防衛線を放棄したアークエン ジェルをはじめとした連合艦はメインゲートを離れていく。

ザフト側のパイロット達は訝 しげに思ったものの、最優先任務は本部施設の掌握であるため、それを無視し、メインゲートを目指す。

ジンの放ったミサイルが…水 中のグーンやゾノから放たれたミサイルが瀑布を突破し、メインゲートを吹き飛ばし、遂に陥落した。

黒煙を上げる連合艦の残骸を 潜り抜け、MSが一斉にメインゲート内に飛び込んでいく。

それを妙に冷めた眼で見やり ながら、スカイグラスパーで発進したムウとアルフは毒づいた。

「もうゲートはくれてやった んだ! こっちは見逃してくれたっていいだろう!」

すれ違いざまにアグニを放 ち、ディンのボディを貫く。

「どけぇぇ!! お前らに 構っている暇はねえんだ!!」

エールの機動性を駆使し、回 転するように機銃とビーム砲を乱射し、MSを数機吹き飛ばす。

そして、他の連合艦を追随さ せながら、アークエンジェルは湾部を突破し、沖へと逃れようとしていたが、それを逃すまいと沖合にはザフトの潜水母艦が海上に封鎖ラインを築き、一斉に対 空ミサイルを放った。

「回避!!」

マリューの指示に、アークエ ンジェルはその機動性のおかげで回避できたものの、他の海上艦は回避できず、ミサイルの直撃を受け、炎の華を咲かす。

マリューが歯噛みする…… アークエンジェル程の機動性を持たない艦では、回避運動は難しい……その時、レーダーを見詰めていたトノムラが叫んだ。

「後方より、X102:デュ エル……それに、YFX−200:シグー・ディープアームズとシグーのカスタム機!!」

叫び上げた報告に、マリュー 達は息を呑む。

 

 

空中に展開していたムウとア ルフがハッと顔を上げると……そこには、グゥルに乗って飛び来る機影があった。

「脚付きぃぃぃ! 今日こそ 終わりだなぁぁっ!!」

宿敵を沈めようと、デュエル はビームライフルとミサイルを斉射する。アークエンジェルはイーゲルシュテルンの弾幕で防ぐも、火器の半減した今の状態では全てを受け切れず、船体に爆発 が起こる。

「くそっ、こんな時 に…!!」

他のMSだけでも手一杯だと いうのに、Xナンバーまで現われるとは……ムウは歯噛みしながらデュエルに襲い掛かる。

アークエンジェルの艦載機で あるスカイグラスパー…そして、装備されている武装を確認した瞬間、イザークの脳裏にディアッカのバスターが過ぎる。

今迄、何度もバスターと交戦 していたのが眼前のランチャー装備のスカイグラスパーだ……イザークも怒りを憶えながら、ランチャーグラスパーに向かう。

アグニを発射してくるが、イ ザークは悠々とかわす。

「舐めるなっ! バスターと は違うんだよ!!」

ディアッカの仇を討とうとイ ザークはデュエルのビームライフルを斉射する。

その一射がランチャーグラス パーの下部を直撃し、ムウは舌打ちしながらランチャーパックをパージする。

だが、ただでさえ高エネル ギーを有する攻撃重視のパックは誘爆の際に大きな爆発を起こし、それによって乗じた隙を衝き、同じく周囲に展開していた戦闘機隊を相手にしていたヴァネッ サとライルが機体を加速させる。

「隊長、ここは俺が!」

戦闘機隊に向かってレールガ ンとミサイルを一斉射し、空中に爆発の華を咲かす。

「おっしっ!」

その混乱に乗じてシグー・ ディープアームズが真っ直ぐにアークエンジェルに向かっていく。

だが、その進路上にビームが 走り、ヴァネッサは咄嗟に機体を静止させる……振り向くと、上空からアルフのエールグラスパーが迫ってきた。

シグー・ディープアームズの 右肩にマーキングされた獣のエンブレムを見た瞬間、アルフは歯噛みした。

「金色のグリフォンか!  アークエンジェルはやらせねえっ!!」

ビームライフルを連射し、足 を奪おうとグゥルを狙うも、シグー・ディープアームズはブースターを噴かし、攻撃をかわす。

「邪魔するんじゃねえ!!」

肩のビームキャノンをエール グラスパー目掛けて斉射する……アルフは舌打ちし、直撃すると思しき弾のみをシールドで受け止める。

 

 

