その頃、都市部に侵入したストライクダガーを掃討していたムウとアルフ……たった2機で数倍の数はいるストライクダガーを物ともせず打ち倒していく。

ムウは内心で考えていた。

(この程度なら、なんとかな るか……!)

少なくとも、地球軍側は量産 型MSの数を推しただけの力押しの戦法を用いていると考えていたムウはそう思った。

「少佐!」

アルフが叫んだ瞬間、一条の ビームがストライク目掛けて飛来してきた。

「うおっ!!」

反射に近い形でシールドで受 け止める……アルフの呼び掛けがなければ、間違いなく致命傷を負っていただろう。

「くっ! 新手か!?」

ビームが飛来した方角を見や ると、一体のMSが佇んでいるのが見えた……その形状を視界に収めた瞬間、二人は思わず息を呑んだ。

「デュエルか!?」

「……違います! 形状は似 ていますが、恐らく連合の新型!」

ストライクとインフィニート の前に現われたのは、薄いグレーと蒼のカラーリングを持つデュエルダガーだ。

デュエルダガーのコックピッ トで、レナは前方の2機を見やり、ストライクを視界に収めると微かに唇を噛んだ。

「……X105:ストライ クっ!」

自分の教え子が乗るはずだっ た機体の内の一機……微かに憤怒にかられながら、隣の蒼い機体に視線を移す。

「あちらはオーブ軍の機体 か……先程の量産型とは違う……カスタム機……っ!? あのエンブレムは……っ!?」

ストライクの隣に立つイン フィニートの特性を見極めていたレナの視線が、左肩のエンブレムに視線が留まった時、思わず声を上げた。

あのエンブレムは間違いな く、自身が知る人物が使っていたものだ。

疑念にかられたレナは、半信 半疑で全周波通信を開く。

「そこの蒼い機体……貴方、 いったい誰なの!?」

怒鳴るような女性の声に、ム ウが怪訝そうな表情を浮かべる……だが、アルフはそれ以上に驚愕に眼を見開く。

「その声……まさかっ! レ ナ……レナ=イメリアかっ!!?」

返答するようにアルフも全周 波で叫び返す。

「やっぱり…アルフ……アル フォンス=クオルドなのねっ!」

確信を得たレナは、驚きから 徐々に怒りにかられていく。

「なんでっ! 生きてたな ら……どうしてっ!!?」

戸惑いを隠せないレナの悲痛 な叫びに、アルフは一瞬考え込むと……ムウに向かって通信を開いた。

「少佐、彼女の相手は俺がや ります……少佐は他の援護を」

静かに呟くアルフに、秘めた 決意を感じ取ったのか、ムウは何も言わずに頷いた。

「解かった……だけどなっ、 これだけは言っておくぜ……女は怒らすとこえーぜ」

軽口を叩きながら、ストライ クが離れていくと……アルフはフッと肩を竦め、苦笑を浮かべながらデュエルダガーと向き合った。

「……確かに…怒らすと怖い な」

説得力がある言葉に冗談めい た口調で呟きながら、身構える。

「アルフ……生きていてくれ たのは嬉しい……だけどどうしてっ!? 何故貴方がオーブに……私達に敵対するのっ!?」

かつての同僚の離反にレナは 冷静な彼女らしくもなく取り乱す。

「俺は、今の地球軍の在り方 に疑念がある……それに、上層部の奴らが、俺達を裏切ったからだ」

静かに…それでいて微かに怒 りを滲ませる口調に、レナは息を呑む。

「……戻るつもりは…ない の?」

一抹の希望を託して尋ねる。 レナの気持ちは痛いほど解かるが、アルフの答は決まっていた。

「……ああ」

表情を歪め、頭を擡げるレナ に対し、アルフは悲痛な叫びを上げる。

「レナ! 俺はお前と戦いた くはない……ここは引いてくれっ!」

だが、レナもアルフのその願 いを聞くわけにはいかない……今の自分は地球軍の兵士なのだから。

「アルフ……私は、復讐を果 たすまで戦いをやめるわけにはいかに……だからっ! 貴方を倒す!! 私の手でっ!!」

振り払うように吼え、デュエ ルダガーがビームライフルを構える。

「やるしかないのか……レ ナ!」

葛藤を渦巻かせながら、アル フもまた応戦するようにガトリングガンを構えた。

 

 

ディアッカは、釈放された後 も、避難もせず…何故かこの戦闘を見入っていた。

勿論、ザフトに戻ることにや や抵抗を感じている自分がいる……捕虜になった挙句、機体まで失った自分は、間違いなくエリートコースを外れるだろう……だが、ただそれだけならこんな所 に留まったりはしない。

