拘束され、衛兵に囲まれたま まアスランは国防委員会本部のゲートの一つへと連行されていくとそこには既に移送用の車が用意されていた。

両脇を武装した衛兵が固めて いるが、アレに乗せられてはもはや逃げ出すチャンスはない。

決意したアスランの瞳には、 揺ぎない意志だけが浮かぶ。

「乗れ」

兵士が促した瞬間、アスラン は右の衛兵を蹴り飛ばし、もう一人も体当たりして弾き飛ばす。それと同時に駆け出す。

「き、貴様!」

その場にいた全員が一瞬唖然 とし…反応が遅れたものの、発砲しようとしたが、それより早く衛兵に紛れ込んでいたダコスタが銃の砲身で近くにいた一人を殴り倒した。

「ああっ! なんだってん だ、もうっ!」

あまりの事態の展開にダコス タもやや呆れた面持ちで銃を撃ちながらアスランを追っていく。間髪入れず懐から手榴弾のようなものを取り出し、発砲してくる衛兵達に向かって投げた。それ が閃光を発し……怯んだ隙にダコスタは突然の乱入者に怪訝そうにしていたアスランを物陰に引っ張り込む。

「こっちへ!」

その男の顔に見覚えがあった アスランはやや戸惑った……

「背中をこっちへ向けてくだ さい、手錠を撃ちます」

そう言って彼は息を乱すアス ランの手錠に銃口を当て、それを破壊した。

「無茶な人ですね、貴方も… 死ぬ気ですか……こっちのメンバーも一人蹴倒しちゃって……」

自由になった腕で傷を押さえ たアスランに思わず叱咤する…腰から拳銃を取り出し、手渡す。銃を手に撃鉄を起こしながら、戸惑いながらダコスタを見上げる。

「いわゆるクライン派ってや つですよ…もう、段取りがメチャクチャだ」

ややぼやくダコスタにアスラ ンは何か申し訳ない気持ちを憶え、詫びた。

「すまない…知らなかったん で……」

「そりゃそうでしょうけど ね……」

呆れながらダコスタが銃を構 えて撃ち返す…先程、アスランが蹴り倒した一人も援護しながら叫ぶ。

「ダコスタ、早く!」

そこへ仲間らしいエレカが回 り込み、ドアを開く。

「行きますよ!」

アスランも頷き返しながら拳 銃を撃ち、エレカへと飛び乗ると……ダコスタが残った閃光弾を放り投げ、視界を奪うと同時にエレカが発進した。

 

 

 

プラント周囲に浮かぶ軍事ス テーション……その内の一つ…第6ステーションをメイアとそして、赤服を着たリーラが訪れていた。

リーラは地毛の赤い髪にカ ラーコンタクトを外した赤い瞳だ……それが着込んでいる赤服を際立たせる。

だが、肝心のリーラは内心、 かなり緊張していた。

「ほら、あんまビクビクする な……余計に勘ぐられるぞ」

「あ、すいません」

嗜められ、軽く詫びると…メ イアはウインクしながらステーション内を移動する。進む二人の前に、一人の少年が待つように佇んでいた。

「待たせたな」

「ギリギリっすよ。もう ちょっとでコンサート会場行きのバスが出ちゃいますよ」

「解かってる…私らも早いと こしないとな」

親しげに会話を交わす二人 に、リーラは初めて会う人物にやや戸惑っていた。

「ああ、わるいわるい…こい つはラスティ……君と同じクルーゼ隊の一員だった奴だ」

メイアの言葉に、リーラは驚 いてラスティを見る……そう言えば、確か自分がクルーゼ隊に配属前にいた初期に抜けたメンバーの一人がそうであったと今更ながらに思い出す。

「一応、俺の後輩になるのか な……ラスティ=マックスウェルだ」

「あ、初めまして…リス ティ……いえ、リフェーラ=シリウスです。リーラと呼んでください」

もう、あの名は名乗らない… そう決意したからこそ、リーラは今の名を名乗る。

初対面になるリーラとラス ティが挨拶を交わすと、メイアが二人に言葉を掛ける。

「自己紹介はそれぐらい だ……いくぞ」

メイアが先頭に進み……ラス ティとリーラがそれを追う………3人はそのままステーション内を進む……だが、その移動する様を遠巻きに気付いた人物がいた。

(今のは…ラスティ?……そ れに…)

