エターナルとオーディーンは 持ち前の加速力でプラント圏内を突っ切る。その戦艦らしからぬ加速に本土防衛に就いていたMS隊のパイロット達は眼を剥く。

唖然となる彼らを尻目に2隻 は見事に防衛圏内を突っ切り、真っ直ぐに突き進む。

銃創の応急手当を受け、腕を 吊ったアスランはダコスタに付き添われてブリッジへと上がる。

「アスラン、大丈夫です か?」

ドアの開閉に気付いた、ラク スが指揮官席から振り返り、席を立ってアスランに近寄る。

「ラクス……?」

そのピンクの髪を後ろで束 ね、陣羽織を羽織った姿に思わず呆然となるアスラン…傷を気遣うラクスを横に、未だ事態を呑み込めないでいたアスランに、陽気な声が掛かった。

「いよぉ! 初めまして…よ うこそ歌姫の艦へ……」

ラクスのシートの前方の副長 シートに腰掛けたバルフェルドが声を掛け、アスランは怪訝そうになる。

「……アンドリュー=バルト フェルドだ」

ダコスタがオペレート席に就 き、アイシャが通信席で笑みを噛み殺した。

だが、アスランはその傷の刻 まれた男の顔と名に眼を驚愕に顰めた。

砂漠の虎と呼ばれたザフトの 名将……確か、アークエンジェルとの戦闘でMIAと認定されながらも生還を果たした英雄……そんな男がこの艦に……呆然となるアスランの前に、いくつかの 通信モニターが映る。

《よっ、アスラン! 元気 だったか?》

「ラ、ラスティ…お前ま で!」

モニターに映った懐かしい同 僚の姿に思わず身を乗り出す……先のヘリオポリスでの作戦で負傷し、プラントへと戻っていたはずの彼までも……

《アスラン……久しぶり》

続けて映った赤い髪に赤い瞳 の少女に、アスランは首を傾げる。

「君は…?」

《あ…そっか、私今は前の姿 と違うんだった。リーラだよ…リフェーラ=シリウス》

アスランの困惑を感じ取った リーラがやや苦笑を浮かべて改めて名乗ると、アスランは眼を見開く。

「リーラ…なのか……無事 だったのか? でも、その姿は…?」

《その話は後でね》

訳が解からないというアスラ ンだが、今は説明する時間が無い……ゴメンとばかりに顔の前に手を立てて謝るリーラ。

《二人とも、それまでにして おけ……私達は、ヤキンの部隊との交戦に備えて待機だ》

二人を嗜めるようにメイアが 口を挟む。

アスランも一度、ラクスの人 質事件時にヴェサリウスでメイアとは面識を持っている。

《はっはは、驚いたか……ザ ラのせがれ…いや、今はアスラン君と呼ぼうか》

正面のメインモニターに映っ た豪胆に笑う人物の顔に、今度こそアスランは絶句する。

「ダイテツ艦長! 貴方ま で…!!」

アスランもダイテツとは何度 かアカデミー時代に会ったことがある。

《まあ、乗りかかった舟とい うわけだ……》

不適に笑うダイテツ……砂漠 の虎に蒼の稲妻…そして鋼鉄の狼……そのうえ、ラスティやリーラまでもがクライン派の勢力に属していたとは……呆気に取られるアスランにラクスはニコリと 微笑む。

軍内部にどれだけクライン派 の同志がいたかは解からないが、これだけの勢力を誇っていたとう事実と最新鋭戦艦を奪取し、本国を離脱する……改めてクライン派の裾野の拡さとラクスの力 には畏怖の念を抱くと同時に心強さも生まれていた。

 

 

 

同時刻……ヤキン・ドゥーエ に程近い宙域の岩塊で身を潜めていたフリーダムとインフィニティだったが、レーダーに反応したものに呼応して眼を見張る。

レーダーに映る熱量と機首を 検索する……

「キラ……どうやら、プラン ト側で何かトラブルがあったみたいよ」

「まさか、アスラン…?」

「さあ…でも、ヤキン・ ドゥーエ付近に戦艦クラスの大型熱量が2つ接近している…艦種は特定できないけど…ヤキンの部隊が迎撃に出るところを見ると、どうやらザフトにとっての敵 のようね」