アークエンジェルのブリッジ では、絶え間なく晒される砲火に誰もが絶望的な表情を浮かべていた。

「艦長!」

「取り舵20! 回り込ん で!!」

正面突破は難しい…潜水母艦 群を回り込むように進もうとするも、敵はそれを見逃さない。

MSが群がり、僚艦を次々と 沈めていく。

「リューリク、自走不能!」

「ロロ、轟沈!!」

もはや追随する艦隊もほとん ど残っていない……集中砲火が轟き、艦内は激しい振動に包まれ、ミリアリアがコンソールにしがみ付き、悲鳴を上げる。

「64から72ブロック閉 鎖! 艦稼働率、43%に低下!!」

船体に至るところから火が噴 上げ、推力も低下してきた……ジンの放ったバズーカがブリッジの下部に直撃する。

「うわぁぁっ! もうダメ だぁぁっ!!」

「落ち着け、バカやろ うっ!」

パニックを起こすカズィをパ ルが怒鳴るも、その声は上擦っている。

「ウォンバット、てぇぇ!  機関最大! 振り切れぇぇぇ!!」

あらん限りの声を上げてマ リューが叫ぶも、次々と火器が破壊され、クルー達に徐々に忍び寄る死神の手が伸びる。

「推力低下! 艦の姿勢、維 持できません!!」

ノイマンの悲鳴とともに、 アークエンジェルは大きく蛇行する……逃げられないという恐怖が全員に襲い掛かる。

その時、対空砲火を掻い潜っ てきたジンがブリッジ正面に肉迫する。

ブリッジの誰もが眼を見開 き、息を呑んだ……凍りつく空気………ミリアリアが眼を閉じ、サイは呆然となり、カズィは逃げ出そうとする……そして、マリューはガラス越しにジンを睨ん だ。

ここまで辿り着くまでに駆け 抜けてきた戦いの日々が一瞬のうちに彼女の中にフラッシュバックする……多くの犠牲を払って辿り着いた地で待っていたのは恫喝と裏切り……眼前に迫る死 に……マリューは後悔と自責の念にかられながら、ジンの銃口が火を噴くのを待った……スローモーションのように繰り広げられる光景………ほんの一瞬のはず が、酷く長く感じる……その時、突如として一条の光が降り注ぎ、ジンのライフルを捉えた。

その爆発に、ジンのパイロッ トも一瞬何が起こったか解からずに、モノアイを上空へと向けた瞬間……天から舞い降りた機影が頭部を斬り飛ばした。

それだけに留まらず…その後 方でバズーカを構えていたジン2機も、その突然の攻撃に動きを止めた瞬間………いずこからともなく空気を斬り裂く音が響いた。

その音がする方角に振り向い た瞬間……ジン2機は、回転してきた何かに頭部を斬り飛ばされ、弾き飛ばされた。

回転するブーメランのような 物体がそのまま上昇し、それをガシッと掴み、左腕に固定する機影……

眼前で繰り広げられた光景 に、その場にいた者達は一様に言葉を失くした……そして、ブリッジの眼前に一機のMSが滞空し、その上空にはもう一機のMSが滞空していたのだ。

一機は輝くような白いボ ディ…トリコロールを基調としたようなカラーリングに頭部には4本のアンテナと、背中には蒼い6枚の翼を拡げる。

もう一機は対称的な漆黒のカ ラーリングに、銀に輝くアンテナ……バックパックには、紅い粒子を噴出しながら、黒いスラスターとバーニアが火を噴く。

「何だ!?」

「あのMSは……!」

ムウとイザークが眼を見開 き……

「なんなんだよ!」

「新手か……!」

アルフとヴァネッサは状況を 呑み込めずに毒づいた。

黄と真紅の瞳を輝かせる機体 は、GATシリーズに酷似した形状を持っていたが、そのフレーム構造はまったく違う……

 

 

2機の姿は、まるで人類を裁 くために舞い降りた堕天使のように映った……

 

 

唖然とした表情でその未知の MSを見詰めていたクルー達だったが、通信から聞き覚えのある声が飛び込んできた。

《こちら、キラ=ヤマト…… 援護します、今のうちに退艦を!》

息を呑み、誰もがその状況を 認識できなかった……そして、ミリアリアが震えた声で呟く。

「キ…ラ……?」

「キラだよ!」

サイがどこか安堵するような 笑みを浮かべる。

だが、マリューは未だ信じら れないといった表情で眼前のキラが乗っていると思しき機体を見やる。

「キラ…君………?」

《はい! 僕だけじゃありま せん…レイナも一緒です!》

その言葉に、またもやクルー 達が驚愕し、もう一機の漆黒の機体を見やる……死んだと思っていたキラとレイナの登場に、誰もが思考を上手く動かせられない。

 

