夜が明ける前……まだ、空は 青黒く、東の地平線から薄っすらと差し込む光が空を鮮やかな紫に彩る。

その光に反射するように、生 い茂った熱帯雨林と、その奥に見える巨大な建造物……緩やかな傾斜を描き、天への道となるもの……地球連合軍の最後のマスドライバー基地、パナマポートで ある。

そのパナマに向かい、海上の 沖合には数隻のザフトの潜水艦群が浮上し、襲い掛かろうとしていた。

先のアラスカ戦で多くの戦力 を失ったザフトは、地上における兵力を掻き集め、雪辱戦にオペレーション・スピットブレイクの当初の目的地を選んだのは、パトリックだった。

議会の承認を得ぬ作戦を独断 で強行したうえに、大敗を喫し、弁明のしようもない…だからこそ、間を置かずに急ぎ次の作戦を発令した。

スパイを手引きし、最新鋭の MSを引き渡したラクス=クラインと逃亡したシーゲル=クラインやその陣営に属していたアイリーン=カナーバらクライン派を反逆者として責任転嫁をした が、それで世論が全て納得するものでもなく、むしろその措置に疑問を抱く一般市民や兵士達も多かった。

このままでは、自らの地位を 脅かされると恐れたパトリックには、新たな勝利が必要なのだ。

潜水母艦群の旗艦:クストー ストの格納庫には、デュエルとシグー・ディープアームズ、シグーASをはじめとした機体が揃っている。

そう……フリーダムとイン フィニティによって行動不能とされ、後退を余儀なくされたイザークやヴァネッサ達ではあったが、結果的は命を拾ったのだ。

あの2機によって行動不能に 陥って後退した機体のパイロット達はほぼ生還していたが、残りは補給等で戻ったぐらいだ。

待機戦力を置かず、全戦力を 投入したのが逆に仇となったのだ。

コックピット内で、ヴァネッ サは内に渦巻く激しい怒りを抑えるのに必死であった。

自身と自身の小隊のメンバー は命を拾ったものの、多くの仲間があの光に呑まれて消えていった……しかも、地球軍は味方を囮にしてだ。

あの時に立ちはだかった地球 側の兵士達は、皆必死だったのは嫌でも解かる……それをこともあろうに自分達の仕業と報道されて気分がよいはずがない。

《隊長……気持ちは解かりま すが、落ち着いてください。こちらの戦力は、当初の半分にも満たないんです…迂闊に行動するだけは控えてください》

ライルの言葉も上擦る……ラ イル自身も、なんとか平静を保っているも、それでも微かな怒りを隠せない。

「解かってるよ」

ぶっきらぼうに言い放ち…操 縦桿を握り締める。

そうなのだ……この作戦に失 敗は許されない………滾る怒りを抑え…シグー・ディープアームズが射出された。

その会話を盗み聞いていたイ ザークも、どこか端整な顔を歪めていた。

あの光がサイクロプスだと 知ったのは、後になってだが、それでも味方もろとも敵を吹き飛ばすというようなやり方に、イザークは心底嫌悪していた。

そしてなにより…彼の頭に過 ぎるのは、あの時自分を止めたあの2機……白と黒、そして蒼と紅の翼を持った見慣れぬMS……

圧倒的な力でこちらをいとも 簡単に撃破ではなく戦闘不能に陥らせた……脚付きを庇っていたことから、地球軍の機体と予測したが、それなら何故わざわざ自分達を助け、逃げろなどと言っ たのか……あの2機のおかげで後退した兵は半数以上が生き延びている事実。

だがしかし、イザークのその 思考も発進を告げるシグナルに遮られた。

そうだ、と自分に改めて渇を 入れる……これから、地球軍に対しアラスカでの一矢を報いるために戦いに赴くのだ。

アラスカで拾った命を無駄に しないために……自身の大切な者に誓い、デュエルが射出されていった。

潜水艦から巡航ミサイルが何 十発と放たれ、それに続くように、上空に向けて伸びたカタパルトからディンやジン、シグーが射出され、次々にグゥルに飛び乗っていく。

海中の発進口からは、グーン やゾノが発進し、海中を進んでいく。

その様子を、クストースト内 で見守る艦長のモンローが、苦い口調で呟く。

「しかし……これだけの戦力 でパナマを陥とせなどと…本国も無茶を言う」

流石に、今回の作戦の不利は 否めない……先のアラスカ戦に投入した戦力のうち、約半数近くがサイクロプスによって消滅し、2割近くは修理が間に合わず、結果的に投入できたのはジブラ ルタルやビクトリアからの補給によって、なんとかアラスカ戦時の半数に満たしたが、それでもバクゥやザウートといった陸上MSの損耗は大きかった。

そのため、近々ビクトリアの 破棄も検討されている始末だ。

そんなモンローを宥めるよう に、隣のクルーゼが答える。

「仕方ありますまい…アラス カで調子にのった奴らの足元を救っておかねば、議長もプラントも危ない……ウロボラスの輪を閉じ、奴らを地球に閉じ込める……そのためにも、パナマのマス ドライバーは潰しておかねば……」

