その頃、フリーダムのキラも また連合の新型特機3機の相手に回っていた。カラミティ、フォビドゥン、レイダーの3機は、フリーダムの機影を確認するなり、他には眼をくれず猛攻を仕掛 けてきた。

レイダーの上に乗るカラミ ティがシュラークを連射しながら迫る。

「へへっ、見つけたぜ! 昨 日の強い奴!!」

狂喜に顔を歪め、オルガはカ ラミティを海上へと飛び降りさせる。

そのまま水没するかに見えた が、カラミティは脚部のバーニアを噴射させ、水上をホバー走行する……地上での大火力の運用を考慮され、機動性を向上させるために脚部へのバーニアの強化 が施されているならではの芸当だ。

シュラークを乱れ打ちしなが ら向かってくるカラミティにキラが歯噛みし、回避しながら応戦しようとするも、別の方角からアラートが鳴り響き、ハッと眼を向けた。

横から回り込んできたフォビ ドゥンが湾曲プラズマビーム:フレスベルグを放つ。まるで生き物のように唸りながら向かってくるビームをかろうじて回避するが、その隙を衝かれ、レイダー が体当たりでフリーダムを弾き飛ばす。

「今日こそ、墜とさせてもら うよ!」

ゲームのラスボスをやるかの ごとき口調でクロトが笑い、レイダーが今一度旋廻し、機関砲を放ちながら急降下してくる。カラミティもまた全火器をフルオープンさせてホバー走行のまま撃 ち放ってくる。フォビドゥンはフレスベルグとエクツァーンで追い込むように迫ってくる。

3機の射線に晒され、フリー ダムは回避するままならず防御に徹する。コックピット内でキラは歯軋りする……逸れたビームが海面を掠め、水蒸気爆発を起こす。この激しい砲火の応酬で は、とてもではないが反撃すらままならない。

掲げたシールドの穴からビー ムの銃口を突き出し、なんとか応戦する……その時、虚空を何かが過ぎった……光を煌かせながら、高速回転でフォビドゥンに襲い掛かる物体…だが、フォビ ドゥンは間一髪のところでニーズへグを振り上げて弾き返す。ほぼ同時に、カラミティとレイダーがビームに晒され、後退する……そのレイダーの横を掠める飛 翔体……

苦々しく歯噛みするオルガ達 の前に、真紅の機体がフリーダムの後方に現われる。

フォビドゥンに弾き返された RQM51ビームブーメラン:パッセルがジャスティスの肩に戻り、レイダーを狙撃した飛翔体:ファトゥム−00がジャスティスの背中に装着され、それが起 き上がり、肩のビーム砲を構える。

「キラ!」

突然の援軍に、キラは唖然と して叫ぶ。

「アスラン!? どうし て……!」

混乱するキラ……少なくと も、この戦闘はザフトにはまったく関係がないはず…ましてや勝ち目すらないというのに……だが、そんなキラの逡巡を横に3機のGは容赦なくジャスティスに 迫る。

「このぉぉぉっ!!」

MS形態に変形し、右腕の2 連装高速弾を放つレイダー。

「はぁぁぁぁっ!!」

奇声を上げてリフターを被っ たフォビドゥンがフレスベルグとエクツァーンを放つ。

「揃ったな! 赤いの も!!」

ジャスティスの出現にさらに 表情を卑屈そうに歪め、カラミティは持てる火器を全て乱れ撃ちながら向かってくる。

それらを水上を低空飛行しな がら回避するジャスティス。

「俺達にだって解かってる さ! 戦ってでも護らなきゃならないものがあることくらい!」

決然とした面持ちで叫ぶアス ラン……『――達』という言葉に驚いて、不意にモニターに眼を向けると、海岸線ではバスター、ブリッツ、シグーの姿が映る。

バスターは超高インパルス長 射程狙撃ライフルを構え、ネェルアークエンジェルに群がってくる戦闘機部隊を撃ち落とす。

その周りでは、ブリッツビル ガーとシグーがストライクダガーを相手に激戦を繰り広げる。

トリケロスUの3連装ビーム キャノンでストライクダガーを撃ち抜くブリッツビルガーに向かってビームサーベルを振り上げて迫るストライクダガー…だが、ブリッツビルガーは振り向きざ まに両肩のイーゲルシュテルンが連なったマシンガンを放ち、頭部や武装を撃ち砕く。

シグーもまた、フライトユ ニットで飛行し、ビームライフルでピンポイントで撃ち抜いていく。

その様を垣間見、キラは胸の 内が熱くなる……今まで幾度となく銃を向け合った相手とこうして互いを理解し、共に手を携えるということに……希望が胸を焦がす。

「アスラン…!」

「蹴散らすぞ!」

背中越しに強い声が響く、キ ラも強く頷き返した。

「うんっ!」

眼を瞬かせ、フリーダムと ジャスティスは並び立つように3機のGに向かっていく……

 

 

眼下の連合艦を巻き込みなが ら、インフィニティとゲイル、ヴァニシングは熾烈な攻防を繰り広げていた。

ウェンディスを羽ばたかせ、 2機の攻撃をかわしながら、インフィニティはダークネスで狙撃する…だが、ゲイルとヴァニシングは左右に分かれて回避し、ヴァニシングがビームガトリング ガンで砲撃してくる。

