プラント内の国防総省のパト リックの執務室……

照明の落ちた薄暗い室内で、 パトリックは手元のモニターに映るクルーゼと通信を行っていた。

《スピットブレイク、全軍配 置完了しました》

クルーゼの報告に、パトリッ クは厳しい表情のまま押し黙っている。

今この時……地球の衛星軌道 上では、無数の輸送艦が多くのMSを収容した大気圏突入カプセルを移送している。一方では、地上の各地から輸送機が離陸し、潜水母艦群も集結ポイントに待 機し始めている。

「……あとは、ご命令をいた だくのみです」

笑みを浮かべ、後を押すク ルーゼに、パトリックは静かに頷いた。

全てに終わりをつけるため に……

 

 

機動戦士ガンダムSEED 

TWIN DESTINY OF  DARKNESS

PHASE-32  飛翔

 

 

折れた腕を固定したギブスを 吊りながら、アスランは軍服を羽織る。

そして、カーペンタリアの一 室で、トランクに荷物を纏める……数時間後にプラント行きのシャトルへの搭乗が控えているからだ。

アスランは不意に、荷物を纏 め終えると…首元の石を手に取る……カガリから無理矢理渡されたハウメアの護り石……カガリはああ言われたが、自分は護ってもらえるような人間ではない と、自虐的に笑う。

荷物を全て収めたトランクを 持ち、部屋を出る……隣の部屋で準備しているはずのリンのもとを訪れた。リンとリーラの二人とともにプラントへ帰国するためだ…リーラは未だ、傷の療養の ため、病室で準備を進めている。

部屋の扉をノックすると…… 返事が返ってこない。

「……リン?」

先に行ってしまったのか…… 訝しげにドアを開けると……夕闇が差し込む部屋内で、リンは窓のさんに腰掛け、壁に凭れながら外を見詰めている。

儚げな…それでいてどこか切 なさを帯びるその憂いた表情にアスランは一瞬、ドキリとするが……アスランの入室に気付いたリンが気だるげにこちらを振り向く。

「なんだ……アスランか」

そろそろ出発する時間かと思 い、リンは腰を上げる。

ベッドに投げ出していたトラ ンクと上着を取り、上着を無造作に羽織る……その拍子に、何かが零れ落ちた。

アスランが眼をやると……そ れは、数日前に与えられたネビュラ勲章だった……自分も同じものを与えられ、今はトランクに収まっている。

リンはそれを持ち上げると、 そのまま踵を返し、部屋に設置されているダストボックスの前まで歩いていく。

怪訝そうに見詰めるアスラン の前で、リンは勲章をなんの躊躇いもなく放り込んだ。

ギョッと眼を見開くアスラ ン……

「リ、リン……」

国防委員会から与えられた勲 章を捨てるなど……いわば、自分の父親の顔に泥を塗られたも同然の気分だが、リンは気にもせず鼻を鳴らす。

「こんなチャチな勲章が欲し くて、私は戦ってるわけじゃない……」

吐き捨てるように呟くと、リ ンはトランクを持ち上げ、呆然となるアスランを横に退出していく。

暫し唖然となっていたが、我 に返ったアスランは今一度、ダストボックスを振り見やると、そのままリンの後を追った。

 

 

それぞれの思いに逡巡しなが ら、二人が通路を進んでいると……  通路の先に、腕 組みをして壁に凭れかかっているイザークが佇んでいた。

イザーク自身も、クルーゼか らアスラン達の異動を聞かされ、困惑していた。

アスランやリンだけでなく、 リーラまでがプラントに帰国すると聞き、その事実を受け入れるのがなかなかできなかった。

本人は否定したがるが…それ は寂しさに似ていたかもしれない。だが、アスラン達はともかく、リーラが戦場から離れることにイザーク自身安堵の思いもあった。

療養のためとはいえ、プラン トに戻るのであれば、暫くは戦線に戻れないだろう……その方がいいと、イザークは思っていた…自分の大切な者を失いたくはなかったからだ。

アスランはアスランで、イ ザークには黙って行くつもりであった……一時的とはいえ、やはり別れは辛かったからだ…しかし、そんなアスランの気遣いを察していたイザークに、アスラン は苦笑を浮かべた。

二人が近付くと、組んでいた 腕をほどき、壁から身を起こしてイザークは向かい合った。

3人の間に、無言が漂う…… 隊を結成した時には考えられなかった空気が漂う。

ラスティが抜け、ミゲルが死 に……そして補充で入ったリンとリーラ………だが、ニコルも死に、ディアッカは行方不明…リーラは重症………そして、アスランとリンもまた隊を離れる…… 一人残されるイザークのことを考えると、いたたまれなくなる。