モンローは溜め息をつくと、 尋ね返す。

「グングニールは?」

「予定通りです」

地上と並行して今現在、衛星 軌道上には、この作戦のための新兵器を輸送中のはずだ……そして、予定時刻の到来を待ち構えている。

「問題はこちらだな……降下 までに目標を制圧できるかね?」

懸念を口にするモンローに、 クルーゼは仮面の下で低く笑った。

「アラスカの弔い合戦と皆息 巻いております……するの、ですよ」

皮肉げにそれを告げると、ク ルーゼは踵を返し、ブリッジを出て自室へと戻っていく。

その後姿を、モンローはどこ か冷たい感覚に捉われながら見送った。

 

 

ブリッジから自室へと戻った クルーゼは、扉が開いた途端に弾かれたように立ち上がり、銃を向けてくるフレイを見やり、フッと軽く笑みを浮かべた。

「間もなく戦闘が始まるよ。 見たいかね?」

銃口を無視し、真っ直ぐにデ スクへと向かう間も、フレイは銃口を向け続けたが、クルーゼはまったく動じた様子も見せず、席に着く。

彼女を連れてきて以来、ずっ と同じことを繰り返す……撃たないのではなく、撃てないということをクルーゼはとうに見抜いていた。

「あちこち引っ張りまわして 済まんね。が、命令なので仕方がない」

「なんで……」

過剰に反応するように、震え た声を絞り出す。

「なんで、私を……っ!」

コックピットで蹲っていたフ レイを、クルーゼは自室へと連れてきたが…それだけであった。銃を取り上げようともせず、自室をロックして逃さないようにするわけでもない…正確には放っ ておくだけであった。

意図がまったく掴めず、フレ イは混乱するばかりだ……捕虜にするにしても、扱いがおかしすぎるのは、いくらフレイでも解かった。

情けをかけたのか……一瞬、 そんな考えが過ぎるも、クルーゼの冷たい笑みがそれを否定した。

「君は既に死んだ身だよ、フ レイ=アルスター」

真正面から銀のマスク越しの 視線に晒され、フレイは息を呑む。

まるで蛇に睨まれた蛙のよう に………

「あの時私に撃たれていて も、あのまま見逃していても、君は死んでいた。まして、アラスカが消滅した今、君の生存を知る者などいまい」

その言葉に、フレイは愕然と なり、銃を握り締める手が震える……

「ア、アークエンジェル は……?」

「脚付きのことかね? かの 艦は難を逃れたようだが……しかし、彼らにはもはや帰る場所もない……敗走し、挙句の果てには敵前逃亡の身」

フレイの表情にどんどん絶望 が拡がっていく。

「生存も解からない君を助け ようなどという考えを、彼らが抱けるほど余裕があるとは思えんな……仮に助けられても、君も地球軍から反逆者と見られる……その覚悟があるのかな、君 に?」

自身の心を見透かされたよう に、フレイの表情が強張る。

この場から逃げ出したくと も、周りは海…それぐらいはフレイでも解かる。仮に脱出できたとしても、もはや自分には帰る場所などない。

地球軍に戻っても一人ぼっ ち……アークエンジェルに戻っても反逆者として追われる身……どちらもフレイにとっては最悪の状態だ。

あくまで、自身の保身に走る フレイの様を、クルーゼは愉悦を感じさせる瞳で見詰めていた。

「ここで私を撃っても、その 直後に君は死ぬ。兵に撃たれてね」

淡々と事実を述べるクルーゼ に、フレイは眼を見開く。

「それが気に入らぬと言って も、あとはその銃口を自分に向けて引き金を引くくらいしか、できることはないな……弾は入っているのだろう?」

弾かれたように、フレイは手 に握る銃口を見やる……その瞳が、恐怖に歪む。

「命が惜しいかね?」

怯えたようにクルーゼを見や る……父と同じ声を錯覚させる男の冷たい言葉に、フレイの呼吸が荒くなる。

「戦場では命など安いもの だ。一瞬で失われる……」

そう……フレイの父も、キラ も戦場で命を失った………ならば、自分の命も……

「……だが皆、祖国のため、 大義のため戦うのだよ」

空虚なものを振り翳し、自身 の境遇を哀れさせて他人の同情を買い、手駒とする……やり方こそ違うが、それはクルーゼ自身に通じるものがあり、誘惑のように囁く。

「しかし君には似合わんな、 そんなことは」

クルーゼは立ち上がると、 ゆっくりと銃口を向けるフレイに近付いていく。

だが、先程からその手は震 え、狙いは定まらず、それ以上に彼女の表情には激しい動揺が漂っている。

「軍服を着ていても君は兵士 ではない……違うかね?」

クルーゼはフレイに触れよう ともせず、そのまま彼女の横を通り過ぎ、無関心に部屋を出て行った………残されたフレイは唇を噛み、力が抜けたように椅子に座り込んだ。

蒼白になったフレイの表情に は、もはや生気がなかった……クルーゼの言う通り、フレイは兵士ではない。

軍服を着、階級を持っていて も彼女自身は武器の扱いどころか、軍人としての覚悟も知識も持っていないただの民間人なのだ。

工業カレッジに通ったのも、 元を正せば父に勧められたからだ……父に反対することのないフレイはそのまま入学し、そこに居ただけに過ぎない……自ら学ぼうともせず、ただただ自分を満 たすことのみ……そのツケが、今になって返ってきたのだ。

もはや、フレイには何もな い……父も死に、キラにも謝れずに死なせてしまい……彼女にはもう誰も手を差し伸べてくれる相手はいない………孤独感に押し潰され…もはや自由になるのは 自分の命だけ………だが、手に持つ銃の扱いなど解かるはずもない。

