L4へと航行を開始して既に 数時間……ドミニオンを旗艦とした艦隊はザフトの襲撃も受けることなくいた。

ドミニオンと並行して航行す るパワー内で、イアンとネオが会話を交わす。

「しかし……敵MSの捕獲と は…いったい、何を考えているのか、アズラエル理事は?」

オーブから離脱したオーブの 残党勢力の排除と、表向きの理由はそうなっているが、パワーの主要メンバーにはそれに加えてその勢力が擁するMSの捕獲の旨も伝えられていたが、イアンは 今ひとつ腑に落ちずにいた。

「さあな……ひょっとした ら、そのMS…なにかの鍵を握っているのかもしれんな……」

意味深な言い回しではぐらか す。

「それよりも、D15は使え るのですか? 地上で合流された時にも、なにか状態が不安定と聞きましたが……」

「ああ、今はぐっすりとお休 みさ……恐らく、大丈夫だろう」

地上でネオが宇宙に上がる前 にオーブ戦に参加したトライ・スレイヤーとステラと合流していたが、ステラの様子が若干おかしいことにネオが気付いた。オーブ戦から引き上げてから様子が おかしいとカミュの報告ではあったが、単に初体験した大規模戦闘の余韻によるものだろうと解釈し、今はパワー内部の特殊カプセルで再調整中であった。

「しかし、なにか問題がある たびに揺り籠に戻さねばならぬとは……そのようなパイロットが、本当に使えるのですか?」

配備された特機のパイロット として乗艦した3人の処置について、ジブリールから説明を受けたイアンは半ばアテにはならないのではと懸念していた。

「なに、まだまだ試行錯誤の 段階だからな……いずれはそれも解決されるさ…それに、俺達の当面の目的はアズラエルの動向に従い、行動を見極めることだ」

「解かっております」

静かに頷くイアンに、ネオは 満足げに笑みを浮かべ……並行するドミニオンに視線を向けるのであった。

 

そのドミニオンのブリッジ で、ナタルは艦長シートに腰掛け、手元の小型モニターに新たに配備された新型MSのパイロットのデータに眼を通していた。

「クロト=ブエル……強化イ ンプラント・ステージ3…X370の生体CPU……個人データは全て削除……オルガ=サブナック…ステージ2…X131の生体CPU…個人データ無し…… シャニ=アンドラス……ステージ4……X252の生体CPU…やはり個人データは無しか」

一息つくと、次のデータを表 示する……表示されたのは、アディンの顔写真が添付されたデータ……その真紅に輝く眼光が、以前いた少女を連想させる。

「アディン=ルーツ……ス テージ1…X414の生体CPU……個人データは…無しか……イリューシア=ソキウス……ステージS0…X366の生体CPU……過去のデータは全て白 紙……?」

アディン、オルガ、クロト、 シャニの4人は個人データこそ削除されていたが、薬品投与や生体改造の経過記録などは載せられていた。だが、このイリューシアという少女だけはそれらも全 て消され、過去の記録が全て白紙になっている。

だが、扱いは一緒であった。

「全員、パイロットではなく 装備なのか…消耗パーツ扱いとはな……」

やや沈痛な面持ちを浮かべ る……いくらナチュラル用に調整したOSとはいえ、その動作のほとんどを頼るため、コーディネイターの駆るMSと互角に戦うのは難しい。だが、コーディネ イターの存在を否定している地球連合の中核をなす大西洋連邦にはコーディネイターをパイロットとして使うわけにはいかない。だが、それに代わるためとはい え、何処とも知れぬ場所から連れてきた子供を肉体改造し、薬でコーディネイター並のパイロットに仕立てるのはあまりに非人道的なやり口ではなかろうか…… しかし、ナタルの頭はその感情を嘲笑う。自軍が勝利するためにはあらゆる手を尽くすのが軍人の務めではないか、と……上層部がシロと言えばクロもシロにな ると彼女の頭が囁く。確固たる指揮系統の下、自分の役目は上官の命令に従い敵を討つだけだと自分はいつも口にしていたではないかと……

その時、ドアが開き、アズラ エルとウォルフがブリッジに姿を見せた。

「ほう……さっきはよく見れ なかったが…なかなかいい女だな」

馴れ馴れしい態度でウォルフ はナタルの横に立ち、その顔を覗き込む。

「どうだ……L4に着くまで まだ時間はある…その間、俺の部屋で愉しまないか?」

嫌な視線と笑みで肩に手を回 すウォルフの態度に、ナタルは嫌悪感を憶え、その腕を振り払う。

「貴様、上官侮辱罪で営倉に 入れるぞ!」

睨むように叫ぶが、ウォルフ は肩を竦めるだけだ。

「気が強いことで……」

「ウォルフ、それぐらいにし ておいてくれないかな……あとどれぐらいですか、L4へは?」

アズラエルはナタルの怒りな ど全く気にも留めず、ウォルフの行動を咎めることもない。

そんな態度にますます不信感 を憶えずにはいられない。

「間もなくです…しかし、自 分は未だ賛同しかねますが……その、なんの根拠もなしにL4へ向かうというのは………」

アズラエルはドミニオンに乗 艦するなり、艦隊終結後にすぐさまL4へと向かう指示を出した。そんな裏付けもまったく取れていない情報で動くなど、軍ではあり得ない。

だが、そんなナタルの当惑に もしれっと答える。

「ボクの情報は確かです よ……それが根拠だ。別になんの根拠もないわけじゃない……」

「しかし! それはプラント からの情報なのでしょう? 罠かもしれません」

思わず反論する……驚いたこ とに、アズラエルが提示した情報はプラントから齎されたものであった。その情報を流した者のことをアズラエルは語らなかったが、ナタルにとって敵陣営から 情報を受け取るなど、まったく理解できない。