 

そんなブリッジの戸惑いを他 所に、キラとレイナは注意を眼前に集中する。

未知のMSの登場に多少の混 乱はあるものの、ザフト側のMS隊が攻撃を仕掛けてきた。

それを見詰めるキラの中 で……何かが弾ける…刹那、視界がクリアとなり、バーニアが火を噴き、翼を拡げ…最上部から回転するように砲身が現われ、また下方に向けた形で腰部に接続 されていた砲身も跳ね上がり、ちょうど両肩の上と両腰の脇に四本ずつ、砲身が構えられた。

せり上がってきた狙撃用モニ ターに無数の光点…敵のシグナルが表示され、キラは即座にその中のいくつかを選別してロックすると、トリガーを引いた。

天を突いて前方に翻った砲門 からはパラエーナ・収束プラズマビーム砲、腰部の二門からはクスィフィアス・レール砲、そして機体の腕に握ったルプス・ビームライフル……合計、5門の火 線は、狙い違わずジンやディンの頭部や武器を持った腕部を撃ち落した。

与える攻撃は致命的な損傷に はならず、しかし戦闘に耐えない被害を齎している。

同じく、レイナも砲火を掻い 潜りながら……火器のロックを解除し、展開する。

蒼い粒子を噴出す二連バーニ アと紅い粒子を噴出すバックスラスターが混ざり合い、幻想的な光景を生み出す。

バックパックに装備されてい た砲身がスライドし、脇部に固定され、砲身が伸びる。そして…左腕に持つシールドを掲げると、表面を覆っていたパーツが上下へとスライドし、その下から は、13もの砲口を携えた多連装が現われ、そして右手に持った2つのビームライフルが一対となった銃口を向ける。

同じように、狙撃モニターに いくつもの光点が浮かぶ……NジャマーキャンセラーによってNジャマーの影響を受けないこの機体には、多連装ロックシステムが搭載されている。

全ての照準が合わさった瞬 間……レイナはトリガーを引いた。

刹那、脇部のプラズマビーム 砲:オメガ、左手の13連装ビーム砲:デザイア、右手のツインビームライフル:ダークネスが火を噴いた。

薙ぎ払うような火線が、展開 していたジンやシグー、ディンの機体パーツや武装、グゥルを貫き、戦闘力を奪う。

MS部隊は必死に攻撃する も、2機はまったくといっていいほど当たらず、回避している。

その圧倒的な火力と機動性に ザフト側のパイロット達は戦慄する。

「キラ……私はJOSH−A 内部に向かう…ここは任せたわよ」

通信に向かって呟くと、機体 を反転させ、JOSH−Aのメインゲートへと向かっていく。

それを見送りながら、キラは ターゲットロックを次々と切り換えながら、動きのないアークエンジェルを叱咤するために通信を重ねた。

「マリューさん、早く退艦 を!」

キラの声に促され、マリュー はやっと我に返った。

《あ……いえ、あ………》

だが、未だ混乱しているの か、返ってくるのは動転した声だった。

《本部の地下に、サイクロプ スがあって……私達は、囮に………》

手短に伝えようとするも、 焦って言葉がうまく纏まらない…そして、マリューには忸怩たる思いにとらわれる。

だが、既にサイクロプスのこ とをレイナから聞かされたキラは、半信半疑であった思いが遂にたとえようのない怒りにとらわれる。

そんなキラの耳に、泣き出す ようにマリューの声が響いた。

《作戦なの! 知らなかった のよ……!》

叫ぶマリューの胸中には、言 い表せないほどの苦渋が漂っているのだろう……信じていたものに裏切られたという苦痛が……

涙混じりの慟哭を耳にしなが ら、キラはまたコンソールを叩いて新たな機体を戦闘不能にする。

《だから、ここでは退艦でき ないわ! もっと基地から離れなくては!!》

「知っています!」

その言葉に、マリューは意表 を衝かれたように眼を見開いた。

「ここは僕が抑えます…… アークエンジェルは早く残存部隊を連れてここから撤退してください!!」

キラは短く答え、通信を全周 波に切り換えた。

アークエンジェルが基地から 離れなくては助からないというなら、ここに居る全員にもそれは当て嵌まる。

敵であっても、殺したくはな い…死なせたくはない………それがキラの出した答だった。

「ザフト、連合、両軍に伝え ます! アラスカ基地は間もなくサイクロプスを作動させ、自爆します! 両軍ともただちに戦闘行動を中止し、撤退してください!!」

 

