突如として姿を消したゴールドフレームに、ロウは焦燥感にかられる。

「MSが消えちまうなん て……8! 奴は何処だ……っ!」

頼みの綱の8は周囲をセン サーで探るが、まったく反応がない。

【熱源センサー反応ナシ…… 位置特定不能】

だが、無慈悲な答が返ってく る。

「だぁぁぁっ、なんとかしろ よ!」

【無理ナモノハ無理……注意 シロ! 近クニイルゾ!!】

八つ当たり気味に喚くロウ に、8もまた辛辣な返事を返す。

「注意しろったって な……!!」

ガーベラを構えたまま、周囲 を見渡すが…どこにも敵の姿が見えないというのは不気味で不安を駆り立てる。

その時、レッドフレームの後 方で微かに影が動き、レッドフレームを弾いた。

「うおわぁっ!!」

吹き飛ばされたコックピット 内で、ロウが振り向くと…そこにはゴールドフレームが佇んでいる。

そして……右腕に構えるトリ ケロスの銃口を向ける………砲口にエネルギーが溢れようとした時…上空から銃弾が降り注ぎ、ゴールドフレームは身を翻す。

そこには、ミゲルのディンを 合わせた3機が滞空していた。

「野郎……こんなとこでそん なもんぶっ放しやがって!」

毒づき、ミゲルは突撃機銃を 放つ……だが、ゴールドフレームはトリケロスで銃弾を防ぐ。

「フン…よかろう……貴様達 の踊り…見せてみろ」

ほくそ笑み、トリケロスが火 を噴く。

ビームが滞空していたディン のボディを貫き……ディンが爆発する。

「くそっ!!」

必死に応戦するが……実体弾 の突撃機銃では、PS装甲の施された右腕に致命傷を与えられない。

明らかに機体性能と武装の差 があり過ぎる………そして、またもや残った僚機が翼を撃ち抜かれ、戦闘不能に陥る。

舌打ちし、一瞬注意が逸 れ……再び視線を戻すと、ゴールドフレームの姿が消えていた。

「何……!!」

気付いた時には遅く、ゴール ドフレームはミゲルのディンの上を取っていた。

トリケロスのビームサーベル を展開し、振り下ろす。

「ちぃぃぃっ!」

ミゲルは咄嗟に操縦桿を引 き、機体をずらした…だが、完全に回避できず、右翼が斬り落とされ、ディンは飛行能力を失い、ギガフロートに落とされる。

フロートに激突し、またもや フロートの大地が軋む……コックピット内で、ミゲルは歯噛みしながら、モニターのゴールドフレームを睨む。

「この程度か……」

歩み寄るゴールドフレーム に、レッドフレームが再び斬り掛かってくる。

「こんにゃろう!!」

渾身の力を込めてガーベラを 振り下ろすも、それを悠々とよけ、ゴールドフレームはランサーダートを放った。

鋭く放たれたランサーダート がレッドフレームの左足を貫き、串刺しにする。

驚愕するロウに追い討ちをか けるように、ゴールドフレームは後方へと回り込み、レッドフレームの腕を掴み上げる……ミシミシと機体が軋む。

そして、幾度となくレッドフ レームを切り刻む……激しい振動にコックピット内で全身を打ち付け、ロウは吐血する……

既に戦闘不能となったレッド フレームを一瞥し、ランサーダートを引き抜くと、レッドフレームは力尽きたように倒れる。

8が必死に呼び掛けるも、ロ ウの意識は既に朦朧としていた。

「つまらん……死ね」

トドメを刺そうとトリケロス を構えるゴールドフレーム……その時、いてもたっていられなくなった樹里が駆け出す。

「もうやめてぇぇぇぇ!!」

泣き叫びながら、レッドフ レームのコックピットによじ登る…だが、その行為もギナにとってはなんの意味もない。

「おやおや…そいつを庇おう というのか……よかろう…共に殺してやろう………」

無情にトリケロスを構え る……だが、そこへ銃弾が轟く。

気が逸れ、振り向くと…そこ には満身創痍のミゲルのディンが佇んでいた。

「このままやられぱっなし じゃ……俺の気が収まらないんだよ!!」

気迫とともに、突撃機銃を放 つが……ゴールドフレームは頭部のイーゲルシュテルンを放ち…弾丸が突撃機銃と右腕を撃ち砕いた。

「くそっ……どうすりゃいい んだ……!!」

悔しいが、相手は自分よりも 力は上だ……苦悩するミゲルのもとに、通信が入る。

《聞こえているか……奴を海 に落とせ………》

通信機から飛び込んできた声 に、ミゲルは息を呑む。

「この声……!」

以前にも聞いた声に、ミゲル は一瞬眼を見開いた。

 

「ロウ! ロウ、しっかりし て!」

コックピットに向かって泣き 叫ぶ樹里……その声に、朦朧としていたロウの意識が反応する。

「へへ…樹里……泣くな… よ………」

片言で呟き、レッドフレーム は右手にエネルギーを集中させ、光球を作り出す。

そして…その光雷球をゴール ドフレーム目掛けて放り投げた。

それに気付いたギナは咄嗟に トリケロスで応戦する…エネルギーがぶつかり、拡散する。

端に跳躍するゴールドフレー ム内で、ギナは舌打ちする。

「まだ楯突く気か……」

その瞬間、ミゲルのディンが 残ったバーニアを全開にし、ゴールドフレームに突撃した。

反応の遅れたゴールドフレー ムは、まともに体当たりを受け、海へと叩き落される。

水没していくゴールドフレー ムを見やりながら、ミゲルは微かに笑みを浮かべた。

「あとは頼んだぜ……叢雲 劾!」

 