舌打ちし、銃弾の射線から逃 れる……間髪入れず、ビームアクスを振り被り、投げ飛ばす。

回転しながら襲い掛かるビー ムアクスをデザイアで弾き飛ばす。

その時、ヴァニシングの陰か ら姿を見せたゲイルが肉縛し、インフィニティを殴り付ける。

歯噛みするレイナ……態勢を 崩すインフィニティを幾度となく殴り飛ばす。

「ッククク! なんとも堕ち たなぁぁ、BA!」

コックピット内に卑下するよ うに嘲笑うウォルフの声が響く。

「俺もお前も……あの頃は互 いに相手を殺すことのみに生きていた……血と硝煙を求めてな……そのお前が、今は護る立場か……なんとも滑稽だよなぁぁぁ!!」

揶揄するような口調で嘲笑 し、再度殴り飛ばす……衝撃に歯噛みするコックピット内でレイナは鼻を鳴らす。

「護る? 血迷うな……私は 護るために戦うわけじゃない……私が戦うのは私個人のもの! それ以外ない!」

態勢を立て戻し、インフィニ ティはゲイルを蹴り上げる。

「はっ! なら、貴様は今何 のために戦う、BAぇぇぇぇ!!」

ウォルフもまた鼻を鳴らし、 ファーブニルを伸縮する……襲い掛かる竜の頭部をバルカンで牽制するも、爆煙を裂いてファーブニルがインフィニティを弾く。

弾かれた流れのまま、身を翻 し…インフェルノを抜き、ゲイルに斬り掛かる…ゲイルもまたビームサーベルを抜いて受け止める。

「私の戦う理由は変わらな い……自身を知るため……そして、今はお前という存在を滅すことだけ……お前自身が言った! 私達は『殺す者』だとな!!」

「フッ……上等っ!」

スパークする鍔迫り合いで互 いに後退し、同時にダークネス、ネオスキュラをぶつけ合う。

そのまま上昇し、互いにビー ムサーベルを振り被る……エネルギーがスパークする中、インフィニティの後方に回り込んでいたヴァニシングがショットクローを放つ。

ヴァニシングの存在を一瞬、 失念していたレイナは舌打ちする……その時、上空から降り注いだビームの嵐がショットクローを叩き落す。

眼を顰めるアディン……気付 いた瞬間、何処からともなく伸びた牙のようなものに弾かれる。

そして、インフィニティと鍔 迫り合いを取るゲイルの右腕に鞭のようなものが絡み付き、それが勢いよく引っ張られ、ゲイルは吹き飛ばされる。

愉しみを邪魔されたウォルフ とアディンが眼を見張ると、そこにはインフィニティと同型のボディを持つ漆黒の機体が佇み、インフィニティを庇うように背中のドラグーンブレイカーを展開 し、2機を引き離す。

「リン……」

レイナはやや呆然と呟く…… それに対し、リンはフッと肩を竦める。

「言ったでしょ……今は、そ の背中を護るとね………」

リンが視線を向けると、ドラ グーンブレイカーのビーム幕を掻い潜りながらゲイルとヴァニシングが向かってくる。

ゲイルがネオスキュラを放 ち、続くようにヴァニシングがミサイルを放つ。

インフィニティとエヴォ リューションが左右に分かれて攻撃をかわす……虚空をネオスキュラのビームが過ぎり、それに向かってミサイルが着弾し、巨大な爆発を引き起こす。

視界を一瞬、閃光に包まれる も……インフィニティとエヴォリューションはオメガとレールガンで応戦する。

ゲイルとヴァニシングは散開 してかわし、ゲイルがインフィニティに…ヴァニシングがエヴォリューションに襲い掛かる。

火炎放射の一撃をかわし、イ ンフィニティは距離を取ってダークネスで狙撃し、エヴォリューションはヴィサリオンでヴァニシングを狙い撃つ。

敵であった相手に背中を預け るという感覚にレイナもリンも苦笑を浮かべる。

「まずは…こいつらを蹴散ら しましょうか……姉さん!!」

「……そうねっ!」

互いにインフェルノを抜き、 相手に斬り掛かる……大型のビームの刃が迫る。

 

 

 