 

キラと分かれたレイナは、イ ンフィニティを駆ってメインゲートへと急いでいた。

連合軍首脳部が撤退してどれ 程経ったかは知らないが、もう、サイクロプスはいつ発動してもおかしくない……ならば、物理的に破壊した方が早い。

加速するインフィニティに向 かって、ビームが降り注ぐ。

それを察したレイナは機体を 捻り、ビームをかわす……回り込むように金色の機体が現われる。

「サイクロプスだと! 誰が そんなブラフ信じるかよっ!!」

キラの発した言葉が単なる脅 しだと認知したヴァネッサが、メインゲートに向かおうとしていたインフィニティに向かってシグー・ディープアームズを走らせ、それに続くようにヴァネッサ 隊のメンバーが続く。

ビームをよけながら、レイナ は舌打ちする…ここで余計な時間を喰っている暇はない。

レイナはインフィニティのシ ステムを起動させる。

「死にたくなかったら……そこをどけぇぇぇぇ!!

全周波で叫び、レイナはイン フィニティのシステムを起動させた。

真紅の瞳が輝き、背部のスラ スターから紅の光がこもれる……それらは明瞭な形を成し、大きく拡がっていく……展開されたそれは、真紅の輝きをもつ光の翼だった。

漆黒のボディに、真紅の翼を 羽ばたかせるその姿は、まさに堕天使そのものであった。

誰もがその異様な光景に息を 呑み……気付いた瞬間には、機体を行動不能にさせられていた。

展開されたビームの翼:ウェ ンディスが拡がるように伸び、呆然となっていた機体を斬り裂いた。

気にも留めず、ウェンディス を羽ばたかせ、インフィニティは加速する。

「くっ!」

ライルがバルルス改特火重粒 子砲を構えるも、それを感じたインフィニティは振り返りざまに左腕のビームコーティングブーメラン:ケルベリオスを投げ放った。

3枚の刃となり、ビームを纏 いて高速回転してくるそれは、銃ごとシグーASの腕を吹き飛ばし、怯んだ隙にインフィニティは加速する。

「ライル! くっ そぉぉ!!!」

最後に残ったヴァネッサが レーザー対艦刀を抜き、真正面から加速する。

だが、レイナは冷静に腰部の ビームブレード:インフェルノを抜き、そのまま加速する。

2機が交錯した瞬間……シ グー・ディープアームズはレーザー対艦刀ごと左腕を斬り飛ばされ、グゥルも真っ二つに斬り裂かれ、爆発に吹き飛ばされる。

「どわぁぁぁっ!!」

飛行手段を失ったシグー・ ディープアームズはまっ逆さまに落ちていくも、それをなんとかライルが受け止める。

「た、隊長……ここは一度、 引きます!」

「ち、ちくしょう……」

ここまで一方的にやられたの は、2度目だ……飛び去っていくインフィニティの姿が、以前戦ったルシファーと重なる。

悪態をつき、ヴァネッサとラ イルはそのまま後退していくのだった。

 

 

キラの通信を聞き入ったザフ ト側のパイロット達は一瞬動きを止めた。

その中には、イザークも含ま れる。

だが、耳を疑いながらも、イ ザークは被りを振った……地球軍の艦艇を護っている光景から、それが撹乱のためのハッタリだと思い至った。

《下手な脅しを……っ!!》

僚艦を救うための出任せと決 め付けたイザークは、ビームを連射する。

「デュエル…!」

シールドでビームを受け止め ながら、キラはデュエルを凝視する。

グゥルを駆り、ビームサーベ ルを抜いてフリーダムに飛び掛かるデュエル。

《いえぇぇぇっ!!》

吼えながら振り被ったビーム サーベルを、フリーダムはシールドで受け止め、肉迫したデュエルは左拳を突き出すも、それを右手で受け止める。

「やめろと言ったろう! 死 にたいのか!?」

膠着した状態でキラは通信に 向かって叫ぶ。

《何だと!?》

まさか、敵機から通信が入る とは思っていなかったのだろう…上擦った声を上げるも、それには若干の憤怒も含まれている。

怒りにかられたイザークは零 距離からシヴァを放つが、頭部を傾けてその一射を回避したフリーダムに向かって頭突きをかまし、そのままビームサーベルを振り被るも、フリーダムは空中で 一回転宙返りし、腰部にマウントされたビームサーベルを抜いて迫った。