イザークだ……不機嫌さと憤 怒を放ったままステーションへと上陸していた彼は、見覚えのある顔に戸惑う。何故ラスティがここに……だが、それよりもイザークの中に引っ掛かったのは一 番後ろにいた一人……背中からではっきりとは解からなかったが……あの後姿は見間違えるはずがない。

それを確かめるため、イザー クもこっそり後を追った。

先を進む三人はそのままス テーション内のMSデッキを目指していた。

そこへと続くゲートには警備 兵が立っていたが……メイアが敬礼すると、警備兵達は慌てて敬礼する。そのものものしい警備に怪訝そうに表情を歪める。

先のフリーダム、インフィニ ティの奪取以来、特定のMSには警備をより厳重にしていた。

警戒が厳しくなったのは確か に厄介だが、余計な邪魔が入らない分だけ…まだ駒と思われている人物なら容易に入れる。

メイアの顔パスでゲートを 潜ったラスティとリーラも敬礼しながら通過し…そのまま奥のデッキへと向かう。

「いいか…時間が無いから手 身近に説明するぞ……私らはこれから、この奥で配備されているはずの新型MS3機を奪取し、そのまま宇宙へと出る」

事前にある程度の流れを聞い ていたラスティはさして驚かなかったが、リーラは眼を見開いた。

「新型MSの奪取……」

「ああ…一機は私に受理され た機体、そしてもう二機…こいつらは、Nジャマーキャンセラーを搭載した核エンジン型のMSだ」

その言葉に今度こそ絶句す る……核で起きたユニウスセブンの悲劇……アレをまた起こしかねない装置を搭載しているMS…まさか、ジークマルの言っていたことはこれなのかと自問す る。

「正直、私だってあまり良い 気はしないさ……けどな、MSである以上は機械だ。機械は全て、扱う人間次第……つまりは私達次第だ。だから私らは、決してその力を無為に振るってはいけ ない……」

決意を思わせるメイアの表情 に、ラスティもリーラも自分が進もうとしている道の険しさと重さを痛感する。

沈黙したまま進むと、やがて パイロット用のロッカールームが見えてきた…その少し先にはデッキへと続くハッチが見える。

「いいか、すぐにパイロット スーツを着ろ……そして3人で同時に機体に乗り込んでステーションのハッチを破壊して宇宙へと出る」

「その後はどうするんです か?」

いくら核動力を搭載している とはいえ、MS単機でプラントを脱出してどうするのか……

「心配するな……言っただ ろ。バスが来るってな…私らが今やらなきゃいけないのは、バスに乗り遅れないようにすることだ」

不適に笑うと、三人はロッ カールームへと駆け込んだ。

 

 

 

アプリリウス・ワンの宇宙艦 格納デッキにて就航を待つ二隻の新造戦艦……

デッキ内全体の照明が落ちて いるため、その全貌ははっきりとは確認できないが、両艦は同型であることを思わせる構造を持っている。

艦首がスラリと伸び、中央部 に接続された後部パーツには互いに白い翼が突き出している。

ブリッジ下部に砲身の長い単 装の主砲を装備し、艦全体に備わったミサイル発射管のハッチ……相違点は、一隻が優美なカラーリングを誇るも、もう一隻は闇に同化するような黒……そし て、艦首の武装の違いであった。

一隻は艦首両側部にMobilesuit Embedded Tactical Enforcer、通称:ミーティアと呼ばれる兵装。もう一隻は艦首に備わった巨大な開閉ハッチを持ち、内部には陽電子破壊特装砲、QZX−P:タンホイ ザーが内蔵されていた。

ザフトの最新鋭戦艦…『エ ターナル 』と『オーディーン』……それがこの二艦の名称だった。

エターナルとオーディーンの 両艦の後部ハッチが開かれ、そこへ次々と物資が搬入されていく。その指揮を執っているのはルフォンだ。

「そっち! エターナルには 第37番の補給物資を積み込みぃ! オーディーンには29番や!」

物資が次々と搬入されていく 中、オーディーンにMSを固定したハンガーが移送されていく。ハンガーに固定されているのは、ザフトの次世代型主力機:ゲイツの派生機、ZGMF− 600AS:ゲイツアサルト……アサルトシュラウドを装備した拠点防衛・対艦用の重武装型ゲイツだ。

