なっ……!」

その攻撃は予想外だったの か、アルフは操縦桿を引き上げる。

シールドは機体下部を掠め、 エールパックに直撃した。

咄嗟にパージするも、エール パックの爆発に吹き飛ばされ、スカイグラスパーはアークエンジェルのデッキ目掛けて落下していく。

歯を喰い縛りながら、アルフ は機首を持ち上げ、エンジンを逆噴射させる。

機体を大きく傾け、スカイグ ラスパーはデッキを削りながら、不時着した。

そして……リベレーション は、コックピットを狙ったビームだけは打ち消せたものの、他はどうすることもできず、まともにビームを受ける。

頭部、左肩、右脚、グゥルが 次々と撃ち抜かれ、爆発が起こり、リベレーションのボディが吹き飛ばされた。

「きゃぁぁぁぁぁっっ!!」

リーラの悲鳴とともに、リベ レーションはアークエンジェルより離れた森の中へと落ちていった………

「リーラ! くそっ!」

その光景を見たディアッカ は、必死に機体を動かそうとするも、被弾したバスターは動けない。

機体の状態を告げるランプが エラーを表示している。

「ハイドロ消失、駆動パルス 低下………動けっ!」

必死に操縦桿を動かすが、そ の時コックピットにロックオンの警告音が響く。

ハッと顔を上げると、落ちた 場所のすぐ眼前に着地したアークエンジェルのゴッドフリートの砲口が、真っ直ぐこちらに向けられていた。

動けない今の状態でアレを喰 らえば、間違いなくやられる……冷や汗を流しながら、ディアッカは諦めたようにハッチを開けた。

 

満身創痍のアークエンジェル は、動けないバスターに向かって照準を合わせた。

その時、突如バスターのコッ クピットハッチが開き、中から赤いパイロットスーツを着た人物が両手を挙げて出てきた。

「投降する気か?」

ナタルが驚きの声を上げ、マ リューも暫し困惑した表情を浮かべた。

 

 

 

島の中央部では、今も激しい 戦闘が続いていた。

………白と赤……黒と 黒………4つの機体が激しい火花を散らしながら激突する。

互いに斬り合い、ぶつかり合 い、離れる……その繰り返し………

4つの機体に刻まれる傷跡 が、戦いを物語る。

「キラァァァァ!!」

「うぉぉぉぉぉ!!」

アスランが吼え、ストライク に斬り掛かる……キラも必死にそれを受け止める。

互いのビームサーベルをシー ルドで受け止め、エネルギーがスパークする。

その横で、ルシファーとヴァ ルキリーも熾烈を極める戦いを繰り広げる。

「リィィィィンンン ン!!!」

「レェェイ ナァァァァ!!!」

互いに相手の名を叫びなが ら…相手を求めるようにぶつかり合う。

ルシファーの放ったミサイル を突撃機銃で撃ち落し、爆発に紛れて接近してくるルシファーがビームサーベルを振り上げると、対艦刀を薙いで受け止める……互いの真紅の瞳に火花が彩る。