その眼から、一筋の涙が零れ たことにさえ、フレイは気付けなかった………

 

 

 

「なんですって!? パナマ が……!」

アークエンジェルの艦長室に て、意見を交わしていたマリュー、ムウ、アルフのもとに、衝撃的なニュースが齎されたのは、会談の翌日であった。

「未明から攻撃を受けてい る…詳細はまだ解からんが………」

情報を持ってきたキサカも、 言葉を濁す。

「マスドライバーか……?」

「恐らく…しかし、ザフトも 先のアラスカ戦でかなり戦力を低下させているはずじゃ……」

アルフの問い掛けに、キサカ は表情を顰める。

「地球軍の主力部隊も、今は パナマだ…ザフトも必死さ」

その言葉に、マリューは沈痛 な表情を浮かべ、キサカが同情するように窺う。

「……君らには、複雑だな」

たとえ、今は上層部の人間が 許せなくても、一度は忠誠を誓った組織のこととなると、やはり気に掛かるのは仕方がない………矛盾した思いに悩みながら、マリューは眼を伏せた。

 

 

その頃……アークエンジェル の格納庫でレイナはインフィニティのOSのセッティングを行っていた。

ある程度のセッティングは成 されていたが……先日にアラスカ戦ではほぼぶっつけ本番で起動しただけに、自身の動きに合わせてプログラムを組み直そうと思っていたが、レイナは作業を行 いながら奇妙な感覚に捉われていた。

先の戦闘でも微かに思った が…なにか……身体が馴染むようにインフィニティは調整されている……まるで…最初からパイロットが自分だと決まっていたように……

だが、レイナは苦笑を浮かべ て首を振る……そんな事があるはずがない……MSが戦争に投入されてまだ一年程度……まださほど出回っているわけでもない……少なくとも、ヘリオポリスで 搭乗したルシファーが最初のはずだ……だが、それでも感じる奇妙な既視感にレイナは額を押さえた。

「あの…レイナさん………」

コックピット内で物思いに 耽っていたレイナは、コックピットを覗き込んだカムイに気付き、顔を上げた。

「実は……」

カムイは今朝未明からパナマ がザフトの侵攻を受けていることを告げる。

「パナマが……?」

カムイからその情報を聞かさ れ、思わずコックピットから飛び出し、尋ね返す。

「ええ…今朝方からザフトの 攻撃が始まったようです……詳しくはまだ解かりませんが……」

レイナは、パナマでの戦闘を 頭の中で素早くシミュレーションする。

戦力的には、ザフト側が不 利…パナマに配置されている兵器が従来のものなら解からないが……問題は………

脳裏に、地球軍の量産化した MSの存在が浮かぶ……

「……戦力的には五分五分 か」

互いに決め手がない以上、明 らかに不利なのはザフトだ。

しかし、彼らもそれぐらいは 承知しているはず……なにか、勝算があるのか………だがどちらにしろ………

「……この国の平和も…後僅 かかもしれないわね」

インフィニティを見上げなが ら、ポツリと呟く……その言葉に、カムイはハッと息を呑む。

レイナの言いたいことが容易 に察しできたからだ……カムイも表情を顰め、その視線をインフィニティへと向けた………

 

 

 

 

潜水艦から放たれた巡航ミサ イルがパナマポートの施設に次々に着弾し、爆発の華が咲く。

それに続くようにMS隊が空 中から舞い降り、砲撃を開始する。

アラスカで多くの戦力を奪わ れたとはいえ、それでもなお驚異的な数だ……対し、地球軍は対空砲や高射砲でそれらを狙い撃つ。

ミサイルがディンを吹き飛ば し、空中に爆発が起こる…それを掻い潜り、空中からデュエル、シグー・ディープアームズが先陣を切り、ビームでそれらを吹き飛ばしていく。

港に停泊している海上艦に目 掛けてディン隊が容赦ない砲撃を繰り返し、出撃することなく戦艦が沈められていく。

海中からは、グーンやゾノが 上陸し始め、ミサイルで山腹に設置された砲台を潰していく。

そして、次々とジンやシグー がグゥルから飛び降り、大地に降り立ち、地上に展開している戦車部隊を撃ち抜き、空中の戦闘ヘリ群を撃ち落していく。

海上からは陸付けされた揚陸 艦から上陸部隊が次々に降り立ち、懸命に守備隊が応戦するも、従来の兵器ではMSに太刀打ちできるはずもない。

守備隊の不利は、パナマの司 令部に滞ることなく報告されていく。

「敵MS、第2防衛ラインに 到達!」

モニターに映し出された、立 体の地形図には、赤い敵軍のラインが徐々に奥に向かってくるのが表れている。

「第3中隊、第3中隊! ど うした、応答しろ!?」

「第8防空隊は南側へ!」

報告を告げるオペレーター達 の声に、基地司令官の男は歯噛みする。

やがて、一つの指示を下し た。

「第13独立部隊を展開し ろ!」

その命令に、隣に控えていた 副官が眼を見開く。

「よろしいのですか?」

不安げに窺う副官に、司令官 は強い口調で答える。

「何のために創ったMS部隊 だ! 奴らに我々の底力を見せてくれるわ!」

一抹の望みを託し、パナマ基 地の奥深くに設置された格納庫には、何十台というハンガーが固定され、それにはMSが固定されている。

だが、その形状はザフトの MSとは明らかに違う……デュエル以上にシンプルな機体形状、頭部はバイザーを装着したようなヘルメット型に、シールドとグレネードがセットになったビー ムライフルを保持し、バックパックにはビームサーベルが1本備わっている。