未だ生産ラインが整わず、配 備は果たされていないものの、僅かに生産された数機を密かにオーディーンへと搬入するようにルフォンが手配した。

「ゲイツアサルトをオー ディーンに積み込んだらすぐにハッチを閉じぃ! その後は速やかに乗艦やでぇぇぇ!!」

声を張り上げるルフォンに、 整備士や補給班の兵達がエターナル、オーディーンの艦内へと退避していく。

やがて、両艦のハッチが閉じ られ……補給作業は完了した。

「こちら格納庫……準備OK や…いつでもいけるで!」

エターナル内の格納庫で、ル フォンは通信機でブリッジへと合図を送った。

 

 

ルフォンの一報は、すぐさま ブリッジへと届けられた。

「搬入作業は完了したそう よ……メイア達も第6ステーションに到着したわ。それと、『すぐにバスに乗車します』と連絡がきたわ」

通信席に座る黒髪に金メッ シュを入れた優美な女性……アイシャは副長席に就いている男に向かって微笑んだ。

それを受けた男は、日焼けし た浅黒い肌の顔に大きく傷が走り、左眼を閉じられている。

だが、その傷は男の持つ野性 味と存在感をより際立たせ、まるで海賊のような錯覚を受ける。

その男こそ、レイナのルシ ファーに愛機:ラゴゥで闘いを挑み、敗れたザフトの名将、砂漠の虎:アンドリュー=バルトフェルドだった。レイナとの戦闘で左眼を失明する重症を負ったも のの、彼は生還を果たした英雄としてプラント内で宣伝されていた。その人気を失点回復にと思ったパトリックが彼を新造戦艦、エターナル艦長に任命し、戦線 復帰を望んだ。

「ふむ……では、いきますか な…ダイテツ艦長?」

バルトフェルドが照明の落ち た薄暗いブリッジの正面のメインモニターに映る老齢の男に問い掛けた。

その男は、エターナルの兄弟 艦:オーディーンの艦長に任命されたザフトの名将の一人、鋼鉄の狼:ダイテツ=ライガ……宇宙での戦闘で、大部隊を率いての集団戦闘を手腕とする男だ。既 に齢は50を過ぎているが、その白く豊かな髭と口元に咥えるパイプ…そして深く被ったザフトの制帽の下から見える眼に走った傷跡とその下にある眼光は鋭 く、歴戦の戦士を思わせる。

《うむ……こちらも既に準備 は完了した………いざ、参ろう…》

静かに……それでいて威厳を 携えた口調で言うダイテツにバルトフェルドは頷き、手元の通信機を持ち上げ、コホンと咳払いを一つしてから艦内放送をONにする。

「うぅん! あー、本艦はこ れより最終準備に入る。いいか……本艦はこれより最終準備に入る……」

もっともらしい内容の通信が 艦内に響き渡る……だが、その内容に覚えのないクルー達が戸惑う。

「作業にかかれ!!」

一部の兵達が困惑して一瞬、 首を傾げる……次の瞬間、傍にいた同僚に銃を突き付けられ、クルー達が眼を剥き、困惑する。

バルトフェルドの……いや、 クライン派の兵士達が一斉に艦内の無関係のクルーを追い出しに掛かったのだ。

クルー達は一斉にハッチから 艦外へと唖然としたまま追い出されていく。

「どういうことだっ!?」

戸惑いながら怒号を上げて尋 ねる兵士に、いちいち説明する暇などなく、クライン派のクルー達は淡々とその背中を押した。

「ただ、降りてくれればいい んだよ」

部外者を連れて出発するわけ にはいかない……それはオーディーンでも起こっていた。

 

 

 

そんな宇宙艦デッキの異常 に、パトリックは気付かなかった。いや……彼にとってはより厄介な事態が起こっていたのだ。

「何だと!? 逃げられたで 済むか、馬鹿者っ!!」

通信機の向こうから聞こえる 者に向かって怒鳴りつける声が執務室に響く。

アスランが連行中にクライン 派によって連れ出され、そのまま逃げ出したという報だ。

パトリックは矢継ぎのごとく 指示を飛ばす。

「すぐさま全市に緊急手配!  港口閉鎖!! 軍にも警報を出せ…いいな! アレを絶対に逃してはならん!!」

奪取された4機の所在を知る 者を逃してはならない……パトリックは怒りに拳を強く握り締め、震わせる。

「アスランめ……っ」

仇敵のように、パトリックは 息子の名を忌々しげに吐き捨てた。

 

 

 

一方、アスランは従うままに ダコスタらクライン派と行動を共にしていた。無論、自分独りではプラントからの脱出が困難というのもあっただろうが、なにより父親との一件がアスランの心 情に陰を落としていた。