「フリーダム、ジャスティ ス、インフィニティ、エヴォリューション………」

一瞬、呆れたように溜め息を ついたアズラエルが唐突に放った言葉に、ナタルは怪訝そうに眉を顰める。だが、反応が鈍いことにアズラエルはやや肩を落とす。

「それが、例の4機のコード ネーム……情報は既に知っていると思いますが…」

オーブ戦の詳細なデータは既 にナタルの手元にも届いている……アークエンジェルのことでなかなか他のことに頭が回らなかったが、オーブ戦に投入された新型特機5機を抑え、最後のカグ ヤ周辺の戦闘で中破させた未確認の未知の4機のMS……

「そいつ絡みでナスカ級が3 隻、L4へと向かっているっていうんですよ……あれ程のMS、みすみすザフトにくれてやるわけにはいかないでしょう? だから行くんです」

そう言うと、アズラエルはナ タルの前に移動し、その顔を真っ直ぐに覗き込みながら笑みを浮かべる。

「あのですね……これだけは いいですか? 貴方は確かにこの艦の艦長さんなのかもしれない。けどね、その上にはもっとこの戦争全体を見ながら考えたり指揮したりする人間がいるんです よ」

まるで子供に言い聞かせるよ うに、そしてその見下したような口調と視線にナタルは腸が煮え返るような反感を憶えるが、それをなんとか自制する。

アズラエルの言葉は、言われ なくてもナタルには骨身に染みて理解している……軍は確固たる指揮系統の下で始めて機能し、また部下は上官の命令に従うのが仕事だ。

「ボクの要請を聞くようにっ て言われたでしょ? そこんとこ、忘れないでほしいんですけどね……」

嘲笑うように一瞥すると、ア ズラエルはブリッジから退出していく。その背中を、ナタルは憤怒を漂わせた瞳で見送る。

解かってはいる……だが、あ んな男が地球連合の頂点に立つ男だとは、ナタルは思いもしなかった。まるで戦争をゲーム感覚で考えているような男が……だが、たとえ一片の好意も持てない ような男であっても、自分の遥か上に立つ者なのだと自分を無理矢理納得させるのであった。

 

 

 

 

メンデルの宇宙港では、エ ターナル、オーディーンの格納庫から物資の搬送が行われていた。補給のあてをこれから模索していたネェルアークエンジェルとクサナギにとってこれはありが たかった。

《弾薬や物資は突っ込めるだ け持ってきてはある。MSも何機か持ってきたから、そっちへ移送させておくぞ》

バルトフェルドの軽快な通信 が響き、各艦のMS達が物資を持ち運び、搬送する。

エターナルは最終調整のため に、万が一の事態に備えて艦載MSを他の艦へと移動させていた。ゲイツ改とゲイツアサルトをネェルアークエンジェルへ、スペリオルをオーディーンへと移動 させる。

メイアの操縦するヴァリアブ ルがコンテナを持ち上げ、そのままネェルアークエンジェルへと向かう。

開かれたカタパルトから格納 庫内へと入り、コンテナを格納庫内の整備士の誘導に従って置く。

機体をその場に固定すると、 コックピットから飛び出し……そのまま整備士の一人に物資の詳細が記載された書類を手渡す…そこへ、同じく物資を搬送していたインフィニートが格納庫内に 現われ、コンテナを注意して置く。

「へぇ…アレが蒼き疾風の機 体か……」

同じ『蒼』のパーソナルカ ラーを好み、それにちなんだ異名を持つ者同士、メイアは興味を引かれたようにインフィニートへと近付く。

そこには、同じようにマー ドックに書類を手渡しているアルフの姿があり、メイアが近付いてくるのを視界に入れると、顔をこちらへと向ける。

「よっ、あんたが蒼き疾風さ んかい?」

「ああ……君が、蒼の稲妻… メイア=ファーエデンか……君の噂は聞いているぜ」

「それは光栄だな……戦場で は、あいまみえる機会がなくて少し残念だったがな……」

冗談めかした口調で笑みを浮 かべる……アルフもそれに応じて苦笑を浮かべる。

互いに相手の存在を知っては いたが、アルフとメイアは今日まで戦場で遭遇する機会がなかった。

そして、その最初の邂逅が敵 としてではなく、志を同じとする同志としてとはまったく人生とは奇縁なものだと二人して思う。

「アルフさん、ムウさんがエ ターナルの方へ…あ………」

アルフとメイアが談笑を交わ すそこへ、ムウから要請を受けたキラが近付き…メイアの存在に気付いた。それは二人も同じだった。

「ん……ああ、君か…あの時 は世話になったな、少年」

薄く笑って手を挙げるメイア に、キラは以前メイアが捕虜になり、逃がした過去を思い出し、どこか気恥ずかしげだった。

その後も、クライン邸で匿わ れていた時に何度か会い、その時冗談めかしてザフトに入るかと尋ねられたこともあった。

「あの……あの機体…」

キラが視線を、ヴァリアブル へと向け……その視線の意図に気付いたメイアが相槌を打つ。

「ああ…あれは私の機体だ… X08A……コードネーム、ヴァリアブル……」

「……ということは、アレ も」

「そう、ご察しの通り、あの 機体も核動力で動く機体だ」

キラの疑問に答えるようにメ イアが頷き、視線をヴァリアブルへと移す。

「先のアークエンジェルから 脱出したっていうことを利用されてね……あの機体のテストを任せられたってわけさ……型番号から言えば、君の搭乗しているフリーダムやジャスティスの前の 機体だな…あと、さっきここに移動させたゲイツ改も同じ核動力の機体だし、オーディーンの方へ移ったスペリオルもフリーダムの流れをくむX11シリーズの 1号機だしな」

