市街地で戦闘を繰り広げるグランのM2とM1部隊……

「むんっ!」

振り上げたキリサメがストラ イクダガーの機体を斜めに斬り裂き、上体がずれて爆散する。

その時、コックピット内に司 令部からのメッセージが届く。

「ん…離脱………?」

メッセージを読み上げていく うちに、グランは胸に苦いものが込み上げる。

命令は、全部隊はただちに戦 闘を中断し、残存兵力をカグヤへと集結させ、クサナギに乗艦せよというものだった。

それが意味するところは、こ の戦いが既に負け戦であることを示している……いや、最初から既に結果は見えていた……だが、イザ現実に直視するとやり切れない思いが駆け巡る。

「全機に通達! ただちに戦 線を放棄し、カグヤへと後退せよ!」

だがそれでも、グランは血を 吐くような思いで指示を出す。

M1隊がビームライフルで牽 制し、ガンナーM1隊が煙幕弾を放ち、ストライクダガー隊の眼を晦ませている間に、残存のMSは撤退していく。

(結局、また護れなかった か……)

オーブに来る前……祖国での 戦いを思い出し、グランは項垂れながら後退した。

 

 

その電文は、海上で奮戦する ネェルアークエンジェルの許へも届けられた。

「離脱命令!?」

その内容を聞いたマリューが 思わず問い返すと、その電文を読み上げたサイが頷く。

「はい……ネェルアークエン ジェルはただちに戦線を離脱し、カグヤへ降りろと……」

「カグヤ?」

ノイマンが振り返り、尋ね る。

「オーブ群島の一つ……マス ドライバー施設を有する島……」

キョウが答え返しながら、表 情を顰める。

意図を感じ取ったキョウだ が、それでも心持ちは暗い……だが、自分達がここで踏ん張ってもジリ貧に陥るのは間違いない。

意を決して面を上げた。

「艦長! 全火力を正面に集 中砲火させます! その隙に後退します!」

「……解かったわ! ゴッド フリート、セイレーン以下、全火器のロックを解除……目標、敵艦隊中央!」

ネェルアークエンジェルの火 器が一斉に正面へと向けられ、その照準をロックする。

「目標、ロック!」

「発射と同時に回頭80!  カグヤへと後退する!!」

「撃てぇぇぇぇぇっ!!!」

マリューの怒号とともにネェ ルアークエンジェルのローエングリンを除く全火力が火を噴き、一点に集中させた砲火が正面に集中していた艦隊数隻を一瞬にして蒸発させる。

その圧倒的な火力に連合艦隊 は浮き足立ち、指揮系統が混乱する……その隙を衝き、ネェルアークエンジェルは艦首の向きを変え、オノゴノ最前線から撤退していった。

 

 

水中で戦闘を繰り広げるモラ シム達にもそれが伝わった……水中での攻防は一進一退であった。どちらも能力的には五分五分なのだ…地球軍側の水中MSはロールアウトしてからの期日がほ とんどなく、水中での運用ノウハウが極端に無い。対し、ザフト側は単機での兵器性能で言えば、制式機のディープフォビドゥンの方がグーンやゾノよりも上 だ。

グーンが特攻覚悟でディープ フォビドゥンに体当たりし、至近距離からメーザー砲でコックピットを吹き飛ばす。

別の場所では、ディープフォ ビドゥンがリフターのスパイクでジン・ワスプを掴み上げ、機体を切り裂く。

そんな中、モラシムのゾノと ジェーンのフォビドゥンブルーが一際激しい交錯を繰り返す。

格闘戦に持ち込もうとするゾ ノに対し、フォビドゥンブルーは距離を開けての魚雷とメーザー砲で応戦する。

ジェーンとて、接近されてし まえば対処が難しいと悟っているからこそ、このような戦法を取る。だが、モラシムもこれ以上時間を掛けるわけにはいかなかった。

多少の被弾覚悟で最大船速で ゾノを加速させる……近付けさせまいと魚雷を放つが、その魚雷の爆発に怯むことなく懐に飛び込んだゾノがそのクローを展開した両腕でフォビドゥンブルーの 本体を絞め上げるように拘束した。

「な、何……くっ、離 せ!!」

操縦桿を必死に動かし、拘束 から逃れようとするが、ガッチリ掴まれて全く身動きが取れない。

「私の機体、貴様にくれてや るっ!」

不意に、接触回線から男の声 が響き、ジェーンがハッと顔を上げた瞬間、ゾノのコックピットが開き、そこから水中用のダイバーを身に付けたパイロットスーツの男が現われ、ゾノから離脱 していく。

