ネェルアークエンジェルとクサナギが宇宙に出た頃……プラント内でも事件が起こっていた。反逆者として指名手配となったラクス=クラインが様々なメディア にゲリラ映像を流すようになっていたのだ。

オペレーション・スピットブ レイクの目標の漏洩と新型MSの奪取という反逆行為により、クライン親子は逃亡し、またクライン派の議員達は尽く拘束されていった。

パトリックは直属の特務隊を 動かし、プラント内をくまなく捜索しているがなかなか足取りが掴めずにいたところへこの電波ジャックであった。

《皆さん……私達は、いった い何のための戦っているのでしょう? 私達は、いったい何を望んでいたのでしょう?》

透き通るような声が様々なメ ディアを通してプラント内に住む者達に聞こえる。

それを困惑、同情……または 憎むように見るなど、人々の反応は様々だ。

《私達は、いつまで戦わなけ ればならないでしょう……後、何人の血を流せば、この戦争は終わるのでしょう……私達は、ただ静かに…そして平和に暮らしたかったはずです……そのための 戦いであったはずです………》

スクリーンから訴えるラクス の言葉に人々は聴き入る。

ラクスの問いが、理解できず に戸惑っているのだ……地球の支配から解き放たれ、平和を望むのは当然だとプラントの市民達は考えているからこそ、ラクスの問いはまったく理解できなかっ た。

《私達は……いえ…ナチュラ ルとコーディネイターは同じ人です……人である以上、争うことは避けられないかもしれません……では、何故争うのか……その理由を考えてください……この 戦争は今、最悪の方向へ向かおうとしています……互いに滅ぼしあう未来など、誰も望みません………》

特務隊が回線を逆探知し、発 信源を突き止めて施設内に踏み込んでもそこは既にもぬけの殻であり、映像メディアを流す機械だけが設置されているだけ。幾度となく空回りされ、翻弄されて いた。

巧妙な手口で立ち回るクライ ン派に豪を煮やしたのか、それに呼応するようにパトリックの鼓舞するような放送も連日に渡って放送され続けた。

《ラクス=クラインの言葉に 惑わされてはなりません! 彼女は地球軍と通じ、軍の重要機密を売り渡した反逆者なのです!!》

激しい罵り口調で、反対する 者を全て威圧するようにパトリックの演説が響き、クライン派を非難する。

《戦いなど、誰も望みませ ん! だがそれでは何故、このような事態になったのでしょうか? 思い出していただきたい! 自らが生み出したものでありながら、進化したその能力を妬ん だナチュラル達が、我らコーディネイターへ行ってきた迫害の数々を……!》

憎しみを煽り、掻き立てるよ うに今までナチュラルが行ってきた仕打ちを一つ一つ挙げては非難する。

その最大が、血のバレンタイ ン……映像が、ユニウスセブンが崩壊するシーンへと変わる。

だが、あの悲劇の瞬間を幾度 となく見せるのは、その死者をプロパガンダに利用していることにパトリックは気付いていない。プラント内の市民達にとってはなによりも思い出したくない禁 忌の出来事だからだ。

《それに反旗を翻した我ら に、答として放たれたユニウスセブンへのあの一発の核ミサイルを……この戦争、我らはなんとしても勝利せねばならないのです! 敗北すれば、なお過去より 暗い未来しかありません!》

すぐ隣にいつでも存在する 『危険』というものを示唆し、世界を2分するようにパトリックは高らかに宣言する。

《……コーディネイターは決 して進化したものではありません…ただ、遺伝子を操作されただけの人なのです……そして、婚姻統制をしいてもなお生まれぬ子供達……既に道の狭まった私達 は、このままでは遠からず滅びます……》

激昂するパトリックとは裏腹 に、静かに凛とした口調で今まで隠されていた事実を告げる。

プラント内の市民達もその事 実には薄々感じていた……巧妙に隠された年々低下の一途を辿る第3世代の出生率の低さ……次の世代へと命を残せないというのは、種としての終焉を意味して いる。

また、遺伝子操作を親によっ て成されても、その秀でた能力ゆえに迫害され、自らの存在を憎む者もコーディネイターの中には少なくない。

《たとえ勝利したとて……そ の先にあるのは果たして望むものなのでしょうか? 私達が信じて戦ってきたものは何だったのでしょうか? その答は、私達全員が考えなければなりませ ん……未来を決めるのは、私達一人一人です……平和は、誰かから与えられるものではありません……世界の流れに身を任せるばかりでは、望む未来など得られ ません……》

ラクスは一人一人に問う…… 戦う意味を……そして、自らの未来をただ流されるままに決めてはならないと……自身の道を探さなければならないと……だが、そんなラクスの主張すらもパト リックが嘲笑を浮かべて被せるように映像を流す。

《我々が望むものは皆同じは ず! 悪意に満ちた情報に惑わされてはなりません! もはやナチュラルなど我らコーディネイターとは別の種です! 未来を創るのは我らです! 今はたとえ 問題があろうとも、いずれ我らの叡智が解決する!!》