ディアッカの脳裏には、決然 としたミリアリアの顔が離れない……祖国を護るために戦うと言った彼女を、ディアッカは何故かまぶしい思いを感じた。

無論自分だってプラントを護 るために戦っていたはずなのに……だがそれでも、ナチュラルを見下していた自分を思うと、彼女のように誇ることができない。

その時、海上から飛んできた 黒い鳥のような機体がディアッカの上空を過ぎり、粉塵を起こしてディアッカは顔を庇いながら鳥から落とされた機体を見やる。

上陸した重武装の機体は、自 身の乗っていたバスターを思わせる……降り立つと同時にその機体、カラミティが背部のキャノン砲を所構わず発射し、施設を破壊し、大地を大きく抉る。

展開していたM1隊が向かっ ていくが、装甲の薄いノーマルは勿論、装甲を固めたアーマードM1も一撃で機体を撃ち抜かれ、爆発する。

圧倒的な力を持って佇むカラ ミティに、ディアッカは以前の自分を思わず重ねる……微かな憤りを憶え、拳を握り締めていると…そこに見覚えのある機体が現われた。

「ストライク……!」

自分達が何度も苦渋を舐めさ せられた機体が、カラミティに向かっていく。

ふと眼を海上に向けると、次 々と戦闘不能に陥るオーブ艦の中で奮戦を続けるアークエンジェルが視界に入る。

「くっ……ちく しょぉぉぉっ!!」

何かを振り払うように、ディ アッカは奇妙な義務感に突き動かされて、戦闘の中を駆け抜け、モルゲンレーテ工場へと向かっていった。

 

 

 

連合艦を次々に沈めていたイ ンフィニティ……その時、コックピットにアラートが響き、その方角を見やると、そこには迫りくる2体のMSがあった。

一体は、戦闘機のような飛行 体に飛び乗ってくる黒い機体……もう一体は、血のような真紅のボディに両腕に竜を模った巨大な飾りをつけた機体……当然、データーベースに無い未確認の機 体だ。

微かに戸惑ったレイナだった が、黒い機体:ヴァニシングが右手に持った巨大なガトリング砲をこちらに向け発泡してきた。

毎秒何十発といった単位で放 たれる銃弾を、インフィニティはバーニアを噴かし、上昇してかわす。

「新型か……っ!」

先程まで相手していたダガー 系列とはまったくタイプが違う。

刹那、背後から殺気を感じた レイナは操縦桿を動かし、インフィニティが身を捻る……ビームサーベルを構えたゲイルが振り払う。

右肩に描かれたエンブレムを 視界の端に収めた瞬間、レイナは息を呑んだ。

「ウォルフ……っ!!」

間違いない……距離を取るイ ンフィニティに、ウォルフは奇妙な既視感に捉われた。

「ん……今の動き………」

先程の反応の良さ……絶妙の タイミングで振り被った自身の一撃を紙一重でかわす反射神経………そんな相手は一人しかいない。

「ククッ……アッハハハ!  そうか…お前か……BAぇぇぇぇぇぇっ!!」

歓喜の声を上げ、ゲイルが背 中の六枚のリフレクターを拡げる……それは巨大な悪魔の羽を思わせる。

バーニアが火を噴き、ゲイル が加速して突っ込んでくる。

身構えるインフィニティに向 かって、ゲイルは右腕の竜の牙:ファーブニルを放った。

右腕に内蔵された伸縮クロー が伸び、竜の巨大な牙が襲い掛かる。

「ぐっ!」

それを紙一重でかわすが、ゲ イルはそれより早く胸部のカバーを開くと、そこに三つの砲口が見えた。

瞬時にそれが何か悟ったレイ ナは慌ててデザイアを前面に掲げる……次の瞬間、三つの砲口からエネルギーがこもれ、エネルギーが結合し、スパークする。

刹那、巨大なビームの奔流が 襲い掛かった……ゲイルに内蔵されたスキュラの砲口を重ねることによって密度を増して破壊力を倍化させたネオ・スキュラだ。

デザイアでネオ・スキュラの ビームを受け止めるが、完全に排熱できず、表面が融解する。

レイナは舌打ちし、そのまま デザイアを傾け、ビームを逸らす。

間髪入れず、ビームサーベル を振り被ったゲイルが上空から迫り、インフィニティもインフェルノを抜いて振り下ろされたビームの刃を受け止めた。

「ハハハッ!! 流石だ なぁ、BA!」

「ウォルフ……っ!!」

「嬉しいぜ……死んだと聞か されていたお前が生きててなぁっ!!」

鍔迫り合いを繰り広げ、互い に弾き合って距離を取る……だが、敵はゲイルだけではない。

レイナが注意を向けると、イ ンフィニティの後方にヴァニシングが回り込んでいた。

脚部から抜いた棒状の武器 に、斧を思わせるビームの刃が展開され、振り被る。

咄嗟にデザイアを掲げ、ビー ムアクスを受け止める……だが、レイナは奇妙な感覚に捉われた。

頭の中に微かに走る親近 感……だがリンではない……どちらかと言えば………

(カムイと同じ……!)

