ラクスの決断に各方面に指示を出し合い、連 絡を取り合う中で一人が端末で探っていたデータの項目に表示されたデータに声を上げた。

「ラクス様」

呼ばれたラクスとダコスタが 怪訝そうに男が差し出す画面に眼を向ける……そこには、アスランが地球連合軍のシャトルで単身ヤキン・ドゥーエへと入港し、その後すぐに国防委員会本部へ と移送されたというデータが表示されていた。

だが、ラクスは眉を顰めた。

アスランは単身で戻ってき た……その事実が、いかに危険な状況かも………

「まあ…これはいけませんわ ね………」

いつものおっとりとした口調 で呟く……口調からはとても緊迫した雰囲気が伝わってこない。だが、意味ありげな視線を浮かべてダコスタを見上げたので、ダコスタは思わず嫌な予感が走 る。

自分が副官を務めた上官と同 じで、この少女も底が知れないのだ……

「……どうにかできまし て?」

愛らしい仕草で首を傾げる が、ダコスタは表情を引き攣らせた。

この厳戒態勢の中でどうにか しろだなどと、あっさり言われて……つくづく、自分は上官運がないと切に思うダコスタだった。

 

 

 

ヤキン・ドゥーエへと入港し たアスランは休む間もなくアプリリウスへと移送された。

それも当然だろう……極秘任 務を帯びてプラントを発ったはずが与えられた乗機も持たず、単身…しかも地球軍のシャトルに搭乗して帰還したのだから。

移送途中…アスランは移送 シャトル内でトイレへ立つと言って少しばかり席を外し、懐から一通の手紙を出す。それは、シャトルに搭乗前にニコルから渡されたものだった。

これをプラント内の郵政省へ と運ばれる貨物室へとこっそりそれを忍ばせておいた。後は間違いなく移送されるだろう。

自分の事を聞いた父はすぐさ ま連行しろと命令したに違いない……両隣を衛兵に固められたアスランは罪人のようにパトリックの執務室へと通された。

相変わらず薄暗い議長室のデ スクに、父は座っていた。

「……アスラン」

息子を見るとは思えない鋭い 視線に晒され、思わず萎縮するもそれをなんとか自制する。

真っすぐに父親を凝視する も、パトリックはそんなアスランの意思に気付かない。

「お前達はよい!」

連行してきた兵士に怒鳴るよ うに指示を出すと、衛兵は敬礼し部屋を出て行った……残されたアスランは決意を持って臨む。

父と話し合い…そして自分の 意志を伝えるために………だが、そんなアスランの決意を挫くようにパトリックは睨むような視線を向け、身を乗り出しかねない勢いで尋ねた。

「アスラン、どういうこと だ? 何があった!?」

「父上…」

唇を噛むような思いでアスラ ンはゆっくりと歩み寄るも、パトリックの糾弾に近い声は途切れない。

「リンはどうした!? ジャ スティスとエヴォリューションは…フリーダムとインフィニティの行方は!?」

アスランの様子の変化にも まったく気付かず、パトリックは激しく詰問する。

そんなパトリックに、アスラ ンは絞り出すような声で逆に問い返した。

「父上は、この戦争を……本 当はどうお考えなんですか?」

「……何!?」

一瞬、何を言われたのか解か らないようにパトリックが言葉を詰まらせた。

自分に忠実なロボットのよう なものとしか感じていなかった息子の突然の詰問に不審げに見やった。まるで、エラーを前に戸惑う者のようだ……

「俺達はいったいいつまで、 戦い続けねばならないんですか?」

そんな不審げな視線に晒され てもアスランは臆することなく真剣に問い掛けた。

「何を言っておるのだ、お前 は!?」

握り締めた拳をデスクに叩き 付け、パトリックはアスランの言葉を制する。

「そんなことよりも、与えら れた任務はどうした!? リンは何故戻らん!? 発った後、いったい何処で何をしていた! それを報告しろ!?」