常に今ある問題を先送りに し、ただただ戦いを鼓舞するパトリック……プラントの市民達は彼を推したことが果たして正しかったのか、自問する。

《戦場で戦い、命を落として いく人達が望んでいたものを……また、流される血と失われる命の意味を私達は考えなければなりません……撃たれたから撃ち返し…果てしなく争いを繰り返す のが、私達の望んだ未来へと誘ってくれるのでしょうか? 皆さん、戦うことの意味を、今一度考えてください……》

パトリックのナチュラル全て を否定する、与えられた道が正しいのか……それともラクスの言うように戦う意味を考え、一人一人が未来を決めて進む道が正しいのか……プラント内は今、混 乱の中にあった。

だが、そんなある日……パト リックのもとに一つの報告が届いた。

特務隊が遂にシーゲル=クラ インの潜伏先を突き止め、逃走をはかったもののその場にいた同志達と一緒に射殺したというものであった。

自らが出した命令だが、パト リックもやや沈痛な面持ちで一瞬眼を閉じた……ともに第一世代として、公私を共に生き、争ってきた相手だ。第一世代の頃は、常にナチュラルからの羨望と嫉 妬を浴び、輝かしい未来が開けていると思っていたが、それは迫害を呼び、また苦渋の歴史を歩まされた。

だがそれも、自らが優れた存 在だという証拠として鼓舞してきた。

共にそんな道を歩んできた二 人であったが、それはある時完全に違え、今日という日を迎えた……暫し、瞑目する…かつては友だった男の死に傷みを感じているのか、それとも単に自分の道 を脅かす存在が排除できたことに安堵しているのか……それはパトリックの表情からは読み取れなかったが、次に顔を上げた瞬間には、その感傷は消えていた。

「まだ、娘の方が残ってい る……」

冷ややかで、なんの躊躇いも ない声で呟き、モニターに映るラクスのゲリラ映像を睨んだ。

「ジークマルめ、あれだけ啖 呵を切っておきながらこれか」

眼を通した資料をデスクに放 り投げる……資料には、ジークマルの屋敷が全焼したことと焼け跡からジークマルの死体が発見されたことが記されていた。

軍に多額の出資をしていただ けにその資金源が断たれたのは痛い上に、ラクスに代わる新たな民衆を導くアイドルになる者を担ぎ出すと意気込んでいたが、結果がこれだとパトリックは鼻で 笑うのであった。

 

 

 

ラクスのゲリラ放送は地球の カーペンタリア、ジブラルタルへも何度か流れてきた。

その内容を聞き、戸惑う兵士 も多かったが、そこにパトリックの高圧的な放送が流れ、誰もがその疑問を封じられていた。

そして、同じくカーペンタリ アの一室でクルーゼ隊のメンバーもその演説を聞いていた。

クルーゼ隊も、もはや初期の 部隊員はイザーク以外、いない……ミゲル達が死に、そしてラスティが抜け……ニコル、ディアッカもMIA……リーラは重症……リンとアスランは隊を去っ た。新しく配属されたヴァネッサ達や新人隊員を見るとそれが嫌でも知らしめた。

だが、ラクスの演説を聞き、 その自分の考えに微かに迷いを抱き始めた。

《苦しくとも今を戦い、そし て平和で輝かしい未来を我らは手に入れなければならないのです!》

パトリックの演説が流れるモ ニターを切り、クルーゼが徐に立ち上がる。

「ラクス=クラインには、議 長も大分手を焼いておいでのようだな……」

慇懃な…それでいてどこか嘲 笑を含む口調に、イザークは複雑な感情を浮かべる。

「……よもやそれで、我らに 帰国命令が出たわけでもなかろうが」

冗談混じりに囁くと、新人隊 員達が失笑を漏らす。

だが、イザークは思わず疑念 を口にしていた。

「しかし…私には信じられま せん。彼女が反逆者などと……」

イザークも一人のファンとし てラクスに魅了されていた一人であった。あの安らぐような歌を歌い続け、プラントを包んでいた少女が同胞を売り渡すような反逆者とは到底思えず、また他の 隊員達も同じように表情を顰める。

ラクスの影響は、やはりプラ ントにとって大きなものであるのだ。

「そう思う者がいるからこ そ、彼女を使うのだよ、クライン派は。君達までもが彼らに欺かれてどうするね?」

そんなイザーク達を嗜めるよ うにクルーゼが言葉を発する。イザークも、こう言われれば以前なら素直に己を恥じていただろうが、今はクルーゼの言葉を怪しく思えていた。

それは、同じくクルーゼ隊に 配属されたヴァネッサも同意見だった。自分が尊敬していたガーランドは確かに問題を起こした自分を幾度となく怒鳴り、諌めたがそれでもそこには父親のよう な温かさがあり、だからこそクルー達はそんなガーランドを尊敬し、また忠誠を誓っていた。だが、それに比べてこのクルーゼという上官はどこか信用できない とヴァネッサの勘がそう言っていた。

その最もたるものが、クルー ゼの傍に立つ少女だ。隊の正規メンバーのようにザフトの軍服を身につけたフレイ…だが、彼女は先程からまるで猛獣の檻の中に放り込まれたように怯えた表情 でずっとクルーゼの傍で佇んでいる。

