注)もしよろしければ、最後のシーンは是非『暁の車』を聴きながらお読みください。

それなりにシーンを盛り上げ ると思います。

 

 

 

 

 

ウズミの指示のもと、ネェル アークエンジェル、そしてオーブ艦、イズモ級2番艦:クサナギの発進準備が急ピッチで進められている。

かつて、ヘリオポリスとの連 絡用艦艇として使われていた定期便…その本体:第4区画のみが分離し、地上を行き来できるという効率のいい構造となっている。

マスドライバーの発進口にせ り上がり、本体がカタパルトにセットされる。

《ジャンクション、結合…カ タパルト接続、確認しました》

《投射質量のデータに変更が ある》

管制室の通信が飛び交う中、 クサナギの後部ブロックには集結した残存のM1部隊が待機し、その先頭にはグランのM2が佇んでいる。

機内への搭乗ハッチが開く と、グランが不安な面持ちでいるM1部隊のパイロット達に渇を入れるように怒号を上げる。

「各機、これより速やかに乗 艦せよ!」

グランのM2が先頭を切って 格納庫内へと歩み出し、それに続くようにM1部隊が搭乗していく。

そして、詰めるだけの物資を 積み込んでいく……クサナギのメインコンピューターには既にモルゲンレーテの全データがバックアップされている。

これから先、宇宙でMSを運 用・調整するためにだ……そして、2台のトレーラーがクサナギに乗り込んでいく……荷台と思う後部には、MS用の大型メンテナンスベッドのような巨大な台 座があり、そこにはシートを被せられているが、MSらしきシルエットが見える。

その様子を管制室のモニター で見詰めながら、ウズミは通信を開いていた。

《……解かったよ》

モニターに映る老成の女性、 ジャンク屋組合のフォルテがややぶっきらぼうな口調で答え返した。

「すまん…」

《あんたが決めたことだ ろ……あたしがとやかく言うつもりはないよ……地球軍の撤退後、オーブの後始末はしておくさ》

そこまで言うと、煙草を徐に 取り出し、火をつける……一服すると、やや呆れたように口調でウズミに話し掛ける。

《ウズミ……あんたは急ぎす ぎたんだよ………ナチュラルとコーディネイターの差をなくそうとしても、なくなりゃしないのさ……上手に扱うべきだったんだよ…》

「……かもしれん」

自嘲気味に笑い、肩を落と す。

人種以上に能力に差が出てし まったナチュラルとコーディネイター……その二つを共存させようとするのは、同じ場所では不可能だということに……『個』としてではなく、『種』として両 者を共存させるためには、やはり一線を引くしかない……フォルテはそう認識している……飴と鞭…両者をうまく扱えば、それは益となる………フォルテはそう やって、ジャンク屋組合をここまで大きな組織にしたてた。

「オーブという場所は今日、 消える……だが、その在り方を忘れぬ者達がいる限り、オーブは決して滅びぬ……」

《頑固だね…昔から………あ んたともう酒を交わせないのは残念だよ……》

煙草を離し、その場に押し潰 す。

《あたしが逝く時には…… ちゃんと酒を用意しておいてよ》

冗談じみた口調で呟くと、通 信を切った……ウズミは苦笑を浮かべ、息を吐く…そして、後ろを振り返り、そこにフォルテとの会合をセッティングしたキョウが佇んでいた。

「アスハ代表……」

「すまんな……君には…い や、君達親子にはまた迷惑を掛ける………」

「いえ……」

済まなさそうに声を掛けら れ、キョウは静かに首を振る。

「さぁ、君も早く行きたま え……君もまた、こらから先に未来がある者だ…年寄りには過去しかないが、君達には未来がある……」

父親のような温かい眼でキョ ウを見詰め、視線を管制室のガラスから見える空へと移す。

「宇宙へ行けば、奴が待って いよう……何かあれば、アメノミハシラへと向かいたまえ。サハク家の者がそこにいよう……」

「あの子は……娘はどうする のですか?」

やや怪訝そうに見るキョウ に、ウズミは視線を離れた場所で見守っているカガリに向けると、その不安な面持ちにやや息を吐いた。

「あの子はまだ…オーブを任 せるには真っ直ぐすぎよう……真っ直ぐなのはよいことだが、それでは国は立ち行かん……だからこそ、私はサハク家に…いや、サハク家の姉にオーブの行く末 を託そうと思う……彼女は、オーブを…民をまだ愛している……私もまた、父である前に国を護る者だ」

力強く言い切ると、ウズミは 表情を険しくし、キョウを見やった。

「さぁ、急ぎたまえ……君の 妹にも、よろしく頼む」

「ええ……ですが、僕の妹で あると同時に彼女もクズハの娘です」

「フッ……そうだな…君らの 武運を祈る」

ウズミは静かに言い、キョウ は敬礼で答え、管制室を後にした。

 

「………クズハ…そしてヒビ キの名をもつ者よ………君には、過酷な運命があろう…だが、君にもまた未来を掴む権利はあるのだ………」

その発せられた言葉は、誰に 聞こえることもなく虚空に消えていった………

 

