機動戦士ガンダムSEED 

TWIN DESTINY OF  DARKNESS

PHASE-33  無限の翼 自由の剣

 

 

発動されたオペレーション・ スピットブレイク………パナマ防衛のために手薄となった地球軍最高司令部を叩き、一気に戦局を打開するためにザフトが全軍をもって奇襲を仕掛けた。

北の大地に、砲火が飛び交 う。

地上から砲撃する砲台や、装 甲車、戦車群はミサイルなどで上空から降り立ってくるMSを狙い撃つ……だが、MSの運動性に敵うはずもなく、攻撃はかわされ、次々と沈黙する。

同じく、空中ではJOSH− Aより発進した戦闘機隊が編隊を組んでディンに向かっていく。だが、濃厚な砲撃に晒され、瞬く間に撃破される…だが、戦車部隊が弾幕を密集し、MS一機に 集中放火する。

MSが一機墜とされるも、そ れに比例して倍、数倍近い友軍の戦車隊や戦闘機隊が撃ち墜とされていく。

海上でも、激しい攻防が繰り 広げられている……海上に展開する潜水母艦から巡航ミサイルが何十発と放たれ、それを防ぐために展開している連合艦隊は弾幕を張る。その隙を衝き、海中か ら姿を現わしたグーンが魚雷で砲台やブリッジを潰していく。

隣に展開していた僚艦が沈む と、それに気を取られた隙に、海中から飛び出したゾノが艦の甲板に降り立つ。

モノアイが光り、ブリッジに いた者達は戦慄する……逃げるのも叶わず、ブリッジを叩き潰され、そこに向かってメーザー砲が放たれ、爆発し、艦は沈黙する。

既に、ザフトの優位性は動か ないものとなっている…だが、それでもなお、本部を護ろうとする兵士達は懸命に応戦する。

だが……彼らは知らな い………

本部基地内は蛻の殻で、本部 によって切り捨てられた者だけが囮としてその周囲を固めているということを……そして、自分達が本部に切り捨てられたということすら知らない…………攻め る者と護る者……第三者から見たそれは、滑稽な戦いでしかない。

だが……彼らは戦い続け る………破滅の時まで………

 

切り捨てられた哀れな生け贄 の中には、白亜の艦:アークエンジェルの姿もある。

メインゲートの瀑布から姿を 現わした艦は、現われたディンに向かってイーゲルシュテルンとウォンバットの応酬で撃ち墜とした。

だが、一機墜とした程度では 戦局に変化はない……アークエンジェルは前進し、メインゲートを護る連合艦と並び、必死に応戦する。

「ウォンバット、バリアン ト…てぇぇっ!」

抜けたナタルに代わり、戦闘 指揮を行うマリュー。

バリアントがMS隊を分散さ せ、体勢の崩れた隙を衝き、ミサイルがジンを一機撃ち墜とす。だが、墜としても、次々にMSが群がってくる。

無数のミサイルがアークエン ジェルに向かって放たれる。

「ミサイル、来ます!!」

「回避!」

マリューが叫び、アークエン ジェルは艦首を急転換させるも、完全に回避できず、右舷に着弾し、船体を激しく揺さぶる。

「右舷フライトデッキ、被 弾!」

振動に耐える中で、チャンド ラが叫ぶ。

右舷部の発進口のハッチが破 壊されたものの、現在艦載機を持たないアークエンジェルには深刻な被害ではない。

不意に、マリューは展開して いた艦隊に一瞬気を取られた……ユーラシアの艦が妙に多い……だが、その考えも迫ってきたMS隊によって注意を引き戻される。

海中より上陸し始めた水中部 隊が湾岸部に展開していた戦車隊に襲い掛かる。

ゾノがクローで戦車を弾き飛 ばし、続けて上陸したグーンが魚雷を放つも、ボディに直撃を受け、爆発する。

内陸より進軍する戦車部隊が ザウート部隊とぶつかる……ザウートはMSというよりも戦車とうに分類させ、機体的な差はほぼない。

戦車部隊は砲撃を集中させ、 キャタピラを破壊されたザウートが横転する…だが、その後方から駆けてきたバクゥ隊が跳躍し、ミサイルを放ってくる。

ミサイルの応酬を受け、戦車 隊は次々と爆発し、さらにはビームサーベルを展開して戦車の装甲を切り裂く。バクゥと戦車では性能に差があり過ぎる……戦車隊は慌ててバクゥに砲火を集中 させようとするも、上空から放たれたビームによって沈黙した。