捕虜らしからぬ扱いとナチュ ラルの少女を自室で寝起きさせているというのはあらぬ噂となって拡がっているが、クルーゼはさして気にした様子もない。

それがイザーク達の神経を逆 撫でる。

「様々な人間の思惑が絡み合 うのが戦争だ。何と戦わねばならぬのか、見誤るなよ」

いつもの含みのある笑みを浮 かべて論すると、イザーク達は背筋をただし、敬礼して応じた。だが、イザークやヴァネッサ、一部の人間はパトリックの言葉に一抹の疑念を拭えずにはいられ なかった。

敵を全て滅ぼし尽くせば…… 戦争は終わる。約束された輝かしい未来への道が拓ける。だが、果たしてその道が正しいのか……逡巡しても答は出ない。

そして、軍人である以上、敵 を倒す以外にするべき事はないという現実も………

 

 

 

アプリリウス市の人気のほと んどない空き家のような屋敷の中で、いくつもの機材が並び立ち、ラクスは懸命に訴えるテープを録音していた。

「思い出してください……私 達が望んでいたものを………敵と、滅ぼすものと定義して戦い続けることが、私達の望んだものだったのでしょうか? 戦う意味を…何故、人が争わなければな らないのか……それを忘れて、ただ無為に戦い続けることが本当に私達の本意なのでしょうか……」

そこで録音を区切る……ラク スは一息つくと、入室してきた男に振り返った。

「……また移動ですのね?」

「はい……申し訳ありません が………」

答えるのは、砂漠の虎ことア ンドリュー=バルトフェルドの副官であったマーチン=ダコスタだ。特務隊の捜索から姿を隠すために地下に潜ってからこのゲリラ映像を流すようになってから 息つく間もないぐらいに慌しい移動を繰り返している。

だが、ラクスは微笑を浮かべ る。

「いえ、私は大丈夫です わ……」

そう……ラクスは自らこの戦 いに身を投じたのだ。レイナの言うように覚悟を持って…それがこの程度でへこたれては、レイナに笑われる。

ラクスはひたすらに訴えてい た。戦う意味を……何故争うのかを……決して戦争を止めろというわけではない。だがそれでも、戦う意味を見失い、ただ滅ぼすために戦ってはいけないと人々 に訴え続けている。

戦争の実態を一人一人が見 て、そして考えなければならない……だからこそ、ラクスは懸命に訴えていた。

椅子から立ち上がったラクス は隣で跳ねるハロに微笑み、置かれていたコートを羽織ながらダコスタに尋ねる。

「何か新しいお話はあります か?」

「はい、ファーエデンさんか らの情報では、オーブとビクトリアが地球軍の攻撃を受け、マスドライバーがオーブのものは破壊されましたが、ビクトリアのものは奪還されました」

ラクス達が特務隊よりも早く 身を動かせられるのはメイアの情報リークが大きかった。現在は特務隊内でもかなりの高位にいるため、その手の情報をより多く、また正確に得ているが、それ でもいつまでもメイアの情報リークだけでは限界があり、メイアにもまた危害が及ぶ。

ラクスは微かに表情を曇らせ る。

「ビクトリアには、ザフトも かなりの部隊を配置していると聞きましたが……」

「先のアラスカ戦でかなり兵 力を消耗していたため、ビクトリアの部隊の一部がジブラルタルとカーペンタリアへと移動していた隙を衝かれたようで…そして、地球軍も新型のMSを投入し てきたようです……」

苦々しい表情で語るダコス タ……アラスカでの大敗とパナマ戦の連戦で地上での支配力を弱めたザフトは、ビクトリアの破棄を決定し、残っていたのは一部の部隊のみであったので、地球 軍の圧倒的な物量に抗することができなかった。

「そうですか……私達も急が ねばなりませんね」

ラクスは静かに決意を込めて 呟くが、ダコスタは一抹の不安を拭えずにいた。

プラント内の市民達は確かに 困惑し、動揺しているもそこへ被せるようにパトリックの高圧的な優越性を誇示する演説を流され、市民達も戸惑っている。

ラクスの言うような時が来て も、既に遅いのではないだろうかと危惧するダコスタだったが、今はこの小さな希望に賭けるしかなかった。

浮浪者のように顔を隠したラ クスを伴い、ダコスタや他のメンバー達が護衛するように廃屋を後にしていく。

その時、ダコスタの懐の通信 機から呼び出し音が鳴り、ダコスタは取り出すと耳に当てた。

「なんだ?」

通信機の向こう側からは、切 羽詰った同志の声が聞こえてくる。

そして、内容を聞くうちにダ コスタの表情が青褪め、思わず声を出してしまった。

「なにっ! シーゲル様 が……!?」

尋常でない報告に、ラクスも 眼を見張り、表情を歪めた。

彼女の覚悟を促す試練は、ま だ続いていた………

 

 

 

 