コックピットに迫る光刃に、 イザークは背筋を凍らせ、悲鳴を上げる。

だが、キラはビームサーベル の軌跡を逸らし…光刃はデュエルの両脚を斬り飛ばした。

衝撃に呻くイザークに対し、 キラが叫ぶ。

「早く脱出しろ……もうやめ るんだ!」

そして、フリーダムは思いき りデュエルを蹴り飛ばした。

落とされた先には、僚機の ディンが両脚を失ったデュエルを受け止め、帰還する。

 

 

 

その頃、JOSH−A内部に 突入したインフィニティは、メインゲートを突破し、遂に内部の都市街に到着した。

識別未確認のMSの登場に、 ザフト側のMS隊は動揺し、攻撃を仕掛けてくるが…それすらも時間が惜しい今の現状では鬱陶しい。

邪魔をするなっ! 死にたくなかったら、さっさと逃げなさ いっ!!」

全周波で怒鳴りつけると、そ れに圧倒されたのか…MSが動きを止め、好機とばかりにレイナは計器類を操作し、エンジンのパワーを上げ、オメガを構える。

スライドした砲身を脇で固 め、現われたトリガーを持ち、それを都市部の中心目掛けて砲口を向ける。

おおよその予測だが、サイク ロプスは都市部の地下に張り巡らされている……ならば、その天上部を崩壊させてやればいい……インフィニティの右眼に照準用スコープが装着され、コック ピット内にも照準用の画面が開く。

【照準……誤差修正………エ ネルギー臨界値、80%突破】

内蔵されている核融合エンジ ンが唸りを上げ、背面に真紅の光の翼が拡がり……それに連動してプラズマ粒子変換装置が臨界点を越え、オメガの砲口に光が収束し、粒子を吐き出す。

その様子に戦慄したのか、 MS隊が後退していく……そして、その瞬間を狙ったようにトリガーを引いた。

オメガから放たれた閃光が都 市部に突き刺さり、巨大な爆発とともにビル群が崩れ、支えていた人工地盤が崩れ、陥没していく。

降り注ぐ岩が、最深部に設置 されていたサイクロプスの発生器に激突し、破壊していく。

それを見届けることもせず、 レイナは放ったと同時に機体を反転させ、脱出していく。

(あれで恐らく、かなり威力 は半減したはず……少なくとも半数以上は破壊した)

完全に破壊するには時間が足 りない……レイナにできるのは、少しでも威力を削ぎ落とすだけであった。

メインゲートを突っ切り、瀑 布を飛び出すと、そのまま加速してアークエンジェルとの合流を目指した。

 

 

 

「そろそろですな……」

遂に、その瞬間はやって来 た……潜水旗艦の中で、その瞬間を待ち侘びていた将校達は一斉に頷く。

まるで、ティータイムの余興 であるかのように…サザーランドを含めた数名が首からぶら下げていたキーを外す。

「よろしいですか……?」

サザーランドの問い掛けに、 将校達は建前とでも言いたげにやや表情を顰め、キーをアタッシェケースに差し込む。

それこそ、JOSH−Aに設 置されたサイクロプスの起動装置であった。

「この犠牲により、戦争が早 期終結に向かわんことを切に願う………」

厳粛な面持ちで、皮肉にもパ トリック=ザラと同じ言葉を口にし、感じてもいない苦痛を噛み締めるように間を置く。

「青き清浄なる世界のため に…3、2………」

同時にキーが捻られた……

 

 

グランドホロー内で、イン フィニティの突然の乱入と中心部の破壊にザフトのMS隊は混乱し、一部の部隊が指示を仰ごうと後退している。

残ったMSは、破壊を続行す るも…その時、中心部に近かったMSに異変が起こった。

レイナが破壊し、陥没によっ て半数以上のサイクロプスが破壊されたが、それでも僅かに残ったサイクロプスが起動し始め、マイクロ波を発生させた。

蒼白い渦が、MSの計器類を 狂わせ…さらには、パイロットの身体を沸騰させ、膨張させる……パイロットの身体がコックピット内で膨らみ、沸騰して膨張した細胞が身体の体積に耐えられ ずに破裂する。それに連動するようにMSが次々と弾け飛び、逃げようとしていた連合兵の身体も次々と消滅していった。