息子に対する態度とは思えぬ その怒りに染まった表情と口調……アスランは身が切り裂かれるような悲壮な思いに駆られる。

「俺は……どうしても一度、 ちゃんと父上にそれをお訊きしたくて、戻りました……」

「アスラン…貴様!」

パトリックが両手でデスクを 叩き付け、席から立ち上がる。

「いい加減にしろ! 何も解 かっておらぬ子供が、何を知った風な口をきくか!」

「何もお解りではないのは、 父上なのではありませんか!?」

歩み寄るパトリックの気迫に 負けじとアスランも激しく言い返す。

「アラスカ、パナマ、ビクト リア……撃たれては撃ち返し、撃ち返してはまた撃たれ……今や、戦火が拡大するばかりです!」

自身の眼で見た戦場の爪 痕……ただ無為に戦火を拡げ、ただ犠牲を増やすだけの終わらない戦い……それらを訴えても、パトリックは耳を貸そうともしない。

「いったい何処でそんな馬鹿 げた考えを吹き込まれた!? あの小娘……ラクス=クラインにでも誑かされおったのか、この馬鹿者が!」

「そうして力と力でただぶつ かり合って……敵と定めた者を滅ぼし続け、それで本当に戦争は終わると……父上は本気で思っているのですか!?」

アスランは内心に抱えていた 疑問をぶつける……だが、パトリックの表情は変わらないまま、アスランを見下ろしながら迫るように叫んだ。

「終わるさ!」

パトリックは確信を込めたよ うに断言した。

「ナチュラルどもを全て滅ぼ せば戦争は終わる! 我らはそのために戦っているのだ!」

荒々しく…なんの迷いも躊躇 いもなく言い切ったパトリックに、アスランは息を呑む。

眼が見開かれ、背筋が凍り付 く……父のあまりの考えの恐ろしさに絶句しているアスランの胸元を、パトリックが掴み上げ、揺さぶる。

「答えろ、アスラン! リン はどうした……奴も裏切ったのか!? ジャスティス、フリーダム、インフィニティ、エヴォリューションの4機はどうしたのだ!? 返答次第によっては、貴 様でも処罰するぞ!」

アスランは当惑した面持ちで 憤怒に染まるパトリックの顔を見上げる。

「父上……本気で仰ってるん ですか…ナチュラルを全て滅ぼす、と………」

アスランには到底信じられな い言葉だった……アスランは、今までナチュラルを全て憎いと思ったことはない。

だが、震えるような口調で尋 ねるアスランに、パトリックは意にも返さず言い切った。

「これはそのための戦争だ!  ラクス=クラインもそれに投じる裏切り者どもも全て我らの敵だ! 我らは敵を滅ぼすために戦っているのだぞ! それすらも忘れたかっ、お前は!?」

憤怒に任せ、アスランの身体 を突き飛ばす……あまりの言葉に唖然となった板アスランは受け身すら取れず、床に身を強かに打ち付ける。

いつから……いつから、自分 達はナチュラルを滅ぼす道を選んでいたのだとアスランは自問する。この戦争は、コーディネイターの自由を勝ち取るためのはずだったはず…ナチュラルを滅ぼ すためではなかったはずなのに……これが父親なのか……こんな男が自分と血の繋がった肉親だというのか………

いや……父は最初から、自分 を息子などとは思っていなかったのだ……単なる使い勝手のいい駒としてとしか……母が死んだ時に…既にこの男は父親ではなくなっていたのだ。

もっと早くにそれに気付くべ きはずだったのに……敢えて眼を逸らしていた自分は大馬鹿者だ……自分自身の浅はかさと情けなさに絶望していたアスランが身を起こすと、パトリックはデス クから取り出した銃を持ち、眼前に立ち塞がる。

撃鉄をおこし、弾を装填し て……その銃口を真っ直ぐに付き付けた……その姿に愕然となる。

「父上……」

信じられないような視線を浮 かべる……実の息子になんの躊躇いもなく銃口を向けられるような男が、プラントの命運を握っている。人々を煽り、ナチュラルを殺せと叫んでいる。