地球のアフリカ大陸の南端の ビクトリア基地では、昨日の戦闘が終結し、朝陽が昇って宇宙へと伸びるマスドライバーを照らし出していた。

だが、その周囲では未だ生々 しい戦火の爪痕が残されていた。

倒れ伏すザフトのMSの残 骸……攻撃によって抉られた大地……そして立ち込める死の異臭……それを創り出しているのは連合の掃討兵だ。

彼らは残忍な表情で次々と MSのコックピットを開き、中にいたパイロットを次々と射殺していく。もはや捕虜の問題など両陣営にはないも同然だった。

ただ相手を憎み、宇宙からの 化け物を殺すことに悦びを感じる連合兵達……上空には、その異臭に引き寄せられた禿鷲が幾羽も飛び交っている。だが、それらを掻き分けるように数機の輸送 機がビクトリアの上空に現われた。

MS用の大型輸送機が2機と 小型機の編成に周囲には戦闘機が護衛に就いている。

その小型機の客室で、モニ ターに映るビクトリアでの戦火を見詰めながら笑みを浮かべるアズラエル。

「いやぁ、お見事です……流 石ですな、サザーランド大佐」

戦場の悲惨さなどまるで気に も留めず、戦利品の大きさに称賛すると、隣に座るサザーランドも誇らしげに笑みを浮かべて応じた。

「いえ…ストライクダガーは 良いできですよ」

この戦闘で多大な犠牲を出さ せた張本人であるサザーランドは悪びれもなく言いのける。

ユーラシアを中心に編成して いた今回の攻撃部隊は半数近くを失い、結果的にはビクトリア基地は大西洋連邦がその指揮を執ることになった。

小型機が到着すると、機外へ と出たアズラエルは将兵達に敬礼されながらそのまま待機していた車両に乗り込む。

それに同乗するサザーランド とイリューシア……ドアを閉めると、車両がビクトリアの宇宙船待機デッキへと向かう。

「オーブでアズラエル様が苦 戦されたのは、お伺いした予期せぬ期待のせいでしょう」

サザーランドがチラリとイ リューシアを見やると、イリューシアはアズラエルに向けて頭を下げる。

「申し訳ありません……アズ ラエル様」

「いやいいよ…アレはボクに も予想外だったからね……まだまだ課題も多くてね、こっちも」

話を切るアズラエルに、サ ザーランドは表情を若干ながら顰めた。盟主たるアズラエルに心酔しているとはいえ、何ゆえにコーディネイターなどを手元に置くのかがまったく理解できな かった。

だがそれも、アズラエルなり に考えがあるのだと納得させた。

アズラエルはウンザリした口 調で呟きながら、着陸した輸送機から降りてくるゲイル、カラミティ、フォビドゥン、レイダー、ヴァニシングを見やる。

「しかし、よもやゲイル、カ ラミティ、フォビドゥン、レイダー、ヴァニシングの5機まで投入してああまで手こずるとはね…ホント、とんでもない国だね、オーブは…何考えてたんだか」

あれほどのMSを保持してい たとは、流石に予想外であり、またそれを手に入れられなかったことをやや悔しげに感じていた。気に入った物は全て自分の手の中に収めなければ気が済まない 子供と同じである。だが、そんなアズラエルに異論を挟む者がいないからこそ、この男をさらに助長するのだ。

「巧く立ち回って、甘い汁だ け吸おうとでも考えていたのでしょう……卑怯な国です」

軽蔑するように鼻を鳴ら す……自分を基準にしてしか物事を計れないのが人間であり、また彼らには自分達以外は全て見下すものでしかないのだ。

「プラントの技術も相当入っ ていたようですからな……いや、もしかしたらその4機、実はザフトのモノだったのかもしれません……」

サザーランドの言葉は遠から ずといったところであった。だが、アズラエルはやや表情を引き締める。

「どちらにしろ、アレはなん とかしなくちゃね……手に入れられるかな?」

薄く笑いながらサザーランド を見やる。例のMSは宇宙へと逃亡した……その意図を察したサザーランドはやや意外そうに尋ねる。

「それで、ご自身で宇宙 へ……?」

マスドライバーの発進デッキ には既に一機の大型シャトルが準備に入っており、貨物室のカーゴハッチが開いていてそこへ輸送機から降りたゲイルを含めた5機が搭乗していく。

「あの機体…もしかしたら ね……」

軽く肩を竦め、オーブで自慢 のG5機を圧倒した白と赤、2体の黒い機体を脳裏に浮かべながら意味ありげに口元を歪める。

「核エネルギー……使ってる んじゃないかと思ってさ」

「何ですと!?」

その言葉に、流石のサザーラ ンドも顔色を変えて驚きに包む。

そうこうしている内に車両は 搭乗ゲートへと辿り着き、イリューシアが先頭で降り、アズラエルを促す。

「確証はないけど……でもあ れだけのパワー…従来のものでは不可能だ……」

車両から降りながらもアズラ エルは話を続ける。

軍需産業を自らも行い、そし て新兵器や技術を見てきたからこそ解かる…この眼力でいえば、アズラエルは有能な男であった。

あれだけのパワーと機動性、 火力を賄うためには従来のバッテリー型ではいくら強化しても賄えるはずがない。5機を4機で抑え込み、最後のマスドライバー付近の攻防ではたった2機で6 機を中破させられた。しかも、その5機がパワー切れで後退してもなお、その4機はパワーが衰えた様子がまったく見受けられなかった。