エレカでとある場所へと移動 し、そこに待機していた複座式の小型シャトルに搭乗すると、ダコスタが操縦し、機体を飛び上がらせた。

「ええい! 急がない と!!」

時間を確認しながらダコスタ が自身に言い聞かせるように叫ぶ。

加速するシャトル内で、アス ランはどこか表情を苦痛に歪めて夕闇に染まるプラントを眺めた。

シャトルはそのままシャフト 内に飛び込み、宇宙へと続く通路に向かった。

 

 

部外者のクルーを追い出し、 後は本来のクルーが来るのを待つばかり……シートで古びた懐中時計を見ていたバルトフェルドは、ブリッジへと入るドアの開閉音に懐中時計の蓋を閉じ、後ろ に振り向いた。

「お待たせいたしました」

凛と響く穏やかな声……長い ピンクの髪を後でポニーテールにまとめ、将を思わせる陣羽織を身に纏ったラクスが姿を見せる。

「いえいえ、ご無事でなによ り……」

ニヤリと笑うバルトフェル ド……そして、前を静かに見据える。

「では……行きましょう か?」

「はいっ」

意志のこもった微笑を浮かべ るラクスはバルトフェルドの上部に位置する艦長シートに腰を下ろした。

【マイドマイド】

ハロがブリッジ内で舞う中、 クルー達は発進シークエンスを進めていく。

「出航プランCをロード、強 行サブルーチン、19:20オンライン……」

「ロジックアレイ通過……」

「セキュリティ解除確認、 オールシステムズゴー!」

エターナルとオーディーンの エンジンが駆動音を響かせ、エンジンノズルに光が収束する。

CICの全システムが起動 し、パネルに光が灯っていく。

《おい、何をしている? 貴 艦らに発進命令は出ていないぞ!》

デッキ内の異変に気付いた管 制官の戸惑った制止の通信が飛び込んでくるもそれに答えてやる気などない。既にサイは投げられた……それに呼応するようにハロがブリッジを飛びながら電子 音を発する。

【テヤンデーイ】

意味不明な返答に管制官は眼 を剥くばかりだ……

《どうしたのだ、バルトフェ ルド隊長!? ダイテツ艦長!? 応答せよ!》

なおも声を荒げて呼び掛けて くるも、異変を察した管制官は発進ゲートのパスワードを変更して発進を阻止しようとする。

ゲートの発進コード変更はす ぐさま両艦のブリッジにも気付いた。

「メインゲートの管制システ ム、コード変更されました」

その報告に、バルトフェルド は舌打ちする。

「ちっ、優秀だね……そのま まにしてくれりゃいいものを……」

こちらとしては不本意だ が……既に予想していた事態だけにその苦言を聞いたアイシャが楽しげに尋ねた。

「どうするの、アンディ?」

それに対するバルトフェルド の答は決まっていた……不適な笑みを浮かべながらラクスを見やる。

「ちょっと、荒っぽい出発に なりますな……覚悟してください」

「仕方ありませんわね……私 達は行かねばならぬのですから………ダイテツ様?」

柔らかな口調の中に込められ た確固たる意志を漂わせ……ラクスは正面モニターのダイテツに眼を向けた。

《うむ…せっかくだ、盛大な 狼煙を上げて行こう……バルトフェルド隊長》

口元に薄く笑みを浮かべ、パ イプを動かしながらダイテツが不適に目配せすると、バルトフェルドもその意図を察して薄く笑って指示を飛ばす。

「主砲、発射準備! 照準、 メインゲート……発進と同時に斉射!」

エターナルとオーディーンの ブリッジ下部に位置する主砲が砲身の角度を調整し、その砲口を先に見える発進ゲートに定める。

その瞬間、バルトフェルドは 促すようにラクスを見やると、ラクスは強く頷き返し、前方をキッと見据える

「エターナル、発進してくだ さい!」

《オーディーン…出陣す る!》

凛とした声が両艦のブリッジ に轟き、駆動音が高まっていたエンジンが火を噴き、エターナルとオーディーンはゆっくり加速し、動き出す。

《何をする、エターナル、 オーディーン! 艦を止めろ!!》

なおも制止を呼び掛ける管制 官の声がデッキ内に響くが、二艦は構うことなくゲートに向かって加速する。

《本部へ、アラート発 令!!》

遂に軍本部へと発進を強制に 停止させる指示が向かうも、もはや遅い。

《「撃てぇぇぇぇぇ!!」》

バルトフェルドとダイテツの 声が響いた瞬間、二艦の主砲が火を噴き、エネルギーが前方に立ち塞がるゲートに直撃し、ゲートが吹き飛ばされる。

強行突破といえばこの方 法……開いたゲートの穴へと飛び込み……潜り抜け、その艦体を宇宙へと踊り出させる。

淡いピンク色に染まるエター ナルが宇宙の星々のように煌き、宇宙の闇に同化するような漆黒のオーディーン……今、二艦は大きく拡がる宇宙の海原へと身を乗り出したのだ。

「ダコスタやメイア達 は!?」

バルトフェルドが素早く別行 動しているはずの仲間の名を尋ねた。

 