その行動から、ジェーンは何 かに気付く。

「まさか…自爆!?」

思わずそう叫びそうになった が、モラシムの取った行動はジェーンの予想を遥かに超えていた。

刹那、ゾノのスクリューが動 き出し、最大加速で浮上していく……パイロットという制約がなくなったMSは限界を超えたスピードで上昇するが、ジェーンの方はその激しい振動とGに身が 圧迫されていた。

微かに見えた視界に、海上の 艦底部が見えた瞬間……ゾノはフォビドゥンブルーを拘束したまま、その艦底部に向かって特攻した。

底部からの閃光が煌き……連 合艦の一隻が火煙を上げて轟沈した。

 

 

 

未だ、海上で激しい攻防を繰 り広げる9体のMS……フォビドゥンがニーズへグを振り回し、フリーダムに迫る。

「はぁぁぁっ!!」

眼をギラギラに光らせ、獲物 を狙う死神の鎌を、キラは歯噛みしながら回避する。

上空へとスラスターを噴かし て飛び上がり、フォビドゥンの死角からビームを放つ。だが、相変わらずのゲシュマイディッヒ・パンツァーによって偏屈させられ、あさっての方角に逸れる。

その横では、ジャスティスが レイダーと激突している……ミョルニルを発射するが、唸りを上げながら迫る破砕球を、ジャスティスはリフターと分離し、破砕球はそのスペースを虚しく突き 抜け、ジャスティスはビームライフルで狙撃し、射線はかわしたものの、バランスを崩したレイダーが分離したファトゥムOOに弾き飛ばされる。

「ちぃぃ、こいつらいい加 減……っ!」

苛立ちながらクロトが衝撃に 呻く。

レイダーを弾いたファトゥム OOに向かってカラミティがシュラークを連射するも、まるで独立稼動してるかのごとく、ビームの射線を回避し、逆にビーム砲と機関砲を放ち、カラミティに 襲い掛かる。

ビームが海面を蒸発させ、カ ラミティの横を過ぎる……

「くっ…しぶと い……っ!!?」

オルガが苦々しげに吐き捨て た瞬間、コックピットにエネルギー残量を告げる警告音が響く。計器に眼を向けると、既にエネルギーゲージがレッドに差し掛かっている。

「くそっ! このバカMS!  もうパワーがヤバイ!!」

考えなしにあれだけ乱射して いれば、当然エネルギーの消費は激しい……歯軋りするオルガに向かって、クロトの嘲笑う声が響く。

「お前はドカドカ撃ち過ぎな んだよ、ばぁか!」

「何だと!?」

実際はクロトの言う通りなの だが、オルガにはそこまで考えが回らず、単にバカにされたのが癪に障ったのだろう。

だが、そんなオルガの怒りな どお構い無しにレイダーはファトゥムOOを追撃する。

「帰るんなら一人で帰ってよ ね! 僕は知らないよ!」

飛行能力を持たないカラミ ティに対する皮肉と小馬鹿にするが、そのために注意が疎かになっていた。ファトゥムOOの主たる機体が周囲から消えていたことに。

次の瞬間、レイダーの目前の 海中から水飛沫を上げながらジャスティスが姿を現わし、クロトは驚愕する。

「うぉぉぉぉっ!!」

アスランの気合いとともに振 り下ろされたビームサーベルの一閃がレイダーのミョルニルを真っ二つに斬り裂き、爆発する。さらに追い討ちをかけるようにジャスティスは左手のルプスビー ムライフルを放ち、レイダーの機体をビームが掠め、装甲の一部が破損する。

クロトは悔しげに歯軋りしな がらMA形態へと変形し、離脱していく。

「けっ! バカはてめーの方 じゃねえか!」

味方が被弾した様をせせら笑 うオルガ……それに対し、クロトは噛み付きかかろうとする。

「何だと…っ!」

怒鳴り返そうとした瞬間、突 如衝撃がレイダーを襲う……被弾し、しめたとばかりにカラミティがレイダーの上に飛び乗ったのだ。

しかも、かなり強引に乗り付 けたので、レイダーの機体全体に負荷が掛かっている。

「勝手に乗んなよ、この野 郎!」

喚くクロトに対し、オルガが 鬱陶しげに怒鳴り散らす。

「うっせえ! とっと補給に 戻れよ! お前もそれじゃしょうがねえだろ!」

クロトは悔しげに舌打ちして 機体を沖合の母艦へと向ける。フォビドゥンは未だ、フリーダムのビーム攻撃を偏屈させ、フレスベルグで撃ち返す。湾曲するビームの一射を曲芸のような機動 でかわし、その態勢のままフリーダムは諦めることなく、プラズマビーム砲を放つ。またしても偏屈させられると思っていたビームだが、それはフォビドゥンの 装甲に掠り、初めて被弾した。