イザークはやや睨むような視 線で二人を見やると、ぶっきらぼうに言い放った。

「貴様らが特務隊とはな…… 俺はオペレーション・スピットブレイクだ……そこで手柄を立てて、すぐそっちに行ってやる」

ライバルらしい口調で不機嫌 そうに言うイザークに、アスランは微笑を浮かべる。

イザークは顔を逸らすが、ア スランは持っていたトランクを置くと、右手を差し出す。

「……いろいろ、すまなかっ た。今迄……ありがとう………」

また無視されるかと思った が、意外にもイザークはその手を握り返した。

握る手に、力がこもる……な にかと対立していたが、その情の篤さに、アスランは嬉しさがこみ上げてくる。

それを見ていたリンは、アス ランに習うように包帯が巻かれた右手を差し出す……リンとて、そこまで薄情ではない。

流石に、リンに握手を求めら れるとは思ってなかったイザークは、戸惑いながらもその手を握り返す。

「………」

何も語らなかったが、敢えて イザークも言葉を発しなかった。

無言のまま終わると、アスラ ンとリンは互いにトランクを持ち上げ、アスランが短く告げる。

「……じゃ」

名残惜しいような…それでい て胸に込み上げる熱い思いに、アスランは眼元が緩みそうになるのを堪えながら、イザークの隣を通り過ぎようとする。

それに続くようにリンが後を 追い……すると、イザークは背を向けたまま言った。

「今度は俺がお前らを部下に してやる」

尊大な物言いに、思わず足を 止める。

「それまで死ぬんじゃない ぞ」

イザークらしい気遣いに、ア スランは苦笑を浮かべる………だが、それと同時に、後ろめたい気分に駆られる。

「……解かった」

「…楽しみにしてるわ」

肩越しにアスランとリンが応 えると、二人はそのまま前に歩き出す。

「それと……リーラを頼む」

続けて発せられた言葉に、ア スランは足を止め、振り返った。

「お前らに頼むのは癪だ が………俺はあいつの傍にいてやれない……だから、お前らが支えてやってくれ」

リーラがプラントに戻ること には確かに安堵している……だが、心の中では、離したくないという衝動に駆られているのだ……

「あいつは今……酷く傷付い ている…仲間の死を、なかなか受け止められずにいる」

初めて得た仲間の死……自分 にとって近しい者の死に、リーラは過剰に衝撃を受け過ぎたのだ……本来は、戦場なんて血生臭い場所が、もっとも似合わないはずなのに……イザークは自身に 毒づく。

「あいつも解かっている…… 今は無理でも、いつかは乗り越えられる…あいつは強いからな……だが、それまでは………頼む」

真摯に思うイザークに、アス ランは呆気に取られていたが……やがて、小さく頷く。

二人の関係が、それ程深いと は……流石のアスランも知らなかった…だが、ならば余計に辛いのだろう……ならば、今の自分にできるのは、その言葉を汲み、精一杯応えることのみだ。

そして、三人は再び離れてい く……次に再会するのは、何時かは知らず………そんなアスランとリンの背中を、イザークは肩越しに見送った……いつか、その背中を追い越し、そして共に生 き延びるために………

イザークはそのまま歩き出 し……もう一人の見送るべき人物のもとへと向かった。

 

 

イザークと分かれた後、アス ランとリンが通路を進んでいると、前から二人組の男女が歩いてきた。

「あ、いやがった!」

片方の女性が思いっきり、リ ンの方を指差す……随分と失礼な行為だ。

とはいえ、そんな無礼もやっ てのけるのが、ヴァネッサ=ルーファスであり、それを抑えるのが副官のライル=レテーネの役割だった。

「た、隊長……」

オロオロした様子で声を掛け るが、ヴァネッサはズカズカと歩み寄る。

先の西アジア沿岸戦でアーク エンジェルに敗北し、アジア戦線は規模を縮小され、ヴァネッサ達の小隊はカーペンタリアへと回されていた。

だが、回されてからは、直に 控えるオペレーション・スピットブレイクのために、カーペンタリアは準備に忙しく、パイロットであるヴァネッサはかなりストレスを蓄積させていた。元から 待機など、ジッとするのが苦手な性分だ……そこへ、ライバル視しているリン=システィが地球軍のMSを撃破したという報告が入り、またもや差をつけられた と悔しく思い、せめてもと出発前に探していたのだ。

「リン……知り合いか?」

アスランが尋ねると、リンは 気だるげに溜め息をつく。

「……全然」

素っ気ない口調で呟くと、 ヴェネッサは思わず転げそうになり慌てて踏み止まる。

とどのつまり……自分は全然 ライバルに見られていなかったということだろう………拳を握り締め、怒りに震えるヴァネッサを、ライルが慌てて抑える。

「お、落ち着いてください、 隊長……」

宥めつつ、視線をリンの方へ と向ける……もうこれ以上、刺激しないでください……と、眼が訴えていた。

「ぜぇぜぇ……ったく」

息切れをしながら、毒づくと 睨むようにリンを見るが……リンは相変わらず無反応であり、それが激しくヴェネッサの怒りを煽る。

だが、なんとか少ない自制で それを抑え込み……嫌味のような口調で話し掛ける。

「へっ……英雄さんは、いい よな…本国で最新鋭機を貰うんだってな……ま、俺もそれなりにいい機体を回してもらったしな……」

カーペンタリアに配属され て、ヴァネッサには本国から送られたYFX−200:シグー・ディープアームズを与えられたのだ…リンのヴァルキリーに搭載されたのは、ザフト独自で進め ていたビーム兵器だが、その開発コストやビーム熱の調整がまだまだ試行錯誤であり、それを奪取した連合の技術を流用し、試製型のビーム兵器として装備され たのがYFX−200なのだ。試験機であるこの機体を扱えるパイロットが他におらず、結果的に戦力のためにヴァネッサ隊に配備された……それに伴い、ライ ルのシグーも完成したばかりのアサルトシュラウド装甲に換装された。