 

海中へと落とされたゴールド フレーム…素早く状況を確認していたギナは、眼前に現われた機体に眼を見開いた。

「貴様は……P03……!」

海の青に同化するような青い ボディを持つ機体……ゴールド、レッドに続く3番目のアストレイ……MBF−P03:アストレイ・ブルーフレームが静かに海中に静止していた。

コックピット内で、ブルーフ レームのパイロット…叢雲劾はサングラスを傾ける。

「3体目のアストレイか…… 誰だか知らないが、ギガフロートに危害を加えるものは俺の敵だ」

冷静に呟き、海中装備のブ ルーフレームは静かに構える。

「フン…これは好都合…… P03もこの場で始末してやる……貴様の踊り、見せてみろ」

ニヤリと笑みを浮かべ、ゴー ルドフレームはランサーダートを放つが…水の抵抗を受け、地上ほどの加速はない…ブルーフレームは悠々とかわし、右手の魚雷発射管を向ける。

トリガーを引いた瞬間、水中 を魚雷が鋭い勢いで飛び出していく。

水中に尾を描きながら、魚雷 はゴールドフレームに真っ直ぐ向かっていく。

回避しようにも、水中用に チューニングされていないゴールドフレームでは、回避できず、防御する。

「くっ……超音速魚雷 か……っ!」

舌打ちすると、後方からさら に衝撃を受けた。

「何……!?」

今の攻撃はブルーフレームか らではない…振り返ると……そこにはゾノがその巨体をユラリと晒していた。

「フン……地上ではどうだっ たかは知らんが……水中でこのゾノに勝てると思うなよ!!」

モラシムが吼え、ゾノは水中 を加速する。

水中ではビーム兵器が使え ず、接近戦しかできないゴールドフレームは、ゾノに向かっていくが、機動性の差は覆せない。

振り下ろされたトリケロスを かわし、そのクローを叩き付ける。

「おのれ……っ!」

弾き飛ばされたゴールドフ レームに向かって、ブルーフレームも攻撃してくる。

応戦しようとするも、ブルー フレームもゾノに匹敵する機動性を示している。

「スケイルエンジン か……!」

驚愕するギナの前で、ブルー フレームは腰部からアーマーシュナイダーを抜き、ゴールドフレームに斬り掛かる。

装甲を抉られ、距離を取りな がら、ギナは歯噛みする。

「70%ではこれが限界 か……水中ではミラージュコロイドも使えん…まあいい。ギガフロートの崩壊はもはや止められまい……目的は達した」

ほくそ笑むと、身を翻し…… ゴールドフレームはあさっての方角へと向かって上昇していった……

追撃せず、それを見送るブ ルーフレームとゾノ………

「どうする……追うか?」

モラシムは劾に尋ね返す が……劾は首を振る。

「いや……追い払うだけで充 分だ……しかし、まさかゴールドフレームが介入してくるとは………」

僅かに目論見を外れた敵襲 に、劾は腑に落ちない気分だった……

 

 