次々と戦車を撃ち抜くのは、 上空から舞い降りるグゥルに乗ったデュエルだ…僚機のジンを引き連れ、突き進んでいく。

コックピット内で、イザーク は眼下に見える進軍する夥しい数の友軍とあまりのつまらなさに鼻を鳴らす。

「……おもしろくない的だ な。こんなのしかいないのか?」

大地に展開するのは戦車や砲 台ばかり……そんな前時代的な兵器で固められた防衛網を、MSを主力とするザフトにとってはなんの苦もない。

先行するバクゥはそれらを蹴 り払い、時には踏み潰して、一切の停滞を見せていない。

その後からゆっくりとキャタ ピラで追いついてくる重爆撃戦用MSのザウート……その時、地上で立ち止まったバクゥが真横からの砲撃を脚に集中され、バランスを崩す。

「あん? おいおい……」

イザークは短く舌打ちする と、高度を下げる。

いくら相手が歯応えがないと はいえ、油断しているからそうなるのだ。

シヴァとミサイルポッドを斉 射して地上の敵を排除する。

同じく、空中ではヴァネッサ のシグー・ディープアームズが肩のビームキャノンを斉射し、戦闘機を撃ち墜としていた。

いくら小回りのきかないグゥ ルに乗っているとはいえ、戦闘機程度の武装では、相手にもならない……ヴァネッサはレーザー対艦刀を抜き、向かってきた戦闘機のボディを両断する…後方で の爆発を気にも留めず、ひたすら前進する。

「このまま、ゲートを陥と す! ついてこい、野郎ども!!」

ヴァネッサの怒号に近い指示 に威勢のいい返答が返り、ヴァネッサ隊が丘に見える小さなゲートに向かって突撃していく。

戦闘機や戦車はそんな彼らの 侵攻を防ごうと躍起だが、戦力の整っている彼らの侵攻を止められるわけがない。ザフトの主力部隊にとって、物の数にならないのだ。

それでも数さえ居ればまだし も、その数さえ、パナマに主力を割いた現状では敵わない。

 

海上のメインゲートを防衛す る艦隊……最終ラインを防衛するアークエンジェルは、必死にMS隊に応戦していたが、前線に位置する連合艦は群がるMSに抗しきれず、次々と撃破されてい く。

アークエンジェルの眼下で、 またもや一隻が炎を上げ、沈没していく。

「オレーグ、轟沈!!」

チャンドラの声に、マリュー は歯噛みする。

「取り舵! オレーグの抜け た穴を埋める!」

艦首の向きを変え、あいた防 衛網から突入してくるMSに向き合う…その間にも、容赦なく巡航ミサイルが降り注ぎ、アークエンジェルの後方の瀑布に隠れたゲートに直撃する。

「ゴッドフリート、 てぇぇぇ!!」

放たれるビームが固まってい たMSを数機、吹き飛ばす。

だが、その爆発から怯むこと なくMSが向かってくる。

「なおもディン接近! 数 6!!」

「この陣容じゃ、対抗しきれ ませんよ!!」

ノイマンが思わず抗議の声を 上げる……それに対し、マリューは唇を噛む。

そんなことは解かりきったこ とだ……主力部隊はほぼパナマに配置され、残っているのは留守を任された部隊のみ…パナマの部隊もこちらに向かってきているだろうが、問題はこちらに到着 するまでに自分達が持ち堪えられるかどうかだ。