もっとも…受領したシグー・ ディープアームズをヴァネッサは早くもパーソナルカラーの金色に染めており、そのためにライルら小隊のメンバーが多大な疲労を被った。

「………そ。ま、頑張って」

あくまで無関心に呟くと、そ のまま横を通り過ぎていく……そのすかしたような態度に、ヴァネッサは頭を掻き毟る。

「だぁぁぁっ、いっつもいつ もてめえはすかした態度しやがってぇぇぇぇ! いいかっ! いつか、ぜってぇぇぇてめぇに吠え面かかせてやるからなぁぁぁぁぁっ!!」

叫び上げるヴァネッサに、ア スランは呆気に取られ……その肩に手を置き、首を振るライル…既に諦めているその態度に、アスランはなぜか親近感を覚えた。

「気にしないでくれ…いつも のことだから………それよりも、君も本国で頑張ってくれ。同じザフト兵として、俺は誇りに思うよ」

賞賛するライルに、アスラン は表情を顰めそうになるが……なんとかぎこちない笑みを浮かべ、頷き返した。胸に刺す傷みを抑えて……

 

 

 

アスラン達と分かれたイザー クは、最後に見届ける者のいる病室へと足を向けていた。

病室の前で、ドアをノックす ると……中から返事が返り、イザークは入室する。

「準備はできたか?」

「うん」

病室の中には、既に軍服に身 を包んだリーラが佇んでいた。

「私はもう大丈夫なんだけど ね……隊長が本国に戻るようにって」

苦笑を浮かべる……リーラ自 身、ある程度傷は回復したと思っている。

オペレーション・スピットブ レイクには無理でも、これならわざわざプラントまで戻らずともここで充分完治できると思っていた。

「ダメだ……」

だが、それでもなおリーラの 身を案じるイザークが強く否定し、そのまま歩み寄ると、足元に置かれていたリーラのトランクを持ち上げた。

「あ…い、いいよ……自分で ちゃんと持てるし」

慌ててトランクを持とうとす るが、イザークはそれを許さず…そのまま退室し、リーラは慌てて後を追った。

「無理はするな」

あくまでリーラを気遣うイ ザークに、リーラは渋々従う。

人気のない通路を歩いている と、リーラが唐突に歩みを止め、イザークが訝しげに振り向く。

「どうした……?」

不審そうに尋ねるイザーク に、リーラはどこか寂しげな表情を浮かべる。

「うん……また、離れちゃう なって…イザークと」

大切な者と離れ離れになるこ と程、不安なものはない……ずっと一緒にいたいと思った。

互いに想いが繋がっていると 感じられた時、凄く嬉しかった……だからなのだろうか、今回は心細い。

そんなリーラの心情を察した のか、イザークは肩の力を抜き、トランクを置き、リーラの肩を抱いた。

一瞬、身を震えさせるが…… 次の瞬間には、リーラは抱き締められた。

「心配するな……オペレー ション・スピットブレイクが終了すれば、地球軍ももう戦争は継続できないだろう…お前がこれ以上戦う必要もない。それに、俺が必ずお前を迎えに行く」

イザークもやはり、一抹の寂 しさを隠し切れないのだろう……本当なら、ずっと傍で護ってやりたい……だが、軍人の身である自分には、それもできない。

「うん……待ってる……うう ん……私は絶対にイザークを置いていかないよ……だから、イザークもそれまで無事でいて。私を置いて、遠くへいかないで……お願い………」

リーラもイザークに抱きつ き……顔を胸に埋めて溢れそうになる涙を必死で堪えた。

「ああ……約束する。俺はお 前を置いて、何処にもいかない……俺達は、生きるも死ぬも一緒だ」

そして……安心させるよう に、イザークはリーラの額にそっと口付けした。

その行為に……リーラは顔を 真っ赤にする。

胸の辺りが熱かった…イザー クから渡されたペンダントとリングが………これが、二人の絆を永遠に繋いでくれる。

そう思わずにはいられな い……そして…二人は離れていく………次に再会できる刻を待って………

だがそれは……動き始めた世 界に、残酷な運命を課せられるのであることを、二人はまだ知らなかった………

 

 

 

麗らかな日差し…小鳥のさえ ずりが、穏やかに響く。

クライン邸の庭にて、キラは 何をするでもなく…ただぼんやりとプラントの湖を見詰めていた………傷も既に大方癒え、動く分には大きな問題はない。

キラの瞳には…もう戻ること のできない平和で変わることのないと思っていた日常と、それとは逆の苦しく辛い戦いの日々……それらが交互に行き交い、キラの思考は深く沈む。

「……もうすぐ雨の時間です わ」

そこへ、もはや聞き慣れた声 が耳に入り……キラはゆっくりと振り返る。

そこには、いつもの無邪気な 笑顔を浮かべたラクスが佇んでいた。

徹底に管理されたプラント内 には、気候さえもあらかじめのスケジュールが組まれる。

「レイナやマルキオ様も待っ ています…中でお茶にしませんか?」

ラクスに言われるまま、キラ は空虚な眼差しで屋敷の中に足を向けるのだった。

 

 

 