思考に耽る間もなく、力任せ にビームアクスを握るヴァニシングは力任せに振り下ろそうとする。

レイナは歯噛みし、スラス ターの出力を上げてヴァニシングを弾き飛ばす。

追い討ちをかけるようにデザ イアのビームを放つが、それに対し、ヴァニシングを乗せて飛行していた物体:ステルスライザーの表面に張り付いていたユニットが飛び出し、ヴァニシングの 前面に展開し、それがビームを放ち、ユニットを繋ぐ。

展開されるビームの壁に、 ビームは弾かれる。

「ビームシールド……!?」

遠隔操作型のビームシール ド:プラネット……生半可なビーム兵器ではアレを破るのは困難だ。

だが、呆ける間もなくゲイル が再度加速してビームサーベルを突き立てて突進してくる。

インフィニティは振り返り様 にインフェルノを振り上げ、それを受け止めるも、ゲイルは至近距離からファーブニルを構え、そこに内蔵された火炎放射機を放つ。

瞬時に逆ペダルを踏み込み、 機体をバックさせて炎をかわす……刹那、ステルスライザーに乗ったヴァニシングがインフィニティの後方に回り込み、背中の小型ユニットが離脱し、伸びる。

レイナはその武器に見覚えが ある……ムウが使っていたガンバレルと同じものだ。

ヴァニシングの放った有線の ガンバレルは、展開するとビームを四方から放ち、インフィニティは二射までは回避したが、残りはデザイアで受け止める…だが、ガンバレルは連続で攻撃せ ず、有線ワイヤーを引き戻し、再度ヴァニシングに固定される。

元々は、宇宙での運用を考慮 されて開発されたガンバレルは、重力下での使用には向かない…長く展開すれば、有線ワイヤーが緩み、まったく足枷になるからだ。

ゲイルとヴァニシングの猛攻 を、インフィニティが必死で抑え込む。

 

 

三機が交錯する眼下では、一 組の家族が森の中を突っ切るように駆けていた。

彼らは、オノゴノ島に在住し ていた民間人のアスカ一家……アスカ夫婦が娘のマユ=アスカの手を引き、その後方からはマユの兄であるシン=アスカが駆けてくる。

やはり、たった一日での全住 民の避難は完了せず、戦闘が開始された今も僅かに残っている民間人の避難が進められていた。

「急げ、シン!」

「マユ、もう少し頑張っ て!」

アスカ夫妻がマユの手を引き ながら必死に山道を駆け下り、その先の沿岸部に横付けされた避難船に向かう。

走る最中、シンは不意に森の 隙間から見える軍港周辺の攻防が見えた。

MS同士が激しい攻防を繰り 返す……刹那、直情から突風のようなものが巻き起こり、4人は思わずしゃがみ込んで身を寄せ合う。

シンが上空に眼を向けると、 そこには3体のMSが激しい交錯を繰り返している。

黒い天使のような機体に向 かっていく真紅の竜を携えた機体と黒い戦闘機を駆る機体……

シンは暫し、その光景を呆然 と見やる………

 

 

インフィニティとゲイル、 ヴァニシングの3機は交錯を繰り返しながら上空で戦場を移しながら激戦を繰り広げる。

相手の力量と機体のレベルの 高さに、いくらレイナとインフィニティでも梃子摺る。

その時、レイナはモニターの 端に、離れた海岸部に接舷する民間船に気付いた。

「避難船……まずいっ!」

ここで戦っては、間違いなく 眼下に被害が飛ぶ……ここから引き離そうとした時、避難船の警護に就いていたM1数機が上空で滞空しているゲイルに向かってビームライフルを放った。

「バカ……なんで注意を引き つけるのよ!」

微かな憤りを憶えて思わず叫 ぶ……避難船を護ろうとするのは解かるが、生半可な攻撃でウォルフは墜とせないどころか、ウォルフは民間人だろうが悦んで殺すような奴だ。

案の定、鬱陶しいと思ったの か、ゲイルがM1隊に向かって向きを変え、両肩の部分から伸びた砲身が、狙いを定める。

ヒートワイヤーとエネルギー 砲を内蔵した武器:ベルフェゴールの砲口が火を噴き、シャワーのように降り放たれた。

エネルギーがM1を貫き、爆 発する。

「フン……ん?」

コックピット内で満足げに笑 みを浮かべていたウォルフは、避難船とは逆の山方向に、走ってくる民間人達を見つけ、卑下た笑みを浮かべる。

ゲイルが移動し、その人影、 アスカ一家に向かうのを、レイナは気付いた。

「あいつ……っ!」

やはりこうなるか……半ば予 想していた事態だけに、腹立たしい。

だが、なんとしてもゲイルを 止めなくてはならない……ヴァニシングに向かって、オメガを放った……ビームシールドで受け止めるが、オメガの熱量を抑え切れず、シールドユニットが分離 する。