「ん?」

その時になって、シャニは初 めてエネルギーゲージがレッドゾーンに差し掛かっているのに気付いた。

「終わり?」

状況が把握できていないよう なのんびりした口調で呟くと、モニターの隅に後退していくカラミティを乗せたレイダーが映る。

やや面倒くさげに、シャニは 眼前に迫るフリーダムに向かってニーズへグを振り下ろすが、フリーダムはシールドでそれを受け止め、ビームサーベルで斬り掛かるが、フォビドゥンはニーズ ヘグを捨て、反転していく。目標を見失ったビームサーベルが海面を蒸発させ、水飛沫が盛大に起こる中、3機が撤退していくのを息を切らしながら見届けるキ ラとアスラン……

 

 

同じ頃……インフィニティと ゲイル、エヴォリューションとヴァニシングの戦闘も熾烈を極めていた。

ヴァニシングが後部ミサイル ポッドを開封し、ミサイルを放つ……だが、エヴォリューションのドラグーンブレイカーが縦横無尽に動き、ビームを乱射して壁となってミサイルを撃ち落と す。

爆発から飛び出し、ヴィサリ オンを連射する……何十発というビームの弾丸がヴァニシングに襲い掛かる。

「ちっ!」

舌打ちし、プラネットを起動 させて弾丸を防ぐ。だが、ドラグーンブレイカーが包囲するように取り囲み、先端にビーム刃を形勢し、高速で動きながら向かってくる。

展開範囲の狭いプラネットで それらを完全に防ぐのは困難であった……アディンは咄嗟にステルスライザーとのドッキングを解除する……独立稼動に移行し、ステルスライザーがミサイルを 放ち、弾幕を張る……動きの鈍ったドラグーンブレイカーを尻目にステルスライザーを踏み台に、ヴァニシングが跳び…ビームアクスを振り上げながらエヴォ リューションに迫る。

「はぁぁぁぁっ!!」

咆哮を上げながら振り下ろさ れる一撃を、リンはデザイアで受け止める……ビームが周囲に拡散し、閃光が包み込む。

「貴様は……貴様らは何 だ!? 何故、貴様らを見ているとこんなに苛立つ!」

自分でも解からない感情をぶ つけ、吼えるヴァニシング……無論、そんなアディンの葛藤など、伝わるはずもないが……それでも、リン自身も戸惑いを感じずにはいられない。

「これも運命か……私達 の!」

自嘲気味に表情を歪め、イン フェルノを抜いて薙ぐ。

薙がれた一撃に、左腕に構え ていたビームガトリング砲の砲身を斬り落とされ、爆発に弾き飛ばされるヴァニシング……アディンは忌々しげに舌打ちし、ステルスライザーの上に飛び乗る と、ステルスライザーの全火力を放つ。