「イリューシア…君から見 て、あの機体はどう思う?」

話を振られたイリューシア は、やや思案すると、口を開く。

「はっきりとは解かりませ ん……ですが、アズラエル様の推察も当たっている可能性は高いでしょう。あの機体に持たされた能力は明らかにこちらのGに匹敵するものがありました……ま た、パイロットもかなりの腕です」

冷静に…客観的に述べるイ リューシアに、サザーランドが表情を顰める。

「Nジャマーも、コーディネ イターの造ったものですからな……確かに、奴らならそれを無効にするものの開発も可能でしょうが…それが本当なら、由々しき事態ですな………」

地球のどの国家もがあの核の 力を欲している……原子力に頼っていた地球の国家はNジャマーによりその生産能力を低下させ、また核兵器という力を封じ込まれていた。

無論、地上に大量に投下され たNジャマーの数基を確保し、それを無効にするNジャマーキャンセラーの開発も進めてはいるものの、芳しくないのが現状であった。

そんな中で、もしザフトが核 の力を手にすれば、間違いなくパワーバランスは崩れる。

地球側の不利が決定的なもの になってしまう。

唸るサザーランドに、アズラ エルは茶化すように尋ねる。

「おいおい、国防産業理事の ボクの眼を疑うのかい?」

「いえ、そのようなこと は……」

慌てて首を振るサザーランド に、シャトルへのタラップを登っていたアズラエルが不適に笑う。

「だいたい、ボクらは弱い生 き物なんだからさ……強い牙を持つ奴は、ちゃんと閉じ込めておくか、繋いでおくかしないと危ないからさ………」

どこまでが本気なのか計りか ねる口調で揶揄するように呟くと、サザーランドもフッと笑みで返した。

「宇宙に野放しにした挙句… これでは……ですな?」

そう……誰も庭にライオンを 放って生活などできない……だからこそ、鎖で縛るか檻に閉じ込めておくのは当然だと地球に生きる者にとってコーディネイターは猛獣と同じように認識されて いた。

「頑張って退治してくる さ……ボクも」

軽快な仕草で笑うと、シャト ル内に搭乗していく……シャトル内には既に格納されたGのパイロットであるウォルフ、オルガ、シャニ、クロト、アディンがシートに腰掛けており、アズラエ ル達もシートにつくと、シャトルは宇宙に向かって射出されるのであった。

 

 

 

 

取り敢えずの目標をL4へと 定めたネェルアークエンジェルとクサナギの2隻はL4宙域に向かって航行していた。

その間に、クサナギ内では M1の宇宙用のブースターユニットの換装を急いでいた。

元々、宇宙軍を有さないオー ブにとっては無重力下での戦闘データが足りず、調整もアークエンジェルから回された宇宙でのMS運用データを元にして設定し直している。

キラもその作業に加わってお り、エリカと共に格納庫内で作業を行っている。

その様子をクサナギのパイ ロットブリーフィングルームから見詰めるアスランは、どこか沈んだ面持ちであった。脳裏に、ウズミの言葉が甦る。

 

―――――プラントも今や、 コーディネイターこそが新たな種とするパトリック=ザラの手の内だ……

 

その言葉に歯噛みする……こ こで戦うことに迷いはない……だがそれでも、未だ躊躇いを捨てられなかった。

「アスラン……」

そこへ、格納庫から上がって きたキラが近付いてきたので、アスランが顔を上げた。

「こっちも落ち着いたみたい だから、ネェルアークエンジェルへ戻ろう…どっちにいても同じだけど、こっちM1でいっぱいだし……」

収容制限ギリギリまで艦載さ れたM1のおかげで、フリーダム、ジャスティス、インフィニティ、エヴォリューションはメンテナンスベッドすら無い状態だ。一方、ネェルアークエンジェル の方は新たに格納庫周りが拡張され、十分な艦載スペースがある、

そこへ、ブリッジから用事の 終えたレイナとリンがブリーフィングルームに入室してきた。

二人もまた、今後の話し合い を終え、最後の確認を取った後、戦闘に備えてネェルアークエンジェルの方へ移ろうとしていた。

「何やってんの、あんた 達?」

無重力の中を移動し、シート を手で掴んで止まる。

「あ、ネェルアークエンジェ ルの方へ回ろうと思って……」

キラが答える中、リンがアス ランが表情を俯かせているのに気付き、声を掛けた。

「アスラン……どうした の?」

「え…あ、いや……」

何かに思い悩んでいた様子 だったが、慌てて首を振るとキラが不審げに首を傾げる。だが、それと同時にドアが開き、今度は思い詰めたような深刻な表情を浮かべたカガリが入室してき た。

