機動戦士ガンダムSEED 

TWIN DESTINY OF  DARKNESS

PHASE-31  悪意

 

 

 

アークエンジェルの通路を、 マリューとナタルが揃って歩いていた。

マリューの表情には、苦悩と 疲労が見て取れる。

遂先程…ようやく統合作戦部 から出頭指示が出たばかりだ……数日間待たされ続け、やっとかというところに、捕虜にしたザフト軍パイロットとのいざこざが報告されたのだ。

「捕虜をいつまでも医務室に 置いておいたのが間違いでした」

淡々と…事務的に告げられる 口調に混じる糾弾……それを背中で受けながら、マリューは言い返そうとはせず、黙って聞くのみだ。

もっとも……あの捕虜に関し てはマリューも迂闊だった。IDの照合結果、プラント最高評議会に名を連ねる者の血縁と知り…上層部もすぐに捕虜の受け取りにくるものとばかりに思ってい たからこそ、せめてもと手当てをさせたのだが……

「ましてやそこを一時でも無 人にするなどと……先の戦闘で、兵達も動揺しているのです。当然あのようなことが起こり得ることを、認識しておくべきでした」

「……そうね」

JOSH−Aに辿り着くまで に潜り抜けてきた幾多の戦闘……だが、その最後の戦闘に関しては最大のものであったと同時に、苦いものがこみ上げてくる。

ここまで艦を護ってきた一番 の功労者達を見捨てて……いや…地球に降りてからの戦いは、まさに激戦というに相応しい戦いの連続であった…冷静に考えてみれば、よくぞ辿り着いたとさえ 思う。

それなのに、本部は援軍も補 給さえ寄越さず……挙句の果てには到着したクルー達を艦内に閉じ込める始末……そう考えるたび、マリューの心中に暗い感情が浮かんでくる。

確かに…自分は技術士官で、 戦術などとは程遠い分野しか学んでおらず、しかも臨時で艦長に就いた……しかし、クルー達はそんな頼りない艦長である自分に付いてきてくれた……せめて、 それに報いようと必死にアラスカを目指したのに、本部はそれさえもどうでもいいことのように捉えているように感じる。

「そうでなくとも、これでは まるで捕虜に、脱走してくれと言っているようなものではありませんか」

「ええ……」

未だ、背中で続くナタルの批 判にも、マリューは特に無反応だった……捕虜の問題についても、本部からしてみればどうでもいいと考えているからこそ、なんの指示も出さないのではない か……思わずそう勘ぐってしまう。

ならば……自分は何のために ここまで必死にやってきたのだ……ヘリオポリスで必死にG開発に情熱を燃やし、そしてザフトに対する手段として……開発したGの半数以上を奪われても…… 残った最後のGを失ってでも必死の思いでここまで来たというのに……無力感と虚脱感に襲われるマリュー。

「この件も報告せざるを得な いでしょう」

「そうね、それもツケておい て」

もっとも……戦死した一兵士 の恋人が捕虜を襲った……そう報告したとて、本部がまともに取り合うとも思えない……そう思うと、真面目に答える気も失せてしまう。

投げやりな態度に、ナタルは 自分への皮肉と取ったのか……表情を尖らせて抗議する。

「艦長……私はなにも、個人 的感情からあなたを非難しているつもりはありません」

その叱咤に近い口調に、マ リューもようやく振り返ると……ナタルは苛立ちと困惑を浮かべていた。

「私が申し上げたいのは、我 々にとって規律は重要なものであり、野戦任官だろうが緊急事態だろうが、それは変わらないということだけです」

「解かってるわ…と、言いた いところだけど………」

規律で考え……MIAとなっ た彼らの死も、早くに割り切れといいたいのだろう……だが、そう簡単に割り切れるほど、マリューは冷静ではいられない。

しかし…そんな思いも、ナタ ルにはじれったいと考えたのか……眉が吊り上がる。

「軍には、厳しく統制され、 上官の命令を速やかに実行できる兵と、広い視野で情勢を見据え、的確な判断を下すことのできる指揮官が必要です。それがなくば、隊や艦は勝つことも生き残 ることもできません」

ナタルの言葉は…まさに軍の マニュアルに載っていそうな内容そのものだ……そしてそれが、彼女の行動理念でもあるし、それに反することが許せないのだろう。

そう考えれば、彼女のように 生きられたら、さぞこの世は単純に生きられるだろう…だが、そう生きられないのが人なのだ。

もしそれが艦長としての責務 なら、自分には向いていないと改めて思ってしまう。

少なくとも、マリューにはナ タルのような冷静で的確な判断が必ずしも下せるとは思っていない。ラクスを人質にした時でさえ、マリューにはそのそのナタルの判断に嫌悪したほどだ。

「解かっていても……」

無論…全てにおいてナタルを 非難はしていない……自分を支えてくれたのは否定しがたい事実であるし、彼女の判断に助けられたことも多々あった。

「……できなきゃ、一緒よ ね」

だからこそ、マリューも苦笑 を浮かべて答え返す。

「でもね、ナタル……」

言葉を言い返したマリューを 意外に思ったのか、ナタルが視線を向ける。

「貴方の言う通り……軍規は 必要なものだと思う………だけど、時には正論ではなく、邪道に寄ることも必要だと思うの………この世の全てが、私達軍人の意見で通るわけじゃないのよ」