 

二艦がゲートを破る数分 前……第6ステーションのMSデッキへと続くゲートでイザークが警備兵に喰って掛かっていた。

「ですから、ここから先は関 係者以外立ち入りを禁止されているんですよ…」

苦い表情で告げる警備兵に、 イザークは怒鳴る。

「俺はクルーゼ隊の者だ…… この先に行ったはずの奴に少し用があるだけだ!」

メイア達の後を追っていたイ ザークは、このゲートの奥へと消えていくのを目撃し、その後を追おうとして警備兵に止められたのだ。

いくらクルーゼ隊でも事前に 登録された人物とその関係者以外を勝手に入れるなというパトリックの厳命を受けている身としては例外を認めるわけにはいかなかった。

その時、ステーション内に警 報が鳴り響いた。

「っ、何だ!?」

顔を上げながらイザークは戸 惑う。

《緊急配備! 緊急配備!  エターナル、オーディーンの両艦の発進を阻止せよ! ただちに守備部隊はアプリリウス第3デッキ発進ゲートへと急行せよ!》

聞き慣れぬ艦名にイザークは 一瞬、眉を寄せるも警備兵の注意がその通信へと向いた瞬間、それを横に駆け出した。

「あ、ちょっと!」

警備兵の制止を振り切り、イ ザークは奥のMSデッキへと急いだ。

 

 

「これは……」

パイロットスーツ姿に着替え た三人はMSデッキへと入ると、そこには3体の鉄褐色の灰色のカラーリングのMSが固定されていた。

一機はメイアの搭乗機……G の形状デザインをほこり、特徴的なのは両腰に帯刀する巨大な剣だ…そして、両脚部の側面にナイフを装備し、目立った飛び道具を保持しないのが近接用を思わ せる。

その右に固定されているのも またGと似通った形状デザインを持つ機体。だが、バックパックの流線型ウイングに肩部には巨大なバーニア機構が搭載され、両腰部に砲身を備えている機動性 を重視したような機体。

そして左に立つのはこちらは 本体はゲイツのようだが、バックパックにはジャスティスと同型のリフターに武装もフリーダムと共通する物も多い、火力を重視した機体のようだ。

それぞれに特徴を持つ3機の MS……

 

ZGMF−X08A:ヴァリ アブル

ZGMF−X11AT:スペ リオル

YFX−600RA:火器運 用試験型ゲイツ改

 

初の核動力を搭載したテスト ヘッドの機体、可変機構を導入したX11シリーズの一号機、そしてフリーダム・ジャスティスの武装評価の試験として開発され、後に核動力に換装されたゲイ ツのカスタム機……その3機が、コックピットのハッチを開き、主を待ち構えている。

メイアはチラリとパイロット スーツの時計に眼を向けると、もう時間は過ぎていた…間もなくバスがここを通る。

「ラスティはゲイツへ、君は 右端の機体に乗れ……いいか、搭乗したらすぐに機体を起動して発進させる!」

それだけ伝えると、メイアが 床を蹴ってヴァリアブルへと整備兵が動き回ってる中を向かう。リーラとラスティも指示された機体へと向かって跳ぶ。

素早くヴァリアブルへと取り 付いたメイアはコックピット付近にいた整備兵の鳩尾に拳を入れ、引き離す。突然の事態に慌てる整備兵達を尻目に、メイアはヴァリアブルに搭乗するとハッチ を閉じ、素早く機体を起動させる。

ヴァリアブルの瞳に光が灯 り、固定されていた拘束具を弾き飛ばし、ゆっくりと動き出す。

《警告する…これからハッチ を破壊する、全要員はただちに退避せよ!》

機外スピーカーで怒鳴るよう に叫ぶと、ヴァリアブルは腰から複合兵装型対艦刀:レーヴァティンを抜き、ライフル形態に変えてそれを前方に位置する外へと発進するハッチへと向ける。そ の意図を察した整備兵やデッキ内にいた兵士達が慌てて退避していく。