アスランはもはや、出撃前の 冷静さを欠き、たた眼前の敵を討つためだけに必死の形相で攻撃を続ける。

「お前がニコルを………」

互いに推し合い、一気に離れ る。

「ニコルを殺し たぁぁぁぁ!!」

鬼気迫る表情でイージスを変 形させ、スキュラを放つ。

高出力のビームは、ストライ クとルシファーの間を掠め、二機は態勢を崩す。

キラは半ば敵わないと諦め掛 けていた時……

《キラァ! レイ ナァァ!!》

二機のコックピットに、不意 に通信が飛び込み、二人はあさっての方角を見やると、上空からインフェストゥスが急降下してきた。

「あのバカ……!」

レイナは瞬時にまずいと悟っ た……それはキラも同じようで、すぐさま叫んだ。

「トール!? ダメだ、来る なぁぁ!!」

キラの必死の叫びも聞こえ ず、トールはサイドワインダーを発射する。

ミサイルがイージスとヴァル キリーの足元に着弾し、大地を抉る。

イージスは高く飛び上がる と、インフェストゥス目掛けて、躊躇うことなくシールドをブーメランのように飛ばした。

遠心力をつけ、回転しながら 一直線に向かってくるシールドは、インフェストゥスの左翼を抉り取った……

「うあぁぁぁっ!」

悲鳴を上げるトールの前に、 黒い影が覆い被さった。

キャノピー越しに、モノアイ を不気味に光らせるヴァルキリー……トールはただ呆然と見ているしかできなかった。

「戦闘機の分際で……っ!」

戦いを邪魔されたことに怒り を駆り立てられたリンは一気に飛び上がり、インフェストゥスのコックピット目掛けて膝を突き上げた。

振り上げられる膝……砕け散 り、本体から吹き飛ぶコックピット……

キラとレイナは、その瞬間を 鮮明に捉えた……本体が爆発し、コックピットは粉々に空中で砕け散った……爆発の閃光が煌く。

レイナは顔を逸らし、キラは 絶叫した。

「トォォルゥゥゥゥゥゥ!!!」

 

 

 

各機の状態を告げるパネ ル……その中で、インフェストゥスの反応が途切れた。

 

『SIGNAL LOST』

 

「え……?」

今まで見たことのない表示 に、ミリアリアは小さな声を漏らす。

また故障か……と、ミリアリ アは思った。

先程から、コンソールも計器 類も全てエラーだらけだ……だからこれも、単なる不調だろうと思い、深く考えようとはしなかった……

頭にあるのは……いつも底抜 けに明るいトールの顔だけであった………

 

 

 

雷鳴が轟き、佇む4機が影を 帯びる。

キラの呼吸が荒くなる……震 える手で操縦桿を握り締め、眼前の機体を睨んだ。

その眼には、はっきりとした 怒りと憎しみが漂っていた。

「アァスラァァンンンン ン!!!」

ストライクが、今までにない スピードでイージスに突進し、負けじと突っ込んできたイージスのビームサーベルをシールドで弾きつつ、ビームサーベルを振り上げる。

イージスの左腕が斬り飛ばさ れ、跳び上がったストライクはその勢いのままイージスの顔面に蹴りを入れる。

「ぐぅ……っ!」

吹き飛ばされ、衝撃にうめく アスラン……さっきとは違う鬼神のような戦闘能力に、アスランはさらに怒りを掻き立てられる。

スラスターを噴かし、大地と の激突は避け、バックステップで後ろへと跳ぶ。

だが、ストライクはなおも追 い縋ってくる。

エネルギー残量を知らせる警 告音が鳴るが、それすらも耳に入らない。

「俺が……」

感情が高ぶる……溢れ出すよ うに自身の中で何かが沸き上がってくる

「……お前を討つっ!!」

刹那……アスランの中でなに かが弾け飛んだ。

怒りに歪むようだった視界が 不意に鮮明さを取り戻し、もはや敵機の装甲についた傷さえも判別できそうなほど視界がクリアになる。

自身の動きと相手の動きが瞬 時に頭に入ってくる……飛び上がったイージスは、残った2本のクローの先端にもビームサーベルを展開し、ストライクに襲い掛かった。

 

 

「うぁぁぁぁぁっっ!!!」

レイナは吼えながらヴァルキ リーに向かって加速する……仇を討つためではない。

ただ単に、眼の前の相手を殺 すことだけ……それは相手も同じであった。

「くぉぉぉぉぉっっ!!!」

中央でぶつかり、互いに弾か れる……そのままバックステップで跳躍し、空中でスラスターを噴かし、ルシファーがビームサーベルを構えて直進する。それに対し、ヴァルキリーも正面から ぶつかるように加速し、対艦刀を水平に構える。

二機が衝突し……すれ違 う……刹那、ヴァルキリーの左肩アーマーが斬り飛ばされ、ルシファーは左脇腹を抉り取られた……

だが、そんなダメージを気に も留めず、瞬時に身を翻し、激突する。

 

 

互いにに濡れ……

互いにに酔い………

互いにに狂う…………

 

 

血塗られた天使と戦乙 女…………神に捨てられし少女達は刃を交え合う……………

 

 

 

刃を交える度に脳裏を駆け巡 る映像………

レイナは歯噛みしながら、相 手を睨む。

 

――――あんたは私の 何………私の何を知っているの…………!