 

ネェルアークエンジェルが収 容されている仮設ドックでも慌しく作業が続いている。

装甲の補修や装備の補給…… そして物資の搬入……格納庫にも、クサナギと同じようなMS運搬用のトレーラーが一台搬入されていく。

そして、両舷側部に大気圏離 脱用の補助ブースターが装着されていく。

ネェルアークエンジェルはそ の巨体故にマスドライバーで射出することができず、またいくら強化されたとはいえ、単体での推力では到底成層圏を突破できるだけの第一脱出速度の時速2万 7千8百kmには達しない。そこでクサナギに使用されていた予備ブースターを組み合わることで、外部から推力を強化し、強引に推力を上げる方法を取った。 艦本体への負担は当然大きいが、この状況ではそれが最善の策だった。

《クサナギの予備ブースター を流用したものだが、パワーは充分だ》

モニターに映る首長の一人が 説明し、サイはマニュアルを片手に作業を行い、CICでも大気圏離脱用のプログラムを入力していく。

操舵席にはノイマンが、そし てコパイロット席には乗艦したモラシムが担当している。

「解かりますか?」

ノイマンが問い掛けると、モ ラシムは軽く笑みを浮かべる。

「ザフトのものとは多少毛色 が違うが……なに、大丈夫だ……」

地球の荒波で鍛えた腕は伊達 ではない……モニターには、大気圏離脱用のプロセスが映し出され、それを確認する。

《ローエングリン斉射と同時 に全開に…ポジトロニック・インターフィアランスを引き起こし、それでさらに加速する……》

 

一方、マスドライバーではク サナギのカタパルト位置への移動が始まり、先端に大気圏突破用の耐熱カバーを装着する。この後、宇宙で他の区画パーツと合流するためだ。

管制室の中も、既に首長達の みで作業を行っている。

「アークエンジェルの方 は!?」

「現在、ブースターの最終 チェック中です」

「急がせい! 時はそうない ぞ!」

怒号に近い声で指示を飛ばす ウズミの周囲で、先程からカガリが纏わりついている。

「お父様、脱出は皆で! 残 してなどいけません!」

既に残存兵力はクサナギへの 乗艦が完了し、カガリも早く乗艦せねばならないのだが、父親達がここに残ると聞き、カガリは拒んでいた。

自分達が逃げられても、ここ に残された父達がこれから地球連合から受ける仕打ちを思うととても気が気ではない。戦争においては勝者こそが正しいのだ。

「お父様!」

父が意志を変えるはずがな い……それはカガリ自身がよく解かっている……だが、それでもなお説得しようと食い下がる。

 

 

 

ネェルアークエンジェルの仮 設ドックの傍では、パイロット達が議論を交わしていた。

キラやレイナはまだいい…だ が、その他のメンバーは成り行きとはいえ、未だザフトのパイロットでもあるのだ。

彼らにとっては今まで同じ、 地球連合が相手だった……故に今回の戦いにも左程、懸念を抱かずに戦えただろうが、明日はそのザフトが敵になる可能性もある。

「そりゃ、このままカーペン タリアに戻ってもいいんだろーけどさ…どうせ、戦ってんのは地球軍なんだし……」

あっさりした調子で言うディ アッカ……だが、その態度はいかにも戻りたくないと言っているようだった。

「ディアッカ、素直に言いま しょうよ……この艦と一緒に行くって」

「そうそう……人間、素直が 一番」

苦笑を浮かべながら嗜めるニ コルとミゲルに、ディアッカがそっぽを向く。

だが、ニコルもミゲルも既に 心持ちを決めている……自分が信じた道を行こうとしている……だが、それが重要なことなのかもしれないとアスランは改めて思う。

「……ザフトのアスラン=ザ ラ…か」

ポツリと自虐的に呟くアスラ ン。

「彼女には解かってたんだ な……」

視線がアスランに集中す る……アスランは、己に言い聞かせるように言葉を紡ぐ。

「国…軍の命令に従って敵を 討つ……それでいいんだと…仕方ないと思っていた………それでプラントを護れるなら……こんな戦争が一日でも早く終わるなら……と」

それではダメだと気付いてし まった……だが………

「だが……じゃあ、俺達は、 本当は何とどう戦わなきゃならなかったんだ?」

自身の信念を思い描けないこ とを歯痒く感じていた……軍という組織に属し、ただただ父の人形として敵を殺し続けることが、自分の望む未来への道だとは到底思えない……

「アスラン……貴方は別に、 人形である必要はない」

思い悩み、問い掛けるような 視線に答えるリン………

「子は親の従属物ではな い……パトリック=ザラの傀儡として生きるのも確かに一つの道だ……だが、それはあくまで可能性だ……アスラン=ザラという人間として生きる道もある…… それを選ぶのは自分自身だ」

苦笑を浮かべ、レイナを見や る……自分も拘っていないと言えば嘘になる…だが、別の道があろうとも選べるとは思っていない…自分は既に、そう運命付けられているのだから。