ザフトは主戦力をこちらへと 向けている……ジン、シグー、ディン、グーン、ゾノ、バクゥ、ザウート………これらの大部隊に、対抗できるはずもない。

「くそっ、まんまとやられた もんだぜ、司令部も!」

チャンドラが毒づくように吐 き捨てる。

「主力部隊は全部パナマなん ですか!?」

「ああ、そういうことだ ね!」

うろたえるサイに、トノムラ が叫ぶように答える。

「戻ってきて…くれるんです よね?」

「こっちが全滅する前に来て くれりゃいいけどな!」

震えるように尋ねるミリアリ アに、トノムラが沈んだ表情で答える。

だがそれも、僚艦が次々と沈 んでいくにつれ、じわりじわりとアークエンジェルを攻撃するMSの数は増えていく。

見る間に砲門が潰され、装甲 にビームが直撃し、防衛線などもはや影も形もない。

「ミサイル接近!」

「回避!!」

船体を傾け、ゴッドフリート がミサイル群に放たれ、残ったミサイルをイーゲルシュテルンが撃ち落とすも、爆発の振動がビリビリと伝わってくる。

死闘の一日は、まだまだ続 く………

 

 

 

その激戦の様を、小高い丘に 止めたディンのコックピットから眺めるクルーゼ。

スコープ越しに展開する艦隊 を見やり、最終ラインを護るアークエンジェルに眼を留める。

「ふむ……生け贄はユーラシ アの部隊とアレか」

ユーラシアの部隊だけでは不 審に思われると考えたのか……アークエンジェルはザフト上層部においてかなり危険視されているだけに、ここに配置したのであろう。

「いろいろと面白い構図だ な、地球軍も……」

笑みを浮かべ、コックピット に戻る……シートには、気を失ったフレイが寝かされたままであり、クルーゼはその身体を持ち上げ、コックピットに収まると、ハッチを閉じる。

「強固な護り手が立ち塞がる ほど、その奥の宝への期待も高まる………」

一人ごちるように、クルーゼ は口の端を吊り上げる。

「頑張ってもらいたいものだ な、脚付きにも……」

愉悦の笑みを浮かべ、クルー ゼはディンを沖合いの潜水母艦へと帰投させていった………

 

 

 

その頃、ムウはひたすらに通 路を走っていた……出撃しているアークエンジェルに合流するには、発進ゲートに向かった方が早い。

通路を曲がった瞬間…人影と かち合った。

「しょ、少佐!」

「お、お前…アルフ! お前 どうして…!?」

「少佐こそ……?」

アルフも半ば混乱してい た……搭乗する時になって、突然の敵襲にアルフは急ぎ引き返したのだ……戦力の少ない留守隊では、防衛は難しいと考えて…後で懲罰を受ける覚悟で。

「話は後だ…ちょうどいい!  お前も来い!!」

尋常でないムウの様子に、ア ルフは頷き…二人はすぐさま駆け出した。

 