その隙を衝き、インフィニ ティはヴァニシングに向かって突っ込み、その腕を掴み、それを振り回し始めた。

「………ぉぉっ!」

コックピット内で、アディン の顔が引っ張られる力に、歯噛みする。

「でぇぇぇぇっ!」

十分に遠心力をつけ、イン フィニティは海上の連合艦に向かってヴァニシングを放り投げた。

加速したまま、ヴァニシング は連合艦に激突し、爆発に包まれた。

それを気にも留めず、レイナ は急ぎインフィニティをゲイルに向かって加速させた。

 

 

シン達は、必死に避難船に向 かって走っていたが、その近くでM1が撃ち抜かれて爆発した影響で、立ち往生していた。

その時、自分達を覆うように かかった陰に眼を上げると……そこには真紅の悪魔を思わせる機体があった。

コックピット内で、ウォルフ はその恐怖に歪む顔をまるで餌とするように愉悦の笑みを浮かべる。

戦いと、人の恐怖が最高の快 楽をウォルフに齎す……

「ククク……恐怖に引き攣っ たまま、死にな」

ゲイルの右腕のファーブニル が向けられ、ビーム砲がセットされ……照準が家族と思しき一団の中で一番可愛らしいマユにセットされ、トリガーを引こうとした瞬間………

「やめろぉぉぉぉっっ!!」

鋭い叫びとともに、インフィ ニティがゲイルに体当たりした。

それによって照準がずれる も、その振動でトリガーが引かれ……ビームが放たれた。

逸れたビームが山の斜面に着 弾し、小規模な土砂が巻き起こる。

それはシン達一家に襲い掛か ろう向かってくる……

「シン!」

「マユ!」

咄嗟に、両親はシンとマユの 身体を突き飛ばし……二人は土砂から逃れるが、次の瞬間、アスカ夫婦は土砂の生き埋めとなった………

その光景に、シンとマユは呆 然となる。

「お…父さん………お母…… さん………」

マユが片言のように呟き、シ ンは震えたように声が出ない……親は、本能で子供を護ろうとする……だからこそ、アスカ夫婦は二人を突き飛ばして助けたのだ…自らを犠牲にして……だがそ れは、子供にとってはこの上ない残酷な光景だ。

上空では、弾かれたゲイルが ビームサーベルでインフィニティに向かい、レイナもインフェルノで受け止めながら、眼下の光景に歯噛みする。

そして、土砂の傍で呆然と なっている二人に気付き、対外スピーカーで叫んだ。

「そこの二人! 死にたくなかったら走 れっ!!」

直情からの叱咤に、シンは ハッと我に返った。

視線を空中に向けると、そこ には自分達を襲った紅い機体を抑え込む黒い機体が映り、涙を滲ませた瞳で、微かに唇を噛みながら、シンはそれでも妹を護ろうとマユの手を掴む。

「お兄……ちゃん……お父さ んとお母さんが………」

未だショックから立ち直って いないマユの手を引き、シンは走った。

「走れ! マユ!!」

怒りと恐怖をごちゃ混ぜにし ながら、シンは走った……生き延びるために……妹を護るために………

 