リンの言葉に、アスランは黙 り込む……アスラン=ザラとして大切なものを護るために戦う……悩むアスランに、キラが笑い掛けた。

「一緒に行こう、アスラ ン……探せばいいよ、それも………皆で」

曇りのない笑顔を浮かべ…… キラは空を見上げる。

迷っていいのか……思わずそ う自問する。

「……一度や二度悩んでも、 答なんて出やしない……いえ…ひょっとしたら、悩んだ末に出した答も正しいか間違っているかなんて言えない………」

不意に、レイナが口を開い た。

「だけど…立ち止まることは できない………もし間違っていると思ったなら、また別の道を探せばいい…それが自分の信じる道なら……覚悟をもって進まなきゃいけない……」

後悔しない道を選ぶなど不可 能だ……だが、悩み、迷い……そして人は道を選択して生きていかなければならない………その道が正しいか間違っているか……それを判別するのは自分であ り、人なのだ。

全員が顔を見合わせ、頷い た。

 

 

 

慌しい時間を経過し、ようや く発進準備が整った。

カタパルトハッチが開き、ク サナギが発進態勢に入る。

《カグヤ周辺の気象データ は、全て許容範囲内………》

発進シーケンスを進める中、 沖合に停泊していた地球連合艦隊から6つの光点が発進したのを確認した首長の一人が声を上げた。

「レーダーに機影じゃ!  MSが6機じゃ!!」

年輩の首長の一人が声を荒 げ、管制室とネェルアークエンジェル、そして周辺の施設に警報が鳴り響き、緊張が走る。

 

 

「来たか……!」

レイナが顔を上げ、リンを見 やると……その意図を理解したリンは頷いた。

「キラ、アスラン…そして貴 方達……」

声を掛けられ、機体に乗り込 もうとしていたキラ達は思わず動きを止める。

「敵は私とリンで抑える…… 貴方達はネェルアークエンジェルへ」

「レイナ……!」

その言葉の意味を理解したキ ラが声を上げる。

アスラン達も怪訝そうな表情 を浮かべている。

「しんがりは私達が務め る……なに、最悪でもクサナギは無事に宇宙へと飛ばさせる……犠牲になるのは二人だけで済む」

自分達がこれからやる事をま るで他人事のように淡々と語るレイナ。

「だけど…っ!」

「フリーダムとジャスティス はともかく……バスターとブリッツには飛行能力がない…どちらにしろ無理だ」

リンにそう言われ、ディアッ カとニコルは言葉を詰まらせる……確かに、両者の機体には単機での飛行能力がない。

「だったら、せめて俺達 も……!」

フリーダムとジャスティスの 両機は少なくとも単独での飛行が可能で大気圏突破も可能だ。

いくらなんでも、インフィニ ティとエヴォリューションの2機だけで発進までの防衛は難しいと考えた。

「よく考えなさい……もしフ リーダムとジャスティスまで失ったら、宇宙へ行った後の戦力が低下する」

冷静にそう答えるが……それ でもまだキラとアスランは食い下がる。

「なら、こう言おう……足手 纏いはいらない………」

やや睨むような厳しい視線を 送られ、キラとアスランは思わず息を呑む……レイナはそれ以上話そうとはせず、無言のまま身を翻し、インフィニティへと乗り込んでいく。

その姿を見送ると、リンが声 を掛けた。

「そういう訳だ……貴方達は 万が一に備えて動け……貴方達の力はこれから先も必要になる」

そう言い残すと、リンもまた エヴォリューションに乗り込んでいった。

APUを起動させ、両機の瞳 が紅く煌き、駆動音を響かせる…2機に漆黒のカラーリングが施され……排気口から煙がこもれ、スラスターが唸りを上げる。突風を巻き起こしながら、イン フィニティとエヴォリューションは空中に舞い上がった。

その姿を呆然と見送る……キ ラ達は顔を見合わせる………彼女達は自分達を行かせるために敢えて危険なしんがりを買って出たのだ。

その思いを無駄にはできな い……4機はレイナとリンの意思通り、ネェルアークエンジェル内へと収容されていった。

 

 

カガリが緊張と不安が入り混 じった表情で見守る中、ウズミがネェルアークエンジェルへ通信を入れた。

《ラミアス殿、発進を!》

《解かりました!》

仮設ドックの上部を吹き飛ば し、ネェルアークエンジェルがその巨体を傾け、発進態勢に入る。エンジンが唸りを上げ、火を噴く……

《艦首上げ20、ローエング リンスタンバイ!!》

ネェルアークエンジェルの両 舷ブレードの先端から、より精度を高めたローエングリンの砲口が姿を見せる。

エンジンが徐々に出力を上 げ、左右のプラズマブースターも同じように出力を上げる。

《ネェルアークエンジェル、 発進!!》

《ローエングリン、撃 てぇぇぇ!!》

マリューとキョウの勇ましい 声と同時にローエングリンが火を噴いた……空中で拡散した陽電子がポジトロニック・インターフィアランスを引き起こし、エンジンと増加加速ブースターが一 斉に稼動し、ネェルアークエンジェルへ爆発的な推力を与え、天へと向けてその巨体を飛び立たせていった……