アークエンジェルの自室で、 荷物の整理を行うムウ。

転属を命じられ、そのために アークエンジェルを去ることになり、荷物を整理していた。

元々、この艦に乗った時も被 弾して収容されたのだから、私物は左程多くない。

鞄に詰めていると、ふと机の 上に置かれた物が眼に入った……あの日……レイナと共に訪れた廃墟で手に入れた日記………結局、これについても何もレイナに聞けなかった。

彼女に渡してやればよかった と……後悔せずにはいられない………その日記を今一度持ち上げると、ムウは複雑な表情で見やる。

だが、やがて息を吐き出す と、日記を机の上に置く……やはり、持っていくのは気が引けた……自分が持っていても、何の意味もないが、捨てるのも躊躇われた。

結局、日記をその場に残した まま、ムウは慣れていない軍帽を被り、自室を後にするのであった………

 

 

アラスカ:JOSH−Aに て、アークエンジェルのハッチ付近には、クルー達が整列していた。

それは、転属となったクルー の見送りである。

マリューが沈痛な面持ちで、 ハッチで待っているムウとアルフを見ていると…そこに、少女の叫びが聞こえてきた。

「嫌よ……嫌です、私! 離 して!」

叫びながら首を振るフレイの 腕を引っ張ってくるのは、二人分の荷物を抱えたナタルだ。

「艦長、なんで私だ け……!」

マリューを視界に収めると、 救いを求めるように涙眼で訴えるが、マリューは答えられず、表情を俯かせる。友人と離されるのは、フレイのような年頃の少女では抵抗をしても仕方ないが、 それでもこの先の彼女の課せられる役目を思うと、何も言えない。

「いい加減にしろ! これは 本部からの命令だ、君は従わねばならない!!」

駄々っ子のように喚くフレイ をナタルが叱り付けるが、納得できないようにフレイは無理矢理掴んでいたナタルの手を振り払う。

「……そういうことになって しまうわね。軍本部からの命令では、私にはどうすることもできないの……ごめんなさい」

愕然となるフレイ…軍人であ る自分が、命令に従わなければならないという感覚が彼女にはないのだろう。

「異議があるのなら…一応、 人事局に申し立てをしてみることはできると思うけど……」

「取り合うわけがありませ ん」

微かな望みも、呆気なくナタ ルに否定され、フレイは助けを求めるように周囲を見渡すが、サイもミリアリアもカズィも、何も言えず、複雑そうな表情を浮かべている。

「では、艦長……」

別れの挨拶として、ナタルは 荷物を置き、マリューに向かって敬礼する。

それに対し、マリューも微笑 を浮かべて敬礼を返す。

「…今迄ありがとう……バジ ルール中尉」

面と向かって礼を述べられ、 流石のナタルも微かに翳りを帯びた表情を浮かべる。

「いえ……」

一抹の寂しさを感じさせるそ の表情に、マリューはここまでのナタルとの航海の日々を思い出す……意見の違いで何度も衝突したが、彼女の判断に助けられたことも多くあった。

「また…会えるといいわね。 戦場でない、何処かで……」

微かに切なさを帯びた声で呟 くと、ナタルもそれにいつもの調子で答える。

「終戦ともなれば、それも可 能でしょう」

相変わらずの物言いに、マ リューは苦笑を浮かべる、

「……そうね…彼女をお願い ね」

その日が来ることを願っ て……マリューは今一度フレイを気遣うように見やる。

それに応えるようにナタルは 荷物を取り、そして佇んでいたフレイの腕を改めて掴むと、そのまま引っ張っていく。

「サイ…!」

最後の呼び掛けともいうよう に、フレイはサイの名を呼ぶ……

「フレイ…」

サイが一歩踏み出し…肩に止 まっていたトリィがフレイに向かって飛んでいくも…すぐまた反転し、サイの肩に止まる。踏み止まるサイ……結局、この二人のわだかまりがとけることは叶わ なかった……

その様子を見やりながら、ム ウは溜め息をつき、アルフに向かって冗談めいた口調で呟いた。

「俺らも、言うだけ言って みっか……人事局にさ」

慣れない制帽を被ったムウの 言葉に、アルフも苦笑を浮かべる。

「そうっすね…言うだけ言っ てみますか………」

同じく、制帽が似合わないア ルフが軽口で答える。

「取り合うわけないそうよ」

苦笑混じりに呟くマリュー に、二人は顔を顰める。

「しかし、なにもこんな時に 教官やれ、はないでしょ」

愚痴るように呟く。

「少佐は確かに変っすよ ね……俺は、月に戻るかと思ったら、太平洋艦隊に配属っすよ」

半ば訳が解からないといった 感じで、アルフも肩を竦める。

ムウはカリフォルニアの士官 学校に教官として…そしてアルフは大西洋連邦管轄の太平洋上艦隊に配属され、部隊の一つを任されるらしい………しかし、数少ないザフトのMSとやり合える 二人を、前線から遠ざけるという異例の配置に、本部の考えがまったく読めず…マリューも内心に不安を憶えていた。