「この愚か者が……下らぬこ とを言っていないで答えろ!」

眼を血走らせながらパトリッ クが叫ぶ。

「ジャスティス、フリーダ ム、インフィニティ、エヴォリューションの4機はどうした!? リンは何処へと消えた…答えぬというのなら、お前も反逆者として捕らえるぞ!」

アスランはどうしようもない 悲壮感に項垂れる……もはや、この男と理解し合うなど不可能であることを……自分以外の考えを持つ者は…自分以外は全て敵なのだ………

黙り込むアスランに痺れを切 らしたのか、パトリックは手元の呼び出しボタンを押すと、執務室に衛兵が乱入し、一斉に銃をアスランへと突き付けた。

もはや、アスランはパトリッ クにとっての敵なのだ……こんな男がいる以上…プラントの向かう先は最悪のものしか浮かばない。

拳を握り締め……アスランは 内に決意を固めた………

「……アスランっ!」

再度、怒鳴りつけた瞬間…… アスランはキッと表情を上げて飛び起きた。

「うぉぉぉっっ……!」

勢いをつけてパトリックに飛 び掛かろうとした瞬間……パトリックは一瞬眼を見開くものの、息子に向けてトリガーを引いた。

銃声が轟き……アスランの右 肩に鋭い衝撃が走り、アスランは吹き飛ばされて床に沈む。

焼けつくような鋭い痛み…… 右肩から鮮血が流れていく……その傷を見た瞬間、アスランはパトリックに撃たれたのだと瞬時に理解した。

「国家機密を奪った反逆者 だ! 捕らえろ!!」

命じられ、衛兵達はやや戸惑 いながらもアスランを拘束した。

「殺すな!」

衛兵達に拘束されて立ちがら され、心と身体に傷を負ったアスランに向かってパトリックが響いた。

「これにはまだ、訊かねばな らぬことがある! 連れて行け…奪われた4機の所在をなんとしても吐かせろ! 多少手荒なことをしても構わん!」

引き立てられていくアスラン の視界に、デスクから落ちて割れた写真立が入った。亡き母と幼い自分自身が笑っているが、もはやそれすらも遠い記憶のように思えた。

後ろ手に手錠をかけられ、連 行されていくアスランに向かって、忌々しげにパトリックは吐き捨てた。

「見損なったぞ、アスラ ン……」

その言葉すらも、忠実な道具 が一つ減ったという皮肉に聞こえて…アスランも自虐的に答え返した。

「…俺もです……ザラ議 長……」

……父と息子の、完全な決別 だった。

執務室から連行される様を遠 巻きに見詰める兵士達が困惑と戸惑いを浮かべているが、それすらもアスランには入らない。

恐らく、自分は拷問にかけら れるだろう…最悪、自白剤でも打たれるかもしれない。

ならいっそ…と、被虐めいた 考えが浮かびそうになったが……キラの言葉が脳裏に甦る。

 

―――――君は、まだ死ねな い……

 

絶望に染まりかけていた思考 にその言葉が冷静さを取り戻してくれた。

そうだ……自分はまだ死ねな い……たとえ、これから先にある道がどんなに苦しくともあの男の望むままに殺されてやるわけにはいかないのだ……

不意に、やや肌蹴た胸元で揺 れる赤い石が眼に入り……カガリの顔が過ぎる。

連行される中でアスランは決 意を新たに固めた。

 

 

 

 

L3宙域とL4宙域のほぼ境 目の暗礁地域……今現在、この周辺は連合・ザフトともに行動するものがなく静けさを保っている。

その無音の宇宙の中を航行す る一隻の戦艦……地球軍のアガメムノン級戦艦がゆっくりと進む。

格納庫の発進カタパルトに は、一体のMSらしき機影がある。そのコックピットで黒と赤の特殊なパイロットスーツを纏った人物が電源の落ちた暗闇のコックピット内で無言のままシート に腰掛け、操縦桿を握る手と指が先程からトントンと動いている。

そこへ、通信画面が開き、 コックピット内に光が差し込む。

《パルス特務兵……メンデル 周辺宙域に戦艦らしき大型の熱量が2つ、接近しつつあります》

「……奴らか?」

その通信に顔を上げて尋ね返 す……その声は低いが、確かに少年に近いものだった。

《ここからでははっきりと艦 の特定ができませんが、少なくともデータベースには無い艦影です》

Nジャマーの影響か、この長 距離ではセンサーでもはっきりとした艦の特定は困難であるが、それでも連合の標準艦でもザフトの戦艦でもない。

「構わん……直接確かめれば いい……出るぞ」

低く告げると、少年は鋭い眼 光を上げて、計器類を操作し、駆動音を響かせる。それに連動して計器類に光が灯り、コックピットの周囲モニターに光が灯り、コックピット内が照らし出され る。

アガメムノン級戦艦の発進 ハッチが開き、そこから宇宙への道が開ける。

《進路クリア……どうぞ》

「カナード=パルス……ハイ ペリオン、出る!」

ペダルを踏み込み、操縦桿を 引いた瞬間……MSのバックノズルが火を噴き、機体を発進させる。

宇宙に躍り出たMSは白いボ ディを煌かせ、流星のごとき速度で宇宙を駆け、L4へと向かった。

 

 

 

 