ネェルアークエンジェルが軌 道速度へと達したのを確認すると、レイナとリンは機体を向かってくる敵影へと向けた。

まだ距離があるが……モニ ターに映るのは、例の新型特機5機に試作量産機の一機だ。

「来るわよ、姉さん!」

リンが声を上げ、レイナはカ グヤのマスドライバー管制室へと通信を繋いだ。

「こちらレイナ……大天使は 宇宙へ飛んだ……クサナギの発進はあとどれぐらい掛かる?」

冷静に通信機に向かって呟く と、意外な人物の返事が返ってきた。

《5分もいらん……すまん、 頼む!》

やや呆気に取られたが……や がてフッと口元を緩める。

「心配無用だ……最悪、身を 呈してもクサナギは無事に宇宙へと飛ばす」

《……いや、君らも必ずいか ねばならない…君らも必ず脱出しろ!》

こんな時でも気遣うことに、 レイナは苦笑を浮かべた。

「……解かった。だが、常に 最悪の事態は想定しておけ………私が………」

一瞬、呑み込みそうになった 言葉を、やがて顔を上げて呟いた。

 

「私が…父から言われた言葉 だ………」

 

その言葉に、ウズミだけでな くリンもやや驚きに息を呑む。

「……クサナギの誰かに伝え ておくといい。宇宙へ行ったらL4宙域へ行けとな…あそこは、未だ人がほとんど立ち入らない……身を隠すには打ってつけだ」

ヘリオポリスに身を寄せてい た頃に調べた情報を口にすると、通信の向こうでウズミが表情を険しくしたが……レイナにはそれが読み取れなかった。

「後は、私の秘匿コードにあ る人物と連絡を取れるようにマルキオ導師に手配してある。コードはキョウが知っているはずだ……」

それだけ伝え終わると、レイ ナは小さく息を吐き出した。

「ウズミ=ナラ=アスハ…… 貴方は確かに人の親としては良い父だったのかもしれない…でも、指導者としては潔癖すぎたのよ……あの子に全ての責任を押し付けるの?」

レイナの知る限りにおいても 少なくとも『父親』としては良かったのかもしれない……だが、指導者としては頑固すぎた。

そして、勝手に遺して逝くの も一緒か……と、レイナはやや溜め息をついた。

それを指摘され、ウズミは失 笑を漏らした。

《そうだな……だが…子は親 を超えていくものだ……我々が成し得なかったことも、次の世代がやってくれよう……これも、君の父から教えられたことだ》

不意打ちを喰らったようで、 レイナはややポカンとしたが……やがて小さく笑みを浮かべた。

《そのためにも……君らも必 ず生きたまえ……君らのこれから先に、数多の試練があろう……だが、それを乗り越えてくれると信じておる!》

レイナは意味がよく掴めな かったが……その意図を察したリンは表情を微かに歪めた。

だが、それも接近してきた敵 機を告げるアラートに掻き消された。

………5分。それだけ持ち堪 えられればいい……インフィニティとエヴォリューションが離脱していくネェルアークエンジェルに向かって銃口を構えるゲイルとカラミティを狙撃し、襲い掛 かった。

 

 

 

通信を切るウズミに、背後か ら忍び寄る冷たい悪寒にカガリは既に泣き出しそうになっている。そのため、先程の通信もほとんどよく聞いていなかった…それ程頭が混乱していた。

だがそれでも、ウズミがこの 場を梃子でも動かないことだけは察しできた。

「お父様ぁ……」

「お前はいつまでグズグズし ておる! 早く行かぬか!!」

情けない声を上げるカガリを 一喝する。

「し、しかし……」

なおも逡巡するように管制室 の下部を見やる……このまま自分達が去れば、残る父達の運命は……だが、そう悩む時間すら許されない。

「MS接近! 距離15 じゃ!!」

カガリにとっても馴染みある 首長の一人がそう報告すると同時に、カガリは腕をウズミに取られた。

「ああっ……!」

必死に抵抗するカガリに、業 を煮やしてウズミが厳しい声で告げる。

「我らには我らの役目……お 前にはお前の役目があるのだ!」

「でも……!」

なおも言い募り、首を振るカ ガリに向かってウズミは怒鳴った。

「想いを継ぐ者なくば、全て 終わりぞ! 何故それが解からん!!?」

カガリはひゅっと息を呑んで 押し黙る……ウズミの言葉は理解できても、感情が納得しない……そして、カガリの中には先程から冷たい感情が渦巻いていた。

まるで、このまま離れ離れに なるような冷たい予感……

引き摺られたまま、クサナギ の発進デッキへと到着するとハッチ付近にはカガリが来るのを待っていたキサカが佇んでいた。

「ウズミ様…カガ リ………!」

焦った声を上げるキサカに、 時間がないとばかりにカガリの身体を投げつけるようにキサカに押した。

「急げ、キサカ! このバカ 娘を頼んだぞ」

「はっ!」

託された思いに、キサカもま た万感の思いで自分が信じて仕えてきた者に答える。

「お父様!」

だが、カガリは最後まで拒ん だ。

 