上陸したストライクダガー隊 が次々と地上の施設やM1隊を葬りながら前進してくる。

それを必死で喰い止めるスト ライク、インフィニート、バスター、ブリッツビルガー、シグー、ルシファー、スカイエールダガーなどの特機……

ストライクがIWSPの火器 と機動性を駆使し、ストライクダガーを一機一機撃ち抜き、その横ではインフィニートが全身の火器を乱れ撃ち、敵機を吹き飛ばしていく。

そこへ、レナの駆るデュエル ダガーの率いるストライクダガー隊が中央突破をはかろうとしてきた。

「8小隊、第6中隊を援護!  撃てぇぇ!!」

4連装のミサイルポッドが4 つ連なったランチャーを構えたストライクダガー隊が構え、レナの指示に連動し、ミサイルが雨霰のように発射され、M1隊の動きを止める。

「ぐっ! 怯むな!! 体勢 を立て直せ!!」

M2を駆り、キリサメでスト ライクダガーを叩き斬りながら、グランは必死に防衛線を維持しようとする。

その動きに気付いたアルフが インフィニートをそちらへと向け、レナのデュエルダガーを確認し、眉を顰めた。

「二佐! 指揮官機は俺がや ります!!」

グランに叫び、アルフのイン フィニートがガトリング砲を放ちながらデュエルダガーに迫り、蒼い機体の出現にレナは微かに歯軋りし、機体をそちらへと向けた。

「レナ!」

「アルフ…今日こ そ……っ!」

望まぬ対決に苦悩しながら、 デュエルダガーがビームライフルとリニアキャノンで狙撃し、インフィニートは脚部のバーニアで弾道をかわす。

そして、お返しとばかりにミ サイルを撃ち返す。周囲に着弾し、爆発が機体を包み込む。

シールドを掲げて耐えるデュ エルダガーに向かってビームコーティングナイフを抜き、加速したまま突きに掛かる…だが、レナはそれを持ち前の反射神経でシールドを大地へと差し、後退し て回避する。

相変わらずの思い切りのよさ にアルフは内心で称賛する……両手にビームサーベルを構え、突進してくるデュエルダガーに向かってガトリング砲とビームシリンダーで応戦する。

指揮官機が敵に引き付けら れ、足並みが乱れた砲戦武装のストライクダガー8小隊がやや混乱するも、個々がミサイルを所構わず放つ。ディアッカはミサイルをかわしながら、舌打ちしつ つバスターを跳躍させ、空中で2丁を合体させ、耐装甲散弾砲にして放つ。

広範囲に放たれたビームがス トライクダガーを貫き、爆散させる。

ニコルもミラージュコロイド を展開し、敵の中枢に飛び込み、内部から敵部隊を撹乱する。

姿の見えないブリッツビル ガーは内蔵されたパワーエクステンダーにより、長時間のステルス戦法を得て、そのままストライクダガーを一機一機葬っていく。

足並みの崩れたストライクダ ガー隊に向かって、ミゲルのシグー、カムイのルシファー、シンのスカイエールダガーが的確に倒していく。

「このぉぉぉっ!!」

ミゲルが吼えながら、シグー の重斬刀でストライクダガーの頭部からコックピットを叩き潰し、振り向きざまにビームライフルを狙撃する。

「ちっ、まったくどっから沸 いてきやがるんだ、こいつらっ!」

毒づきながら、ミゲルはビー ムライフルを構える……倒しても倒してもキリがないぐらいにストライクダガーの押し寄せる数は多い……イザナギ海岸には、既に百はゆうに超えるストライク ダガーの残骸が転がっている。

シンは、やや強張った面持ち でスカイエールダガーのビームライフルのトリガーを引く……コックピットを貫かれたストライクダガーが爆発する。

(死んだ……殺したのか…俺 が……っ)

微かに手が震える……決意し たはずでも……それでも、実際に味わう戦いの恐怖に身体が震える……間違いなく自分は今、人を殺しているのだ。

だが、そんな葛藤をする間も なく、無情に押し寄せるストライクダガーがビームサーベルを抜き、斬り掛かってくる。

「ぐっ!」

歯噛みしながらシールドで受 け止めるも、その勢いに推されて弾かれる。

「うわぁぁっ!」

態勢を崩すダガー……眼前で 振り上げられるビームサーベル………微かに恐怖に歪みながら、シンは無我夢中でトリガーを引いた。

両肩のレールガンが火を噴 き、ストライクダガーを蜂の巣の如く撃ち砕き、爆散させる。

呼吸を荒くするシン……しか し、敵機はそんなシンに逡巡する間も与えずに向かってくる。

その時、後方からビームが降 り注ぎ、ストライクダガーが貫かれる。

「大丈夫か!?」

ダガーの前に降り立つルシ ファー……そして、バリーの駆るM1がビームサーベルと拳で次々とストライクダガーを叩き潰していく。

「カムイ君!」

そこへアサギ、マユラ、ジュ リのM1がGBMの3機を伴って救援に現われる。

「カムイ君! 第3戦区のF 指揮所が壊滅したわ! 貴方は第7防空隊の援護に向かって!」

「了解!」

アサギに素早く答え返し、カ ムイのルシファーは空中へと飛び立っていく。

「そこの君! 私から離れな いでね!」

マユラの怒号に近い叫び…… シンはすぐに反応できず、言葉に詰まる。

「ああっ、マユラってばこん な時に年下の子をナンパ!?」

アサギがからかいながらM1 のビームライフルを放ち、ストライクダガーを撃ち抜く。

「そんなんじゃないってば!  ただ、グラン二佐に言われて……っ!」

「でも可愛い子じゃない!  いいな〜マユラより、私が護ってあげよっか?」

「ジュリ! あんたにはロウ がいるじゃない!」

「ロウは樹里に譲ちゃったも ん!」

なんともいえない舌戦が繰り 広げられる……戦闘中なのに、緊張感がまったくないが、それでもこの3人は流石に初期の頃からテストパイロットを務めており、尚且つ経験もそれなりに得た のか、なかなかの動きを見せている。