数分後、二人乗りでバイクに 跨り、二人は人気の失せた基地内を走っていた。

「ホントなんすか、それ は!?」

ムウから事の顛末を聞いたア ルフが思わず身を乗り出すように尋ねる。

「ああ!」

吐き捨てるように答えるムウ に、アルフは憤慨する。

これでようやく、本部の不可 解な行動にも納得がいった……

「急ぐぞ!!」

アクセルを噴かし、バイクは 疾走する。

やっとのことでゲートに辿り 着き、二人はバイクを乗り捨て、そのままゲート内に飛び込んでいく。

ハッチを開くと、ゲート内に 撃ち込まれた弾頭が爆発し、周囲を爆煙に包む。その煙を振り払うようにムウとアルフは駆けていく。

ゲート内には、次々と迎撃機 が飛び立ち…それと入れ替わるように被弾した戦闘機が帰還し、負傷した兵士が次々と運び出されていく。

怒号と呻き声が響く中を駆 け、ムウは手近にいた兵士の肩を掴んだ。

「おい! ここの指揮官 は……」

最後まで言い終わる前に、凄 まじい爆風が襲い掛かる。

「伏せろ!!」

アルフが手近にいた兵士に向 かって叫び、二人も物陰に身を隠す。

破壊されたゲートからシグー の機影が姿を現わし、待機していた戦闘機を次々と撃ち抜く。

そして、そのまま奥へと向 かって進み、その後をディン隊が続けて突入してくる。

それを見送ると、二人はその ままハッチ付近で無事だった一機の戦闘機に駆け寄る。傍には、整備士の一人が呆然と座り込んでいた。

アルフが素早く戦闘機の後部 コックピットに乗り込み、機体を起動させる…ムウはその整備士の肩を掴み、揺さぶる。

「おい、ここは撤退だ! 基 地は放棄される!!」

ムウの声が聞こえていないの か、整備士は呆然としていたが、やがて虚脱した様子でムウを見上げる。

その態度をじれったく思いな がらも、無理矢理立たせる。

「ほら、しっかりしろ! 生 き残ってる奴集めて、早く脱出するんだ!」

「少佐、早く!!」

駆動音を響かせる戦闘機の後 部コックピットからアルフが叫び、予備のヘルメットを投げる。

それを受け取ると、ムウも コックピットに駆け上がる。

「最低でも、基地から半径 10キロは離れるんだぞ! いいな!? これは命令だぞ!!」

その怒声に、整備士は泣きな がら駆け去っていく…彼が命令に従うのを祈るしかない。

「チッ、ヒーローは柄じゃね えってのに!」

短く毒づきながら、ヘルメッ トを被ると警告音が響く。

「させるかっ!」

ゲートに立ち塞がったジンに 向かってアルフがトリガーを引く…ミサイルがジンを吹き飛ばし、その隙を衝いてムウは戦闘機を発進させた。

 

 

 

 

アラスカでの熾烈を極める激 戦とは逆に、近海を隠れるように潜行する地球連合軍主力潜水艦隊……その旗艦のブリーフィングルームにて、JOSH−Aを統括していた指揮官達が揃ってい る。

その時、ドアが開き、サザー ランドが入室してきた。

「第4ゲートが突破されたよ うです…基地内部への侵入が始まりましたよ」

その報告に、指揮官達の顔が 複雑そうに歪む……味方の心配ではなく、あまりの防衛網の脆さにだ。

「フン…随分と早いな。もう 少し持ち堪えるかと思っていたが……」

「ユーラシアの部隊も弛んで いるのでは?」

同盟国の兵士への侮蔑を咎め るどころか、一同は嘲笑を浮かべる。

「メインゲートも間もなくで しょうな……」

時計を確認しながら、サザー ランドは冷静に呟き、デスクに置かれたアタッシェケースを見やる。

「最低でも、8割は誘い込み たいものですが……」

これから、起こるであろう事 態を夢想し、愉悦的な笑みを微かに浮かべた。

 

潜水艦隊の中には、何人もの 兵士達が押し込められ、中には船室に入れず、船倉へと押し込められる兵士も多々いた。

その中には、ナタルの姿もあ る。

冷たい床に腰掛け、ちょこん と座る彼女は、どこか酷く小さな存在に見えた。

脳裏には、アラスカで別れた アークエンジェルのクルー達の顔が過ぎり、どこか懐かしい思いに捉われていたナタルは、荷物を挟んで聞こえてきた声に思わず耳を傾けた。

「ええっ!? まさか、そん な……」

「しぃっ、やばい話なんだか らさ、これは……」

咎めるような声が響く。

「しかし…それじゃ、アラス カに残った連中は……?」

「奮戦及ばず、全滅………だ ろうな」

おずおずと尋ねる者に、相手 も苦い口調で答える……その内容に、ボウッとなっていたナタルの思考に戦慄が走る。

「そして本部は最後の手段に 出る……全て、ドカンだ」

その内容を理解したナタルは 絶句し、眼を見開く。

「おい! その話……!」

思わず立ち上がり、会話を交 わしていた兵士達に向かって怒鳴っていた。

 

 

 