 

 

インフィニティとエヴォ リューションの姿を確認した6機の内、5機がマスドライバー施設の制圧という任務も忘れ、襲い掛かってきた。

オルガ達はフリーダムとジャ スティスがいないのが不満だが……それでも敵がいるなら倒したいと本能が叫ぶ。

インフィニティに……いや、 レイナに異常な執着心を見せるウォルフもまたゲイルを駆ってインフィニティに向かう。

ファーブニルを飛ばす……伸 びる龍の一撃をかわし、レイナはダークネスを放つ。

ゲイルが機体を翻してビーム の射線をかわす…その後方からレイダーに乗ったカラミティがシュラークを連射して突っ込んでくる。

砲戦仕様の機体が前面に出て くるという事態にレイナはやや呆れるが、その突進をかわし、デザイアで後方から狙撃する……カラミティを乗せている以上、レイダーもそう派手な旋廻行動は 取れない。おまけに高度が高すぎてカラミティを落とせば、カラミティは戦いに加われない…まあ、普通ならそれでいいのだが……今のオルガ達はあくまで眼の 前の敵を倒すことしか興味を示さないので、レイナにとってはありがたい。

ビームの一射が機体を掠め、 レイダーが失速する。

だが、ゲイルがビームサーベ ルを振り上げて迫る……振り向きざまにインフェルノを抜き、薙いで受け止める。

ビームの熱が周囲に拡散し、 スパークする。

暴走する5機とは裏腹に、イ リューシアの制式レイダーは忠実に任務をこなそうとマスドライバーに近付いていく。

だが、それを阻むようにエ ヴォリューションが回り込む。

「邪魔はさせん!」

デザイアで制式レイダーを狙 い撃つ……機体を旋廻させて回避する。

コックピット内でイリューシ アは僅かに唇を噛む……このままでは、任務が実行できないと踏んだのか、最優先殲滅目標をエヴォリューションに変更し、襲い掛かってきた。

だが、リンには好都合だ…… 相手の注意を引き付けられればいいのだから……突撃してくる制式レイダーを身を捻ってかわす…間髪入れず、海中に身を潜めていたフォビドゥンが飛び出し、 フレスベルグが放たれる。生物のように曲がるビームが襲い掛かるが……リンは冷静にビームの偏屈の軌道を読む。

湾曲できるのは確かに脅威だ が、それでも連射速度はさほど速くない……おまけに、ビームが偏屈するのはあくまで最初の一回だ。

その軌道さえ見切れば、脅威 にはならない……おまけにパイロットも動きが単調すぎる。

フォビドゥンの攻撃はあくま で回避に徹し、リンは注意をヴァニシングへと向けた。

厄介なのはこいつだけなの だ……ヴァニシングは全身に装備された多才な火器で砲撃してくる。

だが、その火器も特性をある 程度分析した以上、対処は簡単だ……ビーム攻撃だけをデザイアで受け流し、ミサイルなどの実弾兵器はPS装甲である程度中和する。

レイナもリンも神憑り的な見 切りを見せていた……戦いの中で彼女らに培われた能力が、相手の能力を分析させ、攻撃を見切り、さらには対処手段を見出す。

一度見せた武器や技は二人に はほとんど通じない……だが、それもあくまで時間を稼ぐだけだ。攻撃に転じるにはやはり数の上での不利は覆せない………無論、無理に戦う必要はない。クサ ナギが発進するまでの時間が稼げればそれで良いのだ。だが、相手もこちらを墜とすことに躍起になっている以上、このままではクサナギに飛び移る時に邪魔を される恐れがある。

ある程度のダメージは与えて おく必要があった。

レイナとリンは防御と回避に 徹しながら、呼吸を荒くしていた………

操縦桿を握る手が震え、感覚 がよりシャープに変わっていく………まるで、機体そのものと一体化したような感覚だ。

「インフィニティ……無限の 力………」

「エヴォリューション…お前 が進化の可能性を秘めるというのなら………」

 

 

「「その力、私に示せっ!!」」

 

 

――――――ドックン……

 

その叫びに呼応するように、 二人の中で何かが鼓動し……インフィニティとエヴォリューションのシステムの一部が起動した。だが、レイナとリンはそれに構わない。

 

【IRPAsystem  Standing By】

 

眼前の広範囲を示すモニター に文字が表示される。

 

Red Red   Not Awaking

 

警告を促す文字が表示される が、レイナとリンは気にも留めない……レイナとリンは感覚が導くままに操縦桿を引き、スロットルを全開へと引き上げていく。

スラスターが鋭い唸りを上 げ、加速から発生するGが身体を圧迫する。

 

【Drive】

 

刹那、コックピットの周囲が 閃光に包まれる……だがそれもほんの一瞬…………

しかし、レイナとリンの感覚 はさらに機敏となった。

視界がよりクリアに変わり、 相手の動きがまるで手に取るように見える……まるで、水の中を動いているような感覚……

インフィニティとエヴォ リューションが瞳をより紅く輝かせ、動きが変わった………

 