地球軍が、Xナンバーのデー タから開発した量産型MS、GAT−01:ストライクダガーだ……アークエンジェルから齎されたストライクの戦闘データとOSのデータを組み込んで開発さ れたナチュラル用のMS。

そのストライクダガーのゴー グル型のカメラアイに次々と光が灯り、動き出していく。

立ち上がった機体が、薄暗い 格納庫を抜け、外の戦場へと向かい出撃していく。

発進していくストライクダ ガー隊の中で、一際目立つ機体がハンガーに固定されていた。

全身を白でカラーリングし、 頭部形状はストライクダガーと若干ながら相違点がある。なにより特徴的なのは、その機体は、デュエルのアサルトシュラウドに酷似した装甲と武装を装備して いる点であった。

機体コードは、GAT− 01D:ロングダガー……ストライクダガーの改良型で上位機種に当たる機体だ。なにより、この機体には奪取されたデュエルに装備されたアサルトシュラウド の有用性に着目し、それを再現した特殊武装:フォルテストラが装備されていた。

ストライクダガーと共用の パーツを多数使用しながらも、生産性とハイスペックの両立を果たした機体ではあるが、その操作性は難度を増し、数機生産されただけの機体だ。

そのコックピットシートに着 くのは、機体と同じ白いパイロットスーツを纏った連合のエースパイロット、煌く凶星J:ジャン=キャリー……悲惨な戦いを終わらせるために連合に組した コーディネイターであった。

この白いカラーリングも、彼 が連合からも監視しやすいようにと初期に搭乗していた鹵獲ジンと同じものを施した。

だが、ジャンはそんな自分の 立場を理解していた……そして、機体を起動させると、ゆっくりとロングダガーが立ち上がる。

「ジャン=キャリー、出る」

冷静な口調で呟き、孤独な エースが出撃した。

 

 

戦況はザフト側の有利に進ん でいた。

彼らのこの戦闘への気迫 か……数の不利を推して見事に勝ち進んでいた。

空中に展開するデュエルが編 隊で突入してきた戦闘機部隊にビームライフルを斉射し、数機を撃ち墜とし、編隊が崩れた隙を衝き、ヴァネッサのシグー・ディープアームズがレーザー対艦刀 で斬り裂き、戦闘機が失速して爆発する。

《隊長、先行し過ぎです!  我々の役目はあくまで目標地点の確保です!!》

ライルが突出する2機に向 かって嗜めるが、ヴァネッサは鼻で鳴らす。

「はっ! グングニールなん て必要ねえよ! 俺が連中を全部ぶっ倒してやる!!」

いきり立ち、シグー・ディー プアームズが戦闘機が密集している空域へと向かっていく。

間隙を埋めた弾幕に、流石に 怯むもそこへビームが降り注ぎ、戦闘機を蒸発させる。

「おい! 気持ちは解かるが 先走るな! 俺達の目的を忘れるな!!」

意外に冷静なイザークの叱咤 が飛ぶ。

軽く舌打ちした時、モニター に一つの通信が入った。

グングニールの投下が開始さ れた……目標地点の死守が告げられ、イザークやヴァネッサが持ち場へ向かおうとした瞬間、眼下のジンが突如爆発した。

熱帯の森林と軍施設を蹂躙し ていたジン部隊の前に、見慣れぬMSが姿を見せたのだ。

「何だ、ありゃ…ストライ ク……!」

その形状は、どことなくスト ライクと通じるものがある、眼を驚愕に見開いたヴァネッサが叫ぶ。

「いや、違う……!」

だが、間髪入れずにイザーク が否定した。確かに相似点こそあるが、あまりに機体形状がシンプルすぎ、またそれが一機ではなかったからだ。

パナマ基地の奥深くから姿を 現わしたのはストライクダガー部隊だ。

見た目は、まさに生産性を重 視したような機体形状だが、それが数を成せば脅威となる。

ぎこちない動きでビームを放 ち、ジンを撃ち抜く……その機動性はナチュラルが操縦しているとは思えないが、それでもその動きはOSに頼りきったものらしく、熟練のパイロットからして みれば動きは読み易いが、それでも物量の差がある。

まだ向こうも戦い慣れていな いものの、ストライクダガーは2機または3機単位で行動し、ザフトのMS一機をしとめる。

これまで圧倒的なアドバン テージを得ていたザフトのMSにとって、初めて兵器の頂点から叩き落された瞬間だった。

 

 

突然の地球軍側のMS部隊の 出現に、前線の兵士達は戸惑い、またそれは沖合に展開するクストーストにも伝わった。

「ほう……地球軍のMS部隊 か」

やや感嘆した様子でクルーゼ が呟き、モンローが苦々しい表情を浮かべた。

「護衛隊の前面に展開され た」

舌打ちするモンローだが、ク ルーゼは逆に笑みを浮かべた。

「かえって好都合です な……」

その意図が掴めずに、モン ローがクルーゼに振り向く。

「虎の子のMS…ともにグン グニールの餌食にしてさしあげよう……EMP対策が施してあるとはいっても、程度はしれたものでしょうからな」

口の端を微かに吊り上げ、愉 悦の笑みを漏らし、モンローは微かに戦慄した。

 