なにせ、この会話の間にスト ライクダガーを数機、行動不能にしているからだ。

シンはその光景に暫し呆然と なっていたが……やがて、何かに気付いたように顔を上げた。

「危ない!」

叫ぶや否や、ダガーがマユラ のM1を突き飛ばすように押すと、ビームが過ぎり、後方のビルを吹き飛ばす。

「な、何!?」

アサギが驚いて顔を上げる と、そこには昨日の戦闘で苦戦させられたストライククラッシャー3機に、ロングダガーが向かってきた。

「ま、またあいつら 〜〜っ!」

心底ウンザリするような口調 で叫ぶジュリ……だが、敵はそんな事に構ってはくれない。

先頭を切るカミュはワイズと クルツに指示を出す。

「ワイズ、お前は先陣で切り 開け……クルツは援護しろ……僕はあの3機をやる」

「おうっ!」

「了解」

ワイズのストライククラッ シャーがドリルアームを振り被りながら突進し、それに続くクルツのストライククラッシャー……カミュは隣のロングダガーに通信を入れる。

「ステラ……昨日のような失 態は許さないよ」

「解かっている」

ステラは不機嫌そうな表情で 答え、ロングダガーを加速させる……ビームサーベルを抜き、固まっているシン達のダガーとM1に突進していく。

「でぇぇぇぇぇっ!!」

獣のごとく吼えながら、ステ ラはビームサーベルを振り被る。

だが、その機体に見覚えの あったシンが素早く反応し、シールドを掲げて受け止める。

「やめろぉぉぉっ!」

叫び返しながら、ダガーがロ ングダガーを弾き飛ばす。

ステラは奥歯をギリリと噛み ながらダガーを睨む。

「こいつぅぅ!」

敵意を剥き出しにステラはダ ガーに吼える……何故だか解からないが、ステラは内心に凄まじく不愉快な気分を憶えていた。

妙に苛立つ……言い知れぬ怒 りにかられながら、ロングダガーが振り被ったビームサーベルをダガーもビームサーベルで受け止める。

シンは眼前のMSのパイロッ トに困惑していた……頭を…身体を駆け抜ける奇妙な既視感……そして、昨日通信越しに聞こえた少女の悲鳴………

それらがシンを迷わせる…… そのために防戦一方に陥るが、ロングダガーは加速して、至近距離から体当たりした。

「うわぁっ」

思わず衝撃を受け、倒れ伏す ダガー……そのダガーに迫る……頭上で振り上げられるビームの刃……シンは無我夢中でトリガーを引いた。

スカイエールパックのレール ガンが乱射され、ロングダガーは怯み…フォルテストラの一部が砕け散る。

「ひっ!」

その衝撃にステラが一瞬怯 み、ロングダガーの動きが止まる……間髪入れず、ダガーがバーニアを噴かして立ち上がり、そのままロングダガーに体当たりする。

ステラは呻き声を微かに上げ ながらも衝撃に耐える……立ち上がったダガーのコックピットの中で、シンは呼吸を荒くしながら操縦桿を握る。

これが戦い…戦争なのだ…… と、今更ながらに実感する……少しでも気を緩めれば、即座に死が身に降り掛かる……脳裏を、妹の姿が駆け巡る。

妹を……マユを護るため に……そのために戦う……死ぬことはできない……その思いを奮い立たせ、シンは迷いを振り払うように叫ぶ。

「うおぉぉぉぉっ!!」

気迫とともに加速し、ビーム サーベルを振り上げる……ステラも、『死』に対する恐怖を振り払うようにビームサーベルを振り被った。

2機のビームの刃が交錯し合 い、スパークする。

 

 

シンのダガーとステラのロン グダガーが激突している頃……M1隊を蹴散らしながら進むトライ・スレイヤーのストライククラッシャー三機……

「おらおらっ! どけど けぇぇぇぇっ!!!」

先陣を切るワイズが怒号を上 げ、ドリルアームを前面に突き出して加速する……M1隊も必死に応戦するも、ワイズのストライククラッシャーの後方に控えるクルツの砲戦型のストライクク ラッシャーが火器でM1隊を潰し、または陣形を乱す。