ミサイル、レールガン、ビー ム砲の応酬が襲い掛かる……それに対し、エヴォリューションもドラグーンブレイカーと内蔵されている火器のロックを全て解除し、応戦した。

互いに全火器をぶつけ合い、 周囲が爆発と閃光に包まれる……だが、リンは全神経を周囲に張り巡らし……刹那、閃光の外からビームが飛ぶ。

だが、その一撃を発射と同時 に感じ取ったリンは身を翻し……インフェルノをブーメランのように飛ばした。

粒子を飛ばしながら回転し、 インフェルノがエヴォリューションの側面に伸びたワイヤーを斬り裂き、先端のガンバレルが支えを失い、海面に落下する。

同時に爆煙が流れ……ワイ ヤーを弛ませるヴァニシングが空中で静止していたが、やがて身を翻し、後退していった……

それより数分前……やや離れ た場所で激突するインフィニティとゲイル……互いにビームサーベルを握り締め、ヒットアンドアウェイのように幾度となく交錯し合う。

ウェンディスを羽ばたかせな がら、インフィニティがインフェルノを振り下ろすと、ゲイルはビームサーベルを薙いで受け止める。

間髪入れずに離れ、またもや 急接近する……ゲイルが薙いだ一撃をインフィニティは寸ででかわし、上体をバネのように前へと押し出し、インフェルノを振り下ろす。

ゲイルはそれをビームサーベ ルの根元で受け止め、ビームが装甲を焦がす……膠着する二機……刹那、ゲイルがサイドレールガンを零距離で放つ。

レイナは舌打ちし、インフィ ニティの身を翻し距離を取る。

「クックク……これはどう た、BA!」

ゲイルが左腕のファーブニル を発射する……インフィニティは咄嗟にバルカンを連射する。

弾丸がファーブニルの頭部に 着弾し、黒煙を上げる…だが、その攻撃を物ともせず、怯みもせずに黒煙を裂いてファーブニルが迫り、インフィニティを弾き飛ばす。

「ぐっ……!」

衝撃に一瞬呻くも……瞬時に 態勢を立て直し、オメガを放った。

高出力のビームをゲイルは右 腕で受け止める……いくらラミネート装甲を施されているとはいえ、その排熱にも許容範囲がある。

そのビームの熱に右腕の装甲 がやや溶け出す。

次の瞬間、ゲイルがサイド レールガンをあさっての方角に向けて発射する……その反動でゲイルは後方へと逃れ、ビームの奔流から逃れる。

間髪入れず、胸部のネオス キュラ、両腕の火炎放射を放った……インフィニティは機動性を発揮し、その奔流を掻い潜って回り込む…だが、それより早くゲイルがインフィニティに向かっ て肉縛する。

純粋な格闘戦なら、ゲイルの 方がアドバンテージが高い……間合いを詰め、拳を叩き入れる。

コックピットに走る衝撃に、 計器やモニターにノイズが混じる。

「ッククク、今一度言うぜ… BA……お前は弱くなったんだよ………あの瞬間からな!」

嘲笑を浮かべるウォルフ…… 脳裏に、燃え盛る鮮血の記憶が過ぎる………走馬灯のように走る情景に、歯噛みする。

「いくら鎧で身を固めよう と…いくら修羅であろうとしても……お前は非情になりきれない甘ちゃんなんだよっ!!

コックピットに響く嘲笑…… レイナは唇を噛み、操縦桿を握り締める。

「……黙れっ!」

それを掻き消すようにウェン ディスと各部バーニアを全開にしてインフィニティはゲイルに体当たりした……その衝撃にゲイルは押され、間合いを取るように一蹴する。

だが、間合いを取らせまいと インフィニティはインフェルノを振り被り、ゲイルに向かって振り下ろした。

態勢を崩していたゲイルはそ の一撃を右腕に受け、装甲が先程からのビームの熱でビームの拡散許容量を超え、右腕が爆発する。

ウォルフは舌打ちすると、全 身の排気口から黒煙を吐き出し、身を隠す。

動きを止めるインフィニティ の眼を晦まし、その隙にゲイルが黒煙を裂いて沖合に離脱していく。

ダメージと機体エネルギーが 既に乏しかったようだ……撤退していく様子を見やりながら、レイナは微かに表情を歪める。

いくら否定しようとしても、 心の何処かで非情になり切れない自分がいることに、レイナは言い知れぬ葛藤を憶える。

ビームの刃が消えると、そこ へエヴォリューションが近付いてきた。

「どうやら、他の部隊も撤退 しているようね………」

その通信に不意に陸地を見や ると、連合側のMS隊が後退していくのが見える……あの新型特機がいなければ、それだけで連合側には不利なのは明白だ。

二度も侵攻を防いだのは、恐 らく連合側にもオーブ側にも予想外だろうが……もう、次はない……こちらに補給・増援は一切ないのだから………

その時、インフィニティの コックピットに電文が入った……表示される文章に眼を通すと、レイナが呟いた。

「カグヤへと残存部隊は後 退…集結せよ……」

「カグヤ……確か、オーブの マスドライバー施設を有する群島のはずね」

リンが答え返すと、レイナは 軽く溜め息をついた。

篭城するために後退するので はないことぐらい、容易に想像できる……となれば………

「宇宙へ行くか……」

虚空を見上げ、やや逡巡する と……機体を翻し、インフィニティとエヴォリューションはカグヤに向かって飛翔していった。

 

 

 