「キラ……ちょっといい か?」

話し難そうに、硬い声で呟く カガリに、アスランは気遣うように出ようとする。

「あ、じゃあ俺……」

その場を後にしようとしたア スランの腕がカガリに掴まれ、引き止められる。

「ちょ、ちょ……い、いいか らいろって! いや、いてくれ!!」

叫ぶカガリに一同が首を傾げ る中、当のキラに視線が集中するもキラもカガリの様子に困惑していた。

「どうしたの、カガ リ……?」

声を掛けると、カガリはどこ か躊躇うような仕草で視線を彷徨わせている……大事な話なら、普通は部外者に傍にいてほしくないものだが、どうやらカガリにとってはそうではないらしい。 逆にキラと二人で向き合うことがまだできないのだ。

カガリは暫し逡巡していた が、やがて意を決したようにポケットから一枚の写真を取り出し、キラへと差し出す。

「これ……」

キラが意図が掴めずに写真を 手に取る……

「写真? 誰の……?」

写真に映っているのは女性が 二人の赤ん坊を抱いている写真……だが、キラにはカガリがこれを見せた意図がまったく解からない。

「う、裏……」

弱々しい声で、躊躇うように 囁くと、その単語に従って、裏返し……飛び込んできた文字に眼を見開いた。

 

―――――キラとカガリ……

 

その記された名前に、キラだ けでなく、覗き込んだアスランとレイナも驚きに眼を見張り、唯一リンだけが眼を僅かに細めたが、その仕草には誰も気付かなかった。

「クサナギが発進する時…お 父様に言われたんだ……お前は独りじゃない……姉弟もいるって……!」

その言葉に再度眼を見開 き……言葉を失う。

カガリは眼を潤ませながら表 情が悲壮に染まり、無意識にアスランの腕へと手を伸ばし、強く握り締める。まるで、壊れそうな心のタガを支えるように……

「どういう……こと…… だ…?」

掠れた声で縋るように尋ねる カガリだが、キラも答えられない……キラ自身も困惑と驚愕に唖然となっているのだから………

「そんな…僕にだって、そん な………」

写真を凝視しながら上擦った 声で呟くキラと表情を俯かせるカガリをアスランが交互に見やる。

「双子……?」

二人の顔を見比べていた が……レイナが写真を覗き込み……写真に映る女性を視界に入れた瞬間……頭に電流のような鈍い感覚が駆け抜けた。

(……っ…な、なに……)

額を押さえ、頭に響く苦痛に 思わず歯噛みする。

「レイナ……?」

様子がおかしいレイナを不審 に思ってキラが尋ねるが……レイナは頭を押さえたまま、踵を返し……逃げるように部屋を飛び出していく。

「……姉さんは私が」

リンが3人を制すると……キ ラとカガリを交互に見やり……やや表情を顰めると、背を向けてレイナの後を追った。

残された3人に再び沈黙が訪 れる……写真に映る女性が抱くのは同時に出産したと見られる双子の赤ん坊……

「ウズミさんは…他に は……?」

何か他に情報がないかと尋ね るも、カガリがウズミから聞かされたのはあの言葉と一枚の写真のみ……静かに首を振る。

「でも…これだけじゃ、全然 解かんないよ………」

手掛かりが少なすぎる……ウ ズミが亡き今、その辺の事情を知る人間といえば、あとはキラの両親ぐらいだが…現状で彼らと連絡を取る手段はない。

「この赤ちゃんを抱いている 人は……?」

写真を見たアスランが少しで も情報を得ようと尋ねるも、キラにもカガリにも見覚えはない……

(だけど…この人………)

写真に映る女性を凝視してい たキラはその女性の面影がレイナとリンに重なることに気付く……雰囲気ではなく、なにか…根本的なものが………そんな感情を抱く自分に戸惑う。

それにもし、この儚げな笑み を浮かべて赤ん坊を抱き締めている女性が本当にキラとカガリに母親なら……今まで二人が信じていた両親は………

「…お前と姉弟って……じゃ あ…私は………私の父は……」

カガリが消え入りそうな儚い 声で呟き、キラは混乱していた思考を沈静させた……遂少し前に父親を失ったばかりのカガリには、この事実は辛すぎた。

父親と信じていた人物が本当 の父ではないという事実に、カガリは押し潰されそうな感覚に襲われていた。何もかもが信じられなくなっていた。

弱々しいカガリの様子に、キ ラは自身の困惑を振り払って、できるだけ明るい口調で声を掛けた。

「今は考えてもしょうがない よ…カガリ……」

ウズミが伝えたかったのが何 なのか、今ではもはや確かめる手段はないが、それでも今は闇雲にあれこれと模索するのは得策ではなかった。

もう少し時を置き、落ち着い てからでなければ……

「それに……そうだとして も、カガリのお父さんは、ウズミさんだよ………」

そう……それだけは絶対に変 わらない事実………たとえ、ウズミがカガリと血が繋がっていなくとも、カガリを育てたのはウズミだ。

育てた親こそ、子にとって真 実の親なのだ……ウズミがカガリに父親であるという事実もまた変わらないはずだとキラはカガリに論する。

「キラ……」

その言葉が嬉しく…そしてウ ズミを信じられなくなっていたカガリの心に響いたのか、カガリはまた涙を眼に浮かべて泣きながらキラへと抱き付いた。

それを受け止めると、キラは その背中を優しく撫でた……ウズミがどんな想いでカガリを育てたのかは解からないが、それでもウズミは死の間際にその事実を伝え、キラへとカガリを託した のだと考えると、キラはカガリを護らなければならないという責任感を感じる。