ZGMF−Xナンバーの開発 が始まり、奪取した4機をザフト系列のX01から呼称し、開発されたX05…そして、X06が試作後にデータ収集後解体。実用化されたNジャマーキャンセ ラーの試験機としてYMF−000A、そして火器試験機としてYFX−600R、機動試験機としてX07がそれぞれの試験運用を行い、そのデータをフィー ドバックして開発された初の核動力を内臓するX08A……それを基にX09A、EX000Aシリーズへと開発の流れがのっている。

「それじゃ、話の流れからす ると、X11には2号機が…それに、それに続く機体もあるということか?」

話の流れからアルフが疑問に 思ったことを尋ねると、キラもハッとしたようにメイアを見やる。

「ああ……X11には2号機 があるが、それは既に特殊部隊に配備されていて手が出せなかったし、X12とX13がプラントでまだロールアウトしていないはずだ」

X11シリーズの2号機は既 に特殊部隊に配備され、ザフトを飛び出す予定が繰り上がったために持ち出す算段であったX12も諦めざるをえなかった。

「ま、持ち出したとこで使え る奴がいなければ、宝の持ち腐れだがな……」

軽く肩を竦めながら、会話を 打ち切り、また仕事へと戻る。

 

 

ネェルアークエンジェル格納 庫の一画で、ハンガーに固定されたゲイツ改を見上げる一同。

「ほう……これが、核動力を 積んだザフトの次期主力機のカスタム機か………」

どこか、神妙な口調で呟くミ ゲル……傍から見れば、クールを思わせるが………

「プッ、ククク……」

「ププププッ…!」

ミゲルの周りに立つディアッ カとラスティが先程から緩みそうになる表情と口元を抑えるのに必死だ。

「ディアッカ、ラスティ…プッ……わ、笑っちゃ失礼ですよ……ッッ」

嗜めるニコルだが……その表 情が他の二人と同じく緩み、抑えるのに必死そうだ。

「ニコル……その顔で言って も説得力がないぞ…」

どこか低い声で呟くと……

「ブワッハハハハハ!!!」

「ヒーヒー! ミ、ミゲル… こ、こっち向くな……はははっ!」

腹を抱えて笑い出すディアッ カとラスティ……ニコルも表情を逸らしてはいるが、微かに笑みを噛み殺している。

「お、お前らな……」

怒りを漂わせるミゲルの頬に は……はっきりとした手形が残っていた。

「ははっ、く、苦しい…… で、でもミゲルが悪いんじゃん。無事だったってことルフォンさんに黙ってたのはミゲルのせいっしょ」

ラスティに痛いところを衝か れ、ミゲルは表情を顰める。

そう……エターナルとオー ディーンが合流した時に再会したミゲルとルフォン……生き別れになっていた恋人との感動の再会……とはならなかった。ルフォンは気絶し…眼を覚ましてから 説明するのにミゲルが必死に頭を下げて謝り……ルフォンはせめてものお返しとばかりに豪速の平手を喰らわせ、ズカズカと出て行った。



「で、でも…それぐらいで済 んでよかったじゃないですか……」

「そうそう、女は怒らすとこ えーし……プックク」

眼元に涙を浮かべながら言葉 を掛けるニコルとディアッカに、ミゲルは大きく肩を落とすと……ゲイツ改を見上げる。

「よっし……この機体、俺が 貰う!」

唐突に宣言したミゲルに3人 は眼を丸くし、呆然となる。

「ちょうど機体が無くて困っ てたしな……こいつは俺が乗せてもらうぜ!」

したり顔で笑みを浮かべ、ミ ゲルがゲイツ改の足元に歩み寄っていく。

「って、なに…ミゲル、それ は俺の……」

「やかましい! 俺の心の傷 を笑った罰だ!」

ビシッと指差し……ミゲルは そのままコックピットへと乗り込んでいった……唖然とそれを見詰める一同……

「なぁニコル……ミゲルって 結構根に持つタイプだったんだな……」

「八つ当たりのような気もし ますが……」

小声で囁き合うディアッカと ニコル…だが、ラスティは苦労して持ち出した機体を勝手に取られて呆然となっている。

「ちょっと待て……それじゃ 俺はどうすりゃいんだ!」

ディアッカとニコルにはちゃ んと搭乗機があるが……ラスティにはないのだ。

「ん……何やってんだ、坊主 ども?」

そこへ、マードックが浮遊し ながら近付いてきた。

「ああ、マードックのおっさ ん…実はさ……」

何気に既に馴染んでいるディ アッカが、事のいきさつを説明する……聞き終えると、マードックはやや呆れたように頭を掻く。

「そりゃなんともま……しか し、機体か…待てよ……そういや、一機空きがあるぞ」

思い出したように手を叩く マードックに、3人の視線が向けられる。

「え……余ってる機体ってあ りました…?」

「ああ…つっても、遂この間 組み上がったばっかの機体だけどな……来な」

マードックが促すと、ディ アッカとニコル、ラスティの3人はやや戸惑いながら後を追う。

3人が案内されたのは、格納 庫の奥の方のスペース……そこのメンテナンスベッドに固定されていた機体が視界に入った瞬間、眼を驚愕に見開いた。

「アレって…アスランのイー ジスじゃん!」

「ホントっしょ」

固定されているのは、ディア クティブモードのイージス……かつてのアスランの愛機だ。

「でも、イージスは自爆した んじゃ……」

疑問を口にするニコルに、 マードックが相槌を打ちながら説明する。

「ああ、こいつはオーブ製の イージスだ……けど、動力源に新開発されたバッテリーを組み込んであるから、出力と稼働時間はアップしてある。それに、こいつはPS装甲ON時のカラーリ ングが青だから、イージスディープって呼ぶそうだ。こいつがちょうど、パイロットがいなくて余ってるからな。こいつを使やいい」