地上でのしんがりを務めるス トライクがストライクダガーをビームライフルとレールガンを連射して撃ち抜き、バスター、ブリッツビルガーに合流する。

「おいっ! 後退する ぞ!!」

ムウが叫び、ビームライフル を連射してストライクダガーの足を止める。

その時、ミゲルのシグーがス トライクダガーのビームを受け、左腕が吹き飛ばされた。

「うおわっ!」

「ミゲル!!」

慌てて被弾したシグーを受け 止めるブリッツビルガー……

「ミゲル、大丈夫です か!?」

「ああ…だが、バランサーが やられちまったな……もう、ほとんど動きそうもねえし……」

計器パネルを操作しながら、 ミゲルは舌打ちする……元々、急遽無理な簡易改装を施したので、機体全体にもかなり負荷が掛かり、おまけにミゲルの操縦にも機体がついていけていないの だ。

この機体はもうダメか…と、 ミゲルがすぐさま決断するとコンソールを操作し、通信越しにニコルに叫ぶ。

「ニコル! これから脱出す るから受け止めてくれよな!」

「は?」

訝しげな表情を浮かべ、疑念 を口にする前にシグーのコックピットハッチが開き、ミゲルがブリッツビルガーの右手に飛び乗る。

ニコルは慌ててミゲルを潰さ ないように乗せると……刹那、シグーがフライトユニットのブースターを噴かし、飛び上がっていく。

驚愕する一同の前で、シグー は空中で弧を描きながら、なおも追い縋っていたストライクダガー隊の直上で爆発した。

あの瞬間、飛び立つと同時に 自爆シーケンスも起動させていたのだ……直上での自爆に、ストライクダガー隊は混乱し、チャンスだと思ったディアッカはライフルとガンランチャーを合体さ せ、対装甲散弾砲と同時に残存のミサイルを全弾発射し、ストライクダガー隊を葬ると……後方にいたストライクダガー隊がバックパックのバーニアを噴かして 後退していく。

「連中…またティータイム か?」

「理由は解からんがこちらに はありがたい」

「そうですね……こちらも離 脱命令がでてますし…一度、カグヤへと後退して体勢を立て直しましょう」

ストライク、バスター、ブ リッツビルガーの3機が後退していく……

 

 

その数分前……アルフのイン フィニートとレナのデュエルダガーも、火器の応酬で既にエネルギーと残弾に余裕がなくなっていた。

デュエルダガーはフォルテス トラを脱ぎ捨て、機動性を増してビームサーベルを展開しながらインフィニートの周囲を先程から威嚇するように回転している。

ナイフを構えるインフィニー トのコックピットで、アルフは冷たい汗を流しながら機を窺う……攻撃に移る瞬間が、唯一の好機だ。

刹那、デュエルダガーが回転 を止め、一気に駆け出した……反応するアルフの前で、デュエルダガーがビームサーベルを投擲する。

「っ!?」

舌打ちする……ナイフで弾け ば、間違いなく隙ができる……次の瞬間、アルフは躊躇うことなくインフィニートの左腕を掲げてビームサーベルを受け止めた。

ビームの刃が左腕を貫く…… そして、加速しながらもう一本のビームサーベルを振り上げるデュエルダガーに向かって急加速し、ナイフを突き立てて突進した。

振り下ろす間もなく、体当た りを喰らい…弾かれるデュエルダガーの頭部目掛けてナイフを投げ飛ばした。

ナイフがデュエルダガーの頭 部を貫いた瞬間……頭部が爆発し、デュエルダガーがその場に膝をつく。

レナはコックピット内で舌打 ちし、デュエルダガーを後退させていった。

アルフはその様子を複雑な面 持ちで見送ると、左腕を貫いていたビームサーベルを抜き取り、その場に放り捨てると身を翻し、後退していくオーブ軍に合流した。

 

 

一進一退の攻防を繰り広げる ダガーとロングダガー………MSを操るのはこれがまだ二度目だというのにシンは奮戦していた。

ビームライフルを連射し、ロ ングダガーを狙う……だが、ロングダガーもシールドでビームを受け止め、ビームライフルで応戦してくる。

だが、飛行能力を有する時点 でシンのダガーの方が優位なのは明らかだが……シンは、奇妙な感覚に捉われていた。

(何だ…この感じ………?)