そんな中、退避していく兵の 流れに逆らうようにイザークが進み、歯噛みしながらようやくハッチにまで辿り着き、デッキを見渡すと……その眼には、灰色の機体へと向かっていく赤い髪が 見えた。

「リーラ!!」

思わず叫ぶと……コックピッ トハッチに辿り着いた赤い髪の少女はビクッと身を震わせ…こちらに顔を半分向けた。

間違いない……とイザークが 確信したのも束の間……少女は眼を伏せ…口を動かす。

声は聞こえなかったが…… 『ゴ・メ・ン……』と確かに呟いていた。

刹那、ヴァリアブルのレー ヴァティンライフルが火を噴き、ゲートを吹き飛ばした。

空気の排出が始まり、デッキ 内に気流の嵐が吹き起こる。

訳が解からないとばかりにイ ザークが後を追おうとするも、それに気付いた兵士が慌ててイザークを制止する。

「ダメです、エアロックが破 壊されました!」

「離せ!!」

兵士達に半ば引き摺られるよ うにイザークの姿はゲートの奥へと消え…ハッチが閉じる。

それを複雑そうに見詰めてい たリーラだったが…やがて、自身を奮い立たせるように顔を上げると、赤いヘルメットを被り、バイザーを下ろす。

リーラ、ラスティの二人も素 早く機体を起動させ、エンジンが駆動音を響かせる。

スペリオル、ゲイツの瞳にも 光が灯り…拘束具を吹き飛ばして動き出す。

気流が吹き荒れる中、3機の PS装甲がONになり、機体にカラーリングが走る。

ヴァリアブルには蒼いカラー リングが…ゲイツにはオレンジに近いカラーが…スペリオルには、メインカラーを白と紫が走る。

間髪入れず……3機のバーニ アに光が収束し、火を噴き始める。

開くゲートの先に拡がる宇宙 に向かって、3機は飛び立った。

ゲートを突破し、ヴァリアブ ル、スペリオル、ゲイツ改が宇宙に身を踊り出し、エターナル、オーディーンとの合流を目指す。

 

 

ステーション内と宇宙艦デッ キの異常はすぐさまヴェサリウスのブリッジにも伝わった。

《全艦、第1戦闘配備! 出 撃可能なMSは迎撃に出よ!》

格納庫にアデスの怒号に近い 指示が飛び、格納庫内はMSの発進準備に追われる。

だが、搬入したMSもほぼ全 機がメンテナンス途中であったために思うように進まない。

そんな中、一機のMSが発進 カタパルト移動していく。

ゲイツを彷彿させるデザイン だが、バックパックに大型スラスターとバーニアノズルが見える。両脚側部にはさらに高機動を意識したブースターが見える。

ZGMF−600M:ゲイツ ハイマニューバ……ゲイツの派生機の一つ…高機動用にカスタマイズされたゲイツの改修型だ。長時間のスラスター稼動を主眼にしたため、ゲイツの代表武装で あるビーム兵装が取り外され、既存のジン用の実弾兵器の改修型が装備されている。

コックピットに座るのは、ク ルーゼ隊に新たに配属されたシホ=ハーネンフースだ。生真面目な性格で、自身のテスト機を調整していたためにこの緊急事態にも即座に対応できたのだ。

発進カタパルトに乗り、無重 力に機体が浮遊する……発進OKを告げる電磁パネルが点灯する。

「シホ=ハーネンフース、出 ます!」

刹那、電力ケーブルが外れ、 ゲイツハイマニューバがヴェサリウスより発進し、ステーションから飛び出した3機を追撃した。

 

 