レーダーには、大型の熱量が 二つとMSサイズの熱量が無数に光点となって表示されている。コンソールを叩きながら、2機はエンジンを起動させる。

「取り敢えずは様子を見 る……まあ、ザフトの敵である以上は接触してみるか」

上手く交渉すれば、こちらの 勢力に引き込めるかもしれない、とレイナは考えた。

まあ、それがさらに予想外の 人物であることを後に悟るのだが……

唸りを上げ、2機は再びカ ラーリングに彩られ……戦闘空域へと向かって飛び立った。

 

 

 

ほどなく航行していた2隻の ブリッジに、アラートが響く。

「前方にMS部隊! 数、お よそ50!!」

「機種は…ジンとシグー…… うち、十数機はD型兵装のようよ」

オペレーターシートに就いた ダコスタが報告し、アイシャが機首を識別し、表示させる。

ラクスも急ぎ指揮官シートに 座り、その横にアスランがつく。

「ヤキンの部隊か……ま、出 てくるだろうがな……」

特に慌てた様子も見せず、バ ルトフェルドは飄々と呟き、指示を飛ばす。

「主砲発射準備! CIWS 作動…アイシャ、格納庫にMSを出せと指示を送れ!」

アイシャの方に振り返ると、 アイシャが苦い表情で応じた。

「それが……すぐに出せるの はヴァリアブルだけですって…」

やや表情を顰めて、手元の通 信機で格納庫に繋ぐ。

「おい、整備班…どういうこ とだ?」

《無茶言いな…ヴァリアブル はともかく、ゲイツ改もスペリオルもまだ実戦に投入する予定やなかったんやから、まだ微調整が済んでないんや……》

格納庫にいるルフォンも苦い 返事で応じる。既にいくつかの稼動テストを終えて問題点を解決していたヴァリアブルとは違い、ゲイツ改も核エンジンに換装してからのエネルギーラインの効 率など、スペリオルは可変性と機動性のスラスターバーニアの問題点の調整がまだ成されておらず、しかもいきなり実戦に投入したものだから、OSがエラーを 表示し、ラスティとリーラは急いでセッティングを行っているが、まだ時間が掛かる。

「この艦に他にMSは!?」

アスランが他に起動可能な MSを尋ねるが、バルトフェルドはやや渋い顔をしたまま肩を竦める。

「あっちにはゲイツが数機積 んであるが、パイロットがいない……おまけに、こいつらの艦載予定だったMSが全機出払っててね……」

その言葉にアスランは怪訝そ うな表情を浮かべる。

「こいつは、ジャスティスと フリーダムの専用運用艦…あっちがインフィニティとエヴォリューションの専用運用艦なもんでな」

例のXナンバーはその能力と 機体に使用されている技術とパーツが従来のMSとは明らかに異なるため、専用の設備を整えた運用艦を用意せざるをえなくなった。そのために、艦本体にも高 速性と火力が従来よりも強く求められる結果となり、この新造戦艦は未だ2隻しか完成していない。

思いも掛けない答えに息を呑 む……まさか、この事態を見越してフリーダムとインフィニティを奪取させるという算段まで組んだのではないか、と勘ぐってしまった。

MSが一機しか無い現状で、 ヤキン防衛網を突破が可能なのかアスランも表情を若干ながら強張らせる。

《メイア=ファーエデン、 ヴァリアブル、出る!》

エターナルの前方カタパルト から打ち出され、ヴァリアブルが発進し、エターナルとオーディーンの前面に立つ。

ラクスも顔を引き締めて画面 に映し出された部隊の数を見据えながら、静かに指示を発した。

「全チャンネルで通信回線を 開いてください」

意図が掴めずに首を傾げるア スランだが、バルトフェルドは楽しげに応じる。

「了解」

通信機を操作し、ザフトの全 通信チャンネルに応答するように操作する。

「皆さん、私はラクス=クラ インです……」

決意のこもったラクスの声が 凛とMS隊に響き渡る。

「願う未来の違いから、私達 はザラ議長と敵対するものとなってしまいましたが、私は貴方方との戦闘を望みません……私達は、何のために戦うのか……その答を今一度、考えてくださ い……ただ、怒りと憎しみに突き動かされて戦うことが、本当に私達を望んだ未来へと誘ってくれるのかを……それでもなお、私達が敵だと仰るのなら、私達は 戦います」