眼前の機体から感じる奇妙な 既視感……懐かしさにも似たような感覚……自分は相手のパイロットを知っているような錯覚を起こす。

「くっ!」

だが、そんなはずはない…… 首を振ってその考えを打ち消す。

「でぇぇぇいい!!」

ビームサーベルを抜き、降下 しながら振り下ろす……ロングダガーはブースターを逆噴射してその一撃をかわす。

コックピット内で、ステラも また同じような感覚に捉われていた。

(はぁ、はぁ……な、に…… こいつ………)

息を乱しながら、ステラはダ ガーを睨み付ける……渦巻く奇妙な感覚にステラの頭が混乱していた。

「ううっ……う あぁぁぁぁっ!!」

内に巣食う獣のようにロング ダガーがビームサーベルを抜き、加速する。

シンもまたビームサーベルを 抜いて応戦する。

互いのビームの刃が交錯した 瞬間…エネルギーがスパークする……そして、シンとステラの身体を電流のような感覚が襲った。

二人の脳裏に走る光景……

 

 

―――――研究施設……

―――――幾人もの科学者と 幾本ものカプセル……

―――――その中に存在する 人影………

 

 

それらの光景が二人の脳裏に 映し出される。

(な、何だ……)

シンが浮遊感のような奇妙な 感覚に包まれ、困惑する……自身の機体も、相手のロングダガーもボディが幻のように消えていく……

(……懐かしい…それに…温 かい…………)

ステラもまた、はっきりしな い感覚の中にいた…だが、今まで感じていたものではなく…むしろ逆の安心するような感覚……自分が眠る揺り籠の中のような……

そして………シンとステラの 視線が交わる……………

 

 

『『…君(貴方)は………… 誰……?』』

 

 

互いの意識がシンクロし…… 手を伸ばそうとした瞬間……二人を包んでいた空間が音を立てて崩れた。

《ステラ! なにをボウっと している!!》

通信機から飛び込んできたカ ミュの叱咤に、ステラがハッと意識を覚醒させると…そこは自分の搭乗する機体のコックピット……ステラは未だ夢見心地のような顔で自身の手を見詰める。

《ちぃ……離脱命令か……撤 退するよ!》

パウエルからの通信に、カ ミュは忌々しげに吐き捨て、後退していく。

「………っ」

逡巡した後、ロングダガーも 身を翻し後退していく。

「まっ……!」

先程の共鳴の影響が残るシン が思わずその後を追おうとする……だが、そこへ銃弾が撃ち込まれ、足を止める。

ダガーの上を、戦闘機形態に 変形した制式レイダーが過ぎり……そのまま離脱していく。

呆然と見詰めるシンのダガー の近くにルシファーが着地する。

《大丈夫か、シン君!》

「あっ……は、はい………」

我に返ったシンが上擦った口 調で答え返す。

《深追いは危険だ……こちら も体勢を立て直す……カグヤまで後退する》

ルシファーが促し、後退して いく……シンは今一度、沖合へと消えていく機影を求めて視線を彷徨わせ……やがて、振り切るようにダガーを後退させた。

 

 

M1の繰り出したクローをス トライククラッシャーがデルタクローで受け止め、右腕のドリルアームを振り上げる。

バリーは顰めっ面でそれをか わす……ドリルの直撃を受けては、PS装甲を持たないM1では致命的だ。

《ホー一尉! 右肩のファン グウィップを!!》

「りょ、了解した!」

シルフィからの通信にやや戸 惑いがちに答える…今の状況で隙を見せれば即座にやられる……なんとか平静を保ち、バリーは右肩に装備された獅子の牙を右手に装着する。

獅子の頭部が右腕に装備さ れ、口が開き…ビームの牙が現われる………それを構え、バリーは眼を閉じて静かに佇む。

全身が空気と一体化したよう に周囲が無音に包まれる……刹那、眼前で乱れる空気の流れを感じ取り、眼を見開く。

それに呼応するようにバック パックのブースターノズルが火を噴き、急加速する。

「ほぉぉぉぉぉっ!!」

「うおぉぉ りゃぁぁぁぁぁっ!!!」

ビームの牙とドリルが激突す る……衝撃波が周囲に飛び……ドリルが砕け散った。

「うおおっ!!」

右腕を破損するストライクク ラッシャー……いくら高速回転を誇ろうとも、カウンターの要領で繰り出されたビームの一撃を受けては装甲がもたない。

「ワイズ!」

そこへクルツのストライクク ラッシャーがシュラークを連射して援護する。

「ぐっ……今回は俺の負け だ…だが、次は絶対にてめえをぶちのめしてやるからなぁぁぁっ!!」

お決まりの文句を叫び、クル ツに援護されながらワイズのストライククラッシャーが撤退していく。

深追いはするつもりはない… いや、むしろできないに近い……機体のエネルギー残量も既になく、また装備したGBMのパーツからも故障を表すような黒煙が噴出している。

レッドシグナルが点灯する コックピット内で、バリーは一息つくと……その場を静かに去った。

 