 

ストライクダガーが次々にジ ンやディン、シグーをビームサーベルで斬り裂く。

だが、ザフト側のMS隊も負 けてはいない……量産を重視したストライクダガーには、PS装甲は使用されておらず、実体弾を有するザフトのMSでも十分に対抗できる。

当初は戸惑いと驚きに不意を 喰らったが、すぐさま体勢を立て直し、反撃に移る。

重斬刀を振り下ろし、一機の ボディを斬り潰す……背後からディンが突撃機銃で撃ち抜く。

前に出ようとしていたストラ イクダガー2機は、突如響いてきた地響きに思わず足を止める……その静止した瞬間、唐突に地面が割れ、そこからMSが姿を現わした。

UTA/TE−6:地中機動 試験評価型グーンだ。

先のアラスカ戦での兵器補充 のために、試験型の機体を投入した……突然の地中からの攻撃に反応ができるはずもなく、ストライクダガー2機のコックピットが地中型グーンの両腕のスパイ クによって貫かれ、爆発する。

敵を葬ると、グーンはまたし ても地中へ潜行し身を隠す……その一部始終を見詰めていた他のストライクダガーのパイロットは、僚機のやられた様に恐怖に引き攣る。

地中というのは、地上戦にお いて絶対の死角なのだ……敵の姿が見えないというのは、相手に圧迫感と緊張感を与える……恐怖と焦りが冷静さを奪い、動きが鈍ったストライクダガーを、後 方から飛び出したグーンが叩き潰した。

だがそれでも、数のうえでの 不利が覆されず、ザフト軍は徐々に推し戻されていく。

「舐めるな!!」

「いくぜっ!!」

混戦する戦場に、デュエルと シグー・ディープアームズがグゥルとのドッキングを解除して地上に降り立つ。

ビームライフルのビームキャ ノンが火を噴き、ストライクダガーを数機、炎に包む。

イザークは元よりヴァネッサ も、少なからず対MS戦の経験を持っている……彼らが相手にして戦ってきたストライクやルシファーに比べれば、眼前のストライクダガーなどまったく歯牙に もならない。

OSにほとんどの動作を頼る せいで、複雑な動きをする機体などほとんど無い。

おまけに、量産を急いで開発 したストライクダガーを満足に全ての兵士が動かせるはずもなく、せいぜい単調な動きが精一杯だ……頭数を揃えるだけでは、この2機の相手は気が重いだろ う。

その時、ヴァネッサのシ グー・ディープアームズの後ろからビームサーベルを振り上げて迫ろうとしたストライクダガーを、上空からのビームが貫いた。

《隊長!!》

同じように地上に降り立つラ イルのシグーAS、そしてヴァネッサ隊の面々。

「おい、おかっぱ! 俺達は 東の援護に回る! ここは任せたぞ!!」

言うや否や、シグー・ディー プアームズは対艦刀を抜き、それを振り翳しながらストライクダガーを斬り裂き、地上を疾走していく。

「あいつ……!」

言うだけ言って勝手に先走ら れ、毒づく間もなかった……かつての自分がそうであったことに、イザークが気付くはずもない。

だがそれでも、ここいら一帯 のストライクダガーは、ほぼ一掃した……イザークも担当場所の援護に向かおうとした瞬間、敵機を告げるアラートが響いた。

ハッとそちらに振り向くと、 そこには白い…デュエルと見間違う機体が佇んでいた。

 