「んじゃ、遠慮なく使わせて もらうっしょ」

親指を立てて頷くラスティ に、マードックも気概よい笑みで応じた。

「それよかさ、飯にしねえ か」

「そうですね…一度、休憩に 入ります、マードックさん」

「おう、いってこい!」

軽快に腕を振ると、ディアッ カ、ニコル、ラスティの3人は遅めの昼食を取りに食堂へと向かった。

 

 

オーディーンへと母艦を移し たインフィニティとエヴォリューション……専用運用艦に移った方が効率はいい。

そこへ、リーラのスペリオル が着艦し、機体から降りて作業を行っているレイナとリンの姿を見つけ、思わず眼を見開く。

「リンさん…!」

声を上げて無重力の中を移動 すると……その声に気付いたリンが振り返る。

「……リーラ?」

一瞬眉を寄せ、怪訝そうな表 情を浮かべる……リーラは近くに降りると、やや笑顔を浮かべてコクリと頷く。

「リンさん……貴方もここ に………」

正直、リンがここにいるとい うのは予想外であった……それに対し、リンは苦笑を浮かべて肩を竦める。

「まあ、いろいろあって ね……」

リーラはそのまま表情を隣へ と移し……隣に立つレイナに気付く……その姿に、やや驚いて二人を交互に見やる。

「……私はブリッジに一度上 がる」

レイナは身を翻し、格納庫内 を跳んでいく……その背中を見送りながら、リーラがおずおずと声を掛けた。

「あの……あの人……お姉さ ん、でしたよね………?」

リーラの胸に、地球でのあの 時の会話が甦る……姉妹で戦うことを望んだ二人…それを止めようとした自分には、なにもできなかった……胸を絞めつけるような苦しさが襲う。

窺うように尋ねると……リン は肩を竦める。

「少なくとも、今は争う理由 がないからね……でも、この先は解からないけど………」

未来が変わるかどうかは解か らない……いや、運命さえもひょっとしたら変えることは不可能なのかもしれない。

自分達に架せられた運命 は……

(私は……いつまで貴方の妹 でいられるのかしらね……姉さん………)

不意に胸元のペンダントを握 り締め……黙り込むリンに、リーラは無言のまま見据えた。

 

 

 

エターナルにコンテナの積み 下ろしに来たムウのストライク……

《その後の補給ルートについ ても、プラントに残ってる連中がどうにか繋げてくれる手はずになってるからな……》

ブリッジを浮遊する無数のハ ロの中で、バルトフェルドが答えると、ムウは軽く笑みを浮かべる。

「はぁ……しかしまあ、凄い もんだね、あのピンクのお姫様」

感嘆した様子でムウが何気に 漏らしていると、そこへ一機のM1が近付いてきた。

「少佐! そんなことは私達 がやりますから……」

アサギが慌てた様子で声を掛 ける……彼女らからしてみれば、エンディミオンの鷹とも呼ばれる人物が積荷の積み下ろしなどの雑用をやるというのが受け入れ難いのであろう。

「いいんだよ、気にしなさん なって…君達だって、宇宙でのシミュレーション経験はあるんだろ? いつまでも子供にデカイ顔はさせておけるかって」

子供じみた笑みを浮かべ、コ ンテナを持ってエターナルからストライクが離れようと軽く甲板を蹴り、その足をアサギのM1が押し出した。

「ふふふ…そうですね、じゃ あ頑張ってください」

「なんかむかつくな、その言 い方」

「すいませーん」

通信回線の中で笑い声が木霊 する中、各艦のブリッジでは戦力の配分についての議論が交わされていた。

「エターナルとオーディーン は専用運用艦とのことで、4機はそちらへと回しましょう」

従来のMSよりもより複雑化 した電子パーツに機体構造から、専用運用艦を用意せざるをえなかったため、インフィニティを含めた4機はそれぞれの専用艦に配備した方が効率はいい。

《了解した…あと、スペリオ ルもこちらで預かろう》

ダイテツがパイプを咥えなが ら頷く。

「クサナギには、グラン二佐 のM2とM1部隊を……」

通信画面上に浮かぶキサカと ラクスも頷く。

最終的な配置として、オー ディーンにインフィニティ、エヴォリューション、スペリオル…エターナルにフリーダム、ジャスティス、ヴァリアブル、ゲイツ改…ネェルアークエンジェルに ストライク、インフィニート、バスター、ブリッツビルガー、イージスディープ、ダガー、ルシファー、そして連合、ザフト両軍から奪取した105ダガー弐型 とゲイツアサルト、元々TFが所有していたジンやシグー数機は同行しているTFのパイロット達に運用を任せている。クサナギにM2、M1部隊にGBMの3 機がそれぞれ配備され、これでバランスがうまく取れるだろうという結論に至った。

 

オーディーンの格納庫に並び 立つインフィニティとエヴォリューション……その足元でフィリア、トウベエ、ルフォンが見上げている。

「しかし、見事な機体だ な……」

トウベエが感嘆するように呟 く。

「ルフォンさん、この機 体……設計したのは…」

唐突にフィリアが口を開く と、声を掛けられたルフォンは頭を掻きながら、やや言葉を濁す。

「うーん……それやけどな、 この2機……開発は確かに同時期やったけど、設計は違うんや……」

やや曖昧に答えながら、視線 を手元の操作パネルに移し、コンソールを操作して機体データをモニターに表示させる。

そこには、インフィニティと エヴォリューションの機体構造の詳細が載せられていたが、インフィニティのボディと頭部付近、エヴォリューションの頭部付近には『Not Access』 というデータ表示不可が示されている。