プラントの歌姫として、プラ ントの人々に愛され……そして、その彼女の言葉に動揺し、戸惑う者もザフトのパイロット達には少なくない。

だがしかし、戸惑いながらも 彼らは軍人だった……与えられた命令に反するわけにはいかない。

僅かに動作は遅れたものの、 D型兵装のジンが両手に構えるM66キャニス短距離誘導弾発射筒からミサイルを発射する。

光点から伸びるレッドライ ン……

「ミサイル、数20!!」

「……ま、難しいよな。いき なりそう言われたって………」

自分達にも信念があるように 向こうも信念を持ってザフトに属しているのだ。これはある意味仕方がないし、現実だ。

だが、ラクスはさして落胆し た様子も見せなかった……自分の考えを押し付けるのでは、それはザラ議長と同じになる。

一人一人が考えたうえで行動 しなければならない…自分は、そのきっかけを与えるだけしかできない。最後に判断するのは、自分自身なのだ。

バルトフェルトは気を奮い立 たせて声を上げた。

「迎撃開始! ダイテツ艦 長!」

《うむ…メイア君はMS隊の 迎撃に出てくれ…こちらからMS隊を牽制する……危険だが、頼む》

《了解……》

エターナルとオーディーンの ミサイル発射管と対空砲塔のハッチが開かれ、迫り来るミサイルに向かって迎撃を開始した。

撃ち落されたミサイルが二艦 の周囲をあかあかと照らす。

そして、MS隊が急接近して きた。

「コックピットは避けてくだ さいね」

あっさりと難しい注文をつけ るラクスに、バルトフェルドとダイテツは顔を見合わせ、軽く苦笑を浮かべる。

《努力はしよう……》

「難しいことですねぇ…主 砲、撃てぇぇぇぇぇ!!」

二艦の主砲が火を噴き、放た れたビームが真っ直ぐに突き進み、出撃したMS部隊の約3分の一が墜とされる。

『LOST』という表示とと もにレーダーから僅かに消えるMS反応……MS隊は散開し、回り込むように向かってくる。

「ブルーα5及びチャーリー 11より、ジン6、シグー2!」

「来るぞ! 対空!!」

CIWSが起動し、エターナ ルとオーディーンは対空弾幕を張るも、それを掻い潜ってジン部隊が迫り、脚部のM68パルデュス3連装短距離誘導弾からミサイルを放つ。

また、M68キャットゥス 500ミリ無反動砲を構えるジンやシグーがバズーカ弾頭を放ち、無数のミサイルや弾頭が迫るなか、エターナルとオーディーンは対空砲塔やビーム砲でそれら を撃ち落していく。その爆発が咲き誇る戦場で、メイアの駆るヴァリアブルがレーヴァティンを両手に構え、MS隊に襲い掛かる。

ビーム刃を展開し、それを振 るいながらジンやシグーの腕や脚を斬り飛ばす……だが、ヴァリアブルは接近戦を主眼にしているため、なかなか多数のMSを相手に戦艦を護りながらの迎撃は 厳しかった。

囲むようにMS隊は距離を 取ってミサイルを発射する……全方位からくる攻撃を防ぐのは流石に至難の業だ。

「ブルーΔ12になおもジン 4!!」

「ミサイル、きます!」

エターナルに迫るミサイ ル……それをオーディーンが下部に設置された対空砲塔で迎撃するも、激しい振動がエターナルを襲う。

「ブルーγ6にシグー2、ジ ン3!」

「迎撃追いつきません!!」

バルトフェルドの表情が微か に強張り、ダイテツは無言で歯噛みする……そう簡単にいくとは思っていなかったが、やはりMSの優位性を痛感する。

「総員、対ショック姿 勢!!」

バルトフェルドの鋭い声にア スラン、ラクスも表情を強張らせながらシートを握り締める。

モニターに向かってくるミサ イルの軌道が映る……誰もが衝撃を待った瞬間、あさっての方角からビームの波が飛来し、閃光がミサイルを薙ぎ払った。

彼方より真紅の翼を羽ばたか せ飛来するインフィニティ……左手のデザイアを巧みに操り、縦横無尽に襲い掛かるミサイルを次々に撃ち落とし、周囲に閃光が煌き、爆発の余波が艦を揺ら す。