「それは屁理屈です……私が 言っているのは、あくまで軍に関してのことで………」

言い募ろうとするナタルに、 マリューが首を振る。

「解かっている…これは、あ くまでの私個人の考えだし……貴方の方が正しいわ。それに……自分が器じゃないことは、よく解かっているつもりよ」

ナタルの心情を見透かしたよ うな物言いに、ナタルはハッとして口を開く。

「艦長、私は……」

心外そうに話すナタルを、マ リューは苦笑を浮かべたまま手を上げて制する。

「大丈夫よ………解かってる わ、ナタル」

決して個人的感情で非難など していない……それは間違いないだろう…むしろ、個人的感情で非難してくれた方が、どんなに気がラクか……

「いろいろあったけど……貴 方にはホント、感謝してる」

微笑を浮かべるマリューに対 し、ナタルはそれすらも皮肉ととったのか、懐疑的な眼を浮かべている。

「……貴方ならきっと、いい 艦長になるわね…………」

自分達の間に漂う確執がこれ で無くなるとは思えないが……今の言葉はマリューの本心であった。

だが、当のナタルは当惑した 表情を浮かべたまま、背中を向けて去っていくマリューを見詰めている。

「……だから甘いというの だ、貴方は」

振り向きざまに囁かれた言葉 は、聞こえることなく……虚空に消えていく。

そして……ナタルも背を向け て歩き出した………離れていく二人の距離が…また拡がるように思えるように………

 

 

 

 

プラントのクライン邸にて、 療養を続けるキラとレイナ………人工の空の下、レイナは庭園の小さな斜面に腰掛け、その空を見上げていた……それでもなお…彼女の真紅の瞳に映るのは、そ の空の向こうに見える冷たい闇のみ………

不意に、吊るした自分の右腕 を見やり……思考に耽ると、脳裏には先の戦いが過ぎる。

ひたすらに死だけを求めて 戦った自分達………たとえ、その先に死が待っていようとも構わなかった……なのに今…自分はこうして生きている………だが、頭の中を覆っていた靄が微かに 薄れたように感じるのは何故なのだろう………あれ程、リンと戦うことを欲した自分が、今ではまるで他人のように思える……いや…実際にはそうかもしれな い……自身の中に存在するもう一人の自分……BA………ならば…今の自分は何なのだ……思考のループに陥るレイナを、微かな風が過ぎり……髪が靡く。

「……どうしました?」

後ろから掛けられた声に振り 返ると……そこにはマルキオが佇んでいた。

「まだ、あまり無理をなさら ぬよう……」

レイナの傷を心配してか…声 を掛ける………後から聞いた話だが、自分はルシファーから脱出した後、マルキオの伝導所の近くで意識を失ったらしい……そして、キラを助けたのはジャンク 屋の人間であることも聞かされた……その人物の特徴を聞いた時、レイナにはそれが誰であるかが思い至った……オーブで出逢ったジャンク屋のロウ=ギュー ル……彼がストライクからキラを助け出し、マルキオのもとまで運んだらしい。

その後、オーブのマスドライ バーを使って、連合の和平親書の依頼を受けていたマルキオがプラントまで運んだらしい……まあ、あんな太平洋に浮かぶ島では、ロクな治療もできなかっただ ろうし………

答えようとはせず……レイナ は今一度、視線を逸らして遠くを見詰める………プラントという人工物の中にある世界………このプラントそのものが、所詮は偽りでしかない……自身と同じ だ……

盲目であるマルキオには、レ イナの表情を読み取ることはできない……だが、その心情を僅かながら察したのか、口を開く。

「……貴方は今…迷っている のですか?」

不意打ちに近い言葉に、レイ ナは微かに身をビクッと反応させた。

「貴方は今……自身の道を迷 わせている………私には、それが何なのか解かりません…ですが、迷うことは、生きる上では大切なこと……悩み、迷い…そして答を出されるがよいでしょ う………」

「それも……貴方の言う、 『SEEDを持つ者』という概念からくるのかしら………」

皮肉のつもりで呟き返す…… レイナは無信無教だ………そんな世迷言に縋るつもりは、毛頭ない………だが、マルキオは苦笑を浮かべる。

「いえ………貴方には、別の 可能性を感じます…………」

「フッ………だとしたら…そ れは最悪の可能性ね」

鼻を鳴らし、自身を嘲笑 う……そんな御大層な存在だとは、レイナはこれっぽっちも思っていない……自分は所詮、捨てられた存在なのだから………

だがしかし……マルキオの言 葉も的を得ていた………レイナは今、迷っていた………生き方を今更変えるつもりはない……だが…どうしても、もう一度リンと戦うかと問われるとYesとは 答えられない………全てを曝け出して……自身の中にあった彼女への感情も一緒に吹き飛んでしまったか…一瞬、そんな考えが過ぎり、苦笑する。

まあ、どちらにしろ…ここに 長居をするつもりもない……傷がある程度癒えれば、すぐにでもプラントから旅立とうとは思っている……ここに……レイナにとっての現実はなかった………そ の時、テラスの方角から、人影が近付いてきた。