「どういうことじゃ、これ は……」

見たところ、インフィニティ とエヴォリューションは武装の差こそあれ、本体構造は同型のはずと考えていたトウベエは首を捻る。

「実は、インフィニティとエ ヴォリューションの本体つーか、骨格フレームはうちらが設計したんとちゃうんです……アレは、うちのお父とフォーシアつう人が設計したそうで…この2機の ブラックボックスになっとるとこは正直、うちにも解かれへんですわ……」

ルフォン達はあくまでイン フィニティとエヴォリューションの装甲面と武装をセッティングしただけにすぎない。2機の骨格フレームは既に完成されており、核融合エンジンの小型機が試 作されると搭載するスペースを残し、あとはほとんどブラックボックスで埋められており、ルフォンにもその全貌を全て知ることは叶わなかった。

今は亡き父であるアマノ= バーネットとその知り合いであったマルス=フォーシアの二人が遺したと聞かされていたが、詳しいことはルフォンにも解からない。

ルフォンの話を聞いたフィリ アは表情を僅かに顰め……視線を今一度、並び立つ2機へと向ける。

(フォーシア博士……貴方も また、希望を遺していたのですね…)

この2機の姿を、フィリアは 一度見たことがある……そして、マルスがそれに対抗するためにこの2機を遺したという遺志も……

(DEM……確か、ヴィアが そう言っていたわね………)

胸の前で手を強く握り締 め……フィリアはその場に佇んだ………

 

 

 

一方、L4宙域へと到着した 地球軍艦艇はゆっくりとメンデルへと近付いていた。

「コロニー、メンデル港内に 戦艦の艦影、4隻…うち一隻が、アークエンジェルのビーコンを発しています」

オペレーターが戸惑いがちに 報告する。

その報告に、ナタルもやや表 情が強張るが、対照にアズラエルは陽気に声を弾ませる。

「どうやら、我々の方が早 かったようですね。これはラッキー……」

子供じみた調子で笑みを浮か べ、ナタルに対してもその調子で声を掛ける。

「ささ、じゃ始めてくださ い。艦は沈めちゃって構いません。僕が欲しいのは例の4機のMSなんで……」

あからさまに言い放つ。だ が、そう簡単にいくとは思えず、またかつての乗艦を沈めなければならないという状況に微かに表情を顰め、軽く息を吐く。

「こっちも発進準備だ……今 日こそちゃんと仕事をさせないとね」

後ろに控えていた研究員に声 を掛ける中、ナタルはその視線をメンデルへと向ける……あの中に、アークエンジェルがいると思うと、懐かしいような不思議な感覚に捉われる。

自分の今の任務は、その艦を 討つことという現状が、ひしひしとナタルに伝わらせる。

「本艦はこれより戦闘を開始 する……全艦、第1戦闘配備」

そんな感傷を振り払うように ナタルは指示を下す。

ドミニオンのエンジンが火を 噴き、ゆっくりと動き出す…それに続くように他の艦艇もゆっくりと加速する。

「イーゲルシュテルン、バリ アント起動…ミサイル発射管、全門スレッジハマー装填、ローエングリン照準」

ブリッジにいる誰もが初陣に 緊張に顔を強張らせているが、その表情は真剣だ。

だが、ナタルだけはその緊張 が違った。

「目標、AA級1番艦…… アークエンジェル!」

やや躊躇いがちにかつて乗艦 し、愛着を抱いた艦名を口にした。

 

 

 

唐突にレーダーを当直してい たサイがセンサー内に確認された影に息を呑み、声を上げる。

「接近する大型の熱量を感 知! 戦艦クラスのもとの思われます!」

敵艦の接近を知らせるアラー トが鳴り響き、一瞬にしてブリッジに緊張が走った。

「距離700! オレンジ 11、マーク18α、ライブラリ照合……250m級5に駆逐艦10…残り2隻……照合するデータ無し!」

艦の特定をしていたサイが当 惑した声を上げる。

ライブラリ未登録の艦という のが気にはなったが、地球軍の艦艇を引き連れている以上は地球軍のはずだ。

「キョウ君!」

マリューはCICに振り向く と、副長シートに着いていたキョウが真剣な面持ちで頷く。

「総員、第1戦闘配備……全 作業を一時中断、各科員は至急持ち場へ!」

「了解……全艦、第1戦闘配 備発令! 各科員は所定の位置へ」

マリアがキョウの指示を復唱 し、艦内にアラートが響き、食堂にいたディアッカ、ニコル、ラスティらは頷き合い、カタパルトデッキへ、ミリアリア達、ブリッジ要員もすぐさまブリッジへ と向かう。格納庫で整備を行っていたマードックらが息を呑み、すぐさま全作業を中断して戦闘配備へと移行する。MSで作業中だったムウやアルフは、既に出 撃準備に入っており、ストライクとインフィニートがカタパルトへと待機する。

キラやアスランも搭乗機へと 乗り込み、レイナとリンもまたオーディーンの格納庫に移動した愛機へと乗り込んでいく。

誰もが戦闘体勢に入り、緊張 した面持ちで待ち構える……まだ接近中の地球軍艦艇がこちらを明確に狙っているという可能性はない。単に演習かなにかでこの宙域を訪れた可能性もある…… 相手の出方を窺っていたが、その微かな期待は衝撃とともに消えた。