態勢が崩れた瞬間、M1が機 体に大穴を開けられて爆散する。

「どうしたどうしたっ! 昨 日の奴は何処へいったぁぁぁぁっ!!」

敵機の姿を探し、吼えるワイ ズのストライククラッシャー……その時、一機のM1が加速して飛び上がり、太陽を背に降下してくる。

逆行に一瞬視界を奪われるワ イズ……刹那、ストライククラッシャーはM1の落下蹴りを受け、弾かれた。

「ちぃぃっ!」

歯噛みしながら堪えるストラ イククラッシャーの眼前に立ち塞がるM1……バリー=ホーの駆る機体だ。

「お前の相手は私がするっ」

バリーはM1にファイティン グポーズを取らせる……その姿に、戦闘欲を刺激されたワイズが笑みを浮かべる。

「そうでなくちゃ なぁっ!!」

嬉々とした表情でドリルアー ムの先端からビームマシンガンが放たれる。

バリーは舌打ちしながら回避 する……だが、発射と同時にストライククラッシャーが駆け、左手のデルタのクローを振り被る。

バリーは持ち前の反射神経で 紙一重でかわすも……装甲の一部が砕ける。

「ホー一尉!!」

アサギ達のM1が援護しよう とするが、それを遮るようにクルツと、そして合流してきたカミュのストライククラッシャーからの激しい砲火を浴び、動きが取れなくなる。

やはり、機体性能の差は大き い……その時、バリーの機体とアサギ達の機体に通信が入る。

《ホー一尉、アサギさん、マ ユラさん、ジュリさん! 聞こえますか!》

司令部のシルフィからの通 信……だが、今はこの集中砲火に耐えるのに必死でまともに答えるのも困難だ。

「シルフィ! 何!? 今は 話してる余裕がないのよっ!」

《解かっています! 落ち着 いて、これから私の言うとおりに動いてください……ホー一尉とアサギさんとマユラさんの機体に、GBMの3機を換装させます》

シルフィの言葉に、一様に驚 愕する……

「って! アレってまだテス トもしてないんでしょ!」

「いきなり本番で上手くいく はずないじゃない!!」

指定されたアサギとマユラが 非難めいた声を上げる……彼女らも、GBMがM1の能力強化のために開発されたサポートマシンであることは知らされているが、それでも未だそれを実機でテ ストしたことは一度もないのだ。

シミュレーション途上で今回 のオーブ侵攻が起こり、結局実機での試験は中止された。

そんな不確定要素の高い選択 を取るのは流石に気がのらないのも無理はないだろう。

《無茶は承知です…でも!  ここでやらないで、いつやるんですか! 私がサポートします! 意地でも成功させます! させないと、このままじゃ……っ!》

普段のオドオドした彼女らし くない、意志のこもった声にアサギ達は面を喰らう。

だが、その言葉にバリーは勇 気付けられたように微笑を浮かべた。

「その子の言うとおりだ な……了解した!」

バリーのM1が立ち上がり、 イーゲルシュテルンで牽制しながら体勢を立て直す。

「アサギ! マユラ! シル フィの言うとおりよ! このままじゃ、ホントにヤバイよ! 私達が時間を稼ぐから、早く!」

ジュリのM1がビームライフ ルでストライククラッシャーを牽制し、ガンナーM1隊が支援してくる。

「わ、解かったわよ!」

「やってやるわよ!!」

覚悟を決めたのか、砲撃から 逃れ、後退するアサギとマユラのM1……バリーのM1も後退し、そこへGBMの3機が駆けつけてくる。

《皆さんはタイミングを合わ せてください……後はこちらでなんとかします! アサギ機は壱号機を、マユラ機は弐号機、ホー一尉は参号機で換装してください! いきますっ!》

「「「応(了解)!!」」」

3人の声が揃い、シルフィは コンソールを滑るように叩き、GBM三機とM1三機に換装プログラムをインストールしていく。

M1アストレイの元々は外部 換装強化ユニットとして開発されたGBM……汎用性を持たせるために独立稼動システムを組み込み、単機での戦闘も可能としたが、本来はM1の能力を向上さ せること。

とは言え、シルフィも実戦で こんな無謀なことはしたくなかった……シミュレーション上ではある程度のデータは得たが、それも所詮は机上のこと……現実では何が起こるか解からない。だ がそれでも、今はやるしかない……いつものように失敗は許されないのだ。

全神経を集中させ、GBM3 機を導く……それに呼応し、龍牙、鳳牙、獣牙の3機のカメラアイが輝き、動き出す。

《コード:GBM! スター ト!》

刹那、アサギとマユラのM1 が跳躍し、バリーのM1が大地を駆ける。

上空に舞うM1の背中に現わ れる龍牙、鳳牙…大地を駆けるM1の横を共に疾走する獣牙。

3人はコックピット内で換装 システムを起動させる。

龍牙は頭部が持ち上がり、長 い尾のようなボディが左右へと分かれ、それがM1のバックパックに覆い被さる。

変形したボディが両腕に装甲 としてドッキングし、バックパックにバーニアノズルが現われ、肩に二対の大型ビームキャノン:アグニUがセットされ、アームの外部装甲にマシンガンの銃身 が飛び出す。

鳳牙は頭部を含めた首パーツ が本体内へと収納され、パーツがバックパックにドッキングする。

シルフィが量子通信を利用し た遠隔操作でパーツの一部が分離し、M1の脚部と腰部にドッキングし、バーニアノズルが出現する。翼を拡げ、本体に装備されていたビームライフルを手に持 つ。

ここまでは完璧だった……だ が、問題は獣牙だ……動物の反射神経に肝心の人間の方が追いつくか……バリーの能力に賭けるしかなかい。

疾走する獣牙が咆哮を上げ る……大気を裂くように響く声……獣牙のボディが分解し、それらがM1に覆い被さっていく。

脚部に高機動用のバーニア パーツがドッキングし、外部コネクターに接続する。両腕に二本の鉤爪を思わせる武器が装備され、本体がバックパックにドッキングし、頭部が右肩にセットさ れた。

GBM3機と換装したM1が 降り立つ……どの機体も、外観を大きく変えている…ストライクの換装システムを基に開発されたM1用の外装備…龍牙はM1の火力を、鳳牙は機動性と飛行能 力を、獣牙は近接格闘を主眼にそれぞれ設計されている。