走っていく二人の姿に、微か に安堵したレイナは、眼前のゲイルとを通し、ウォルフを睨む。

「相変わらずね……ウォル フ!」

殺気を滲ませる声……だが、 ウォルフは些かも動じない。

「あんたの相手は私のは ずっ! 他は巻き込むなっ!!」

「ハハハッ! あまい…あま いぜっ、BA!!」

嘲笑を浮かべ、罵りながらゲ イルはインフィニティを弾き飛ばす。

「らしくないなぁ……貴様が 弱者を庇うなど………『Bloody Angel』、『Blade Angel』とも恐れられたお前がな……っ!!」

レイナのかつての名…… BA………Bloody Angel…血まみれの天使……だが、その名にはもう一つ別の意味があった………

まるで抜き身の刀身のような 鋭い気配と敵対した者を容赦なく殺すやり方から……Blade Angelという裏の意味が一部の裏の世界で囁かれた。

「ほざくなっ!!」

ダークネスをほぼ至近距離か ら放つも、ゲイルは上昇しかわす。

「クッハハハ! なんともご 立派になったもんだなぁ! なんなら…見せてもらおうか……お前のその覚悟の程をな!」

唐突にゲイルが避難船に向け てファーブニルを構えた。

その意図を察したレイナは眼 を見開く。

「『あの時』の光景を再現し てやるよぉ! 紅蓮の炎に焼かれる弱者どもの様をなぁ!!」

刹那、炎が避難船に向かって 放たれる……レイナは舌打ちし、インフィニティを避難船に向かって加速させる。

避難船に乗り込んでいた人々 が、眼前に迫る炎に誰もが死を覚悟し、悲鳴を上げる……だが、黒い影が避難船の前に回り込み、避難船の盾になる。

「ぐぅぅぅっ」

炎をデザイアで受け止めなが ら、レイナは必死に耐える。

「な、何をしているの! 早 くしなさい!」

レイナの叱咤が飛び、パニッ クを起こしながら、人々は雪崩れ込むように避難船の中へと駆け出していく。

だが、ウォルフは容赦なく炎 の勢いを増し、動けないインフィニティは直撃を耐えるしかない。

「ククク……やはりお前は弱 くなったなぁ、BA」

揶揄するように嘲笑し、ウォ ルフはつまらなげに鼻を鳴らす。

「そんな弱者を身を張って庇 うとはなぁ……ナチュラルだろうがコーディネイターだろうが、弱い奴は死ぬ……強い者の糧としてなぁ……虫を殺すようなものさ………宇宙の時もそうだっ た………」

何気に漏らした一言に、レイ ナはピクンと反応した………

………宇宙で………まさ か………それに思い当たったレイナが思わず叫ぶ。

「まさかっ! ユニウスセブ ンを……!!」

「あん? ああ、確かそんな 名前だったな……どれでもいいって言ってたからな、コロニーの名前まで聞いてなかったしなぁ……綺麗だっただろうよ……俺があげた花火はよぉ」

自慢話でもするかのように ウォルフが甲高い笑みを浮かべる。

そう……ウォルフはあの時、 アズラエルの指示で戦場に出た………核ミサイルを引っ提げたメビウスに乗って………

子供が虫を殺すのと同じ感覚 で……核の火を放った………

奥歯をギリリと噛み締める。

「あの頃のお前はよかった ぜぇ……敵を非情になんの躊躇いもなく殺すお前がなぁ……俺は柄にもなく震えたよ………だが今はどうだ……弱者ごときのために自ら命を張るとは……弱者を 庇う甘さが、お前を弱くしたんだよぉ! BA!!」

嘲笑うウォルフの侮蔑に、レ イナは歯噛みする…炎の熱量に、シールド表面部分が融解し始め……ジリジリと後退させられる。

その光景を、船着場まで駆け 下りてきたシンとマユが見上げて息を呑んだ。

自分達が乗る避難船はすぐそ こだ……だが、とシンは何故か思い止まる。

このままでは、あの黒い機 体……聞こえた声は、まだ自分と年近い少女のように聞こえた……パイロットもまた危ない。

シンは周囲を見渡すと、すぐ 傍に、先程ゲイルに破壊されたM1の爆発に巻き込まれて倒れ伏したM1があった。

コックピットからパイロット が救出され、その開けたハッチが眼に飛び込むと…手を引いていたマユを見やる。

「マユ……いくぞっ!」

「っ!」

未だショックと混乱で戸惑う マユの手を引き、シンはM1へと駆け出し、そのコックピットに飛び込んでいく。

「お、おい! 何だお前 は!?」

オーブ兵が咎めるも、シンは 無視し、コックピットシートに就くと、マユを膝の上に座らせてハッチを閉じる。

「お、お兄ちゃん……?」

「しっかり掴まってろ! こ のまま好きにさせるか!」

計器類を操作し、機体を起動 させる……シンはコーディネイターだ……多少の機械操作なら覚えがある。

モニターに光が灯り、M1の カメラアイが輝くと、シンは操縦桿を握り、機体を起き上がらせた。

「きゃっ」

振動にマユは呻き、シンにし がみ付く……

立ち上がったM1の中で、シ ンは空中のゲイルを睨む……あの機体が、両親の命を奪った……歯軋りし、操縦桿を強く握り締める。

「なんで……なんでこんなこ とを………っ!!」

憤怒にかられ、シンはペダル を踏み込んだ。

刹那、M1のフライトユニッ トが火を噴き、M1はゲイル目掛けて跳躍した。

「む?」

インフィニティを痛ぶるゲイ ルのコックピットで、ウォルフはこちらに跳躍してくるM1に気付いた。

だが、気付くのがやや遅かっ たため、M1の体当たりを直撃され、バランスを崩す。

「うおおっ!」

弾かれるゲイル……隙がで き、レイナはインフィニティを飛び立たせる。

「この雑魚が!」

愉しみを邪魔されたウォルフ がビームサーベルを抜き、斬り掛かる。

「くっ!」

それに対し、シンもM1の ビームサーベルを掴んで応戦する……空中で激突するビームが火花を散らす。

だが、ウォルフとシンでは明 らかに腕と機体性能の差が違う……出力の高いゲイルのビームサーベルがM1のビームの刃を折り、M1の左腕が斬り落とされた。体勢を崩すM1に向けてゲイ ルが左腕を振り被り、ファーブニルを放ち、M1を弾き飛ばす。