「アレは……?」

ジン一機を行動不能にしたロ ングダガーが、その場所へと辿り着いた時、そこには一体のザフトのMSと系統が違う機体が存在し、ジャンは微かに眉を顰めた。

自身の乗るロングダガーに酷 似したフォルム……機種を特定したコンピューターが敵機のデータを表示する。

「GAT−X102:デュエ ル……成る程、試験機のうちの一機か………量産機と試験機、皮肉な巡り合わせだ」

ザフトに奪取された、連合の 量産型MSの原型ともいうべき機体が眼前に佇むという状況に、ジャンは微笑を浮かべた。

感慨に耽るジャンに対し、イ ザークは自身のデュエルに酷似したロングダガーの存在に、まるで自分の機体が汚されたようで通信を送りながら、叫んだ。

「この偽者無勢がっ!!」

突然の通信にジャンは驚いた が、それよりも引っ掛かったのは相手の声だ。

聞く限り、まだ少年のような 声に、怪訝そうな表情を一瞬浮かべるも、すぐに表情を引き締める。

「デュエルのパイロット…… 君の力がもし高いとすれば、私は手加減ができない。もしかしたら、殺してしまうかもしれない……ここは引いてくれないか?」

相手の返答にイザークは一瞬 詰まったが、その返答は侮辱に聞こえた。

「ふざけたことを! ナチュ ラルの分際で!!」

「すまない…最初に話すべき だったな。私はコーディネイターだ」

激昂するイザークに対し、 ジャンは淡々と答える……相手が同胞と知り、イザークは言葉を失った。

「貴様ぁぁぁ! コーディネ イターのくせに、何故ナチュラルの味方をする!!」

先のアラスカ戦で多くの同胞 を失ったイザークからしてみれば、眼の前のコーディネイターでありながら敵につくジャンの意図がまったく解からなかった。

「私は、憎しみを拡げないた めにここで戦うことを決めたのだ」

自らの信念を語るも、今のイ ザークには聞こえない。

「なにを訳の解からんこと をぉぉぉ! なら、俺の手でお前を倒してやる!!」

近距離からビームライフルを 構えるデュエルに対し、ジャンも素早く反応した。

ロングダガーのブースターが 火を噴き、ビームの一射をかわす…それと同時にビームライフルを撃ち返した。

デュエルはシールドでその ビームを受け止めると、シールドを前面に押し出しながらビームライフルで応戦する。

2機は一定の距離を保ったま ま、ビームを撃ち合う……距離を開けすぎては、逆に不確定要素が増すからだ。

デュエルがミサイルポッドを ほぼ至近距離から放つ……ロングダガーは機動性を駆使し、跳躍すると同時にリニアカノンを斉射する。

周囲が粉塵と煙にまみれ…… デュエルとロングダガーは互いの姿を視認した瞬間、ビームライフルを向ける。

 

 

連合側の反撃にあいながら も、投下位置を死守するジン部隊の前に、衛星軌道上から投下されたコンテナが、大気圏を突破し、逆噴射でゆっくりと地上に舞い降りてきた。

待ち構えていたジン部隊はそ の中に収められていた装置のセットアップを開始する。

装置の外周に取り付けられて いたイグナイターを核へとセットし、タイマーをセットした。

その最中も、MSは次々撃破 されていく。

だが、ジン部隊は決死の覚悟 でグングニールを死守し、その間にもカウンターは進んでいく。

互いに損耗が激しくなる 中……やがてそれは終焉を迎えた。

グングニールのカウンターが 0を刻んだ瞬間、装置に装着されていたイグナイターが一斉に爆発する。

核の中央に向かって放たれた それは、装置内部に埋め込まれていた圧電素子を一瞬で破壊した。破壊された圧電素子はその瞬間、強力な電磁パルスを放射した。

効果範囲を計算し尽くされて 配置されたグングニールから放たれた電磁波の波が、パナマ全域を駆け抜けた。

その瞬間、地球軍側の全ての 電子機器が麻痺し、落ちていく。

ブウンという音とともに全て のモニターと計器類が落ち、コックピットが暗闇に変わり、パイロットが恐怖する。

戦闘機は、エンジン部分を制 御するパーツから火を噴き、空中で爆発…または失速して墜落していく。リニアガンタンクにもまた、全ての計器が落ち、中には計器が爆発して上部が吹き飛ぶ ものもある。

通信にはノイズが走り、全て が途絶する…司令部の機能も麻痺し、沈黙する。

そして、その影響は森林の奥 に聳えていたマスドライバーにまで及んだ。

超伝導体で構成されたマスド ライバーレールが、EMPによって強力な磁場を形成し、レール部分から電磁の放電が始まり、互いが互いを引き合い、レールが捻じれ、軋みを上げる……次の 瞬間、マスドライバーは脆く崩れ去っていく。

これが、グングニール:神の 雷と呼ばれるザフトの兵器だ。

先のアラスカ戦で使用された サイクロプスと、発生する電磁波の違いこそあれ、その本質は同じだ……圧電素子を破壊することによって発生する電磁波が、あらゆる電子機器を麻痺させ、機 能を停止させる。

これは、かつてアークエン ジェルが受けたEMPミサイルの発展型でもある。

当然ながら、対EMP対策を 施していたザフト側のMSにはなんの影響もなかった。

 

 

グングニールの発動する数分 前……デュエルとロングダガーの戦いはさらに白熱の度を極めていた。

だが、互いに似通った性能に 武装……なかなか決め手が得られないが、ジャンは内心かなり焦りを抱いていた。

機体性能にさして差はない が、相手のパイロットが対MS戦に慣れていることに焦りを抱き始めた……元々、ザフトのパイロット達はMSを相手に戦闘をした経験がほとんどない。

ジャンが今迄アドバンテージ にしていた理由だが、眼前の相手にはそれが当て嵌まらない……ジャンは捨て身に出ることにした。

ビームライフルを捨て、一気 にデュエルに向かって加速した。イザークは怪訝そうな表情を浮かべるが、接近されてはビームライフルは邪魔なものでしかなく、イザークもビームライフルを 捨て、ビームサーベルを抜く。

その思いっ切りのよさにジャ ンは相手への好感を持った……突進するロングダガーにデュエルがビームサーベルを振り下ろす。

それを紙一重で避けたジャン は、コンソールのあるスイッチを押した。

刹那……ロングダガーを防護 していたフォルテストラの装甲が弾け飛び、同時に強烈な閃光を発した。

「何!!?」

流石のイザークもこれには動 揺した……相手の隙を衝く発光システムは、ロングダガーにしかないシステムだ。

「これで決めさせてもら う!」

閃光に怯むデュエルに向か い、ビームサーベルを両手に構え、上段から斬り掛かる。

「舐めるなぁぁぁぁ!!」

だが、この奇策はイザークに は僅かながら通用しなかった……咄嗟にシールドを引き上げてビームサーベルを受け止めると、もう片方の手に握るビームサーベルで片方を受け止めた。その反 応の良さにジャンは感嘆する。