 

苛立ちと焦燥にかられ、ルシ ファーはビームサーベルを振り下ろす。

刃がヴァルキリーの左腕を斬 り落とす……だが、ヴァルキリーもまた対艦刀を振り上げ、ルシファーの左腕を斬り飛ばす。

二機の間に舞う腕……ルシ ファーは、シールドの表面に映った自身に向かってビームサーベルを突き刺した。

刹那………レイナの中で何か が砕け散った………

シールドを貫通し、ビームの 刃がヴァルキリーの頭部右側面を掠った。

ヴァルキリーは右脚を振り被 り、ルシファーに向かって蹴り上げた。

弾き飛ばされるルシ ファー………だが、コックピットでレイナは衝撃に耐え、そのまま無理矢理姿勢を戻し、ビームサーベルを振り被った。

リンも応戦するように対艦刀 を薙ぐ。

 

 

―――――ドクン……

 

 

両刃がぶつかり合った瞬 間……レイナとリンは同時に身体に衝撃が走り、急激な吐き気に襲われた。

 

 

―――――拒絶反応………

 

 

二人は瞬時に悟ると同時に、 離れた。

「はぁ、はぁ………」

呼吸を荒く乱しながら、レイ ナは震える手で操縦桿を握る。

(戦うなという の…………?)

自分達が戦うことは、間違っ ていると言っているのか………なら、自分は何だ?

自分は何故存在している…… 戦うことでしか自身を知りえないなら…何故、戦うことを拒否する………ならば、そんな感情など要らない!

否定するような感覚を振り払 い、レイナは相手に向かって突っ込む。

もう……『レイナ=クズハ』 など必要ない…………レイナの中で、何かが切り替わった。

それは、リンにも同じであっ た。

(何故……何故、拒否す る………私は所詮、まがいもの………レイナを…オリジナルを殺すか…殺されるしか赦されないのに………!)

戸惑いと葛藤が渦巻く……戦 うことしか、自身の存在意義を赦されない………そんな自分から戦うことを否定する…ならば、自分はどうすればいいのだ………答えは決まっていた。

迷うぐらいなら……感情など 要らない!

かなぐり捨てたようにリンは 相手を睨む。

『リン=システィ』としてで はない………ただの人形として………まがいものとして…………

互いに感情を捨て去り、レイ ナとリンはぶつかり合う………

 

 

「ああああああああ あっ!!」

もはや疑問という概念すら持 てない感情の叫びに応じ、イージスが殴り掛かるように斬りつけた。

ストライクの左腕をシールド ごと斬り飛ばした。

だが、直後にイージスの頭部 が突き落とされたが、構うことなく脚を振り上げ、コックピットを狙って斬りつける。

後退するストライクのコク ピットハッチが抉れて、中が伺えそうなほどの亀裂が走る。

血に飢えた獣のように激突す る二機…怒りに狂い、凄惨な斬り合いが続く。

「アスラァァァァンンンンン!!!」

「キラァァァァァァァァァァ!!!」

果てなく続くかと思われた戦 いにも、遂に終止符が落ちようとしていた。

MA形態に変形したイージス が、ストライクの懐に飛び込み、残された三本のクローでス トライクをがっしりと掴み掛かった。

――――殺った……!

零距離からのスキュラを受け れば、ストライクは保つまい。

勝利を確信したアスランはト リガーを引く……だが、スキュラの砲口は微かに瞬いただけで終わる……アスランは、一瞬何が起こったか解からなかった。そこで初めて、先程から鳴り続けて いたエネルギー残量を告げる警告音に気付いた。

ストライクに掴み掛かってい るイージスのフェイズシフトが落ち、灰色に戻る。

「……っ!!」

視界の中、抑え込まれたスト ライクが身じろぎした。

モニターを睨みながら、歯軋 りする……後一歩というところまで追い詰めたのに、もはや攻撃する手段がない……だがその時、不意にアスランは思い至った。

――――武器なら、ある。

いや……本来は武器として使 うものではないが、冷徹な光を宿すアスランは躊躇うことなくコンソールの中のあるキーを押すと、右側から筒状の部品が突き出してきて、継ぎ目がスライドし てテンキーが現れた。