 

 

泣きじゃくるカガリに向かっ て、ウズミは険しかった表情を微かに緩めた。

「……そんな顔をするな。 オーブの獅子の娘であろう」

「うっ…でも……っ!!」

優しい仕草で頭を撫でられ、 カガリは余計眼に涙を浮かべた……自分は、本当にこの父親を尊敬し、愛していたことを………カガリは今になって後悔していた……独り善がりに勝手に衝突し て、何も父のことを知ろうとも聞こうともしなかった自分が酷く腹立たしかった。

「父とは別れるが…お前は独 りではない………」

やや躊躇いがちに懐に手を入 れ、ウズミはカガリに何かを差し出す。

それは一枚の写真だった。優 しげな若い女性が二人の赤ん坊を抱いている写真。

「きょうだいもおる……」

「え?」

差し出された写真を戸惑いな がら見詰めていたカガリは、何気なく裏を見やると、眼を見張った。

 

―――――キラ・カガリ……

 

驚愕した面持ちで顔を上げる と、ウズミは神妙な表情で黙って頷く。

その事実に困惑し、問い掛け ようとする前にウズミは微笑みながら一歩下がる。

「……レイナとリン……彼女 らがこの先の道標となろう…………そなたの父であれて……幸せであったよ……」

刹那、タイミングを計ったよ うにハッチが閉じられた。

「ああっ…!」

カガリはハッチに縋り付き、 ガラスを叩く……タラップに立つウズミが離れていく。

その距離が、まるで父との別 れを示しているように………

「行け、キサカ! 頼んだ ぞ!!」

最後の声を掛けると、ハッチ を隔壁が覆う。

「お父様っ! お父様っ!!  お父様ぁぁぁぁぁっ!!!」

カガリの声も虚しく響く…… 運命は動き出す………デッキに発進を告げる管制官の声が響く。

《ディビジョンC以外の全要 員の退去を確認……オールシステムズ、ゴー……クサナギ、ファイナル・ローンチ・シークエンス、スタート……ハウメアの護りがあらんことを……》

幾度となく打ち出してきた シークエンスもこれが最後……祈りと激励が込められた言葉に送り出され、クサナギはレールの上を滑るように駆ける。

 

 

戦闘を繰り広げるインフィニ ティとエヴォリューション……だが、その動きは先程と完全に見違えている。

完全に数のハンデを覆し、む しろ押している。

「このお おぉぉぉっっ!!!」

「墜ちやが れぇぇぇっ!!!」

レイダーとカラミティが火器 を合わせて砲撃してくるが、インフィニティの姿はまるで陽炎のように幾重にもぶれ、残像を浮かばせる。

だが、モニターに確認されて いる全てに質量の反応があり、本体を捉えられない。

オルガとクロトは苛立ってい た……幾つもの薬を投与され、そして肉体を改造され…最強の……コーディネイターをも凌駕するはずの自分達をまるで嘲笑うかのごとく自分達の攻撃をまるで 児戯のごとくインフィニティはかわす。

コックピット内でレイナは呼 吸を落ち着け……まるで身体だけでなく全神経が機体を通して周囲に溶け込むような感覚を感じていた。

レイナの瞳にレイダーが映っ た瞬間……瞬時に幾つもの動きが見える………インフィニティが加速し、左腕のケルベリオスを掴むと同時に飛ばした。

地獄の門を護りし3つ首の獣 のごとく、3枚のビームを覆った刃が高速回転で大気を切り裂きながらレイダーの片翼を抉った。

「うわぁっ!」

クロトが悲鳴を上げ、バラン スを崩す……それによって乗っているカラミティもバランスを崩して海に落下しそうになる。この高さから落とされては機体に受ける衝撃は生半可なものではな い。

固定具もないレイダーの背中 に必死に踏み止まる。

「なにやってんだ、ク ロ……」

オルガの言葉が最後まで続く 前にカラミティのコックピットにアラートが響いた。

インフィニティがバランスの 崩した隙を衝いて急接近していた。

インフェルノを抜き放ち、 ビームの刃の光状がコックピットに迫る……オルガは、ブーステッドマンにはありもしないはずの恐怖という感情に突き動かされ、機体を飛び上がらせた。