「うぁぁぁっ!」

「きゃぁぁぁ!」

コックピットに響く衝撃に、 シンとマユは悲鳴を上げる……地上部に激突する直前で、その機体をインフィニティが受け止める。

「奴の相手は私がする……無 茶はしないで」

呆然となっているシンを嗜め ると、M1を降ろし、再度加速してゲイルに向かっていく。

ウェンディスを拡げて飛び上 がる姿は、天使を思わせる。

市街地の近くに降ろされたシ ンのM1は、不意に近くで起こった爆発に注意を引き戻された。

足元に同型機の頭部が転が る……破壊されたM1の前には、白とピンクのカラーリングのMS:ロングダガーが佇んでいる。

「……」

ロングダガーのコックピット の中で、ステラは無言にビームライフルをM1に向ける。

ロックオンされた警告音が響 く、シンは慌てて操縦桿を動かした……次の瞬間、ロングダガーが放ったビームをよけ、ビームが市街地の建物を吹き飛ばす。

「何?」

その反応にステラは微かに驚 愕する。

シンはよけるだけに留まら ず、M1を加速させ、ロングダガーに体当たりする。

弾き飛ばされ、揺れるコック ピット内でステラが衝撃に呻く。

なんとか倒れるのだけは堪え たが、ビームライフルを離してしまった。

「こいつっ!」

苛立ったのか、ロングダガー はビームサーベルを抜く。

シンのM1は、先程のゲイル との戦闘でビームサーベルを失い、丸腰だ。

その時、眼下で撃破されたス トライクダガーのシールドが眼に入り、それを素早く拾い上げると、加速してきたロングダガーの一撃を受け止める。

だが、ビームコーティングさ れていないストライクダガーのシールドは、なんの障害にもならず斬り裂かれ、シンは舌打ちしてシールドを捨てると、落ちていたビームサーベルの柄を拾い、 展開する。

「でぇぇぇぇいい!!」

「死んでたまる かぁぁぁぁっ!!」

互いに吼えながら、シンとス テラはぶつかり合う。

 

 