ザフト側のMS隊は突然の乱 入者に困惑する……だが、一機のジンが頭部を撃ち抜かれ、沈黙する。

別の方角から飛来するフリー ダムがビームライフルを構えてザフトのMSの武装や機体パーツを撃ち抜いていく。

それに慌てて迎撃するために MS隊が一斉にフリーダムに向かう……コックピット内でキラは全ての照準をMS部隊に合わせ、トリガーを引く。ビームの光状が機体の頭部、腕部、武装を瞬 く間に貫き、その戦闘能力だけを奪い去った。

「キラ!」

「レイナ!」

アスランはキラの名を……ラ クスはレイナの名を………それぞれ口にした。

インフィニティは戦艦に迫る ミサイルを薙ぎ払い、フリーダムとヴァリアブルがMS隊を行動不能に追い込む。

やがて、ヤキンから出撃した 部隊が沈黙すると……ヴァリアブルが先行して、エターナルのデッキに着陸する。

そして、随行するようにイン フィニティとフリーダムの2機がエターナルとオーディーンに並ぶように飛ぶ。

《こちらフリーダム、キラ= ヤマト……》

「……キラ!」

ラクスが嬉しそうに声を上げ る……繋がれたモニターから映ったキラが、その声と顔に眼を丸くする。

《ラクス……?》

「はいっ!」

笑顔で頷き返すラクスと、ア スランもその姿に安堵にも似た感覚を抱く。

「いよう、少年! 助かった ぜ」

バルトフェルドが笑みを浮か べて手を振ると……アスランは驚きに眼を見張る。いったい、いつこの人物はキラと面識を持ったのか……だが、キラの驚きはアスランの比ではなかった。

《バ、バルトフェルド…さ ん………》

豪快に笑う姿に、まるで幽霊 でも見たように唖然となるキラの横で、別の通信画面が開いた。彼は死んだものとばかり思っていたから、無理もないが……

《あら、お久しぶり……ま た、随分と派手な再会ね》

レイナはバルトフェルドの顔 を見ると、いつもの冷静な口調で言葉を交わした。

交渉しようと考えていた矢先 にこの再会…まさか、顔馴染みが乗っているとは予想外だったが、ある意味余計な交渉を行わなく済んでむしろ僥倖だっただろう。

「ああ、だがなかなか劇的 だっただろう、堕天使のお姫様」

相変わらずの軽薄な口調に、 レイナは失笑し、肩を竦める……あの時、見逃したのは自分だが…まさか、こんな再会の仕方をするとは夢にも思わなかっただろう。

「レイナ…お久しぶりです」

《ええ……数ヶ月ぶりね…で もま、随分と思い切ったことをするようになったわね……》

あの別れから既に2ヶ月近い 時が経っていたが、それもまるで昨日のことのようだ……しかし、まさかラクスがこんな派手な行動を起こすとは…バルトフェルドと並んで喰えない人物なうえ に、しかもやはりどこか過激な部分を持っていることに溜め息をついた。

《…で、あっちの艦は?》

並行して航行しているオー ディーンを見やる……艦種を識別したコンピューターが名称を弾き出している。ザフトの新造戦艦……警戒した面持ちのレイナのコックピットにオーディーンか らの通信モニターが開き、ブリッジが映し出される。

《……っ!》

ブリッジの艦長シートに座る 人物に、レイナは眼を見開き…そして、息を呑む。

《久しぶりだな……レイ ナ…》

ダイテツが優しげな眼差しを 向けるも……レイナはまるで金縛りにでもあったように声が出ない。いつもの冷静な彼女らしからぬ動揺した、上擦った声に、周囲は怪訝そうになる。

《ウェラード…父……さ ん………》

ポツリと呟く……その顔は見 忘れるはずもない……自分の生き方を変えるきっかけを与えた人物を、そうそう忘れるはずがない。

レイナは困惑したまま、その 場で暫し呆然となった……

 

 

 

 

ヤキン・ドゥーエの防衛網を 突破したエターナルとオーディーンは航路をカモフラージュしながら行き先をL4へと定める。

約半日かけて迂回しながら L4宙域へと辿り着いた2隻は、ネェルアークエンジェル、クサナギが駐留地点として選んだコロニー:メンデルへと向かっていった。

突如出現した未知の戦艦2隻 に驚くクルー達だったが、先導するフリーダム、インフィニティに気付く。

「こちらフリーダム、キラ= ヤマトです……」

《キラ君? その戦艦は…》

通信から戸惑ったマリューの 声が聞こえる。

「心配いりません……この2 隻も今からメンデルへ入航します!」

港施設に格納されるネェル アークエンジェル、クサナギに並ぶようにエターナル、オーディーンがバックの体勢で港に駐留すると、一同はまずメンデル内の一画で会合を果たした。