その頃、ネェルアークエン ジェルとクサナギはL4宙域に到着しつつあった。

だが、開戦の頃の戦闘の影響 か、周囲にはコロニーの残骸が多く浮遊している。

両艦とも、デブリに注意を払 いながら身を潜めるのに手頃なコロニーを探して進む。

ネェルアークエンジェル艦内 の医務室では、クサナギから訪れたフィリアとキョウがいた。

医療機器が横に備わった椅子 に腰掛けるキョウは、上半身を肌で晒していたが、その右腕だけは人のものではない……人造の機械部品が見えた。

コード類が伸び、また僅かに 見える隙間からは機械の音と点滅が見える……

「久しぶりの検診ですから ね……フィリアさん」

「ええ……ホントなら、定期 的に検診を行いたいのだけど…貴方がサボるから」

やや睨むような表情を向ける と、キョウは苦笑を浮かべる。

機器を操作しながら、フィリ アはキョウの右腕を成す義腕を調整する。

外部から取り付けられたコー ド類が繋がれた右腕を、キョウはゆっくりと確かめるように指を動かす。

「神経系に特に異常はないわ ね……でも、最初に貴方が運ばれて来た時はもう右腕は一生使えないと思っていたのに……義腕に変えてまで……」

どこか、痛々しい表情で見や ると…キョウは静かに首を振る。

「僕はフィリアさんに感謝し ていますよ……無理を言ってまで戦場に戻ろうとした僕にこの腕と成すべき艦を与えてくれて……」

やや憂いを携えた微笑を浮か べると、フィリアは溜め息をついた。

「貴方達の救出と貴方の艦を 手配してくれたのはウズミ様だし…貴方の右腕の義腕も元々はセシルが……貴方のお母さんが開発したものよ」

「それでも……ですよ」

その表情が、自分の親友だっ た者の顔と重なり、フィリアは眼を伏せる。

「……でも、あの子がまさか 貴方達と一緒にいたなんて…そしてまた、ここにいる……やはり、運命というものは、そう簡単に切れるものじゃないのね……」

苦い表情で呟くフィリアに、 キョウも表情を曇らせる。

「でも……」

表情を上げ、遠くを見るよう にキョウは言葉を発する。

「でも、あの子は変わりまし た……以前の殺気を纏わせた様子から想像もできないほど……手厳しいのは相変わらずですが、それでもあの子は優しくなった……やはり、彼女の遺児だけはあ ります」

寂しげな表情を浮かべるキョ ウ……フィリアも黙り込む。

「僕は…彼女には幸せになっ てもらいたい……あの子はそれを拒むでしょうが…たとえ、短い間でもあの子は僕の妹でしたから……」

レイナ本人は望まないだろ う……人の幸せを……それを望む価値も資格も自分にはないと………ただ、戦うことだけが彼女の生き方……

「もう、とんだシスコンお兄 ちゃんね……」

やや呆れるように…それで も、どこか嬉しく思う……妹の幸せを願うのもいいが、自分の幸せも考えればいいのに…と、先程からブリッジのCICの文字通信で何度もキョウの様子を不安 げに尋ねてくるマリアのメールが着ている。

「ヴィアは……彼女は本当に あの子を…いえ、あの子達を愛していた……たとえ、自分自身だとしても……愛してあげられなかったあの子達の分まで……」

「……でも、それが私達に とっての贖罪でもあったのでしょう?」

不意に後ろから掛けられた声 にハッとし、フィリアとキョウがそちらに眼を向けると…リンが静かに佇んでいた。

「…君が、レイナの……?」

「知っているのね…私と…… 彼女の関係も……」

問い返すリンに、キョウは頷 く。

「と言っても、フィリアさん と父さんから聞かされただけだ……僕自身も、それを聞いた時は流石に困惑したさ」

「でしょうね……姉さん…そ う呼ぶのは、本来なら間違っているのにね……」

自嘲めいた笑みを浮かべるリ ン……その時、艦内放送が流れてきた。

《前方、距離200…コロ ニー、メンデルを確認………》

《艦内、第2戦闘配備に移 行……各パイロットは非常時に備えて搭乗機にて待機せよ》

流された通信に、フィリアと キョウは息を呑む。

「メンデル……つくづく、神 とやらは皮肉な運命がお好きらしい……」

唯独り……リンだけが薄っす らとした笑みを浮かべた。

そして、医務室を後にし…… 格納庫へと向かった。

 

 