アスランは迷うことなく四桁 の数字を入力し、モニターの画面に『10:00』という数字が表示され、カウントを開始する。

即座に上部のハッチを開き、 機体上に這い上がった。背部のバックパックから機械の羽を引き出し、機械を蹴ってぬるい風と雨の吹く空を飛ぶ。

見下ろす眼下には、二つの機 体が連なっている。

僅か10秒が、アスランには 長く感じる……次の瞬間、閃光が視界を覆い、全身を衝撃に吹き飛ばされ、アスランの意識は途絶えた………

 

 

閃光を発する数分前……レイ ナとリンは狂った獣のようにぶつかり合っていた。

互いに感情をかなぐり捨て、 ただひたすら『相手の死』と『己の死』を求める………

空中で軌跡を描きながら、二 機は何度もすれ違い、互いを斬り刻む。

レイナは弾の尽きたミサイル ポッドをパージし、ヴァルキリーにぶつける。

リンは残った右肩のバーニア とスラスターを使い、襲い来るポッドを避け、そのまま加速し、ルシファーに体当たりする。

衝撃に呻きながら、ルシ ファーはヴァルキリーに向かって右脚を振り上げ、蹴り飛ばす。

激しい火花を散らすルシ ファーとヴァルキリー………先程よりもさらに熾烈を極める戦闘に見入るリーラ……

吹き飛んだ先が森であったの が幸いしたのか、リベレーションのボディは木々の枝に引っ掛かり、僅かに勢いが相殺され、叩き付けられずに済んだ。

ヘルメットのバイザーが割 れ、額から微かに鮮血を流しながら、リーラは呆然と戦いに見入る……

ただ、相手だけを求め戦い合 う姿……それは、人間という生物の本質を表しているようであった…………

弾き飛ばされたヴァルキリー に向かってバルカンを撃ちながら突進するルシファー……だが、ヴァルキリーは敢えてバルカンの中に突っ込み、ルシファーに向かって対艦刀を振り下ろす。

ルシファーの頭部の右眼が抉 られ、微かにボディを掠る……お返しとばかりにビームサーベルを振り上げ、右脚を斬り飛ばす。

ただ一心に殺し合う姿……… その凄惨な戦いこそ、彼女達の望んだもの………

 

「………違う」

 

リーラはポツリと呟く。

こんな事…やはり間違ってい る……胸に痛みが走る。

姉妹が互いに殺し合う……違 う、こんなことを望んでいない。

心が悲鳴を上げる……そう だ、誰を殺しても、誰も生き返りはしない。

殺されたから殺しても……何 も変わらない………止めなければならない。

戦いを……だが、もはや自分 には成す術がない。

そして……上げた視界の中 で、彼女は信じられない光景を眼にし……次の瞬間、凄まじい閃光が彼女の視界を包み込んだ………

 

 

 

もはや互いに満身創痍のルシ ファーとヴァルキリー………

エネルギー残量を告げる警告 音も、機体のダメージを知らせるエラー音も、レイナとリンには関係ない。

ルシファーが右翼を失い、 ヴァルキリーはスラスターを破損する。

ヴァルキリーが殴り付け、ル シファーがボディで体当たりする……そして互いに斬りつける。

「リィィィィンンンンンン!!!!」

「レェェイナァァァァァァ!!!!」

もはやこれが最後………互い に力など残っていない。

真っ直ぐに突き出される 刃………狙うは相手のコックピット…………

刃の先端が中央で掠り合い、 火花が散る。

モニターに迫る刃が、互いの 瞳に映った瞬間………

 

 

ルシファーのビームサーベル がヴァルキリーの胸部を貫き……

ヴァルキリーの対艦刀がルシ ファーのコックピットを貫いた………

 

 

次の瞬間………下部から発生 した閃光に二機は呑み込まれ……閃光の中に消えていった……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《次回予告》

 

途切れた無線……戻らない者 達…………

それが意味するのは………

 

最悪の結末……あの時、何が 起こったのか…何を望んだのか………

それすらもはっきりと解から ない………

 

子供達は何を思い、何処へ向 かおうとするのか………

 

次回、「慟哭」

 

嘆く心…受け止めろ、ガンダ ム。



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