「貴方が教えれば、前線での ルーキーの損害率も下がるわ」

何気にマリューがもらす。

「少佐……俺、先に行きます ね」

マリュー達に向かって敬礼 し、アルフは足早にその場を離れていく……残されたムウは、憮然とした表情でマリューを見ていた。

「ほら……遅れますよ」

促すと、ムウは表情を顰めて 制帽越しに髪を掻き毟る。

「ああもう!」

名残惜しいようなムウの態度 にマリューは嬉しく思うも、その逡巡を断ち切るように敬礼した。

「今迄……ありがとう…ござ いました………」

堪えていた涙が溢れ、語尾が 震える……そんなマリューの様子に、ムウはもはや何も言えなくなった。

「俺の方こそ……な」

暫し、見詰め合うと……ムウ もまた敬礼を返し、背を向ける。

最後の挨拶にサイの肩を叩 き、クルー達の敬礼を受けながら、ゆっくりと離れていく……その広い背中を、マリューは切なげに見送った……

 

 

ムウ達4人を見送ってから一 時間後……アークエンジェルのブリッジに戻ったマリュー達に、伝令官が事務的な口調で命令を伝えていた。

「暫定の処置ではあるが、第 8艦隊所属艦、アークエンジェルは本日付けをもって、アラスカ守備軍、第5護衛隊付きへと所属を移行するものとする……発令、ウィリアム=サザーランド大 佐」

伝令官の命令に返答しながら も、マリューは怪訝そうな表情を浮かべ、クルー達も困惑している。

「アラスカ守備軍?」

「アークエンジェルは宇宙艦 だぜ……?」

小声で囁き合うクルー達を同 じく、マリューも不審なものを憶える。

「それを受け、本日14: 00より、貴艦への補給作業が行われる……以上だ」

ますます戸惑いが強くなり、 立ち去ろうとする伝令官に思わず声を掛けた。

「あ、あの……」

「なんだ、不服か?」

不機嫌さを隠そうともせず、 問い返す伝令官にマリューは一瞬押し黙るも、すぐに言葉を発する。

「いえ、そうではありません が……こちらには、休暇・除隊を申請している者もおりますし…捕虜の扱いの件に関してもまだ……」

所属の件に関してはまあ、理 解できる…宇宙に戻るまでは、無所属というわけにもいかない……だが、未だに艦内待機を命じ、しかも捕虜の措置に関しても何も指示してこないのはおかしす ぎる。

異議を唱えるマリューに対 し、伝令官はつれない返事でお決まりの答えを言った。

「大佐には伝えておく」

素っ気なく呟き、伝令官は 去っていくが…マリューは何も言えず、それを見送る。

パナマ侵攻を控え、自分達に 構っていられないというのは解かるが……だが、果たして地球連合はパナマを護り切れるのであろうか…その犠牲になった者達も、上層部の考えを動かすことは できないかもしれないと……苦く思った。

 

 

 

人口の雨が降り注ぐプラント 内にて、クライン邸のサンルームにてティータイムを行っている一同……テーブルの隣でラクスが紅茶を淹れ、マルキオとキラは腰掛けている。

マルキオは早速紅茶を飲んで いるが、キラは手をつけず、ただボウっと外を見詰め……レイナはサンルームのガラスに身を預けながら、どこか切なげに外を見ている。

青い空はどんよりとした灰色 へと変わり、人工の雨が降る……

「どうぞ……レイナ」

凭れたままのレイナに、ラク スがにこやかに笑いながら、カップを手渡す。

「ありがと」

短く答えると、左手でカップ を受け取り、湯気と香りが立つ紅茶を口に含み…そして……また視線を外へと戻す。

その様子に、困ったような笑 顔を浮かべ、ラクスはレイナと…手元でカップを玩んでいるキラに呟く。

「キラ、レイナ……お二人 は、雨が好きですか?」

唐突の質問に、キラは答え ず…レイナは表情を変えずに答えた。

「私は……嫌いよ」

遠慮もなくハッキリと言い切 るレイナ……雨は好きになれない………自分自身が揺らぎそうで……まるで、自分の中で自分が暴れるようで………

またもや黙り込み、静寂が続 く……そして、ガラスを叩く雨を見やりながら、キラがふと呟いた。

「不思議だな………」

その言葉に、ハロと戯れてい たラクスは動きを止め、キラを見やる。

自分自身がここにいることが 未だに不思議で仕方がない……こんな自分が………

「なんで僕は…ここにいるん だろう………って思って……」

まるで天国のような楽園…… 孤独も恐怖も哀しみもない……ただ静かに生きれる場所……

「キラは何処にいたいのです か?」

そう問い掛けられても、キラ にはまだ答えられない……レイナの言ったように、自分のするべき道を探そうとは思っても、答えは出ない……いくら考えても考えても、浮かぶのは後悔と恐怖 のみ………まるで、あの灰色の空のように、自分の心も深い霧に覆われているようだ。

「……解からない」

「ここはお嫌いですか?」

「ここにいて……いいのか な?」

迷子のように呟くと……ラク スは嬉しそうに笑う。

「私はモチロン、とお答えし ますけど」

ラクスのその言葉が嬉しかっ た……だが、それでもやはり違うような気がする。

「キラ……それが貴方自身の 選んだことなら、誰にも咎める権利はないわ。人の道は、誰かが決めるためにあるんじゃなく、自分自身のためにあるんだから……」

レイナの言葉にも、キラは表 情を俯かせるだけだ……レイナのその強さが羨ましかった。

決して迷わず…傷付いても進 む強さ……キラには到底、できそうもない……そう言ったところで、レイナは一笑するだろうが………

「自分の向かうべき場所、せ ねばならぬことはやがて自ずと知れましょう……貴方方は『SEEDを持つ者』…故に………」

傍観していたマルキオが静か に…それでいて示唆させるような口調で呟く。

「……ですって」

マルキオの言葉を次ぐよう に、ラクスが可愛らしく首を傾けながらキラに笑みを送る。

 