JOSH−A内に阿鼻叫喚の 悲鳴が上がる。

その状況は、すぐさま沖合で 待機していた潜水母艦でも確認された。

「アラスカ基地内に、強烈な エネルギー放射を確認! これは……!」

確認したオペレーターが息を 呑んだ。

 

 

「サイクロプス、起動!!」

サイの悲鳴のような声が上が り、クルー達は全身が凍りつくような感覚を憶えた。

キラの援護でなんとか保ち堪 えられていたが、まだ基地に近すぎる。

「機関全速! 退 避ぃぃぃ!!」

命じるまでもなく、誰もが必 死だった…JOSH−Aの奥深くから噴水の如き優美な光を放つ柱が立ち昇り、それがゆっくりと拡がっていく。

それによって、陸地にいたバ クゥ、ザウート、グーンなどの陸上機が次々と爆発し、倒壊していく。

光の壁はそのままゆっくりと 拡がってくる…ザフトのMS隊は慌てて爆心地から遠ざかろうと後退する……アークエンジェルもエンジンを全開にして加速するも、他の連合艦はそうもいか ず、壁に呑み込まれて消滅していく。

撤退するMS隊の中で、グゥ ルを失ったジンが落下する……だが、その腕をフリーダムが掴み取る。

「掴まれ!! くっ!」

ジンを掴んだまま、加速する フリーダム……その後を追うインフィニティのコックピットの中で、レイナは後方の蒼白い死神の光を見やりながら、毒づいた。

「こんなやり方までして滅ぼ したいの……!!」

勝つために手段を選ばな い……奇麗事を言うつもりはないが、レイナはそのやり方に嫌悪した。

 

 

 

河口から立ち昇った光が地下 施設を陥没させ、崩壊させていく。その裂け目から炎が立ち昇る……巨大な爆発とともに、数キロに渡るクレーターが残され、そこに冷たい海水が流れ込み、濁 りが電磁波によって水分子を振動させられ、そこから生まれた膨大な熱が海水と衝突し、水蒸気爆発が連続した。

朦々と立ち昇る煙と、半径数 キロのクレーターの中には生命を持つものはおろか、光を展開させたサイクロプスさえも存在しなかった。

「こ……こんな………!」

そのあまりに非現実的な光景 に、ザフトの潜水母艦の乗員達は呆然となっていた。

圧倒的勝利を確信していたは ずのオペレーション・スピットブレイクは、思いもよらぬ結末を迎えた……アラスカ基地崩壊とともに、多くのMS隊を道連れにして………

「してやられましたな…ナ チュラルどもに……」

ボソッと呟いたクルーゼは、 フッと口の端を吊り上げ、歪んだ笑みを浮かべたが……誰もそれに気付かなかった………

 

 

アークエンジェルは、惨状の 中心からやや離れた位置にほとんど墜落といった形で着底していた。

ブリッジでは、誰もが助かっ たという現実を受け入れられず、その場にへたり込んでいた。

丘に着陸したスカイグラス パーのコックピットから降りたムウとアルフは、その立ち昇る水蒸気を一瞥すると、妙に冷めた気分でヘルメットを投げ捨てた。

そこから程近い内陸部に、フ リーダムとインフィニティも着地していた。

キラは、助けたジンからパイ ロットを降ろす。

「しっかりしてください…」

呻き声を上げる年若いパイ ロットにキラが声を掛ける。

「君が……あのMSのパイ ロット………?」

どこか、驚いた声で尋ねてく る……キラは頷き返す。

「何故、助けた……?」

「僕が…そうしたかったから です」

その答に、パイロットは苦笑 を浮かべる。

「殺した方が…早かったかも しれない……ぞ………」

既にマイクロ波の影響を受け ていたのだろう……パイロットはそのまま静かに息を引き取った……その様子に、キラは悔しげに拳を大地に打ち付けた。

決めたはずなのに……!!