その後……破損したギガフ ロートのメインシャフトの交換に、無事だった者達が作業を続行し、なんとかギガフロートの崩壊だけは喰い止められた。

作業が一段落着く頃には、既 に陽が落ち…辺りは夕焼けに染まっていた。

「なんとか、崩壊は止まった な……」

怪我だらけのロウは、あれか ら応急処置のみで作業を行っていたため、既に意識が朦朧としている。

「おい……そこのお前、大丈 夫か?」

鎮座するレッドフレームの傍 に近寄るミゲルのディン、そして樹里のキメラ。

「そうだよ…ロウ、大丈 夫………?」

「へへ……心配…ねぇ…… よ……」

最後まで続かず、ロウはバラ ンスを崩し、そのままレッドフレームから転がり落ち、海へと落下していく。

「おい……っ!!」

「いやぁぁぁぁ、 ロォォォォォォォォ!!!」

樹里の絶叫が響くが…それも 虚しくロウはその身を海中へと水没させていく。

「ロウ! ロォォォォ!!」

海面に向かって、必死に呼び 掛けていると……落下した水面から何かが上昇してくる。

水飛沫を上げながら姿を見せ たのは……ブルーフレームだ。その手には、ロウが乗せられている。

その左肩のエンブレムを見た 瞬間、ミゲルは苦笑を浮かべ、肩の力を抜いた。

掌から降ろされるロウに駆け 寄る樹里。

「ロウってば……よかっった よぉぉぉぉ」

泣きじゃくりながらしがみ付 く樹里に、ロウは苦笑いを浮かべながら、ブルーフレームから降りてきた劾に手を振る。

「よぉ、久しぶり……助かっ たぜ」

今回は本気で死にかけただけ に、ロウも素直に礼を言ったが、劾は苦笑を浮かべる。

「お前が死ぬと、風花が悲し むからな……」

劾は視線を逸らすと……そこ には、ディンから降りたミゲルが歩み寄ってきた。

「あんたと会うのは二度目だ が……こうして、顔を合わせるのは初めてだな。俺はミゲル=アイマン……先ずは、礼を言うぜ」

笑みを浮かべ、右手を差し出 すと……劾も微かに口元を緩ませ、その手を握り返す。

「……サーペント・テール… 叢雲劾だ」

握手を交わす二人を、ロウは 疑問符を浮かべながら見やる。

「なんだ……知り合い か……?」

「ああ…まあな」

ミゲルと劾……彼らの最初の 出会いは戦場でだった……ヘリオポリス作戦が発動される少し前……民間航路に設置されたザフト軍の補給基地の攻防で、ミゲルと劾は戦ったのだ。

あの時は、敵同士で命のやり 取りをし合ったが……今はこうしているのがなんとも不思議な感覚になり、ミゲルは苦笑を浮かべる。

「そういやぁ……あの金ピカ の奴は……?」

「逃げられた……ギガフロー トは取り敢えず護り切ったが……これで終わるとは思えんな………」

遠くを見やる劾に、ミゲルも また不安な面持ちで遠くを見詰めるのであった………

 

 

 

 

アラスカに程近い近海の海中 に身を潜めるクストースト……アラスカの動向を探る傍ら、指揮官のクルーゼは、陸へ上陸していた。

市場のような場所を、いつも の仮面を外し、サングラスをかけて歩いている。まあ、あんな仮面をつけて堂々と歩けば、すぐに騒ぎになるだろう。

目的の人物を探し、市場内を 歩き回っていると………こちらへ、ボロボロの衣を頭から被り、顔を隠した人物が近付いてきた。

「……ラウ=ル=クルーゼ 様、ですね?」

確認を取るような問い掛け に、クルーゼは抑揚のある声で頷く。

「ああ、そうだが」

「………こちらへ」

衣を纏った人物の促しに従 い、クルーゼとその人物は市場の人気がない場所へと移動する。

人の気配がなくなったのを確 認すると、クルーゼは唐突に尋ねた。

「君かな……アズラエルの使 いは?」

「はい……これを預かってま いりました」

衣の下から、一枚のディスク を取り出し…それを受け取ると、クルーゼは小さく笑みを浮かべる。

「グランドホロー内の見取り 図……それと、例のモノの概要図です………それと伝言を預かっています……興味があるなら、直接見てくればいいと」

「解かった……ありがとう」

「いえ………これが、自分の 役目ですから………ナチュラルのために尽くす…それが自分の誇りです………」

衣の隙間から微かに覗く瞳 は、どこか薄っすらとしたものだった。

「それでは…自分はこれ で………」

「ああ」

一礼し、その人物は人込みの 中へと消えていく………

「コーディネイターがナチュ ラルに尽くす、か………滑稽なことだな」

愉悦を帯びた笑みを浮かべつ つ、クルーゼもその場を引き上げた。

 

 

 

 

査問会には、アークエンジェ ルの首脳部やパイロットが呼び出され、ブリーフィングルームにて集められた。

周囲を囲うコ字型のデスクに は、記録兵が座り、四方の壁にはスクリーンがセットされている。

やがて、将校達が入室し、兵 達は一斉に敬礼する。

3人の将校が中央に立ち、 持っていた書類を投げやりのようにデスクに放り投げると、形式とばかりに敬礼を行う。

その態度に、マリューは最初 から違和感を覚えた………だが、そんなマリューの考えなど構わず、中央に座った代表と思しき男が言った。

「軍司令部のウィリアム=サ ザーランド大佐だ。諸君ら、第8機動艦隊所属艦:アークエンジェルの審議、指揮…一切を任されている………座れ」

素っ気なく……それでいてお ざなりな口調で告げると、マリュー達は一斉に腰を下ろした。

「……既にログ・データはナ ブコムから回収し、解析中ではあるが………なかなか見事な戦績だな、マリュー=ラミアス艦長?」

ねっとりとした……それでい て皮肉げに発せられた言葉に、戸惑いと不快感を憶えるが、なんとかそれを抑え込む。

とてもではないが……賞賛さ れても素直に喜べるはずもない。

「では……これより君達から これまでの詳細な報告、及び証言を得ていきたいと思う。なお、この査問会は軍法会議に順ずるものであり、ここでの発言は全て公式なものとして記録される旨 を申し渡しておく。各人、虚偽のない発言を………」

淡々と事務的に議事を述べて いくと、その粘着質な視線がマリューを捉える。

「……良いかな?」

「…はい」

硬い口調で答えながらも…… マリューはここまで必死に護ってきたものを伝えるために、ここに来るまで犠牲になった者達の死を無駄にしてはならない……決意を新たに頷いた。

「ではまずファイル1……ヘ リオポリスへのザフト軍奇襲作戦時の状況………マリュー=ラミアス…当時大尉……の報告から聞こう」

「はっ」

マリューは起立すると、自分 の見たの事実を述べ始めた。

ザフト軍の奇襲から始ま り……開発されたGをアークエンジェルへと搬入する際に、ザフト軍の戦闘工作隊に奇襲を受け、最初に運び出されたデュエル、バスター、ブリッツが次々に奪 取され……そして、自分はその3機の防衛を諦め、すぐさま残りの2機…ストライクとイージスが保管されていたブロックまで後退した。