格納庫内が慌しくなる……無 人宙域だが、海賊が潜んでいる可能性もある。

クサナギ内からM1数機が周 囲を警戒し、グランのM2がM1を数機伴って前方のコロニー:メンデルへと偵察に出る。

M1は、宇宙用の強化ブース ターユニットに換装したものから随時に宇宙に発進していた。

ネェルアークエンジェル内で も、ムウ、アルフ、ディアッカ、ニコルが各々の機体で待機する。

待機するパイロット達はとは 別に、格納庫の一画ではトウベエを筆頭にマードック以下、整備班がオーブでモルゲンレーテから譲渡されたMSのパーツを組み立てていた。

パーツの組立やドッキング作 業をナチュラルの整備士達が行い、各駆動系統の回路の接続にはコーディネイターの技術者が行い、円滑に作業を行っていた。適材適所…トウベエはそれを理解 しているからこそ、この人員配置で作業を行う。

ボディに両腕、左脚がドッキ ングし、現在は右脚のドッキング作業に移行している。

そして、ボディ上部にはMS の頭部が吊らされている……その頭部形状は…イージスのものだった。ディアクティブモードのイージス…だがそれは、アスランが以前搭乗していたものではな い。

この機体の形式番号はMBF −02B:イージスディープ…オーブ沖の攻防で自爆したイージスから回収したブラックボックスからデータを解析し、それをモルゲンレーテで再現した連合製 のイージスのデッドコピー機だった。イージスを含めた初期型Gは元々モルゲンレーテが形にしたもの…当然、その主な機体データは残されており、再現するの はさほど難しくはなかった。

さらに、この機体にはモルゲ ンレーテが開発した新型バッテリー:パワーエクステンダーを内蔵しており、長時間の運用とPS装甲の強度を上げることに成功した。

「ところで班長…こいつのパ イロットはどうするんでさ?」

マードックが率直に思ったこ とを尋ねると、トウベエもやや表情を顰める。

確かに……組立を依頼されて 作業は開始したものの、肝心のパイロットが決まっていない。

現在、パイロット達にはそれ ぞれ搭乗機が与えられており、これ程の機体では並のパイロットではその性能をフルに発揮するのは難しいだろう。

「ミゲルにでも任せようか の……」

カラーリングが好みじゃない と文句を言いそうだが…と、内心に苦笑を浮かべた。

そんな中……自身のダガーへ と向かっていたシンは固定されたジャスティスの前で眼前の機体を見上げているカガリに気付いた。

父親を喪い、また祖国も失っ た彼女の境遇には確かに同情する……だが、仮にも代表首長の娘がいつまでも落ち込んだ表情を浮かべているのはやはり募りを感じる。

「おい、あんた!」

シンが声を掛けると…カガリ はビクッと反応し、こちらを向いた。

「お、お前……」

「あの人が心配なのは解かる けど……少しは信じろよ…それに、あんた独りがいつまでも不幸だなんて思うなよ!」

ウズミと直に対面したからこ そ、シンは自分が居た国への誇りを大切にしたかった。

なのに、その娘のあまりの落 ち込みように正直苛立ったのだ。

今居ない眼前の機体のパイ ロットの安否が気掛かりなのも解かるが、少しはもっと堂々といておいてもらいたいとシンは考えていた。

諌めるようなシンの言葉に、 カガリはハッとする……シンもまた、自分と同じように家族を眼の前で失った……その哀しみを持ちながらも、この少年は必死に生き延びようと…残った妹を護 ろうと戦っている。

その決意と勇気にはカガリも 羨望の念を抱かずにはいられなかった……

「あんたの親父さんがあんた へと託したこと……あんたがそんなんじゃ、親父さんだってうかばれない……しっかりしろよなっ!」

怒鳴りつけるように叫ぶと、 シンは背を向けてダガーの方へと移動していく。

その後姿を見詰めながら、カ ガリはやや呆然としていた。

「慰めて…くれたのかな…… 一応……」

小さくポツリと呟きなが ら……カガリは今一度、ジャスティスを見上げた。

そして、もし戻ってこなかっ たら置いてきたキラをぶん殴って、殴り込んででも迎えにいくぐらいに気概を呼び戻していた。

 

 

メンデルに調査に入ってから 十数分……コロニー内部の探索に入ったグランからは未だ連絡はないが、IFFがクサナギ艦橋から確認できているため特に問題はないと思われていた。