エターナル、オーディーンか ら降りてきた人物にマリュー達は言葉を失った。

「初めまして、というのは変 かな? アンドリュー=バルトフェルドだ」

「お初にお眼にかかる…ダイ テツ=ライガだ」

片や、砂漠の虎ことアンド リュー=バルトフェルドに、ザフト宇宙軍の名将、鋼鉄の狼の異名を持つダイテツ=ライガの二人の登場に、流石のマリューやムウらも面を喰らったようだ。

「マリュー=ラミアスです。 しかし、驚きましたわ……」

「お互い様さ」

不適に笑いながら肩を竦め る……一度は、互いに命を懸けて戦い合った敵同士であったはずが、まさかこのような形で出会うとは流石に思わなかっただろう。

視線をレイナへと向ける…… 片眼を失いはしたが、それでもバルトフェルドはレイナを恨んではいなかった。失ったもの以上に、多くのものを彼女から得、また失わずに済んだのだ……その 心情を察したアイシャがその手を強く握る。

キラは、どこか非難めいた視 線をレイナに向けていた……あの時、バルトフェルドと最後に戦っていたのは彼女であり、戦いの果てにバルトフェルドは死亡したとばかりに思っていた。無 論、レイナは別に嘘は言っていない……ただ、解釈を間違えただけだろうと言うだろうが、今の彼女にはそんな軽口を叩く余裕がなかった。

その視線は、先程からやや厳 しいものが混じり…ダイテツを凝視している。

あの後……ヤキン宙域を突破 と同時にオーディーンに着艦し、ダイテツに詰め寄ったが、何も語ろうとせず、ただ無言のままであった様子から間違いなくウェラード本人であると断定した が、それでもやはり納得するのが難しかった。

「…父さんっ」

そこへ、ネェルアークエン ジェルから定期検査を終えたキョウが現われ、ダイテツに向かって声を掛ける。

「キョウか……よく無事だっ たな、この愚息が!」

笑みを浮かべながら、ダイテ ツも無重力の中を泳ぐように移動し……キョウの肩に手を置く。

「よく無事だったな……そし て、お前も強くなったな」

息子の無事と成長にダイテツ も父親のような温かい視線が混じる。

その姿は見ている者には微笑 ましいが、事情を知る者には疑念を浮かばせる。

「キョウ君…貴方、この人 の……」

「ええ…息子です」

バツが悪そうに、マリューに 答える……すると、ダイテツが振り返り、軽く被りを振った。

「わしがどうであれ、今のわ しはダイテツ=ライガだ……それだけは信じてほしい」

真摯な態度でそう告げるダイ テツに、口に出しかけた疑問を呑み込む……だが、レイナは納得がいかないのか、やや睨むような視線を向けると、踵を返してその場を後にした……

その背中に、ダイテツは苦い ものを感じたが、敢えて声を掛けようとはしなかった。

 

 

そして、思い掛けない再会は 別の場所でも起こっていた。

「「ラスティ!」」

エターナルから降りてきたク ルーの中に混じるラスティの姿に、ディアッカとニコルは心底驚いた表情を浮かべた。

「ディアッカにニコル! お 前ら、生きてたのかよ!?」

ラスティも同様に驚いてい た…無理もないだろう。二人がMIAと認定された報告を聞いていれば……

「ええ、まあ…僕達もいろい ろありまして……」

悩み、そして迷い……そして 答を出したからこそ二人はここにいる。

「でもさ、お前の方こそまさ かクライン派に加わってるとはな〜〜」

「ああ、まあ俺の方もいろい ろあったのさ」

ヘリオポリス作戦からプラン トに帰国し、療養する彼の元にラクスが接触してきた。

そして、彼に戦う意味を問う た……ラスティも無論、迷った…父であり、評議会議員でもあるジュレミー=マックスウェルの立場も考えれば、自分の行動が最悪の結果を招くのでは、と…… だが、ラクスは強制はしなかった。