「あら…レイナ…それにマル キオ様も。ここにおられたのですね」

相変わらずの無邪気そうな笑 顔で、話し掛けてくるラクス……その後ろには、もう二人の人影があった。

一人はレイナにも見覚えがあ る……

「よっ! 久しぶり、って言 えばいいかな……」

青い髪のセミロングの女性… ザフト軍パイロットであり、以前アークエンジェルの捕虜にもなったメイア=ファーエデンだ……だが、問題はその隣の茶色の髪を三つ編にしている女性だ。

部外者の登場に…レイナは視 線を微かにラクスに向けた。

少なくとも……自分やキラは プラントにとって招かねざる人物だ。

すると…その意図を感じ取っ たのか、ラクスは無邪気な笑顔のまま頷き返す。

すると、メイアが女性を連れ 立って、少し離れていく………だが、その女性の視線が、自分を凝視し…どこか、戸惑いを浮かべているのを感じ取った。

「………彼女は?」

「あの方は、ルフォン様で す………ご心配なく。ルフォン様が貴方達のことを口外することはありませんから」

笑顔の奥に感じる自信……… レイナは溜め息をつく。

「別に口外されたからってど うってことないけど………彼女…私を見て困惑してたみたいだけど……」

微かに感じた疑念を口に出す と…ラクスもやや表情を顰める。 

「ルフォン様は、クルーゼ隊 の整備士を務めておいででした……今は、国防委員会のあるプロジェクトに係わっておられますが………」

「クルーゼ隊……」

その名は、嫌というほど聞き 覚えがある……レイナは、直前まで襲ってきたのがザラ隊であることを知らないし、てっきりクルーゼ隊とばかりに思っていた……執拗なまでにこちらを追い掛 け…もっとも、エリート部隊のクルーゼ隊が獲物を逃すことなどあり得ないと思ったからこそ、敢えてアークエンジェルに残ったのだが………

だが……そう考えれば、尚更 不思議に思ってしまう。

「あの人……私達のこと、 知ってるの?」

「…ええ。ここに来られる前 に、メイア様がお話したはずですから」

レイナは、ますます不審そう に見やる……事情を聞いて、何故自分達のことを密告しないのか……仮にも、自分達はザフトと敵対していた…そうなればクライン派の失脚にも繋がるし、ザフ ト内部でもかなり優位な立場に就けるだろうに……

「不思議……ですか?」

僅かに苦笑するような表情 で……だが、声だけは冷静であった。

「少なくともね……事情を 知っているなら、恨む理由には事欠かないと思うけど」

肩を竦め返し、皮肉るように 呟く。

ラクスも……その言葉には、 苦笑いを浮かべる。

「そうかもしれませんね…… あの方は、ヘリオポリスでの作戦には参加されてません…ちょっとしたご用事で、プラントに居ましたから」

「見ていないから……とでも 言いたいの。そんなのは屁理屈よ」

自分は、恨まれる…いや、殺 そうと思っている連中なら、数えるのもバカらしいぐらいいる……だが、それに対し自分は弁解するつもりなどない。

生きるためとはいえ、殺した のは事実だ…殺した相手の親しい者から見れば、自分は人殺しでしかないのだから………

ラクスは、推し量るようにレ イナを見詰めていたが……やがて決意したように答えた。

「そうですわね…黙っている のは、よくないことでしょうね………」

まるで自分に言い聞かせるよ うに……一瞬、瞑目すると、はっきりと告げた。

「ヘリオポリスでの作戦で戦 死されたジンのパイロットの中に、あの方の恋人がいらっしゃいました………それが、ルフォン様が貴方達を恨む理由かもしれません」

レイナは微かに息を呑ん だ……ヘリオポリス……まさか、こんなところに来てまでその名を聞くことになるとは………思い返せば、MSで人を殺したのは、あの時が初めてだった……軽 く息を吐き出し、苦笑を浮かべる。

「……そう。ヘリオポリスで ね…でも、キラは関係ないわ。ジンを倒したのは、私だけだから」

独り言のように呟くと、ラク スに背を向ける。

「キラなら、庭先のテラスの 方にいるわよ……」

ラクスが尋ねたがっていたこ とを答えると、レイナはゆっくりとメイアとルフォンのもとへ歩み寄っていった。

その様子をラクスが不安げな 表情で見詰めるが、マルキオを見返すと……まるで全てを察しているとでも言いたげに頷いた。

 

 

歩み寄ってくるレイナを視界 に入れた瞬間……ルフォンはビクッと身を震えさせた。

やはり……ここに来るまで必 死に自分に言い聞かせていたが、心臓が激しく脈打っている。

メイアは、ルフォンの肩を軽 く叩くと、その場を離れ、ラクスらのもとへ歩み寄っていく。

入れ違い、レイナがルフォン の眼前に立ち、ルフォンを凝視する。

「………ヘリオポリス……ジ ンを墜としたのは、私よ」

沈黙が続いた後、淡々と語ら れた内容に、ルフォンは息を呑んだ。

「…………私が憎いのなら、 殺してくれても構わない」

今のレイナは怪我人だ……対 し、ルフォンも女性とはいえ、軍人だ。簡単な護身術程度…いや、首を絞めるぐらいならできる。

ルフォンはレイナを見や る………死に対しての恐怖はない澄んだ瞳…だがそこには、圧倒されるような深い闇が漂っていた。

透き通ったような深い真紅の 瞳……それを凝視したルフォンは、小さく息を吐き出した。

「……もう、いいんや」

軽く首を振り、肩の力を抜く ように呟く。

「確かに……あんたを赦せへ んって気はある………けどな、あんた殺したって、ミゲルが帰ってくるわけちゃう………」

眼を閉じ、そっと……左手の 薬指に嵌められたリングに触れる。ヘリオポリスに出撃する前……ミゲルがルフォンに手渡したものだ。

 