だが、センサーに接近する熱 源をネェルアークエンジェルが捉えたのはまさに唐突であった。

「セ、センサーに反応! 接 近する熱量を感知!!」

サイが声を上げ、ブリッジに 緊張が走る。

「熱紋照合……MSです!  ですが、ライブラリに該当する機体はありません!」

MS単独での接近……一瞬、 不審に思ったが、それでも未確認機というのが不安を煽る。

「総員、第1戦闘配備! キ サカ一佐!」

《解かっている、こちらもす ぐに二佐を呼び戻す!》

素早くクサナギに通信を入 れ、格納庫へと迎撃に出撃を出そうとしていたところへ、通信が開く。

《……こちらでも確認した。 私が出る》

エヴォリューションのコック ピットに着くリンがヘルメットのバイザーを下ろし、静かに答える。

「でも……」

《相手は一機……少なくと も、周辺に母艦らしき反応はないけど、万が一に備えて残りは待機させておいて》

冷静な口調で告げ、リンは発 進シークエンスを進める。

「……解かりました。お願い するわ」

《別に……留守を任されただ けだからね》

フッと口元に笑みを浮かべ、 リンは通信を切る……その表情と態度が、レイナと重なり、マリューは苦笑を浮かべる。

「エヴォリューション発進ス タンバイ…その他の機体は艦内で発進態勢のまま待機!」

「了解…各パイロットは機体 にて待機、エヴォリューションはカタパルトへ」

ミリアリアが指示を復唱し、 格納庫内が慌しくなる。

 

 

発進カタパルトに乗ったエ ヴォリューション……APUを起動させ、リンは操縦桿を握り締める。

ハッチが開き……その先に宇 宙の闇が拡がる。

《進路クリア、エヴォリュー ションどうぞ!》

「リン=システィ…エヴォ リューション、出撃する」

発進OKを告げる電磁パネル が点灯し、カタパルトがエヴォリューションを宇宙へと打ち出す。

ネェルアークエンジェルから 飛び立ったエヴォリューションは身を翻し、未確認の機影に向かって真っ直ぐに加速する。

向かう中、リンは接近中の機 体を照合するが……やはり、データベースには該当する機体はない。

特に、その周辺に母艦も見当 たらないことから、かなりの長距離移動に特化した機体だと推察する。

やがて……その機影がモニ ターにも捉えられた。

白いボディにバックパックに は用途が掴めないユニットを背負った機体……

(連合のGやXナンバーと形 状が似ている……ガンダムと呼ばれる機体か……?)

エヴォリューションが静止す ると、僅かな距離を開けて向こうの機体も静止した。

無言で対峙する2機……リン は相手の機体形状が連合のGやザフトのXナンバーと呼ばれる機種とよく似た外観を持っていることにやや戸惑う。

だが、識別は連合でもザフト のものでもない……

「何者だ……お前は…」

リンは低い声で問うと……向 こうからも通信が返ってきた。

「その機体……ガンダム か………」

声からして少年のようだ…… だが、別にこの機体はガンダムと呼ばれているわけではない……リン自身がOSの頭文字からそう呼んでいるだけだ。

「だとしたらどうだというん だ……こちらの質問にも答えろ…お前は、何者だ………」

やや殺気を込めると……向こ うからリンをやや驚愕させる通信が返ってきた。

「ガンダムに乗るパイロット か……ならば知っているか……ガンダムに乗るコーディネイター……キラ=ヤマトを!」

相手が手に持つ銃口をエヴォ リューションへと向ける……ピクッとリンの眉が微かに顰まる。

(キラ=ヤマト……何故、あ いつを探している……)

自分が今身を置く勢力の一 人……だが、何故キラを知り、そして探しているのかリンには解からない。

「知らないな……」

情報をみすみすくれてやる気 にもならず、リンは惚ける。

その答にMSのコックピット に座る少年はやや表情を顰める。

(もし奴が補給に来るとした らここかと思ったが……)

あてが外れ、少年は軽く舌打 ちする……

「フン……まあいい…」

毒づきながら身を翻す……だ が、その動きが止まる。

「そうそう……このハイペリ オンを見た者は生かしておかん………ガンダムは、俺のハイペリオン一機だけだ!」

刹那、弾かれたようにハイペ リオンと呼ばれたMSが振り返り、右手のRFW−99:ビームサブマシンガンで発砲してきた。

「っ!」

突然の行動にやや眼を顰める が、リンは冷静にシールドで受け止める……最初から味方とは考えていなかったので、こちらも余計な目撃者を生かしておくつもりもない。

リンもヴィサリオンを構えて 応戦した。ビームマシンガン同士、銃弾を撃ち落としながら、リンは狙いをハイペリオンへと定め、デザイアのビーム砲を放った。

13の光状がハイペリオンへ と真っ直ぐ伸びる……避け切れない、そう踏んだが……爆発が晴れ……その後ろからはエメラルドのような輝きを放つデルタがハイペリオンの左腕に展開されて いた。