海上でフリーダムとフォビ ドゥン、レイダーの3機が戦いの火花を散らす。

頭部のバルカンでレイダーを 牽制するが、相手はなんの躊躇いも持たずに突っ込んでこようとするが、身構えるキラの前で、なんとレイダーの進行をフォビドゥンが遮った。

怪訝そうな表情を浮かべるキ ラの前で、クロトとシャニは言い争う。

「邪魔すんなシャニ!」

「邪魔はテメーだよ!」

互いに獲物を取り合うよう に、フォビドゥンがリフターのサイドに装備されたエクツァーンを放つ。

旋廻するようにその攻撃をか わすと、フリーダムはプラズマビーム砲を撃ち返すが、ビームはフォビドゥンに届く前に、左右に逸れた。

前面に展開した二枚の盾に近 いユニット:ゲシュマイディッヒパンツァーがビームを湾曲させたのだ。

「ビームが…曲がる!?」

驚愕する間もなく、レイダー がミョルニルを繰り出してくる。

それを避け、フォビドゥン目 掛けてレールガンを放つが、これも相手には左程効果が見られない。

その異常に特化された機能 に、キラは思わず歯噛みする……いや、機体性能だけではない。

パイロットの操縦センスも コーディネイターに匹敵する程高い。

苦戦するフリーダムの眼下で は、アークエンジェルが必死に応戦する。

「ヘルダート、撃 てぇぇ!!」

ブリッジ後部のミサイルが、 迫る戦闘機を撃ち落すも、放たれたミサイルが船体を掠め、衝撃に揺れる。

体勢を立て直そうとしても、 ひっきりなしに向かってくる戦闘機を相手にしていては、それもおぼつかない。

装甲が破損し、内部露出すれ ば、そこに一発でも攻撃を受ければ戦艦は誘爆によって沈む。

その危惧を嘲笑うように、弾 幕を突破し、複数の戦闘機が突っ込んでくる。

ミサイルでアークエンジェル に攻撃し、離脱しようと直上を過ぎった瞬間……いずこからか飛来したビームが一瞬にして戦闘機を蒸発させ、空中に火花が咲く。

その援護射撃にブリッジは暫 し呆然となる……いったい誰が………その相手を確認したサイが戸惑った声を上げた。

「バスター?」

その単語にミリアリアは反射 的にビームの方角を見やった。

海岸部に仁王立ちするかのよ うに佇むバスター……両手には、ガンランチャーと収束ライフルを構えている。

コックピット内で、ディアッ カはアークエンジェルに新たに戦闘機の大軍が向かっているのに気付くと、舌打ちしてミサイルを斉射する。

ミサイルが戦闘機を撃ち抜 き、爆発させていく。

《とっととそこから下がれ よ! アークエンジェル!!》

思いがけぬ援護に、ブリッジ のクルー達は戸惑う。

「あいつ……何で?」

何故ザフト兵のディアッカが 自分達を助けるのか……困惑するミリアリアだったが、なぜか心の内が熱くなった。

 

 

沿岸部に展開していたリニア ガンタンク部隊が次々に破壊される。

海面スレスレで飛行する戦闘 機に近い高速体……イリューシアの駆る制式レイダーだ。

巨大な翼の上に乗る本体の コックピットで、イリューシアはその眼を細める。

無感動にトリガーを引くと、 翼に設置されたGAU−8M2:52ミリ機関砲ポッドが火を噴き、戦車隊を次々に行動不能に追い込む。

制式レイダーを撃ち落そう と、ガンナーM1がキャノン砲で砲撃するが、制式レイダーは翼の上で変形し、MS形態になると、翼にセットされた対空ミサイル、AIM−957F:キング コブラを放ち、ミサイルがガンナーM1を吹き飛ばす。

そのままオノゴノ市街地に入 り込み、軍本部制圧に向かおうとする制式レイダーの前に、黒い影が立ち塞がる……カムイのルシファーだ。

「いかせるものかっ!」

相手の目標を悟ったカムイ が、阻むようにビームライフルとビームキャノンで狙撃する。

「邪魔はさせない」

静かに呟き、制式レイダーが クローを展開して襲い掛かる。

高速で迫るクローの一撃を、 カムイはスラスターを噴かしてかわす。

横を抜ける制式レイダーに向 かってミサイルを放つが、それを両手に構えた機関砲で撃ち落す。

蒼い鳥と黒い天使がオノゴノ の島上空に舞う………

 

 

「ぐっ、こいつら!」

キラが歯噛みしながらビーム ライフルを放つも、フォビドゥンが前面でビームを反射し、その後方からレイダーが攻撃してくる。

「いい加減に!」

「うざぁぁ!」

苛立ちながら、フォビドゥン とレイダーがフリーダムに迫る…その隣では、インフィニティとゲイルの戦闘も繰り広げられている。

「うおぉぉぉっ!」

レイナが吼えながらインフェ ルノを振り被る……だが、ゲイルもビームサーベルで受け止め弾くとサイドレールガンを放つ。

舌打ちし、ウェンディスを羽 ばたかせ、攻撃をかわす……その時、横殴りのように衝撃がインフィニティを襲う。

「何!?」

注意を向けると、そこには先 程連合艦に激突させたヴァニシングが向かってきた。

だが、驚いたのは次の瞬間 だ……突如、ステルスライザーが変形し、それがヴァニシングのバックパックに装着され、飛行ユニットとなる。

息を呑むレイナ……サポート メカとの合体機構を備えているのか……MSは元々高い汎用性を考慮して開発されている。その状況に応じて換装パーツを装着すれば、より高い性能を引き出せ る。

X400系統はその設計思想 を持っていた。

ステルスライザーと合体した ヴァニシングは、全火器を展開し、インフィニティに向かって放つ。

「ちぃぃぃ!」

ウェンディスの羽根を拡げ、 前面に掲げて攻撃を受け止める。

だが、敵はヴァニシングだけ ではない……背後に回ったゲイルがファーブニルを伸ばし、インフィニティは弾かれる。

衝撃に歯噛みしながら、レイ ナはバーニアを噴かして体勢を立て直す。

刹那……地上でストライクを 相手にしていたカラミティが突如として上空にビームを放ち、それに気付いたキラとレイナは瞬時に身を翻す。

 

 

そして……激しい攻防が繰り 広げられるオノゴノ島の遥か上空に向かってきたジャスティスとエヴォリューション……滞空しながら、アスランとリンは眼下の戦いを見下ろしていた。