ステーションを飛び出し、プ ラント間を飛ぶ3機は、真っ直ぐにアプリリウスへと向かう。

間もなくあちらもゲートを突 破してくるはずだ……その時、レーダーに敵機の接近を告げるアラートが響く。

突き進む3機の前に立ち塞が るように現われるMS……重量感を漂わせるその機体形状に、3人は息を呑む。

「アレは…バルファスっす よ!?」

「例の無人機か!」

遂この間ロールアウトしたば かりの最新鋭無人人型機動兵器……パイロットという制約を排除した完全な戦闘マシン……人は、自らが戦うことで初めて戦いというものを知る。

自分の手が汚れなければ、そ の傷みにも気付かない……メイアも内心はこの兵器には嫌悪しているが、今は少しでも戦力が欲しい。

背に腹は変えられないの だ……それに、兵器も使う者次第だ。

「あの機体の頭部を撃ち抜 け! そこにAIがある!」

「「了解(っすよ)!!」」

ゲイツ改、スペリオルがそれ ぞれ武装のロックを解除した瞬間、後方からも敵機の接近を告げるアラートが響いた。

「後方から一機……は、速 い!」

そのMSのスピードはジンの 数倍はある……モニターで視認したその形状はゲイツのカスタム機を思わせた。

「ちっ、ゲイツのカスタム機 まで……!」

まずいとメイアは瞬時に思っ た……バルファスだけならともかく、ゲイツのカスタム機まで追撃に出すとは…自分はともかく、他の二人は機体に慣れていないはずだ。

メイアはせめて二人だけでも 行かせようとするが、それより早くスペリオルが速度を落とす。

「バカ! 何やってるん だ!!?」

減速するなど、正気の沙汰で はない……だが、リーラははっきりとした口調で告げた。

「大丈夫です……私も、もう ここで止まるわけにはいかないんです!」

自らの決意を発し、リーラは 通信をOFFにすると、スペリオルは減速しながら態勢を変え、後方から追い縋るゲイツハイマニューバに対峙する。

その様子に、呆れたように苦 笑を浮かべる。

「ったく…ラクス嬢といい、 彼女といい……最近の子は随分、肝がすわってるもんだな…」

笑みを浮かべながら、メイア は注意を眼前のバルファスへと向ける。

スペリオルのコックピット内 で、リーラは機体の装備を検索し……右手に保持するフリーダム・ジャスティスと共通のルプスビームライフルを構え…照準が合わさった瞬間、トリガーを引い た。

その迎撃に転じる様に、シホ も眼を細めながら、向こうが加速しながら放つビームを後部のスラスターと脚部のバーニアを巧みに操作し、ビームを逸るように回避する。

互いに高速状態であるため、 その態勢から放たれるビームも速度が速い……

「だが、機動性ならこの機体 も負けないっ!」

スペリオルを睨みながら、携 帯しているJDP4−MMX44試製30mm機甲突撃銃を 放つも、スペリオルもその弾道を同じような動きでかわす。もっとも、着弾したところでPS装甲に護られたスペリオルには致命傷にはならないだろう。

シホは内心、歯噛みする…… 命令は機体の破壊ではなく奪還だ。そのため、こちらもかなり攻撃方法が限定される上に、相手の機体のパイロットもかなりの腕だ。

「でも……逃すわけにはいか ないっ!!」

手持ちの火器で有効な腰 に帯刀しているMA−M5:10m対艦刀を抜き、ビームの 刃が走る。そのまま加速し、斬り掛かる。

だが、リーラは腰部からビー ムサーベルを抜き、それを受け止める。

エネルギーがスパークする 中、リーラとシホは互いに歯噛みする……

「ええいっ!!」

気合いとともに吼え、スペリ オルが胸部のGGキャノンを発射する……それがゲイツハイマニューバの頭部メインカメラに着弾し、モノアイバイザーが砕ける。

メインカメラを失ったゲイツ ハイマニューバのコックピットが暗転する……一瞬、動揺したように息を呑むシホ…その隙を衝き、スペリオルはゲイツハイマニューバのボディに向かって減速 する…加速するゲイツハイマニューバのボディに両足が着いた瞬間、思い切り蹴り……逆方向へと蹴り飛ばされたゲイツハイマニューバは逆に加速を相殺され、 その身体を圧迫するGにシホは短い悲鳴を上げる。リーラは逆にその加速を利用し、コンソールを叩き、スペリオルの変形システムを作動させる。

瞳を煌かせ……スペリオルの 上半身が180度回転し、下半身が後ろへと伸びると、足の裏にバーニアノズルが突き出る。

上半身のカバーがスライド し、90度上を向くと、バックパックに搭載されていたパーツがスライドし、前へと突き出して機首となる。

翼が拡がり、戦闘機形態へと 変形したスペリオルは加速して先行するヴァリアブルとゲイツ改に追い縋る。

先行していたヴァリアブルと ゲイツ改に向けてバルファスのモノアイが機体データを表示し、右腕に装着されたMA−M27C:ビームキャノンを斉射する。その攻撃は機械ゆえに正確だった。