託された想いを胸に、このカ ガリを護らねばならないと……キラはアスランへと顔を向けると、同じ気持ちだったのか、アスランもコクリと頷いた。

 

 

通路に出たレイナは頭に響く 苦痛に苛みながら通路の壁に拳を叩き付けた。

(な、に……この感 じ………)

あの写真に映る女性……… 知っている……自分は知っているはずだ………

だが、何故という問いに答が 返ってこない……知っているはずなのに……失われた記憶の彼方で……自分は出逢ったはずだ……あの女性と………

「…ヴィア……ヒビ… キ…………」

ふと…無意識にレイナの口が 動いた。

だが、その答は靄が掛かった ように曇り、まったく見えない……言い知れぬ苛立ちに、レイナは再度拳を叩き付けた……その苛立ちをぶつけるように……

それをやや離れた位置で見詰 めていたリンは表情を顰めた。

(これも、運命か……)

キラ、カガリ……そしてレイ ナと自分……全てが引き寄せあう………運命という糸に引き寄せられて………それが必然であるように………

リンは不意に、窓の外の宇宙 を見やった。

(L4……メンデル………そ こへ引き寄せられているのか……この私も)

自虐的な笑みを一瞬浮かべ、 リンは壁に身を預け……額を押さえた………

 

 

 

 

カーペンタリア基地では、一 機の大型シャトルが発進態勢に入っていた。

プラントへと帰国するための 便だ……このシャトルには、クルーゼ隊の面々が搭乗している。

デュエルやシグー・ディープ アームズといった機体が格納庫に格納され、クルーゼが部隊のメンバーを伴ってシャトルの機内へと入る。

「本国は久しぶりだろう、イ ザーク……家族に顔を見せて、安心させてあげたまえ」

シートに向かい、荷物をトラ ンク内に収めながらクルーゼが滑らかに伝える。

「は、ありがとうございま す」

思えば、イザークはヘリオポ リスでの作戦から一度もプラントに帰国していない。随分長いこと、母親とも顔を合わせていないので、確かに嬉しく思う気持ちもあるが、なによりも気掛かり なのはプラントに療養に戻ったはずのリーラの存在だった。

長距離通信が使えない以上、 リーラがどうしているかを確かめる手段がなく、イザークは内心不安を憶えていた。だが、そのイザークもリーラが既にザフトから追われ、また戻るつもりもな かった家が無くなり、行方不明ということを知る由もなかった。

「ヴァネッサ……君らはプラ ントに帰国後、正式に私の部隊に配属される…よろしく頼むよ」

「は!」

ヴァネッサとライルが揃って 敬礼するが、ヴァネッサは内心にこの上官に対する不審感を拭えず、正直この上官の下で動かなければならないということに気が進まないが、命令である以上は 仕方なかった。

不機嫌さが顔に出そうになっ たので、ヴァネッサは急ぎ席に着き、ライルも隣のシートに腰を下ろした。

クルーゼに付き添ってシャト ルに搭乗したフレイは通路の真ん中でおどおどと立ち往生していた。その姿にイザークが苛立ちを込めて低い声で話し掛けた。

「早く座れよ」

刹那、竦むようにフレイは萎 縮し、イザークの鋭い視線から逃げるようにそのままクルーゼの隣のシートに駆け込んだ。

その怯えた姿にイザークはさ らに苛立つ……フレイが持つ赤い髪がどうしても重なるのだ。

自分の愛しい者に……まる で、彼女に拒絶されたようでイザークは内心、かなりの不安と苛立ちを抱えていた。

そんな感情を押し込むように イザークもシートにドカッと腰を下ろす。その様子を横眼で萎縮しながらチラチラと見やるフレイ……

周りに助けを求めたくともで きない……今の自分と同い年にしか見えない少年もまたコーディネイターであり、何度も自分がいたアークエンジェルを襲ってきたパイロットの一人なのだ。そ の外見からは想像もできない力があると怯え、他の面々も同じようなコーディネイターばかりであるため、フレイにはこの異様な仮面の男しか縋る相手がいない のだ。

それも……ただ父の声と似て いるというだけで………

だが、このシャトルが向かう 先はプラント……コーディネイターの世界…フレイにはそれがすぐに理解できた。もう、地球に留まることもできなければ、フレイは完全に孤立することを意味 していた。

だが、地球でもフレイが頼れ るものはもはやない……母国のオーブは崩壊し、アークエンジェルもまた脱走兵として追われる状況……何処にも、フレイの帰る場所などないのだ。