ドミニオンのローエングリン が火を噴き、メンデルの港口へと突き刺さり、コロニーの外壁が融解し、港内は激しい振動に揺れる。

これで、接近中の地球軍艦艇 がこちらを確実に狙ってきたのは明確となった。

「ネェルアークエンジェル発 進! 港の外へ出る!」

《ラミアス艦長!》

手元の通信モニターにキサカ が声を荒げて映る。

「クサナギの状況は?」

《出られる…大丈夫だ!》

そこへ、エターナルのバルト フェルドが割り込んできた。

《エターナルはまだ、最終調 整が完了していない》

「オーディーンは?」

《こちらは先程完了した…問 題はない》

オーディーンのダイテツが頷 くと、マリューはバルトフェルドに声を掛ける。

「エターナルは港で待機 を…」

《解かった…すまん、こちら のMSは全てそちらへと回す》

ヴァリアブル、ゲイツ改もま たネェルアークエンジェルの格納庫に着艦し、ネェルアークエンジェルがゆっくりと発進していく。

「イーゲルシュテルン、バリ アント起動…艦尾ミサイル発射管、コリントス全門装填」

キョウが指示を出し、CIC からの操作で武装を起動させていく。それに続くようにオーディーンがクサナギに先行して発進する。

 

 

 

メンデルから姿を現わす2隻 の艦影……一隻は見慣れぬ艦だが、もう一隻がモニターに映し出されると、ナタルは微かに息を呑んだ。

その形状は確かに変わっては いたが、特徴的な両舷ブレードとその蒼き鎧の下に見える白き艦の姿にはやはり見覚えがある。

 

――――貴方なら、きっとい い艦長になるわね……

――――また会えるといいわ ね。戦場ではない、何処かで……

 

ナタルの脳裏に、マリューの 笑みが苦い感情とともに甦る。微かに逡巡すると、徐に右手の手元にあるスイッチを押した。そして立ち上がると、シートに備え付けられている通信機を手に取 り、凛とした声を発した。

「こちらは、地球連合軍宇宙 戦闘艦:ドミニオン。アークエンジェル、聞こえるか?」

全周波数でネェルアークエン ジェルへと呼び掛けるナタルの行動にアズラエルは訝しげな表情を示し、ナタルを見上げる。

 

 

突如、聞き覚えのある声が ネェルアークエンジェルブリッジ内に響き渡り、マリューを含めた旧アークエンジェルのクルーが眉を寄せ、瞳を見開くなどの戸惑いを浮かべる。

《本艦は反乱艦である貴艦に 対し、即時の無条件降伏を要求する》

「ナタル……」

「バジルール中尉……」

マリューとノイマンが、複雑 な面持ちでかつての同僚の名を呼んだ。

まさか、今前方に立ち塞がる 艦にナタルが乗っていようとは………

キョウはナタルと面識は無 かったが、それでもアークエンジェルの戦闘記録から彼女の名は聞き及んでいた。そして、なんともやり難い相手とぶつかったと苦く思った。

ヘリオポリスからアラスカま でという長い道のりを、副官という立場でアークエンジェルを導いた人物……軍規に忠実で、マリューとは対照的で何度も衝突したが、まったく正反対に性格ゆ えに足りない部分を補ったからこそ、アークエンジェルはアラスカまで辿り着けたというのは紛れもない事実だ。

そのナタルが、アークエン ジェルを攻撃してくるというのか……いや、既にそれは解かっていたはずだ。地球軍から離反した以上は、かつての同僚達が敵に回るということも……だが、そ れが現実に差し迫るとやはり戸惑いと躊躇いを憶えずにはいられない。

《この命令に従わない場合 は…貴艦を、撃破する………》

やや躊躇いがちに放たれた降 伏勧告に、ブリッジに重い沈黙が満ちる。

「艦長、敵艦の光学映像で す」

ミリアリアが当惑しながら報 告し、ネェルアークエンジェルのモニターにもドミニオンの姿が映し出された。

モニターに拡大された、見慣 れた地球軍標準艦艇の中心に座する2隻の艦影……その姿に、クルー達は一様に息を呑んだ。

「アークエンジェ ル……!?」

自分達が命を預けてきた戦艦 とほぼ同じ外観を持つ艦……

「同型艦か……」

ノイマンも呆然と呟く。

「しかも2隻とはな……こ りゃ厄介だな」

ノイマンの隣の副操舵シート に着くモラシムもやや苦い口調で囁いた。

アークエンジェルと同じく特 徴的な両舷のブレードに、上部に突き出した艦橋……カラーリングこそ、ドミニオンはダークグレー、パワーはブラックにレッド…そして細部に僅かな違いこそ あれ、その姿はまさにアークエンジェルと瓜二つであった。

そのことから、地球軍はとう とうAA級の戦艦まで増産を開始したという事実に他ならない。

《お久し振りです、ラミアス 艦長》

ある程度距離が近付いた事 で、ドミニオンからの映像がアークエンジェルに送り込まれてくる。

モニターに映ったナタルの姿 は、アラスカで別れた時と変わらない……マリューは硬い声で答える。

「ええ……」

《このような形でお会いする ことになって……残念です………》

「そうね……」

そう……アラスカで別れた時 に言った言葉……また、会えるといい……戦場でない何処かで……苦難の航海を衝突しながらも共に乗り切り……相手を理解しようとした……

その時望んだ儚い願望は、容 易く打ち砕かれた……このような形で再会したくはなかった……

モニターに映し出されたナタ ルが、僅かに眉を寄せて口を開く。

《アラスカでのことは、自分 も聞いています……》

彼女はらしくない躊躇いを見 せていた……連合政府から公式発表されたザフトの新兵器によるアラスカ消滅……だが、それは大西洋連邦がサイクロプスを発動させたという事実を知ってい た……

そのために、ザフトをより引 き付け、内部に引き込むために餌として生贄にされたユーラシア連邦と不要と烙印の押されたアークエンジェル含む者達………

『血のバレンタイン』の時も 同じであった……ユニウスセブンを崩壊へと導いた核ミサイル……だが、それに対する地球での連合政府の公式発表は、プラント側の卑劣な自爆行為と罵った。