遥か下では、砲火の火が飛び 交っている……海上でも、オーブ艦と連合艦の激しい砲撃の応酬が繰り広げられている。

「アスラン、アレを……」

リンが何かに気付いたように 声を掛けると、アスランも気付いた。

オーブ艦の中に混じって戦う 特徴的で決して忘れえぬ因縁の白亜の艦……アークエンジェルだ。

困惑する彼らの眼に、オノゴ ノ島の上空で飛び交うMSに気付いた。

眼まぐるしく撃ち合い、交錯 する…火花が散る戦い………モニターを拡大すると、データをコンピューターが照合する。

6機の内、4機はデータ無し の未確認機だったが、残りの2機は機種を特定され、表示された答は二人が望んでいたものだった………

 

 

―――――ZGMF− X10A  FREEDOM

―――――ZGMF− EX000AT  INFINITY

 

 

「フリーダム…キラ!」

アスランが声を張り上げる。

「……姉さん」

リンもまた、複雑な表情を浮 かべ、モニターに映るインフィニティを見やる。

モニターには、フリーダムと インフィニティの苦戦が映し出されている。

自分達が受けおった任務はフ リーダムとインフィニティの奪還……あるいは2機の破壊だった。不利な立場でも、懸命に応戦する2機……相手に集中している今なら、破壊は容易だろう…… だが、アスランとリンは躊躇う。

アスランは脳裏に、様々な光 景を思い浮かべる……ニコルが殺され……そしてカガリの言葉……ラクスの言葉が迷いを抱かせる。

そして、自分に憎しみを向け る幼い子供……自身の信じる正義は何なのか、と自身が搭乗する機体が問い掛けてくるように聞こえる。

リンは歯噛みする……レイナ を殺す……それは自分の望みだったはず………だが、脳裏に浮かぶ光景がそれを迷わせる。

幼かった自分とレイナ……二 人を優しく抱き締めた一人の人物が甦る………

 

 

―――――貴方達が、自分の 信じる道を選んで…そして……二人で………

 

 

それに対して、自分は何と答 えたのか……はっきりと思い出せない。

だが、このままでいいのかと 自身が問い掛けてくる……答を得るために……自身が信じる道を選ぶために………

決然とした面持ちを上げたア スランとリンは、互いに操縦桿を握り締め、エヴォリューションとジャスティスを駆った。

 

 

 

フォビドゥンが振り下ろす鎌 をシールドでフリーダムが受け止めるが、勢いを相殺できずに弾き飛ばされる。

体勢を立て直そうとしたフ リーダムの直前にレイダーが迫る。

クロトがニヤリと口の端を歪 ませる。

「終わり」

冷たく呟くと、レイダーの口 部からプラズマ砲:アフラマズダが発射された。

キラは回避も防御も不可能だ と瞬時に悟った……その瞬間、紅い影が舞い降りた。

プラズマ砲をシールドで受け 止めた真紅の機体は、エネルギーを拡散させると、ビームライフルでレイダーを狙撃した。

 

インフィニティ、ゲイル、 ヴァニシングは機動性を駆使し、ヒットアンドアウェイを繰り返す。ヴァニシングが再度ガンバレルを展開し、インフィニティの動きを封じる。

懐へ飛び込んだゲイルが ファーブニルを放ち、インフィニティを弾き飛ばす。

弾かれたインフィニティは、 体勢を立て戻すが、その時背後から迫ったヴァニシングのステルスライザーのアシッドシザースでガシッと拘束された。

「しま……っ!」

シザースが腕を掴み上げ、ガ ンバレルのワイヤーが機体を拘束し、身動きが取れなくなる。

インフィニティの直前で静止 したゲイルがビームサーベルを抜く。

「フフン……これで…さよな らだっ! BA!!」

ビームサーベルを突き立てて 突進してくる……コックピット内で、レイナが歯噛みした瞬間………上空からビームの弾丸の嵐がゲイルに降り注ぎ、ゲイルが被弾する。

「うおっ!」

怯むゲイルに、レイナが怪訝 な表情を浮かべたが……何処からともなく響いた回転音が耳に聞こえた瞬間……機体を拘束していたワイヤーが斬り落とされ、ヴァニシングが離れる。

一瞬、何が起こったか解から ないでいたアディンだったが、その時、眼前に黒い影が現われた。

漆黒の機体が、インフィニ ティの前に立ち塞がった時……左腕のアンカーが撃ち出され、ヴァニシングを弾き飛ばした。

 

 

突如として現われた真紅と漆 黒の機体に、その場にいた者達が一様に困惑した。

フリーダムを護るようにジャ スティスが……

インフィニティを庇うように エヴォリューションが………

コックピットの中で、アスラ ンとリンは互いに何かを振り切ったように相手を見詰めた………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《次回予告》

 

砲火に集う戦士達……

知っていた……知らずにい た………

共に戦うのは、かつての敵 か……それとも………

 

背中を預け合い戦う彼らが出 逢うとき……

その先にあるものは………

 

 

次回、「(ゆうやみ)の誓」

 

想い…呼び醒ませ、ガンダ ム。



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