ただ、迷い…悩んで自分の答 を出せと……そして、もし自分のことを密告するなら構わないとまでも言い切り、自分の命運まで賭けた。

そして……膠着する戦況に、 ザフトが核に再び手をつけたことを聞いたラスティは答を決めた。そのままクライン派に加わり、本土防衛の傍ら、協力していた。

話を聞きながら、ディアッカ とニコルも感心していた……自分達は外の世界を見て、初めて悩むに至ったのに……そんな会話を交わしていると、一人の少女が遠巻きにこちらを見て、眼を見 開き……駆け寄ってきた。

「ニコル、ディアッカも!」

息を切らしながら、名を呼ぶ 少女に、ニコルもディアッカも首を傾げる。

「あの……何処かでお会いし ましたか?」

見覚えがない少女に窺うよう に声を掛けると……顔を上げた少女の瞳に涙が溢れていた。

「生きて…生きてたんだ ね……よかった、よかったよぅ………」

涙を流す少女になにか、悪い ものを感じる二人。

「私……リーラだよ…やっぱ り、解かんないかな…」

涙を拭いながら、苦笑を浮か べるリーラに、ディアッカとニコルが眼を剥く。

「ええっ!」

「お前、リーラかよ! つー か、その髪はなんだ!?」

混乱する二人に、リーラが説 明に入る……プラントに帰国してからのいきさつを…それを聞いた二人は、顔を顰める。

「そうだったんですか…すい ません、嫌なこと思い出させちゃって……」

「ううん…まだ、乗り越えら れたわけじゃないけど……でも、いつまでも挫けていられないからね!」

以前と同じ…いや、それ以上 に哀しみを経験し、成長したその顔は決意を感じさせる。

「なぁ…イザークは……?」

この場に唯一いない、最後の メンバーの行方を尋ねると、リーラが顔を顰める。やはり、答えにくいが、それだけである程度は察しできた。

「そっか…あいつとも、やっ ぱ戦うことになんのかな……」

いつもの陽気な口調ではな く、少しばかり悲壮さが混じった神妙な声………知り合いを敵に回すというのは、どれ程辛いものかを痛感する。

「あっ! リー……」

「ようっ、お前らなに……」

やや沈痛な面持ちを浮かべて いた4人に向かって反対方向から互いに現われたミゲルとルフォンがかち合い……互いに眼を見開く。

「ル、ルフォン……」

「ミ、ミ、ミゲル……」

呆然と呟きながら、ルフォン は目眩を起こす……まあ、死んだと思っていた恋人が突然姿を見せれば、こうなるが……そのままフラッとその場に倒れる。

「お、おい! ルフォ ン!!」

慌ててルフォンに駆け寄るミ ゲルを見詰める4人………

「ミゲルも生きてたのか?」

「ええ…でも、ルフォンさん もクライン派に加わっていたとは知りませんでしたよ」

「大丈夫かな…」

「ま、いきなり死んだと思っ てた奴が現われりゃ普通はああなるわな」

慌てふためく騒ぎを他所 に……4人は小声で話し合った………

 

 

 

アスランは、カガリと共にメ ンデルの港のターミナルの一画でいた。

やや呆れた…そしてどこか 怒ったような表情で彼女はアスランの吊られた腕と血で汚れた軍服を見やりながらぼやく。

「いつも傷だらけな」

素直に無事に帰ってきて嬉し いとは口に出さないところが彼女らしく苦笑を浮かべ返す。「……石が護ってくれたよ」

少なくとも、気休めと決意を 奮い立たせてくれた……それには感謝していた。

「そっか、よかったな……」

表情を緩めながらターミナル のガラスの向こうに見えるエターナルを見やる。

「けど…凄いな、あの子…… あんな(もん)で飛び出してくるなんて」

「え…あ、ああ……」

しみじみと語るカガリに、ア スランはぎこちなく答ながら別のターミナルで会話を交わすキラとラクスに視線を向ける。

「……いいのか?」

ラクスは嬉しそうにキラと会 話している……少なくとも、自分には見せたことがない表情だ。

「お前の婚約者だろ?」

「元、ね…それに、今はリン と婚約させられてる……」

カガリの気遣いにアスランは 少しばかり切ない思いにかられる……あれ程、素顔を曝け出しているのは、キラを信頼している証拠だ。昔からそうだった……自分はどこか、他人を極端に遠ざ けて踏み込ませなかったし、そして踏み込もうとしなかった。だからこそ、ラクスは自分の前では無邪気なまま…いや、ホントの自分を隠していたのではないか と今は思う。