内心で葛藤し、キラは歯噛み した。

その様子をインフィニティか ら降りたレイナが一瞥すると、ヘルメットを取り…そのまま爆心地を見詰めていた。

威力を削ぎ落としたとはい え、あの爆発でザフト側のMSは半数近くが巻き込まれただろう……連合側の人間も、助かったのは恐らくアークエンジェルだけだろう………

 

―――――過ちを繰り返す愚 かな存在……

 

以前、レイナは自身でそう人 間を評した。

「………人は…どこまでいく のかしら…………」

その問いに答えられるものは なく……微かに吹く冷んやりとした風に揺れる髪を掻き上げた………

 

 

 

 

アスラン達を乗せたシャトル が本国に到着し、3人はまず報告のために国防委員会本部を訪れた。

本部のロビーに足を踏み入れ た瞬間、彼らは一瞬足を止めた。

本部内は騒然としていて、職 員や軍人達が殺気立ったように、または焦燥にかられた表情で走り回り、何かを話し合っている。

「何か、あったんでしょう か……?」

リーラの問い掛けに、アスラ ンも解からないといった表情で首を傾げる。

「全滅!? 全滅とはどうい うことだ!」

並んで歩きつつも、周囲で飛 び交う怒号に近い声に耳を傾ける。

「そんなバカな情報あるわけ ないだろう!」

「カーペンタリアは!? と にかく正確な情報を……!」

何かの情報が錯乱しているの か、かなり混乱している様子が見受けられる。

あまりにも周囲が動揺してい るため、アスランは周囲を見渡していると、見知った顔に気付き、駆け寄った。

「ユウキ隊長!」

黒に近いグレーの軍服を身に 纏った年若い指揮官:レイ=ユウキ…アスラン達のアカデミー時代に世話になった人物だ。

ユウキは声を掛けられ、振り 向いた先にあった顔に意外そうな表情を浮かべた。

「アスラン=ザラ…それにリ ン=システィも………どうしたんだ、こんなところで?」

「いえ……それより、この騒 ぎは?」

アスランの疑問に、ユウキが 思わず眉を寄せて見せる。

「スピットブレイクが、失敗 したらしい……」

「えっ!!」

沈痛な表情で告げるユウキ に、アスランが声を上げ、リーラが息を呑み、リンも若干眉を顰める。

「……流石に地球軍も必死 だったとみえるわね。パナマは陥とせなかったか」

揶揄するような口調で呟くリ ンに、ユウキが被りを振る。

「それが……パナマではない んだ」

ユウキが苦々しい口調で答え る。

「スピットブレイクの目標 は、直前でJOSH−Aに変更された……上の方で、前々から極秘裏に進められていたらしい……」

リンが表情を微かに顰め、ア スランは父の意図を理解した……だが、直前まで知らなかった者達は、釈然とした思いを浮かべている。

「詳しいことはまだ解からん が……全滅、との報告もある………」

アスランは息を呑み、隣に 立っていたリーラは思わず持っていたトランクを落とす。

驚いてアスランが振り返る と、リーラは蒼白な表情で茫然自失となっている。

アスランは瞬時にリーラとイ ザークの関係を思い出した……イザークもまたスピットブレイクには参加しているはずだ。

アスランがリーラに声を掛け る前に、先にユウキが言葉を発したためにそれは遮られた。

「アスラン…君にはもう一 つ、悪いニュースがある……」

ユウキはアスランの耳元に顔 を寄せ、小声で耳打ちした。

リンと呆然となっていたリー ラもその話に耳を傾ける。

「極秘開発されていた最新鋭 のMSの試作機が2機、何者かに奪取された」

衝撃的な事実に、アスランと リンはプラント到着前に見た未知のMSの姿を思い浮かべた。

だが……続けて発せられた言 葉に、アスランは今度こそ驚愕した。

「それの手引きをしたのが、 ラクス=クラインだということで、今国防委員会は大騒ぎなんだ………」

眼を大きく見開き、アスラン は手に持っていたトランクをその場に落とす。

「そんな…まさか……ラクス が………そんな…………っ」

足元を抜けるような衝撃に、 アスランは呻いた……

 

 

 

 

時を同じくして、地球某海 上……

ようやく完成のメドが立って きたギガフロート……一時期は、ゴールドフレームやザフトの介入があったものの、TFとサーペントテールによって護られ、あれ以来致命的な損傷は受けてい ない。