《全システムオールグリー ン……どうぞ!》

喜色を含んだシルフィの声が 弾くように聞こえる。

「やったわよ、アサギ!」

「うん! 今までの鬱憤!  晴らさせてもらうよっ!」

アサギのM1が全身のミサイ ルポッドを解放し、アグニUの照準をストライククラッシャーにセットする。

刹那、圧倒的な火力が襲い掛 かる…カミュとクルツは舌打ちしながら回避する。

「くっ! あの獣風情と合体 だと……非常識な!」

あまりのナンセンスさに毒づ き、カミュは機体を飛び上がらせる……だが、そのカミュのストライククラッシャーよりも速い動きで空中に回り込むマユラのM1。

「何!?」

驚愕するカミュに向かってマ ユラのM1がビームサーベルの先端に増幅ユニットを接続する……刹那、高出力された通常の1.5倍近いビームの刃が形成される。

「えぇぇぇぃぃ!!」

気迫とともにロングビーム サーベルを振り下ろす……カミュはシールドを掲げて受け止める。だが、そこへ鳳牙のイーゲルシュテルンが火を噴いた。

ほぼ至近距離からのイーゲル シュテルンの応酬に、TP装甲とはいえ、吹き飛ばされる。

クルツのストライククラッ シャーが援護しようとするが、アサギのM1とガンナーM1隊に集中砲火を浴び、身動きが取れなくなる。

そして、バリーのM1はスト ライクダガーの真っ只中に向かって加速する……両腕のクローを展開し、懐に飛び込む。

「ほあたぁっ!」

クローの一撃がストライクダ ガーの頭部を潰し、ボディを貫く。

「あたぁっ!」

振り向きざまに蹴りを振り上 げ、ストライクダガーを吹き飛ばす。

「ほぉぉあたたたたたたたた たたたっっ!!!」

雄叫びとともにストライクダ ガーのボディに何十発とクローの一撃を打ち込み、瓦解させる。

「ほぉぉぉ」

一呼吸置くと、周囲にはスト ライクダガーの残骸が転がる……そこへ、殺気を感じ跳躍する。刹那、空気を裂く回転音が轟き、ドリルが大地を抉る。

「てめえの相手は俺 だぁぁぁ!!」

「受けて立つ!」

仕切り直しとばかりにバリー のM1とワイズのストライククラッシャーが激突する。

 

 

壊滅した第三戦区の救援に向 かうカムイのルシファー……群がるように向かってくる戦闘機の機影に向かい、オーバーハングキャノンを構え…トリガーを引いた瞬間、ビームの奔流が戦闘機 を蒸発させる。

その一射を回避した戦闘機が 弧を描きながら機銃とミサイルで狙い撃ってくる。

カムイはスラスターを噴か し、ミサイルの軌道から外れ、横を過ぎる戦闘機に向かってバルカンで狙撃し、機体を被弾させた戦闘機が失速して墜落する。

「残存のMS隊は後退して態 勢を立て直してください!」

眼下で僅かに残存するM1隊 に通信を送ると、しんがり役を引き受けたとばかりにルシファーは脚部のミサイルポッドを眼下に放ち、ストライクダガー隊を足止めする。

そして、M1隊が退却する と、そのまま注意を空中で尾を引きながら飛ぶ戦闘機部隊へと向ける……戦闘ヘリ部隊もほぼ壊滅に近く、防空戦力を低下させている今、上空からの攻撃部隊は なんとしてでも防がねばならない。

幸いなことに、地球軍側にも 空戦用の量産型MSは配備されていない……戦闘機だけなら、なんとか持ち堪えられる。

そう考えていたカムイだった が、不意に脳裏に電流のようなものが走る。

考えるより先に身体が反応 し、機体を捻る……次の瞬間、銃弾の嵐が過ぎる。

銃弾を放ちながら向かってく る蒼い高速飛翔機……イリューシアの制式レイダーだ。

主翼の上でMS形態に変形 し、両腕に機銃を構えてフルオートで放ってくる。

ルシファーはシールドを掲げ て受け止めるが、制式レイダーが主翼から飛び…主翼だけがそのまま加速してルシファーに突進する。

「くっ!」

舌打ちしながらかわすが…… 間髪入れず、上空に飛び上がっていた制式レイダーが急降下でルシファー目掛けて体当たりし、至近距離で機銃を撃ち込んだ。

PS装甲で致命傷にならない とはいえ、その衝撃を防げず…爆発を起こして弾かれるルシファー。

衝撃に呻くカムイ……対し、 イリューシアは表情を顰める。

「X000……PS装甲には 流石に実体弾ではあまり効果がないようですね……」

淡白に分析する……制式レイ ダーにはビーム兵器の類は一切装備されていない……量産を急いだ戦闘機型のMSゆえに、ビーム兵器を装備させる余裕がなかったのだ。

イリューシアはルシファーを 無視して行政府を陥とそうとするが、ルシファーがビームキャノンで牽制しながら立ち塞がる。

「邪魔をするなら……まずは 貴方から墜とします」

無表情で呟き、再び戦闘機形 態に変形し、機銃を乱射する。

カムイも歯噛みしながら回避 する……いくら実体弾とはいえ、何度も直撃を受けてはPS装甲もいずれは落ちる。

シールドを掲げながら、ビー ムライフルで応戦するも、高速で動く制式レイダーを捉えるのは困難であった。

 