だが、キラは違った……すぐ に他人と打ち解けて……そして、キラはプラントでかくまれている間に、彼女と打ち解けたのであろう……

「あいつと!」

だが、カガリはそんなアスラ ンの心持ちなど気付かず、リンと婚約しているという今の事実に驚きの声を上げた。

「ああ…もっとも、彼女が俺 をどう思ってるかは知らないし、俺も…今は彼女のことをそういう意味で好きかと聞かれての困るしな……」

正直、プラントから離反した 以上、もうあの婚約も無意味だろう……なにより、リンには自分は相応しくないし、リンも自分のことを仲間にしか感じていないだろう。

「そっか…ま、気にすん な……っていうか、リンもレイナもなに考えてんのか未だに解かんない奴だし…お前にもきっといつかいい奴が現われるさ」

アスランは思わず言葉を失 う……慰められているのか、それともけなされているのか……だが、困惑するアスランとは裏腹にカガリは腕を組んで無慈悲に言い放つ。

「でも、お前だってバカだ ろ…ちゃんと向かい合って話さないと、相手だって話しにくいさ…その点はキラも一緒だな」

うんうんと首を振って豪語す る彼女に、アスランは自分の悩みや切なさなどどうでもよくなったように感じた。

溜め息をつき、口元を緩める アスランを、カガリが怪訝そうに見詰めるのであった。

 

 

 

キラはラクスと共にターミナ ルの一画でフリーダム奪取時の別れからのいきさつを聞かされていた。

ダイテツは、シーゲルと旧知 の仲であり、軍内部でも比較的穏健派に属していた。そのため、ラクスも早い段階からダイテツと接触していた。

バルトフェルドは地上での敗 北からプラントに帰還後、療養中に副官でもあり、またクライン派の一員であったダコスタがクライン派への参加をそれとなしに探ろうとしたが、バルトフェル ドの方からその話を切り出されたらしい。

変にカンの鋭いバルトフェル ドはダコスタの考えもクライン派の動きも既にある程度察していたようだ……アイシャにしても好きにしたらいいと言っていたらしい。

「バルトフェルドさんらしい な……」

その話を聞きながら、キラは 苦笑する。言葉を交わしたのは一度のみだが、それでもその人間性に引き付けられたのは事実だ。

「ええ…レイナのおかげみた いですわ」

レイナに無意味なことをする なと言われたのが、余程予想外だったらしくバルトフェルドは共に死へと付き合わせようとしたアイシャとともにクライン派への参加を承諾した。

本人からしてみれば、予想の つかない事態が興味深いからかもしれないが……

頼もしい人が加わったなと内 心考えていると、ラクスの表情が曇り……黙り込む。

「ラクス……?」

沈痛な表情を浮かべるラクス を気遣うようにキラが顔を覗くと……その俯いた瞳から涙が零れた。

「…父が…死にまし た………」

小さい声で……それでもその 言葉を口にした。

「ラクス……」

キラもまた悲壮な表情を浮か べる……顔を上げたラクスの瞳から涙が溢れ、宙を舞う。

そしてそのまま、堪え切れず にキラに縋り、その胸で泣いた……どう言葉を掛けていいか解からない……父を失った傷みを、今までずっと抑え込んでいたのだろう……泣きじゃくるラクスの 背中を、愛おしそうに撫でる。自分が立ち直るきっかけを与えてくれた時と同じように………

共に娘を遺し、そしてその遺 志を託して逝ったシーゲルとウズミ……それを無にしないためにも、自分は護らなければならない……決意を新たに、キラはラクスを抱き締めるのであっ た………

 

 

 

ネェルアークエンジェルの格 納庫で、レイナは独り……静かにインフィニティを見上げていた。死んだと思っていた養父や義兄の生存……まったく、心配して損したとばかりに肩を竦める。