 

――――この戦争が終わった ら、結婚しよう。それまで、俺のジンとそのリングをしっかり持っててくれよ。

 

 

はにかんだ笑みで言い、ミゲ ルは旅立っていった……あの時、ルフォンは先の戦闘で小破したミゲルのカスタムジンの修理のために同行はできなかった。

しかし……修理を終えた彼女 のもとに返ってきたのは、ミゲルのMIAという報だけであった……哀しみに打ちひしがれる彼女に追い討ちをかけるように、ミゲルのジンは解体され、他の機 体への交換パーツとして回されてしまった……ただでさえ資源が貴重であるプラントにおいて、パイロットのいない機体を遊ばせておける余裕はない………そし て…ルフォンは、極秘裏に決定されたXプロジェクトに参加が決まり、ミゲルとのことを忘れるように仕事に打ち込んでいた。

そこへ告げられたミゲルを殺 した人物が今、クライン邸にいるとメイアから聞かされ、最初はかなり動揺した……復讐も考えた。

だが………相手を殺しても、 ミゲルは生き返りはしない…それに、ミゲルもそんな事は望まないと思い至った………そして、その相手を眼の前にし、ルフォンは相手を赦そうとしている。

「いいんよ……ホント に………うっぅぅ…」

それでも……今だけは、溢れ る涙を堪えることができなかった………その場にしゃがみ込み、泣くルフォンを、レイナは声を掛けようともせず、背を向けた。

 

 

その様子を遠くから見守って いたラクスは、どこかはらはらした面持ちだったが、メイアが肩に手を置き、首を振った。

「大丈夫……ルフォンは、大 丈夫」

言い聞かせるように呟くメイ ア……ラクスも頷き、穏やかな表情で二人を見詰める。

そして……二人が離れていく のを見届けると、表情を引き締めてメイアに振り向く。

「それで…どうでしょう か?」

話の意図を察したメイアも、 頼まれていた事項だけを話す。

「ダイテツ艦長とは話がつき ました……『北欧』と『永遠』はいけます。Xシリーズも10号機までは完了です……」

元々、メイアがクライン邸を 訪れているのも、人目を忍んでの極秘だ……今の状況で、自分やルフォンと、クライン派の関係を察知されるのだけは避けるべきなのだ。

「そうですか………メイア 様。私は、あのお二人に…『自由』と『無限』を託そうと思っています」

意表を衝かれたようで、メイ アが眼を見開く。

「……よろしいので?」

「はい………お二人なら、 きっと…あの力を間違った道には使わないでしょう」

確信するように穏やかな笑顔 で頷くと、メイアは溜め息をつきながら肩を竦め、頷き返した。

「では…メイア様、マルキオ 様……既に食事の準備はできています。レイナとルフォン様を連れて、先に行ってください」

用件を伝えると、ラクスはも う一人の人物を呼びに、庭先のテラスに小走りで駆けていった。

 

 