2機の起動準備を進める中 で、工場ブロックに迷い込んだ少年:キラ=ヤマトを緊急避難させるために、自身のもとに呼び寄せたが…その直後に自身は攻撃を受け、負傷し…眼前にザフト 兵がナイフを振り上げて迫ってきたものの、キラという民間人に驚いたのか…相手が動きを止め、自分が撃とうとしたものの、相手は離脱し、そのまま残った イージスに搭乗していき、自分はせめてストライクだけでもとコックピットに乗り込み、またキラもそれに乗せた……それというのも、既に工場ブロック内は火 の海であり、とても逃げ出せる状況ではなかったからだ。

その後、ヘリオポリス内に脱 出……ジンの一機に対し、キラが眼前でストライクのOSを書き換え、ジンを撃退した……

そこまで説明すると、サザー ランドは話を遮るように尋ねた。

「……では君は既にその時点 で、その少年……キラ=ヤマトがコーディネイターなのではないかという疑念は抱いていたということなのだな?」

「はい」

Gのパイロット候補生として 上げられた者でも、また設計に携わった自分達でさえも、あの機体をコントロールすることは難しかった。

「いくら工業カレッジに籍を 置いていたとはいえ、中立国の人間なら初めて見るであろうMSのOSを瞬時に把握し、書き換えを行うなど、普通の子供にできることではありません。彼が コーディネイターではないかという懸念は、すぐに抱きました」

答えると……その後の状況を 説明していく。

ストライクによって被弾した ジンが自爆……それによって、ヘリオポリス内部に侵入していたジンの全てがこちらに襲い掛かろうとした瞬間……モルゲンレーテの工場ブロック跡から、封印 されていた機体……ルシファーが姿を現わし、ジン数機を瞬殺した。

そして……その機体から姿を 見せたのが、レイナであった。

彼女のことを思うと、マ リューは苦い思いしか浮かばない……結局は、彼女の言う通りになってしまったのだから………

「成る程……厳重に保管され ていたはずの試作機までが起動し、そのパイロットもまた子供であった…ならば、君はこの少女もコーディネイターではないかと思ったのだな?」

マリューはすぐには答えられ なかった。

彼女…レイナ=クズハに関し て、軍医が漏らした言葉……そして、彼女自身が語った言葉……だが、それを言ったところで、何にもならないし、この将校達に話しても一笑されると思ったマ リューは、敢えて答を偽った。

「……そうです。恥を晒すよ うですが…あの機体は、開発した我々にさえそのスペックを使うことは難しいと思いました。だからこそ、破棄を決定したのですが……」

「ふん……で、その力を間の 当たりにして、君はどう感じたのかね?」

まったく意図が掴めない奇妙 な質問をぶつけられ……マリューは一層躊躇う。

「ただ、驚異的なもの……… と」

しかし……その言葉は、更に サザーランドらの表情を顰め、不快感を煽る。

「だが本隊と連絡のつかぬう ち、フラガ少佐……当時大尉…の追撃をかわしたザフトのMSがコロニー内へ侵攻。不運だったとしか言いようがないが……ストライクとルシファー…我が軍の 貴重なMSはその際なにも知らない民間人、しかもコーディネイターの子供らに預けられたままであり、君はそれを十分にコントロールできなかった……そうだ な?」

明らかに糾弾するような口調 に、マリューは息を呑み…ムウは思わず立ち上がる。

「いえ! しかしあの場 合………!」

「今は事実確認を行っている のだ、フラガ少佐。私的見解は無用に願いたい」

愕然となるマリューを横に、 ムウは嗜められ……ムウが悔しげに着席する。

しかし……不運とはあまりに 邪険な言葉だと思った……ストライクやルシファーにキラやレイナが乗っていたからこそ、あの機体だけは護り抜けたのだ……それに対しての評価がこれで は………まるで……

「ザフトのMSがコロニー内 へ侵攻、そして……レイナ=クズハは敵MSを撃退……だが、これは撤退と同時に、ザフト軍奇襲部隊の危機感を非常に煽り、再度のザフトの侵攻を促した」

あからさまな糾弾……またも やムウが反発する。

「それは結果論からの推測論 に過ぎません!」

「……認めよう。だが君も指 揮官として戦場へ出るものなら…君がもし奇襲作戦の指揮官であったとして……そのような敵新型兵器の威力をまざまざと見せ付けられ、それで見過ごせるもの かね?」

素っ気なく頷き……まるで決 められていた台本通りの質問を返され、ムウは言葉に詰まった。

「……いえ」

それでも…不満げに否定し、 腰を下ろす。

先程から胸の内をざわついて いた不安が徐々にマリューの中で確定的なものに変わってくる……これではまるで、査問会という名を借りた明らかな糾弾と、特定の人物への嫌悪を丸出しにし ているものに摩り替わっている。