――――SEEDを持つ者

 

以前もマルキオにそう呼ばれ たが…今のキラには、その意味を考えることはできなかった……

 

 

 

陽が落ち……夜の闇がカーペ ンタリア基地を包み込む。

滑走路には、一機のシャトル が離陸の時を待っている……本国へと向かう機体だ。

その中には、アスラン、リ ン…そしてリーラの姿があった。

「あ…リンさん……」

シャトルに乗り込んだリーラ がリンの姿を見つけ、話し掛けるが……リンは素っ気なく無視し、そのまま席の端に座り、窓の外を見やる…全てを拒絶するように………

実際、リンにとっては名誉も 勲章も無用のものでしかない……自分はそんなことのために戦っているわけでもない………なのに、本人の意思とは関係なく周囲はリンを英雄扱いする……それ が堪らなく鬱陶しかった………もう、自分はこれから生きていくことすら、牢獄だというのに……この先、ただ生き恥を晒すことだけが…自分に課せられたも の………リンは、鏡に映る自分の顔が酷く嫌だった……レイナを嫌でも思い出させて……自分のなにもかもが憎かった……

そんな葛藤を薄々ながら感じ 取ったのか、リーラはそれ以上何も言おうとはせず、そのままリンと反対側の窓側の席に腰掛けていたアスランの横に座る。

「リーラ……もう、大丈夫な のか?」

「はい……私は大丈夫なんで すけど、プラントに戻って精密検査をすると」

やや苦笑を浮かべるリー ラ……アスランもつられて微かに苦い笑みを浮かべる。

「イザーク……大丈夫だよ ね……」

視線を落し、俯くリーラ…… スピットブレイクに参加するイザークの身を案じているのだろう……地球軍も総力を挙げて護るであろう地に攻め入るのだ…イザークの腕を信じないわけではな いが、やはり不安なのだろう……

「ああ…あいつは絶対に死ん だりしない」

任された責任感と、イザーク への信頼感を信じて頷くアスランに、リーラも少しだが表情を明るくする。

そして、アスランは何気に バックに手を伸ばし…開けた途端に飛び込んできた楽譜と勲章の小箱に息苦しさを憶え、ノートパソコンを取り出すと、乱暴にバックを閉めた。

「ど、どうしたの……?」

その様子に驚いて見やるリー ラに、アスランはぎこちない笑みを浮かべる。

「いや……なんでもない」

余計な心配をかけまいと、無 理に笑顔を浮かべ、話を中断し、リーラも押し黙る。

アスランは眼を閉じ、シート に身を預ける。

全身に未だに巣食う悪寒は消 えない……キラを殺したという罪悪感が心を押し潰す。

キラのことも忘れて、ひたす ら任務のことだけ考えようとも考えた……だが、そんな事ができるはずもない……リンと同じで、アスランにとって仲間を失わせ、親友を殺して手に入れた勲章 など、傷をさらに抉るものでしかない………

あのカガリのように…罵って くれた方がどんなに気がラクか………道を見失うリンとアスラン…そしてリーラ……3人を乗せたシャトルは、ゆっくりと動き……高く舞い上がっていく…空の 遥か向こうにあるプラント目指して………

 

 

 

その頃……世界は大きく動こ うとしていた。

地球の衛星軌道上には、ザフ トの大部隊が展開していた。

ローラシア級数隻にナスカ 級……そしてMSの大気圏突入耐熱カプセルを多く搭載した貨物型輸送船が数隻……その周囲には、夥しい数のジンやシグーが展開していた。

耐熱カプセル内には、他にも 地上侵攻用のディン、バクゥ、グーン、ゾノといった機体が数多く搭載されている。

全ては……オペレーション・ ウロボロスの最終目標…オペレーション・スピットブレイクのために組織されたものだ。

その様子を、プラント本国の 軍本部で見詰めるパトリック……下方には、オペレーター達が慌しく動き回り、作戦発動の準備を急いでいる。

正面のメインモニターには、 パナマ宇宙港のある中央アメリカの地形が映し出されている。

「作戦開始は定刻の予定…… 各員は迅速に作業を終了せよ」

その指示に、周囲に展開して いたMSが、一部を残し次々と耐熱カプセルの中へと収まり、カプセルが閉じられていく。

「降下揚陸隊、配置完了」

「作戦域、オールグリー ン……レーザー通信回線、最終チェック」

緊張が高まる中、地上のカー ペンタリア基地からも無数の輸送機は発進し、ディン部隊が飛び上がり、それを整備士達が見送る。

また、周辺からも数多くの輸 送機、そして潜水艦が進撃する。

「03:00現在、気象報 告…晴れ…北北西の風、4.2メートル、気温18.7℃……」

全ての準備が整い…あとは発 動の指示を待つだけとなった一同は、頭上のパトリックを見上げる。

そして、パトリックは徐に立 ち上がり…全軍に向けての通信回線を開く。

「この作戦により、戦争が早 期終結に向かわんことを切に願う。真の自由と正義が示されんことを……オペレーション・スピットブレイク、開始せよ!」

弾かれたようにオペレーター 達が各部署に通信を飛ばし、司令部は騒々しさに包まれる。

「オペレーション・スピット ブレイク発動!」

「04:00、事務局発、第 6号作戦、開封承認!」

「コールサイン、スピットブ レイク発動…目標は、アラスカ!」

その指示に、前線に配置され た兵士達は一様に戸惑った。

 