そして、大まかな作業を終え たロウ達は、TFの母艦:ポセイドンの招かれ、MSの改修にあたっていた。

「おーっし! そのままゆっ くりと右だ!!」

「は、はい!」

怒鳴るような声を上げるトウ ベエに、樹里が上擦った声で答え、搭乗しているバクゥのクレーンを動かし、吊り下げていた腕をハンガーに固定されている本体に近付ける。

「樹里、ストップだ!」

MSの肩に乗っかったロウが 声を上げ、クレーンが止まる。

そして、ロウは腕パーツと本 体のジョイントを接続し、接合していく。

「よっしゃっ! 完成だ ぜ!!」

腕を振り上げ、ロウがそのま まクレーンを伝たるように滑り降りてくる。

「ようやく完成したか……」

トウベエを含めた技術陣も一 仕事を終え、汗を拭いながら、軽く息を吐き出している。

眼前のハンガーには、灰色の MSが一体固定されている。

右腕には、クローを思わせる 武装に、左腕にはシールドと3つの銃口が見える……そして、腰部には2本の実剣を帯刀している。

「いやぁ…やり甲斐のある仕 事だったぜ、おやっさん!」

「なぁに…そっちこそ、宇宙 一のジャンク屋と自負するだけはあるの!」

互いに称え合うロウとトウベ エ……その完成度にほれぼれしていると、そこにキョウと、偵察を終えたミゲルと劾がやって来た。

「完成したんですか、おやっ さん?」

「おうよ!」

胸を張るトウベエにミゲルが その機体を見上げる。

「しっかし、随分前と形が変 わったな……」

かろうじて原型を留めている のは頭部とボディぐらいで、ミゲルは半ば呆れる。

「なに言ってるんじゃ! こ れでも性能はかなりUPしたぞ! 貴重な時間を割いて、お前さんの機体も改修してやっただろうが!」

ズズイと迫るトウベエに、ミ ゲルはウッと言葉を詰まらせる。

そう……前の戦いで乗ってい たディンを半壊させたミゲルは、搭乗機を失ってしまった…そのために、トウベエが既存のシグーを改修したのだ。

オーブで受け取ったM1のフ ライトユニットを参考にした飛行ユニットを、シグーのウイングを取り外した背面に装備し、さらにはM1用のビームライフルを持たせ、強化した機体だ。

肩を落とすミゲルに劾が微か に苦笑を浮かべ、一同が大笑いする。

その騒ぎを横に、キョウはト ウベエに近付く。

「おやっさん…今朝、艦内に 運んだものは何ですか?」

ここに来た理由である疑問を ぶつける…今朝方、ポセイドンにはトウベエが密かに何かを運び入れていた。

「おお、アレか……実は、大 西洋連邦からちょいっと新型機をチョロまかしてやったのよ」

つまるところ……横流しであ る。

悪びれもなく胸を張るトウベ エに、キョウは苦笑を浮かべる。

その時、艦内通信が入った。

《艦長! 大変です!!》

切羽詰った様子のオペレー ターに、キョウは首を傾げる。

「どうした……?」

《アラスカ基地が……消滅し ました!!》

その言葉に、その場にいた者 全てが息を呑んだ。

「どういうことだ…詳細を説 明してくれ!」

《は、はい…未明にザフトが アラスカに侵攻……そして、ザフトの半数近い部隊がアラスカ基地消滅に巻き込まれたようです》

「何じゃと……まさか、地球 軍はアレを使ったのか…!」

トウベエは思わず上擦った声 を上げる……そう、トウベエはかつて大西洋連邦に属し、JOSH−Aの建造にも関わったのだ。

だからこそ、サイクロプスの 事も知っている……だが、まさかそれを使うとは思っていなかった………

唖然となる一同の中で、キョ ウは静かに呟いた。

「どうやら……ここでのんび りしている時間はないようですね」

そして、手袋を嵌めた右腕を 強く握り締める。

(大西洋連邦め…そこまで見 境がなくなったか………!)

吐き捨てるように毒づくと、 キョウはすぐさま指示を出した。

ポセイドンはこれよりギガフ ロートを離れること……そして、ここの警備はサーペントテールに託し、彼らもまた動き出そうとしていた。

 

 

 

……世界は…ゆっくりと動き 出していた…………

 

 

 

 

 

《次回予告》

 

予期せぬ事態に、世界は大き く動く……

再会した少女が齎す言葉は、 少年と少女に何を齎すのか……

 

そして、もう一人の少女は自 身の運命を知る………炎の別れとともに……

 

迷う魂が進む先は……正義と 進化の名を持ちし剣を得て、少年と少女は飛び立つ……

 

次回、「迷える進化と正義」

 

迷いを越えて……飛べ、ガン ダム。


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