だが、それは僅かに遅く…… カラミティの両脚がインフェルノに斬り飛ばされ、カラミティは支えを失い、海へと落下していく。

「ぐっ……ク、クロ トォォォォ!!!」

落下の衝撃に呻きながら、恐 怖を振り払うように叫ぶと……レイダーがなんとか航行を保ち、カラミティの背中を掴み、飛び上がる。

だが、レイナはもはやその2 機は眼中になく、ゲイルに向かっていた。

ゲイルがベルフェゴールとネ オスキュラで狙撃するが、先程と同じく残像を残しながら回避し、デザイアを撃ち返してくる。

その反応を見ながら、ウォル フは小さくほくそ笑んだ。

「ようやくお眼醒めか……… BA!」

ビームサーベルを抜き、斬り 掛かるゲイルに向かってインフェルノを振り上げる。

エヴォリューションもまた驚 くべき機動性を見せ、ヴァニシング、フォビドゥン、制式レイダーの3機を押していた。

視界がまるで360度に拡 がったかのよう壮大感……後ろにいるはずの敵機の動きも全てが見える。

ドラグーンブレイカーがさら に動きを縦横無尽にし、3機を翻弄する。

デザイアとヴィサリオンも合 わせ、全方位から死角をなくしたビームの嵐が放たれる。

激しいビームの撹乱膜に迂闊 に近付けず、距離を取る……だが、シャニはフォビドゥンのゲシュマイディッヒ・パンツァーを前面に押し出し、ビームを偏屈させながら接近していく。

「うらぁぁぁぁっっ!!」

奇声を発しながらニーズヘグ を振り被るが、鎌を薙いだ瞬間にはエヴォリューションの姿はそこにはない。

シャニが驚く間もなく…… フォビドゥンの頭上を取るエヴォリューション……シャニは反射的にフレスベルグを放つが…それがエヴォリューションに着弾したと思った瞬間、エヴォリュー ションの姿が幻のように消え…次の瞬間にはフォビドゥンのほぼ眼前にまで入り込まれていた。

「……墜ちろ」

リンは冷たい声で呟き…ビー ムの刃が膨張するインフェルノを一閃する………ゲシュマイディッヒ・パンツァーを備えたリフター二基が接続アームごと斬り飛ばされた。いくらビームを偏屈 させられるとはいえ、その熱量には限界がある。リンはインフェルノのビーム発生量を限界まで引き上げ、そしてほぼ零距離からビームの直撃を受ければ、いく らなんでも保つはずがなかった。

振り上げたインフェルノを逆 手で持ち直し、そのまま振り下ろした……フォビドゥンのニーズヘグを両腕ごと斬り飛ばし…脚を振り上げてフォビドゥンを弾き飛ばした。

被弾したカラミティを担ぎ、 失速するレイダーの前を過ぎり、フォビドゥンが鋭い勢いで海面に叩き付けられた。

水飛沫が上がり、エヴォ リューションはその水蒸気に身を隠し、インフェルノを腰部へと収納し、レールガンを制式レイダーに向かって放った。

イリューシアはその一射を研 ぎ澄まされた感覚で感じ取り、回避する……だが、そこへ衝撃が襲う。

リンは自ら操るドラグーンブ レイカーにビームの刃を展開させ、全方位から突撃させた。

イリューシアは操縦桿を巧み に動かし、その攻撃を回避しようとするが、全方位全てを回避できるはずもなく機体をビームの刃が掠める。

その間に、リンの意識は既に ヴァニシングへと向けられていた……ロングライフルで狙撃してくるヴァニシングに向かってデザイアで応戦し、相手の動きが鈍る。

ゲイルを弾き飛ばし、レイナ は視界に発射されたクサナギの艦影を捉えた。

「リン!」

「ええっ!!」

阿吽の呼吸のごとく、イン フィニティはゲイルが放つファーブニルを捌くと、その腕を掴み、スラスターを全開にして回転させた。

振り回されるゲイルの機体 が、空気を裂く。

激しい遠心力に見舞われ、ゲ イルのコックピット内でウォルフは歯噛みする。

同じく、エヴォリューション もドラグーンブレイカーを機体へと戻し、ヴァニシングに向かって接近していく。

両背腰部からスクリュー ウィップを抜き取り、それを振るった。

鞭のようにしなやかに動き、 それがヴァニシングの機体に絡む……次の瞬間、エヴォリューションはパワーを全開にしてスクリューウィップをある方向へと放り投げた。

それと同時にインフィニティ も回転させていたゲイルを離し、投げ飛ばす。

ゲイルとヴァニシングが互い に真っ直ぐに向かって飛び……空中で激突する。

刹那、インフィニティとエ ヴォリューションはその場を離脱していく。

弾丸のようにレールを駆ける クサナギを目指す……傾斜を描くマスドライバーのレールを徐々に加速しながら滑走するクサナギに追い縋っていくと、その意図に気付いた一同が逃すまいと追 い討ちを仕掛ける。

レイダーに抱えられたカラミ ティのコックピット内でオルガとクロトが叫びながら機関砲、シュラークを連射してくる。

海中から飛び出したフォビ ドゥン内でシャニが眼を見開きながらレバーを引いてフォビドゥンを加速させる。

残っているフレスベルグとエ クツァーンを連射しながら向かってくる。

空中激突したゲイルとヴァニ シングのコックピット内で、ウォルフとアディンは衝撃で打ち付けた頭を振りながら、加速してくる。

ベルフェゴール、サイドレー ルガン……ロングライフルが火を噴く。

イリューシアの制式レイダー も残った推力を全開にして追い縋り、機関砲で攻撃してくる。マスドライバーの破壊も恐れていないのか、5機の攻撃はメチャクチャだ……背を向けたままだ が、インフィニティとエヴォリューションは機体を微かに傾けながら回避し、加速するクサナギに追い付いていく。