その頃……キラは庭先の崖に 設置されたテラスにて、眼前に拡がるプラントの光景を眺めていた。

人工の青い空に青い湖……静 かに吹く風が、キラの頬を撫でる。

だが……その穏やかな光景 も、キラの中の苦しみを取り払ってはくれなかった……

脳裏には、嫌でも先の戦いの 光景が過ぎる……トールの死……そしてアスランとの死闘……どちらも、キラにとっては親友だった。

また眼元に涙が溢れ、キラは 唇を噛む。

「何を見ていらっしゃいます の?」

【テヤンデーイ】

後ろから静かに歩み寄ってく るラクスに、キラは流れそうになった涙を呑み込み……視線を逸らす。

キラの隣に立ったラクスは、 心配げに覗き込む。

「……キラの夢は、いつも悲 しそうですわね」

その言葉に反応したのか、ラ クスの方を振り向くが……すぐに視線を逸らし、下へと落とす。

周囲は、静かに刻が流れ る……争いも孤独もない………平和な場所……だが、それでもキラの心は晴れない。

「………悲しいよ」

ポツリと呟き返す……なにを 恐れるのでもなく、ただ平穏に暮らしていたヘリオポリスでの生活が、今はもう遠い過去のように思える。

戦火に巻き込まれて……離れ ようとしても…結局は、周りに引き摺られて………護りたいと思ったものは護れず……そして………大切なものと戦った………

「たくさん……人が死ん で………僕も…たくさん………殺した…………」

語尾が震える。

アークエンジェルを護るため に……多くのザフト兵を殺した……いや…それだけでない…自分はもっと多くの同胞を殺す手助けまでしてしまった……

それ程までしたのに……護れ たものはない………

思い返して……苦しみと切な さが溢れ、またもや涙が堪えられなくなる……俯くキラに近寄り、ラクスがそっと髪に触れる。

「貴方は戦ったのです わ……」

優しげに微笑む……その穏や かな表情が、荒んでいたキラの心を僅かに和らげる。

「それで護れたものも……た くさんあるはずです」

顔を上げ、こちらを見やるキ ラに、ニコリと微笑む。

だが……その表情が一変し、 憂いを携えたような瞳で視線を逸らす。

「でも……」

遠くを見詰める青い瞳……そ の表情は、キラにレイナを連想させた。

まるで…全てを悟り切ったよ うな……それでいてどこか哀しみを帯びた表情……思わず見入っていたキラだったが、次の瞬間には、ラクスは再び笑顔を浮かべていた。

「今はお食事にしましょ う……レイナ達も待っていますわ」

子供のように無邪気そうな表 情でキラの腕を取る……そのギャップに、キラは呆気に取られる。

「それに……貴方はまだお休 みになっていなくては………」

傷が完全に癒えたわけではな い……それに、身体だけでなく、今のキラは心にも大きな傷を負っている。

「大丈夫です……ここはま だ……平和です」

そう……今はまだ………折れ た翼が再び羽ばたく時まで………この場所は平和であり続ける……それは果たして………

 

 

 

 

地球の海……何処とも知れぬ 海上に建設される巨大な施設………

海面に浮かぶ地表に、特徴的 なのは中心から伸びる傾斜……その巨大な天への入り口を成す物は、マスドライバー………多くの浮遊物を集めて設計された施設。

それは、マルキオ導師を中心 としたジャンク屋組合による民間のためのマスドライバー宇宙港……ギガフロートである。

地上の主だった宇宙港は、そ のほとんどが連合かザフトの所有となり、唯一民間で使えるものといえば、オーブのマスドライバーだけである。

だが……そこには連合の意図 が隠れていた…パナマを除いた宇宙港が全て陥落し、赤道地帯をほぼ抑えられた故に、満足な補給も行き届かないのだ。いくら物量で勝るとはいえ、肝心の物資 の流通がうまく働かなければなんの意味も持たない…そこで、連合軍の上層部が思いついたのが、ジャンク屋組合を通じて、民間用の宇宙港の建造だった。

ジャンク屋組合は中立主義で あり、ザフト側の介入も少ないと思い至ったのだろう……すぐさま、連合は具申し、マルキオやジャンク屋組合のトップ、フォルテ=ライラックがNジャマーに よる現在の情勢の中で、連合やザフトに利用されないマスドライバー施設の建造を了承し、その依頼を受けて数多くのジャンク屋がここに集まっていた。

既に高齢のフォルテであった が、ジャンク屋組合を纏め上げるだけあり、強かな女傑だ。

無論、その地位に就くまでに いろいろと裏社会を見てきたからこそ、腹黒さもある…だが、それにも増して組合の者達に対する気配りも持ち併せ、ジャンク屋組合に属している者から絶大な 信頼を受け、この一大計画にも多くの賛同者が集まったのだ。

だが、その全貌は未だ建造途 中であり、人工島には施設を築き上げるための建設機器が並び立ち、その周囲にはジャンク屋達が大勢作業を行っている。ジャンク屋組合は基本的には中立であ り、戦争には非介入である……故に、コーディネイターも少なからず存在する。建設機器に混じって、YMF−01B:プロトジンやジンを作業用に改修したも の…ザウートを工作タンクに改造したものがちらほらある。

ギガフロートの周囲の海上に は、海上艦などが船外アームを駆使し、浮遊物を運搬・設置を行い、それを海中からグーンを工作用に改修した機体が接続している。

その中で、一際目立つMSが あった……腰に日本刀を帯刀し、接続用のボルトを担いだ赤いMS……それは、ジャンク屋:ロウ=ギュールのレッドフレームであった。

レッドフレームは手に持った 巨大なボルトを接合部に差し込み、接続する。

音を立ててボルトが喰い込ん でいき、それが止まると、ボルトを離す。

「おーしっ! 73番ボル ト、ロックしたぞ!」

《OKです》

管制塔からの返事を聞き、ロ ウは改めてギガフロートを見回す。

「よっしゃ……大体、形に なってきたな」

感慮深げに周囲を見渡す…… 最初は形も見えなかったギガフロートであったが、ようやくそれらしい形を成し始めている。

「凄いよねぇ……全長50キ ロだもんね。たくさんのフロートを組み合わせて、ここまでできるんだね」

レッドフレームの隣にある作 業用ポッドのキメラのコックピットで、樹里が眼を輝かせながら感嘆の声を上げる。

「まだこれから連結を調整し ていかないとな……油断して、バラバラになったら大変だぜ」

そう言いながらも、ロウは内 心に興奮を押し隠せなかった。

 

 

ギガフロートに停泊している 船の中に、一際目立つ潜水艦があった。

上部を海面に突き出して停泊 している潜水艦の甲板には、MS用と思しき発進口が二つ並び、周囲には火器がセットされている…海中に潜める下部にも、大きな発進口が設置されている。だ が、ザフトのボズゴロフ級とは違う。