互いに均衡に陥り、ロングダ ガーが推すが、デュエルは堪える。

「うおぉぉぉぉっ!!」

雄叫びを上げながら、デュエ ルはフルパワーでロングダガーを弾き飛ばした。

微かに歯噛みし、ロングダ ガーは距離を取って着地する。

もはや先の戦法は使えな い……後は、ロングダガーには機動性しかデュエルに勝る部分がない……デュエルが加速し、振り下ろしたビームサーベルをロングダガーは、ビームサーベルを クロスして受け止める。

先とは逆の均衡に陥る2 機……だが、2人の勝負はそれまでだった。

突如として駆け抜けた閃光 に、ロングダガーの計器類が機能を停止させ、ビームサーベルの刃が消え、ロングダガーはその場に膝をつく。

ジャンはロングダガーの機能 停止よりも、瞬時に自身の死を覚悟した。

だが、デュエルはそのまま佇 み、ロングダガーを見下ろしたまま。

イザークはフンと鼻を鳴らす と、ビームサーベルを収納し、踵を返してその場から去っていった。

ジャンは、どこか呆然とした 面持ちでそれを見送った………

 

 

一瞬、静寂に包まれた戦 場……崩壊したマスドライバーの破片が周辺の施設に降り注ぎ、司令部を吹き飛ばす。

そして、抵抗の手段を失った 地球軍の兵士達は、成す術もなく虐殺され始めた。

アラスカでの報復として、ザ フト兵は虐殺に酔う。

もはや棺桶と化したストライ クダガーは、コックピットを重斬刀で貫かれ、また突撃銃で撃ち抜かれて爆発する。

戦車や通信施設に配備されて いた兵士達は武器を捨て、両手をあげて投降の意を示したが、ザフトのパイロットは復讐に走り、彼らをMSの銃で射殺した。

巨大な薬莢がいくつも弾き出 され、人体は紙のように引き千切られ、逃げまどう彼らは肉塊になるまで銃弾を撃ち込まれた。

 

ギャァァァァァァァッッ

 

血が飛び散り、肉片が弾け飛 ぶ……阿鼻叫喚の悲鳴が飛び交う……その光景を高台から見下ろしていたヴァネッサは、吐き捨てた。

「胸糞悪いぜ……」

ヴァネッサ自身、先程までの 高揚も冷め、今は何故か言い表せない怒りが渦巻いていた。

無抵抗の敵を殺すなど、アラ スカで連合が行った事と同じではないか……眼下の光景が、それに重なる。

虐殺に酔う同胞達に、奇妙な 寒気を憶える。

「引くぞ」

後方に控えていた部隊のメン バーに告げると、機体を後退させ始めた。

一瞬、怖くなったのだ……あ のただただ相手への復讐に燃える姿が、以前の自分と重なって………この行為のどこに、新人類としての優越性があるだろう………同じではないか。

胸に微かに芽生えた迷いを振 り払うように、戦場を後にした。

 

 

 

悲鳴が飛ぶパナマの戦場を、 遥か上昇から見詰める機体……だが、それは周囲に同化してザフト側からは認識されていない。

AMF−103A:ディンレ イヴン……ミラージュコロイドの発展した技術を使用されたZGMF/TAR−X1 戦術航空偵察型ジンの発展型にも当たる。

その機体のコックピット中で パイロットのミゲル=アイマンは、どこか虚しさを感じていた。

眼下にいるのは紛れもなくか つての同胞……だが、その行為はあまりに非道すぎた。

確かにアラスカでのことは解 かる……だが、しかし…結局のところ、同じ事を繰り返しているだけではないのか……やられたらからやり返して………それでは、何も変わらない。

「………止めなきゃならねえ な、あいつらも」

ポツリと決意を述べると、ミ ゲルはディンレイヴンを後退させ始めた。

 

 

 

ムウからパナマ侵攻の話を聞 かされたキラは、俯く。

レイナは、カムイから聞かさ れていたので、さして驚いた様子も見せない。

「これから先……世界は迷走 へと向かっていく………その流れは、誰にも止められない…………」

ポツリと呟き、レイナはイン フィニティを見上げる。

世界が進もうとする道を…… 流れることを止めることはできない……その流れを止めるか…あるいは変えるしか……だが、今の現状ではどちらも叶わないことかもしれない。

「お前らは、これからどうす るんだ………?」

ムウがふと尋ねると……キラ は顔を上げる。

「お前達は今は自由の身 だ……なら、何をしようとするんだ……この世界で……?」

アルフの問い掛けに、キラは 顔を上げ、はっきりと答えた。

「できることと……望むこと をするだけです。このままじゃ嫌だし…僕自身、それで済むと思ってないから………」

そこには、かつて迷い、また 自己嫌悪に陥っていた後ろ向きさは感じさせなかった。

「自身の道は、自分で決めな きゃいけない……そうでしょう?」

微笑を浮かべ、こちらを試す ように呟くレイナ……ムウとアルフが思わず考え込んでいると、そこに声が響いた。

「キラ、レイナ」

そこには、相変わらずのあち こちを歩き回っているカガリがいた。

「エリカ=シモンズが来てほ しいってさ……なんか、見せたいものがあるって………」

その言葉に、キラとレイナは 揃って首を傾げた。

 

 

暫く後、カガリとカムイの案 内で、キラ、レイナ、ムウ、アルフ、マリューがモルゲンレーテを訪れると、そこに待ち構えていたエリカとフィリアが全員を工場区内の一画へと案内する。