だが、2機は螺旋を描くよう に回避する。

「人形ごときにやられて、ザ フトの赤服が務まるか!」

ラスティが吼えながら、右手 のルプスビームライフルとリフターのフォルテスィスビーム砲を一斉射する。

その攻撃はバルファスの頭部 を正確に撃ち抜き、AIを破壊されたバルファスはそのまま沈黙する。防御シールドを展開する暇がなかった二機は沈黙し、残った一機がシールドを展開して ビームを防いだ。

だが、そのバルファスの真正 面に飛び込んだヴァリアブルがレーヴァティンを振り上げ、真っ二つに斬り裂いた。

爆発するバルファス……そし て、その場に浮遊していたバルファス二機の残骸を両手で持つと、そのまま加速する。

もう、アプリリウスの合流場 所まで遮るものはない…その時同時にアプリリウスの発進ゲートから火が昇った。

 

 

メンテナンス用の通路を突き 進んでいたダコスタとアスランの乗るシャトルの前に、哨戒艇が立ち塞がり、手持ちのバルカンポッドで発砲してきた。

「えええいいいいっっ!!」

舌打ちしながら、ダコスタは 強引にその弾幕に突撃し、衝突を恐れた哨戒艇が僅かに怯んだ隙間を掻い潜り、通路の先に見えた出口に飛び込んだ……眼前に拡がる宇宙、そして眼下には2隻 の見慣れない戦艦が航行しており、アスランは眼を見張った。

「新型艦……!?」

既存のナスカ、ローラシア級 とは明らかに異なる外見に、ダコスタは声を弾ませる。

「隊長!!」

待ち構えていたかのように佇 むエターナルへと向かい、小型機は一直線に突っ込んでいく。

《お待たせ!!》

その時、後方から3機の機影 がこっちに向かってきているのに気付いた。

《遅いぞ、ダコスタ! メイ ア!!》

「こっちがどんなに苦労した と思ってるんですか!」

《そう言うなって、土産は 持ってきたからな!》

からかうような相手の口調に ちょっとムッとした声音で言い返し、メイアはしたり顔で答える。

《よぉしっ、長居は無用だ!  ダコスタやメイア達は後部デッキへ! 機体収容後推力最大! こいつらは速い、振り切るぞ!》

軽快に笑い上げるようにバル トフェルドが叫ぶ。

エターナルの後部ハッチが開 き、そこへダコスタは小型機を乗り入れさせた。それに続くようにヴァリアブル、ゲイツ改、スペリオルが強引に着艦する。

ハッチが閉まると同時に、エ ターナルとオーディーンはエンジンを最大出力で噴かし、急加速する。

急激なGを身体に感じ、アス ランはこの艦がナスカ級に匹敵する高速艦であることを察する。アスランは同じように着艦したMSにも眼を向ける……見覚えのないその機首に呆然となってい たが、傷の手当てのためにダコスタによって医務室へと連れ出された。

 

 

 

その緊急事態の様は既にヴェ サリウスのブリッジに上がったクルーゼにも届いていた。

「何だと、エターナルとオー ディーンが…アスランも……」

やや驚きを見せるも……やが て、フッと軽く口元を緩める。

ヴェサリウスから出撃した友 軍機も既に迎撃され、追撃不可能となっている。

「本部より、追撃命令がきて おりますが……」

アデスが窺うようにクルーゼ を見やると、クルーゼは肩を竦める。

国防本部内は大混乱に陥り、 ステーションに待機中の各部隊に追撃命令が発令されているが、ステーションとのドッキングを解除し、発進するまでの時間が掛かりすぎる。

「このヴェサリウスでも今か ら追ってあのスピードに追い付けるものか……」

ナスカ級を遥かに上回る高速 戦艦であるあの2隻の加速を考えれば、こちらが発進に手間取っている間にプラントの防衛圏内を突破するだろう。

「ヤキンの防衛部隊に任せる しかなかろう」

「はぁ…」

確かにその通りであるため、 アデスも苦く頷く。

オペレーター席を覗き込みな がら、モニターに映し出されるエターナルとオーディーンを見やる。2隻の進行方向はヤキンの防衛圏内……タイミングからいっても、ヤキンから部隊を出した 方が早いだろう。

(ふむ……このタイミングの よさ…)

新造艦2隻と新型MSの奪 取……そして、アスランを救出したタイミングといい、クライン派の規模は侮れないとクルーゼが思案しながら、口元を歪める。

(しかし、傑作だな……ザラ 議長どの…)

先に奪取された新型MSに加 えて、続けての新造艦と新型MSの複数の奪取……そして、息子の叛反など、まったく滑稽を通り越して道化だとクルーゼは独りごちた。



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