流石に戦艦の加速に追い付く のは容易ではない……コックピット内でレイナは微かに歯噛みしながらスラスターを全開にして相対速度を合わせ、クサナギの船外の凹凸に手を伸ばす。なんと か機体をクサナギの船体に寄せると、振り向いてやや遅れていたエヴォリューションに手を伸ばす。

リンは僅かに眼を瞬いた が……やがて、意を決したようにその腕を伸ばす………

エヴォリューションのバーニ アとスラスターを全開に噴かし、相対速度を合わせながら腕を伸ばす。

レイナとリンは互いに呼吸を 合わせ、全神経を集中させる……チャンスは一度のみ。

伸ばされるエヴォリューショ ンの手を、インフィニティの手が掴む……決して離しはしない……それが、今の二人の絆を表わすように………

右腕の駆動回路が軋む音を上 げるが、それに構わずエヴォリューションを引き上げ、エヴォリューションも船外にその身を寄せる。

だが、今なお6機のMSは激 しい火器を応酬しながら追い縋ってくる……互いに鬱陶しいと感じたレイナとリンは、顔を見合わせ頷いた。

間髪入れず、インフィニティ のオメガとエヴォリューションのレールガンが起動し、砲口を向けた。

それに眼を見開く6人……

 

「「()えろっ!!」」

 

次の瞬間、ビーム砲とレール ガンが火を噴き、6機の眼前の海面を蒸発させた。噴上げる水飛沫と波が6機の視界を僅かに覆う。

その僅かな時間があれば充分 だった……その間にクサナギは射出され、真っ直ぐに成層圏へと向かう。

船外でインフィニティとエ ヴォリューションは離れていくオーブを見送る。

 

 

 

 

管制室で宇宙へと飛び立って いくクサナギの艦影を静かに見詰めながら、ウズミは微笑を浮かべる。

振り返ると、そこには最後ま で自分に付いてきてくれた首長達が集まり、穏やかな視線を浮かべる。

「種子は飛んだ……これで良 い………」

子供達の旅立ちを見送るよう に全員の視線が管制室を通して遠ざかっていくクサナギへと向けられる。

ウズミは静かに眼前のコン ソールの一部のカバーを外す。

管制室内にけたたましい警告 音が鳴り響く………

「オーブも世界も………」

静かにボタンの上に指を置 き、ウズミはキッと前を見据えた。

「奴らのいいようにはさせ ん……」

決然とした面持ちでボタンを 躊躇うことなく力強く押し込んだ………

刹那……閃光が輝き………轟 音とともにマスドライバーのレールから火が昇り、爆発がそのレールを呑み込んでいく。

爆発によって吹き飛ぶレール が海中に水没していき、天へと伸びていた橋はその身を消していった……同時に、オノゴノ島のモルゲンレーテでもまた巨大な火柱が立ち昇っていた。

放棄された施設の奥深くに設 置された大量の爆弾が一気に点火された……高度な技術を集約され、全ての始まりとなった元凶は、その秘密を闇へと葬った……

その光景は、沖合のパウエル からも確認できた……ダーレスをはじめ、クルーの誰もが呆然とその光景を見詰める中、唯一人、アズラエルだけは悔しげに歯噛みし、拳を震わせていた。

炎に包まれる管制室……その 中で、ウズミは静かに微笑みながら今一度空を見上げる。

 

――――戦え……命続く限 り……己が信じた道を進め…………娘達よ………

 

口が動き、虚空に消えてい く……そして、ウズミの姿もまた炎の中に消えていった………

 

 

 

その爆発は、高度を上げなが ら成層圏へ離脱していくクサナギからもはっきりと見えた。

「………」

「……バカ」

リンは無言で瞳を閉じ、死に 逝く者に哀悼の意を込めるように敬礼し、レイナはやや苦い口調で呟き、黙礼した………

そして、流れる涙も拭わ ず……カガリは呆然とその光景に愕然となる。

最後に見た父の顔…そして父 の温かな手と眼………それらが脳裏を駆け、カガリは遠ざかっていく炎にウズミの決意を感じながらも、溢れる悲壮感を抑え切れなかった。

 

「お父様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

 

 

運命の矢は……宇宙へと放た れた…………

全ての希望をのせて………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《次回予告》

 

 

全てはそこから始まっ た………

始まりの宇宙へと戻っ た………

あの瞬間から…彼らの戦いは 熾烈を極めた………

 

疑惑・怒り・憎悪・迷い・悲 哀・裏切り・別れ………数多の試練が彼らに降り掛かった…………

幾多の出逢いがあった…それ を上回る激しい戦闘があった……

それらを経て、彼らは再び宇 宙を駆ける………

迷う想いの先にあるものは、 希望の光か……絶望の闇か…………

 

 

闇の宇宙を駆けるその想い は………

 

次回、「錯綜する想い」

 

宇宙の闇…駆け抜けろ、ガン ダム。




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