容赦なく降り注ぐ攻撃の 嵐……ミサイルを撃ち落し、イーゲルシュテルンが弾幕を張るも、それらの網目を掻い潜ってMS隊は執拗な攻撃を仕掛ける。

ジンの放ったバズーカの弾頭 がデッキに直撃し、アークエンジェルは怯む…その隙を衝き、ディン隊が突撃機銃で火器を攻撃していく。

爆発と振動に晒される艦内 で、クルー達は歯噛みする。

「バリアント一番、沈黙!」

「艦の損害率、30%を越え ます!!」

「イエルマーク、ヤロスラ フ、撃沈!!」

艦の被害、味方の損失…先程 からブリッジに飛ぶのは絶望的な報告ばかりだ。

「司令部とコンタクト は!?」

「取れません!!」

泣き声まじりに通信席のカズ イが応じる。

「どのチャンネルもずっと同 じ電文がかえってくるだけですよ! 『各自防衛線を維持しつつ臨機応変に対応せよ』って……!」

マリューは唇を噛み、拳を握 り締める……司令部はいったい何を考えているのだ。

既に味方の損耗は激しく、 ゲートもいくつか陥とされ、内部への侵攻も始まっている…防衛線などとうに瓦解し、混乱も起こっている。なのに、司令部が何の指示も出さないとは………

「既に、指揮系統が分断され ています! 艦長、これでは……!」

ノイマンが振り返り、叫ぶ。

混乱した部隊は既に各々勝手 に行動している…ただでさえ、戦力の乏しいこの状況で、浮き足立てば、こちらの敗北は必至だ。

そして、またもや眼下の艦が 沈められ、閃光がブリッジに突き刺さる。

「パナマからの救援隊 は!?」

一抹の望みを託し、サイが振 り返るも、トノムラは泣きそうに叫ぶ。

「全然なにも見えねえよ!」

「ミサイル接近!!」

再び響くチャンドラの悲鳴に 近い叫びに、マリューは半ば呆然と顔を上げる……絶望的なのは、既に眼に見えていた。

 

 

砲火が飛び交う戦場…ユーコ ン河の河口付近に展開している艦隊の頭上に、ムウとアルフの乗った戦闘機が駆ける。

眼下にアークエンジェルの姿 を確認すると、二人は微かに肩から力を抜いた。

「少佐、アークエンジェル が!」

「おっしゃあ! まだ粘って たな!」

既に満身創痍に近い状態だ が、その無事な姿に息つく間もなく、眼前から敵機が迫る警告音が響く。

敵影を捉えたシグーが、重突 撃機銃を放ってきた……ただでさえ、構っている余裕などないのに……毒づきながら旋廻するが、一射が機体底部を掠める。

途端に失速していく戦闘機に トドメをさそうともせず、シグーは飛び去る。

「バランサーがやられまし たっ!」

機体状況を確認し、アルフは なんとか姿勢を保とうとし、ムウは通信回線に向かって怒鳴る。

「こちらフラガ! アークエ ンジェル応答せよ! アークエンジェル!」

散布されたNジャマーの影響 か、この距離でも通信が開けない…ムウは舌打ちし、そのまま操縦桿を捻り、機体をアークエンジェルに向けた。

通信がダメなら、直接伝える しかない……

 

 

「友軍機接近! 被弾してい る模様!!」

ミリアリアの声にマリューは ハッと戦場に注意を戻し……眼を驚愕に見開いた。

煙を上げる被弾した戦闘機が こちらに真っ直ぐに向かってくる。

被弾して破壊された右舷のフ ライトデッキに向かって……

「……着艦しようとしている の!?」

「そんな無茶な!」

流石のノイマンも絶句し、マ リューは慌てて受話器を取り、艦内通信で叫んだ。

「整備班! どっかのバカが 一機、突っ込んでこようとしてるわ! 退避!!」

 

 

「どいててくれよぉっ、皆さ ん!!」

虫のいい要望を叫び、ムウは 機首を破壊された右舷のフライトデッキへと向け、操縦桿を押す。

「うぉりゃぁぁぁっ!」

フラフラと失速し、ハッチに 飛び込むと、逆制動をかけ、機体を停止させようとするも、それでは止まらない…整備士達は四方に飛び散り、蛇行するように走る戦闘機は用意されていた緊急 着艦用ネットに鹹め捕られ、無事に停止できた。

そのまま機外に飛び出すムウ とアルフにマードック達は眼を点にし、開いた口が塞がらないほど唖然となっている。

「しょ、少佐に大尉……?」

ムウはそのままブリッジに駆 け出し、アルフは素早くマードックに向き直る。

「話は後だ! マードック曹 長、すぐスカイグラスパーを用意してくれっ!!」

指示を出すアルフを横眼にム ウはエレベーターに飛び込んだ。

 