(……アレは…)

攻撃を防がれたことよりも、 リンはそのMSが展開しているシールドのようなものに眼を細めた。

「ククク、面白い! だ が……その強さ、生かしておくわけにはいかん!」

狂気に染まった瞳でハイペリ オンが加速し、左腕のシールドを前面に掲げてビームマシンガンで狙撃してくる。

だが、エヴォリューションも バーニアを噴かし、その攻撃を回避する……機動性なら、エヴォリューションにも長がある。

互いに軌跡を描きながらビー ムマシンガンで撃ち合う……この高速状態ではレールガンやデザイアでは不利だと悟り、リンはヴィサリオンのみで応戦し、ハイペリオンの弾丸を撃ち落とす。 爆発の華が宇宙にいくつも咲き誇る。

「消えろ! 消えろ!!」

吼えながらハイペリオンは ビームマシンガンを連射するが、リンはその動きを読む……別に腕は悪くないが、動きが単調すぎる………リンにしてみれば、レイナの方がよほど厄介に映るだ ろう。

エヴォリューションは宙域を 浮遊するデブリに身を一瞬隠す……

「それで隠れたつもり かっ!」

嘲笑するようにハイペリオン はデブリを吹き飛ばす……だが、破片の中からエヴォリューションが姿を見せた瞬間、ハイペリオンは後方からビームを受け、被弾した。

「何!!?」

驚愕して見やると……ハイペ リオンの周囲にドラグーンブレイカーが浮遊し、その砲口をハイペリオンへと向けていた。先程、デブリに身を隠したのはドラグーンブレイカーを機体から離脱 させるための眼晦ましと時間稼ぎだ。

「……降伏か死か…選択の自 由ぐらいは与えてやる」

ヴィサリオンとドラグーンブ レイカーの銃口をハイペリオンへと向ける……この全方位から狙われた状況では、先程のシールドでは防げない。

だが、それに対し少年は高ら かに笑い上げた。

「クク、アハハハハ! この 程度で俺とハイペリオンを倒したつもりか…!」

怪訝そうになるリンの前で、 少年は愉悦の笑みを浮かべる……

「見せてやろう…ハイペリオ ンの輝きをな!」

刹那、少年は手元のスイッチ を押す…『5:00:00』というタイムが表示された瞬間、ハイペリオンの瞳が輝き、あるシステムが起動する。

背中に背負っていたキャノン 砲が立ち上がり、それが前面にセットされた瞬間、キャノン砲とバックパックが伸びたユニットが光を放ち、しれが繋がっていく。

「! これは……」

やや驚愕するリンの前で、ハ イペリオンは光り輝く方形に包まれる。

「アルミューレ・リュミエー ル……モノフェーズ光波シールドのこいつは、ビームだろうが実体弾だろうが破ることなど不可能だ!」

リンはそれに答えることな く、無言でヴィサリオンとドラグーンブレイカーを放つ…だが、少年の言った通り、ビームが全てそのシールドに遮られ、中には届かない。

「フン! 無駄だ!!」

リンは内心で舌打ちする。

(ちっ……防御に適した光波 帯か…)