潜水母艦:ポセイドン……『Thousand Fangs』:TF……千の牙と呼ばれる集団だ。

彼らはまた特殊な集団だっ た……ジャンク屋の仕事があれば、そちらをこなす傍ら、傭兵家業においてもかなりの知名度を誇っている。

彼らは、ジャンク屋組合の依 頼を受け、ギガフロートの建設と護衛の任を受けてここを訪れていた。

そのポセイドンの格納庫で、 ポセイドンの整備長であるトウベエ=タチバナは、数人の整備士とともに一体の機体を改修していた。

灰色の装甲を持つ機体のボ ディ部分が、装甲を外され、内部が露出している。

コックピットブロックを取り 出し、内蔵されていたバッテリーを取り外し、眼前に吊られていた新たな動力源が組み込まれていく。

「おやっさん、セッティング は終わりやしたー」

「よっし…なら電子系統に取 り掛かれ」

整備班は威勢よく答え、コー ドなどを本体と接続していく。

電子系統が繋がり……パワー が流れたのに呼応するように、機体のカメラアイが輝く。

「おーし……本体への改良 バッテリーは搭載したな…急いで装甲を取り付けろ!」

指示を出し終えると、トウベ エは頭を掻きながら、強化プランを見詰めている。

本体の改修はあらかた終わっ たが、まだまだ工程は多く残っている。損失した右腕の開発…新たな武器の開発など、まだまだ山積みだ。

怒声が響く格納庫に、一人の 青年が顔を出す。

「ん? なんだい、大将?」

気付いたトウベエが歩み寄 り、声を掛ける。

「ええ……少し、気になった ものですから………」

苦笑を浮かべて、改修されて いる機体を見上げ…トウベエも一緒に見上げる。

「まあ、今んとこは順調だ な……ま、わしに任せておけ」

胸を張るトウベエに頷くと、 青年は踵を返し、この機体のパイロットのもとへと歩いていった。

 

 

「………とまあ、そんな訳 だ」

簡易ベッドに横になる少 年……ニコル=アマルフィは、未だ半信半疑の表情で横に座るミゲル=アイマンの話を聞いていた。

意識が戻った最初は、流石の ニコルもかなり動揺と困惑を浮かべた。

なにしろ…先のヘリオポリス で戦死したはずの先輩パイロットであるミゲルがいきなり現われ……しかも、死んだと思っていた自分も生きていると聞かされれば、驚くなという方が無理であ る。

「まだ……信じられませ ん………」

「ま、確かにな……お互い、 悪運が強いよな」

しみじみと語るミゲル……本 人曰く……これでも、助かった当初はかなり困惑した方らしい……ヘリオポリスでの戦い……ルシファーに搭乗していたジンの頭部と武器を破壊されたミゲル は、そのまま爆発から弾き飛ばされ……崩壊したヘリオポリスから吐き出されて宇宙を漂っていたところを、ヘリオポリスにやってきたTFに救助されたらしい のだ。

TFは、ヘリオポリスで連合 軍がMSを開発しているという情報を入手し、ウズミの依頼で情報の真偽……またはヘリオポリスの防衛任務をおって、ヘリオポリスに向かったものの、時既に 遅く…彼らが到着したのはヘリオポリスが崩壊した後であった。その後、避難民の救助を行う傍らで、漂うジンの残骸を回収し、ミゲルは九死に一生を得た。

ミゲルから自身の顛末を聞か されたニコルも、複雑そうな表情を浮かべている。

あの瞬間……ストライクの対 艦刀に吹き飛ばされた時、間違いなく死を覚悟した。だが、そこへギガフロートに向かう途中であったTFが偶然居合わせ、海中に水没するブリッツを助け出し た…幸か不幸か、PS装甲のおかげでコックピットハッチがひしゃげただけで、ニコルもまた命を拾われたのだ。

「でも……なんで、ミゲルは ここにいるんですか?」

「ん?」

ニコルは捲くし立てるように ミゲルに詰め寄る。

「どうして、ザフトに戻らな かったんですか!? ルフォンさんもホントに辛そうだったんですよ……どうしてっ!」

険しい剣幕で迫るニコル に……ミゲルは頭を掻く。

「……ルフォンには、正直悪 いと思ったよ……けどな、まあ…助けられた恩もあるし…なにより、プラントに戻る手段が最初はなかったからよ」

ミゲルも、救助直後かなり重 症を負っていた……満足な処置をするために、TFが地球の自分達の潜水母艦へと連れ帰り、ザフト側が使う医療カプセルの手配を急いで行い、手当てを行った のだ。

「じゃあ…何故、今もここに 居るんですか………」

少なくとも、プラントに戻る こともできただろう……地球に来ていたなら、ジブラルタルやカーペンタリアと連絡を取ればいいし、なによりプラントに戻れば、奇跡の生還を果たした英雄に でもなれるだろう。

「……ここの連中に助けられ て…それで、俺は今迄の自分の生き方に疑問を持ったからさ」

神妙な表情で語るミゲルに、 流石のニコルも面を喰らったようだ。

「俺は今迄、ナチュラルを ずっと見下していた……だが、傷付いた俺を救ってくれたのはナチュラルだ……その時、ナチュラル全てが滅ぼさなきゃならないとは思えなくなった」