 

 

カラミティ、フォビドゥン、 レイダーがバッテリー切れで撤退してくるのを冷ややかに見るアズラエル……

「あいつら…これだけ強化し てやっても結果が出せないとは………」

時間と金をかけて最強の強化 兵にしてやったというのに、MSの数機も墜とせないとは……溜め息をつく。

そして、遅れてゲイル、ヴァ ニシングも帰還してくる……まったくとさらに肩を竦める。

「やれやれ……まだまだです ね………」

その漏らした一言に、ダーレ スは過敏に反応する……アズラエルのご自慢の機体が自軍の艦隊直上で、しかも眼下への被害も露に思わず戦闘をしたおかげで艦隊にも甚大な被害が出ている。

言わば、友軍機に撃沈された も同然だというのに……ワナワナと拳が震える。

できるのなら、この男を今こ の場で殴り倒したかったが、それをなんとか自制し、ダーレスは声を張り上げて指示を出すこと気を逸らした。

「補給作業、急げ!!」

 

 

 

 

オノゴノを中心に展開してい たオーブ全軍が此度のオーブ侵攻の原因ともなったマスドライバー施設を有する群島の一つ、カグヤへと集結した。

天空へと伸び、聳え立つ傾斜 を描くマスドライバー……その脇の仮設ドックにネェルアークエンジェルが収容され、現在補修作業を受けている。

ストライク、インフィニー ト…そしてシンのダガーがネェルアークエンジェルに収容され、その傍にはインフィニティ、エヴォリューション、フリーダム、ジャスティス、バスター、ブ リッツビルガーがディアクティブモードで佇み、コックピットから降りたパイロット達は一度、カグヤの管制室へと向かった。

マリューもムウ、アルフ、ノ イマンを伴い、そしてそれにキョウも同行して管制室を訪れていた。地球連合がこの施設の奪取を目的としている以上、ここにはそれ程大規模な攻撃はできない と踏み、ここで篭城して最後の抵抗を試みるとマリューは考えていたが、キョウだけはウズミの意図を理解していた。

その選択は、ウズミの望むも のではない……そして、その真意も………

「オーブを離脱!? 私達に 脱出せよと、そう仰るのですか!? ウズミ様!」

レイナ、リン…キラやアスラ ン、ディアッカやニコルが管制室を訪れると……そこにはウズミに問い詰めるような口調でウズミに向き合うマリューの姿があった。

そこには、カガリやシルフィ の姿もある。

マリューにはウズミの言葉が 理解できなかった……いや、むしろ自分達の立場を配慮してそのような提案をしたのでは、と勘ぐってしまうぐらいウズミの言葉が理解できなかった。

自分達もまた、オーブの理念 に賛同したからこそこの場にいるとマリューは心から思っていた……だが、ウズミの意志はマリューの考えよりもさらに深い場所にあった。

「貴方方にももうお解かりで あろう……オーブが失われるのも、もはや時間の問題だということを……」

穏やかな視線を浮かべ、その 場にいる全員の顔を見渡す……一人一人、深淵は違うだろう……その意気を確認したウズミは微かに表情を和らげた。

だが、そんなウズミの態度に カガリが狼狽した様子で声を掛ける。

「お、お父様……な、何 を………!」

カガリの声が震える……彼女 は父親の言葉の意味が解からない…いや、もはや理解してはいるのであろう……ただ、受け入れたくないのだ。

 

――――オーブという国が失 われるという現実を………

 

だが、それは誰にも理解でき た。もう、そのオーブを護ることが不可能であることを……憎しみが覆う世界の中で唯一輝き続けた南洋の宝石は、今日その輝きを失うことを……

「……人々は避難した。支援 の手もある………」

ウズミが視線をキョウへと向 けると、その意図を察したキョウは表情を曇らせて小さく頷く。

「……後の責めは、我らが負 おう」

口調に苦いものが混じり、沈 痛な表情を浮かべる……指導者として……今日までオーブという国を護ろうとしてきたウズミの想いが、今日を境に潰える……それは計り知れない苦渋だろ う……だが、それでもなおウズミの表情は苦いものを漂わせながらも悲壮を感じさせない。