それでアルミューレ・リュミ エール……装甲した光と呼ぶのか……なんとも滑稽なものだ。

「遊んでる時間が無い……決 めさせてもらうぞっ!」

いきり立ち、ハイペリオンは 何を思ったか、シールドに包まれたままでビームマシンガンを構えるが、ハイペリオンの放った弾丸がシールドをすり抜けて襲い掛かってくる。

「単位相指向性か……展開さ せているユニットは全部で5つ………」

リンはハイペリオンの能力を 分析する……恐らく、これがこの機体の切り札……これを用いたことでこのMSのバックにいる者の姿も掴めた。

「さて……どうする か………」

あとはこの鬱陶しいシールド の突破方法だけ……生半可な攻撃では破れないのは既に理解している…回避に徹しながらリンはハイペリオンの動きに眼を光らせる。

「チョコまかと……これで終 りにしてやる!」

鬱陶しいと感じた少年がハイ ペリオンの前面に掲げているビームキャノン:フォルファントリーの砲口に光が収束していく。

次の瞬間、高出力のビームが 解き放たれ、エヴォリューションに襲い掛かる。

ビームがエヴォリューション に着弾した瞬間……大規模な爆発が起こる。

その様子をネェルアークエン ジェルとクサナギから見守っていたクルー達は息を呑む。

ハイペリオンのビームキャノ ンから空になったパワーセルが抜け落ちる。

「アハハハハ! !!?」

勝利を確信し、笑い上げてい たが……センサーにまだ反応が表示されたことにその笑みが消える。

爆発の煙が引くと……その中 からほぼ無傷のエヴォリューションが姿を見せた。

コックピット内で、リンは軽 く鼻を鳴らす……あの瞬間、リンは瞬時にデザイアを掲げ、トリガーを引いてビームを放ち、相手のビームを相殺させたのだ。

だがそれも、リンのように実 戦で得た見切りと反応がなければ間に合わなかっただろう……

「ちぃ…しぶとい……!」

歯軋りしながら内心、敵を仕 留め切れなかったことに苛立ち、またビームマシンガンを構える。

「消えろっ! 消えろっ!  消えろっ!!」

叫びながら、ビームマシンガ ンを連射する……それを回避しながらリンはどこか付き合うのがもう嫌になってきた。

「……煩い、黙れ」

通信機から木霊する少年の叫 びにいい加減苛立ってきた……ここまで彼女を苛立たせたのはレイナ以外…いや、少なくともレイナはこんな馬鹿みたいに叫びながら戦いをしない分、マシだろ う。

「そんな盾に頼らなければ戦 えない奴が……偉そうに吼えるな」

辛辣な言葉を漏らすと、相手 の歯噛みした音が聞こえてきた……

「貴様ぁぁぁぁっっ!!」

再びビームキャノンを構え る……だが、リンはそれより早く意識を宙域全域に張り巡らし…展開していたドラグーンブレイカーに意識を飛ばす。

縦横無尽に動き回るドラグー ンブレイカーが幾度もビームを放つ。

「きかんっ! きかんっ!  きかぁぁぁんっ!!」

無駄な攻撃を繰り返すエヴォ リューションに嘲笑を浮かべるが……相手の注意をドラグーンブレイカーに引き付けるのが狙いであった。

リンは操縦桿を切り、エヴォ リューションを加速させる……インフェルノを抜き、アルミューレ・リュミエールを展開しているユニットに向けて、指向性を一点に集中させたビームの刃を突 き刺した。いくら強固な光波膜で覆われているとはいえ、それを発生させているユニットはほぼ外面に剥き出しに近い状態であり、光波の濃度も薄い……そこへ 先端にエネルギーを集中させたビームの刃が貫かれたため、ユニットの一部が砕け散る。

「何!!?」

驚愕する少年の前で、膜の一 点が崩れ、中が露出する……その一点さえあればリンには十分だった。

その一点に向かってヴィサリ オンのトリガーを引き、ビームの弾丸が吸い込まれるように中へと入り、ハイペリオンに被弾する。

肩、キャノン砲、脚部を撃ち 抜かれ、ハイペリオンを覆っていたアルミューレ・リュミエールの展開時間もタイムリミットを迎え、光が消える。

被弾し、機体から煙を噴き出 すハイペリオン……

「盾に頼りすぎたのが仇と なったな……どんな強固な盾だろうと、脆い点を露出させればそれが命取りになる……」

リンの物言いに、少年は憎悪 の眼を向け……キッと睨む。

「ぐっ……次に会ったときに は、必ず貴様を仕留めてやる、黒いガンダム……っ!!」

捨てセリフのようなものを吐 き捨て、ハイペリオンは反転し、その場から離脱していく。

それを追撃しようとはしな かった……するのも疲れる。

《こちら、ネェルアークエン ジェル……エヴォリューション、無事ですか?》

ミリアリアからの通信がコッ クピットに響く……

「問題はない……すぐに帰投 する」

通信を切ると、リンは今一度 消え去った機体を脳裏に思い浮かべる。

(あの特徴的な光波防御 帯……ユーラシアか……)

あのハイペリオンを覆ってい たのは紛れもなくアルテミスの傘と同じもの……だが、それを単位相指向性に改良・小型化してMSに転用したものだ。

あのまま逃さず、回収してお けばよかったか…と内心にそんな考えが過ぎり、苦笑を浮かべた。

 


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