やや溜め息をついていると、 気配を感じ振り向く……そこには、リンが静かに歩み寄っていた。

「驚いたな……まさか、姉さ んが鋼鉄の狼と旧知の仲だったとは」

揶揄するような口調に憮然と した表情を浮かべる。リンは失礼、とばかりに肩を竦める。

「彼女もまさかここまで大胆 な行動を起こすとは………」

やや感心するような不適な笑 みを浮かべる……流石のリンもラクスの大胆かつ狡猾な行動には驚いた。

「しかし、まさかここまでメ ンバーが揃うとはな……ここもだんだん愚連隊っぽくなってきたわね……」

両軍のエースパイロット達や 特機がここに集い、一軍をつくり上げている……呆れていいのか感心していいのかは解からないが……

やや間を置き、レイナが尋ね た。

「……ラミアス艦長から聞い たわ。襲撃を受けたって」

先のメンデル到着時に襲撃し てきたMSの存在を既に聞かされていた…そして、それの撃退にリンが出たことも。

「ええ……少し、鬱陶しい奴 だった………」

徐に懐から数枚の写真を取り 出し……それをレイナに向けて放り投げると、それをキャッチし、訝しげながら写真を見やる。

それは、エヴォリューション のカメラで撮られたハイペリオンの姿が映し出されていた。

その中の一枚……アルミュー レ・リュミエールを展開した写真に眼を通すと、やや眼を細めた。

「これは…アルテミスの 傘……」

この特徴的な光波帯は見間違 えるはずもない……思わず呟くと、リンが同意するように頷く。

「ええ…まず間違いないはず よ………もっとも、アルテミスが使用していたものと違って、単位相指向性に改良されている。まあ、パイロットはイカれてたが……」

ぼやくように肩を竦める…… あのパイロットが直情志向である意味助かった。もし、熟練のパイロットがこれに乗っていれば、それは厄介なことこの上ないだろう。

「そいつのバックにいるのは ユーラシア……もっとも、連合にユーラシアのMSが配備されたという話は聞いた覚えがないな……」

大西洋連邦に牛耳られている 連合軍は、今や大西洋連邦の開発したダガー系列の機体が主力を占めている。加えて、戦ってみた観点から言えば、あの機体は量産には向かない。その上、並の パイロットではあの機体を満足に扱えないだろう。

「それとあと一つ……その機 体のパイロット………キラ=ヤマトを探していた」

その言葉にレイナの眉が顰ま る。

「キラを……?」

「ええ……理由は知らない が………少なくとも、あちらはキラ=ヤマトを明確に狙っていることだけは言える」

考え込むレイナ……少なくと も、キラは連合軍とザフトの公的には既に死亡した人間だ…それを狙うということは、連合軍でもザフトでもない……ユーラシアの思惑が絡んでいるということ か………

逡巡するレイナの前で、リン はおぼろげながらその理由に見当を思い浮かべていた。

(このメンデルに襲ってきた こととキラ=ヤマトを正確に狙ったということは……例の研究所の関係者か………)

思考を巡らせていたが……レ イナが不意に溜め息をつき、肩を竦める。

これ以上考えても、結論には 至らない……何分、情報が足りない…例の情報屋にでも接触すればなにか情報が得られるかもしれないが……下手に連絡して場所を特定されるのだけは避けた い……不意に、胸元のクリスタルに手を触れる………次の瞬間、目眩にも似た痛みが脳裏に突き刺さる。

「……っ」

額を押さえながら……レイナ は右手でクリスタルを握り締める。

(なに、この感覚……メンデ ル……私は…知っている……このコロニーを……)

名前ぐらいはレイナも聞いた こともあるが……実際に訪れたのは初めてのはずなのに……なのに、この奇妙な懐かしさにも似た感覚はなんなのか………

このメンデルに降り立ってか ら感じていた奇妙な既視感……レイナは、煮え切らない思いで今一度インフィニティを見上げる。

「お前は知っているの……私 を…それとも……お前は、私を待っていたのか………」

独り言のように愛機に向かっ て問い掛け……額を押さえながら、再び俯いた。

その独白を聞いたリンは僅か に眼を細める………

(記憶が戻りかけている…… やはり、この場所との宿縁は、私達にとって切れないものなのね……)

そう……この場所をリンは 知っている………全ての始まりとなった場所………

ここへと再び戻った今……何 かが起ころうとしている……近い未来に……

確信にも似た思いを抱きなが ら……リンは苦しむレイナを見やるのであった………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《次回予告》

 

 

集い…輝き出す小さな灯……

だが…運命は彼らに新たな試 練を課す………

 

かつての仲間……そして、新 たな強大な敵………

苦しみながらも、異なる道を 選び…彼らは戦い合う………

 

そして……運命の試練は刻一 刻と迫りつつあった………

 

次回、「螺旋の激闘」

 

揺らぐ闇、打ち払え、ガンダ ム。




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