「反撃は誤りであった……そ う、仰るのですか?」

やや棘のある口調で問い返し ても……サザーランドは肩を竦めるだけだ。

「そうは言わんよ。ただ…… コーディネイターの子供が居あわせたのが不運、というところかな」

この言葉には、マリューだけ でなく後ろのクルーにまで衝撃を与えた。

ナタルでさえ……驚きと困惑 を浮かべている。

「そんな! 彼らが居なけれ ば、我々は……!」

「だがいなければ……ヘリオ ポリスは崩壊しなかったかもしれん」

もっともらしい正論で、言葉 を封じる。

「過ぎた時間に『もしも』は ないがね……だがもし、彼がOSの書き換えなどできないナチュラルの子供だったならば? そのときストライクになど乗っていなかったならば? 彼女がルシ ファーと遭遇しなければ……結果は自ずと違っていたはずだ。そして…その彼らにストライクとルシファーを任せたのは君だろう? ラミアス少佐」

冷たく……皮肉げに、粘着質 な声で畳み掛けるサザーランドに、マリューは背筋が凍るような寒気を憶えた。

照明の落ちた室内に設置され たプロジェクターに、キラとレイナの書類が映し出され……その上から押し潰すように、『MIA』という赤い色のスタンプがべたりと押されている。

まるで……罪人を吊るし上げ るように………

「全ては私の判断ミス…… と?」

唇を噛むような思いで呟く。

「我々はコーディネイターと 戦っているのだよ。その『驚異的』な力と……民間人の子供であろうが、コーディネイターはコーディネイターなのだ。何故それに気付かない?……奴らがいる から、世界は混乱するのだよ」

言い掛かりに近く……またあ まりに身勝手な論理に、マリューは唖然となる。

筋が通っているように聞こえ るが、そこに込められるのはあからさまな憎悪と偏見だ。

「それに、だ……レイナ=ク ズハには、スパイ容疑もかかっている」

続けて発せられた言葉に、ク ルー達はさらに驚愕に眼を見開いた。

 

――――レイナがスパ イ……?

 

それこそ言い掛かりだ……確 かに彼女は軍人ではないし、こちらに対し手厳しかったが、もし彼女がスパイなら、とっくにアークエンジェルなど沈められている。

「その根拠をお聞かせくださ い!」

語尾が荒くなり、身を乗り出 すマリューに対し、サザーランドは冷ややかだ。

「では伝えよう……アークエ ンジェルから回収したログを解析中、ルシファーの戦闘データ……及び機体のデータが全て消去された……原因は、ログ内に忍ばされていたウイルスによるもの と断定された」

その言葉に……皆は一様に困 惑した。

マリュー達は知らなかった が…それこそがレイナの残した保険だった……アークエンジェルを降りる際、自分の設定した機体データや戦闘データが地球軍に利用されるのを防ぐために、彼 女はアークエンジェルのメインコンピューターとルシファーのOSにあるウイルスをセットしていた。

このウイルスには、24時間 毎に中和プログラムを混入しないと、自動的に特定のデータをクラッシュさせるプログラムを組んでいた。

レイナはもともと、アラスカ まで同行する気はなく、適当なところで降りる気であったので、残していく自分の後始末もしておくつもりだったのだ…ルシファー自体はOSが破壊され、オー ブに回収されたのは流石のレイナも予想外であっただろうが……

「幸いにも、アークエンジェ ルやストライクのデータに損傷は見られなかった……しかし、これは明らかにデータを狙ったものだ。これをどう弁解するつもりかね?」

そんなレイナの思惑すら、自 分達の都合のいいように解釈し、利用する……その意図を知りえないマリュー達も、戸惑うばかりだ。

弁護したくても、実際に起 こっている事実に対して、弁明する余地がないのだ。

「アークエンジェルはその後 もアルテミスに寄港……いくら同盟国とはいえ、ユーラシアに大西洋連邦の極秘を持ち込むとは……それによる、アルテミスの反応を考えなかったのかね?」

そう非難され……アルテミス への寄港を進言したナタルは視線を逸らす。

「しかし、そのアルテミスは ザフト軍によって陥落……ザフトの追撃は交わすも、補給に来た先遣隊は壊滅……アルスター事務次官を死亡させている」

「いえ、あの時は……!」

先遣隊に同行していたアルフ は立ち上がり、抗議しようとするも、ジロリと睨まれる。

「落ち着きたまえ、クオルド 大尉……私は、先遣隊を壊滅させたことを責めるつもりはない……いや、むしろあの状況では仕方なかったと思える」

冷静に告げられた内容……確 かに、あの状況では仕方なかった…だが、同僚の死をそこまで非情に切って告げられると腹が立つなという方が無理だ。

「私が尋ねたいのは、何故先 遣隊の救援に向かったかということだ……ラミアス少佐…何故、君は先遣隊の援護に向かったのかね? あの状況では、合流中止の旨も伝えられたはずだ……何 故かね?」

「それは…友軍の危機を見逃 せまいと……」

マリューにしてみれば、至極 当然のことと思えたことも、サザーランドにとっては単なる戯言としか聞こえない。

「成る程……だが、救援に向 かったにも関わらず、先遣隊は壊滅…さらに、アークエンジェルはザフトの砲火に晒される結果となった」

そう言われては、反論する余 地はない……だが、アークエンジェルが援護に来てくれたおかげで、アルフは生き残れたのだ。それに対しては感謝している。単なる個人的感情だとしても……