「戻られたなら、お返しした 方がいいと思って……」

案内された区画に入った瞬 間、全員が息を呑んだ。

そこには、2体のMSがハン ガーに固定されていた……かつてのキラとレイナの機体、ストライクとルシファーだ。

互いにディアクティブモード で、先の激しい戦闘の傷跡を感じさせないように新品同然に修復された2機は、まるでかつての主達を待ち続けているようにも取れる。

キラは、複雑そうにその機体 を見上げ、レイナはこの機体とともに駆け抜けてきた戦闘と、閃光に消えた想いに馳せる。

「改修の際に、キラ君が開発 したOSを載せてあるけど……その、今度は別のパイロットが乗ると思ったものだから………」

どこか、遠慮がちにフィリア が答える。

キラもレイナも、生存が絶望 視されていたからだ………それでも、わざわざ回収してまで修復したのは、それだけこの2機の性能が惜しかったのだろう。

「例の、ナチュラル用の?」

「ええ…ストライクの方は、 OS以外は以前とあまり変わりません……ですが、ルシファーの方はかなり損傷が激しかったので……」

「ま、当然よね」

レイナ自身がそれを一番よく 理解している……それに、この機体はもう…自分の乗っていた機体ではない………形は同じでも、もう自分の乗っていた機体ではない。

自分と同じように……あの閃 光の中に消え去ったのだから………感慨げに見詰めるレイナに、カムイが一瞬口を噤んだ後、口を開いた。

「ルシファーの方は、コック ピット周りを大幅に回収して、モルゲンレーテで新しく開発された新型バッテリーを搭載して、稼働時間の延長と出力UPをしました……レイナさん、この機 体……僕が使わせてもらいます」

虚を衝かれたように、レイナ が振り返る。

確かに、今やレイナにはこれ を越える遥かに相応しい翼がある………

「僕も……自分の運命を、こ の手で切り開きたいんです」

拳を握り締め、決意を見せる カムイに、フィリアが表情を顰める。

レイナは何も言わない…… 言ったところで止めるような半端な覚悟ではないと思ったからだ。

「なら、ストライクには私が 乗る!」

唐突に、カガリが意気込んで 名乗り上げる……全員が眼を丸くする。

「あ…勿論、そっちがいいん ならなだけど………」

憚るように尋ねるカガリに、 マリューが答える前に、ムウが口を挟んだ。

「いいや、ダメだ」

「何で?」

ムウの反対に、カガリはムッ とした表情で尋ね返すと、ムウは引き締めた表情で答えた。

「俺が乗るからだ」

きっぱりと言い切ったムウ に、キラは微笑を浮かべ、レイナは溜め息をつき、他の面々は一様に眼を丸くする。

「少佐?」

「……じゃないんじゃない、 もう」

驚いて尋ね返すマリューに、 ムウがにんまりとした笑みを浮かべる。

「マリューさん?」

そう……もはや、自分は地球 連合の士官ではない……言葉を失くすマリューの横で、アルフがエリカに向き直る。

「シモンズ主任……俺にも、 MS一機貸してくれないか?」

その言葉に、エリカが怪訝そ うな表情を浮かべる。

「正直…これから先の戦い は、戦闘機では辛くなる……ストライクもルシファーも、既にパイロットが決まっているようだし……」

歯切れの悪いアルフに対し、 エリカは考え込む。

そして、何かに気付いたよう に手を叩いた。

「そうだ…フィリア、カムイ 君……例の機体、完成してたわよね?」

唐突な問い掛けに、フィリア が一瞬戸惑う……そして、その意図を理解して、表情を怪訝そうにする。

「確かに、3号機以外なら既 に完成してるし……でも1号機はグラン二佐に決まったから、2号機しか空きはないわよ」

「ええ、それでいいわ……大 尉、大尉はM1の発展型、M2の2号機を使ってください」

「M2?」

その単語に聞き覚えのあった レイナが思わず振り向く。

「はい……M1の能力を強化 した機体です。すぐに、演習場の方に回しますね」

 

 

それから半時間後……モルゲ ンレーテ内の演習場には、ストライクとM22号機が佇み、そのコックピットにはムウとアルフが搭乗している。

ムウの方は、以前も使用され ていただけにスペックはある程度解かる……アルフの方は、初めて搭乗する機体だけにチェックに余念がない。

そして、2機の前には演習相 手としてキラのフリーダムがいた。

「いきなり僕と模擬戦は、い くらなんでも早すぎると思いますけど………」

遠慮がちに尋ねるキラに、ム ウとアルフは心配無用とばかりに軽口で答え返した。

「うっせぇ! 生意気言うん じゃないよ」

「そういうこと……いく ぜっ!」

管制ブースでそれらを見詰め るレイナ、カムイ、カガリ、マリュー、エリカ、フィリアの前で模擬戦が開始された………

 

 

 

 

 

 

 

 

《次回予告》

 

 

世界を取り巻く悪意は、遂に 平和の国へと向けられる……

圧倒的な力を秘め、悪意の牙 が襲い掛かる。

望む未来を求め、弱者は戦う 道を選ぶ……

 

 

強大な力に抗うように……戦 場に導かれ、多くの戦士達が集う……

それぞれの決意を胸に………

 

次回、「決意」

 

決意を胸に、集え、ガンダ ム。



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