 

 

各所で奮戦するオーブ側の MS達……新型特機5機をインフィニティ、エヴォリューション、フリーダム、ジャスティスの4機がオノゴノの海上で抑えてくれているのがせめてもの救いだ が、地球軍はそれ以外にも新型量産試作機を多く投入し、量産機のストライクダガーの圧倒的な数の前に、ジリジリと押され始めている。

海上の艦隊戦においてはまだ 奮戦している方であった……なにせ、地球軍艦艇の頭上でインフィニティ、エヴォリューションとゲイル、ヴァニシングが熾烈を極める戦闘を行い、その余波が 眼下の連合艦に直接降り注ぐのだから、艦隊の方はたまったものではない。

その足並みが浮き足立つ場所 へとネェルアークエンジェルを筆頭にオーブ艦が砲撃し、撃沈させていくが……連合艦隊も揚陸艦隊の一部を下げ、MSを甲板に配置してオーブ艦を狙撃させて いた。

退くことなく戦い続ける戦況 は、司令部にも随時報告されている。

オーブの全域を示すモニター には、絶え間なく激突するMSの映像が映し出され、中には攻撃されて映像が途切れるモニターも多々ある。

「戦闘は西アララギ市街に移 動…了解」

「第3戦区F指揮所下の部隊 は第二2防衛ラインまで後退、以後B指揮所の指揮下に……」

「はい…了解しました……第 12防空大隊、壊滅しました」

「残存第7M1部隊は東イソ ガミ市庁舎に集結…部隊を再編してください」

休む間もなく飛び交うオペ レーター達の報告は、徐々に配色を濃くしている。

血が出るほど唇を噛み締めな がらインフィニティ、エヴォリューション…フリーダム、ジャスティスの戦闘が映し出されているモニターを喰い入るように見詰めていたカガリがとうとう堪え 切れなくなり、司令所を飛び出そうと踵を返そうとする。

「カガリ……!」

だが、その腕は素早くキサカ によって取られ、カガリはもがくように叫んだ。

「離せ! 私も出る!!」

「バカを言うな!」

諌めるようなキサカの叱咤 に、カガリは歯噛みするように睨む。

「自分だけこんな所で見てい られるかっ!」

自身だけが安全な後方にお り、前線で戦えない歯痒さがカガリ自身に不甲斐なさを感じさせていた。涙を溜めて訴えるカガリだが、MSの操縦訓練も受けていないカガリが出たところで役 に立てるはずがない。いや…そもそも稼動できるMSは既に全てが投入されており、搭乗できる機体すらないのだ。

「指揮官が持ち場を離れてど うするっ! いい加減、学びなさい!」

駄々っ子を叱り付けるように 諌めるキサカに、カガリは視線を逸らす。

「うっ…でも!」

「泣くのもダメです!」

嗚咽を漏らしそうになるカガ リをキサカはぴしゃりと遮る……指揮官が動揺しては、全体の士気にも悪影響が出る……カガリは、前線で戦うことのみに固執し、後方で行うべき戦略を今まで 学ばなかったことを心底後悔するのであった。

 

 

同じく、戦況の悪化は行政府 地下本部にも届いていた……戦闘の余波が、地下本部を揺らし、振動する。

ウズミは腕を組んだまま、表 情を険しくしてモニターを睨んでいると、首長の一人が駆け寄ってきた。

「ウズミ様」

その言葉を待っていたように ウズミが振り返ると、そこにはホムラを筆頭に首長達が部屋に慌しく入室してきていた。

「準備は整いました…作業に は2時間ほどあればと……」

その言葉に、ウズミは微かに 表情を顰める。

「掛かりすぎるな…既に時間 の問題なのだ……」

横眼にモニターを見やると、 敗色を濃くしていく戦闘の様子が逐一映し出されている……もはや、長くは保たないのは明白だ。

「……よい、私も行こう」

徐に立ち上がったウズミに、 首長達は息を呑む……ウズミはやや黙すると、決意を漂わせた表情を上げた。

「残存の部隊は、カグヤに集 結するよう、命令を……オノゴノは、放棄する!」

強く響いたその声に、その場 にいた全員が強く頷いた。

 

 

 

オーブ近海の海底に身を潜め る潜水艦が一隻……現在のクルーゼ隊の母艦:クストーストだ。

先のパナマ戦を終えた彼ら だったが、カーペンタリアへ帰還途中に地球軍のオーブ侵攻の情報を得て、その戦闘の様子を観察する任務をパトリックより受けていた。

無論、あくまで様子見だ…… オーブがザフトからの支援を断った以上、ザフトが介入する道理はない…たとえそれが、戦略的には後々にマイナスに傾こうとも。

クストースト艦内で、イザー クはブリッジに向かって歩いていた……そして、クルーゼの私室の前を通り掛かると、そこに見慣れぬ少女を見つけ、思わず歩みを止める。

クルーゼの私室の開いたドア の陰からキョロキョロ見渡し、挙動不審な様子を見せているのはクルーゼに拉致されたフレイだ。

「おいっ、お前!」

突如、高圧的な声で話し掛け られ、フレイはビクッと身を竦める。

「ひっ……!」

イザークの姿に息を呑み、恐 怖したらしいフレイは慌てて部屋の中へと消えた。

閉じられるドア……イザーク は初対面であったが、クルーゼがナチュラルの少女を捕虜にしたという話を既に聞かされていた。というよりも、クルーゼ自身が拘束もせずに放置しているだけ なので、既に艦内中の誰もが知っている。