「滅ぼすなんて……」

随分と誇張された物言いに、 ニコルは思わず反論する。

「お前がどう思ってるかは知 らねえけどよ……少なくとも、ザフトの上層部はそんな雰囲気が漂ってる……少なくとも、ここに来て…外を見て、そう思った」

ここに居座ってからというも の…ミゲルは第三者的な視点から今の戦争を見ていた。

そして……自分が今迄信じて きたものに疑念を抱くようになった。

「正直……今更、ザフトに戻 るつもりはねえよ…戻ったところで、くだらない英雄扱いだろうしな…それに、俺はここの連中が気に入ったんだ…少なくとも……この戦争の終結を見届けるま では、俺はここで戦う」

ミゲルの決意を聞かされたニ コルは、なにも言えずに黙り込み、表情を俯かせる。

「まあ……別に俺はお前にど うしろとは言わねえよ…お前がこれから先、どうするかは自分で決めろよ……ニコル=アマルフィとしてな」

肩を叩くミゲル……その時、 部屋のドアが開き、一人の青年が入室してきた。

「お……どうしたんだ?」

「彼の様子を見に……ミゲ ル、君はギガフロートの警備に就いてくれ。デッキに、君のディンをおやっさんが用意してくれてる」

「あいよ…じゃあな、ニコ ル」

軽く挨拶をすると、ミゲルは 部屋から退出していった。

残されたニコルは、青年を不 安げに見やる。

それに対し、青年はにこやか に微笑み、挨拶を交わす。

「一応…挨拶は初めてだね。 ニコル=アマルフィ君………僕はキョウ…キョウ=クズハだ」

右手だけに手袋を嵌めた青年 は、握手のために右手を差し出すが……ニコルは不審げに、おずおずとその手を握り返した。

 

 

「おやっさん、準備できたの か?」

格納庫に、パイロットスーツ に着替えたミゲルが姿を現わす。

「あたぼうよ……お前さんの 機体なら、ほれあそこだ」

トウベエが指差すと、そこに はオレンジに塗装されたディンが佇んでいる。ミゲルは軽く挨拶を交わし、ディンのコックピットまでラダーを使って搭乗していく。

コックピットに収まると、 シートベルトを締め、ハッチを閉じる。

刹那……コックピットの計器 類に光が灯り、モニターに火がつく。

トウベエを筆頭とし、整備班 が駆け回る中で、ミゲルのディンが発進口に移動し、カタパルトに乗る。

ポセイドンの発進ゲートが開 き、外の光が差し込む。

《いいか、モラシム達は今作 業に出てるからな…頼んだぞ》

「了解……ミゲル=アイマ ン、出る!」

刹那……カタパルトが動き、 ミゲルのディンを射出した。

右肩に自身のエンブレムであ るドクロのマークを煌かせ、オレンジの機体が映える。

このカラーは、ミゲルのパー ソナルカラーだ……もっとも、このディンは以前乗っていたカスタムジンとは違い、一般用の機体を塗り変えただけなので、ミゲルには少々反応が鈍いが、そこ まで贅沢はいってられない。

TFが所有するMSは、大半 が戦闘などで破損した機体を回収し、修復したものであり、パイロット達もそれに合わせて救助した者がほとんどだ。

ミゲルのディンに続くよう に、僚機のディンが二機後方につく……黄昏の魔弾であるミゲルの名は、TFのパイロット達の間でも有名であり、ミゲルが戦闘での指揮を取ることで、今迄以 上の高い士気を齎していた。

 

そして……作業機のグーンに まざって、モラシムの駆るゾノがそのパワーを活かし、海中での補強作業を行っている。

MSは、元々こういった作業 用に開発されたものであり、戦闘以外にも使い道はある。

「フッ……まさか、地球の海 でこういった作業ができるとはな……」

コックピット内で、モラシム はしたり顔で笑みを浮かべる。

ザフトに志願する前は、プラ ントで海洋工学を修めていた……いつか、地球の海で開発を行い、未知の海底へといってみたいという夢もある…だが、地球の海に最初に降り立った任務が、連 合海軍の撃破という血生臭いものではあったが……

苦笑を浮かべたまま、モラシ ムはゾノを次の作業場へと向かわせるのであった。

 

 

 

ポセイドンの一室で、会話を 交わすキョウとニコル……

「その……キョウさんは、何 故こんな事を………」

「そうだな……まあ、夢物語 と思われるかもしれないが、僕はナチュラルとコーディネイターの垣根を取り除きたいと思っている。そして両方に解かってもらいたい…僕達は、お互いに人間 同士であることを……」