突然の友軍機の強引な着艦に 驚いたものの、機体は無事に固定された…息つく間もなく、マリューは前を見据えるも、唐突にブリッジのドアが開いた。

「艦長!!」

何事かと振り向いたマリュー は、飛び込んできたムウの姿に呆気に取られてしまう。

「しょ、少佐!? 貴方一体 何を……転属は……」

うまく舌が回らない…何故、 転属になったはずのムウがここにいるのか……

「そんなこたどうだってい い! それより、すぐに撤退だ!!」

真っ直ぐにマリューに駆け寄 り、叫ぶムウに、マリューだけでなくブリッジの面々は面を喰らったように唖然となる。

「え……?」

思いも寄らぬ言葉を聞かさ れ、戸惑う様子に、ムウはさらなる憤りを憶えた……何も知らず、疑っていないマリューを切り捨てた司令部に。

「こいつはとんだ作戦だ ぜ……守備軍は、いったいどういう命令を受けてんだ!?」

「少佐…何を仰っているの か………」

戸惑うマリュー…その時、ま たしても衝撃が艦を襲い、ブリッジが揺さぶられる。

その揺れに一瞬怯むが、ムウ は乗り出すようにマリューに叫ぶ。

凄まじい形相で迫るムウに、 マリューは身を硬くする。

「いいか、よく聞けよ! 本 部の地下にサイクロプスが仕掛けられている! 作動したら、基地から半径十キロは、溶鉱炉になるってサイズの代物が!!」

マリューの眼が大きく見開か れた。

その言葉に、誰もが愕然と動 きを止めた。

「この戦力では防衛は不可能 だ。パナマからの救援は間に合わない! やがて守備軍は全滅し、ゲートは突破され……本部は施設の破棄を兼ねて、サイクロプスを発動させる!……それで、 ザフトの戦力の大半を奪うつもりなんだよ! それが偉いさんの書いた、この戦闘のシナリオだ!!」

マリューは凍りついたように 絶句する。

サイクロプス…その名称はマ リューにも聞き覚えがある。マイクロ波を発生させ、周囲を焼き尽くす兵器……だが、それはあまりに限定された兵器だ…それこそ、敵が密集する場所をあらか じめ知りでもしなければ………

「そんな……っ!」

やっとの思いでマリューが言 葉を発する。

「俺はこの眼で見てきたん だ……司令本部はとっくにもぬけの空さ! 残って戦ってるのは、ユーラシアの部隊と、アークエンジェルのようにあっちの都合で切り捨てられた奴らばかり だ!!」

静まり返ったブリッジに、爆 発音だけが響く……その中で、ムウが吐き捨てた言葉はクルー達に大きなショックを与えていた。

マリューはシートに力が抜け たようにへたり込んだ……そして、ようやく先程から連絡の取れない司令部の状態も理解した。

あの査問会の時から…い や……JOSH−Aに着いたあの瞬間には、自分達は既に切り捨てられていたのだ……だから、ムウ、アルフ、ナタルとフレイの4人のみが転属を命じられ た……彼らは優秀な者だからだ…そして、残りのクルーには休暇すら許さず、ずっと艦内に閉じ込めていたのだ……一人も生かしておかないために。

「俺達はここで死ねと……そ ういうことですか!?」

呆然となっていたノイマン が、激しい憤りを感じさせる声で呟き、ムウが苦々しげに答える。

「撤退を悟られないように、 奮戦して……な」

そう……守備隊は生け贄だっ た………援軍を信じて待つ友軍の奮戦を餌に、多くの敵を道連れにするための……

護るものなど最初からなかっ た……クルー達は怒りに拳を握り締め、ミリアリアが震えた声を上げる。

「こ…こういうのが……作戦 なの………?」

恐怖からか…泣き笑いを浮か べるミリアリアが掠れた声で問い掛ける。

「戦争だから………軍人だか ら……そう言われたら…戦いたくなくても、言われた通り戦って、死ななきゃいけないの……?」

誰もがその問いに答えられな い……マリューも自身の惨めさを呪った。

なんの躊躇いもなく切り捨て られ、敵と共に死ぬための餌とされ……それで正しいと言えるはずもない………こうしている間にも、何も知らず、懸命に戦う友軍は次々に蹂躙されていく。