ひょっとしたら、この日を既 に予期していたかもしれない……

「……が、たとえオーブを 失っても…失ってはならぬものがあろう………」

言葉の中に込められる憤 り……その穏やかな瞳に微かな憤怒の炎を漂わせて言う。

「地球軍の背後にはブルーコ スモスの盟主、ムルタ=アズラエルの姿がある……」

その言葉に、キラ、アスラ ン、ディアッカ、ニコルが驚きに息を呑む……だが、レイナとリンは微かに眼を細めるだけだ。彼女らは既にそれを知っている……地球連合が……いや、ザフト ももはや一人の人物の傀儡でしかないことを………

その事実にマリューらは衝撃 を受けつつも、既にその可能性を見出していた。JOSH−Aでの査問会で感じたあのコーディネイターへの偏見と嫌悪感を漂わせた雰囲気は、既に大西洋連邦 の上層部がブルーコスモスの思想に染まっていたのだ。

「そしてプラントも今や、 コーディネイターこそが新たな種とするパトリック=ザラの手の内だ」

その言葉にアスランが辛そう に俯き、キラとディアッカがいたわるような視線を向け、ニコルが気遣うように肩を軽く叩く。

自分達と同じように…彼らも また、そんなプラントの在り方に疑問を抱いたからこそ……共に戦ってくれたのだと、マリューは心の内が熱くなる。

「このまま進めば、世界はや がて…認めぬ者同士が際限なく争うばかりのものとなろう……そんなものでいいのか!? 君達の未来は!」

厳しい口調で述べるウズミの 表情に、ようやくマリュー達もウズミの意志を感じ取った。

「別の未来を知る者なら、今 ここにある小さな灯を抱いて、そこへ向かえ……またも過酷な道だが……解かってもらえような…マリュー=ラミアス………」

重々しく語るウズミの表情が フッと和らぎ……父のような温かなものに変わり、沈痛な面持ちで唇を噛む若い艦長を優しい眼で見やった。

ウズミはマリューらの立場に 遠慮したわけではない……この世界を最悪の方向へと向かわせないため……自らの意志を継ぐ者として認め、そしてなお……より厳しく、険しい道を指し示して いるのだ。

託される意志の重さに、マ リューは不安げにムウを見やると……マリューの不安を受け止め、力強く頷き返す……マリューは改めて思う。

もう、艦長だからと自分一人 に背負い、悩む必要はない……今の自分には、共に進む仲間達がいる……マリューは涙を堪え、静かに敬礼する。

「……たとえ、小さくとも… 強い灯は消えぬと………私達も信じております…!」

「……では、すぐに準備 を…」

「はっ!」

力強く答え返し、マリュー達 は管制室を退室する……ウズミは半泣きになっているカガリの頭を撫でると…残されたパイロット一人一人に視線を向け、そしてその視線がキラに止まる。

「…?」

その意図が解からず、問い掛 けるようにキョトンと見つめ返してくる。

ウズミは何も言わずに視線を 逸らし、レイナやリンに向ける………

(運命……いや、全ては必然 なのかもしれん………彼らが出逢ったのも………告げるべきなのであろうな……)

決して真実を告げぬと誓った 二人の夫婦には申し訳ない罪悪感を感じ、ウズミは視線を落とす。だが、ウズミはもうカガリの傍にいてやることはできない。

だからこそ……せめてこの真 実だけは伝えておかなければならない………そして、それが彼らを苛めないことを…静かに祈った………

 

「父上……?」

ウズミの話を聞いていたシル フィも、不安な面持ちで養父であるシラギに向き直る。

ウズミよりもやや老年の男 は、穏やかな笑みを浮かべてシルフィの頭を撫でる。

「聞いた通りだ……シル フィ、お前もいきなさい……お前は、ここで立ち止まるべきではない……」

「父上……」

「これから先、お前には過酷 な運命が待ち受けているやもしれん……だが、私はお前がそれに負けず、乗り越えてくれることを信じておる……」

たとえ、血の繋がりはなくと も……シラギはシルフィにとっての父親なのだ。

眼に涙を浮かべ、シラギの身 体に飛び込む…胸ですすり泣くシルフィの頭を優しく撫で、娘の不安を取り除こうとする。

「さぁ、行きなさい……お前 は私の…ストラウスの娘だ………その意志を無くさないでくれ」

「ぅぅ……はいっ」

涙眼で答えながら、シルフィ は決然とした面持ちで父親に答え返した。

 


BACK  BACK  BACK



inserted by FC2 system