「ラクス=クラインを捕虜と した判断は正しかった思うがね……だが、キラ=ヤマトはラクス=クラインを連れ出し、勝手に返還……この事に対する処罰すらない………ラミアス少佐、何故 帰還した彼を拘束しなかったのだね? 彼は我々にとって政治的に有利なラクス=クラインを独断で返還した……本来なら、銃殺ものだぞ」

「それは……っ」

「君は十分に、キラ=ヤマト をコントロールできていなかった……艦の安全の責任を持つ艦長の行為としては如何なるものかな」

言い返す言葉が見つからな い……マリューは歯噛みする。

「その後、アークエンジェル は第8艦隊と合流……地球降下の際に第8艦隊に多大な犠牲を出した……」

「曲解です! 我々 は………!!」

「我々は? なんだね?」

声を荒げるムウをジロリと睨 むサザーランドに、マリューが反論する。

「我々は、ただハルバートン 提督の意志を受け………」

「彼の意志が地球軍の総意な のかね? 一体いつ、そんなことになったのだ?」

マリューはこの瞬間、内に 持っていた熱意を完全にも燃えつきらせた……将校達の悪意によって……自分達は、まったくの厄介者だという扱いに……

「しかも、レイナ=クズハは ハルバートンが勝手に雇ったという話ではないか……軍司令部を通さず、そのような勝手な判断を下した彼には、追って処罰があるだろう……そもそも、彼の意 志に基づいた結果がこれとはな………大気圏に突入したストライクとルシファーを助けるために、アークエンジェルは当初の目的地を大幅に変更し、アフリカに 降りざるを得なくなった……」

「見捨てた方がよかった…そ う仰るのですか?」

アルフが低い口調で問うが、 サザーランドは無情に頷く。

「たかだかコーディネイター を救うために、貴重なデータを載せたアークエンジェルを敵の真っ只中に降ろすなどという愚行……しかも、諸君らは勝手に原住民のゲリラと共闘した……結果 的に砂漠の虎を破ったのは僥倖ではあるが、この結果…さらなるザフトの危機感を煽り、ジブラルタルによるヨーロッパ戦線の部隊派遣へと繋がった……ヨー ロッパ戦線のガーランド=マリクを破るも、奪取されたXナンバーの追撃を呼び込み、挙句の果てには独断でオーブに対し、援助を求めた………」

長々と述べられる糾弾……マ リューは怒りが胸中に渦巻く。

だが、そんなマリューの様子 に気付いたサザーランドは、制するように言葉を続ける。

「無論…私は全てが諸君らの 非とは思っておらんよ、ラミアス少佐。過酷な状況の中、実によく頑張ったものだと思う。だがそれだけの犠牲を払って入港したアークエンジェルは、既に肝心 のストライクとルシファーすら失っているというありさまだ。それで犠牲になった者達が浮かばれるのかね?」

まあ、と皮肉な視線がこちら を一瞥する。

もし一片でも、犠牲になった 者に対する誠意があるのなら、何故援軍や補給の寄越さなかったのだ……と、内心に吐き捨てる。

「手元に残ったのはアラスカ 到着前に回収したバスターのみ…だが、その機体は既に奪取されたものであり、当然ながら機体性能などは全てザフトに流出している……そのような機体では、 もはや再運用は難しいと言わざるをえまい」

クルー達の反応など構わず、 サザーランドは事務的に続ける。

「全てを明確にし、この一連 の成果と責任をはっきりさせねばならんのだよ……誰もが納得する形でね」

自分達の都合のいいように書 き換えているだけだ……と、マリューは胸に染み渡る黒い感情に思った。

ハルバートンの言葉通り…… 上層部にとっては、末端の兵の死などどうでもいいのだろう。その事に対し、怒りを露にした上司は処罰の対象とされ、自分達は明らかに犠牲に合わない結果し か出せず、糾弾される。

まるで、自分のしてきた事全 てが否定されたようで…全身に虚しさが拡がっていく。

もはや言い返す気力もなく し……心身ともに疲労が極限に達しようとした頃、延々と続けられた糾弾の審議は終わりを告げた。

「……ではこれにて、当査問 会は終了とする。長時間の質疑応答、ご苦労だったな」

部屋が明るくなり、クルー達 はその光に一瞬瞬きし、大きく息を吐いた。

将校達にとっては、面倒な事 務仕事を片付けたという表情しか表れておらず、素早く書類を片付けて席を立つ。

「アークエンジェルの次の任 務は、追って通達する」

その命令は、またもや艦内待 機を示していたが…マリューにとってはもはやどうでもよく、今はただ休みたいという欲求にかられ、席を立つ。

「ムウ=ラ=フラガ少佐、ア ルフォンス=クオルド大尉、ナタル=バジルール中尉、フレイ=アルスター二等兵以外の乗員は、これまで通り、艦内にて待機を命ずる」

その言葉に、現実に戻された マリューがハッとし、他のクルー達も面を喰らったようで動きを止める。

「では……我々は?」

「この4名には、転属命令が 出ている……明朝08:00、人事局に出頭するように……以上だ」

困惑するクルーを横に、慌し く出て行こうとするサザーランドを思わずナタルが引き止める。

「あの……アルシター二等兵 も転属というのは………?」

流石のナタルも、彼女の転属 については疑問を持った。

技術面でもまったくなにも技 能を持たず、パイロットでもない……艦内の雑用しか任されていないフレイを必要する部署があるとも思えなかった。

「彼女の志願の際の言葉…… 聞いたのは君だろう?」

「はぁ……そうであります が………」

未だに意図が掴めず、ナタル は首を傾げる。

「アルスター家の娘でもある 彼女の言葉は、多くの人の胸を打つだろう。その志願動機とともに……」

 