《スピットブレイク、発動さ れました…目標はアラスカ:JOSH−Aです!》

通信越しに聞こえるオペレー ターの戸惑いの声に、地上のクストースト艦内のにいたイザークは息を呑んだ。

「JOSH−A!?」

困惑したのはイザークだけで ない……デュエルの隣に固定された金色のシグーカスタム機、YFX−200:シグー・ディープアームズとZGMF−515D:シグー・アサルトシュラウド のパイロットであるヴァネッサとライルも驚愕を浮かべていた。

「どういうこった……いった い?」

「解かりません…パナマでは なかった……」

流石のヴァネッサも二の句が 次げず、ライルも言葉を濁す。

クストーストのブリッジで も、突如として変わった画面に艦長を含めた一同が驚きに言葉を失っていた。

中央アメリカから北米の北端 を示す地図に切り替わり、それを見ながらほくそ笑むクルーゼ……極一部の者達だけがこの真のオペレーション・スピットブレイクについて聞かされていた

(……頭を潰した方が、戦い は早く終わるのでね)

愉悦の笑みを浮かべるクルー ゼには、もう一つの別の思惑があったが…それは誰にも解からぬことだった。

兵達も最初は戸惑いに浮き足 立っていたものの、パトリックの意図を悟り、すぐさまそれに対応していく。

「フン、流石はザラ議長閣下 じゃないか……」

驚きを浮かべていたイザーク も、不敵な笑みを浮かべる。

「奴らは目標をパナマだと思 い、戦力を集中させている…逆に好機じゃないか……」

独り言のように呟くイザーク の横で、それに反応した者がいた。

「へっ、面白れえじゃねえ か……一気に敵の本陣を仕留めようってっか!」

いきり立ち、すぐさまヘル メットを持ち、新たな愛機へと乗り込んでいくヴァネッサ。

「よっしゃぁぁやぁぁぁって やるぜぇぇぇぇ! ライル、遅れんなよ…そこのおかっぱの奴もな!!」

その言葉に、イザークはカチ ンときたのか、怒鳴り返す。

「誰がおかっぱだ!」

しかし…そんなイザークの怒 声も虚しく……既にヴァネッサはハッチを閉じ、機体を起動させていた。

憤怒に沸き立つイザークに、 ライルが頭を下げる。

「す、すまない…隊長も悪気 があったんじゃないんだ……」

相変わらずの尻拭い……だ が、イザークはこの作戦が終わったら、ヴァネッサを殴り飛ばしてやろうと心に誓い、この怒りを発散させるべく、デュエルへと乗り込んでいった。

残されたライルは大きく溜め 息をつき……哀愁を漂わせる背中で、シグーASに乗り込んでいった。

そして……真のオペレーショ ン・スピットブレイクは開始された………待ち受ける運命を知らず………

 

 

 

 

未だ降り止まぬ雨……静かな 時が流れていくサンルームに、邸の主であるシーゲル=クラインが入室してきた。

キラやレイナも何度かシーゲ ルとは会っていた……やや疲れを見せる顔で、マルキオに向かう。

「やはりダメですな……導師 のシャトルでも、地球に向かうものは全て発進許可は出せないということで……」

和平交渉のために使者として 来たマルキオではあるが、結局交渉は失敗…そして、地球に戻ろうとしていたが、オペレーション・スピットブレイクの発動というこの緊迫した状況では、地球 行きのシャトルは出れない。