あの時は、ナタルはさして感 慨は憶えなかった……勝つためには仕方ない、と…だが、自分の知る者達が不要と切り捨てられ、敵もろとも自爆させるという行いには流石に嫌悪感を憶えた。

今の地球軍がその考えを当然 のように考えるブルーコスモスに牛耳られているという状況も理解している。

だが、それでも………

《ですが、どうかこのまま降 伏し、軍上層部ともう一度話を……私も、及ばずながら弁護致します………》

ナタルの意外な反応に、マ リューはやや驚きを隠せなかった……まさか、これを言うためにわざわざ通信を送ってきたのかと…命令ならば、かつての同僚である自分達でさえも躊躇うこと なく討ちそうに思えた彼女なのに……

《……本艦の性能は…よくご 存知のはずです……》

ナタルの言うとおり、AA級 の同型艦が2隻に、しかも地球軍の二個中隊にも匹敵する艦艇……確かに、戦闘となれば激戦が予想されるだろう。

双方に出る被害は予想もでき ない……しかも、相手にかつての仲間がいればなおさらだ。

モニターの向こうのナタルの 葛藤した心持ちが、マリューには痛々しく思える。説得を試みてくれたのは確かに嬉しい…だが、自分の答は既に決まっている。そして、その道を取る以上、命 令には逆らえないナタルとの対立は決して避けられないのだ。

「ナタル……ありがと う………」

俯きながら漏らした一言に、 ナタルの表情が微かに緩みかけたが、次のマリューが発した言葉にさらに表情を強張らせた。

「でも……それはできない わ………」

毅然と発するマリューに、ナ タルの息を呑む音が聞こえる。

「アラスカのことだけではな いの。私達は、地球軍そのものに対して疑念があるのよ」

ナタルの表情が悲壮に染ま る……それに、マリューも苦悩しながらもはっきりと自分の意思を伝えた。

「よって……降伏、復隊はあ りません!」

《ラミアス艦長……っ!》

愕然としていたナタルがなお も言い縋る…そうまでして苦境に身を置こうとするかつての上官を諌めるように……だが、そこへあまりにも不釣合いな笑い声を発する男の声が響いた。

《あっはっはっは、どうする ものかと聞いていたが、呆れますね、艦長さん》

モニターに映るナタルが横を キッと睨む……なにも言い返さないが、その視線は冷ややかなものだった。

その独特の口調と声に、ネェ ルアークエンジェルのキョウとマリア…そして、ダイテツの表情が強張る。マリアはどこか震えるように俯き、口を震わせている。

「この、声は……」

この声は忘れるはずもな い……あの研究所で、この笑い声を幾度となく聞いたのだから…

ナタルに睨まれたアズラエル は、ナタルの視線など気にすることなく言葉を続けた。

《言って解かればこの世に争 いなんてなくなります。解からないから敵になるんでしょう? そして敵は、撃たねば………》

愉悦を感じさせる甲高い笑い 声……

《……アズラエル理 事………!》

嗜めるようなナタルの呼び掛 けに、マリュー達は息を呑んだ。

アズラエル……あの、ブルー コスモスの盟主たるムルタ=アズラエルがナタルの艦に乗っているというのか………

ネェルアークエンジェル、ク サナギ、エターナル…そしてオーディーンのクルーもその名をよく知っていた。

レイナやリンもその名には聞 き覚えがいやというほどある……

《ゲイル、カラミティ、フォ ビドゥン、レイダー、ヴァニシング、ディスピィア発進です……不沈艦、アークエンジェル……今日こそ沈めてさしあげる……》

ねっとりとした口調とともに ドミニオンからの通信が切られた。

「アズラエル……って…?」

ミリアリアが訝しげに尋ね と、CICからキョウが緊張とも怒りとも取れる表情で荒々しく答えた。

「ムルタ=アズラエル……ブ ルーコスモスの盟主だっ」

忌々しげに吐き捨てるキョ ウ……自分やマリア、そしてダイテツにとっての憎むべき相手……そして、この戦争の中、大西洋連邦を影から操り、コーディネイターだけでなく敵対する全て の者を排除しようとするブルーコスモスの首魁がかつての仲間の駆るアークエンジェルの同型艦に乗って戦場へ現われるとは……マリューは怒りに染まった表情 で、疑念が確信に変わった。

 

 

 

「……バジルール少佐は、何 故敵艦に降伏勧告など……?」

パワーのブリッジでその通信 を聞いていたイアンがやや眉を顰める。

「バジルール少佐は以前、 アークエンジェルにいたらしいからな……まあ、郷愁でもあったのかもしれんな……」

「ですが、失敗したようです な……」

勧告を拒絶した途端、アズラ エルのあの高らかな戦闘宣言……それと同時にドミニオンからMSが発進していくのが見えた。

イアンとしては、まずは艦砲 で敵艦を砲撃してからMSを発進させるものとばかり考えていた。数では有利なのだから、まずはその利点をいかし、艦砲で敵艦にダメージを与えるなり、体勢 を崩させるなりするのが艦隊戦のセオリーだが、アズラエルはそれをあっさり無視し、いきなりMS戦に突入した。

友軍機が発進した以上、艦砲 は使えない……イアンはやや苦い表情でネオを見やる。

「いかがいたします?」

「まあ、始まったもんは仕方 がない……取り敢えずは、協力する素振りは見せておこう。MSを出せ…目標はあのアンノウン艦だ」

ネオが差したのは、ネェル アークエンジェルの横に並ぶ漆黒の戦艦、オーディーン……

「見慣れぬ艦ですな…オーブ のものでしょうか?」

「いや、違うな…アレは恐ら くザフトのものだ……アークエンジェルの方はあちらに任せて、俺達はアレを叩く」

伝えると、ネオはすっとシー トから立ち上がる。

「以後、対象をブラックワン と呼称する…MS発進後、回頭30、微速前進……俺も出る、ここは頼んだぞ」

「はっ、格納庫…MS発 進!」

イアンが頷くと、ネオは踵を 返してブリッジを退出する。

 