――――本当の平和が、本当 の安心が、戦うことによってしか得られないのなら……私も父の遺志を継いで、戦いたいと………

 

あの時に、涙ながらに訴えた その言葉を直接聞いたのは紛れもないナタル自身だ。

だが、そんな真摯な態度で志 願した者に対するこの態度は何なのだ、とマリューは苦く思った。

戦死した大西洋連邦事務次官 の愛娘が、その遺志を継ぎ、軍に志願したと語れば、それは多くの人々を確かに引き付けるが……所詮はプロパガンダに過ぎない。

その言葉に心を動かされ、志 願した者達が戦死したというのに……命の重みなど、この将校達にとっては数字上のことでしかないのか……

「……彼女の活躍の場は、前 線でなくていいのだよ」

憤りを憶えるような卑しい笑 みに、マリューは激しい憤りを感じながら、その場に立ち尽くした………

 

 

 

マリュー達が査問会に出頭し ている頃…サイはカズィとともに食堂を訪れていた。

ブリッジクルーではあるが、 彼らは査問会をパスされた…もっとも、出席していれば、あからさまな糾弾に、即怒りを感じていたとは思うが……

「これ、フレイに持ってって やってくれる?」

「ええ? 俺がぁ?」

サイがトレーを差し出すと、 カズィは心底嫌そうな表情を浮かべ、サイは顔をむっとさせる。

「じゃ、いいよ」

尖った口調で言い捨て、ミリ アリアの分と合わせて手に持とうとするが、カズィが慌てて手を伸ばす。

「あ、いいよ…俺持つよ」

ご機嫌を取るような口調に、 サイは嫌気が差し、無視しようとする。

「いいよ」

素っ気なく答えるが、それに も関わらずカズィは奪うようにトレーを持ち上げ、ぎこちない笑みを浮かべる。

恐らく、一人にされるのが嫌 なのであろう……

「部屋までは持ってくから さ……渡すのは、サイの方がいいでしょ?」

結局、面倒なことに関わりた くないという意思が感じ取れ、サイは溜め息をつき、無駄だと悟ったのか、そのまま歩き出す。その後をカズィが慌てて追う。

通路を歩いていても、カズィ はサイのご機嫌を取るようにしきりに話し掛けてくる。

「でもさあ……まさかミリィ が………捕虜をナイフで襲ったって聞いたんだけど?」

プライバシーに立ち入るよう に興味津々に尋ねてくるカズィに、サイは募りを憶える。

「あのザフトの奴が悪いんだ よ……なにか言ったらしい」

低い口調で答えられ、カズィ は一瞬ビクッとするが、話題を逸らすように話し掛ける。

「あ、あいつの名前、ディ アッカって言うんだって…ディアッカ=エルスマン」

気軽な様子で覗き込み、知り たくもない話を振ってくる。

「で…何か言ったって、 何?」

友人の問題なのに……まるで 他人事のように勝手に詮索してくるカズィの態度に、サイは視線を逸らして怒鳴った。

「知らないよ!」

その言葉に傷付いたように、 カズィは黙り込むが……また違う話を振る。

「しっかし、どうなっちゃっ てんだろうね、この艦? もうアラスカに着いたんだから、終わりだろ? 俺達、除隊できるんだろ」

――――達……カズィの中で は、既に自分達が除隊することが決まっているのか? サイは苛立ちを憶える…ミリアリアは少なくとも、除隊しても当分は普通に暮らせないだろう…いや、引 き篭もりがちになる可能性も高い。

それに自分もまだ、この艦を 降りれるとは思っていない…なのに、カズィは除隊の話を繰り返す……アラスカに着いてから、顔を合わす度に除隊の話を振られては、流石に鬱陶しくなってく る…まるで、逃げるようで………

「知らないよ…そんな事は艦 長に聞いてよ」

吐き捨てるような口調で答え 返す……そんなに軍が嫌なら、最初から志願しなければよかったものを……だが、そこまで考えてサイは考えを切り換えた。

あの時……フレイの言葉に のって、最初に志願したのは紛れもなく自分だ……それに続くように皆が…キラが………ひょっとしたら、カズィもキラも置いていかれるのが嫌で志願したので はなかろうか……だとすれば、その責任は自分にあるのではないだろうか……フレイに従って自分が言い出さなければ…キラもトールも死なずにすんだのではな かろうか……サイ自身も、戦争を甘く見ていた。死と隣合わせという現実を………キラやレイナ…トールが死んで、初めて恐怖したのだ………次に死ぬのは自分 だと。