だが、その死すら、敵を殲滅 するための手段としか見られない……それならば、とマリューはなにかを振り捨てたように立ち上がり、叫んだ。

「…ザフト軍を誘い込むの が、この戦闘の目的だというのなら……本艦は既に、その任を果たしたものと判断致します……なお、これはアークエンジェル艦長、マリュー=ラミアスの独断 であり、乗員は一切、この判断に責任はないものとします!」

決然した面持ちで……自棄に なったような様子で叫ぶマリュー…その言葉には、強い意志が込められている。

「そう気張るなって」

こんな状況でも、クルーのた めに艦長としての責務を果たそうとするマリューに傷ましい気持ちが込み上げる。

強張った顔で、すぐさまマ リューは指示を飛ばした。

「本艦はこれより現戦闘海域 を放棄、離脱します! 僚艦に打電、『我に続け』! 機関全速、取り舵! 湾部の左翼を突破します!!」

マリューの言葉に勇気付けら れ、呆然となっていたクルー達は命令に従い始めた。

エンジンが唸りを上げ、アー クエンジェルはゆっくりと前速する。

命令を発したマリューがシー トに腰が砕けたように座り込む……怒りと重圧に潰されそうになりながら…そんなマリューにムウが元気付けるように呟く。

「脱出もかなり厳しいが、諦 めるな………俺達も出る」

――――達? その言葉にマ リューが一瞬、眉を寄せる。

「アルフの奴も一緒だ」

「大尉も!?」

驚いたように声を上げる…そ れに対し、ムウは頷く。

「心配しなさんな……忘れ た? 俺は、不可能を可能にする男だってこと」

その言葉が終わるか終わらな いかで、彼が飛び込んだエレベーターの扉がしまった。

 

 

 

アラスカ近海に浮上し、先の 巡航ミサイルを発射し終えた潜水母艦群は、補給のために帰還するMS用に展開し、その中のクストーストにクルーゼのディンが着艦する。

機体を固定し、コックピット を出ると…キャットウォークから声が掛けられた。

「隊長!」

反響する声に振り向くと、そ こには、隣のデッキに固定されたデュエルとイザークがいた。

「イザーク、補給かね?」

「ゲート4を陥としました、 今度は内部で暴れてきますよ!」

誇らしげに武勲を語るイザー クに対し、クルーゼは何かを思案するように考え込む仕草をすると、やがて口を開いた。

「脚付きがいるせいか、メイ ンゲートが未だ破れずにいる……」

その言葉に、イザークがハッ と顔色を変える。

そして、反応したのはイザー クだけではなかった。

「何!? あいつがいるの か!?」

同じく、前方で固定されてい るシグー・ディープアームズとシグーASのパイロットであるヴァネッサとライルだ…補給を行っている間、彼らは栄養ドリンクを片手に格納庫に居座り、ク ルーゼの言葉を耳にした。

「君らにとっても因縁浅から ぬ艦だ……イザーク、ヴァネッサ…君らにはできればそちらを任せたい」

「ありがとうございます!」

自分への配慮と感じ取ったの か、イザークは勇み足にデュエルに乗り込む。

「おっしゃっ! ガーランド 艦長の弔いだ! いくぜ、ライル!」

「了解!!」

同じく、いきり立ち、ヴァ ネッサとライルも機体へと乗り込み、デュエル、シグー・ディープアームズ、シグーASがクストーストを飛び出していった。

それを見送りながら、クルー ゼは微かに笑みを漏らしたが、そこへぼんやりとしたまどろみから眼を覚ましたフレイが恐る恐るとディンのコックピットから顔を出した。

「お目覚めかね?」

気遣うような言葉に、フレイ は恐怖に身を竦ませ、くぐもった悲鳴を上げた後、コックピット内に再び逃げ込んだ。

そして、そこで小さく丸まっ ている。

「おやおや……」

呆れたように揶揄する声を上 げる……愚かなものだと、クルーゼはもうすぐ起こるであろう事態を夢想し、ほくそ笑んだ。

 


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