浮かない顔でキラが顔を上 げ…レイナもやや怪訝そうな表情を浮かべる。

その時、サンルームに緊急呼 出音のコールが鳴った。

《シーゲル様に、アイリーン =カナーバ様から通信です》

執事の一人が恭しく告げ、モ ニターが外部通信に切り替わる。

「クラインだ」

答えるシーゲルの前で、ガラ スの一部に映るモニターに、一人の女性が映った。

険しい表情で映ったのは、穏 健派の一員であるアイリーン=カナーバだ。

《シーゲル=クラインっ、我 々はザラに欺かれた!》

冷静な彼女らしくない慌しい 様子に、シーゲルは驚きを露にする。

「カナーバ……?」

ラクスが不安そうに父である シーゲルを見上げる。

《発動されたスピットブレイ クの目標はパナマではないっ! アラスカだ!!》

その言葉に、キラがまるで頭 を殴られたような衝撃を受け、手にしていたカップを取り落とした。

カップの割れた音にラクスが 振り向く。

「キラ……」

ラクスがキラを気遣ってキラ に寄り添う。

以前、何度も聞かされた地球 連合軍の本部……確か、アークエンジェルはそこを目指していたはずだ。

《彼は一気に地球軍本部を壊 滅させるつもりなのだ! 評議会はそんなこと承認していない!》

捲くし立てるアイリーンの言 葉に、レイナが舌打ちした。

「なんですって…早まったこ とを……すぐに部隊を呼び戻しなさいっ!」

シーゲルを押し退け、モニ ターのアイリーンに向かって怒鳴る。

《な、なんだ……君は…?》

突如として割り込んできたレ イナに、アイリーンが眼を丸くする。

「そんなことはどうでもい いっ! それより早くアラスカに向かった部隊を呼び戻しなさい! 地球軍は罠を仕掛けているわよ!!」

その言葉に、その場にいた誰 もが息を呑んだ。

「どういう…ことか ね……?」

逸早く我を取り戻したシーゲ ルが問い掛けると……レイナは軽く歯噛みする。

「アラスカ……いえ、 JOSH−Aのさらに地下には、基地が制圧された時の保険として、自爆用のマイクロ波発生装置:サイクロプスが設置されているはずよ」

またしても驚愕に眼を見開か れる。

「本当なのかね!?」

「ええ…間違いないはず よ……現に、JOSH−A建造に関わった技術者が何人も、JOSH−A完成直後に突然死している……そして、今この事を知っているのは、JOSH−Aを支 配している大西洋連邦の上層部のみ」

吐き捨てるように呟く……レ イナは以前、地上でBAとして動いていた時に、アラスカの噂をさる筋から手に入れた……JOSH−Aの地下には、何かがあると。

それだけなら、さして気には 掛けなかっただろうが…軍が駐留しているなら話は別だった……その情報を辿るうちに、彼女はさる情報屋と接触し、JOSH−Aの地下深くに自爆用のマイク ロ波発生装置:サイクロプスが極秘裏に設置されていたことを知る……大西洋連邦は、恐らく何も知らない末端の兵士を囮にしてザフトの奇襲部隊を引き込むは ず……何故、大西洋連邦がオペレーション・スピットブレイクの目標を知り得たかは解からないが……どちらにしろ、攻め入ったザフトは自滅する。

「……言った通りよ…早く呼 び戻しなさい」

再度、モニターのアイリーン に向かって叫ぶも……アイリーンも唇を悔しげに噛み締めている。

レイナが嘘を言っているとは 思っていない……だが、なんの確証もなしにパトリックがそんなことを聞き入れるはずもないと思っていた。

(パトリック=ザラが議長職 を握っている以上、無理か……っ)

意図を理解したレイナは鼻を 鳴らし、辛辣な言葉を漏らす……そして、レイナの話を聞いたキラはさらに震えが酷くなり、呼吸も荒くなっている。

ザフトの主力部隊もろとも… 基地を自爆させる……そんなことをしたら、アークエンジェルの皆が………

また大勢の人が死ぬ……胸が 痛み、キラは唇を噛み、抑え付ける。

恐怖に震えながら……キラは 既に答を得ていた………本当の約束の地が何処にあるかを………

 

 

 

 

「……どういうことだ、こ りゃ?」

グランドホロー内の地下ドッ クにて、転属命令を受けた4人が見たのは、せわしなく次々と発進していく潜水艦であった。

自分達と同じように、搭乗予 定となっている兵士達が長い列を作っている。

「まだ、パナマへ出る隊があ るんでしょうか?」

隣にいたナタルも当惑す る……パナマへの増援部隊お考えられなくもないが、この慌しさはどうだろう……まるで、このJOSH−Aから逃げ出すようだ。

「それにしても…これだけの 兵を動かすなんて………少し異常っすね」

同じくアルフも怪訝そうな表 情を浮かべる…これだけの兵力を移動させては、肝心のJOSH−Aの護りが手薄になるような危惧がある。

「君の搭乗艦は向こうだな」

3人の中心で、どこか怯えた 様子で佇んでいたフレイの指示書を見やったナタルが呟く。

「少佐と大尉はどちらです か?」

「俺は2番艦だな……」

「俺は、嬢ちゃんと一緒さ」

アルフとナタルはそれぞれ別 の艦に、ムウとフレイだけが同じ艦に搭乗することになっている。

「では……少佐、大尉」

「ああ、ここでお別れか」

ナタルが敬礼しようとする が、極当然のように差し出されたムウの手に、どこかキョトンとなるが、慌ててその手を握り返す。ムウはそれに苦笑を浮かべる。

ぎこちなく握手を終えると、 アルフもまた手を差し出し、戸惑いながらその手を握り返す。

「じゃあ、俺も行きます…少 佐達も元気で」

「ああ、お前もな」

軽く笑みを交し合った後、ム ウとアルフは互いに手を叩き合い、アルフはゆっくりと離れていった……

「お嬢ちゃん、はぐれるな よ」

フレイに声を掛け、歩き出す と…慌てて後を追ってくる。

離れていくムウ達を見送り、 もう一度握手した手を見やると…ナタルもそのまま踵を返し、自分の搭乗艦へと向かっていった。

ムウとフレイが所定の位置に 到着すると、まだ搭乗が始まっておらず、長い列ができている……そして、ムウはなにかを決意したように持っていた認識票をフレイに手渡す。

「ここ並んで、自分の番が来 たら、それを見せるんだ」

「え? あの…!」

フレイはさらに戸惑う…これ 以上、知り合いと離れたら、本当に心細くなるからだ。

だが、そんなフレイを横に、 ムウは通路に向かって駆け出す。

「俺、ちょっと忘れもん」

そう誤魔化すと、もと来た道 を引き返し始めた………もう一度だけ、自分の大切な女に会うために………

 


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