「ちっ」

自分を見ただけで怯えて竦む フレイの様子に、ナチュラルへの嫌悪感を募らせる…そして……フレイの持っていた赤い髪がなおイザークを苛立たせる。

自身が大切に思う者と同じ色 の髪を持つことが……プラントへと戻ったリーラが今どうしているか、気にはなっているが今は連絡の取りようもない。

苛立ったまま、イザークはブ リッジへと勇み足で向かった。

薄暗い照明の落ちたようなブ リッジに入室すると、そこにはクルーゼと艦長のモンローがオーブ領海上での戦闘をモニターしていた。

「オーブはよく持ち堪えてい ますな……」

やや感心した面持ちでモン ローが呟くと、クルーゼが淡白に答え返す。

「あの物量では時間の問題だ ろうがな……やはり侮れん国だよ。地球軍がムキになるのも解かる」

うそぶくように一人ごちる。 これ程圧倒的な物量差をぶつけられながら、地球のちっぽけな一国家に過ぎない国がこれ程持ち堪えられるとは、流石に予想外だった。

領海ギリギリで、地球軍に察 知されない距離を取っているため、海上での戦闘しかモニターできないが、オノゴノの陸上でも先のパナマ戦でザフトが対峙した地球軍の量産型MS:ストライ クダガーを相手に激しい攻防を繰り広げているところを見ると、この国でもやはりMSが実戦配備されていたという事実に驚きを隠せない。

「あの見慣れぬMSどもの データは?」

クルーゼがモンローを見やる と、二人は視線をモニターの一部に向ける。

「最優先で撮らせております が…この位置ですから………」

モニターに映るのは、オーブ の海上で眼も止まらぬ速さで交錯し、激しい攻防を繰り拡げる9体のMS……インフィニティ、エヴォリューション、フリーダム、ジャスティスにゲイル、ヴァ ニシング、カラミティ、フォビドゥン、レイダーの機影が映し出されている。

機動性、武装、パワー……ど れを取っても従来のMSや奪取したXナンバーの性能を覆す能力を見せ付けており、その動きをあますことなくトレースしている。

「いずれどれかと相まみえる 時が来るのか、来ぬのか……まあいい、ザラ議長の喜びそうな土産話にはなる……何か変化があったら知らせてくれ」

薄く笑い、言い置くと…ク ルーゼはブリッジを後にし、イザークもそれに続いた。

むっつりとした面持ちのイ ザークにクルーゼは揶揄するような口調で話し掛けた。

「面白くなさそうだな、イ ザーク……自分もあの中に飛んでいって戦いたいかね?」

「え?……あ、いえ………」

やや上擦った口調で被りを振 る。

「オーブはザフトからの支援 も拒否しているからな……仕方あるまい?」

イザークは自分が戦闘を眼の 前にしてただ傍観に徹しているのが退屈と取られたのか、心外そうに押し黙る。

「ある程度見届けたらカーペ ンタリアに帰投する。アラスカ戦からずっと狭い艦内暮らしでウンザリだろうが、後少し我慢してくれたまえ」

宥めるように呟くクルーゼ に、イザークは感じていた不満を思い切ってぶつけた。

「隊長」

「ん……?」

「何なんですか、あの女 は?」

上官であるにも関わらず、イ ザークはキツイ口調で問いただす。

上官の部屋で寝泊りし、自分 を見ればビクビク震えて身を竦めるフレイの存在にイザークはクルーゼの怪しげな動向に憤っていた。

「捕虜であるなら、そのよう に扱われるべきだと…!」

地球軍の一兵士をどういった 意図で拉致したかは解からないが、その扱いのぞんざいさにイザークはクルーゼに意見する。

だが、クルーゼは口の端を微 かに緩めて言葉を発する。

「イザーク……銃を撃ち合う ばかりが戦争ではないのだよ」

「は?」

謎掛けのような唐突な言葉 に、イザークは意表を衝かれる。

「私は鍵を探していた…そし て、拾ったのだ…恐らく、な………」

イザークの戸惑いを他所に、 謎めいた言葉を残し、クルーゼは含みのある笑みを浮かべたまま歩み去っていく……だが、肝心のイザークはますます困惑していた。

何か……上官が気に掛けるよ うなものがあの少女にあるのか……クルーゼは予言めいた言動をすることで軍内部でも有名であった。

ただ、その予言めいた言葉が 恐ろしいほど的中率が高いため、軍内部でもその存在を高くかわれ、今の地位を得たのだ。

イザーク自身も、その先を見 透かしたような深謀遠慮に感服することも多かったが……今回のあの少女も、後々に何かに関わるのか……煮え切らない思いでイザークはクルーゼの背中を見 送った。

 


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