パワー格納庫では、艦載MS が順次起動し、発進カタパルトへ向かう。

トライ・スレイヤー隊のスト ライククラッシャーがカタパルトに接続される。

《APU起動、カタパルト接 続…進路クリア、105Bα、β、γ、発進よし!!》

管制官の誘導に従い、カタパ ルトがストライククラッシャー3機を発進させる。

続けてブリッツダガー、そし て対艦用の砲戦ストライカーを装備した105ダガー弐型が次々に発進していく。

発進準備を進めるイージスコ マンドの3機……コックピットに座るステラは、やや緊張に強張った表情だ。

《おい、お前…ステラとか いったよな…俺の足を引っ張るんじゃねえぞ》

通信越しに、アウルが悪態を つくが、ステラは無言のままだ。

《あん、無愛想な奴だ な……》

やや溜め息を漏らしながら通 信を切ると、イージスコマンドがゆっくりとカタパルトに乗る。

ステラは、奇妙な気分の中に いた……あのオーブ戦で感じた既視感……懐かしいような温かいような……それが未だにくすぶっている。

自分は、ただ命令を忠実に実 行するだけのはずなのに………

発進OKを告げる電磁パネル が点灯すると、ステラはその感情が入り混じる中で自身の機体を発進させた。

 

 

 

迫るパワーに対し、オー ディーンでも迎撃体勢が取られる。

「まさか、盟主自ら戦場に出 てくるとはね……」

やや呆れた面持ちで先程聞い た通信を反芻させる……ブルーコスモスの頂点に立つ男がまさかこのような前線に出てくるのは予想外であった。

「単に目立ちたがり屋なだけ じゃないの……」

リンが辛辣に漏らすと、レイ ナも苦笑を浮かべた……だが、これは考えれば逆に好都合だ。

ブルーコスモスの盟主をこの 場で始末すれば、少なくとも地球連合内に混乱を引き起こせられる。

発進ゲートが開き……その先 に虚空の宇宙が見える。

レイナは全神経を集中させ、 前方を見据え……電磁パネルが点灯した瞬間、操縦桿を引き、スロットルを踏み込んだ。

「レイナ=クズハ…インフィ ニティ、出撃する!」

カタパルトが動き、インフィ ニティを打ち出す……オーディーンから翔び立ち、ボディに漆黒のカラーリングが走る。

「リン=システィ…エヴォ リューション、出撃する!」

「リフェーラ=シリウス…ス ペリオル、いきます!!」

それに続くようにエヴォ リューション、スペリオルが発進していく……漆黒のカラーリングとホワイトのボディにパープルに近いカラーリングが施され、二機は加速してインフィニティ に追い縋る。

ネェルアークエンジェルで も、ドミニオンからMSが発進したのが捉えられた。

「ドミニオン、及び不明艦、 連合艦艇よりMS、MA多数……!」

ドミニオンと並ぶパワー、そ して控える地球軍艦艇から新型特機を筆頭に無数のストライクダガー、そしてメビウスとコスモグラスパーが発進してくる。

中には機種の特定が不可能の 機影もあり、多数の新型機も投入してきたようだ。

「キラ君、ムウ、アルフ!」

マリューはすぐさま頼りにし ている仲間達に声を掛けると、スタンバイについていたMS達が飛び出した。

《了解! キラ=ヤマト…フ リーダム、出撃します!!》

フリーダムが打ち出されたと 同時に発進位置につくストライクにランチャーストライカーが装備される。

《ムウ=ラ=フラガ、ストラ イク、行くぜ!!》

《アルフォンス=クオルド… インフィニート、出る!!》

ネェルアークエンジェルのカ タパルトから発進するフリーダム、ランチャーストライク、インフィニート……

《アスラン=ザラ、ジャス ティス出る!!》

《ディアッカ=エルスマン… バスター、行くぜ!!》

《ニコル=アマルフィ、ブ リッツ、行きます!》

《ラスティ=マックスウェ ル、イージスディープ、出るぜ!》

続けて左のカタパルトから ジャスティス、バスター、ブリッツビルガーにイージスディープが発進する。

《メイア=ファーエデン、 ヴァリアブル…発進する!》

《ミゲル=アイマン、ゲイツ 改…派手に行くぜ!!》

《カムイ=クロフィード、ル シファー…行きます!》

《シン=アスカ、ダガー、出 ます!!》

ヴァリアブル、ゲイツ改、ル シファー、エールダガーが発進する……

そして、フリーダムとジャス ティスがオーディーンから発進したインフィニティ、エヴォリューション、スペリオルの3機とともに先行し、ストライク、インフィニート、ヴァリアブル、 エールダガーがオーディーンの援護に、イージスディープ、ゲイツ改がクサナギの援護に、残ったバスターとブリッツビルガー、ルシファーがゲイツアサルトと ともにネェルアークエンジェルの援護につく。

宇宙戦闘用のブースター追加 ユニットを装着したM1隊やジン・シグー隊は連携してストライクダガー隊にぶつかる。

「おやっさん、ダガー弐型に ボジトロンストライカーを装備させて甲板へ!」

《おうよ! すぐに出 す!!》

「ノイマン少尉、モラシム… デブリには注意してくれ! この辺りは特にメタポリマーストリングもある!」

「解かっていますよ!」

「了解した!!」

心得た様子で答えるノイマン とモラシム……そして、戦闘の火蓋は切って落とされた。

 


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