苦笑を浮かべるキョウ……だ が、その考えも、今の時代には儚い希望でしかない。

「ニコル君……もし君が、ザ フトに戻りたいというなら、できる限り手は打とう……」

自分をTFに招くことを言わ れるかと思っていたニコルは、一瞬眼を丸くした。

「君の人生は君だけのもの だ……強制をするつもりはないよ…まあ、傷が治るまでここにいるといい。その後のことは、ゆっくりと考えてくれ」

話を終え、立ち上がろうとし た瞬間……振動が艦を襲い、室内が激しく揺れた。

ニコルはベッド上で顔を顰 め、キョウはバランスを保ちながら、不審げに見渡す。

《艦長!》

タイミングよく、部屋の通信 モニターが入り、そこにオペレーターらしき人物が映る。

「この振動は何だ?」

《現在確認中です……ただ、 爆発はメインシャフト部分で起こったようです》

「すぐミゲル達を向かわせて くれ、ここで戦闘になるのはまずい!」

《了解!!》

通信が切れ……キョウは拳を 握り締め、ニコルは不安げに天井を見上げた。

 

 

中央ブロックに向けて放たれ る弾頭……それがフロートを支えるコアを砕き、接合部分が外れ、フロートが離れていく。

この状況に、レッドフレーム で作業を行っていたロウは眼を見開く。

「まずい、コアが…! 急い で止めねえと、分解しちまう!」

メインシャフトに向けて駆け 出そうとするが、その時背後に気配を感じ、振り向いた。

「何……!!?」

姿を現わした機体を視界に入 れた瞬間……ロウは驚愕に眼を見開いた。

黒いボディ…そして各関節部 に走るゴールド………そして、その機体形状は見間違うはずもない。

「お前は……ゴールドフレー ム!!?」

眼前に立つ機体は、レッドフ レームの兄弟機……ヘリオポリスから姿を消した機体、MBF−P01:アストレイ・ゴールドフレームだ。

ロウの叫びに呼応するよう に、額に備えられたモノアイが動き、こちらを睨む。

「アイツ…地上に降りていた のか……妙な頭付けやがって………」

ロウは、地球の衛星軌道上で 一度ゴールドフレームと戦闘を行い、その際にゴールドの頭部を破壊し、地上へと墜としたのだ。

頭部形状や機体形状も、最初 は同型であった頃とほとんど変わっている。

【装甲面ニ相違点確認……気 ヲツケロ、何カアルゾ!!】

ゴールドフレームを分析した 8が注意を促す。

構えるロウだったが…その 時、その場に他のジャンク屋が近付いてきた。

「待ちやがれっ!!!」

「お前だな、フロートに攻撃 したのはっ!!」

「こちとらレーダーで確認し てるんだぞっ!!」

集まってきたMSが作業の器 具を構え、ゴールドフレームに叫ぶ。

「どういうつもりだ!?」

「ただじゃ済まさんぞ!!」

今にも飛び掛からんばかりの 他のジャンク屋に、ロウは瞬時にまずいと悟った。

相手はフロートに直接攻撃す る奴だ……中立という言葉が通じるとも思えなかった。

「待て!! アイツ は………」

静止させようとしたロウの言 葉は、遅かった……

 

「………邪魔だ」

 

ゴールドフレームのコック ピットに冷たい声が響いた瞬間……ゴールドフレームは左手に構えたバズーカをジャンク屋に向けて放った。

弾頭が集まっていたジャンク 屋やMSを吹き飛ばし、炎が舞い上がる。

「ぐっ!!」

爆発に吹き飛ばされるも、な んとか堪えたロウは、ゴールドフレームを睨む。

「何しやがるっ!!」

怒りにかられ、ガーベラ・ス トレートを抜き、真っ直ぐにゴールドフレームに向かっていく。狙うは、右腕のない死角……ガーベラ・ストレートを振り上げ…右腕のないゴールドフレームに 振り下ろした。

だが……それは目標を捉える ことなく…何もない空間にガッシリと掴まれていた。

「な……こ、これ は………?」

訳が解からずに混乱するロ ウ……それに対し、ゴールドフレームのパイロット…ロンド=ギナ=サハクは笑みを浮かべる。

「ククク……そうか、見えな いか? この右腕が……」

愉悦に浸り、レッドフレーム は弾かれる……踏み堪えるロウの前で、ゴールドフレームの右腕周辺がぼやけ…なにかが鮮明になってきた。

完全に姿を見せたそれは…… 損失したGAT−X207:ブリッツの右腕だった。

呆然と眼を見開くロウの前 で、バズーカを捨て、ゴールドフレームは右腕を構える。

「オーブ近海で回収された連 合のGのパーツ……これがP01の新たな右腕…そして、新たな力だ………」

刹那……ゴールドフレームの 機体が粒子に覆われ……まるで靄のように溶け込んでいった。

 

 

「あれは…僕のブリッツ の……!」

ギガフロートでの戦闘を映像 で見詰めていたニコルは思わず立ち上がりそうになるぐらいに眼を驚愕に見開いた。

突如として現われた黒いMS が右腕としていたのは、紛れもなく自身の愛機であったブリッツのものだ…オーブ近海での戦闘で、ストライクに斬り落とされた………

そして…黒いMSが姿を消し たアレは………

「ミラージュコロイ ド……っ」

同じく映像を見詰めていた キョウは奥歯をギリリと噛み締める。

回収したブリッツに備えられ た特殊なステルス機能……そして、あの右腕が回収でき…なおかつ装備できるほどの技術を持つ所といえば、思いつくのは一つしかない。

(何を考えている……オー ブ………いや…サハク家は……!)

拳を握り締め……キョウはモ ニターを凝視する。

(頼む……間に合ってく れ……!)

 


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