その事実がフレイに悪寒を走 らせ、震わせ、不安に駆られながら涙が溢れそうになる。

「……怖がることはない」

自分が敬愛する父の声で優し く声を掛けられ、フレイはハッと顔を上げる。

「私の傍にいれば安全だ よ……私がちゃんと君を護るよ…フレイ………」

異様な銀のマスクの下でク ルーゼが微笑む……フレイには、それが父親のジョージ=アルスターと重なる…ずっとクルーゼに付き添ううちにフレイも半ばこの父親と相似の声色を持つ男に 依存し始めていた。

やがて、シャトルの発射時間 となり……エンジンが火を噴いて、滑走路を走る。

徐々に機体が押し上げら れ……激しい振動が機内を揺らし、フレイは思わず眼を閉じ、クルーゼの肩に寄り掛かった。何も見さえしなければ、隣にいるのが父だと思うことができるとフ レイは自分に言い聞かせた。

その様子にクルーゼは口元を 緩ませ……フレイのするままにさせた。

(そう……それでいい…私が 護ってあげるよ…君は私の……大切な鍵なのだからね……)

やがて、シャトルは重力から 脱し、プラントへと向かって飛び立っていった………

 

 

 

 

クサナギの格納庫内で、フ リーダム、ジャスティス、インフィニティ、エヴォリューションの4機が発進準備を始めていた。

これからネェルアークエン ジェルへと移るためだ。

キラが先程のレイナのおかし な様子を尋ねるも、レイナはやや表情を顰めて何でもないと口を閉ざしたまま、インフィニティへと乗り込んでいった。

キラは不安な面持ちであった が、それでも今はやはり自分のこととカガリのことで頭がいっぱいでもあった。

「キラ……付いててやった方 がよくないか?」

その時、ジャスティスのアス ランから通信が入る。

モニターには、カガリが不安 な面持ちでこちらを見詰めているのが映っている。

今のカガリは非常に危うい状 態だった。だからこそアスランはキラにそう提案するも、キラは表情を落とす。

「いや……一緒にいると、か えっていろいろと考え込んじゃいそうだし……」

そうだ……まだはっきりとは しないが、姉弟と告げられた以上、今までのように向き合うことはできない。

ただでさえ今の状況はそう やって悩むことを許してくれない……顔を合わせても、気まずく困惑するだけである。

それを察したアスランももは や何も言えなくなった。

「そうか……」

発進シグナルが格納庫内に響 き、クサナギの発進ゲートが開く。

4機が宇宙へと飛び出すと、 そのまま並行するネェルアークエンジェルへと向かう。

その途中、唐突にジャスティ スがフリーダムの肩に手を置いた。

「キラ……ネェルアークエン ジェルへ移ったら、シャトルを一機借りられるか?」

その問い掛けに、キラは首を 傾げる。

「アスラン……?」

困惑するキラに向かって、ア スランはずっと考えていたことを告げる。

「俺は一度、プラントに戻 る……父と、ちゃんと話がしたい…やっぱり………」

先程、自らの決意を語ったば かりだが、それでもアスランにはやはりどうしてもそれをしなければならなかった。

「アスラン…でも………」

その言葉に眼を見開き、また 表情が翳りを帯びる。

「アスラン…解かっている の……今の状況でプラントに戻れば、貴方の身が危ないわよ……」

並行していたエヴォリュー ションのリンから嗜めるような通信が入る。

アスランとリンに与えられた 任務はフリーダムとインフィニティの奪還…そしてそれに関わったもの全ての排除……リンはもうザフトに戻るつもりなどないが、アスランにはそうはいかない のも理解できる。

だが、その任務も全うしてい ない今、プラントへと戻るのは危険が大きすぎる。

それを指摘されても、アスラ ンは強く被りを振った。

「解かってる! でも…俺の 父なんだ……」

父の目指す道が既に自分とは 違えていることも理解している……だが、それを父に一言も向かい合わずに決めることはアスランにはできなかった。

仮にも自分はあの人の息子な のだ……たとえ、道を違えることになっても、その意志だけは伝えておきたい思った。

思い悩み、葛藤するアスラン に、レイナが声を掛ける。

「……それが貴方自身の決意 なら、したいようにしなさい。やらずに後悔するより、やって後悔した方がいい」

その言葉に励まされたように アスランは若干ながら表情を緩める。

そして、その心情を理解した キラももう反論を口にはしなかった。

「解かった…ネェルアークエ ンジェルに戻ったら、マリューさんに話してみるよ」

軽く笑顔で呟くキラに、アス ランは感謝するような思いで礼を述べた。

「すまない……」

そして……4機はそのまま ネェルアークエンジェルへと着艦していった……

 

 

彼らが進み道は、果たして先 があるのか…今はまだ、解からなかった…………

 

 

 

 

 

 

 

 

《次回予告》

 

 

決意を伝えるため…そして、 道を確認するために少年は父と向き合う……

だが…その先にあるのは、冷 たい拒絶……

分かたれる想い……

 

そして、それぞれの決意を胸 に、戦士達は集う………

信じる道を進むために……

 

想いをのせ、艦は飛び立 つ……希望と…決意を胸に………

 

次回、「歌姫出陣」

 

平和への道標、指し示せ、ガ ンダム。


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