暗い考えに捉われるサイは、 視界に自分達の部屋が見え始め、その考えを奥へとしまい込み、気分を切り替える。

「ミリアリア、食事 を………」

できるだけ明るい口調で部屋 に入ると……そこには誰も居なかった………

 

 

 

医務室から独房へと移動させ られたディアッカは、薄暗い独房内で天井を見上げていた。

気分がすぐにぐずつき、寝返 りをうつと……包帯で巻かれた傷が枕に当たり、鈍い痛みが走る。

「いてぇ……」

思わず呟き……そっと傷をな ぞる。

捕虜として収容された頃の不 愉快さは既になかった……投降した時は、流石にディアッカも不愉快な思いだった。MSに墜とされたならいざしらず…戦闘機に被弾させられ、しかも降伏した とあって、屈辱を憶えずにはいられなかった……それ故に自己嫌悪に陥り、せめてもと皮肉っぽく振る舞ってやった………

だが……あの時の泣き叫び、 必死の形相で迫る少女の顔を思い出し、ディアッカは顔を顰めた。

「ち……ビンゴかよ………」

思わず、無神経な言葉を漏ら した自分に酷く嫌悪した……そして同時に恐怖した。

死に対する恐怖とは別のもの だ……自分が、恨まれる対象だという現実に………今迄考えたこともなかったからだ……ナチュラルなど、自分からは見下す相手としか感じなかった。

少女が泣き叫びながら襲い掛 かってくるなど、想像だにしていなかった……だが、それは紛れもない事実だ……自分は、あの少女から見れば、愛しい者を殺した仇なのだから。

そこまで考えると……ディ アッカはまたしても疑念にかられた。

ならば何故……あの時、あの 少女は銃を持ったもう一人を止めてまで、自分を助けたのか……先程まで、自分が殺そうとしていた相手を………そして…謝罪の言葉……いや…あれは懺悔なの だろうか……

思考に耽っていると、なにか が近付く音が微かに聞こえ、ディアッカは反射的に身を起こした。すると、鉄格子に隠れるように、今しがたまで自分が考えていた少女が佇んでいた。

覗き込んでいたのか……ディ アッカが気付いたのを悟ると、ミリアリアは踵を返した。

「待てよ!」

ディアッカは自分でも驚くよ うな言葉を口走っていた。

すると……ミリアリアも足を 止め、ゆっくりとこちらを振り返る。

呼び止めたが……別になにか を話すつもりではなかった……自分でも何故声を掛けたのか解からない……ミリアリアがこちらを凝視するのに対し、しばし逡巡していたが……やがて、躊躇い がちに口を開いた。

「あのさ……お前の彼氏…ど こで………」

なるべく相手を傷付けないよ うな言葉を選んで尋ねると……その意図を察したミリアリアもやや戸惑うように答えた。

「……戦闘機に乗ってた の………あんた達が、島で攻撃してきた時………」

「戦闘機?」

それだけでは特定できなかっ た……あの時展開していた戦闘機は2機であったが………

「……鹵獲した機体…イン フェストゥスっていうやつ………」

それを聞いた時、ディアッカ は肩から力が抜けるように息を吐き出した。

「俺じゃない……」

なぜか……心底安堵した面持 ちでゴロンと寝転がった。

自分が戦っていた戦闘機は鹵 獲された機体ではなかったし、なにより被弾こそしたものの、無事に不時着したはずだ………だが、ただそれだけだ。

自分が殺さなかったというだ けで…その戦闘機を墜としたのは恐らく自分達のうちの誰かだ……そして、自分はその仲間で、この少女から見れば仇と思われても仕方ないものだ。

そして……今のディアッカに は、もはやなんの躊躇いもなく相手を殺せるとは思えなかった……自分の殺した相手の死を悼む者がいるという事実に……そんなディアッカを、ミリアリアはし ばし、呆然と見詰めていた………

 

 

 

 

 

夕闇に包まれるプラント 内……人工の夕焼けが映し出され、空も湖もオレンジに染まる。

夕方の心地良い微風が吹く。

その光景を、クライン邸のベ ランダに出たキラとレイナは見詰めていた。

キラはベランダの手すりに手 を置き、レイナは手すりに腰掛け、脚を外へと投げ出し、見詰めている。

そんな二人のもとに、紅茶を 運んできたラクスがそっと近付く。

それに気付いたキラが振り向 くと、キラの横に立ったラクスは、ニコリと微笑んだ。

「ずっとこのまま……こうし ていられたらよいですわね」

無邪気に笑うラクス……キラ は視線を戻し、ラクスも同じく夕焼けを見やる。

その言葉を聞きながら、レイ ナは心のどこかで思っていた。

 

 

―――――また嵐はくる…戦 いの嵐が………運命に導かれて………

 

 

確信的な思いを抱き……レイ ナは紅く輝く夕闇を見詰めた…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《次回予告》

 

 

穏やかな時間……だが、それ が再び終わりを告げる。

世界に拡がる憎しみの闇……

砲火が飛び交い……世界は迷 走する………

 

 

そして……新たな覚悟を持 ち、少年と少女は再び、その翼を拡げる………

自由と無限という名の翼 を………

 

 

次回、「飛翔」

 

新たな翼…甦れ、ガンダム。



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